横濱怪獣哀歌




闇ト共ニ在リヌ



 燦々たる有様だった。
 よもや、こんなことになろうとは誰が予想しただろうか。半壊した印部島基地を見上げながら、羽生鏡護は内心で 笑いが止まらなくなっていた。やはり、彼の能力は本物だった。当人から告白された時は半信半疑だったが、こうも あっさりと退役した潜水艦達を操ってしまったのだから、最早疑いようがない。
 ロの字型に建てられた基地の西側は抉り取られ、その向こうでは鋼鉄のクジラと称すべき伊四〇八型潜水艦の 巨体が横たわっていた。二度と動くはずのない潜水艦の船尾は、呂三九型潜水艦の魚雷を受けてひしゃげていた が、艦体には穴は開いていなかった。恐らく、艦内に搭載されていた炭酸ガス怪獣に溜まりに溜まったガスを一気 に噴出させて海中から急浮上し、同時に魚雷の爆発に後押しされてミサイルの如く飛び出したのだ。中に人間が一人 もいないからこそ出来る、特撮番組じみた大技だ。

「うひょー」

 藪木丈治伍長は爆撃を受けたかのような有様の基地を見上げ、感嘆した。

「いやはや凄いっすねぇ、猛烈っすねぇー」

「激烈」

 頭痛の余波がまだ残っているのか、田室秋奈上等兵は眉根を寄せている。

「本土との連絡もまだ取れんし、これはどうしたもんかな」

 赤木進太郎軍曹は、空っぽの航空基地と微動だにしない伊号を見渡した。長年海底に潜んでいたにも関わらず、 伊号の外装には堆積物がほとんど付着していなかった。頻繁に動かしていたからか、スクリューも綺麗なもので、 魚雷発射管も全く錆び付いていない。塗装こそ剥げているが、魚雷を受けた痕跡である大穴はすっかり塞がって いる。まるで、人間が切り傷を負った箇所に瘡蓋が出来るかのように、金属が伸び縮みしている。それは珍しい ことでもなんでもない。この世に存在する鉱石はほぼ全てが怪獣由来のものであり、怪獣と繋がりのない鉱脈も 有り得ないので、戦艦や戦闘機に改造された動力怪獣が怪獣金属に何かしらの作用を与えて自力で破損個所を修復 するのはよくあることだ。といっても、怪獣の自己修復能力は個体差が大きいので当てには出来ないのだが。

「芙蓉はどうなりましたか」

 羽生は表情を取り繕いながら尋ねると、赤木は南洋を指した。

「今、無線を送って呼び戻している最中だが、船足がやけに遅いから戻ってくるまで時間が掛かる」

「電影はどうなったんすか?」

 藪木が上空を指すと、赤木は首を横に振った。

「解らん。近くの島に不時着していればいいんだが、海にでも墜落していたらどうしようもない」

 赤木は気を紛らわすためなのか、タバコを出して銜えた。

「こんなこと、今まで一度もなかったんだ。俺達も混乱しているが、上はもっと混乱している。怪獣使いが 怪獣を暴走させた……というか、制御し損ねたことは過去に何度もあったが、怪獣の熱量が上がり過ぎる程度 のものだった。だが、今度の場合、怪獣は己の意思を持って動いた。どの怪獣もだ。あのヒツギでさえも」

「ヒツギに意志なんかあったんすか?」

 驚いた藪木に、赤木はタバコを吸ってから答える。

「そうだよな、そっちの方が驚きだよ。怪獣使いが怪獣行列で従えている怪獣達は、どいつもこいつも人形みたい に大人しい。主人である怪獣使いにさえちょっかいを出さなければ動こうともしないし、怪獣使いから命令を 下されなければ立ち上がることも座ることもしない。怪獣使いの権威を見せつけるための御飾りに過ぎないんだと、 俺もずっと思っていた。だが、そうじゃなかったようだ」

