最初に目に付いた宝飾店に入った大神は、場違いだと思った。 なぜなら、店の中は若い男女の二人連ればかりだったからだ。考えてみれば、そういう買い方が無難だ。一人で 買ったとしても相手が気に入るとは限らないし、指輪を買うのであればサイズを確かめる必要があるのだ。だから、 連れ合って買うことが最良の選択なのだが、美花と一緒になって選ぶのは考えただけで恥ずかしい。男一人で若い 女性向けのアクセサリーを買うのも充分恥ずかしいことだが、美花と一緒だとまた別の羞恥があった。人前でイチャ イチャするのは抵抗があるし、何より気の弱い美花が恥ずかしいだろう、と常々思っているからだ。だが、ここまで 来て引き返すわけにはいかない。明日のデートで、美花にプレゼント返しをすると誓ったのだから。 大神が店に入ると、女性店員が柔らかく出迎えてくれた。書き入れ時で売り上げが良いからだろう、愛想も良い。 甘ったるい会話をするカップルの背後を通り過ぎ、居心地の悪さを感じながら、大神はショーケースを覗き込んだ。 クリスマスらしく金や銀のモールに飾られたガラスケースの中には、ピンクゴールドのネックレスが陳列されていた。 ペンダントトップはハートで、中央には小さなダイヤが据えられている。これは良いかもしれない、と思ったが値札を 見た途端に怖じ気付いた。税込みでも十六万近い値段だったからだ。こんなにも小さい物体なのに、なぜこんなに 高いのだろう、と疑念が過ぎったが、これは素材自体も高い代物だ。貯金から捻出すればなんとか買えないもの でもないが、そこまでしては大神の日常生活が傾きかねない。プレゼントのために生活を削るわけにはいかない、と 思った大神は、十六万のネックレスを見なかったことにした。店の中を探せば、もう少し安い品があるだろう。大神の 懐具合の事情も考慮した、予算の範囲以内でなければ。 「貴様あっ、ここで何をしているぅうううっ!?」 和やかなBGMが流れる宝飾店に不釣り合いな叫声が轟き、大神は思わず音源に振り向いた。 「……あ?」 店の出入り口にいたのは、パワーイーグルだった。そして、その背後には、なぜかファルコが控えていた。 「ここで会ったが百年目っ! と言い出したのはどこの誰かは知らないがっ、言っておくのがジャスティスッ!」 パワーイーグルは唖然としている客や店員にも目もくれずに踏み入ってくると、大神に詰め寄った。 「さあっ、表に出ようじゃないかっ! そして戦おうじゃないかぁこの俺とぉおおっ!」 「ちょ、ちょっと」 大神はパワーイーグルを押し返し、店の前で突っ立っているファルコに声を掛けた。 「なんで変身しているんだ、この人は?」 「そいつぁ、ちょっとした事情がごぜぇやして」 お騒がせしやす、とファルコは客や店員に平謝りしてから、パワーイーグルを押さえる大神の元にやってきた。 「鷹男さん、ちゅうかパワーイーグルですけどね、恥ずかしいんでやんすよ」 声を潜めて答えたファルコに、大神は面食らった。 「は?」 「いやね、パワーイーグルは、二週間前からこの店に注文しておいた品を取りに来たんでやんすけど、顔を出すのも 恥ずかしいし一人じゃ勇気が出ないから、っちゅうことで俺を引っ張ってきたんでさぁ。天下のスーパーヒーローと もあろう御方が、嫁さんのプレゼントを買うってだけでこの体たらくたぁ……」 笑うべきか困るべきか迷ったのか、ファルコは表情筋を中途半端に歪めた。 「しっ、仕方ないだろうっ!?」 ファルコと大神の間の割り込んだパワーイーグルは、滑稽なほど声を上擦らせながら、意味もなく胸を張った。 「鳩子にプレゼントを贈るのは独身時代以来なんだからなぁっ! 結婚してからというもの、戦いに次ぐ戦いだった んだからなっ! 