Metallic Guy




第二十二話 穏やかな、前進



インパルサーの胸の奥から、確かに二人の会話が聞こえていた。
どの辺にスピーカーがあるんだとか、聞いてていいものかとか、色々考えてしまったけど。
もう、しっかり聞いちゃってるんだから仕方ない。そう、あたしは開き直ることにした。
最初は、律子の声が聞こえてきた。


『ディフェンサーくーん!』

捜しているようで、声が反響している。ちょっと不思議な感じだ。

『あ、ディフェンサー君。なんだ、そんなところにいたんだ』

見つけたらしく、律子は嬉しそうな声になる。
どん、と何かが通路に降りる音。大方、ディフェンサーは高いところにいたのだろう。

『いちいち騒ぐなよ。なんで…って、ああ、兄貴共か』

『うん。インパルサー君に教えてもらったの、この温室にいるって。だけどここ、湿気っぽくない?』

『大したことねーよ。オレは他の兄弟よりジェネレーターが多い分、熱量も多いからすぐに飛ぶしよ』

そうなのか、ディフェンサー。知らなかったよ、そんなこと。
でも、言われてみれば納得出来るかもしれない。両手足がシールド発生装置なら、なんとなく。

『で、永瀬。オレに何を言いに来た? って、聞くまでもねぇか』

『私なんかがするべき役目じゃないと思うけど、ディフェンサー君が、せっかく私に決めてくれたから』

決意の現れなのか、律子の口調が少し強くなった。

『ディフェンサー君の、コマンダーになる』

ちょっと、間が開く。
二人の背後に滝でも流れているのか、やたら水音がする。

『…いいのか?』

嬉しいような、驚いたような声のディフェンサー。
うん、と律子は頷いたらしい。

『ディフェンサー君が私に頼んできたんだよ?』

『あ、まぁ、な…』

照れくさいのか、多少ディフェンサーの声が上擦ってくる。
また、間が開いた。
今度は、律子の声が上擦ってきた。

『えと、それで。なんで、私なの?』


『…あ?』

ディフェンサーは、面食らったらしい。律子は続ける。

『んと、美空さんとかは、ディフェンサー君が私のこと好きだとか言ってたんだけどね』

律子は、はにかんでいる。

『そんなの、あるわけないよねぇ? 私、美空さんとか高宮さんとかマリーさんとかみたいに、美人じゃないもん』

いや、あたしはそんなに美人じゃない。そう律子に否定したくなった。

『ディフェンサー君は、なんでも出来るし、私みたいなとろくさいのって好きじゃなさそうだし』


たっぷり、三十秒くらいの間。
ディフェンサーもそうだけど、律子も答えに詰まったらしい。
更に十秒くらい経ってから、ようやくディフェンサーが言った。


『オレがか?』

へっ、とリボルバーがするような笑いが洩れる。

『オレは大したこと出来ねぇよ。ただちょっとばかし、防御能力があるだけだ。そいつに溺れてるだけだ』

『…溺れてる?』

『ああ。オレの弱点、教えてやろうか?』

やけに自虐的な、ディフェンサーの言葉が続く。

『足技が致命的に下手なんだ。シールドのコントロールのためには、突っ立ってた方がいいってのもあるんだが…』

深く、ため息を吐いたような音。

『この辺の弱点を突かれて、何度も何度もマリーにやられたよ。だが、いつまでたっても直そうとしなかった』

ばきん、と拳を平手に当てたらしい。

『兄弟の中で一番弱いのは、間違いなくオレなんだ。自分の弱さを、いつまでたっても直視しねぇんだからな』


ざあざあ、と滝が流れ落ちていた。
あたし達の後ろの滝と、二人の後ろの滝の音が重なっている。


『その点、永瀬は立派だよ。オレがあんなにきっついこと言っても、逆に真っ向から接してきたからな』

あたしも、ディフェンサーに同意だ。律子はああ見えて、中身はしっかり強い。
律子は驚いたような、意外そうな声を出す。

『わたしが?』

『ああ。全く、お前って奴は本当に解らねぇや』

半笑いのような、ディフェンサーの声。

『オレや兄貴に泣くほどびびってたかと思ったら、クラスメイトだと言い切ってくれやがった。戦いをまともに見ても、怖がるどころか、オレを見てる方が辛いだと?』



『永瀬は、強いんだか弱いんだかさっぱりだな』



親しげとは言い難い、むしろ攻撃的な言い回しだ。でもまぁ要するに、律子を褒めているのだけど。
なんで素直に褒められないんだろう、こいつは。ひねくれてるなぁ。
んー、と考えるような声の後、律子は声色を強める。

