Metallic Guy




第十一話 サイボーグ・エンジェル



びりびりした静寂を破ったのは、あたしの携帯だった。
ダイニングテーブルの上に置いた携帯が、ぺかぺか光っている。騒がしい。
何の気なしにダウンロードして設定してしまったジャスカイザーのOPテーマが、流れ続けている。
インパルサーは即座に反応し、顔を上げたが何も言わなかった。言えないんだろう。
あたしはソファーから立ち上がって携帯を掴み、サブディスプレイを見た。鈴音からだ。
フリップを開き、通話ボタンを押して耳に当てた。

「鈴ちゃん?」

「あー、由佳。今何してた? 暇ならさ、残ってる宿題一緒にやろうかと思ってたんだけど」

「あたしもやりたいのは山々なんだけどね」

「なんだけど?」

「えーと…」

「何、また新しいマシンソルジャーでも降ってきた?」

「ううん。今度は天使みたいなサイボーグですよ。とりあえず、鈴ちゃんうちに来てくれない?」

「ボルの助は?」

「んー…一緒の方がいいかもね」

あたしはそう答え、またね、と電話を切った。
振り返ると、マリーが腕を組んでソファーにもたれている。その目線は、インパルサーで止まったままだ。
インパルサーはディスクを読み込むのが終わったのか、ぱきん、と読み取り部分から外した。
大分緊張していたのか、ふう、と深くため息を吐く。

「うーん…」

インパルサーは中身を引っ込めてから、顎に手を添える。

「もうちょっと待って下さい」


数秒間、彼は黙った。
ディスクの中身は、本当に日本語が読めるようになるものだったんだろうか。
あたしはちょっとだけ不安になりつつ、彼が答えるのを待った。
ふと、インパルサーはテレビのリモコンを目にし、それを手にしてまじまじと眺めた後、嬉しそうに声を上げた。

「電源、チャンネル、音量、消音、表示切り替え、ビデオ!」

「…あ?」

「そう書いてあるのが解るんですよ、由佳さん! うわぁ、うわぁ、凄いなぁ、ちゃんと読めている!」

と、インパルサーは何度も頷く。いきなり何を言い出したのかと思ったら。
あたしは試しに、ダイニングテーブルの上に放置してあった母さんの料理雑誌を取り、差し出した。
彼はすぐさまそれを受け取ると、表紙の文字を読み上げた。

「失敗しない! 真夏のコールドデザート大全集!」

「良かったねぇ。これで絵本も読めるし、料理の本もちゃんと解るようになったし」

「分量を量るときに、いちいちお母様にお聞きする必要もなくなりました。うわぁ、嬉しいです!」

インパルサーは料理雑誌を持ったまま、くるりと一回転した。
そしてマリーへ向き直り、ぱしん、と敬礼した。

「マリーさん、ありがとうございましたぁ!」

マリーはふっと鼻で笑い、それから頬に手を当てる。

「人の言葉をいちいち疑うのは、よろしくなくってよ」

「あの…」

「首は落としませんけど、翼ぐらい曲げさせて頂きません?」

「すいませんでした」

「解ればよろしいですわ、ソニックインパルサー」

頭を下げたインパルサーに、マリーはようやく天使の笑顔を向けた。やっと空気も戻る。
あたしは背後から彼を見上げ、とんとん、とそのブースターを叩いた。

「だってさ」

「由佳さん…僕、その」

「ちゃんと謝ったんだからいいじゃない。マリーさんも許してくれたし」

「いえ。やっぱり僕は、戦うことしか知りませんね」

辛そうに、インパルサーは声を落とした。
くるりと振り返り、顔を伏せる。ゴーグルの色が、弱まっている。

「マリーさんは何年もの間、僕らの敵でした。ですが、もう敵ではない。なのに、僕は彼女を信用しませんでした」


俯いたままの頭を、こん、と下から小突いてみた。余計に下がった。
あたしは彼のマスクに両手を当てると、なんとか力を入れ、ぐいっと上向ける。つま先立ちになってしまった。
パルのゴーグルを見据え、もう一度小突いた。

