横濱怪獣哀歌




蟹光線



 当事者であるガニガニから事情を聴き出し、手を打つべきだと判断した。
 しかし、ガニガニが発する電流が強すぎるせいで、狭間であってもガニガニの怪獣電波を掴みづらくなっていた。 怪獣電波の強弱と高低差で感情の機微は解るのだが、そこに含まれる言葉までは感じ取れないので、ガニガニが 伝えようとしていることの三割程度しか解ってやれない。歯痒さに苛まれた狭間は、その道の専門家である鮫淵と 枢とヒツギに意見を求めた。いかに狭間がソロモン王の如き力を持って生まれた男であろうと、その上に胡坐を 掻いて長らえてきたのは事実であり、怪獣に振り回されすぎていて怪獣という存在を知ろうと思ったことは ついぞなかった。だが、この期に及んでつまらない意地を張るのは大人げないし、自分の今後にも左右するので、 怪獣のことを知るべきだと思い直したのである。

「あ、うん、その、ガニガニのような甲殻類型大型怪獣の特性について話すと二三日じゃ済まないんだけど、でも、 ガニガニが撃っている光線についての説明は比較的短くて済むかな。でも、それについて説明するにはやっぱり 甲殻類型大型怪獣の構造について説明しなきゃならないから、ええと、うん、要約するのは苦手なんだけど……」

 見張り台の下に集った三人と一獣は、鮫淵が広げたノートを囲んだ。鮫淵は、複雑な計算式を指で小突く。

「神経に電流を通電させて情報伝達を行なって肉体を動かすことは、怪獣でも人間でも変わりはないんだけど、彼の ような甲殻類型大型怪獣は外骨格に電流を通しているんだ。バンリュウのような内骨格型怪獣だと、体の内側 から外部に飛び出したツノやウロコに電気を流すための電線を巻き付ける必要があるんだけど、ガニガニのような 怪獣は外骨格のどの部分に電線をくっつけても電気が得られるから、人間側としては楽なんだよ。電圧も安定して いるから変電所の設備も消耗が少ないし、何より発電量が多いからね。でも、その分、電圧が上がり過ぎてしまう と外骨格に損傷が発生して漏電し、最悪、メルトダウンを起こしてしまう」

 一九六六年にあったじゃない、と鮫淵が例に挙げたのは、先の大戦では敵対国であったユニオン・ステイツにて 発生した発電怪獣の事故だった。ミシガン州デトロイト郊外に設置されていた発電怪獣の冷却水が足りなくなり、 熱量が増えすぎたために発電怪獣自身が溶解してしまった。その際、怪獣の体液が流出し、周囲の環境が著しく 汚染されたことも問題となり、今も尚除染は済んでいない。

「では、ガニガニを冷やしてさしあげればよろしいのでしょうか?」

 枢が挙手して発言すると、鮫淵は鉛筆の尻で乱雑に伸びた髪を掻き乱す。

「事はそう簡単にいかないんだなぁ、これが。ガニガニを冷やすための水は海水じゃダメなんだ、軽水……真水 が必要になるんだけど、その量が尋常じゃないんだ。ガニガニが発している熱量と光線の威力から推測して計算して みたんだけど、横須賀どころか横浜まで干上がっちゃいそうな量で。そんなに大量の水を運んでこられたとしても、 その後が問題だよ。今度は水不足に陥ってしまうから。でも、時間を追うごとにガニガニの熱量は上がり続けている わけだから、手を打てるのは今しかないというか、今を逃せば取り返しがつかないというか、なんで今の今までろくな 対処もせずに手をこまねいていたのかというか、街明かりが結構明るいから近隣住民の避難措置は済んでいないと いうか、まあ、帝国海軍の思惑が読み切れないんだよ」

