機動駐在コジロウ




メモリーは心の窓



 それから、つばめは備前夫妻と夜遅くまで話をした。
 夕食を終えて風呂から上がってから、リビングで緩やかな時を過ごした。つばめは景子が作ってくれたまろやかな マシュマロココアを傾けながら、美野里がつばめを裏切り、皆を手に掛けるまでの経緯を語った。夫妻は神妙な顔 をしてつばめの拙い話に聞き入ってくれ、特に辛い出来事を話す時につばめが言い淀んでも、無理に急かしたりは しなかった。おかげで、つばめは最後まで話し切ることが出来た。
 つばめの話が終わると、今度は備前夫妻が話してくれた。これまで、美野里に弁護士になれ、と言ったことは一度 もないと。どう生きるのかを決めるのは美野里自身であって、両親が歩いてきた道に沿うことはないと言ったことは あったが、それだけだとも。それなのに、美野里は両親の意に反して弁護士を志すようになった。正直、美野里には 無謀な挑戦だった。美野里の学力は安定しているものの、司法試験に合格出来るほどの力はないと早くから悟って いたこともあり、学習塾も無難なものにしていた。両親と比較されることは少なからずあっただろうが、親と子は違う のだから、と度々言って聞かせていたし、美野里も納得している様子だった。
 だが、美野里は中学三年生に進級した頃から、弁護士を志すようになった。夜遅くまで根を詰めて勉強するように なり、学習塾もかなりレベルの高いものを自分で選び、そこに通うようになった。熱中していた部活動も急に止め、 帰宅時間は深夜になり、帰宅した後も勉強するようになった。その当時は備前夫妻は娘の変貌に戸惑うばかりで、 変貌の理由までは気が回らなかったが、後に、佐々木長光が備前夫妻と密に接するようになった時期と、美野里が 変貌したのは同時期だと解った。けれど、それに気付いた時には、もう手遅れだった。
 ある時期を境に、美野里は抜群に頭が良くなった。成績も学年では群を抜き、学習塾でも何度となくテスト順位の 上位に入り、定期テストの答案には丸ばかりが付いていた。しかし、成績が良くなればなるほど、美野里の行動は 不穏になっていった。景子の作る食事をほとんど摂らなくなり、少し食べてもそっくり吐き戻していた。その代わりに 自室で隠れて食べているようだったが、食べているものが何なのかは解らなかった。夜遅くに外出しては日が昇る 前に帰ってきて、一睡もせずに通学していた。それが数ヶ月続いた後、備前家の玄関先に赤子が置かれた。
 産まれて間もない赤子を冷たい玄関先に横たえた者の姿を、景子は見ていた。その日、景子は予定より早く仕事 を切り上げることが出来たので、午前中に帰宅して夕食の仕込みをしていた。今日こそは美野里にちゃんと食事を 食べてもらおうと、美野里の好物を作っていたのだが、キッチンの窓に大きな影が過ぎった。鳥にしてはやたらと 大きく、人間にしては奇妙すぎた。その影が玄関に向かったので、不思議に思いながら覗き穴から玄関を見ると、 人型の巨大な虫がおくるみに包まれた赤子を玄関先に寝かせ、羽を震わせて飛び去った。
 この世のものとは思えない光景に景子は動揺したが、とにかく赤子を助けなければ、とすぐさまドアを開けて赤子 を抱き上げた。生後一ヶ月ほどなのだろう、首も据わっていなかったので危なっかしかった。柔らかなおくるみには 名前が刺繍されていて、佐々木つばめ、と印されていた。となれば、この赤子は佐々木長光と関わりが深い血縁 の子なのだろうか、と景子が悩みながらも赤子の世話をしていると、一本の電話が掛かってきた。
 佐々木長光からだった。長男夫婦に娘が産まれたが、諸事情で世話が出来なくなってしまったので当分預かって もらいたい、もちろん養育費は払う、とのことだった。景子は電話口では平静を装って応対したが、本当にそういう 事情ならば、佐々木長光本人が赤子を連れてくるはずだ。それなのに、長光でも誰でもない虫の化け物が赤子を 連れてくるなんて、どう考えても異常だ。けれど、今は長光に探りを入れるよりも、虫の化け物の正体を突き止める よりも、赤子を無事に育てることが最優先だと景子は腹を括った。
 それから、中学校の下校時刻を過ぎた頃、美野里が帰ってきた。いつもは塾やら何やらで深夜になっても帰って こないのに、今日に限ってやけに帰りが早かった。その時点で景子は懸念を覚えたが顔に出さず、佐々木つばめ という名の赤子を美野里に見せた。その時、美野里は驚かなかった。驚いた振りをしたのだろうが、娘の演技など 母親には簡単に見抜ける。どこの子、誰の子、と問い詰めもせずに美野里は笑ったのだ。可愛いね、と。

