機動駐在コジロウ




急がばマイウェイ



 今朝のちくわは、グラタンの中から現れた。
 それも、一本丸々。形は似ているが断じてマカロニではない。焦げ目の付いたチーズとホワイトソースをたっぷりと 纏ったちくわを頬張って、事も無げに食べ終えたのは、メイドの設楽道子だった。テーブルを囲んでいる皆は彼女を 一瞥してから、それぞれで朝食に挑んだ。今日もまた洋食で、朝に食べるものにしてはかなりヘビーだった。
 生クリームがふんだんに使われた濃厚なグラタン、バターの香りが豊かなクロワッサン、歯応えも食べ応えもある こと間違いなしの太いソーセージ、白身魚のムニエル、と、フルコースのようだった。脂っ気が少ないのは、水菜や レタスの入った野菜サラダぐらいなもので、デザートもまた生クリームが零れんばかりに載せられたプリンであった。 そして、どれもこれも味が異常なのだ。盛り付けも彩りも最高なのだが、一口食べると奇妙な味に襲われてしまう。 吉岡グループの食品会社が送ってくれた冷凍食品であるクロワッサンやソーセージはそれなりの味がするのだが、 道子の手が加えられているものは全て不味い。とにかく不味い。

「あーはぁーんっ」

 それらを全て綺麗に食べ終えた道子は、口元を拭ってから両手を組んだ。

「それではではぁーんっ、今日は私が出撃してもいいってことですねぇーん?」

「そういうことです、道子さん」

 妙に甘ったるいグラタンを黙々と消化しながら、吉岡りんねは眉一つ動かさずに述べた。

「ではではぁーん、支度をしてきますぅーん」

 道子は食器を重ねてダイニングに運び、食器洗浄機に入れてから、二階へ駆け上がっていった。メイド服の裾が 見えなくなると、武蔵野巌雄は凄まじい安堵感に襲われた。これで道子が外出してくれるのであれば、昼食ぐらいは まともなものを食べられる。レトルトでもインスタントでもなんでもいい、普通の味をしてさえいれば充分だ。

「御嬢様ぁーんっ、ご確認して頂きたいことがあるんですけどぉーん」

 すぐさま二階から駆け戻ってきた道子は、りんねの背後に近付いてきた。

「はい、なんでしょうか」

 胃薬の味がするムニエルを食べる手を止め、りんねが振り返ると、道子は体をくねらせる。

「私達が襲撃するのってぇーん、佐々木つばめちゃんだけに限定されてはいないんですよねぇーん?」

「そうですね……」

 りんねは少し考え込んでから、右手を差し出した。すると、すかさず道子がその手に携帯電話を載せた。

「はぁーいん、御嬢様ぁーん」

「ありがとうございます、道子さん」

 りんねは銀色の金属板のような最新型携帯電話を作動させて、本体のボタンを操作してホログラフィーモニターを 浮かび上がらせた。言うまでもなく、吉岡グループの系列会社の最新機種である。厚さ五ミリもない金属板の内部 には膨大な情報処理を行える電子回路と接触型ホログラフィー投影装置が内蔵され、最早、携帯電話の域を遙かに 超えているのだが、端末の大きさと基本的な用途の都合で携帯電話会社から売り出しているのである。
 長方形のホログラフィーモニターに指を滑らせてラップトップ型に開かせ、透き通ったキーボードとモニターを展開 させてから、りんねはメガネの奥の目を素早く動かしながらキーボードを叩いていった。もっとも、物理的な操作では ないのでプラスチックの打撃音はせず、その代わりに電子音がりんねの的確な指の動きに合わせて鳴った。りんね は直接モニターに触れて画面をスクロールさせ、拡大させてから、顎に手を添えてしばし思案した。

「私の会社が定めた共闘規定にも、皆様方の会社が同意して下さった共闘規定にも、襲撃するのは佐々木つばめ さんに限定するとは書かれていませんね。佐々木つばめさんの身柄と財産を奪取する権利を平等に得る、というの が共闘規定の主であり、共同戦線を張ることによってお互いの立場を同一化して利害関係の整理を図るのが、もう 一つの目的でもあります。規定書にはこう記述されております」

