あたしは、彼の横顔を見ていた。レモンイエローのゴーグルには、ボディに似た青が映り込んでいる。 強い風に髪を乱されて、あたしは前髪を押さえた。無表情なマスクフェイスは、一心に水平線を見つめている。 潮の匂いが混じる風を浴びながら、インパルサーは姿勢を元に戻した。ごう、と彼の背後でブーストが起こった。 空中に浮かんだまま、海を見下ろしていた。あたしはパルの胸に体重を掛けながら、頭上へ目をやった。 「好き?」 「海だけは、好きになれません」 パルは、ぎしり、と首の関節を軋ませてあたしを見下ろす。 「塩分がセンサーを傷めますし、砂の粒子がジョイントや回路の隙間に入り込んじゃいますから。それに、海が近いと水中戦に持ち込まれちゃったりするので、どうしても好きになれないんです。僕、水中戦だけは苦手なんですよ」 「あたしは好きだなぁ、海」 インパルサーの首に腕を回し、あたしは笑った。どこまでも続く水平線の上に、船らしき影が見える。 あたしの肩と膝の裏を持つ手に、少し力が込められた。背を曲げてきた彼は、あたしにマスクを寄せた。 「由佳さんがそう言うなら、僕も好きになれるかもしれません」 「なんで?」 「それは簡単なことです」 ゴーグルの奧で、サフランイエローの目が笑った。パルは声を落とし、囁くようにした。 「由佳さんがいて下されば、僕は幸せなんです。ですから一緒にいれば、きっと」 「…馬鹿」 ごん、とあたしはパルの胸を拳で叩いた。あまりのキザったらしさに、無性に恥ずかしくなってきた。 地面は遠いし、海岸からも遠いから誰も聞いていないだろうけど、だからっていきなりこれはないだろう。 だけど。こういうの、結構嬉しかったりする。 05 7/29 |