「だから、私はつばめちゃんを育てることにしたのよ。つばめちゃんを守ることは、美野里ちゃんを守ることにもなる んじゃないかって思ったから」

 景子は冷めたコーヒーが残るマグカップに目を落とし、静かに述べた。

「あの子が人間じゃない、ってことをすぐに信じることは出来なかったわ。だって、私達の前では普通にしていたし、 吐き戻しはするけど普通に食事を摂っていたもの。だから、私もお父さんも美野里ちゃんには今まで通り接するよう にしていたの。そうすることで、日常を守ろうとしていたの。でも、十年前の夏、美野里ちゃんが一ヶ月も家を空けて いた時に確信したの。だって、あの子……生理が止まっていたんだもの」

 少し話しづらいのか、景子はつばめから目を逸らした。

「美野里ちゃんがいない間に、お部屋を片付けたの。そこで、私が買い込んできて美野里ちゃんにあげたナプキン が全然減っていないことに気付いたのよ。美野里ちゃんが同じものを買っておいたのかもしれない、ってその時は 思ったんだけど、ドラッグストアの袋もそのままで、中には私が買った日付と時刻が印刷されたレシートがそのまま 残っていたから、間違いようがないの。でも、妊娠している様子はなかったし、美野里ちゃんにはそういう御相手が いないってことも知っていたわ。お友達も少なかったから。それで、一体どういうことなんだろうって美野里ちゃんの お部屋を調べてみたの。机の引き出しの奥に、赤いカプセルが山ほどあったわ」

「それはドラッグじゃないかと疑って、私達はそのカプセルを拝借して製薬会社に分析を掛けてもらったんだ。だが、 その中身は違法薬物なんかじゃなかった。人間の体の一部だったんだ。そのカプセルを常用している患者について 調べてみると、フジワラ製薬が作った怪人の情報に行き当たった。患者のリストを入手してみると、それは怪人達の リストで、その中に景子が見たホタル怪人のものもあったんだ。その写真の下には、施術前であろう美野里の写真 が一枚貼り付けてあったんだ。私服には着替えていたが、中学時代の美野里に間違いなかった」

 備前はメガネを外し、目頭を押さえる。

「人間が人間を食べるなんて、あってはいけないことだもの。それから私とお父さんは、何度も話をしたわ。このまま 美野里ちゃんを放っておいてもいいのか、つばめちゃんをうちに置いていていいのか。でも、答えは出なかったの。 二人とも大事な娘だから、突き放すようなことだけはしたくなかったのよ。だから、考えて考えて考え抜いて、美野里 ちゃんにも何も言わず、つばめちゃんにも何も言わず、普通の家族のままでいようって決めたのよ。事を荒立てても が解決するわけでもない、って考えたからでもあるけど、何よりも美野里ちゃんを刺激したくなかったからなの。私も お父さんも、つばめちゃんも幸せでいたかったの」

