手の中の戦争




第九話 リターン・マッチ



翌日、日曜日。昨日とは打って変わって、小雨が降っていた。
ぱらぱらと弱い雨が戦闘服の肩を叩き、視界が白っぽく煙っている。富士山も、今日ばかりは姿が薄らいでいる。
両腕に持ったサブマシンガン、MP5Kがひやりと冷たかった。手袋をしていても、鉄の感触は伝わってくる。
私の両隣では、北斗と南斗が突っ立っている。89式小銃を担ぎ、いつになく引き締まった表情をしている。
向かい側には、ダークレッドのボディーカラーのグラント・Gと、ミリタリーグリーンのグラント量産型がいる。
チーム・グラントの背後には、整備班であろう米兵達が規律正しく並んでいて、威圧的にこちらを見ている。
私は、グラント・Gではなく米兵にちょっと気圧されていた。だって、あっちの人はやたらとでかいじゃないか。
グラント・Gは意気込んでいるのか、先程からエンジンを吹かしており、背部の排気筒から排気ガスを出している。
その左腕には、改造が施されていた。二の腕の長さを悠に越える、巨大な銀色のドリルが据え付けられていた。
ぎゅいぃ、とドリルが唸り、弱く回転する。グラント・Gは真新しい武器を見せ付けるように、高く振り上げた。

「Hey! 久シ振リダナ、North star,South star,SAMURAI girl!」

「して。ボディの不具合は直ったのかね、グラント・G」

北斗が尋ねるとグラント・Gは、Hahahahahahahaha、と快活に高笑いした。

「敵ノ心配トハ余裕ダナ、工芸品共メ! ソノ余裕ガ敗因ニナラナキャイイナ、North star!」

「そっちこそ。最初からぶっ飛ばしてエンストしたって、マジ知らねーからな」

南斗はにやりとして、グラント・Gを見下ろした。グラント・Gは、キャタピラを軋ませながら南斗に詰め寄る。

「オ前ラコソナ! 今度コソ Scrap ニシテヤルゼ!」

グラント・Gとの険悪なやり取りも、グラント・Gの抱えている複雑な背景を知ってしまうと、物悲しくなってくる。
私は戦意を高ぶらせようとしたが、すぐには出来なかった。すばる隊員の話が、心に引っ掛かっているせいだ。
すばる隊員が技術スパイだったという事実も充分衝撃的なのだが、グラント・Gの行く末が哀れで仕方なかった。
私の中の天秤は、昨日の夜からぐらんぐらん動いていて、そのうち壊れるんじゃないかと思うほど揺れている。
だけど、壊れることも止まることもなく延々と揺れ続けていて、当然ながら結論も出ていないという始末だった。
いっそのこと壊れてしまえ、とも思うのだが、そう簡単には行かない。ああ、私って、まだまだ甘い人間だ。
沢口君と李太陽を切り離せていないこともそうなのだが、戦いの直前にもなって、何をそこまで迷うのだ。
やっぱり、一ヶ月と少しの訓練程度では、軍人にはなれない。根っこの部分には、普通の感覚が残っている。
それをどうにかしなければ、今後の戦いでは生き残れない。そう思い、私はグラント・Gへの感情を押し殺した。
もう、敵になど同情してはならない。




戦いが、始まった。
前回とは違い、私は北斗の運転するバイク、黒王号に乗っていた。今度は、南斗が前面に出て戦う作戦なのだ。
だが、装備は少し違っている。背嚢の中には、特殊機動部隊が高宮重工に頼んで造らせたモノが入っている。
それは、発信器である。北斗と南斗が稼働する際に生じている、電磁波の類を発生させるというものだった。
要は、囮作戦というわけだ。だが、そのハッタリがどこまでグラント・Gに通用するかどうかは、解らない。
なので、私達は後方から南斗の作戦を支援する位置にいた。あまり離れずに、かといって近すぎない位置にいる。
演習場の景色も、前回と似通っている。コンクリートの壁だけで造られた建物が並ぶ、仮想の市街地だった。
道路の幅も狭く、建物もせせこましく密集していて、普通の戦闘車両であったら通り抜けられないだろう。
北斗の運転する黒王号は、街の中心部に近い場所で止まった。排気音も止まったが、車体には熱が残っている。
私は北斗の前に、つまり胸の中に納まるところに座っているので、体を傾けると北斗の硬い胸が背に当たった。
一瞬、ぎくりとした。私は、北斗に甘えてしまった上に縋り付いてしまったことを思い出し、多少動揺した。
ええい、なんでこんな時に思い出すんだ。戦いの最中なのに何を考えているんだ、しかもこんな奴のことを。
私は、特殊演習開始前よりも大きくなった雨粒が貼り付いたゴーグルを拭い、乱れてしまった心中を整えた。
深く息を吸ってから、ゆっくりと吐き出す。体の前に提げているMP5Kを握り締めて、戦意を漲らせた。

