季節は変わっても、オレは変わらねぇ。 これで、何度目の春なんだろう。数えるのもうんざりしちまう。だが、五百を超えているのは確かなことだ。 何年か前に、フィルからそう言われたからな。たぶん、五百年と数年、死んでから時間が経っちまったんだろう。 一斉に芽吹いて開いた花が、草原に咲き乱れている。昔、ここで血みどろの戦争があったなんてもう解らない。 土を掘り返せば人骨が、草を払えば剣が出てくるかもしれないが、オレは別にそんなことをするつもりはない。 過ぎちまったもんは仕方ねぇし、今更戻りたいとも思わない。過去なんてもんは、忘れなきゃいいだけのことだ。 草原の向こうには、巨大な塀に囲まれた都市がある。その周辺の工場街からは、どす黒い煙が立ち上っている。 オレは肩に担いでいたバスタードソードを下ろすと、一息吐いた。手頃な倒木を見つけると、そこに腰掛けた。 「全くなぁ」 もう、魔物はそんなにいねぇのに、剣が通用している時代じゃねぇってのに。こいつだけは手放せない。 ガントレットの指に伝わる鋼の重みが心地良く、傾けるときちりと軋む。滑らかな銀の刃に、甲冑が映った。 腰に魔導拳銃を提げてはいるが、使うことはあまりない。必要に狩られた時だけしか、銃を抜く気になれない。 変わろうと思ったことが、ないわけじゃない。変えようと思った時もあるが、やっぱり根っこは変わらなかった。 近代の人間みたいになんざ、絶対になれねぇや。オレは、いつまで経っても中世の人間みてぇだからな。 遠くから、オレを呼ぶ声がしていた。おーじさまー、とフィリオラが魔法の杖を振り回して駆け寄ってくる。 オレは立ち上がり、背中の鞘にバスタードソードを戻した。がちん、と鍔が鳴り、確かな重みが肩に掛かる。 「おう、今行く」 足に感じる草と土が柔らかいが、風はまだ冷ややかだ。旧王都の奧に見える高い山には、雪も残っている。 あと何度、春が訪れるのを知るだろうか。あとどれくらい、オレはこの世界に存在していられるのだろうか。 柄でもないことを考えたもんだ。 まぁ、どうでもいいっちゃどうでもいいんだがな。 05 12/3 ドラゴンは眠らない ギルディオス・ヴァトラス |