 ごめんなさいね、と景子が俯くと、備前は妻の肩に手を回した。

「真実から目を逸らして隠し続けていたのは、私達のひどいエゴだ。長孝さんにも、美野里の異変についてはずっと 伝えていなかった。いつか美野里は人間に戻ってくれるのだと信じて、つばめを可愛がってくれているあの子の良心 に期待を抱いていたんだ。だが、そんなものは私達の身勝手に過ぎなかったんだ」

「つばめちゃん。今度、美野里ちゃんに会ったら伝えてほしいの。一度、ちゃんと話をしましょう、って」

 頼める立場じゃないけど、と景子が苦笑すると、つばめはココアを飲み終えたマグカップをテーブルに置いた。

「気にしないで。私も、お姉ちゃんとはちゃんと話さないといけないって思っているから。私なら、お姉ちゃんを人間 に戻せるかもしれないし。お姉ちゃんもアソウギを使って怪人になったんだから、きっと出来るよ。そうしたら、また 一緒に帰ってくるね。話し合うんだったら、その時にしようよ」

「ありがとう、つばめちゃん」

 景子に礼を述べられ、つばめは笑んだ。

「だって、お姉ちゃんのこと、好きだもん。だから、当たり前だよ」

 嘘でもなんでもない。手酷い裏切りをして皆を傷付け、つばめを追い詰めても、美野里のことは心の底から憎いと 思えなかった。だが、だからといって全て許すつもりではないし、今までのように無条件な好意を注ぐわけではない。 美野里が怪人に至るまでの経緯を知り、踏まえた上で、改めて美野里と接するつもりだ。べたべたに甘える相手では なく、一人の女性として対等に向き合うのだ。そうすれば、活路を見出せるだろう。
 午前二時を回り、つばめはさすがに眠気を覚えて二階の自室に上がった。掃除が行き届いていて、部屋の空気も 埃っぽくはなく、つばめが備前家を出ていった時から全く変わっていなかった。ベッドも、本棚も、机も、クローゼットの 中の服も、前の中学校の制服も、そのままだった。あの時に時間を巻き戻せたら、とつばめはちらりと考えたが、それ だけは遺産を使っても不可能なのですぐさま払拭した。

「どう? ちょっとは元気になった?」

 つばめは新鮮な水を入れたコップに移した高守の種子を、携帯電話ごと窓際に置くと、高守は触手を動かした。

『大分落ち着いてきたよ。君達の話も聞こえていた。そういうことだったんだね』

「やっぱり割り切るのは難しいよ。お父さんとお母さん……じゃないや、小父さんと小母さんはそういうことを割り切る ための仕事をしているのに、お姉ちゃんのことだけは割り切れなかったんだから」

 つばめはベッドに腰掛けると、コジロウが水玉のカバーが掛かったベッドを見下ろし、首を捻った。

「また一緒に寝たいなぁって思ったけど、この体じゃ無理だね」

「だったら、私がそっちに行くよ」

 その辺に座って、とつばめがコジロウを床に座らせると、つばめはベッドの足元に転がっていたクッションを取り、 胡座を掻いたコジロウの足の上にクッションを置き、そこに腰を下ろした。ついでにベッドから毛布を引き剥がして 被り、コジロウに寄り掛かると、コジロウはつばめを見下ろしてきた。

「これじゃ、昔とは逆だね。つばめちゃんが小さい頃は、僕はいつも抱っこされていたのに」

「うん。でも、これでいいの」

 つばめはコジロウの右腕に腕を回すと、コジロウはつばめの肩に毛布を掛け直してきた。

「ごめんね。私が色んなことを間違えたから、また、あんなひどい目に遭わせちゃって。痛かったよね」

「平気だよ。僕はつばめちゃんが痛い思いをしないために、痛い目に遭うのが役目だから」

 コジロウは背を丸め、つばめの髪にマスクを寄せる。

「お姉ちゃんの正体はね、僕も知っていた。サブマスターが教えてくれていたから。だから、つばめちゃんが危ない目 に遭いそうになったら、僕は戦うつもりでいたんだ。でも、お姉ちゃんはつばめちゃんに手出ししなかったから、僕も 何もしなかったんだ。お姉ちゃんも、僕がぬいぐるみだった頃は何もしてこなかったからね」