「礼子君」

不意に、北斗の声がした。私は、それに少し驚いてしまった。

「え、あ、何?」

すぐ上にいる北斗は周囲の様子を窺っていたが、私を見下ろした。ダークブルーのゴーグルも、濡れている。

「今回は、前回のような失態は冒さんと約束しよう。恐怖心に苛まれようとも、乗り切ってみせる」

「ああ、うん。そうだね」

北斗の強い決意を、私は曖昧な言葉で流した。北斗に二度も抱き締められてしまったことを、思い出したからだ。
一回目は不意打ちに近かったが、二回目は私の方から縋った。状況に付いていけなくて、混乱していたからだ。
だから、あんなことをしてしまったんだ。普通の思考状態であれば、何があっても北斗にはしがみ付かない。
そうするぐらいだったら、一人でいた方がマシだ。だからきっと、あの時の私はおかしくなっていたんだ。
私は、そう結論付けていた。だって、それ以外の理由なんてないじゃないか。北斗は、あくまでも友達で仲間だ。
それ以上でも、それ以下でもない。だから、あの時も今もこんなに動揺してしまうのは、戦闘状況下だからだ。
生死を賭けた攻防を行っている最中は、気が立っている。故に、神経も通常時よりは大分高ぶっているはずだ。
だから、私は、驚いてしまったんだ。背中越しに触れた北斗の胸が大きかったこととか、ちょっと熱かったことに。
すると、北斗は背を曲げた。私を腕の中にすっぽり収めるような恰好になると、右手に自動小銃を持ち、構えた。

「何、敵でも来たの?」

私が身を乗り出そうとすると、北斗は私を押さえ込んだ。

「敵機の駆動音はまだ遠い。こちらとの距離を狭めつつあるが、こちらに向かっている機体数は少数だ」

「じゃあ、南斗が?」

私は北斗に抱えられたまま、目線を左右に動かした。どちらも背の高いコンクリートの壁があり、見通しが悪い。
不意に、銃声が何発か聞こえた。それは紛れもなく89式小銃のもので、南斗がグラント量産型に撃ったのだろう。
だが、爆発音はしない。攻撃した、というよりも、惹き付けるために撃ってみた、という感じがしないでもない。
攻撃するつもりであれば、確実に当てるはずだ。だが当てないということは、南斗は作戦を決行するのだろうか。
しかし、そうであれば無線で連絡が入るはずだ。私がそれを訝っていると、北斗は私を戒める腕に力を込めた。

「南斗の奴め、勝手なことをしおって」

「だから、何がどうしたの」

訳が解らなくなり、私はすぐ上にある北斗の顔を見上げた。雨に濡れた銀色の頬が、薄く光っている。

「大方、グラント・Gを煽っておるのだろう」

「え、そんなの作戦には…」

私達の作戦は、二手に分かれてチーム・グラントを惹き付けて市街地の中に発信器をばらまく、というものだった。
そうすれば、一体だけでも充分に強力なグラント量産型を分散させることが出来、グラント・Gを孤立させられる。
発信器の一つ一つを探るには、グラント量産型を単独行動させなければならなくなるだろう、と踏んだのだ。
そして、一体一体を確実に撃破していく。そうすれば、こちらにも勝ち目がある、と事前の作戦会議で決まった。
確かにその会議中に、多少は敵を煽った方が食い付きがいいだろう、と朱鷺田隊長が言っていた覚えがある。
だけど、単独でするものなのだろうか。そんなことでは、南斗が囮ではなく標的になる可能性が俄然高くなる。
無謀というか、なんというか。私は南斗の思考を考えてみたが、さっぱり解らなかったので、すぐに中断した。

