手の中の戦争




第七話 ビター・チョコレート



七日後。私は、筋肉痛に苛まれていた。
訓練に次ぐ訓練で、体中が痛い。筋肉が一番痛いけど、関節も痛い。丸一日訓練するのは、初めてなのだ。
散々酷使したせいでずきずきする肩を押さえながら、頭上から降り注ぐシャワーの温水を浴びていた。
専門訓練を始めていないとはいえ、これはきつい。基礎体力を作るための訓練だけでも、こんなに辛いとは。
早々に挫折しそうになりながらも、私はシャワーの傍に置いたシャンプーを取り、汗と埃に汚れた髪を洗った。
シャンプーの泡立ちの悪さで、どれだけ汚れたのかが解る。強くなるためとはいえ、しんどいことばかりだ。
髪の泡を流してリンスで付けて流し、最後に体を洗う。足を洗うために身を屈めると、背中に痛みが走った。

「うがっ」

我ながら情けない、と思いながらタイルの壁に手を付き、呻いた。この分だと、明日も痛みは消えないだろう。
神田隊員は、慣れるまでの辛抱だ、最初の頃は誰だってそうだ、と励ましてくれたけど、辛いものは辛い。
私は気力を振り絞って体を起こし、痛みを我慢しながら体を流した。一刻も早く、眠って休んでしまおう。
シャワーを止めて、バスタオルで体を拭き、脱衣所に出た。特殊機動部隊専用営舎なので、私だけしかいない。
の、はずなのだが。無駄に爽やかな笑顔を振りまいた北斗が、脱衣所の入り口に立っているのはなぜなのだ。
反射的にシャワールームの扉を閉めた私は、叫んだ。世間知らずにも、馬鹿にも限度ってものがあるだろう。

「何してんだ、あんたは!」

「自分に用事があると申し出たのは礼子君ではないか!」

閉めた扉越しに、北斗が言い返してきた。そういえば、訓練から戻る時に、そんなことを言った覚えがある。

「でも、だからって今はないでしょうが!」

羞恥と情けなさで喚いた私に、北斗は不思議そうにした。

「湯浴みの直後というものは、強襲には打って付けの状況だと思うのだが」

「…打って付けすぎるんだよ」

私はだんだん呆れてきた。このままここにいても仕方ないので、バスタオルを体に巻いて、扉を少し開けた。
隙間から顔を出すと、北斗は近付いてこようとした。私はすかさずそれを制止してから、文句を言った。

「あのさぁ。あんた、物を知らなさすぎる。ちょっとは考えてから行動してよ」

「考えた結果なのだ」

北斗は至極真面目な顔をしていた。

「南斗が言うには、男女間が親密になるためには、湯浴みの強襲、或いは寝起きの不意打ちが不可欠なのだ」

「何それ」

私が変な顔をすると、北斗はにかっと笑った。

「もしくは、登校途中にトーストを銜えて曲がり角でぶつかるのが有効なのだ!」

「ああ、うん、南斗があんたに何を吹き込んだのか解った。ベタベタなラブコメの展開でしょ、それって」

私は頭が痛くなりそうだった。北斗は無駄に偉そうな態度で、胸を張る。

「そおだあ!」

「アホすぎて付き合ってらんない」

北斗もそうだが、南斗も充分に馬鹿だ。私は北斗を脱衣所から追い出してから、下着を着てジャージを着込んだ。
バスタオルで髪を拭きながら、脱衣所から出ると、北斗は追い出した場所に突っ立っていた。結構邪魔だ。
私はそれを無視しようと思ったが、ここまで目に付く場所にいられると、無視するわけにはいかないだろう。

