Clap




ドラゴンは笑わない



微睡みから目覚め、ギルディオスは体を起こした。無意識に声を漏らしながら、上半身を伸ばした。
がきり、と首を動かしてから息を吐く。ベッドの傍の窓へ目をやると、カーテンの隙間から朝日が差し込んでいる。
切れ込むように鋭い日光が、ガントレットの手を眩しくさせていた。その輝きに、気持ちだけ目を細める。
寝癖の付いた頭飾りを撫でつけようと、右手を挙げようとした。だが、右腕は動かなかった。

「ん?」

見ると、未だに寝入っている妻が右腕をしっかりと抱えていた。メアリーの寝顔は、どこか切なげだった。
褐色の頬は朝日に照らされ、深い色合いの黒髪はつやりと光っていた。ギルディオスは、彼女の頬を撫でる。

「そんなに心配すんな」

もう死なねぇから、とギルディオスは小さく呟いた。それにもう、魔導鉱石と魂と融合しているのだ。
フィフィリアンヌの魔力を受ける必要もなくなったので、こうして自宅で夜を明かすことも出来るようになった。
再びメアリーと寝起き出来ることが嬉しくてたまらず、ギルディオスは意味もなく笑い声を漏らした。
右腕を引いてみても、妻の手は緩まなかった。ギルディオスは少しばかり辟易したが、振り解かないことにした。
身を屈め、妻の額へマスクの部分を当てた。続いて頬に当て、最後には唇を塞いでやってから身を下げた。
ベッドに倒れ込んだギルディオスは、天井を仰いだ。十三年前の新婚当時を思い出し、照れくさくなってきた。

「ま、いいけどよ」

独り言を呟いてから、ギルディオスは意識を薄らがせた。妻が目覚めないなら、二度寝してしまうのも手だ。
布団に染み入っている妻の体温を味わいながら、ギルディオスは再び寝入っていった。
甲冑の見た虚ろな夢は、穏やかなものだった。



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