「その辺、怪獣の科学者としてはどう思うっすか?」

 藪木に話を振られ、羽生は少し考えてから答えた。

「そうだねぇ。この僕を始めとした研究者は、長年その疑問を追いかけていた。怪獣達を人間と同等に扱うべきか 否かという問題は、文明の発展と近代化が進むにつれて深刻になってきた。彼らは人間を凌ぐ知能があるとすれば、 人間は彼らを道具として扱うべきではないのではないか、と。だが、人間は日々屠殺した動物を解体して肉を 喰っているし、植物を刈り取っては加工して胃に入れている。たとえ、怪獣にどれほど優れた知能が備わっていよう とも、怪獣を利用しなければ成り立たない社会を作り上げてしまったからには、それを貫き通すべきなのだという 意見が大多数だ。そして、怪獣の意思は超自然的なものであり、人間の理解の範疇に収まらないものであり、それを 理解しようとすることがおこがましい、という理論もある。けれど、こんな光景を目にすると、そんなものは あまりにもナンセンスじゃないか」

 羽生は軍帽の鍔を上げて目を凝らし、印部島近海を漂っている呂三九型潜水艦を見据えた。

「彼女達は彼を助けたのだと思うべきだよ、やはり」

「何のために、と聞くだけ野暮か」

 赤木は怪獣使いの少女が寝かされていた部屋を見上げ、肩を竦める。

「憤慨」

 秋奈がむっとすると、藪木は秋奈に寄り添ってやった。

「そうっすね、俺らがどんだけ苦労して怪獣使いと毛髪怪獣を手に入れたのか、あいつに教えてやりたかったっす ねぇ。印部島を基地にするためにも中佐は散々苦労したし、電影だって沖縄の航空基地で塩漬けにされていたのを 方々へ手を回して手に入れたわけで、芙蓉にしたって一度轟沈したから玉璽近衛隊のものに出来たってのに。それが なかったら、玉璽近衛隊の地位も下がる一方だったんすよ。なのに、あいつは中佐の頑張りを台無しにしちまった ばかりか、虎の子の怪獣使いまで持っていっちゃったっす。お手上げっすよ」

「――――あいつがもう十年早く生まれていたら」

 基地から出てきた田室正大中佐は、帯刀したライキリの柄を左腕で握り締め、悔恨する。

「いや、こんなことは考えるべきではないな。あの男の浮ついた性格では、軍人など勤まるはずがない」

 態度を改めた部下達と基地を一望してから、田室は述べた。

「これより、我が特務小隊は本土へと帰還する。横須賀にて発生した発電怪獣の暴走を鎮静化すべく――とのこと ではあるのだが、既にガニガニは鎮まっているので、その後の調査という名目で横須賀へ向かう。拿捕した民間人 によって枢様を誘拐されたことは、くれぐれも内密に。洒落にならない失態だ。これが明るみに出れば、特務小隊 のみならず玉璽近衛隊の存続にも関わってくる」

