横濱怪獣哀歌




或ル愛ノ歌



 綾繁邸で一夜を過ごした後、真琴は桜木町へ向かった。
 佐々本モータースに立ち寄って、整備してもらった愛車を受け取るためである。妻子からは別れを惜しまれ、出発 する直前までまとわりつかれてしまった。名残惜しかったが、用事があるのだから仕方ない。子供達と共に囲んだ 食卓の賑やかさと枢の温もりが忘れがたかったが、真琴は国鉄に揺られて馴染み深い街へと戻った。
 駅前商店街は復興するついでに区画整理をしたため、アーケードの下に小奇麗な店舗が連なっていた。表通りを 通りながら、一本奥の通りも覗いてみたが、錆び付いたバラック小屋や今にも崩れそうなあばら家は綺麗さっぱり 片付けられていて、そこに住んでいた貧困層の人々の姿は見当たらない。日雇い労働者の多くは復興工事に携わり、 まとまった金を得たので、それを元にして引っ越していったからだ。横浜に根付いた人々も少なくないが、大半は 生まれ故郷に帰ったのだそうだ。中華街の住民達の顔触れも大きく様変わりしていて、裏社会を構成する者達も 世代交代してしまってやりづらくなった、と語ったのはリーマオである。
 火星帰還民のための居住区も桜木町の傍にあるので、真琴は両親の住まう集合住宅に立ち寄った。枢とその子供 達の様子や仕事の近況報告を交わし、それから兄がどうしているかと問われたが、ここ数年は会いに行けていないので 報告しようがなかった。ついでに言えば、兄に連絡を取ろうにも取れないのだ。黒電話をレムリアに住まう久美に譲渡 してしまったので、電話を掛けようにも掛けられない。だから、兄からの手紙が来るのを待つしかないが、それも 不定期だ。なので、兄から注文があった時はこちらから接触出来る絶好の機会だ。
 兄からの注文を受けて真琴が発注した品々を受け取るため、火星帰還民が作った商店街に立ち寄った。祖国に 帰らないことを選択した外国人や、光の巨人と怪獣の争いによって故郷を失った人々、祖国に帰るための資金を稼ぐ ために真日奔で働いている人々などがおり、皆、忙しそうにしていた。取り扱う品も無国籍で、輸入食品や雑貨が 店先で溢れ返っていて、香辛料の独特な香りが立ち込めていた。行き交う人々と怪獣の間を摺り抜けながら、真琴は 目的の場所へと辿り着いた。秋田あかねと鬼塚八尋が経営する、ふなしま食堂だった。

「あ、いらっしゃい、まこちゃん」

 開店前であるにも関わらず、あかねは快く出迎えてくれた。

「どうも。この前頼んだもの、揃ってます?」

 真琴が挨拶しがてら確認すると、エプロン姿のあかねはポケットからメモ帳を出して開いた。商店街の小売店 で発注したものをまとめておいてほしい、と頼んだからだ。

「大体はね。でも、アレはちょっと難しいかなぁ」

「やっぱりアレはそうでしょうね」

「手に入らないものは仕方ないから文句言わないで、って狭間君に言っておいてよ」

 メモ帳をポケットに戻してから、あかねは厨房に隣接している倉庫に呼びかけた。

「おいでー、そうそう、それ持ってきて」

 あかねが連れてきたのは、四つの木箱を担いだサンダーチャイルドだった。タコに似た火星怪獣は多肢を器用に 動かして店内に入ってくると、真琴の前で木箱を積み重ね、そして蓋に貼った伝票をぺしぺしと叩いた。確かめろと 言いたいのだ。真琴は自前の手帳を開き、注文された品物が全て揃っていることを確かめ、ネクタイに擬態している グルムを引っ張り出した。グルムも要領を得ているので、面積を大きく広げて複数の木箱を包み込んだ。