『私には、ディフェンサー君の方がちっとも解らないなぁ』

『は?』

『解らないんだもん。最初は私のこと、嫌いみたいに言ってたはずなのに、近頃はそうじゃないでしょ?』

『あ、まぁ』

『それに、なんでここんとこ、まともに話してくれなかったの? 寂しかったんだからね!』

『…悪い』

『色々と言いたいこととか、話したいこととかあったのに』

『そりゃあ、まぁ』

どんどん、ディフェンサーの歯切れが悪くなる。律子は更に攻める。

『その上、いきなり私にコマンダーになれーだなんて。すっごく自分勝手だよ、ディフェンサー君は』

『だからその、悪かったって』

『なら、なんで話してくれなかったの? その辺、はっきりさせて欲しいなぁ』

と、律子は強く出た。あたしには、なんとなくその理由は解る気がするけど。
ディフェンサーは口ごもっていたが、なんとか聞こえるような声を出した。

『いや、その、な…。永瀬、メガネ、外しただろ?』

『え、うん、一度外してみせたけど。大して変わりはないよ?』

『それがなぁ…』

くぁー、とか妙な声が洩れている。この辺も、なんかリボルバーに似ている。

『でもって、後夜祭で告られて断ってただろ? そんときの…あー』


要するに、律子が可愛くて仕方がなかったと言いたいらしい。
たぶんそれを見てしまったから、意識しちゃって仕方なかったのだろう。そうとしか思えない。
あたしはちょっと、想像してみた。告白されて困ってる、律子の表情を。うん、絶対に可愛いぞこれは。


『それがなんなの? 解らないよ、そんなんじゃ』

律子はまだ攻める。鈴ちゃんとは、また違った強さだ。
しばらく言い渋っていたディフェンサーだったが、なんとか言葉を出す。

『まぁ、とにかく。これからはもう、まともに話すから、お願いだからこれ以上聞かないでくれねぇか?』

『また自分勝手なこと言うー』

『お願いだ、永瀬! いやマジで言えねぇんだよお前相手じゃ!』

悲痛な絶叫に変わる。あたしの予想は正しかったようだ。
その様子に、さすがに律子も攻めるのをやめた。

『そこまで言うんなら、これ以上聞かないけど』

『解ってくれたんなら、それでいいけどよ…』

はあ、と困ったようなため息の後、ディフェンサーは言う。

『んで、さっさとコマンダー認証しようぜ。あんまり時間喰うと、後で兄貴共が何言ってくるか…』

『クラッシャーちゃん辺りが、どこまで進んだのーとか言ってきそうだもんね』

『ああ。あいつはそういう奴だからな』

笑い気味に、ディフェンサーは返す。あたし達も、あとで言われそうだ。

『オレの新しい名前、きっちり考えてきたんだろうな?』


『…ごめんなさい』

苦笑しながら、律子は呟いた。

『コマンダーのことで一杯一杯で、その、少しも…』

『アホか』

『ごめーん』

呆れ果てたようなディフェンサーに、律子は情けなさそうに言った。

『今、ちゃんと考えるから!』

『さっさとしてくれよ? あー、ほんっとお前ってわっかんねぇ奴だなぁー…』

そうは言いながらも、ディフェンサーはどこか嬉しそうだった。
律子は一生懸命考えているのか、押し黙ってしまった。
二人の声が止んで、また滝の音が聞こえ始める。しっかり音が取れていて、結構うるさい。


そのまま、十五分が過ぎた。


あたしが腕時計を見てから見上げると、インパルサーは苦笑していた。
さっさと終わると思っていたらしい。うん、あたしもそう思っていたよ。
だけど続きが気になるので、すっかり生暖かくなったパルの胸にぺたりとくっついた。
もうしばらくしてから、ようやく律子の声がしてきた。


『あんまり、捻ってないんだけど…いい?』

おずおずとした律子に、ディフェンサーは投げやりに返事をした。

『あーもう、なんでもいいよもう。さっさとしてくれよ、じれってぇな』

『えと、それじゃ…』

律子は自分に念を押しているのか、ちょっと間があった。



『フェンサー君!』



本当に、捻りがなかった。あたしのパルみたいなもんだ。
二人の声とも滝の音とも違う、高い電子音がした。ディフェンサーが、コマンダー認証をしたからか。
電子音が消えた後、ディフェンサーの、呆れたような馬鹿にしたような声がした。

