豪烈甲者カンタロス




第十話 狂った均衡



 日が暮れ始めると、気温も下がってきた。
 退屈凌ぎにタバコを吸いながら、ねねは自分専用に割り当てられた一室のベランダに立ち、街を見下ろした。
テレビも飽きた。空腹も満たされた。けれど、眠くもない。だから、やることがないので、仕方なくベランダに出た。
昼間は肌に浮かんだ汗がすぐさま蒸発するほど暑い日差しが注いでいたのに、日が傾くと途端に勢いを失った。
地上に蓄積された熱が風に混じって流れてくるが、涼しいとも暑いとも感じない中途半端で手応えのない温度だ。
議員宿舎を囲んでいる木々から聞こえるセミの声も少し落ち着いてきたが、昼間とは違ったセミが鳴いていた。

「クイーン」

 ねねが振り返ると、開け放した掃き出し窓の前でベスパが深々と頭を下げていた。

「んだよ」

 ねねが乱暴に返すと、ベスパはねねの背後に近付いてきた。

「私は、クイーンこそが真の女王に相応しいと確信しております」

「んなの、お前だけだっつの」

「そうでしょうね。ですが、それはあの連中も同じです」

 ベスパはねねの背を守るように立ち、西日に染まった東京タワーを複眼に映した。

「そして、私も同じです。いくら人間の手で知性を与えられ、本能を抑圧されたとしても、私は所詮虫なのです。人を喰いたいと思いますし、クイーンを犯して孕ませてしまいたいと常日頃思っています。他の虫と違って、少しだけ自分を抑制出来るだけなのです。ですから、私はクイーンを真の女王にしたいのです。そして、私の遺伝子を継ぐ子孫を生み出し、あわよくば人型昆虫という種を支配したいのです」

 ベスパが言葉を終えると、ねねはタバコを口から外し、ベスパを見上げた。

「つか、それ、あたしじゃなきゃダメなん?」

「無論です」

「そっか」

 ねねはタバコの灰をベランダから落とすと、銜え直した。

「あたしじゃなきゃ、ダメなんだ」

 ベスパは、誰でもないねねを求めている。それだけで、今まで感じていた煩わしさや鬱陶しさが薄まっていった。
どこにでもいる、頭の悪い子供。在り来たりな家から弾き出された、在り来たりな不良娘。ただ、それだけだった。
けれど、誰かの特別になりたかったわけではない。特別な存在になれるほど、優れた人間ではないと解っている。
愛されるほど可愛らしくもなければ、褒められるほど賢くもない。出来ることと言えば、騒ぎ回ることぐらいなものだ。
そんな人間を、誰が特別だと思うのだろう。街や電車や学校で騒音だけを生み出す、汚らしい集団の中の一人だ。
だから、家族に愛されないのは自業自得だと思っているし、これからも誰もねねを求めないし、愛さないのだろう。
 ベスパがねねを求めるのは、女王だからだ。他ならない女王の卵を孕んでいるから、ねねに蹂躙されるのだ。
女王の卵が胎内になければ、きっとベスパはねねを求めない。特別だと思わない。興味を持たない。服従しない。
利害が一致するから、ベスパはねねを特別視している。だから、ベスパは、ねね自身を愛しているわけではない。
 そして、ねねもベスパを愛さないし、愛せない。鬱陶しくないと思えたとしても、やはり、虫は虫でしかないのだ。
それに、誰かから愛されたとして、それを受け止められるだろうか。愛された覚えがないから、愛せる自信がない。
だから、これからもずっとこのままでいいのだ。そう思ったねねは、足元にタバコを落とすと踏み躙り、火を消した。