「それは、仕方ないこと。ついこの間まで敵だった相手なんて、あたしもすぐには信用出来ないよ」

「由佳さん…」

「だけど、それとこれとは別。相手がどう取るか、考えてものを言わないと」

「はい」

「パル。あんたは良い子だから、そういうこと、解るよね?」

インパルサーは、あたしから目を逸らした。自信が失せたらしい。
あたしはそのマスクに手を当て、またぐいっとこちらに向けさせた。いちいち目を逸らすな。

「解った?」

「はい」

まだ自己嫌悪しているのか気落ちした声だったけど、インパルサーは敬礼した。
こつん、とあたしの手の上辺りに、彼の手が上がる。

「了解しました」

「それでよし」

あたしは頷く。
両手を放して解放してやると、インパルサーは少しずり下がった。まだ、これは直っていないようだ。
あたしも今更ながら先程の接し具合を思い出し、恥ずかしくなった。一体、何考えてたんだ。
思わず背を向けてしまうと、インパルサーも同じようにする。どっちもどっちだ。
なんとか向き直り、どっかりとソファーに座る。ああもう、やりづらいったらありゃしない。
表情を取り戻そうと色々やっていると、マリーが不思議そうにあたしを眺めている。頬に添えた手が、可愛らしい。

「由佳さん」

「はい?」

「青春ですわね!」

「…は?」

あたしは、凄く楽しそうなマリーをまじまじと眺め返してしまった。
鈴音と同じ思考だ。まぁ、うん、確かにあたしは思春期真っ直中だから青春かもしれないけど。
だけど彼女が青春だと言った対象は、さっき、パルと背中向け合ったことだろう。ああ、恥ずかしい。
ぐいっと引っ張っていた頬を元に戻して押さえていると、ふと思い出した。そういえば、関係者はもう一人いた。
携帯を開けて、先日教えてもらった神田の電話番号をアドレス帳から出し、ぽちっと選択する。
しばしのコール音の後、繋がった。

「あ、神田君? 由佳だけど」

「美空。なんか、用事?」

めちゃめちゃ緊張しているらしく、声が強張っている。どんな顔をしているのかも、容易に想像出来た。
あたしはそれを考えると少し可笑しくなりながらも、続ける。

「ちょっとうちに来てくれない?」

「また、なんかあったのか?」

「ちょっとね。まぁ、来たらおいおい話すから。あ、鈴ちゃんも呼んであるから」

「あ…ああ…」

残念そうに、神田の声が落ちた。何を期待していたんだ。
あたしは多少呆れつつ、マリーとインパルサーを交互に見る。

「んじゃ、後でね」

「解った」

神田から、電話が切られた。ため息混じりで期待と落胆の入り混じった声が、やけに耳に残った。
あたしって、結構神田に悪いことしてないか。だけど、あたしが彼に気がないことには変わりない。
下手に気を持たせるような応対をする方が、よっぽど悪いことだ。と、思う。
携帯を閉じてから、ソファーに座り直した。なんか、一気にぐったりしてしまった。
ソファーにへたれ込んでいると、インパルサーが覗き込んできた。

「葵さんもですか?」

「うん。一応神田君もこのことに関わってるしね」

「割に知られていますのね、あなた方の存在って」

マリーはあたし達の迂闊さに呆れたらしく、少し肩を竦めた。
インパルサーは後頭部に手を当て、肩を落とした。

「見つからない方が無茶だと思いますよ、マリーさん。この星には、僕らみたいなマシンはいませんから」

「嫌でも目立つ、というわけですのね。てっきりこの惑星…地球にも、マシンはあるのかと思いましたわ」

と、少し残念そうにマリーは手を組んだ。目を伏せ、潤ませる。

「せっかくプラチナを整備して参りましたのに、残念ですわ…やり合う相手がいない、なんて…」

「マリーさん…その、戦うつもりだったんですか?」

あたしは呆然としてしまった。この人も、いい感じに無茶苦茶だ。
愛らしく頬に手を添え、ほう、と息を吐く。マリーは頷き、エメラルドの瞳をこちらに向ける。

「たまに手合わせしないと、気が晴れませんの」

「…ぁう」

インパルサーが、困ったように身を引いた。ずりずり下がって、ダイニングカウンターに背をぶつけた。
マリーの瞳が動き、インパルサーを見定める。パルで済ませようと言うのか。
あたしはその感覚が今ひとつ解らず、腕を組んで考えてみた。が、やっぱり解らない。
なぜそこまでして、パルはマリーさんと戦わなきゃならないのか。戦いって、終わったんじゃなかったのか。

すると。
ぎゃりぎゃりぎゃりっ、と凄い音がした。直後、がしゃん、と何かが転んだ音もした。
立ち上がって窓の外を見ると、黒いマウンテンバイクが横になって、うちの前の道路に転がっている。
その手前を見ると、神田が肩を上下させながら膝に手を付いている。もしかして、全速力で来たのか。
あたしはそのエネルギーに感心するのと同時に、呆れてしまった。