「まだエレシュキガルに警戒しているんですかね?」

 その正体について考えないようにしながら、狭間が死の女主人の名を口にすると、鮫淵は鉛筆を噛む。

「それもあるんだろうけど、なんというか、なんというか、腑に落ちないんだよなぁ。そもそも、ガニガニが暴走した として、被害を被るのは他でもない一般市民なのであって、そんなことになったら軍隊だけじゃなくて政府の信頼も 失墜するわけで、もちろん、その、怪獣使いだって御多分に漏れず」

 鮫淵は言葉を濁しながら枢を窺うと、枢は目を閉じてから見開いた。

「それがあの方の狙いなのですね。田室中佐から御話を窺った時はタチの悪い冗談ではないかと思いましたし、今の 今まで実感が湧かなかったのですが、ここへきてようやく自覚いたしました。綾繁家は陥れられようとしている」

「ガニガニを光の巨人で消しちまえば、光線も熱も収まるんだろうが……気は進まないな」

 狭間は服の上から脇腹に触れ、皮膚の縫い目を確かめた。

「あ、ああ、うん、羽生さんのあの理論? あれについては、僕もあまりいい方法だとは思えないんだよ。確かに光の 巨人か光の天使を出せれば、厄介なものは全部消し去れてしまうけど、消し去り切った後にも光の巨人が残って いたら対処のしようがないからね。狭間君が連れていたシャンブロウがエレシュキガルと超大型の光の巨人と共 に対消滅したという話は聞いているから、彼女の力も当てには出来ないから、余計に危険なんだ。それと、消耗が 激しすぎるのも問題なんだよ。羽生さんの理論は筋が通っているし、納得出来るんだけど、光の巨人を呼び出す際 に持っていかれる熱量を考慮していないんだ」

「羽生さんはヒゴノカミで自分の指をちょっとだけ切って血を出して、その量に比例した大きさの光の天使を出現 させていましたから、損害は掠り傷程度で済むんじゃないんですか?」

「それは表面的なものであって、本質的なものではないんだ。……けれど、そうか、ヒゴノカミか。道理で怪生研の 後片付けをしても見つからないと思ったよ、あの人が持ち出していたなんて。ヒゴノカミが与えた傷によって羽生さん が失うのは数滴の血液と皮膚だけじゃない、体温だよ。今はまだ光の巨人を出現させた回数が少ないから、重大な 疾患が起きていないのかもしれないけど、当たり前だけど体温がなくなれば人間は死に至る。困った人だ」

 鮫淵は元同僚を案じて嘆息したが、話を元に戻した。

「ガニガニを冷やすことが物理的に不可能であるならば、非物理的な方法で攻めるしかないのではないか、と僕は 判断しているんだけど、生憎、実体二元論は僕の専門外で。だから、枢さんにお聞きしたいんだけど、ガニガニの 精神を肉体から乖離させるにはどうすればいい?」

「精神ですか。少し難しいですね」

 枢は長すぎる袖から指先を出し、顎に添えて唸る。

「私達怪獣使いが祝詞を用いて怪獣の精神に触れるのは、ごく浅い部分なのですが、それだけでも心身に掛かる負担は 大きいので、乖離させるとなると祝詞だけでは弾き返されてしまいます。となれば、助力が必要となりますが、私は 怪獣使いとして独り立ちした身ですので、兄弟の力を借りることは出来ません。それに、怪獣使いは競争し合って 己の地位を勝ち取らねばならぬという決まりがありますので、私が力を貸してくれと頼んだところで誰も応じて くれないでしょう。元より、近くにはおりませんし。ですので、狭間さん」

 枢の視線が狭間に向き、ヒツギもまた狭間を見据える。

〈人の子。枢様のお願いを断るとは言わせんぞ〉

「そりゃあ出来る限りのことはするが、俺は祝詞なんかあげられんぞ」

 狭間が懸念を示すと、鮫淵は見張り台の隅に置いてあった荷物を探り、カセットテープとラジカセを出してきた。 それを狭間の前に置くと、再生ボタンを押してみせた。音が籠り気味のスピーカーから流れてきたのは、何度となく 光の巨人との戦いの最中に聞いた、ツブラの歌だった。肌が粟立ち、目の奥が熱く痛む。