『…コマンダー認証、完了。マジで捻りの欠片もねぇなぁ…ま、親父よりはマシか』

『気に…入らなかった?』

『もういい、事が済んだんだから! さっさと出るぞ、湿気はだいっ嫌いなんだよ!』

今度は苛立ってきたのか、ディフェンサーは声を荒げた。こっちに来るらしい。
待ってよ、とそれを律子が追う。

『平気じゃなかったの?』

『平気だからって好きなわけねーだろ! オレらみてぇなマシンには、高温多湿は大敵なんだからな!』

『じゃあ、なんで温室なんかにいたの?』

『知るか! 適当に突っ込んだらここだったんだよ!』

ディフェンサーは、むきになってきている。足音が、近付いてきた。
あたしは、インパルサーから離れた。すぐここに来るだろう。

案の定、熱帯植物の温室に繋がっているドアが開かれた。重たい金属の足音もする。
植物に挟まれた細い通路を歩いてきたディフェンサーの後ろに、律子が小走りに付いてくる。
あたし達の前にやってくると、ディフェンサーは思い切り嫌そうな顔をしてインパルサーを見上げた。

「…ちったぁ気ぃ使えよ、インパルサーの兄貴」

「今度、足技の基礎から教えてあげましょうか? 筋はいいんですから、ちゃんと訓練すれば覚えられますよ」

そうインパルサーが茶化すと、ディフェンサーは背を向けてしまった。

「るせぇ!」

乱暴に歩いて、ディフェンサーは温室を出て行った。
困ったような目をしてそれを見送った律子は、表情を崩した。泣きそうになっている。

「フェンサーじゃ、ダメだったのかなぁ? もうちょっと、捻るべきだったのかなぁ?」

「かもねぇ」

あたしには、律子のネーミングセンスをとやかく言えない。インパルサーだからパルだったんだし。
律子はあたしとディフェンサーの出て行ったドアを交互に見たが、すぐにドアへと走っていった。
追いかけているのか、律子の声が間延びして遠ざかっていく。
二人のいなくなった温室は、やはりあまり人気がなかった。天気が良いから、皆外にいるからか。
あたしはふと、少し後ろに立っているインパルサーを見上げた。あんなに長いことくっついていたの、初めてかも。
彼はまだマスクを閉じてはおらず、整った顔で笑っている。

「さて、どうします?」

「どうするって」

この状況で、あたしに拒否権はなかった。顎を持ち上げられ、目線を向けさせられる。
先日、マリーが見せてくれたレイヴンの写真とまるで同じ笑い方のまま、パルは背を曲げてくる。
彼とは身長差がありすぎて距離が上手く詰まらないので、あたしはかかとを上げてつま先立ちになる。
唇を開かされ、パルのもので塞がれる。二度目は、どちらも慣れてきていた。
前回よりも力の込め方が優しいのは、それなりに自制が効いているからなのだろう。
ゆっくりと離されたので、目一杯上げていたかかとを下ろす。彼も、背筋を伸ばしてマスクを閉じた。
レモンイエローのゴーグルで目元を覆ったインパルサーは、ふいっと顔を逸らす。

「僕、こんなに幸せでいいんでしょうか…」

「いつになくべったべたしてたもんねぇ、あたしら」

ディフェンサーと律子の話を聞くためとはいえ、ずーっとあたしはパルに抱き付いてたわけだし。
おまけに二度目とはいえ、することしてしまった。進展する速度が、確実に加速している。
ていうかこんな場所で何やってんだ、あたしは。そう思ったら、途端に物凄く恥ずかしくなってきた。
まともにパルを見られない。見たら恥ずかしさで絶叫する、間違いなく。
それを回避するため、あたしは通路を走ってドアを開け、外に出た。外気温は、温室に比べてちょっと低い。
頬に手を当ててみると、熱い。なんでいつもこうなっちゃうんだ。
今はとにかく、パルから離れることが先決だ。




後ろを見ずに走りに走って、立ち止まった。
すると、その少し後ろで、がちん、と重たい足音が止まる。付いてきてたらしい。
あたしは振り返ることもせず、更に歩いていった。しばらく突き進むと、辺りが開けた。
周囲の芝生の緑から浮いてみえるほど、色鮮やかな空間があった。

一面の、コスモス畑だった。

濃いめのピンクの花が、風に揺れている。その中には、白い花も混じっている。
クラッシャーが言っていたのは、これだったらしい。その近くには、バラ園もあるし。
思わず見入っていると、背後にインパルサーが立ち止まった。同じように、コスモス畑を見下ろした。

