南海インベーダーズ




寄生虫女的殲滅譚



 それから、ミーコは宮本都子として生きると決めた。
 高校に進学してからは、極力小松と関わらないようにした。近付かれないように、好かれないように、秘めた思いを 悟られないように、気のない素振りをした。けれど、そんな態度が逆に小松を刺激してしまったらしく、小松は以前 にも増してミーコに執着してくるようになっていた。そこまでして献身的に好かれると嬉しくて嬉しくてたまらなかったが、 ミーコの内側では寄生虫が増殖し続けていた。都子が主人格のふりをしていた頃は、無意識に寄生虫の増殖 速度を押さえていたらしく、同じ遺伝子を持つ者を殺したいという衝動に駆られる瞬間は少なかった。しかし、ゾゾと 出会った夜を境にミーコが主人格としての立場を取り戻すようになると、ミーコの支配下にある無数の寄生虫は 一瞬で増大した。夜、寝ている間に、皮膚の下で、内臓の内側で、骨の中で、みちみちぶちぶちねちねちびちびちと、 無数の自分が蠢き回っていた。そして、家族も小松も殺したいとばかり思うようになり、少しでも気を紛らわせればと 好きでもないクラスメイトに交際を持ち掛けた。それが、山吹丈二だった。
 山吹丈二と形だけの交際を始めてから、三ヶ月近くが過ぎた。下校しようといつもの電車に乗ったミーコは、視界の 隅に見慣れぬ制服を着ている少女を捉えた。一際目を惹く赤茶色のロングヘアに、近隣の中学校ではない校章を 付けたセーラー服の女子中学生だった。通学カバンの取っ手を握り締めて俯きがちだったが、前髪の隙間からミーコを 注視していた。その視線は射るようで、敵意と嫉妬が充ち満ちていた。山吹丈二に見せてもらった携帯電話の 写真に写っていた、田村秋葉に違いないだろう。山吹は秋葉にはちゃんと説明してある、と言っていたが、それが 信用出来ないことぐらい、ミーコでも解る。男からどれだけ懇切丁寧に説明されたとしても、女は男を愛するが故に 信用しないからだ。だから、こうなることは予想出来ていた。幸い、秋葉からは同じ血族から感じる気配のようなもの は感じない。こちらから危害を加えることもないだろうから、殺さずに帰せるだろう。
 ミーコは自宅の最寄り駅ではなく、終点まで乗り過ごした。途中、乗客が何人も乗降していったが、秋葉はずっと 同じ席に座って微動だにしなかった。終着駅に着いたのでミーコが下りると、秋葉も少し遅れて下りてきた。改札を 抜けて駅前に出ても、見慣れない街並みを当てもなく歩いても、秋葉は一定の距離を保ってミーコを尾行していた。 ミーコの歩調に合わせて足音が重なり、ミーコが立ち止まると秋葉も立ち止まり、足を早めるとほとんど同じ速度で 早めて追ってきた。次第にミーコは街中を離れ、峠道に繋がる道路を歩いた。きついカーブの付いた山道を上って いっても、秋葉はぴったりと付いてきた。十数メートルの距離を縮めもしなければ広げもせずに、声も掛けず、じっと 押し黙っていた。端から見れば、秋葉はミーコの背後霊のように見えていたかもしれない。それほどまでに秋葉の 表情は暗かった。通学カバンの中には、刃物の一本や二本が隠されていてもおかしくはない。それに、ミーコは秋葉に 刺し殺されても文句が言えないことをしているのだから、至極当然の展開だ。
 切り立った崖沿いのカーブで足を止め、ミーコが振り返ると、秋葉もまた立ち止まった。梅雨が明け切っていない、 重たく湿った風が足元を緩く通り抜け、二人の間に木の葉を数枚散らしていった。西日の切れ端が秋葉の影を濃く 作り出し、ミーコは逆光の中に立っていた。秋葉は下げていた目線を上げ、ミーコに据えた。

「宮本都子さんですね」

「うん、そうだよ。あなた、田村秋葉さんだね?」

 ミーコは秋葉の声色に滲む殺意と敵意を感じ、笑った。こんなに強く思われたら、綺麗に殺されてやりたくなる。

「丈二君と、お付き合いしているんですよね?」

 秋葉の両手が通学カバンの取っ手を握り締め、セーラーの下で華奢な肩が震えた。

「うん」

 ミーコが頷くと、秋葉は苦しげに唇を曲げた。

「丈二君のこと、好きなんですか?」

「まあ、うん」

 血族じゃないから、嫌いではない。そういう意味でミーコが答えると、秋葉はぐっと唇を噛んだ。

「丈二君は、宮本さんのことが好きなんですか?」

「それはどうかなぁ」

「……え?」

「山吹君はね、凄くいい人なんだ。だから、私の我が侭に付き合ってくれているだけなんだ」

 なんて幸せな二人なんだろう、とミーコは羨ましく思いながら、泣き出しそうな顔の秋葉を見つめた。

「私はね、凄く凄く好きな人がいるの。でもね、色々と事情があってその人とは一緒になれないんだ。だから、その人に 私のことを諦めてもらうために、山吹君に付き合うふりをしてもらっているだけなんだ。だから、私と山吹君の間には 何もないんだ。キスどころか、手も繋いだこともないし」