 りんねはホログラフィーのラップトップをそのまま回転させ、食卓を囲む皆に向けた。

「共闘規定第一項、この規定書に同意し、署名捺印した者は、佐々木長光の遺産相続権及び佐々木つばめの身柄を 奪取するための権利を得る。だが、その場合、同じ規定書に署名捺印した者を処分してはならない。続いて共闘 規定第二項、この規定書に同意し、署名捺印した者は、佐々木長光の遺産相続権を奪取する際に障害となる物や 人間に危害を加えても構わない。だが、その場合、吉岡グループの補償範囲内とする。第一項と第二項を照会し、 見当してみましたが、佐々木つばめさんの身の回りの人間に攻撃してもなんら問題はない、ということです」

「きゃっはぁーん、てぇことはぁーん、私の考えた作戦が実行出来るってわけですねぇーん!」

 いやんあっはん、と変なテンションではしゃぐ道子に、武蔵野は忠告した。

「だが、俺らが政府に黙認されているのは、あの娘絡みのことだけじゃないのか? 外堀をどうにかしようったって、 下手な手を打てば全員しょっ引かれちまうぞ。どいつもこいつも違法まみれなんだからな」

「それについては問題ありません、巌雄さん」

 りんねは携帯電話のボタンを操作し、ホログラフィーのラップトップを消してから、紅茶を口にした。

「この戦いを起こす前に、政府側には私達の情報をリークしてあります。開示出来る範囲内ではありますが」

「おい、クソお嬢! それじゃ俺らを殺せっつってるようなもんじゃねーか!」

 それまで黙っていた藤原伊織が腰を上げ、いきり立った。りんねは悠長に紅茶を傾けてから、言う。

「そうです。ですが、政府側が私達を取り締まる気はないことは昨日も確かめましたし、この別荘が特殊部隊に鎮圧 されるという事態も起きてはいません。吉岡グループが摘発されるということもなければ、あなた方の後ろ盾である 企業に立ち入り捜査が行われたという報告もありません。そもそも、れっきとした警官ロボットであるコジロウさんが、 一市民に過ぎないつばめさんの護衛であることからして異常なのです」

「……ん」

 異様に渋いプリンをもそもそと食べていた高守信和が、小さく頷いた。

「私達の背景も、つばめさんの背景も、異常と違法と違憲の元に成り立っております。政府側としては一個人が保有 するべき財産量を凄まじく上回っているつばめさんから財産を奪い去ると同時に、コジロウさんを使って私達を共倒れ させるのが狙いなのでしょう。効率的で合理的ですが、あまり賢い作戦とは言えませんね」

 りんねはティーカップを下ろし、艶やかな黒髪を白い指で掻き上げて耳に掛けた。

「はぁーいんっ、あんな警官ロボットにやられる前にぃーん、やっちゃいますぅーんっ」

 それじゃ行ってきますぅーん、と道子はウィンクしてから、再度二階に戻っていった。りんねは道子が二階の部屋に 入っていったのを見届けてから、朝食を再開した。それから程なくして、吹き抜けから吊り下がっているシャンデリア の明かりが点滅した末に消え失せた。サーバールームを起動させたため、別荘全体の電圧が下がったからだ。
 昨日の吹雪が嘘のように晴れ渡っているので、窓から差し込んでくる日差しだけで充分明るい。テレビを付けても 大して面白味のあるニュースも流れていないので、誰も見ようとはしない。それ以前に、誰も会話らしい会話をして いないので、沈黙が長引こうと関係なかった。沈黙の気まずさが気にならなくなれば、気を回さずに済むのは随分と 楽になるからだ。食事というよりも義務に近い朝食を終えると、皆、それぞれで退屈をやり過ごした。
 武蔵野は自主訓練と武器の手入れを行い、伊織は焚き付け代わりに倉庫に山積みになっていた数年前の週刊 少年漫画雑誌を引っ張り出して読み耽り、高守は飽きもせずに細かな機械をいじくり倒し、りんねは三階の自室で 読書か勉強をしているのか静かなものだった。忙しいのは、戦いに赴いた道子だけだった。
 日差しで緩んだ雪が屋根から零れ、落ちた。