「では、硫黄島と連絡が付いたのですね? 芙蓉の代わりとなる軍艦か航空機が手配出来たのですか?」

 赤木が訊ねると、田室は首を横に振る。

「いや。硫黄島は横須賀の異変の影響で火山活動が活性化し、出航出来ないそうだ。よって、伊号の他には」

「ですけど、中佐。伊号を水中に引き摺り戻せたとしても、まともに動く保証なんてどこにもないっすよ」

 藪木の意見に、田室は唸る。

「それはそうだが、他に何も思い付かんのだ。羽生、貴様は何か考えがあるか」

 田室に意見を求められ、羽生は伊号を眺め回す。

「そうですね……。潜水艦は動かせなくても、艦載機の晴嵐は動かせるかもしれませんよ」

「そんな馬鹿な」

 訝しげな田室に、羽生はカタパルトのハッチを指す。

「この僕の記憶が正しければ、伊四〇八型潜水艦は艦載機を発進させる前に沈没しました。硫黄島での戦闘の後に 起きた、絶対国防圏を拡張するための戦闘でのことです」

「だが、沈没した潜水艦の中だぞ?」

「沈没はしましたが爆発はしていませんよ、御覧の通りに。一度調べてみる価値はあるかと思います。我らの魔法が 通用するのは、艦上機程度だというのもありますがね。伊号を動かせるような魔法を使えるのは、狭間君以外には マスターだけですが、そのマスターは一足先に本土に帰還なさっている。幸い、ここには滑走路もあれば怪獣の 燃料もたっぷりと残っておりますし、熟練した整備兵もおりますから、伊号から晴嵐を引き摺り出しさえすれば 飛び立てるでしょう。ですが、艦載機を操縦出来るのは隊長だけです。晴嵐は一人乗りですしね」

 羽生の言葉に、田室は僅かに躊躇ったが言い切った。

「解った、その作戦でいこう。晴嵐に私の魔法が通じるかどうかは気掛かりだが、仮にも帝国海軍の艦上機が帝国 軍人の命令に背くはずがない。目を覚まさなかったら、その時はライキリに一暴れしてもらう」

 硫黄島の火山から流れ出した噴煙が、風に乗って印部島まで届いていた。いつも以上に濃い硫黄の匂いは過去の 記憶を駆り立てるのか、田室はいつになく表情が険しかった。藪木と秋奈は不安げではあったが、他に打つ手はない と判断し、伊号へ向かう田室を追っていった。赤木は上官の背を見守っていたが、羽生を窺う。

「ヘビ男め、何を目論んでいる」

「御国のためになることですよ」

「呆れるほど白々しいな。俺はお前を玉璽近衛隊に入れることは賛成ではなかったが、隊長がどうしてもというから 裏から手を回してお前を軍人にさせてやったが、ほんの数滴の血を流して光の天使を呼び出すこと以外には特に 役に立ったような覚えはない。そもそも、科学者を前線に置くことからして間違っている」

「それについてはこの僕も同意いたします、軍曹」

「だったら、なんで大人しく裏側に引っ込んでいないんだ」

「隊長の御命令です。それと、辰沼技術少尉の意思でもあります」

「あのトカゲ男共々、お前らは腹が読めん。だから、信用はしてやらんぞ」

「それはどうも」

 羽生は素っ気なく言い返した後、引き止められる前に基地に戻った。赤木の言う通り、科学者の羽生は力仕事には 元から向いていないし、晴嵐を外に出すための作業は藪木と赤木にでも任せておけばいい。負傷した兵士達の 呻き声が漏れ聞こえてくる廊下を通り、手術室に至ると、辰沼が仕事に精を出していた。鉄錆と薬品の匂いと、 円形の無影灯が放つ光が部屋を満たしていた。

「やあやあヘビ男」

「あの二人はどうしている?」

 羽生が不躾に尋ねると、辰沼は無造作に手術台を示した。男とも女ともつかない人間、一条御名斗は手首から先を 失った両腕に点滴を繋げられ、浅い呼吸を繰り返しているが、目を覚ます様子はない。その隣に横たえられている 男、須藤邦彦は欠損した左腕の根元に包帯を巻き付けられており、彼もやはり昏睡している。

「生き返らせもしていないが、殺しもしていないさ。どうだい、僕にしては上手だろう?」

「そうだねぇ。お前にしてはマシだよ。三ヶ月も生殺しにしていられたんだから、上出来じゃないか。堪え切れずに バラしてしまうかと思ったけども。狭間君の腸はどうしたんだい、ちょっと長めに切り取ったんだろう?」

「シャンブロウの触手共々、貴重なサンプルとして保管してあるよ。アレをどういうふうに使おうかと考えるだけで わくわくしてきちゃうんだなぁ。羽生君、君もそうなんだろう?」