「そう、なんですか?」

「うん、そう。だからね、そんなに心配しないでいいよ。山吹君はね、全部全部あなたのものなんだ」

「丈二君は……私のことが嫌いになったわけじゃないんだ」

「うん。そうだよ。山吹君には悪いことしちゃったなぁ」

 ミーコは通学カバンを振り振り、ガードレールに寄り掛かった。

「だから、恨むなら私だけにしてね。山吹君のことは、許してあげて」

「言われるまでもありません」

「山吹君には、もうこんなことは止めるって言っておくよ。だから、心配しないでね」

「ありがとう、ございます」

 秋葉は目元に滲んだ涙を拭い、小さく頷いた。再び上げた顔からは、憑き物が落ちたように敵意も殺意も削げて いた。秋葉は我に返ったのか、ミーコに何度も謝ってから、足早に峠道を駆け下りた。秋葉の後ろ姿が見えなくなる まで手を振ってから、ミーコはガードレールの下を見下ろした。険しく切り立った崖の底では、細い川が流れている。 あそこに落ちても死ねないんだろうなぁ、と、一抹の空しさに駆られると、突然上半身が反り返った。

「うえ?」

 ミーコは反射的に左手でガードレールを掴んだが、右手が左手を剥がしに掛かってきた。

「やっと表に出られた! やっと、私があんたを殺せる日が来たんだ!」

 宮本都子だった。ミーコは左手の指をガードレールに食い込ませながら、左足だけで踏ん張った。

「どうして、都子がいるの? ミーコの間違いは、ゾゾが消してくれたはずなのに!」

「消えるわけないじゃない、ミーコがミーコで宮本都子なんだからね!」

 右手が左手の指を殴り付けると、指の骨が全て折られ、激痛が走った。

「あんたを殺して、頭の中から女王寄生虫を引き摺り出してやる! そうすれば、私はまた宮本都子に戻れる!」

 己の血に濡れた右手が顔を鷲掴みにし、頬を歪めて笑みを作る。

「馬鹿なことは止めてよね、都子! 女王寄生虫がいなくなっちゃったら、ミーコはミーコじゃなくなるし、都子も都子 じゃなくなる! どっちもいなくなっちゃったら、私はただの寄生虫の固まりでしかないんだよ!?」

 ミーコは指が折れた左手で右手を剥がしに掛かるが、都子の右手はミーコの首を無理に反らしていく。

「馬鹿はそっちでしょ、ミーコ! 私は他の私が集まって出来た一つの生き物、女王寄生虫なんて所詮は中枢神経の 代用品、他の寄生虫を使えばいくらでも体を作り直せる、だから不死身だってことぐらい、私も学習したんだ!」

「止めて、止めて! でないと、ミーコは御前様と戦えなくなる!」

「御前様と戦う? あんたの戦いなんてただの交尾じゃない! 血族の男とヤってヤってヤリまくって、寄生虫を感染 させて全滅させるためだけに生まれてきた生き物が、戦いなんて言葉を使うんじゃない!」

「戦いは戦いだ、ミーコの戦いだ! ミーコはそのために生まれてきたんだ!」

「じゃあ、なんで私みたいな人格を作ったりしたの!? あんたもまともに人間らしく生きたいから、私を作って、自分を 誤魔化そうとしたんじゃない! それを忘れたとは言わせない、私を忘れたとは言わせない!」

 徐々に、徐々に、ミーコの上半身が崖に迫り出していく。

「……うん」

 右手に顔を押し潰されながら、ミーコはか細く答えた。都子の言葉は紛れもなく、ミーコの本心だった。

「ミーコは建ちゃんとだけしたい。でも、他の沢山のミーコはそれを許さない。明日、本家で御前様に謁見する集まり がある。そこで、ミーコは御前様に捧げられちゃうんだ。御前様が種付けしたら、今度は血族の男に喰われるんだ。 一人や二人じゃない、手当たり次第にだ。ミーコはそういうものだから、まぐわった男を分身のミーコで殺せるけど、 でも、嫌なんだ。だって、そんなことしたら、ミーコは絶対に建ちゃんから嫌われる……」

