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08.いつか、そこに



 どうして、私はそこに行けないんだろう。

 楽しげな会話が、すぐ手前から聞こえてくる。並んで歩くレオナルドさんとブラッドさんは、兄弟みたいだ。
私には絶対に向けてくれない、とても親しげな笑顔で、レオナルドさんはブラッドさんを見下ろしている。
二人が話しているのは、取り留めのない他愛のない会話だ。けれど、私の入る隙間なんか、最初からない。
というより、レオナルドさんは私を凄く嫌っているのだから、親しげに会話を交わすなんて出来っこないのだ。
いつもないがしろにされているし、少しでも話せば彼は文句ばかりだし、私もついそれに言い返してしまう。
だけど、そうやって面と向かって言い合うのはまだいい方なのだ。好かれてはいなくても、気を引けているからだ。
 でも、こういう時は違う。レオナルドさんは私の方を見もしないし、まるで気に留めてくれなくなってしまうのだ。
私はレオさんと仲良くなれていないんだな、と嫌というほど実感する瞬間だ。ちょっとだけ、苦しかったりもする。
目の前を進む、大きくて広い背中。ギル小父様ほどじゃないけど、彼は背が高いから、見上げなきゃならない。
その隣には、真っ黒いマントを羽織った小さな後ろ姿。ブラッドさんの笑った口元からは、短い牙が時折覗く。
 私は二人に聞こえないように、ひっそりとため息を吐いた。解ってはいるけど、やっぱり、物悲しいものがある。
すると、大きな背が止まった。不思議に思いながら私が足を止めると、レオナルドさんは私を見下ろしてきた。

「歩くのもとろくさいのか、お前は」

「レオさんが早いんですよ」

 強い言い方に、私は少しむくれてしまう。レオナルドさんは、隣のブラッドさんを指す。

「ブラッドはちゃんと付いてきてるじゃないか。遅いのはお前だけだ。頭が緩いと足も遅いのか」

 私が言い返す前に、レオナルドさんはまた背を向けてしまった。先程よりは少しだけ遅い足取りで、歩き出した。
そりゃ、私は自分でもとろいと思う。言っちゃったらレオさんになじられるから言わないけど、気にしてるのに。
むかむかしてきたけど、自分が情けなくて泣きたくなっちゃいそうだけど、ぐっとそれを堪えて二人の後を追った。
いつか、レオナルドさんと仲良くなれる日が来たら、私はレオナルドさんの後ろに置いて行かれなくて済むのかな。

 いつか、そこに。あなたの傍に行けますように。





05 12/2 ドラゴンは眠らない フィリオラ・ストレイン



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