速人も産まれるし、美花も産まれるし、その間にも悪という悪が世界を危機に陥れるものだから、 俺には今の今までそんな余裕はなかったんだっ! それにだな、俺達にとってのクリスマスとはクライマックスだっ! 三クール目のラストというものはっ、一年間繰り広げてきた激しい戦いの佳境でありっ、ラストバトルへの序章っ! 故にっ、故にぃいいいいいいっ!」 パワーイーグルは大袈裟な動作でマントを翻し、大神に背を向けてしまった。 「意外と可愛いな、この人」 スーパーヒーローらしからぬ弱りぶりに大神が笑ってしまうと、ファルコもにやけた。 「全くでさぁ。鳩ちゃんが惚れるのも解るっちゅうもんで」 「おのれ怪人めっ、この俺を愚弄するかぁあああああっ!」 照れ隠しのためにパワーイーグルが殴りかかってきそうになったので、大神は慌てて回避した。 「まっ待って下さい、俺、変身してないですから! 今はヴェアヴォルフじゃないですから!」 「あ、すまん。そうだったな!」 パワーイーグルは固めた拳を下げ、身を引いた。が、大神の襟首を掴んで高々と持ち上げた。 「だぁがしかぁあああっしぃっ! 我が愛娘に対する狼藉ぃっ、許すわけにいかんのだぁあああっ!」 「それって、この前のパワーファイブの時に終わったんじゃないですか!」 地に足が着いていないことでますます慌てた大神が喚くが、パワーイーグルは聞く耳を持たなかった。 「あんなものは前哨戦にも満たないぃいいいっ! 問答無用ぉおおおおっ!」 大きく振りかぶったパワーイーグルは大神を床に叩き付けようとしたので、ファルコが床に暴風の防壁を作った。 ほんの一瞬、暖房の効いた生温い暴風が足元に吹き荒れ、大神はワンクッションの後に落下した。パワーイーグル はファルコを忌々しげに睨んだが、ファルコが周囲を指すと店員の不安げな目が向いていた。店舗を破壊されると 思ったのか、内線電話に手を掛けている。それに気付き、パワーイーグルはやっと身を引いた。ファルコの能力の おかげでダメージを受けなかった大神は服を払って起き上がり、パワーイーグルを見上げた。 「恥ずかしいのは解りますし、居たたまれないのも解りますけど、ここは店ですからね?」 「う、うむ……」 パワーイーグルは少し勢いを失ったが、またすぐに両肩を怒らせた。 「だが、その、落ち着かんのだっ!」 「解ります、解ります。だから、さっさと用事を済ませて帰って下さい。でないと、この店は物理的に潰れます」 大神がパワーイーグルをカウンターに押しやろうとするが、パワーイーグルは両足を踏ん張って動かなかった。 「だがっ、だがなぁ剣司君っ!」 「俺もこの店に用事があるんですよ。だから、さっさと済ませたいんです」 「それは何かぁっ、やはりアレかぁっ、美花へのプレゼントなのかぁっ!」 「そうですよそれ以外にありますかあってたまりますか!」 パワーイーグルを押しやることを諦めた大神は、パワーイーグルの前に立ちはだかって捲し立てた。 「だから、早く用事を済ませて下さいよ! でないと、俺はプレゼントを選ぶ前に死にそうです! 羞恥心で!」 「解るっ、解るぞおっ剣司君っ!」 パワーイーグルはがっしと大神の両肩を掴み、雄々しいタカを模したバトルマスクを寄せてきた。 「胸が裂けそうなほどの痛みっ、腹の底の違和感っ、脳が煮えそうなほどの高揚感っ、そのどれも苦しいなんのって なぁああっ! これだったら荷電粒子砲を至近距離で喰らった方がまだ楽だっ、いや、脳波を電波で掻き乱される精神汚染 攻撃をも凌ぐ精神攻撃だっ! 俺はもう耐えきれないのだっ!」 「だったら、尚更早くして下さいよ。なんだったら、ファルコに受け取ってもらいますか?」 