「働き者だなぁ」

 真琴がサンダーチャイルドを撫でて褒めると、赤い瞳が満足げに細められる。

「でしょー? ともすりゃ、ヤンマよりも良く働くよ」

 いい子いい子、とあかねもサンダーチャイルドを撫でていると、厨房から鬼塚八尋が顔を出した。

「そいつに出来ることなんて荷物運びとゴミ出しと皿洗いと掃除ぐらいなもんだろ」

「それだけ出来れば上等じゃないですか」

「そうそう。サンちゃんに出来ないのは料理の仕込みと注文取りぐらいなもんだからねー」

 よしよし、とあかねがサンダーチャイルドを更に褒めると、八尋は露骨に不満げな顔をした。

「用事が済んだんだから、店を開ける支度をしなきゃならんだろうが」

「えぇー。まこちゃんと久々に会ったのに、ろくに話もしないで帰すのー?」

 あかねはサンダーチャイルドを抱き締めながら不満を零したので、八尋は苛立ちを込めた目で真琴を見やった が、それから壁掛け時計を見上げた。地球火星間航路開通記念で発売された時計で、アトランティスの写真が文字 盤に付いている。ちなみに、真琴の部屋に同じものがある。

「少しだけだからな」

 そう言い残して、八尋は仕込みの作業をするべく厨房に戻っていった。八尋のあかねに対する愛情の強さに比例 した嫉妬深さは、何年たとうと変わりはしない。彼が即物的な暴力を好んでいたのも、言ってしまえばあかねに自分 の強さを示したかったからだ。だが、アトランティスでの日々が八尋の中の何かを変えたらしく、横浜でふなしま食堂 を再建してからは仕事熱心になった。腕前も格段に上がり、味の評判は上々だ。小一時間あかねのお喋りに付き合ったが、 その内訳は仕事の愚痴と惚気と子育ての苦労話だった。そればかりは、どんな家庭も変わりはしない。
 それから、真琴は改めて佐々本モータースに向かった。グルムが軽く浮き上がって荷物を運んでくれているので、 真琴はグルムの袖ならぬ裾を引っ張るだけで充分だった。グルムに命じれば佐々本モータースまで独りでに移動して くれるだろうが、道中でトラブルが起きて荷物が台無しになったら大変なので、結局は連れて歩く方が安全だ。 擦れ違う人間や怪獣からは奇異の目を向けられてしまうのが難点だが。
 佐々本モータースの工場はシャッターが開いていて、作業着姿の小暮小次郎が仕事に勤しんでいた。真琴はグルム と荷物を工場の隅に置かせてもらってから、友人に声を掛けた。作業が一段落したところだったから、と言いつつ、 小次郎は機械油にまみれた手袋を外してポケットに突っ込んだ。

「ドリーム、仕上がっているよ」

 小次郎が真琴の愛車を示すと、そのドリームが誇らしげにエンジンを空蒸かしした。

「ザッパーも整備したのか」

 真琴がドリームに隣り合っている小次郎の愛車を見やると、ザッパーもまたエンジンを震わせる。

「ツーリングに行くのか、それともまたレースに出るのか?」

「いや、ツーリングだけだ。また付き合ってよ、まこちゃんとならじっくり走れるし」

「そうさせてもらう。せっかくドリームを整備したんだから、転がしてやらないとな。来月になるだろうが」

「ああ、また出張なのか」

「そういうこと」

 真琴がドリームのサドルを叩くと、ライトを点滅させた。ついでだからちょっとお茶でも付き合ってくれ、と小次郎 は真琴を事務室に連れ込んだ。その言葉に甘えてソファーに腰を下ろすと、書類棚の隣の戸棚が目に入った。いずれも バイクレースの優勝トロフィーと優勝楯で、賞状が入った額縁もあり、記念写真とバイク雑誌のインタビュー記事 の切り抜きを入れた写真立てと額縁も山ほどある。いずれも、この十年の間に小次郎が獲得した栄誉の証だ。