「鮫淵さん、これ、どうして」

 狭間が腰を浮かせると、鮫淵はカセットテープを一旦止めた。

「巨大化したシャンブロウは写真には撮影出来なかったけど、あの歌は聞こえていたんだよ。僕の耳にも。だから、 音として聞こえているものなら録音出来るんじゃないかって思って、やってみたんだ。そしたら、出来た」

「これ、どこで録ったんですか」

「箱根だよ。だけど、僕が居合せたのは狭間君とツブラちゃんを追いかけたからじゃない。芦ノ湖で体を休めに来た 怪獣の調査をするために来ていたんだけど、結果として君達に助けられたんだ。これまでも、何度も狭間君とツブラ ちゃんに助けられてきた。だから、少しは力になれるといいんだけど」

 鮫淵は、一抱えもある大きさのラジカセを狭間に渡した。

「それはありがたいんですけど、これを俺に渡すのはよくないんじゃないんですか?」

 狭間が戸惑うと、鮫淵は帝国海軍基地の方角に目を向けかけたが、狭間に戻した。

「ああ、まあ、うん、まあ、そうだね。でも、ほら、あれだよ。ガニガニの光線砲で溶けたとかなんとか言えば、まあ、 誤魔化しが効くんじゃないかな」

「どうなっても知りませんよ」

 狭間が案じるも、鮫淵は少し笑っただけだった。

「数十万の市民が犠牲になるのと、僕一人の人生が台無しになるのと、比べるまでもない気がするっていうかで」

「鮫淵さんは、何かを償われたいのですか?」

 枢が穏やかに問うと、鮫淵は目を伏せる。

「そうだね、そうかもしれないね。羽生さんがああなってしまった原因は、僕にもある。あの日、羽生さんの奥さん と羽生さんの家が光の巨人に消されてしまった日、僕が羽生さんを帰りがけに引き止めてしまった。その結果、羽生 さんはいつも乗る電車とは一つ遅れた電車に乗って帰ることになってしまったから、間に合わなかった」

 一つ深呼吸してから、鮫淵は改めて狭間と目を合わせる。

「だから、僕がどうなろうとあまり気にしないでほしいというか、どうなろうと僕の責任というかで。玉璽近衛隊 の誘いを蹴ったのも、僕を拾ってくれた帝国海軍にさえ逆らおうとしているのも、もしかしたら人類側の切り札に なるかもしれない歌を収めたカセットテープを一般市民に譲渡してしまうのも、全ては僕の判断だから」

「――――解りました」

 狭間はラジカセを担ぐと、胸を張る。その際、下腹部と背中の傷が引きつって鋭く痛んだ。

「今度は俺が戦います。でないと、ツブラに面目が立ちません」

 鮫淵に礼を述べてから、狭間はヒツギと枢を伴って見張り台に昇った。頂点に達すると、地に堕ちた満月のように 青白く光り輝いているヤシガニが一望出来た。大和型戦艦級の光線を放っている砲身は二つの鋏足で、半開きのハサミ の間に電流が漲った後にハサミの根元に集束し、巨大な光の球が出来上がった。ガニガニは触角と複眼を懸命に光源から 逸らし、両の鋏足を閉じようとするが、熱量が強すぎて閉じられなくなっている。