 左目の瞼が下がり、視界が歪み、夕焼け空が遠くなる。

「じゃあ、殺そうよ」

「誰を?」

「解り切ったことだよ、ミーコ。男共も、御前も、私達が殺しちゃえばいい。そうすれば、誰もミーコを穢しはしない」

「ああ、そっか、そうだよね、そうだもんね」

「でも、もう辛いのは嫌だ」

「うん。苦しいのも嫌。ミーコは建ちゃんが好きだけど、好きすぎておかしくなっちゃう」

「だから、今度こそ一つになろうよ」

 都子の右手が緩み、両耳の傍で風が切れた。ガードレールを軸にして後転したミーコは、崖の斜面に背中を擦り ながら虚脱した。息を吸う間もなく、夜に染まりかけた秋空が離れていった。一足早く夜の世界に踏み入った木々が 落とす深い影に包まれながら、束の間の空中遊泳を楽しんだ。十秒後、ごしゃあっ、と頭から地面に叩き付けられ、 ミーコは頭蓋骨の中身を浅い川面に残らずぶちまけた。脳の代わりにみっちりと詰まっていた無数の寄生虫が外界 に吐き出され、生温い脳漿の中をぬめぬめと所在なく泳ぎ回った。落下の衝撃をまともに受け止めた頸椎は無惨に 潰れ、折れ曲がった骨が切り裂いた頸動脈からは赤黒い噴水が上がっている。割れた頭蓋骨から零れ出した両目 は川面に浮かび、辛うじて繋がっている神経が伸びてウキのように上下した。鼻から下は不思議と無傷だったが、 脳漿混じりの鼻血が口元から襟から何から汚している。浅く開いた唇は、左右とも会心の笑みを見せていた。
 傷の少ない右手が挙がり、自らが折った左手の指を元通りに直すと、程なくして細い骨が繋がった。ぬるつく小石が 並ぶ川底をぐっと握り締めてから、両腕が上がり、自らの脳内とも言うべき寄生虫の中へと両手を突っ込んだ。 逃げ惑う寄生虫の中から一際太く立派な寄生虫を見つけ出した両手は、鬼の首を取ったかのように高々と掲げると、 女王寄生虫を握り潰した。ぶちゅり、と芋虫を潰したかのように指の隙間から柔らかなものがひり出し、細切れに なった女王寄生虫が下半分だけになった顔に降ってきた。それを振り払い、ミーコは上半身を起こし、笑った。

「きゃひほははははははははははははははははははっ!」

 ミーコと都子は、今正に一つになった。笑い転げている間に眼球が元の位置に戻り、頭蓋骨が再生し、増殖した 新品の寄生虫が脳に代わって頭蓋骨を満たし、頸椎が治り、傷が塞がり、血も蘇った。十八年にも渡る苦しみから 逃れられた嬉しさと、本能のままに生きられる解放感が、絹糸よりも細い理性を容易く断ち切っていた。げたげたと 笑いながら、ミーコは汚れた体を川面から引き上げた。一緒に崖下に落ちた通学カバンからはみ出した携帯電話を 踏み潰し、人間らしく生きるためには必要だった教科書もノートも蹴り付け、既に原形を止めていない制服も破き、 薄い皮膚の下で寄生虫と共に蠢く破壊衝動に任せて、力強く地面を蹴って跳躍した。ほんの一息で崖下の川から 脱したミーコは、枯れ葉と水草が絡み付いた髪を振り払い、進行方向を見定めた。
 御前もろとも、血族の男を皆殺しにしてやる。




 基礎だけが残ったログハウスは、切なかった。
 小松が好きだ。小松にしか体を許したくない。けれど、無数のミーコは許さなかった。血族の男を殺すためだけに 生まれてきた生き物が、選りに選って腹違いの弟に恋い焦がれるだなんて。忌部を殺したくなったのも、単に忌部が 忌部家の御前として選ばれたからだけではない。妹である翠と通じていることが、どうしようもなく羨ましくなったと 同時に憎らしくなったからだ。忌部は本家の御前様の血を引いている男だが、ミュータントと化した影響で翠と同様に 生殖能力に問題があると本能で知っている。だから、子を成せない男なので殺す必要がないと判断し、イカれた 境遇の同士としてミーコなりに仲良くするつもりでいたが、耐えられなかった。翠を慈しむ忌部の表情が、忌部を慕う 翠の微笑みが、当て付けのように思えてしまったからだ。そんなことがあるはずもないのに。