「南斗は何がしたいのよ」

「弾切れでも狙っておるのか、或いはキャタピラの破損、もしくは燃料切れか…。いや、何か別の…」

北斗は唸りながら、思考を巡らせた。挑発する目的があるとしたら、大抵の場合は敵を消耗させることだろう。
だが、下手に煽りすぎると敵の方が調子に乗ってしまい、結果としてやられてしまうことだって有り得るのだ。
南斗は、一人で本当に大丈夫なのだろうか。私が不安を覚えていると、北斗は私のヘルメットに手を載せた。

「案ずるな、礼子君。南斗も馬鹿ではない、と思う。何の考えもなしに、突っ込むことはしないはずだ」

「ていうか、さぁ」

私は頭に載せられた北斗の手の重みを感じながら、上目に北斗を睨んだ。

「なんで、さっきからべったべた触ってくるわけ?」

「いかんのか?」

北斗は意外だと言わんばかりに、きょとんとした。私は、北斗の手を押し退ける。

「そりゃ、夏休みの時とこの間の任務の時は、不可抗力って言うか、まぁ、うん、私がどうにかしちゃってたんだよ。そうでもなきゃ、あんなことはしないし、出来ればしたくないんだけど」

「そうなのか?」

「そうなの」

北斗の悪気の欠片もない態度に、私は素っ気なく返した。北斗は、私を抱えていた腕を緩める。

「自分の経験上、礼子君は自分が触れておると精神面が安定する傾向にあると判断したのだ。故に、現在のような戦闘状況下では、それを行っていた方が良いと思ったのだが」

「そんなもの、別に」

役に立たない、と言おうとして、私は言葉に詰まった。北斗が背中にいることを感じて、多少なりとも安心している。
その証拠に、神経は張り詰めているが緊張はあまり強くない。考えてみれば、私って、そうだったかもしれない。
だけど、だけど、それがなんだって言うんだ。動揺にも似た、けれどそれよりも強い戸惑いが、私の内を乱した。
北斗は私の戸惑いを知ってか知らずか、抱きかかえたままにしていた。いい加減に、離してほしいような気がする。
でも。と、思った時、ざっ、と耳に差し込んだイヤホンに無線が入る雑音がした。これは、南斗からの連絡だ。

「こちら北斗。どうした、南斗」

素早く、北斗が無線に応答した。雑音混じりの南斗の声が、イヤホンの向こう側から聞こえてくる。

『こちら南斗。これからチーム・グラントがそちらに向かう、作戦決行だ。発信器、全部ばらまけ』

「お前、無傷なのか? 先程の銃声から察するに、グラント・Gでも煽っておったようだが」

南斗の平然とした声に、北斗が少し戸惑った。南斗は、すぐに答えた。

『撃った。だが心配無用だ、オレは無傷だ』

「グラント・Gは」

『グラント・Gの相手はオレがする。北斗と礼ちゃんは、グラント量産型の相手をしてくれ』

「しかし」

『いいから、お兄ちゃんに任せとけ! じゃな、交信終了』

その言葉を最後に、南斗からの無線は乱暴に途切れた。南斗の過剰な自信に、却って不安になってしまった。
だが、こちらにグラント量産型が押し寄せて来るというのならば、相手をしないわけにはいかないだろう。
けれど、南斗がグラント・Gの相手をしていると言っても、チーム・グラントの残存機体数は二十五体もいる。
それだけの数を、二人だけで捌けるだろうか。私がまた不安になっていると、北斗は黒王号にエンジンを掛けた。

「仕方あるまい。出るぞ、礼子君。ここにいても狙い撃ちされてしまうだけだ」

「グラント・Gだけを引き離してもなぁ…」

私は黒王号のエンジンの振動を感じながら、北斗に寄り掛かった。MP5Kのセーフティを、連射に切り替える。
グラント量産型には、機関銃と小型の無反動砲が搭載されているのだから、火力の時点で負けてしまっている。
だが、こちらの火力はいつも通りだ。北斗の89式小銃とソーコム二挺、私のMP5KとSIG・P220だけだ。
ある程度の手榴弾も持っているけど、手榴弾は足止め程度にしか使えないので、決定打とは成り得ないだろう。
北斗は背嚢を下ろすと、その中からジュラルミンケースを出して蓋を開き、球状の発信器を私に五つ渡してきた。

「礼子君も手伝ってくれたまえ。何せ、数が多いのだ」

「これが全部手榴弾だったらねぇ」

私は、テニスボール程度の大きさの発信器を戦闘服のポケットに押し込めた。北斗も、同じように入れる。
全部で十五個の発信器が入っていたジュラルミンケースを、背嚢の中に戻してから、北斗はハンドルを握った。