「プロチームにスカウトされてデビューしたと思ったら、きっぱり引退しちまうんだもんなぁ」

 小次郎らしい潔さではあるが。真琴が残念がると、湯飲みと茶碗を載せた盆を抱えた小暮つぐみがやってきた。

「また走らないかって色んなチームから声を掛けられてはいるんですけど、全部蹴っちゃって。結婚したからって 気を遣わなくてもいいのに、って何度も言ったんですけどね」

「あ、無理はしないで」

「大丈夫、今日は調子がいいから」

 真琴が立ち上がって盆を受け取ると、つぐみは丸く膨らんだ下腹部を押さえた。見たところ、臨月だろう。

「いいから、大人しくしておいてくれ。今日は社長もうららさんもいないんだから、尚更だ」

 奥で寝ていて、と小次郎は妻の背に手を添えて促すと、つぐみは真琴に一礼してから戻っていった。

「では、ごゆっくり」

「二人目だよな。御盛んだなぁ」

 つぐみが淹れてくれた緑茶と三角シベリアを口にしつつ真琴が言うと、小次郎は真琴を見返す。

「三人も拵えた奴には言われたくない」

「上の子のすずかちゃんは三つだったっけ」

「早いもんだよ。社長とうららさんが遊びに連れていってくれたから、今日は静か」

「螢ちゃんは」

「たまに来る。あの子は顔形は姉さんに似ているけど、中身は羽生さんみたいだ。良く喋る。で、その羽生さんは」

「火星と地球の間を繋ぐ光子力航路の更なる安定化を図るため、火星に行っている。俺の出張先もその火星だよ。 何度も行きすぎて、遠い星だっていう実感がなくなってきた。んで、満月さんは?」

「姉さんは相変わらず。元気なもんだよ。羽生さんとどこでデートしただのなんだのって自慢ばっかりする」

「そっか」

「そう」

 どうということのない言葉を交わし合ってから、真琴と小次郎は感じ入った。何事も起きない日々が続いていくことが どれほど尊いことか、どちらも身に染みているからだ。渋みが強すぎる緑茶とひたすら甘い三角シベリアを口に しながら、下らないことばかりを話した。例によって子供に関する話題になり、環境は違えども子供のやることは 変わらない、と言い合っては笑い転げた。それを聞きつけたドリームとザッパーもエンジンを震わせていた。
 ドリームは小次郎に預け、真琴は荷物を横浜港まで運んだ。兄が横浜に来た日、光の巨人によって蹂躙された造船 所は、一度解体された後に再建され、人型多脚重機達が仕事に勤しんでいる。傷痍軍人の成れの果てである彼らも また、法改正による恩恵を受けていた。彼らは人間の部分が残っていながらも機械として扱われていたが、人型 多脚重機が怪獣義肢として認定されたことで人間としての権利を取り戻すことが出来た。それにより、一度は抹消 された戸籍を取り戻せたばかりか、真っ当な給料をもらえるようになった。戦死したと思われていた元兵士が家族 と連絡を取り合うようになったり、軍人恩給を受け取れるようになったり、それを元手にしてより人間に近い形状 の怪獣義肢に脳を移植する手術を行えたり、と。人型多脚重機達を指揮している女性の現場監督は、古松健三、との 名札が付いた人型多脚重機と笑みを交わしていた。きっと、彼は彼女の思い人なのだろう。
 件の木箱は、印部島宇宙港行きの定期連絡船に積み込まれた。




 フォートレス大神に帰る前に、古代喫茶・ヲルドビスに立ち寄った。
 からんころん、とドアのベルを鳴らしながら店内に入ると、懐かしいコーヒーの香りが漂ってきた。客の数はまばら で、ゆったりとしたジャズがジュークボックスから流れている。一度は空っぽになった店中の棚も、また化石で埋まり 始めた。それを発掘しているのはもちろん海老塚甲治だが、今、ヲルドビスを経営しているのは彼ではない。