「…なーんかなぁ」

 ねねはベランダの手すりに寄り掛かり、目線を遠くに投げた。

「マジかったるい」

「確実な勝利を手にするためには、休息も必要です」

「解ってるっつの。マジウザいし」

「他の虫が活動を始めたら、私達は問答無用で前線に投入されることでしょう。それは以前となんら変わりませんが、黒田二佐が指揮を執る以上、戦い方が変わることは否めません。増して、その連れ合いがカンタロスとセールヴォランなのですから、チームワークもへったくれもありません。戦いの中で連中を出し抜き、真の女王の座を手に入れるためにも、クイーンも私も体力を温存しておかなければなりません」

「つか、話長すぎだし」

「申し訳ありません」

 丁寧に頭を下げたベスパに、ねねは顔を背けた。

「…ふん」

「お気に障ることがありましたら、どうぞ存分にお踏み下さい」

「つか、それしかねーの? マジつまんねーし」

「でしたら、殴って下さい、蹴って下さい、詰って下さい、蔑んで下さい、虐げて下さい!」

 自分で言いながら気分が高揚してきたのか、ベスパは触角を立ててねねとの距離を狭めてきた。

「あーもうっ!」

 物凄く鬱陶しくなったので、ねねは足を上げてベスパの胸を思い切り蹴った。

「ああああっ!」

 ベスパはよろけながら崩れ落ち、ねねの足元で這い蹲った。

「どうぞ、どうぞ続きを!」

「つか、変態すぎだし」

 ねねは硬い靴底でベスパの頭部をぐりぐりと踏み付けたが、足の力を増すたびにベスパの声色は上擦った。
それがなんとなく可笑しくて、ねねは思い切り体重を掛けると、ベスパの顔はコンクリートの床に擦り付けられた。
ベランダに寄り掛かって両足を浮かせて、頭だけでなく胸も踏み躙ってやると、ベスパが放つ嬌声も高くなった。

「おおおぅっ!」

「んだよ」

 いつもと違うリアクションにねねが片方の眉を上げると、ベスパはねねの股間を真下から仰ぎ見た。

「本日のお召し物はオレンジのストライプですか、クイーン! なかなか良いご趣味をしておられます!」

「ちょっ、てか、何見てんだこの変態! 死ね、死ね、本気で死ねぇー!」

 ねねは慌ててスカートを押さえ、靴跡を付けるほどの勢いでベスパの頭部を蹴り付け、羞恥心を紛らわした。 
普通なら、スカートなんて好んで着たりはしない。支給された着替えがこれしかなかったから、着ていただけだ。
下着だって、置いてあったものを適当に着ただけだ。それだけのはずなのに、無性に恥ずかしくてたまらない。
 下着を見られることぐらい、今更どうってことないはずなのに。そうは思うものの、なかなか振り払えなかった。
ねねは赤く染まっているであろう頬を彼に見られたくなくて、ベスパの頭部を砕きかねないほど強く蹴り続けた。
見られたら、下着を見られるよりも恥ずかしいからだ。なぜそんなに恥ずかしいのか、理由はよく解らなかった。
 ひとしきり、鈍い打撃音が続いた。




 二人は一つ。一つは二人。世界は、二人だけのもの。
 カーテンを閉ざした薄暗いリビングで、セールヴォランは身を丸めて上中両足で腹部を守り、彼女を感じていた。
腹の中には桐子がいる。桐子の脳を内包した頭部が、桐子が女王であるために不可欠な卵の入った箱がある。
桐子の頭部だけでも、充分素晴らしいものだった。だが、卵を取り戻してからは、桐子はますます桐子になった。
 セールヴォランの脳には、いつも桐子がいる。桐子の脳には、いつもセールヴォランがいる。意識は、一つだ。
体を一つにしただけでは感じられない快感が、一体感があった。愛すれば愛され、愛されれば愛し、愛を重ねる。
それは、何よりも幸せなことだった。セールヴォランは桐子を撫でるように腹部を撫でて、彼女と意識を重ねた。