「そう言うでない。こんなものに火薬を仕込んでも、大した量は仕込めないのだから威力も望めんのだ」

「言ってみただけだよ」

私は、軽く絶望しながら呟いた。南斗は無茶をするし、こちらには敵が大挙して訪れるし、勝ち目なんて皆無だ。
今回も負けてしまうのか。また北斗と南斗が撃たれるのは嫌だなぁ、死にたくないなぁ、と私は思ってしまった。
行くぞ、と声がして、北斗は黒王号のエンジンを噴かした。激しい排気音が轟き、大型のバイクが発進した。
街の中を走り抜けながら、道の先を窺った。ぎちぎちぎちぎち、というキャタピラの軋みと震動が伝わってきた。
コンクリートの壁だけの街並みの向こうに、アーミーグリーンの塗装を施された、下半身戦車のロボットがいる。
それも、一台や二台ではない。本当に、南斗は残機全てを寄越してくれたらしく、通りを塞ぐほどの数だった。
だが、そのシルエットに、私は違和感を覚えた。けれど、その違和感が何であるか解る前に別の路地に入った。
街の中心を貫く幅の広い道のすぐ脇に、黒王号は滑り込んだ。太いタイヤに泥を噛ませながら、ストップする。
北斗は黒王号のブレーキを握る手を緩めずに、今し方通ってきたばかりの道に目線をやり、そうか、と呟いた。

「緊急避難回路の作動を狙ったのか」

「だから、何?」

聞き慣れない言葉に、私は北斗に聞き返した。北斗は私を持ち上げ、黒王号から地面に下ろした。

「礼子君。ここから先は、別れて行動した方が効率が良さそうであるぞ」

「だから、何がどうなってそういう結論に至るわけ? 教えて欲しいんだけど」

私がむくれると、北斗も黒王号から下りた。抜いたイグニッションキーを、ポケットに押し込める。

「礼子君は、グラントシリーズの弱点は知っておるか?」

「頭部のセンサー部分でしょ。そこの装甲が一番薄いし、センサーが破壊されれば非常停止するみたいだし」

私は、北斗を見上げた。だがそれは、敵から撃たれなければ、の話だ。先に撃たれれば、それどころではない。
機関銃で狙われでもしたら、私なんか一発で砕けてしまう。それに、私から離れて行動なんて北斗らしくない。
普通だったら、何がなんでもくっついているはずなのに。南斗といい北斗といい、なんだかおかしくないか。

「後は、通常の戦車と同じく、キャタピラさえ破損してしまえば前進は不可能となるのだ」

北斗が歩き出そうとしたので、私は慌てて北斗の袖を掴んだ。おいおい、それはないだろう。

「ちょっ、ちょっと待ってよ、私だけで戦えっていうの?」

「あの状態のグラント量産型となら、礼子君だけでも十二分に戦えるではないか。それともなんだね」

北斗は、妙に嬉しそうな顔でにやけた。

「自分がおらんと寂しいとでも申してくれるのかね?」

「違う」

私は間髪入れずに否定してから、言い直した。

「だから、なんで私一人でも戦えるって思うの? その根拠は何? ていうか、あんたらしくないんだけど」

「ああ、そうか。礼子君は、グラントシリーズのスペックを全て把握していなかったのだな」

北斗は、仕方ない、とでも言いたげな態度で説明した。悪かったな、敵のスペックを覚えていなくて。

「グラント・Gとグラント量産型には、人工知能の有無という大きな違いの他にも、細かな違いがあるのだ。グラント・Gは自己判断で武器の使用が可能だが、グラント量産型は人工無能ロボットであるからして、射撃する相手は敵だと認識した相手だけとなる。だが、その認識を行うためには、リーダー機であるグラント・Gにデータを送信して敵だという確証を得なければならないのだ。それは、グラント量産型が味方を敵だと誤認してしまわないための安全対策なのだが、その一方で多大なる弱点があるのだ」

「データを受信する側のグラント・Gが故障すれば、グラント量産型が送信したデータの照会が出来なくなって、敵と味方を誤認して乱射する危険性がある。それを回避するためのものが、さっき言ってた緊急避難回路ってやつ?」