「なんで逃げるんですか」

「逃げてない」

ただ、凄く照れくさくて、そのせいで恥ずかしくなっちゃっただけだ。
数え切れないほどのコスモスを見下ろしながら、インパルサーは腕を組む。

「嫌なら嫌と、言って下さればいいんです。僕は、それに逆らいませんから」

そういうわけじゃない。
ただ、まだ認めたくないのかもしれない。
ああやって触れられるたび、触れ合うごとに、痺れはどんどん強くなる。
痛くはない。痛くはないけど、それはあたしの大部分を占めてきている。
今だって、そうだ。すぐ近くにパルがいるだけで、もう痺れている。


これが、恋なんだ。


あたしは、パルが好きだ。後夜祭の時に、いやというほどそれを自覚した。
理由なんていらないし、聞かれても答えられない。どうして好きになったのか、なんて。
もう、自分じゃ押さえられない。痺れはあたしの中心に埋まってしまって、絶対に外れそうにはない。
パルもあたしを好きだって解ってるし、何度も何度も聞かされた。

なのに。
なんで、悲しくなってくるんだろう。

どっちも好きで、それでいいはずなのに。なんでこんなに、悲しいんだろう。
パルがロボットで、あたしが人間だからなんだろうか。いや、もっとある。
彼は地球で生まれたわけじゃないし、あたしはユニオンで生まれたわけじゃない。
あたしはパルが戦っていても、何の役にも立てない。絶対に、ただここにいるだけで終わる。
ただの足手纏いだ。鈴ちゃんやりっちゃんや、神田みたいに強くなんてないし。
増して、これからもまだまだ敵が来るのであれば、もっと役に立てない。
何の、役にも立てるわけがない。

そうか。

だから、あたしは。


「なんで、今度はいきなり泣いているんですか?」

身を屈めて、インパルサーがあたしを覗き込んできた。あたしに聞くな。
あたしだって、こんなことで泣きたくない。ああもう、一番情けないのはやっぱりあたしだ。
止めようにも、涙はすぐには止まってくれない。前々から薄々感じてたことだけど、はっきり自覚すると来る。
本当に、どうしようもない。


「由佳さん」

パルは、あたしを見下ろした。

「僕が何かしました?」

「してない」

「それじゃあ、なんで」

「言えるかぁ!」

あたしは、先程のディフェンサーの気持ちがよく解った。こんなの、言えるわけがない。
なんとか涙は落ち着いてきて、服の袖で目元を擦る。大した量じゃなくて良かった。
全く、なんてことを考えちゃったんだろう。他人と自分を比べてどうするよ。あたしは小学生か。
一度深呼吸してから、コスモス畑を見下ろした。遠くの広場には、まだまだ人がいる。

「なんでもないんだから」

「なんでもなくて、泣きますか?」

と、どこか茶化すように言い、インパルサーはあたしへ顔を向けた。

「やっぱり、さっきは」


「だから!」

二度も同じことを言われると、さすがにくどい。
パルは上半身ごと首をかしげて、あたしの目線に合わせる。

「ですから?」

「…続きを言えと?」

「出来ることならお願いしたいですね」

マスクが開いていたら、にこにこ笑っているであろう声を出してくる。
やっぱりか。それじゃまるで、誘導尋問だ。いや、実際にそうだ。
そうだと解ったら、意地でも言う気が起きなくなった。

「言わない。言わされるぐらいなら、絶対に言ってやらない」

「そうですか」

身を引いたインパルサーは、残念そうに肩を落とす。大体、言わなくたって解るだろうに。
パルはしばらくマリンブルーのマスクを掻いていたが、その手を止めた。

「言って下さった方が、僕としても安心出来るのですが」

「安心?」

オウム返しに尋ねると、パルはこくんと頷く。

「はい。由佳さんの態度で大体のことは予想が付くのですが、確証が得られないと、少し怖いんですよね」

「それじゃ、尚のこと言ってやらなーい」

「なんでですかぁ!?」

相当に驚いたのか、インパルサーは素っ頓狂な声を上げた。
あたしはマリーの話を思い出しながら、彼を見上げてにやりとする。

「恐怖が一番の呪縛だってんでしょ? なら、しない手はないなーって」

「…意地が悪いですね」

「誘導尋問しようとしたあんたには言われたくないなぁ」

そう言いながら、私は笑ってしまった。さっきまでやけに強気だったパルが、もうしょげている。
さっきとは正反対だ。ていうか、どっちも感情の切り替えが早すぎる。
あたしはコスモス畑から目を外し、かなりがっくりしているインパルサーを見上げた。
それは、あまりにも不憫な姿だった。なので、いつかは言ってやろうと思った。
正面切って、パルが好きだって。