「桐子」

「セールヴォラン」

 同じ発声装置を通じて、二人は違った声を出した。

「僕は王になる。桐子のために」

「私は女王になる。セールヴォランのために」

 桐子の奏でる声と言葉の甘さに、セールヴォランは酔いしれた。

「ああ、桐子、桐子」

 セールヴォランは愛おしさのあまりに胸部の外骨格を開きかけたが、閉ざし、己を抱き締めた。

「僕は桐子がいればそれでいい。桐子さえいれば幸せだ」

「私もよ、セールヴォラン。私は、あなたさえいてくれれば、それでいいの」

「だから、僕は王になる」

「大丈夫よ、セールヴォラン。私が付いているわ」

「うん。桐子がいれば、僕は誰よりも強い。僕は桐子の道具だ。僕は桐子の兵器だ。僕は桐子の恋人だ」

「ええ、そうね。あなたは私の恋人、私はあなたの恋人よ」

「桐子…」

 セールヴォランは上右足の爪を胸部に引っかけ、僅かに削った。

「カンタロスも、繭も、ベスパも、ねねも殺して、僕が王になったら、桐子は僕を褒めてくれる?」

「もちろんよ。思い切り、可愛がってあげるわ」

「桐子」

 セールヴォランは桐子の意識に重ねた意識から流れ込む柔らかく温かな愛情を感じ、かちかちと顎を鳴らした。
求めなくても、桐子はセールヴォランを褒めてくれる。愛してくれる。思いやってくれる。だが、時折確かめたくなる。
体内にいるのは、本当に桐子なのだろうか。桐子の自我と意識は、セールヴォランの妄想の産物なのでは、と。
声を掛け、思いを注ぎ、確かめるたびに安堵する。ちゃんと桐子は生きている、桐子の意識は存在している、と。
 カンタロスに首と胴体を切り離された時も、桐子は美しかった。長い髪が千切れ、血の海に舞い降りた様すらも。
あの瞬間、セールヴォランの内で一つの世界が終わり、新たな世界が始まった。桐子と二人きりの、狭い世界だ。
だが、ヘラクレスの体内に収められていた桐子の女王の卵を取り戻すと、また新たな世界が二人の中に始まった。
 セールヴォランの遺伝子を継ぎ、桐子の遺伝子も継いだ者達が生まれれば、二人の世界は無限に広がるのだ。
次なる女王が産み落とされ、その女王から更に女王が産み落とされ、その度に生まれ出る二人の子、子、子、子。
選ばれた王と選ばれた女王の遺伝子を継ぐ彼らが栄え、殖えていく様を思い描くだけで幸福はどこまでも深まる。
 だから、それを現実にしなければならない。そのためにはまず、真の女王とその子である女王を皆殺しにする。
そして、真の女王になる権利を有する娘達を殺し、王たる力を持つ虫達を殺し、その死体の上で勝利を誇るのだ。
それ以外に道はなく、それ以外の未来はないが、それ以外の世界は欠片も望まない。望む価値すらないからだ。
 至るべき結末は、一つだけでいい。




 狂おしい夜だった。
 体に淀む衝動が鈍り、頭に淀む感情は増す一方だ。だが、暴れて吐き出そうにも力が入らず、ますます淀む。
暴れないものだから喰おうにも腹が減らず、戦おうにもやる気が出ず、かといって繭を虐げようにも気が咎める。
ついこの前までは躊躇なく肌を切れていたのに、今ではそうは思えない。あの肌から血が出るだけで魂が竦む。
訳の解らないものばかりが鬱屈し、体が内側から破裂してしまいそうだ。そうなってくれた方が、いっそ楽だろう。
 カンタロスはやたらと広いが家具が全くないリビングの片隅で胡座を掻きながら、顎をひたすら鳴らしていた。
やりすぎては顎が欠けてしまう、と思ったが、他に溜まるものを出す術がない。だから、ぎちぎちと鳴らしていた。
 繭はリビングに対面するキッチンに入り、夕食を作っていた。下層階には食堂もあるが、食べに行かなかった。
代わりに材料をもらってきて、いつも通りに大量に作っている。何かしていないと落ち着かないから、なのだそうだ。
 鍋一杯のビシソワーズ、それに合わせたトマトとチーズの冷製パスタ、豆サラダ、と、今回は洋食で固めている。
デザートにはやはり食堂からもらってきたホールのレアチーズケーキで、これを食べるのが楽しみだと言っていた。
 テーブルには、出来上がった順番に料理が並んだ。冷たい料理が終わると、今度は温かい料理を作り出した。
パスタに使い切れなかったトマトとチーズを入れたオムレツを作り、バターを塗ったフランスパンを軽く焼いている。
繭は湯気の昇るオムレツの皿をテーブルに置いたが、カンタロスに気付くと、あ、と気まずげに口元を押さえた。

