「いーっちゃん」 私は窓から身を乗り出し、屋根の上に呼び掛けた。すると、屋根の上からラベンダー色のロボットが顔を出す。 細身だけど立派な体をした、忍者みたいなロボットだ。屋根から落ちそうで落ちない位置に、身を乗り出している。 彼、イレイザーは肩の上に黒ネコを乗っけていた。彼の肩装甲に捕まっているネコノスケは、ふにゃあと鳴いた。 ネコノスケを落ちないように支えながら、イレイザーは私を見下ろしている。ゴーグルの奧には、鋭い目がある。 「なんでござろう、さゆりどの」 「私も、そっちに行きたい」 私は、イレイザーの赤いゴーグルをじっと見つめた。彼はちょっと戸惑ったみたいだったけど、すぐに頷いた。 「御意」 ネコノスケを肩から降ろしたイレイザーは、軽く屋根を蹴った。無駄のない動きで前転し、私の前にやってきた。 すいっと浮かんで窓へと近寄ってきた彼は、手を差し伸べてきた。私がその大きな手を取ると、体が軽くなる。 前髪が揺れるのを感じていると、肩を掴まれた。腰も一緒に抱えられて、持ち上げられ、屋根の上へと飛んだ。 足音もなく屋根に着地したイレイザーは、私を立たせた。少しひんやりする風が吹き、二つに結った髪がなびく。 私の足に、ネコノスケが頭を擦り付けてくる。しゃがんだイレイザーはネコノスケを撫でていたけど、私を見上げる。 「それで、何用でござるか、さゆりどの」 「なんでもないの」 イレイザーと目が合ってちょっと照れくさくなって、私は笑った。イレイザーはネコノスケを持ち上げ、座った。 長い足を折り曲げて胡座を掻くと、その隣にネコノスケを置いた。私がどうしようかと思っていると、彼は言った。 「直に座れば、服が汚れてしまうでござる。だからさゆりどの、拙者を使うと良い」 「うん」 その意味が解ったので、私は頷いた。嬉しくなりながらイレイザーの前に出ると、胡座の上に腰を下ろした。 スカートを引っ張って下にしてから、大きな胸に背中を預けた。赤いゴーグルが目立つ顔が、すぐ真上にある。 柔らかくて優しい日の光を浴びていたおかげなのか、いっちゃんの装甲はいつもよりちょっとだけ温かかった。 それが気持ち良くて、彼に体重を掛けた。ぴったりくっついていると、幸せで、どきどきして、きゅんとする。 私を落とさないように回された腕にしがみ付いて、真上に目を向ける。大好きな、私だけの忍者がここにいる。 この人と一緒にいると、日向みたいな気持ちになれる。 05 12/1 Metallic Guy 神田さゆり |