「今度お姉ちゃんに会ったら、その時は戦ってくれる? 手加減なしで、本気で」

「もちろん。つばめちゃんがそれを正しいと思うのなら」

「正しくなかったとしたら?」

「正しくなくても、疑わないよ。それが僕達の役割なんだから」

 コジロウはつばめをそっと抱き寄せ、毛布ごと胸に収めた。

「じゃあ、コジロウが私を好きだって言ってくれたこともそうなの? 私がコジロウを好きだから、コジロウも私に好き だって言ってくれただけなの? パンダのコジロウだった頃も、やっぱり感情がなかったから? 私が求めたことを 返すだけのロボットだったから? コジロウは私の鏡でしかないの?」

 それがコジロウなのだから。つばめは居たたまれなくなり、毛布に顔を埋めると、コジロウは躊躇った。

「それは……」

「いいよ、答えられないのなら。だって、コジロウだもん」

 つばめはコジロウの重みを背中に感じながら、唇を噛んだ。備前夫妻にああは言ったが、美野里を人間に戻せる 確証はない。アソウギは遺産の中でも特に厄介だ。つばめの独力では、美野里とアソウギを分離出来ても美野里を 元に形に戻せるかどうか解らない。せめて、アマラを操れる電脳体である道子が戻ってきてくれなければ。それ以外 にも、懸案事項は山積している。フカセツテンをどうやって動かすのか、どこに移動させるのか、それすらも結論が 出ていないのだから。だから、コジロウに八つ当たりしても何の解決にもならないのに。

「僕はサブマスターの設定に従って、つばめちゃんと向き合ってきた。だから、僕は人間っぽい言動が出来ていた だけであって、それは僕の本物の感情じゃない。ロボットはね、嘘は吐けないんだ。形だけの好意を示したところ で、結局はつばめちゃんを悲しませちゃうだけだって判断したんだ」

「私はそうは思わない。だって、私は!」

 つばめは毛布を跳ね上げ、コジロウに向き直る。パンダのコジロウが、警官ロボットのコジロウが、つばめの傍に いてくれなかったら、ずっと早い段階で折れていただろう。彼がつばめの代わりに戦い、苦痛を肩代わりしてくれて いたからこそ、ここまで踏ん張れた。コジロウが好きだったから、胸を張って彼と隣り合っていたかったから、つばめ は遺産と遺産を巡る争いを放り出さずにいられた。それなのに。

「ありがとう。いつも僕を大事にしてくれて」

 コジロウは右手を伸ばし、歯を食い縛っているつばめの頬を包んだ。  

「だけど、僕は道具なんだ。つばめちゃんを守ることは出来ても、幸せにすることは出来ない」

「……幸せなのに。コジロウがいてくれるから、私は幸せなのに」

 堪えきれなくなり、つばめが涙を落とすと、コジロウは指先でつばめの涙を拭ってやった。

「ほら、また泣かせちゃったよ。だから、僕じゃダメなんだ」

「馬鹿ぁっ!」

 そういう意味で泣いているわけではないのに。つばめは反論したくなったが、コジロウと自分の間に横たわる溝の 深さを思い知ると、一層悔しくなって涙が出てきた。ロボットで、どこぞの宇宙人が乗ってきた宇宙船のエンジンで、 道具で、兄弟で、幼馴染みで、ぬいぐるみだ。それがどうした、と言い張れるほどの気力はなかった。
 美野里のことも割り切れないが、コジロウのことは特に割り切れない。つばめは涙は止まっても、コジロウからは どうしても離れられず、彼の腕の中で一夜を過ごした。パンダのぬいぐるみの頃に比べれば抱き心地も抱かれ心地 もよくないが、離れるのが惜しかった。コジロウはつばめが底冷えしないようにと機械熱を少しだけ放ち、低温火傷を しないように時々つばめの体を動かしてやりながら、夜を明かした。
 幸せなのに、切なかった。