 上機嫌な辰沼に、羽生は生返事を返した。おっと、あの兵士が死んじゃいそうだから見てこよう、と言って辰沼は 軽い足取りで手術室から出ていった。怪獣使いの血筋ではありながらも何の力も持たず、そればかりか男でも女でも ない体に生まれついた一条御名斗の使い道はなくなった。両腕を切られたので自慢の射撃は行えないし、子宮も精巣も 未発達なので子を作らせようにも作らせられない。須藤邦彦に至っては、カムロと麻里子を護衛するためだけに左腕を 切断してタヂカラオの器となり、役割を全うしたが、それだけだった。左腕が本来の主である田室正大中佐に戻って しまった今、彼に残されたのは不自由な体と死に掛けた愛人だけだった。
 だから、彼らの最後の使い道は光の巨人へ捧げる供物だ。羽生がヒゴノカミで指先を切って体温を奪い取らせても、 自分の体なのでどうしても躊躇ってしまう。故に光の天使しか呼び出せず、戦果も思うように上げられなかった。 いっそ、行方不明になっても誰も気に留めない浮浪者でも掴まえて供物にしてしまおうかと考えたが、彼らには 彼らの繋がりがあるのだと氏家武大尉から諭された。そこで、死に掛けたチンピラを何人か見繕おうと考えて、 九頭竜麻里子とジンフーの結婚式の奇襲作戦に同行し、手に入れたのが一条御名斗と須藤邦彦だった。
 どちらも救いようがない。御名斗は本能のままに殺戮を繰り返し、須藤は御名斗を喜ばせたい一心で悪事を繰り返し、 修羅の道を駆け抜けてきた。だが、二人はそれで幸せだったのだろう。だから、幸福の中で死なせてやるべきだ。 目が覚めてしまう前に、互いを失ってしまう前に、クル・ヌ・ギアへと導いてやろう。

「それでいいじゃないか、それなら離れなくて済むじゃないか」

 ねえ、満月。肩越しに妻に語り掛けてから、羽生は手術室を出た。壁に寄り掛かって胸ポケットのタバコを探るが、 手が震えて上手く取り出せない。これでいい、これでいい、これが正しいんだ。そう思おうとしても、良心の呵責が 湧き上がってくる。軍人の真似事をしても、言動をそれらしくしても、殺人鬼にはなれない。
 けれど、成し遂げなければならない。魔法使いと呼ばれる者を陥れなければ、ヴォルケンシュタイン家に通じる者を 滅してしまわなければ、死んでも死にきれない。羽生の故郷と、姉と一族と集落の住民達が消し去られた原因は、元を 正せば枢軸国軍によるものなのだと知ったからだ。幼い頃の記憶は頭の片隅に追いやられたのだとばかり思っていたが、 そうではなかった。忘れたふりをしていただけで、忘れられなかった。忘れたくなかったからだ。
 躁鬱病を患っていた姉を診るために、何度か医者がやってきていた。異国からわざわざ出向いてきてくれたのよ、と 母親がありがたがっていた。医者は集落のあちこちを見て回り、土地神として崇められている地脈怪獣ウワバミを 観察していった。ウワバミが人間に執着するようになったのは、それからだった。
 光の巨人を探求していた羽生が医者の正体を知ったのは、大学在学中のことだった。帝政ドイツ出身の魔法使い、 ヴォルフラム・ヴォルケンシュタイン卿が、孫は戦死してしまったのだよ、と一枚の写真を見せてくれた。立派な 軍服に身を固めた青年の顔は、あの日、村にやってきた異国の医者と同じだった。その正体は魔法使いであると 同時に軍人であり、魔法の実験を行うためにウワバミに何らかの処置を施したのだ、と理解した。
 戦争のために、戦地とは縁もゆかりもない山間の村が滅ぼされたのだ。それを許すべきではない、それが悲劇から 逃れて生き残った者の責任だ。そして、光の巨人に対抗する術を見つけ出せなかったから、愛妻とその胎内の我が子 も救えなかった。それもまた羽生の責任だ。故に。
 きつく閉じていた瞼を開くと、手術台に横たわっていたはずの人影が起き上がっていた。過去の追憶と感傷が一気に 吹き飛ぶほど驚いた羽生に、その者は片目を閉じてみせた。手首の切断面がぐにゅりと曲がり、膨れ上がり、呆気なく 手が再生した。これは人間か、いや違う、人間の形を真似た怪獣だ、だが、なぜ、どうして。疑問の嵐の中、羽生が へたり込んでいると、一条御名斗――――のようなものは、手術台から下りて近付いてきた。
 再生した右手の指先で、こつこつこつこつ、と手術台を規則正しく小突いた。モールス信号だ、と気付いた羽生は その意味を察した。キコエルカ、と問うてきている。羽生は怪獣と意思の疎通が出来ることを歓喜すべきか、異常 事態が発生したと同胞に伝えるべきか迷ったが、知的好奇心に負け、首を縦に振った。

