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「いかがなさいましたか、クイーン」

 ベスパの問い掛けに、ねねは派手に舌打ちした。

「……マジムカつくんだけど」

「ですが、私の御相手を望まれたのはクイーン御自身ではありませんか。ですので、この結果を不快に思われるのは 筋違いではないのですか?」

 人型スズメバチ、ベスパは触角の片方を曲げて複眼に少女を映した。巨大な液晶テレビの前で胡座を掻いている ねねは、眉を吊り上げて唇を思い切り曲げ、つま先で床を叩いていた。不機嫌極まりなく、今にも感情を爆発させて しまいそうだった。ねねの手にはゲーム機のコントローラーがあり、ベスパも上両足でコントローラーを握っていた。 テレビに映し出された格闘ゲームの画面では、ベスパの操っていたキャラクターがねねの操っていたキャラクターを 倒して勝利ポーズを取っていた。どちらもボタンを押さないので、YOU WIN! の文字が点滅し続けている。

「つか、マジ意味不明すぎだし。なんでお前があたしより強いわけ?」

 ねねはコントローラーを放り投げると、ベスパを睨んできた。その加虐的な視線にぞくぞくしながら、ベスパは爪痕が 深く刻まれたコントローラーを置いてねねに向き直った。

「単純に考えて、体の構造の違いでしょう。それと、目の数です。複眼ですので、二つしか目のないクイーンに比べると 多角的な情報を得られますし、戦術外骨格である私は通常の人型昆虫よりも運動能力を引き上げてありますし、 何より私は成体です。肉体的にも精神的にも発達しきっていないクイーンよりも、少しばかり大人なのです」

「……だから、なんだってんだよ?」

 ねねは顔を歪めて目を据わらせ、ベスパに迫ってくる。暴力的な態度に身震いしながら、ベスパは続ける。

「ど、どうなさるおつもりですか?」

「こうするに決まってんだろ!」

 ねねは拳を振り上げ、ベスパの頭部を殴り付けた。小柄で貧弱な体型だが抜群の瞬発力を持つねねの一撃は、 ベスパの脳を強烈に揺さぶった。顎を半開きにしながら仰け反ったベスパは、衝撃の余韻に浸りながら幼き女王を 複眼に収めた。ゲームに負けた苛立ちと下僕であるベスパに子供扱いされたことが余程腹立たしいのか、ねねは 立ち上がり様に蹴ってきた。ハーフパンツから伸びた華奢な足で、何度も何度もベスパを虐げる。

「虫野郎が調子乗ってんじゃねーし! てか、あたしの方がお前よりも遙かに年上だし!」

「あ、あああっ!」

 胸部を強かに蹴られたベスパが身悶えると、ねねは思い切り体重を掛けた蹴りでベスパを転ばせた。

「もっと、もっとお願いしますっ!」

 触角を小刻みに震わせながらベスパが懇願すると、ねねはふと我に返り、高く上げた足を下ろした。

「やめた」

「なぜですか、クイーン! 私が疎ましいのでしょう、腹立たしいのでしょう、でしたら!」

 虐げられる快感に酔い始めていたベスパは、ねねに追い縋って上左足を伸ばした。しかし、ねねはベスパに背を 向けてしまった。生殺しにされるのか、とベスパが落胆すると、ねねは前触れもなくフローリングを荒く踏み付けた。 その音にベスパが反射的に顔を上げると、ねねはパーカーのファスナーを下ろしながら横目にベスパを窺った。

「あんたを蹴るよりも、あんたの中に入って適当な虫でも殺した方がマジ楽しくね?」

 ベスパを完全に見下した眼差しは冷淡だが、圧倒的な力で成し遂げる無差別殺戮に対する期待で爛々と輝いて いた。ねねはこれまでの境遇の反動で、単純明快に力を示せる暴力を好んでいる。ベスパは即座に胸部の外骨格を 開いて神経糸を伸ばすと、衣服を全て脱ぎ捨てたねねを体内に入れ、外骨格を閉ざした。神経糸をねねの頸椎と 陰部に差し込んで双方の感覚を繋ぎ合わせながら、ベスパは被虐に勝る快感に溺れた。肉体も精神も何もかもが 支配され、蹂躙され、奪われていく。女王に独占されることは、同時に女王を独占しているということでもある。
 ねねが要求する人型昆虫の気配を感じ取ったベスパは、人型昆虫対策班の分室である議員宿舎のベランダから 飛び降りた。四枚の羽を広げて震わせながら、人間の息吹が消えた都心上空を滑空する。
 暴力と殺戮で、女王の飢えを潤そうではないか。


11 3/14 豪烈甲者カンタロス



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