 署名、捺印。署名、捺印。署名、捺印。
 その繰り返しで、隣の机には書類の山が出来上がっていた。自分の名前と住所と生年月日を書いて実印で捺印 しては、その下にある別の書類に同じ内容を書き、一山終えたと思ったらもう一山押し付けられて、自分の名前を 見るのがうんざりするほどだった。つばめは唇をへの字に曲げ、力を込めて実印を書類にねじ込んだ。
 教師であり内閣情報調査室の諜報員である一乗寺昇は、つばめの隣の机に山積みになった記入済みの書類を 広げ、記入漏れがないかを確かめている。そのうちの何枚かは書き損じていたらしく、弾かれ、新しい用紙がまたも 机の一角を占領した。つばめはそれらを書き直してから捺印し、一乗寺に渡した。

「お姉ちゃんに電話して連絡するだけなのに、なんでこんなに許可をもらわなきゃならないんですか」

「なんでってそりゃ、行政だから」

 一乗寺は書き直しされた書類に目を通しつつ、教卓に戻っていった。分校に登校してからというもの、ずっとこんな 調子だった。昨日は吹雪と襲撃でろくに授業を受けられなかったが、今日は快晴でコジロウが早朝に除雪して くれたおかげで通学路となる道も歩きやすかったので、五分もせずに到着出来た。だが、教室に入った途端に 山盛りの書類を一乗寺から押し付けられ、言われるがままに書いていたというわけである。

「しかもなんですか、この御時世で紙の書類だなんて。電子書類でいいでしょうに」

 書き疲れた手を振って嘆くつばめに、一乗寺は書類の束をばさばさと振ってみせた。

「どれだけ時代が進んだって、紙に勝る情報保存ツールはないよん。だから、遺言書も滅多なことがない限りは紙で 作るのが普通なのさ。電子書類とかだといくらだって情報が改竄出来るしね」

「で、いつ頃から授業が始まるんですか?」

 書類仕事に飽き飽きしたつばめがぼやくと、一乗寺は書類の束を封筒に入れた。

「今日は無理かな。どうしてもやりたきゃ自習ね」

「昨日もそうだったじゃないですか。お姉ちゃんを紹介するって約束したんですから、やる気出して下さい」

「授業計画なんて、立てるの面倒なんだよう」

「じゃ、なんで教師なんて隠れ蓑を選択したんですか」

 子供っぽい仕草で拗ねた一乗寺につばめが呆れると、一乗寺は首を捻った。

「んー……それ以外に思い付かなかったんだよなぁ。田舎イコール分校、とくれば教師でしょ?」

「うわぁいい加減。で、先生には普通に先生として能力はあるんですか」

「さあ? 学生時代に家庭教師のバイトなんてしたことないし、小中高と勉強は一人でなんとか出来たし、教えるのも 教えてもらうのも大して興味なかったし、教師に対して理想もなければ憧れもないし」

「じゃ、別の先生を回して下さいよ。せめてまともな人を」

「それは無理無理、また別の手間が掛かるもん」

 へらへらと笑う一乗寺に、つばめは嘆息した。

「ああもう……」

 何を言っても、一乗寺に手応えはない。軽々しい態度を取って受け流すことで、つばめが政府側の事情に深入り するのを妨げているのかもしれないが、もう少し真面目に取り組んでほしいものだ。つばめの人生が掛かっている のだから、とまでは言わないが、せめて大人としての立場を弁えてほしい。何もかも嫌になったつばめは、書類の束 が雪崩れ落ちるのも構わずに机に突っ伏した。すると、教室の隅で待機しているコジロウが目に入ってきた。