「なんでそこにいるわけ?」

「自分の任務のうちに入っておるのだ」

妙に嬉しそうな北斗に、私はげんなりした。そういえば、そうだった。

「教官からの指示だっけ、それ? チームワークを養えーってのは。でも、そこまで徹底することもないでしょ」

「行く行くは礼子君とも組むことになるのだ。今のうちから、養っておいて損はないであろう?」

「そりゃそうだけどさぁ…。だけど、あんたと私が組めるようになるのは、随分先だと思うよ」

私は髪に残った水気を拭ってから、バスタオルを首に掛けた。

「教官、言ってたじゃん。私が実戦で使い物になるためには、あと三四年は必要だって。体格もそうだけど、訓練が足りていないから実戦なんて以ての外だって。忘れたの?」

「忘れたわけではない」

北斗の語気が、急に弱々しくなった。あらぬ方向に顔を背け、少々声を上擦らせる。

「ただ、せっかく同じ場所で寝起きする間柄になったのだから、部下との交流を図るべきだと思って、だな」

要は、理由を付けて私の傍にいたいらしい。ここまで見え見えに意識されると、逆にこちらは萎えてしまう。
あまり付き合うと面倒なことになると思い、私は北斗の隣を通り過ぎた。私の部屋がある、三階に向かう。

「私、寝るから。明日も早いし。用事はまた明日でもいいし」

北斗が呼び止める声がしたような気がしたが、私はそれを無視して階段を昇り切り、三階にやってきた。
人がいないので電気が消されていた廊下に明かりを灯し、一番手前にある寄宿用の部屋に入って扉を閉めた。
特殊機動部隊専用営舎は、高宮重工からの出資もあってやたらと待遇が良く、ここだけで充分な設備がある。
私は、普通の自衛官が使っている方でも良いと思ったのだけど、機密上の問題でこちらで暮らすことになった。
でもその内情は、大方、北斗と南斗の我が侭だろう。二人ならやりかねない、というか、それしか考えられない。
私は壁にある蛍光灯のスイッチを入れ、二段ベッドが左右に置かれた部屋の中に入ると、右側の下段に座った。
今まで誰も使っていなかった部屋は生活感がなく、私が持ってきたものもぞんざいに置いてあるだけだった。
下の階からは、恐らくは南斗が見ているのであろう仮面ライダーの音声が聞こえるが、物音はそれぐらいだ。
神田隊員と朱鷺田隊長は一般の官舎にいて、こちらに来るのは仕事の時だけなので、寂しい限りである。
家族はどうしているだろう。お父さんもお母さんも健吾も、私がいないことを寂しがっているのだろうか。
私は、不意に切なくなった。急に訪れたホームシックが、どんどん寂しさを強め、苦しくなりそうだった。
そんなことではいけない、まだまだ先は長いんだから、電話もあるしメールもあるし、心細くなんてない。
だが、そう思おうとすればするほど、切なさは増していく。私はそのうちに、泣きたい気持ちになってきた。
こんなことで泣いてはいけない、と思うよりも先に涙が出てきた。なんだ、私も充分に子供っぽいではないか。
缶コーヒーでも飲んで、気を紛らわせよう。私はベッドから立ち上がって部屋から出かけ、足を止めた。

「何してんの」

「な、なんだっていいではないか」

部屋の扉の隣に立っていた北斗は、顔を逸らした。私は言い返そうかと思ったが、切なくて言い返せなかった。
ダメだ、我慢すると余計に切なくなってしまう。私が唇を噛んでいると、北斗は身を屈めて視線を合わせた。

「どうしたのだ、礼子君」

私はすぐ目の前にある北斗の襟首を掴むと、ぐいっと引っ張って部屋の中に引き摺り込み、扉を閉めた。
戦闘服の襟首から手を離し、ベッドに座り込んだ私は、不思議そうな顔で見下ろしてくる北斗を見上げた。
なんで、引っ張り込んでしまったんだろう。追い返してしまうべきなのに、思わず手が伸びてしまった。
そんなに私は寂しいのか。そう痛感した途端に涙が量を増してきて、寂しさが膨れ上がり、胸を潰した。