広場に戻ると、ディフェンサーがリボルバーに殴られていた。周囲に、ギャラリーまで出来ている。
ばっぎゃん、と凄い音がして、ディフェンサーは前方に転ばされる。ずさっと、頭から芝生に転がり落ちた。
顔から地面に突っ込んだ弟を見下ろし、リボルバーは、拳を高々と突き上げる。

「はっはっはっはっはぁー!」

「ってぇー…」

芝生の上から起き上がったディフェンサーは、訝しげに兄を見上げる。

「ていうか、なんでいちいち殴るんだよ? それ、痛ぇんだぞ?」

「ごちゃごちゃぬかすんじゃねぇ!」

にっと笑ったリボルバーは、また勢い良くディフェンサーの胸元を殴り上げた。
軽々と浮かんだ、ディフェンサーは追撃で後方へ飛ばされた。くるっと回転して、離れた位置に着地する。
ばきりと指の関節を鳴らしながら、リボルバーは叫んだ。相変わらず、エネルギーの固まりだ。

「オレはただ、てめぇにコマンダーが出来たことを喜んでやろうとだなぁ!」

「普通に喜べねぇのかよ、この馬鹿兄貴!」

ディフェンサーはリボルバーを指し、絶叫した。もっともだ。
それでもリボルバーは攻撃を止めず、ディフェンサーを追っては殴る蹴るを繰り返していた。
鈴音はリボルバーを止めることを諦めたのか、変な笑いを浮かべていた。鈴ちゃんでも無理なのか。
クラッシャーとイレイザーは、暴走し続ける兄を止めることもなく、涼平とさゆりと一緒に格闘を見ていた。
涼平は呆れ顔になっていたが、さゆりは相変わらず淡々としたもので、無表情に近い。
一人だけ満面の笑みを浮かべているマリーは、頬に手を当てる。

「平和ですわね」

「どこがっすか」

わざわざ手付きまで加え、神田がマリーに突っ込んだ。ナイスだ葵ちゃん。
リボルバーは格闘しているうちに調子に乗ってきてしまったのか、思い切りディフェンサーを蹴った。
上から殴って地面に落下させ、その背を踏み付けた。銃口を振り上げ、空に向ける。

「いよっしゃあ、せっかくだからここで一発祝砲を!」

「撃つんじゃない!」

鈴音が叫ぶと、リボルバーはにやりとして振り向いた。

「冗談に決まってんだろ、スズ姉さん」

リボルバーにからかわれたことで、鈴音はむくれてしまった。腕を組んで、背を向ける。
背中を踏み付けられたままのディフェンサーは上を見、けっ、と顔を逸らす。

「タチの悪い冗談だぜ」


直後、足を外されると同時にディフェンサーは立ち上がり、リボルバーの顔面へ拳を打ち込んだ。
だがそれは、リボルバーに受け止められてしまう。ぎりぎりと、双方の関節が鳴る。
しばらく押していたディフェンサーだったが、軽く地面を蹴って体を浮かばせ、下半身を回した。

「だっ!」

大きな両足をリボルバーの胸に当てて蹴ると、掴まれていた腕を外して脱する。
少し離れた位置に着地し、ディフェンサーはにやりと笑う。

「さぁて、続きは?」

「ちぃとは進歩したじゃねぇか、フォトンディフェンサー」

ディフェンサーの腕を投げ返したリボルバーは、どん、と片足を前に出して構えた。
肘から先のない二の腕を上げ、ディフェンサーは投げ返された腕を填めた。
腰を落として構えると、双方は勢い良く飛び出した。


「安心してー」

あたしの方を見、クラッシャーはにっこり笑った。

「本当にやばくなってきたら、馬鹿兄貴共は一気にへっ潰しちゃうからー」

「だが、場所を弁えて欲しいものでござるな」

イレイザーは目で兄達を追っていた。あたしは、ちょっとイレイザーに言いたくなった。

「だったらなんで止めないの?」

「それはそれ、これはこれよ。無用な被害は、御免被るでござる」

と、にやりとしたイレイザーに、インパルサーはマスクフェイスを手で押さえる。

「あなた達ねぇ…」


二人の戦いを見ていた律子は、すっかりむくれていた。

「ホントに自分勝手なんだから、フェンサー君は」

「全くねぇ」

あたしはそう返しながら、つい笑ってしまった。
結構どうでもいい理由で戦い続ける、二人の姿が可笑しく見えたこともある。
戦っているうちにリボルバーとディフェンサーは空中戦に移行し、更に激しく格闘を繰り返す。
二人の戦いはヒーローショーのように思われているようで、親子連れは沸き立っていた。
うん、確かに。考えようによっては。


かなり、平和な光景かもしれない。







04 6/24