「まこちゃん、いらっしゃい。今日はどないする? いつものでええか?」

 カウンター越しに声を掛けてきたのは、リーマオだった。海老塚が化石を発掘するために旅立ってからは、彼女が ヲルドビスを任されている。当初、この人選でいいのかと誰もが不安に思っていたが、蓋を開けてみればリーマオの 料理の腕前はかなりのもので、コーヒーを淹れるのも日に日に上手くなっている。ウェイトレスとして働いていた経験 もあるため、ヲルドビスの雰囲気を変えることはせず、メニューもそのままだ。変わったことといえば、まかないが 中華料理になることぐらいだ。
 ジンフー率いる渾沌の収入源の一つである、薬膳中華・虎牢関は本店の営業を再開した。楼閣怪獣シスイを本社 ビルにしていたのだが、そのシスイが逃げ出して宇宙に出てしまったので、また新たな楼閣怪獣を調達して中華街 に据えた。リーマオも当初は虎牢関で働いていたのだが、ジンフーが経営の一切合財を取り仕切りたがったので、 実質的に追い出されてヲルドビスの後釜に収まったという次第である。怪獣中毒になりかねないほど毒性の強い 怪獣の肉を用いた怪獣料理は健在で、当局から摘発されそうになる度にあの手この手で免れている。あれほどの 大事が起きた後でも裏社会は相変わらずで、裏通りでは夜な夜な怪しげな人々と怪獣が蠢いている。九頭竜会と 渾沌とその他の組織間での抗争も時折起きている。どんな時代になろうと、悪人共が潰えることはない。

「お願いします」

 真琴が承諾すると、ほんならブレンドやな、と言ってリーマオは厨房に向かっていった。人間と怪獣の隔たりが薄く なったことで、怪獣義肢を持つ人間の存在もまた知らしめられ、法律も改正されて違法ではなくなった。それにより、 リーマオも両足のカーレンを隠さなくなった。膝丈の紺色のワンピースの裾からは、赤い外骨格を帯びた怪獣義肢が 覗いており、くるぶしの位置にある目が瞬いていた。

「あ、公務員だ」

 不躾な言葉を掛けてきたのは、カウンター席の端で勉強道具を広げている少年だった。その足元には黒いランドセル があり、アイロンがきちんと掛かったカッターシャツと吊りズボンを身に付けているが、服装を変えれば少女と いっても遜色のない顔付きだった。母親譲りの容貌は、歳を重ねても薄らがない。その名を九頭竜大河といい、 九頭竜麻里子とジンフーの一人息子である。裏社会のサラブレッドだが、大人しい性分でケンカ沙汰は起こさない。 礼儀正しいがやたらと口が悪いのは、育った環境のせいだろう。

「学校帰りに喫茶店に寄るとは、不良だなぁ」

 真琴が茶化すと、大河は宿題を中断して顔を上げた。

「そっちこそ。天下の綾繁家の入り婿が、一人でふらふらしていていいもんか。身を守ってくれる怪獣が傍にいるから といって、過信するもんじゃないよ。というか、なんで未だに僕らみたいなのと付き合っているんだよ。九頭竜会と 渾沌との関係なんて、真っ先に切るべきだろうに」

「俺もそうしたいところなんだが、桜木町から離れるわけにはいかないんだ。印部島の宇宙港への直行便が出ているのは 横浜港だし、横浜駅からは月へと乗り入れる電車が出ているからな。東京駅よりは本数が少ないが」

「それとこれとはあんまり関係がないような」

「そうだな、ないかもな」

 真琴は大河に返してから、リーマオが運んできてくれたコーヒーを口にした。

「それで、今日はまたどうしてヲルドビスにいるんだ」

「うちに帰っても集中出来ないから。図書館は飽きたし、ここに来ると姉さんがおやつを出してくれるし」

 ダッチベイビーはおいしかった、と大河は空っぽになった皿を示した。

「麻里子はんの家にうちの親父が行く日やねん。せやから、まー、騒がしいんや」

 あらゆる意味で、と付け加えたリーマオに、真琴は苦笑する。

「相変わらず血の気が多いことで」

「うちの親父と九頭竜の親分が正面切って殺し合わなくなっただけマシやけど、やることはなんも変わらへんねん。 麻里子はんも大概やからな、親父共を宥めようとはせんし、むしろ煽るんよ」