伝票出して下さい、と若干冷静さを取り戻した大神が手を出すが、パワーイーグルは躊躇った。 「だが、しかし、それでは俺がここまで来た意味が……」 「だったらさっさと受け取りに行って下さいよ、スーパーヒーローなんですから!」 パワーイーグルの相手をすることに疲れてきた大神は、彼をカウンターに突き飛ばした。 「おのれ怪人っ、何をするかぁっ!?」 つんのめったパワーイーグルは大神に激昂するが、ファルコに背を叩かれて宥められた。 「いい加減に腹を決めて下せぇな、パワーイーグル。どんどん言動がヒーローから懸け離れていってますぜ」 「そうかぁっ? そうかぁああああっ、ならば仕方ないっ!」 ようやく覚悟を決めたパワーイーグルは、引きつった笑顔を浮かべる女性店員の前に伝票を叩き付けた。 「さあ早くっ、俺が頼んだ品を出してくれぇっ!」 「かっ、かしこまりました。少々お待ち下さいぃっ」 伝票を受け取った女性店員は哀れなほど声も引きつらせていたが、カウンター裏の棚を開けて箱を取り出した。 「こっ、こちらでよろしかったでしょうか?」 女性店員が箱を開けて見せたのは、シルバーのピアスとネックレスのセットで大粒のルビーが付いていた。 「違いないっ、これこそが俺が求めていた力っ! じゃなかった、モノだっ! 正しくピジョンブラッドォオオオッ!」 パワーイーグルはやたらと力の入った動作で財布を出し、カードを抜き、女性店員に渡した。 「会計はこれで頼むっ! 正義の味方は常に一括払いだぁあああっ!」 「か、かしこまりました」 動揺しすぎて震えている女性店員は、受け取ったカードを持って一礼した後、カードリーダーに滑らせた。大神は なんとなくクレジットカードの色を見てみると、黒だった。ということは、あれは紛れもなくブラックカードだ。カード一枚 で家一軒買えるほどの限度額を持つ最上位のクレジットカードで、次元の違う金持ちである証だった。カートゥーン アニメやキャラクターの版権料のおかげで実入りが良いとは知っていたが、目にしたのは初めてだった。女性店員は 領収書を切り、ピアスとネックレスのセットを紙袋に入れてから、震える手でパワーイーグルに渡した。 「お買い上げ、ありがとうございました」 「ではさらばだっ! また会おう、善良なる市民諸君っ!」 パワーイーグルは戦利品のように小さな紙袋を掲げてから、ファルコの翼を掴んで大股に歩き出した。 「さあ帰るぞファルコぉおおおおっ、今宵は貴様も鳩子の手料理の洗礼を受けるのだぁああああっ!」 「そ、そんじゃあまた、若旦那ぁああああっ」 ファルコは挨拶も満足にさせてもらえず、パワーイーグルに連行される形で宝飾店から引き摺り出されていった。 パワーイーグルは近くに窓がないか探したが、見当たらなかったので、通路を行き交う客達の頭上を飛び去った。 翼を掴まれたままのファルコが悲鳴を上げていたが、パワーイーグルの笑い声と共に遠ざかり、聞こえなくなった。 当然ながら客達に驚かれたが、何が起きたのか把握している人間は少ないようだった。 嵐が去ってくれたことに大神はほっとしたが、店員と客の視線が大神に集まっていたので居たたまれなくなった。 出来ることなら、この店ではなく別の宝飾店に行きたいが、あれほど迷惑を掛けたのに買わないのは気が引ける。 大神は針のように突き刺さる視線を全身で感じつつ、近くにあったショーケースを覗くと手頃な値段の品があった。 税込みでも一万八千円で、丸みのあるハートのトップが付いた金のネックレスで、ピンクの石が付いているものだ。 丸く柔らかなデザインが美花に似合いそうだし、程良く大人びているが可愛らしさもあったので、大神は即決した。 