〈た、す、け、て〉

 細切れの怪獣電波が狭間に届き、ガニガニの哀切な声がやっと感じ取れた。

「ああ、助けてやる」

 狭間はラジカセを足元に置き、スイッチを入れてテープを回した。

「その前に一つ聞かせろ。誰がお前をこんなふうにしたんだ?」

〈か、な、っ〉

 そう言うのが精一杯だったのか、ガニガニはぎぎぎぎぎぎと鋏足の関節が砕けかねないほど軋ませながら曲げ、 上空へと更なる光線砲を発射した。闇が拭い去られ、薄い雲が破られ、遥か彼方の衛星軌道上に浮かぶ怪獣衛星 と宇宙怪獣戦艦の艤装の残骸を焼き切った。細かな流星が無数に飛び散り、夜空の端へと消える。
 一度撃つたびに、出力も射程距離も上がる一方だ。ならば、これ以上撃たせてはいけない。狭間は枢と怪獣電波 の交信が可能かどうかを試し、ヒツギを通じて行うのが最も効率が良く双方に負担が掛からない方法だと知った。 ツブラの歌をガニガニの精神に直接叩き込むためには、狭間の思考など邪魔になるだけだ。ヒツギを経由して枢と 繋がり合った狭間は、祝詞を唱える彼女を通じてガニガニの精神に触れ、ツブラの歌を聞いた。
 聞いたままの歌を、ガニガニに聞かせる。聞かせ続ける。彼の光が失われるまで、無心にツブラが紡ぐ歌に耳を 傾ける。懐かしいようでいて新しく、切ないようでいて暖かく、空しいようでいて満ち足りる、不思議な音階と言葉 の歌だった。意味が解らないなりに言葉を覚えた狭間は、いつしかその歌を口ずさんだ。
 ガニガニの精神が凪ぎ、電流が落ち着くまで、何度も何度も。




 夜が明ける前に、狭間達は猿島を脱した。
 過電流と光線砲が落ち着いたことで本来の発電量に戻ったガニガニに、枢が鎮めるための祝詞をあげてやると、 彼は心底安堵した様子でへたり込んで眠りに落ちた。それから程なくして、帝国海軍基地の哨戒艇や偵察機などに 搭載されている動力怪獣達が騒ぎ出したので、帝国海軍に感付かれる前に移動した。鮫淵は狭間に少額ながらも 現金を渡してくれたばかりか、着替えの服も貸してくれたので、ようやく軍隊崩れから一般人の服装になった。鮫淵に 何度となく礼を述べてから、狭間は枢と麻里子の生首入り棺を担いだヒツギに抱かれて移動した。
 灯台や海軍基地から照射されるライトを避けながら、海面すれすれを飛び、時折波の飛沫を被りつつ、横須賀港 からも市街地からも遠く離れた岩場に至った。埠頭の倉庫街の景色は横浜のそれによく似ていて、狭間は訳もなく 胸が締め付けられた。自動車工場とその倉庫ばかりで、出荷を待ち侘びる新車達がざわついていた。帝国海軍の 監視から逃れ切ったことを確かめてから、高度を少しずつ上げ、人工島に造られた大規模な工場に併設されたテスト コースを一望する。その先には、やはり人工島である野島町が見えてきた。

〈人の子おーっ!〉

 突如、怪獣の声が脳に突き刺さり、狭間は仰け反りかけた。

「誰だよいきなり!」

〈御嬢様のついでにお前も迎えに来てやったんだ、ありがたく思いやがれ!〉

「なんだ、サバンナか」

 声の調子が寺崎に似てきたなぁ、と思いつつ、狭間はヒツギを小突いた。

「だそうだ。その辺に赤い車が停まっているだろうから探してくれ」

〈探すまでもないぞ、人の子〉

 ほれ、とヒツギが指差した先には森が茂っていて、森を囲んでいる道路に真っ赤なサバンナが停まっていた。それ ばかりか、ヘッドライトを瞬かせている。その運転席では寺崎がぐったりしていて、疲れを紛らわすためにひたすら タバコを吸っているらしく、車内の空気が濁っていた。ヒツギは周囲を警戒しつつ旋回し、徐々に高度を下げていき、 緑地の木々の間を縫うように飛んでいき、サバンナの背後に着地した。
 狭間はヒツギの腕から脱し、ヒツギの棺から麻里子入りの布袋を出してもらうと、それを抱えてサバンナと寺崎に 慎重に近付いていった。運転席のドアの窓をノックすると、がこん、と独りでに窓が下がっていった。ハンドルが 回転して窓が開いていくにつれ、酸欠になりそうなほど密度の高いタバコの煙が漏れ出した。ドアの内側に付いて いる備え付けの灰皿は満杯で、吸殻が足元どころか運転席にまで転がっている。寺崎はドアの鍵が外れることを 確かめてから、よろけながら外に出てきた。