「カンタロスの分、忘れちゃった」

「ん」

 カンタロスが顔を上げると、繭は顔の前で両手を合わせた。

「ごめん、カンタロス。部屋に来るまでに思い出せば良かったんだけど、何を作って食べようかって考えてたら夢中になっちゃって、ついハンバーグのことを忘れちゃったの」

 繭は合わせた手の後ろから、恐る恐る目線を向けたが、カンタロスは座ったままで動こうともしなかった。

「えっと、今日は、いらなかった?」

「暴れてねぇから、そんなに腹も減ってねぇしな。つうか、あれはお前が寄越してくるから喰ってただけだ」

「あ、うん、そうだよね」

 繭は少し残念がりつつ、借り物のエプロンを外して空いている椅子に引っ掛けてから、テーブルに着いた。

「じゃ、頂きます」

 繭は両手を合わせてから、ビシソワーズから食べ、その出来映えに満足げに頷いてからパスタも食べ始めた。
いつものように、大量の料理はすぐに消えていった。食べることだけでなく、作ることも繭の楽しみの一環なのだ。
カンタロスには作ることがどういうふうに楽しいのかは解らないが、キッチンに立つ繭はやたらと楽しそうだった。
カンタロスには決して向けない弛緩した表情を浮かべ、言葉を放ち、自分の世界に没頭して料理を作っている。
それが微笑ましいとも思ったが、またどうしようもなく不愉快だった。手応えのない感情が楔となり、心に刺さる。

「なあ」

 やりきれなくなったカンタロスが小さく呟くと、一通り食べ終えてデザートに取り掛かった繭が振り向いた。

「なあに?」

「いや…その、な」

 声を掛けてみたはいいが話すことなどなかったので、カンタロスは口籠もったが、話題を引き摺り出した。

「さっき、お前は何を言おうとしたんだ?」

 カンタロスにとってはどうでもいいその場凌ぎの言葉だったが、繭はがしゃんとフォークを落とした。

「ふえ」

 途端に耳まで赤くなった繭は、テーブルに突っ伏した。

「聞かないでー! 思い出したくないからー!」

「お、おお?」

 予想外に大きな反応にカンタロスが戸惑うと、繭は泣きそうな声を出した。

「ていうか、なんであんなこと考えたのか、自分でもよく解らないんだもん…」

「いや、そもそも何を考えたのかすら知らねぇんだが」

「だ、だって、いきなりあんなことしてくるから、そうじゃなかったら、あんな変なこと考えないよ…」

「あんなことって、ああ、あれか」

 体液摂取、とカンタロスがにゅるりと舌を出すと、繭はがたっと椅子を揺らして飛び退いた。

「ふあああっ!」

「だから、なんなんだよ!」

 繭の反応のおかしさに苛立ったカンタロスが声を荒げると、繭は両手で頬を押さえて俯いた。

「言えないよ、そんなこと。言ったら、たぶん、恥ずかしすぎて死んじゃう…」

「は?」

「で、でも、カンタロスが悪いんだから!」

 恥ずかしさのあまりに思考回路が煮えてしまい、繭は怒り出した。紛うことなき逆ギレである。

「カンタロスが私に色々してくるから、私があんなこと考えるようになっちゃったんだから! 変態なのはカンタロスの方だもん、私はなんにも悪くないしエッチじゃないし、ていうか何言ってんのー!」