「頑張りすぎ」




リビングは、すっかり狭くなっていた。
原因は当然ながらリボルバーで、座らせても充分場所を取る。うちが狭いんじゃない、ボルの助がでかいんだ。
鈴音はあたしの隣に座り、アイスティーを傾けている。神田が来たすぐ後に、和室の窓から入ってきたのだ。
その神田はやっと落ち着いてきたようで、ストレートでアイスティーを飲んでいる。ガムシロップは入れていない。
彼の隣に座るマリーは、いきなり大所帯になったリビングを見回していたが、神田を手で示した。

「こちらの方が、神田君で葵さんですの?」

「そうです」

あたしは頷いた。わざわざ名前を分けて呼ぶこともないと思うのになぁ。
リボルバーは神田を見、変な顔をした。そういえば、ボルの助は神田とは初対面だっけ。

「で、どういう用事だ。わざわざオレまで呼びつけるたぁ、相当なことだろ」

「えと」

インパルサーは、隣に胡座を掻くリボルバーへあのディスクを差し出した。

「フレイムリボルバー。とりあえず、これをインストールして下さい」

「あん?」

「どうぞ。大丈夫ですよ、中身はちゃんとしたデータですから」

と、インパルサーは強調した。リボルバーはそれを受け取り、眺める。
ひとしきり裏表にしたり透かしたりしてから、げっ、と嫌そうな声を発した。

「こいつぁ…銀河連邦政府の正規品じゃねぇか。きっちりナンバリングしてあるから、上の連中のもんかよ」

「大丈夫ですよ。入れたら、ちゃんと地球言語が読めるようになるだけですから」

「そうかい。てめぇが無事なら、まぁ大丈夫だろう」

多少不安げながらも、リボルバーは側頭部に手を当て、少し動かした。
パルがしたのと同じように、ずるっと中身を引っ張り出し、読み取り部分にディスクを填める。
鈴音はその光景を見つつ、アイスティーを回すスプーンを止める。からり、と氷が鳴った。

「マリーさん、でしたっけ?」

「そうですわ。レッドコマンダー…」

「高宮鈴音。鈴の音、って書くの」

「鈴音さん。あなた、よくあのフレイムリボルバーを抑え付けていますわね」

心底感心したのか、マリーは胸の前で手を合わせた。
鈴音は照れくさそうに笑い、手を横に振る。

「抑え付けてる、っていうか、ボルの助が私に逆らわないだけなのよ。そんなに言われる程の事じゃ」

「いいえ、素晴らしいですわ鈴音さん! 破壊の化身、レッド・デストロイヤーを制しているんですもの!」

「おい姉ちゃん! そんなん、昔の…」

慌ててリボルバーが立ち上がり、手を翳す。マリーは座り直し、にこにことしている。
鈴音はいきなりまくし立てられたボルの助の通り名を反芻しているのか、腕を組む。
リボルバーは座り込み、俯く。彼としては、思い出したくなかったのだろう。
しばらくしてから、鈴音は呟いた。

「破壊ねぇ…」

「姉さん」

「それがあんたの昔か。まぁ、大方そんなもんじゃないかなーとか思ってたから、そんなに意外じゃないわよ」

リボルバーは、目を伏せた。ライムイエローが翳り、口元が歪んでいる。
鈴音はそれを見下ろしつつ、続ける。

「だけど、最近あんたが壊したものって言えば私のバレッタぐらいなものじゃない」

「すまねぇ姉さん。あのちっこいの、踏み潰しちまって…」

「ま、それくらいよ。だからあんな仰々しい通り名、忘れてもいいんじゃないの?」

「あ?」

「過去は過去。今は今、そうじゃない?」

「そう…なんすか、スズ姉さん?」

「うん」

鈴音は頷く。

「そうじゃないと、やってらんないでしょ?」


インパルサーが首を動かし、ぎしり、と金属が擦れた。
呆然とするように鈴音を見上げていたリボルバーは、おもむろに立ち上がり、胸を張った。
ばしん、と強く敬礼し、声を上げた。

「スズ姉さん! そうだよな、その通りですぜ!」

「その通り、ってほどの事でもないと思うけど」

「例えボルトの一本になろうとも、回路の一つになろうとも、オレは姉さんに付いていきますっ!」

がしっと拳を握り、高々と突き出した。その拍子に動いた銃身が、神田に当たる。ごん、といい音がした。
とばっちりを受けた神田が唸っているのも構わず、リボルバーは心底嬉しそうに笑う。
鈴音はすいっと軽く手を下げ、リボルバーに座るように示した。指示が早い。
リボルバーはまた胡座を掻いて座ると、ようやく神田に気付いた。

