小指の先で、唇に乗せた色を伸ばしてみた。毒々しく思えるほどの赤が、薄い下唇に広がった。 フィフィリアンヌは鏡を前にして、そこに映る女を睨み付けていた。色白な顔に、色が加わっている。 唇だけでなく、目元や頬にも淡い色が乗っていた。鏡の脇に並ぶ道具を、忌々しく思いながら見据えた。 「全く」 大量の化粧道具が、鏡台を埋め尽くしていた。それらは全て、母であるアンジェリーナが寄越したものだ。 化粧ぐらいは覚えておけ、と母に言いつけられて押し付けられた。フィフィリアンヌは、欲しくはなかったのだが。 丁寧なことに、手順を書いた紙まで添えられていた。フィフィリアンヌは小指を拭ってから、紙を広げる。 その指示通りに顔を作ってみれば、確かにそれなりの形にはなった。だが、まるで似合わなかった。 いくら母親似で顔の造形が整っていようが、首から下は少女に過ぎない。おまけに、化粧に合わない服装だ。 フィフィリアンヌは、ちらりと戸棚へ目をやった。その中には、カインが見繕った夜会の衣装が入っている。 決して好きではないが、白く可愛らしい服なら化粧が合うかもしれない。フィフィリアンヌは、そう思った。 再び、鏡に映る女を眺めた。化粧はそれなりの形にはなっているが、上手いというわけではなかった。 「練習の余地があるな」 フィフィリアンヌは唇を拭い、紅を落とした。どうせ姿を飾り立てるなら、出来るだけ綺麗な方が良い。 その方が、カインも喜ぶはずだ。フィフィリアンヌは目を伏せ、沸き起こってくる照れを押さえた。 少しでも気を抜くと、顔が緩んでしまいそうだった。 05 7/29 |