『キコエタ ヨカッタ ワレ カイジュウ トリクラディーダ』

 トリクラディーダ、と言われ、羽生は即座に理解した。あの結婚式の料理に使われていた、擬態怪獣か。会話が 通じるならば、話さなければ。こんな機会は二度とない、絶対に。その衝動のままに、床を小突く。

『ナゼ ギタイ シテイル』

『ミナト マホウツカイ デシ ヨッテ ワレ ミナト ジュウゾク』

『ミナト セイゾン? スドウ モ ギタイ?』

『ミナト ブジ スドウ ホンモノ』

『ナゼ』

『タタカウ タメ』

『ナゼ』

『ソレ ナイショ ダマッテイテ クレル?』

 一条御名斗に擬態した怪獣は、またも片目を閉じてみせた。困惑しつつも、羽生は問うた。

『ドウシテ タツヌマ バレテ イナイ?』

『タツヌマ カイジュウニンゲン ヨッテ カイジュウチュウドク ヒドイ』

 だから、施術中にトリクラディーダの体液を辰沼の体内に浸透させ、幻惑してある、のだそうだ。だとすれば、 羽生がすべきことは何なのだ。辰沼同様に怪獣中毒に陥らせてしまうのは簡単だろうに。羽生は床を小突いていた 指を止めて怪獣と目を合わせると、トリクラディーダは左手も再生させ、唇の前に指を一本立てた。
 とにかく黙っていてくれ、後はこっちでなんとかする、とでも言いたいのだろう。羽生は自分の存在が蔑ろに されたような気がしたが、それは承知の上で玉璽近衛隊に入ったのだ、と思い直した。そうでもなければ、羽生が 魔法使いに近付けるわけがないからだ。ひとまず、今は事を静観しよう。行動に移すのは頃合いを見計らってからだ、 と思い直しながら、手術室を出た羽生はダンヒルを吸ったが、いつになく苦かった。

「これではっきりしたよ。やっぱり、あの人は」

 ダイリセキかトリクラディーダか、或いは他の怪獣がヴォルフラム・ヴォルケンシュタイン卿に擬態していたの だろう。彼の孫であるシュヴェルト・ヴォルケンシュタイン魔術少尉の情報はことごとく抹消されていたので、経歴 を辿り切れなかったが、ヴォルフラム・ヴォルケンシュタインという名の魔法使いが戦時中に戦死していたのは確か だった。大学で教鞭を振るっていたヴォルケンシュタイン卿は別人なのではないか、とも思って情報を精査したが、 調べれば調べるほど両者が同一人物である証拠ばかりが出てきた。それを知った時は、帝国陸軍が魔法使いの経歴を 消したのは、大戦で多大な戦果を挙げてくれた魔法使いに安らかな余生を送ってもらうために配慮したのだろう、 と自分なりに納得しようとしたが、あの帝国陸軍がそんなことをするはずがないと思い直した。だから、魔法使いも 死者に囚われているのだ。本物のヴォルフラム・ヴォルケンシュタインが死した時から、ずっと。
 魔法使いを責める権利など、羽生にはない。





 


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