「あ、そうだ」

 戦闘中のコジロウとのやり取りを思い出したつばめは、上体を起こして挙手した。

「先生、質問」

「あーはいはい」

 心底鬱陶しげに振り返った一乗寺に、つばめは姿勢良く立っているコジロウを指し示した。

「コジロウが全武装を解除しているのって、どうしてなんですか? 武器いらずのパワーがあるから、ですか?」

「それもそうなんだけど、武装しちゃうと兵器って括りに入っちゃうんだな、これが」

 一乗寺は教卓に寄り掛かると、コジロウを見やった。

「世間一般に普及しているロボットは大きく分けて三種類、民間用、工業用、行政用ってことは小学校の授業で習う から知っているよね。で、コジロウは見た通りの行政用の警官ロボットなんだけど、諸外国で軍事用に括られている ロボットとスペックだけなら同列なんだな、これが。んでも、日本は諸々の事情で自衛目的ではない兵器を保有する わけにはいかないから、行政用の括りを思い切り引き延ばして軍事用との境目を曖昧にしている。対人殺傷能力の 有無でしか区切れないぐらいにね。その結果、警官ロボットは火器は持っちゃダメって法律が出来た」

「でも、普通の警官ロボットは腰に拳銃を提げていますよ?」

「あれ、中身はゴム弾なのよ。そりゃ、至近距離で撃たれりゃヤバいけど、警官ロボットは致命傷を与えない距離を 取ってからじゃないと発砲出来ないように設定されているからOKなのさ。機動隊とかSITとかSATとかが使っている ロボットの役割は人間の隊員の盾になることだから、あいつらも武装しないようにしてあるのさ。せいぜいスタンガンが 限界だな、それでもかなーり電圧を落としたやつじゃないと許可が下りないけど」

「それは道理かもしれませんけど、そんなんじゃいざって時に困るんじゃないですか? 昨日の時みたいに」

「あのね、つばめちゃん。武器なんてものは人間には過ぎた道具だから、ロボットにはもっと過ぎた道具なんだ」

 一乗寺は教卓にもたれかかり、頬杖を付く。

「特にヤバいのがお金。あれも道具なんだよ、なのにそれに振り回されて人生を棒に振る人間が多いこと多いこと。 だから、つばめちゃんも気を付けておきなよ。道具は知性と理性で使ってこそ生きるものであって、その道具に知性も 理性も喰い尽くされるのは以ての外なんだからね」

 そう言った一乗寺は、ほんの少しだけ真面目な面差しになっていた。が、それはすぐに崩れてしまった。

「はい説明終わり、解ったらさっさと書き上げてね! 残業なんてごめんだし! 残業代なんて出ないしさぁー!」

「先生をちょっとでも見直しかけた私が馬鹿でした」

 真顔で言い返してから、つばめは未記入の書類を手元に引き寄せてボールペンを走らせた。おう頑張ってくれい、 と一乗寺の他人事のような声援を無視しつつ、書きすぎたせいでゲシュタルト崩壊を起こしかけてきた自分の名前 を書いていると、教室の内線電話が鳴った。黒板の脇にある壁掛け電話を取り、一乗寺は受け答える。

「はーいはい、え、あ、どうもー」

 一乗寺は二三答えてから、左手で受話器を塞ぎ、肩を竦めた。

「つばめちゃんが電話をする前に、お姉ちゃんの方から掛けてきちゃった。考えてみたら、お姉ちゃんは船島集落に 来たこともあるし、長光さんとも懇意にしていたから、分校の電話番号を知っていてもおかしくないよな」

「それじゃ、私が書きに書いた書類の山は全部無駄ってことですか?」

「そうでもないない、六割は使えるから」

 全部ではないのか。つばめはこれまで書き上げた書類の枚数をざっと数えてみたが、五十枚近くあったような気 がする。それなのに、その四割が無駄になってしまうとは、実に不毛だ。机を蹴り飛ばして文句をぶちまけたい衝動 に駆られたが、コジロウと電話口の向こうの美野里の手前、ぐっと我慢した。一乗寺は明るい調子で美野里と通話 していたが、え、と声を潰してやや身を引いた。何か都合の悪いことを言われたのだろうか。

