そこに、いられたならば。そう願った場所に、僕はいる。 傍らに座っている彼女は、どこか不愉快げに細い眉を吊り上げながら、分厚い本を膝に載せて広げていた。 ぞんざいに一括りにされた長い緑髪が背中に垂らされ、小さな竜の翼に数本の髪が引っかかっている。 僕は、それに手を伸ばした。翼に絡んでいる髪を掬い取って外してやった途端に、翼が、ばん、と広がった。 膝に載せていた本を落とした彼女は、勢い良くずり下がった。翼を限界まで広げて顔を強張らせ、身を固める。 「…う」 「どうしましたか、フィフィリアンヌさん?」 僕は身を乗り出し、赤面している少女に顔を寄せた。フィフィリアンヌさんは、赤い瞳を左右に泳がせる。 「そこは、その、あまり触られる場所ではないから」 「それじゃあ、慣れるまで色々と触りましょうか?」 僕が手を伸ばしてみせると、フィフィリアンヌさんは更に頬を紅潮させてしまう。 「どっ、どこをだ!」 「さあ、どこでしょうね」 そう言いながら、僕は彼女の細い顎を取った。そっと持ち上げてやると、歪められていた薄い唇が緩んでいく。 指先で唇をなぞると、吊り上がっていた眉が下がる。泣いてしまいそうなほどに、困った顔になっている。 可愛らしい人だ、と思う。隣に来ることがなければ、隣にいなければ、決して知らなかったはずの表情だ。 だから僕は、彼女の隣が好きでならない。 05 12/1 ドラゴンは笑わない カイン・ストレイン |