「だから、どうしたのだ」

私の前に膝を付いた北斗が、訝しげにする。私は苦しさで何も言えないまま、体を傾げ、北斗に寄り掛かった。
北斗は一瞬身動いだようだったが、後退りはしなかった。私は迷彩柄の戦闘服に額を押し当て、声を殺した。
寂しいのと切ないのと、北斗なんかに縋ってしまった自分が情けなくてたまらず、自己嫌悪が起きそうだった。

「あの時のようであるぞ」

頭の上で、北斗が呟いた。懐かしそうでいて、嬉しそうでもあった。

「一年と二ヶ月半程度前に行った、三日間に渡る特殊演習の一日目の夜だ」

何も、今、そんなことを引き合いに出さなくても。私が言い返そうとすると、北斗は続けた。

「一日目の戦闘を終えた後に、礼子君は疲労で昏倒するように眠ってしまったのだ。自分は最初、どうするべきかと思ったのだが、体から離すわけにもいかんし、人質なのだから一人にしておくわけにはいかんし、かといって人間の守り方などろくに知らなかったものだから、礼子君を抱きかかえたままでいるという決断を下したのだ」

ああ、そういえばそうだった。北斗の話は、まだ続く。

「礼子君を抱きかかえていることは、正直、あまり楽ではなかったぞ。礼子君は小さい上に重みがなく、それでいて柔らかだったものだから、力を入れすぎてはいかんと思って気を張っていたのだ。時折礼子君が身動きするものだから、落とさないようにするのに必死だったのだ。そのうちに、礼子君も収まるところに収まったのか動かなくなったのだが、今度は礼子君が自分の戦闘服を掴んで離さなくなってしまったのだ」

「…思い出させないで」

私は、泣いているのと押し殺しているせいで少々上擦り気味の声を出した。忘れたい、恥ずかしい思い出だ。
だが、北斗はそうではないらしい。にやけて浮ついている口調で話しながら、私の肩を軽く叩いてきた。

「自分は、あれが嬉しかったのだぞ? 戦闘中はあれだけ自分に文句ばかり言っていた礼子君が、少しでも自分を頼ってくれたのだと解って、礼子君という人間が途端に可愛らしく思えたのだ。思えば、あれを境に礼子君は可愛気を出してくれるようになったのだったな。チョコレートを所望してみたり、自分の代わりに南斗と戦ってくれたり、別れ際には、また自分と会いたいとも…」

「もういいってば!」

私は溜まらなくなり、北斗から離れて身を下げた。三日間の演習の時の、恥ずかしい思い出を暴露しないでくれ。
北斗は、またきょとんとしていた。邪気のない子供のような表情で、泣き出すのを堪えている私を見ている。

「なぜだ。自分にとっては、とても素晴らしい記憶なのだが」

「私は、恥ずかしいの」

涙を拭ってから、私は北斗から目を逸らした。大体、情けないではないか。北斗に縋って眠ってしまったなんて。
余程機嫌の悪い顔をしていたらしく、北斗はそれ以上聞いてこなかった。そのまま、二人で押し黙っていた。
考えてみれば、二人でいるときに北斗が黙っているのは初めてかもしれない。いつも、うるさいくらいに喋る。
私は、そっと目線を上げて、北斗を窺った。蛍光灯に照らされたダークブルーのゴーグルに、私が映っている。
まともに見ると、北斗は精悍な顔をしている。黙っていれば良いのに、喋って騒ぐから、格好悪くなるのだ。
窓の外からは様々な虫の声が、下の階からは南斗の見ている仮面ライダーの音声だけが、聞こえている。

「ならば、今後の作戦展開を修正しよう」

急に、北斗は真面目な顔をした。こいつは一体何を言っているのだろう、と私は訳が解らなくなった。

「作戦って、何の作戦よ」

「決まっておる。礼子君を陥落させるための作戦だ!」

意気込んだ北斗は、立ち上がって拳を突き上げる。なんだ、その気合いの入りようは。

「自分は礼子君が好きだっ! 部下としても、仲間としても、女性としても好きでならない! だが、礼子君はそうではない! 自分は、この現状を打破し、カンダタの付け入る隙間もないほど親密になるべきだと判断したのだ!」