 何が正しいのか、何が間違っているのか。
 遺産をどう扱うべきなのか、遺産に関わる者達をどう導くべきなのか、遺産そのものを満たしてやるべきなのか。 つばめはコジロウの腕の中で、そんなことを考えていた。寝付きの悪い場所だったのと、気持ちが波立っていた せいもあって、つばめは上手く寝付けなかった。だから、短く浅い眠りと覚醒を繰り返し、答えを出さなければならない ことを考え込んでいた。けれど、いずれもつばめだけで決められることでもなければ解ることでもない。
 カーテンの隙間から差し込んでくる朝日を浴びた警官ロボットを見つめながら、つばめは寝癖の付いた髪を手で 押さえてみたが、いつも通りにあらぬ方向に跳ねた。滑らかな白いマスクに指を沿わせ、なぞってみる。胸の奥底が じわりと熱くなり、束の間、不安が紛れる。すると、コジロウは首を曲げてつばめと目を合わせてきた。

「つばめの起床を確認」

「もしかして、元に戻っちゃったの?」

 この口調は、警官ロボットの方だ。つばめが残念がると、コジロウは平坦に述べた。

「本官は本官だ。よって、つばめの疑問の意味が解らない」

「この部屋に来た理由は解る?」

「つばめの安全確保、及び、備前夫妻の安全確保、及び、備前美野里に関する情報収集のためだ」

「うん、そうだね」

 つばめは寂しさに駆られたが、笑って誤魔化した。変な姿勢で眠ったので節々が痛かったが、コジロウの膝の上 から出て立ち上がり、体を伸ばした。背骨が盛大に鳴り、引きつっていた筋が曲がり、つんのめりかけたが姿勢を 戻して踏み止まった。コジロウは膝の上にあったクッションと毛布を剥がし、直立する。

「コジロウ」

「所用か」

 つばめが呼ぶと、コジロウは一歩近付いた。つばめは振り返り、言った。

「朝御飯食べて、着替えて、落ち着いたら、また皆のところに戻ろう。やらなきゃいけないことは、山ほどある」

「了解した」

「それで、さ」

 つばめは一歩前に出て、コジロウを真下から見上げた。彼は顎を引き、赤いゴーグルにつばめを映す。

「なんでもない」

 管理者権限を利用すればコジロウに感情を与えられるのでは、との考えが頭を過ぎったが、振り払った。それが 出来たとしても、良い結果を生むとは限らない。自分勝手な欲望を満たすことだけを考えていては、祖父と同じよう に蛮行に走ってしまいかねない。つばめはコジロウと高守を廊下に出してから、クローゼットから秋物の服を出し、 着替えた。跳ね放題の髪を二つに分けて縛り、ツインテールにしてから、底冷えする階段を下りた。
 一階からは、パンの焼ける香ばしい匂いがふわりと流れてくる。暖かな食卓の気配が感じられる。テレビの音と 新聞を捲る音、備前夫妻の穏やかな会話。だが、そこに美野里はいない。高守の種子が入ったコップと携帯電話を 手にして、つばめに一歩遅れて階段を下りてくるコジロウは昨日とは打って変わって黙っていた。それが少し寂しくも ある一方、それでいいのだとも思った。コジロウはどちらであってもコジロウであり、つばめに寄り添ってくれる。
 思い出に浸る時間は、終わった。コジロウが一時的にパンダのコジロウに戻ったおかげで、コジロウの本心を少し だけ覗けたような気がした。とても優しい一時だったが、いつまでも過去に浸っていられない。立ち向かうべき現実 と困難は、うんざりするほど転がっている。つばめは安らぎへの未練を振り払うため、足を進めた。
 迷っていたら、再び立ち上がる気力を失ってしまう。





 


12 12/27