「すまねぇ、兄ちゃん。届いちまったみてぇだな」

「痛ぇー…」

額の辺りをごしごし擦りながら、唸っている。
マリーは神田を覗き込み、尋ねる。

「葵さん。あなたは彼らと、どういう関係にありますの?」

「オレは別に。ただ、インパルサーが美空と一緒に空飛んでるところを見ただけっすから」

と、神田はやけにぶっきらぼうに答えた。目線をマリーから外している。
どうやら、天使のようなサイボーグに戸惑っているらしい。男子高校生としては、当然の反応だ。
マリーは頬に手を添え、あらあら、と呟いた。
神田はあまり面白くないのか、少し不機嫌そうだった。まぁ、その気持ちは解らないでもない。
これだけ無駄に付加価値の付いたメンバーの中で、唯一付加価値のない存在だからだ。そりゃ嫌にもなる。
鈴音は彼の肩を叩くような素振りをし、笑った。

「そのうちいいことあるさ、葵ちゃん」

「なんだよその葵ちゃんて」

と、神田は嫌そうに返した。
鈴音は座り直し、すらりと長い足を組む。

「こっちの方がいいと思って」


「あの、マリーさん」

あたしは、ちょっと気になっていたことを聞いてみることにした。

「はい?」

ふわりと金髪をなびかせ、マリーは振り返る。その襟元は、かっちり固まっている。
あたしはその小さな体を包む堅苦しい制服を眺めつつ、尋ねる。

「暑くありませんか、その格好」

「暑いですわ」

即答だった。やっぱり、真夏に冬物らしき制服じゃ暑いに決まってる。
白いカーラーみたいな襟元を指で広げ、ふう、と息を吐いた。

「ですけど、まだ軍務は終わっておりませんから、脱ぐわけには行きませんし」

「夏服は持ってこなかったんですか?」

「ギャラクシーグレートウォーが終結してすぐに、この任務を命ぜられて、かなりごたごたしておりましたから」

マリーは、げんなりと細い眉を下げた。

「うっかり薄手の方を持ってくるのを、忘れてしまったんですの。情けないお話ですわ」


「それじゃ、あたしの服貸しましょうか?」

あたしには、あまりにもマリーが暑そうに見えたからだ。よく見ると、冷房の効いたリビングでもその頬は赤い。
マリーは少し申し訳なさそうに目を伏せた。そりゃ、いきなり他人の服を借りるのは、はばかってしまうだろう。
が、さすがのサイボーグも暑さには勝てないらしく、おずおずと顔を上げた。

「よろしいんですの、由佳さん?」

「どうせなら、買い物も行きません? その分だと、他の夏服があるとは思えないし」

と、鈴音が提案した。マリーはあたしと鈴音を見比べ、気恥ずかしげに呟いた。

「よく、お解りですわね…」

「それじゃ、決まりね」

鈴音は立ち上がると、あたしとマリーを立ち上がらせる。
引っ張るように二階へ連れられ、部屋に突っ込まれた。鈴ちゃんは、マリーに衣装合わせをするつもりだ。
あたしは下に残された男共の様子が気になったけど、今はこっちが優先だ。
暑いままだと、苦しいだろうから。




十五分ほどして、あたしは先にリビングに戻った。
出掛けるためにまとめたバッグを抱えつつ、中の様子を覗き込む。
インパルサーは残ったココアシフォンケーキをケースに入れ、冷蔵庫に入れていた。
あたしはそれを横目に、額を抑えている神田に気付いた。まだ痛むらしく、顔をしかめている。
その隣で、リボルバーは申し訳なさそうに苦笑していた。
さすがに心配になってきたので、バッグを置いてから神田に尋ねる。

「神田君、そこ大丈夫なの?」

「小さいけど、すぱっと切れてる」

「絆創膏いる?」

「あ、うん」

と、神田からは生返事があった。
あたしは食器棚の引き出しを開け、救急箱を取り出して、常備してある絆創膏を取り出した。
それをソファーに座り込む神田に渡すと、彼は慌てて顔を背け、凄い勢いで貼り付けた。
こちらに背中を向けたまま、小さく呟いた。