「つまり、私に好かれたいと?」

ああ、だからあんなベタベタなラブコメみたいなことをしたのか。私が変な顔をすると、北斗は更に叫ぶ。

「そうだ、礼子君! だから自分は、礼子君にときめいてもらうべく、作戦を展開しつつあるのだ!」

「それが、さっきの湯上がりドッキリの真相?」

「そうなのだ!」

大きく頷いた北斗は、真上から私を見下ろしてきた。私は相手をするのも嫌になってきて、肩を落とした。

「…馬鹿が。大体、それは男目線のラブコメでしょうが。女目線のラブコメはそうじゃないの」

「だが、南斗によればそうらしいのだが。大抵の漫画では、ああいう展開になると女子が男子を意識するのだ、と」

もっともだと言わんばかりの北斗に、私は本気で頭痛がしそうになって額を押さえた。そうか、南斗のせいか。

「そりゃ、連載初期の頃から女子が男子に好意を抱いている場合であって、女性キャラがうじゃうじゃいるような漫画の展開だ。いわゆるハーレム系だ。少年漫画だ。少女漫画でもありがちかもしれないけど、少女漫画だと相手役の男は嫌われに嫌われるのがオチなんだよ」

「そうなのか?」

「そうなの! ていうか、なんで南斗はそんなことを知っているの?」

私は、それが一番不思議だった。南斗が好きなのは仮面ライダーだけではないのか、漫画も好きなのだろうか。

「自分はそうでもないのだが、南斗は漫画なら手当たり次第に読む男でな」

北斗は胡座を掻いて座ると、腕を組んだ。

「稼働したばかりで実戦配備のされていない頃、つまり、高宮重工の人型兵器研究所にいた頃に、自分達は暇潰しになると言われて所長から大量の漫画やらDVDやらが押し込められた部屋に行かされたのだ。そこで自分は北斗の拳に出会い、南斗は仮面ライダーに目覚めたというわけなのだが、そこに落ち着くまでに、ありとあらゆる作品に触れておったのだ。その時に得た情報は最初期のものだから、自分達のメモリーとエモーショナルに多大なる影響を及ぼし、今に至る、というわけなのだ」

「要は、あんたら二人は生まれながらのオタクってことか」

そう返しながら私は、人は見かけによらないのだと実感した。あんな美人の所長の鈴音さんが、オタクだったとは。
その様を想像してみるも、ぱりっとした白衣姿と隙のない美しさだけが印象に残っていて、まるで符合しない。
通りで、二人とも妙なことに詳しいわけだ。いつかの時のごっこ遊びだって、いい感じにマニアックだった。
それに付き合うことが出来た私も私だが、私にも理由がある。お父さんの部屋に、北斗の拳があったからだ。
年齢が一桁の頃に読んだ時は、その内容の物凄さにかなり驚いたが、慣れてしまえば逆に面白くなったのだ。
弟の健吾は、あの絵柄があまり好みではないらしいが、そのうち好きになってくれるだろうと思っている。

「して、礼子君。自分に用事があるのではなかったのかね?」

北斗に問われて、私はようやく思い出した。そういえば、聞いておきたいことがあったのだ。

「ああ、うん。あのさぁ、あんたらってロボットでしょ?」

「今更、何を聞くのだ。そうだ、自分と南斗は高宮重工製人型自律実戦兵器であり、近接戦闘を目的とした機体で、近年の科学技術の発展に伴って力を増してきたロボット工学によって、これから起きるであろうロボットを多用したテロや犯罪行為に対処するために、造られた存在なのだ。武装解除時の全長は二メートル十五センチ、総重量は三百六十二キロ。腹部に内蔵された超高圧バッテリーによって機関部を稼働させており、充電が満了している状態では、約九十八時間の戦闘が可能だ。基本装備は、陸上自衛隊の一般自衛官と同じ89式小銃だが、火力増強のためにソーコムの装備を許可されている。先日の改造によって、両腕部に速連射銃と、背部に飛行ユニット一式が装備されたが、そのどちらもまだ訓練や演習で使用したことがないので、その力は未だ未知数である」