店員を呼び止めてショーケースからネックレスを出してもらい、大神はネックレスを買った。プレゼント用に可愛らしく ラッピングしてもらいながら、大神はこれで良かったのかと不安が過ぎったがそれを振り払った。ここまで来たのに、 一体何を迷っているのだ。満足してもらえなかったとしても、その時はその時だと腹を括った。 予算的にも、精神的にも、限界だったからだ。 そして、十二月二十四日。 大神は美花にネックレスを、速人は芽依子にテディベアを、カメリーは七瀬にMP3プレーヤーとヘッドホンを、 パンツァーはアラーニャにブランデーとペアグラスを、鷹男は鳩子にピアスとネックレスというプレゼントを贈った。その 結果がどうなったのかは、大神はまだ知らないし聞き出すつもりもない。彼らが話してくれるまで待つつもりだ。大神 もまた、聞き出されるまでは言わないつもりだ。出来ることなら、自分の胸の内だけに止めておきたいが。 有休を取った大神は、前々から計画していたクリスマスイブのデートをするために朝早くから美花を連れ出した。 社宅暮らしなので実家のガレージの肥やしになっていた愛車を操って、騒がしい都心から離れた場所に向かった。 デートの行く先を知らない美花は期待を抱いてはしゃいでいたが、出発した時間が早かったので助手席で眠った。 彼女の無防備極まりない寝顔の可愛らしさに頬を緩めながら、大神は目的地を目指した。 休憩も含めて二時間程度走った末に到着したのは、雪深い山中だった。大神は駐車してから、美花を起こした。 美花は助手席の中でうんと伸びをしてからシートベルトを外し、フロントガラス越しに見える景色に目を丸めた。 「うわあ、真っ白!」 「標高が高いってこともあるけど、この間の寒波が効いたんだ。俺もここまで積もっているとは思わなかったよ」 大神は運転席から出ると、助手席のドアを開いて美花を出してやった。 「寒いねぇ、でも綺麗!」 美花は山に積もった分厚い雪を見上げ、感嘆しながら白い息を吐いた。山どころか、全てが白に包まれている。 田畑や家並みだけでなく道路までもが雪に覆い尽くされ、晴れ渡った空から降り注ぐ日差しを反射して輝いた。空気 もきんと澄んでいて、吸い込むと喉が痛むほど冷たいが、寝起きの頭を晴らしてしまうほど清々しい温度だ。温泉地 に相応しく、山腹や麓にある温泉旅館の付近からは、雪とは違った白さを含んだ湯気が立ち上っていた。 「で、今日の目的地はあそこだ」 大神は駐車場の先にある年季の入った温泉旅館を指すと、美花は寒さとは違った意味で赤面した。 「温泉って言ってたけど、もしかして、その、泊まり……?」 「いや、違う。日帰り。俺は明日も仕事があるし」 大神は即座に否定したが、美花は少し残念そうだった。 「そっか、日帰りかぁ」 「日帰りじゃない方が良かった?」 そんな美花が微笑ましくて大神が茶化すと、美花は大神の腕を掴んで俯いた。 「う、うぅ……」 「それじゃ、来年からはそうしようか」 「う、うん。うん、そうだね。来年だね」 美花は俯いたまま頷き、大神の手を握ってきた。 「行こうか」 大神が美花の手を引くと、美花は雪につま先を取られながらも歩き出した。 「うん」 繋いだ手が解けてしまわないように、大神は力を込めて握ると、美花もそれに応じてくれた。歩幅の都合と足元の 悪さのために大神よりも一歩半は遅れて歩いてくる美花を確かめるために、何度も振り向く。その度に美花と目が 合って美花が笑うので大神も笑ってしまい、結果として歩調が合い、並んで歩くことになった。 「大神君」 美花は大神の腕に縋り、上目に見上げてきた。 「なんだ?」 大神が聞き返すと、美花は弛緩した。 