「ありがとな」


「銃口んとこ、結構尖ってっからなぁ。すまねぇことしたな、葵ちゃん」

と、リボルバーが謝るが、神田は変な顔をした。

「あんたまで、オレのこと葵ちゃんかよ」

「可愛いですね、葵ちゃん」

「てめぇもかよインパルサー!」

悲劇的に叫び、神田はがっくりと俯いた。ロボット二人は顔を見合わせ、笑い合う。
いいようにからかわれた神田は貼ったばかりの絆創膏を擦りながら、唸った。

「んだよー…だからこの名前、嫌いなんだよなぁ…」


「葵ちゃん」

口に出してみると、確かに可愛らしい。まるで男っぽくない。
だけど、なんか良い響きだ。あたしは鈴音のネーミングセンス、結構好きかも。
神田は顔を上げ、困ったような目をしていた。戸惑っているのだろう。
あたしはにやりとしてから、言ってみた。

「いいじゃん、葵ちゃん。可愛くて」

「みそらぁ…」

神田は、泣きそうな声を出して頭を抱えてしまった。ちょっといじりすぎたか。
インパルサーはドアの方へ顔を向け、わぁ、と感嘆の声を上げた。リボルバーは、意外そうに目を丸める。
あたしも同じようにそちらを見、思わず声を上げてしまった。

「かぁわいい!」


開け放したドアの前に、鈴音に背中を押されながら、気恥ずかしげに立っているマリーがいた。
あたしの少女趣味気味な服はフランス人形のような彼女にはよく似合っていて、薄化粧がまた美しい。
ふわふわした膝丈の白いスカートに、少し長めのピンクのブラウス。その淡い色の上に、金髪がまた映えている。
鈴音は自信作だ、と言わんばかりに胸を張った。

「どお?」

「すっごい、すっごい、さすがは鈴ちゃん! マリーさん可愛いー!」

と、あたしは意味なく浮かれていた。それ程までに、めかし込んだ天使は可愛かった。
マリーは白い頬を赤くしながら、ひらひらしたスカートを掴んで広げ、呟いた。

「…こんなもの、着たことありませんでしたわ」

「んじゃ、普段どういうの着てたんですか、マリーさん?」

あたしが尋ねると、マリーはスカートを広げながら返す。

「基本的には軍の支給品でしたわ。私は士官学校からずっと、銀河連邦政府の直下に所属し続けていましたから」

「それでも、オフの日とかあるんじゃないの?」

鈴音が、訝しげにマリーを覗き込む。
マリーは体の前で手を組み、俯く。

「ここ数年、ずっとコズミックレジスタンスと交戦しておりましたから、そんな暇はありませんでしたの」

「姉ちゃんも姉ちゃんで、大変だったんだなぁ」

リボルバーは腕を組み、意外そうにマリーを眺める。
マリーはむくれ、ぷいっと顔を背けた。

「あなた方のせいですのよ」


「んじゃ」

あたしは、ちょっと嬉しくなった。

「久々の買い物か」

「そうなりますわね」

と、少し照れくさそうにマリーは笑った。
鈴音は神田を手招きする。

「葵ちゃんも一緒に来てね。荷物持ち、必要だし」

「もうそれやめてくれよ、高宮。つか、もうオレの役回り決まってんのかよ」

「ちょおっと付き合ってくれるだけで良いからさぁ、葵ちゃーん」

あたしは両手を合わせ、ちょっと屈んでみせた。
すると神田はしばらく言葉に詰まっていたが、ゆっくりと頷いた。動かしやすい。
あたしはリボルバーとインパルサーへ、軽く手を振る。

「じゃ、留守番お願いね」

「了解しました」

「ボルの助も、勝手に帰っちゃダメだからね」

「イエッサ。待ってますぜ、姉さん」

ロボット二人は、ぱしんと敬礼した。見事に動きが揃っている。
神田はあたしと鈴ちゃん、そしてマリーを眺めて複雑そうにしている。
だけど、どこか嬉しそうだった。相変わらず、神田は青春真っ直中のようだ。


あの軍服を着ていないと、マリーは本当にただの美少女だ。
サイボーグだと言われても、まるで解らない。機械の部分が、耳元の羽根ぐらいだからだ。
こんなに可愛らしいけど末恐ろしい人が、本当にあのマスターコマンダーと愛し合っていたんだろうか。
どういう経緯で出会って、どう愛し合って、どう離別してしまったんだろう。
ちょっと気になるけど、聞いてはいけない気がする。聞いても、答えてはくれないだろうけど。
だけど、こんな人を放り出して戦いを仕掛けたマスターコマンダーは、やっぱり許せないし、理解出来ない。
それ以前に、男としてどうよそれ。よくマリーさんは、そんな男を見限らなかったなぁ。



あたしはまた、マスターコマンダーを殴りたい衝動に駆られた。







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