「いいじゃないのさ、こっちに来たらすぐ返せるんだしー。帰りの足なんていくらでもあるじゃーん、ねえ?」

 一乗寺はへらへらして、一昔前のドラマのように受話器と本体を繋ぐコードを指に絡める。

「えー、でも、それってあれじゃん、元はと言えば檀家なのに出てこなかったよっちゃんが一番悪いんじゃーん。え、 何、怒ってんの。よっちゃんが怒る筋合いなんてどこにもないない、むしろこっちが怒るべき立場であってさぁ」

 が、話が拗れたらしく、一乗寺は拗ね気味に眉を曲げた。そして電話を切り、つばめに向いた。

「あの車を返せってさ。いいじゃんかよ、どうせよっちゃんが帰ってきたら返すんだからさぁ」

「ああ、あのごっつい……」

 つばめは記憶を掘り起こし、あの車とは、船島集落に来るために乗ってきた黒いピックアップトラックだと察した。 思い出してみれば、美野里はあの車を知り合いから借りてきたと言っていた。そして、ドライブインでの戦闘のどさくさ に紛れて一乗寺が借りて船島集落までの足に使ったのだ。その持ち主が誰かは考えたこともなかったが、又貸し になってしまっているのであれば、早々に元の持ち主に返すべきだ。一乗寺の口振りからして、そのよっちゃんなる 人物は、船島集落近辺の住人なのだろう。美野里との関係も知りたいので、つばめは挙手した。

「先生、せっかくなんで連れて行って下さい。ちゃんとお姉ちゃんを紹介したいし」

「やだよ、面倒臭い」

「途中でなんか奢りますから」

「じゃ、行こうか!」

 途端に快諾した一乗寺は、書類の束を入れた封筒を脇に抱えると足早に教室を出ていった。即物的かつ現金な 男だが、回りくどくないのはいいことかもしれない。ああやれやれ、これで書類仕事からは解放される、とつばめは 伸びをしてから机から離れた。出かけるための支度をしていると、コジロウと目が合った。

「あ」

「どうした、つばめ」

 コジロウに問い返され、つばめは気まずさを覚えた。軍隊アリ怪人との戦闘で、黒いピックアップトラックは派手に 傷付いていて、凹みもあれば塗装剥げもあった。本を正せば吉岡りんねとその一味のせいであって、ボンネットの 歪みは伊織という名の怪人が飛び降りたのが原因なのだが、まさか吉岡りんねとその一味を見つけ出して弁償しろ とは言えまい。ピックアップトラックの正確な値段は知らないが、あれほどの大きさと馬力でしかも輸入車となると、 それ相応の値が張るのは確かだ。となると、持ち主は値段の分だけショックを受けるだろうし、責められるだろう。 祖父の名義からつばめの名義になった預金口座の中身だけで、修理費とその他諸々を弁償出来るだろうか。足元 を見られて吹っ掛けられるかもしれないが、悪いのはこちらなのだ。だが、あまり過剰な額の金額を出せば損になる どころか、食い下がられて強請られる可能性も無きにしも有らずだ。

「ま、いいか。なんとかなるでしょ」

 そんな時こそ、弁護士である美野里の出番だ。正当な代金を支払って依頼すれば、美野里が間に入って意見を 摺り合わせてくれるだろう。つばめは通学カバンから教科書とノートを抜いて机に入れてから、一つしかないロッカーを 開けて、中に入れていたコートを出して羽織った。教室の明かりとダルマストーブの火を落としてから、コジロウを 伴ってつばめが教室から出ると、ジャージから私服に着替えた一乗寺が一人と一体を待っていた。
 そして三人は、船島集落から出発した。





 


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