「や……やっと出られた……」

「もしかして、寺崎さんはサバンナに閉じ込められていたんですか?」

 狭間が案じると、寺崎は体を前後に動かすついでに首を縦に振った。

「昨日からずっとだ……。とりあえず水と便所と、あー……」

 死ぬかと思ったよぉ、と弱り切った声で漏らした寺崎は、頼りない足取りで水飲み場に向かっていった。

〈カムロ、お前に呼び出された通りの場所で待っていてやったからな!〉

 自慢げにエンジンを唸らせるサバンナに、狭間の腕の中でカムロが蠢いた。

〈そりゃ結構だが、寺崎は解放してやれよ。可哀想だろ〉

〈人間って、二三日程度なら何も飲み食いしなくても死なないんだろ? 何が可哀想なんだ?〉

〈その辺についてはまた後で教えてやるとして、サバンナ、麻里子の体と総司郎は生きているんだろうな?〉

〈まあな。ジンフーもしぶとく生き延びてやがる。御名斗と須藤はどうした。一緒に攫われていったんだろう?〉

〈あいつらは、助けている余裕はなかったんだ。ボニーとクライドには悪いが、状況が状況だったんだ、仕方ない だろうが。で、俺と麻里子がいない間に何かあったのか?〉

〈なんにもない、と言えればよかったんだろうが。九頭竜会と渾沌は弱り切っていて、抗争どころじゃなくなっち まったから大人しいもんだ。その隙を突こうと川崎界隈のヤクザが台頭してきたが、そいつらに構っていられる 余裕なんてないからな。どいつもこいつも士気が衰えちまって、足抜けする奴らは後を絶たない。総司郎がまた 死に掛けたもんだから、上の連中が浮き足立っているせいだ。ともすりゃ、空中分解しちまうかもなぁ〉

〈それが人間ってやつだ。が、そうなっちまうと、俺と麻里子のこれまでの努力が無駄になる〉

〈カムロが努力なんてしたことあったか?〉

 半笑いのサバンナに、カムロは苛立たしげに言い返す。

〈俺がいつ努力しなかった? 塗装剥がすぞ、この野郎。となると、早いとこ麻里子の体にくっつかなきゃならない。 すまんが、人の子とはここでお別れだ。俺と麻里子はサバンナに乗せていってもらうからな〉

「ああ、是非ともそうしてくれ。お前なんか持ち歩いていると、目立ちすぎて敵わん」

 狭間が袋を遠ざけると、生気を取り戻した寺崎が公衆便所から戻ってきた。彼に麻里子の生首入りの袋を押し付けて から、狭間は枢を連れて歩き出した。ヒツギを一緒に連れて歩くと一目で正体が解ってしまうし、枢の服装が襦袢 だけなのは拙いので、狭間は枢とヒツギに物陰に隠れているように命じてから、盛り場へと向かった。
 夜明け前ということもあり、人工島の上に造られた街は静まり返っていた。シャッターを開ける前に商店街を歩き 回り、衣料品店を見つけ、労働者向けの早朝から営業する食堂も見つけた。狭間と枢が着る服と朝食を調達するのが 第一だが、横浜までの電車代も必要なので、鮫淵から借りた金は上手く使わなければ。
 それでも、どうしても止められないものはある。タバコとライターを取り扱う自動販売機に小銭を飲み込ませてから ボタンを押すと、程なくして両者が取り出し口に降ってきた。三ヶ月ぶりに口にするゴールデンバットは、雑味の多さ が却って味わい深く、肺を通じて全身に巡ったニコチンの濃さに軽く目眩すら覚える。
 ようやく、生の実感が沸いた。





 


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