どうして、私はそこに行けないんだろう。 楽しげな会話が、すぐ手前から聞こえてくる。並んで歩くレオナルドさんとブラッドさんは、兄弟みたいだ。 私には絶対に向けてくれない、とても親しげな笑顔で、レオナルドさんはブラッドさんを見下ろしている。 二人が話しているのは、取り留めのない他愛のない会話だ。けれど、私の入る隙間なんか、最初からない。 というより、レオナルドさんは私を凄く嫌っているのだから、親しげに会話を交わすなんて出来っこないのだ。 いつもないがしろにされているし、少しでも話せば彼は文句ばかりだし、私もついそれに言い返してしまう。 だけど、そうやって面と向かって言い合うのはまだいい方なのだ。好かれてはいなくても、気を引けているからだ。 でも、こういう時は違う。レオナルドさんは私の方を見もしないし、まるで気に留めてくれなくなってしまうのだ。 私はレオさんと仲良くなれていないんだな、と嫌というほど実感する瞬間だ。ちょっとだけ、苦しかったりもする。 目の前を進む、大きくて広い背中。ギル小父様ほどじゃないけど、彼は背が高いから、見上げなきゃならない。 その隣には、真っ黒いマントを羽織った小さな後ろ姿。ブラッドさんの笑った口元からは、短い牙が時折覗く。 私は二人に聞こえないように、ひっそりとため息を吐いた。解ってはいるけど、やっぱり、物悲しいものがある。 すると、大きな背が止まった。不思議に思いながら私が足を止めると、レオナルドさんは私を見下ろしてきた。 「歩くのもとろくさいのか、お前は」 「レオさんが早いんですよ」 強い言い方に、私は少しむくれてしまう。レオナルドさんは、隣のブラッドさんを指す。 「ブラッドはちゃんと付いてきてるじゃないか。遅いのはお前だけだ。頭が緩いと足も遅いのか」 私が言い返す前に、レオナルドさんはまた背を向けてしまった。先程よりは少しだけ遅い足取りで、歩き出した。 そりゃ、私は自分でもとろいと思う。言っちゃったらレオさんになじられるから言わないけど、気にしてるのに。 むかむかしてきたけど、自分が情けなくて泣きたくなっちゃいそうだけど、ぐっとそれを堪えて二人の後を追った。 いつか、レオナルドさんと仲良くなれる日が来たら、私はレオナルドさんの後ろに置いて行かれなくて済むのかな。 いつか、そこに。あなたの傍に行けますように。 05 12/2 ドラゴンは眠らない フィリオラ・ストレイン |