私が北斗の言葉の続きを言うと、北斗は満足げにした。

「うむ、そうなのだ。さすがは礼子君だ、話が早い。その緊急避難回路は、グラント量産型に武装解除を行うための回路なのだ。緊急避難回路は自分達にも装備されておるから、機能は充分に把握している。グラント量産型の場合はエンジン出力の四十パーセント低下と重火器の強制分離なのであるのだが、自分達の場合は両腕の強制分離とコアブロックの強制シャットダウンなのだ」

「…腕、落ちるの?」

嫌だ、そんな光景。私は、北斗と南斗の腕が落ちる様を思い浮かべてしまった。北斗は、こっくりと頷く。

「落ちるのだ。自分達は接近戦用の兵器であるからして、両腕が最大の武器として見なされておるのだ」

私は、頭に浮かんでしまった嫌な光景をなんとか払拭して、思考を戦闘へと戻した。今は、それどころはない。
ようやく、南斗の行った作戦が理解出来た。恐らく南斗は、グラント・Gの無線用アンテナでも破壊したのだ。
チーム・グラントは、リーダー機であるグラント・Gによって全てを統括されている、完全な機械化兵士部隊だ。
グラント・Gがグラント量産型に指示を与えて手足として動かしているのだが、その手段は当然ながら無線だ。
つまり、リーダー機のグラント・Gさえどうにかすれば、部下は役に立たなくなるということでもあったりする。
南斗はそれを狙ったのだ。グラント・Gを撃ったのは、確実に無線用アンテナを破壊するためだったのだろう。
だけど、ちょっと不可解な部分がある。なぜ、グラント量産型は、リーダーのグラント・Gの援護を行わないのだ。

「ねぇ、北斗。どうして、グラント量産型は、部下なのに、グラント・Gを守ろうとしないの?」

私は、疑問を口に出した。北斗は自動小銃を背から下ろし、両手に持つ。

「グラント・Gの指揮用無線電波送受信部分が破壊された時点で、グラント量産型はグラント・Gが大破したものだと認識するのだ。それ以前に敵として認識していた標的がある場合は、そちらに向かう。白兵戦用兵器であるグラント量産型は、一個でも多くの敵を撃破することを目的としているのだ。だからたとえリーダー機であろうとも、傷付いた仲間は見捨てて戦いに赴くのだ」

その様を想像して、私はぞっとしてしまった。信用していた部下達が、自分を見捨てて離れていく、なんて。
それも、つい今し方まで手足となって動いてくれていた者達が自分に背を向け、この場を去っていってしまう。
確かに、それが兵器のあるべき姿だ。一切の躊躇など感じずに、ただ、戦いだけを繰り返して死んでいく。
グラント量産型にとって、その行動は当然のことだ。プログラムされているし、それが必然であると思っている。
だが、グラント・Gはどうだろう。人間と同様の感情の機微を持っている彼には、必然であっても、苦しいはずだ。
気付かないうちに、私は唇を噛んでいた。また、グラント・Gへの同情が湧いてきそうになったので、堪えていた。

「礼子君」

その声に顔を上げると、北斗はいつになく厳しい顔をしていた。

「自分は、グラント・Gが礼子君に言い放った侮辱を忘れない。そして、自分達への蔑みも忘れない。だが、グラント・Gの置かれている境遇は、許し難いものだ」

「北斗、あんたも」

私が呟くと、北斗はうっすらと笑った。情けなさそうでいて、切なげでもあった。

「自分は兵器だ。そして、グラント・Gも兵器だ。おのずと、あちらの心境がトレース出来るのだ。だがそれでも、自分達は戦わねばならない。自分達が兵器であるように、グラント・Gも兵器なのだから」

地面を揺さぶる震動が、足に伝わってくる。統率を失ったグラント量産型が、私達の傍へと近付いてきたようだ。
北斗は自動小銃を持ち直すと、姿勢を低くした。ポケットから発信器を数個出すと、作動させてから放り投げた。
敵は、すぐに気付いたようだった。キャタピラの軋む音が、北斗が発信器を投げた方向へと向かっていく。
北斗は私に振り向き、武運を祈る、と言い残して駆け出していった。私は、北斗の背を見送るしかなかった。
だが、このまま突っ立っていても、どうしようもない。グラント量産型に見つかって、やられてしまうだけだ。
こうなったら、戦うだけ戦ってやる。やられてしまったとしても、精一杯戦った後なら、まだ諦めも付くだろう。
やれるところまで、やってやろうじゃないか。





 


06 7/21