北斗は、一本調子で言い切った。私は、その北斗らしい反応にちょっとげんなりした。

「まぁ、うん、そうなんだけどさ。いちいちスペックまで話さなくていいじゃん」

「何を言うか。これでもかなり省いたスペック説明なのだぞ、礼子君。バッテリー式エンジンの回転数は一秒間に」

「それはもう解ったから。話が前に進まない」

私は説明を続けようとする北斗を制して、話の方向を戻した。

「だから、あんたらってロボットなわけでしょ? でもって、あんたらはやたらと高性能らしいから、今までの戦闘経験以外の経験もメモリーに入っているんじゃないの?」

「違いない」

頷いた北斗に、私は背を曲げて頬杖を付いた。

「それ以外でもさぁ、射撃とか格闘とか戦略なんて全部覚えてあるわけでしょ?」

「無論だ」

「じゃあ、なんであんた達も訓練してるわけ? 全部覚えているなら、訓練する意味なんてないでしょ?」

「何を言うか、礼子君。自分達は日々訓練をしなければ、途端に性能が落ちてしまうのだぞ」

「え、そうなの?」

「当然だとも。自分達のメモリーには、日々新たな情報が蓄積されて上書きされているのだ。無論、その中に戦闘時のデータも含まれておる。上書きをしなければ、微細なずれがデータとボディに生じて射撃性能が下がってしまうことがあるのだ。格闘戦もそうなのであって、古いデータのままで戦ってばかりいると、コンマ以下の秒数での反応速度が遅れてしまったり応戦のタイミングを逃してしまうことがあるのだ」

「へぇ…」

私は、素直に感心した。こいつらが人間くさいとは思っていたが、ここまで徹底されているといっそ素晴らしい。
でも、考えてみれば、普通のコンピューターもそうだ。パソコンだって、たまに中身を整理しないと動きが悪くなる。
理に適っている。私は疑問が晴れたどころか、高宮重工の技術の高さに、敬意すら抱いてしまいそうだった。

「凄いねー、高宮って」

「自分には感心してくれんのか」

北斗が心外そうにしたが、私は扉を指した。

「それはそれ、これはこれ。私の用事はこれで終わったんだから、これ以上用がないなら出てくれない?」

「礼子君…。君という女性は、どうしてこう、相変わらず冷淡なのだ…」

北斗は物凄く残念そうにしていたが、渋々腰を上げた。扉に手を掛けたところで、振り返った。

「しかし、礼子君。先程はなぜ泣いておったのだね?」

「なんでもない」

私は北斗が出ていくまで、北斗から顔を逸らした。扉が閉まり、階段を下りる重たい足音が遠のいていった。
その足音が聞こえなくなってから、私はベッドに倒れ込んだ。あまり柔らかくない、スプリングが軋んだ。

「何やってんだろう…」

自分でも、自分の行動が解らなかった。なんで、北斗をこの部屋に引っ張り込んじゃったりしたのだろうか。
ホームシックに掛かって寂しくなっていたのは確かだけど、その相手が何も北斗である必要はないはずだ。
ただ、近くにいたから引っ張り込んだだけだ。寄り掛かっちゃったのも、泣いていたのを誤魔化すためだ。
明日も早いんだ、さっさと眠らないと疲れが残ってしまう。私は一度ベッドから下りて、蛍光灯を消した。
部屋の中は、途端に真っ暗になった。ベッドに入って薄手の毛布だけを掛けて、目を閉じ、寝入ろうとした。
ずしりと重たい疲労感と一日中張り詰めていた緊張感が緩み、眠気は訪れたのだが、すぐには眠れなかった。
理由は、解らなかった。





 


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