「一人で何騒いでんだよ、お前は」

 繭の迷走ぶりにカンタロスが呆れると、繭はフローリングにぺたんと座り込み、倒れた。

「よく、解らない…」

 ううぅ、と低く唸りながら冷たい床板で火照った頬を冷やしている繭は、今までに見たことのない顔をしていた。
照れていて、困っているのに、時折カンタロスを窺ってくる。何に照れているのか、カンタロスには解らなかった。
自分の発言一つでここまで乱れた様を見るのは、初めてだった。原因を調べるべく、二つの脳の記憶を探った。
 カンタロスが尋ねたのは、階段の踊り場で繭の唾液を摂取した後のことであり、繭はスカートの裾を握っていた。
その仕草にどんな意味があるのか考えたことはなかったし、繭から説明されたこともなかったが少し考えてみた。
唾液を摂取した前後の繭は口元を押さえるが、陰部から強引に体液を摂取した後はスカートの裾を押さえている。
だが、カンタロスが摂取したのは唾液だけだった。スカートは捲っていないし、陰部に舌も神経糸も入れていない。
となれば、考えられることは一つだろう。カンタロスは立ち上がると、冷たい床で潰れている繭の傍に近付いた。

「おい」

「ん…」

 少しだけ平静を取り戻した繭は、カンタロスを見上げた。

「突っ込まれたいのなら素直に言え。但し、今度こそ三本だ」

「ち、違う、違うってばぁ」

 繭は慌てて起き上がり、後退ったが、壁に阻まれた。

「じゃあ、なんだってんだよ」

 カンタロスは上左足を壁に付けて繭の退路を遮ると、ツノを下げて複眼を近寄せた。

「んぁ…」

 繭はスカートの裾を握り締めていたが、緊張で汗ばんだ手で裾を持ち上げ、太股を露わにした。

「かっ、カンタロス、調子悪いから、だから、その、えっと、卵に近い方の体液だと、ちょっとは良くなる、かなって」

「まあな。唾液よりは効く」

 カンタロスは上右足の爪を横たえ、控えめに脂肪が付いた太股をなぞった。

「女王にしちゃ、まともな思い付きだ」

「あ、あのね」

「なんだ、まだなんかあるのかよ」

 繭の足を開かせようとしたカンタロスがむっとすると、繭は視線を彷徨わせていたが、上目に見てきた。

「もう、名前で呼んでくれないの?」

「気が向いたらな」

 カンタロスはぞんざいに答え、繭の足を開かせて床に腹這いになると、薄い布に包まれた陰部に顔を寄せた。
カンタロスは顎を使って股に当たる部分の布を引き裂くと、繭は抗議の声を上げたが、抵抗する様子はなかった。
先程悶え苦しんだせいで、気力が尽きたのだろう。茂みと言うには薄すぎる体毛の下で、陰部は閉ざされていた。
 顎を開いて出した細長い舌先を即座に胎内に押し込むと、繭の小さな体は跳ね、カンタロスのツノを掴んできた。
痛みによる反応だろう、と察したカンタロスは舌を少し引き抜いて、浅い部分に滲む甘ったるい体液を舐め取った。
すると、繭はまた反応した。痛みを耐えるかのように声を殺しているが、それとは少しだけ違い、呼吸も荒かった。
 それが何を意味するのか解らないまま、繭は体液を味わい尽くしたカンタロスは舌を引き抜き、口中に収めた。
繭はすぐに起き上がらず、乱れた裾を直したが座り込んだままで、耳まで真っ赤になってしばらく呆然としていた。
カンタロスは彼女に声を掛けようかと思ったが、何を言うべきか解らなかったので、繭に背を向けて壁際へ戻った。
 淀んだ感情は晴れたが、何かが狂った気がした。





 


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