「麻里子さんも相変わらずですね」

「でも、まあ、そのうちどっちかが死ぬやろ。畳の上なり女の上なり路地裏なり何なりで」

「生きている限りは死にますよ」

「せやから、やりたいようにさせたるねん。それが親孝行っちゅうもんやろ」

 にこやかに言い切ったリーマオに、それはただの放任では、と思ったが真琴は胸の内に収めた。九頭竜総司郎も 九頭竜麻里子もジンフーも、誰かに口出しされたからといって態度を改めるわけがないからだ。

「狭間君!」

 いきなり名字を呼ばれ、真琴はちょっと驚きながらも振り返ると、同年代の女性が立っていた。

「あ……ああ、兜谷さん」

 真琴がやや間を置いてからその名を思い出すと、兜谷繭香は眉を下げる。髪を長く伸ばし、化粧もしている。

「同窓会のお知らせ、届かなかったの?」

「ああ、いや。届いてはいたんだけど、その日は出張だったから」

「怪獣監督省ってそんなに忙しいの?」

「色々とね」

「桐代ちゃんも音々ちゃんも元気だよ。聖ジャクリーンも! 土日は礼拝堂が解放されるから、うちの子を連れていく んだけど、前よりも活発に動くようになってね。そのせいで至るところが傷だらけなんだけど、まあ、怪獣だから」

「そうか。うん、解った。皆によろしく」

「それじゃ、私はこれで失礼するね。またね、狭間君!」

 繭香は朗らかに笑んでから、ヲルドビスを後にした。程なくして夫と我が子と合流したのか、会話が聞こえてくる。 なんだ友達は一緒じゃねぇのか、うん、二人は先に帰ったよ、狭間君と会ったよ、勘ちゃんも御仕事お疲れ様、お迎えも ありがとう、おかあさんおなかすいた、などと言い合いながら帰路を辿っていった。それからしばらくして、今度は 寺崎善行がやってきた。相変わらずの禿頭とサングラスとスカジャン姿である。

「うぃーっす。坊っちゃん、迎えに来たぜ」

 不躾な挨拶をした寺崎に、少年は眉根を寄せてノートを指す。

「まだ宿題が終わっていないから、もう少し待っていてほしいんだけど」

「そんなん適当でいいだろ」

「よくない」

 寺崎に言い返してから、大河は宿題を睨み付けた。しかし、進み具合は芳しくないらしく、鉛筆は完全に止まって いた。小学五年生の算数で、立体の面積の割り出し方を計算しろというものだった。

「……ええと」

 大河が困り果てた様子で真琴を窺ってきたので、真琴はコーヒーを飲み終えてから大河を見返す。

「公務員は副業は禁止なんだけどな」

「無報酬なら問題はないんじゃないの?」

「それは屁理屈だなぁ」

「ヒーローのくせに意地が悪いな」

「鳳凰仮面三号はとっくの昔に引退したんだけどな」

「このおっさん、嫌いだ」

「そりゃどうも」

 大河に毒突かれ、真琴は笑った。それから、大河は今一度自分の頭で考え込んだが、埒が明かなかったので年の 離れた姉に救いを求めた。ホンマ性格悪いわ、とリーマオは真琴に文句を言いつつ、腹違いの弟の宿題を手助け してやった。寺崎は一切当てにされなかったが、それはいつものことだ。
 大河が寺崎に連れられて帰宅してから、真琴はリーマオに頼んでおいた品物を入手した。だが、ここでもやはり アレは手に入らなかったようだった。それについて詫びられたが、手に入らないなら仕方ないです、と言って真琴 は帰路を辿った。辺りはすっかり暗くなり、地球を一巡してから衛星軌道上のシスイに向かう怪獣列車の光が夜空 を横切っていき、アトランティスとアマノウキフネが星空の一部を塞ぎ、月を陰らせる。そして、絶えることなく 怪獣達の歌が聞こえてくる。どこの誰が言い出したのかは定かではないが、この歌には名前が付いている。
 ヨコハマ・カイジュウ・ブルース。





 


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