「なんか、こういうのって夫婦みたいだよね」 「みたい、で終わらなきゃいいけどな」 「終わらないよ。だって、そんな予感がするんだもん。ヒーローの予感はね、九割方的中するんだから」 美花がにんまりしたので、大神は立ち止まり、ショルダーバッグからラッピングされた細長い箱を取り出した。 「美花」 「うん?」 美花も立ち止まると、大神は彼女の前に細長い箱を差し出した。 「これ、クリスマスプレゼント。マフラーの御礼も兼ねてるけど」 「ありがとう、大神君!」 美花は細長い箱を両手で受け取ると、とろけるような笑顔を浮かべた。 「中身、確かめないのか?」 「それは後で! 温泉に入って、ゆっくりして、その後で開けるの! その方が嬉しいのが長続きするから!」 美花は細長い箱を大切そうにバッグに入れてから、大神の手を引いて急かしたので大神も歩調を合わせた。美花 は余程嬉しいのか、笑いっぱなしだった。温泉旅館の玄関では、タヌキ獣人の六科豆吉が待っていた。老齢である 豆吉は丸く背中が曲がっていたが、その背を折り曲げるほど深く頭を下げて大神と美花を出迎えてくれた。大神は 彼に負けないほど深々と礼をして挨拶を交わしてから、美花を連れて温泉旅館の玄関に入った。ヴォルフガングと 冴が存命だった頃から大神家と付き合いのある六科豆吉は、大神も子供の頃から知っている。豆吉は丸っこい目 を糸のように細め、温泉旅館の内部を見回しては感嘆した声を上げている美花を眺めていた。 「あれが若旦那様の御相手でごぜぇやすか?」 豆吉が大神を見上げると、大神はゆらりと尻尾を振った。 「俺達、悪の秘密結社ジャールの宿敵です。そして、俺の彼女です」 「そいつぁ難儀なことで。ですが、若旦那様の御相手なら、誠心誠意お持て成しいたしやしょう。大旦那様がおられ なければ、俺は今日という日を迎えられませんでしたからねぇ。この宿だって、奉公先の御屋敷を買い取って始めた ものでごぜぇやすが、大旦那様の御屋敷に住まわせてもらいながら働かなければ、買い取るだけの金は出来やせん でした。そして、妻にも出会えやせんでしたし、孫も産まれなかったことでしょう。感謝してもしきれやせん」 豆吉は体毛に覆われた顔を綻ばせて笑み、太い尻尾を垂らして頭を下げた。 「戦いに疲れた御身を、ごゆるりと癒されませ」 大神君、早く早く、と美花は大神を急かし、軽い足取りで廊下を歩いていく。大神は、少し遅れてその背を追った。 飴色の柱と丁寧に磨き上げられた廊下には古びた木の匂いが漂い、障子を透かして差し込む日差しが柔らかい。 板張りの居間では囲炉裏が火を燻らせていて、薄く煙の匂いがした。二十世紀初頭で時を止めたかのようだ。部屋 数が少ないために客の数も限られているので、屋敷は静まり、溶けた雪の雫が軒先に滴り落ちる音が響いた。 寒さの和らぐ日差しの中で、美花は笑う。その笑顔に大神は笑みを返すと、美花に追い付いてその手を取った。 ガラス戸の填った縁側には外気が滑り込み、床板は足が強張るほど冷たいが、繋いだ手は心の緩む温度だった。 周囲の者達まで巻き込んで散々悩み抜いて決めたのに、プレゼントの中身などどうでもよくなってしまった。そして、 田舎の空気で毒気が抜けたのか煩悩の類も失せていて、大神は軽やかな気分で美花と並んで歩いた。 今日だけは日々の喧噪も正義と悪の戦いも忘れ去り、愛する少女のためだけに行動し、忘れ得ぬ時間を作ろう。 大神に命と人生を預けてくれている部下達を疎ましく思うわけではないが、時にはごく普通の恋人になりたい。休みが 明けてしまえば、日常という名の戦いが二人の前に戻ってくるが、今ばかりは何もかも投げ打ってしまおう。 二人で過ごす、初めてのクリスマスなのだから。 09 12/10 |