「あんなに殺したのに、どうしてミーコはミーコを殺せないの?」

 女王寄生虫を握り潰した翌日、ミーコは本家に乗り込んだ。服としての意味を成していない制服を着たまま、御前の 謁見場である大広間に土足で踏み入った。その場に集まっていた御三家の男達は、皆、異様な形相のミーコを 見て驚きはしたものの、これから始まる乱痴気騒ぎを期待していた。泥と血に染まった靴下を引き摺りながら歩いた ミーコは、御前が控えている簾だけで仕切られた奥の間に促されたが、促してきた男を殴り殺した。次に、ミーコに 駆け寄ってきた男の首を折った。更に、ミーコの足を掴んで倒そうとした男の頭を顎ごと膝で打ち砕いた。一歩歩く ごとに一人殺し、二人殺し、三人殺し、四人殺し、五人殺し、短時間で皆殺しにした後、御前の隠れている簾を引き 千切った。だが、そこに御前の姿はなかった。初夜の如く整えられた布団が、一組敷かれていただけだった。それ から十数分も経たないうちに変異体管理局が突入し、機銃掃射の後、ミーコを取り押さえた。女王寄生虫を失った ために再生能力と寄生虫の統率力が鈍っていたミーコはろくに反撃出来ず、血と皮膚が混じった寄生虫の固まりと 化してしまい、そのまま死体袋に入れられて忌部島に投げ込まれた。再生した後も何度か逃亡を図り、忌部島から 脱しては本家の御前様を殺そうとしたが、その度に失敗してまたも忌部島に投げ込まれた。そんなことを繰り返して いると、人型多脚重機と化した小松が忌部島に隔離された。誰よりも守りたかった彼を守れなかった。
 蘇った理由は解らない。だが、ミーコの頭の中には、何年も前に自分自身の手で握り潰したはずの女王寄生虫が 再生されていた。無数のミーコである寄生虫に残っていた僅かな生体情報を元にしたのだろうが、液状化していた ことも踏まえると、恐るべき生体再生能力だ。ミーコの非ではない。だが、一体、どこの誰が。

「ミーコ」

 重々しい足音が背後に迫り、エンジン音が聞こえた。ミーコはぎくりとしてから、振り返った。

「建ちゃん……」

 黄色と黒の塗装が鮮やかな人型多脚重機が、半球状の頭部に付いたメインカメラをミーコに据えていた。地中から 出てきただけなので一糸纏わぬミーコは、やけに恥ずかしくなって身を縮めた。小松はログハウスの基礎とミーコを 何度も見比べていたが、六本足を前後させながら歩み寄ってくると、多目的作業腕を伸ばしてきた。

「帰るぞ」

「建ちゃん。何も聞かないの? の? の? の?」

 ミーコが小松の手を取るか否かを迷っていると、小松はぐるりと頭部を一回転させた。

「一つ聞くことがあるとすれば、なぜ俺を愛称で呼ぶんだ。やっぱり、お前は都子なのか」

「違うよ、よ、よ。ミーコはミーコで宮本都子でもあるけど、ミーコはミーコだから、からからから」

「都子は死んだのか、それとも元からいないのか」

「ミーコと都子は、元から同じものだよ。だから、ミーコと都子は一緒になったの。でも、建ちゃんが好きだったのは 都子の方で、ミーコじゃないもんね。それに、ミーコは建ちゃんとは仲良くしちゃダメなんだ。ミーコはミーコだから、 建ちゃんを殺しちゃうんだ。だから、ミーコに近付かないで。ないでないでないで」

「そういうのは、どうでもいい」

「どうでもよくないよ、よ、よ、よ。だって、ミーコはミーコで都子じゃないないないない」

「だから、そういうのはもうどうでもいいんだ」

 小松は三本のマニュピレーターでミーコを掴むと、メインカメラの高さまで持ち上げた。

「お前がいなくなってから、俺も色々と考えてみたんだ。そしたら、このままでも悪くないって思えたんだ」

 小松は先に上半身を反転させてから、下半身も反転させ、集落に向けて歩き出した。

「それと、俺を殺してしまうとか言っていたが、これまでの日々で俺はお前には殺されていない。ということは、お前は 俺を殺す必要がないと判断していたというわけだ。俺も、色々あったからお前を殺したいとはもう思わない。だから、 どうでもいい。そういうことだろう」

「うん、そうかもしれないね。ね。ね。ね」

「お前が散々言っていたように、ミーコはミーコで宮本都子なんだ」

 小松は少し笑ったらしく、ぎしぎしと関節が軋んだ。ミーコは釣られて頬を緩め、小松の手に寄り掛かった。

「建ちゃん、今度は一緒にログハウスを作ろうね、ね、ね、ね。もちろん、建ちゃんも中に入れるようなのを」

「それは変だ。規格外だ」

 小松の声色は平坦で素っ気なかったが、ミーコを支える指は柔らかく曲げられていた。素肌に触れる小松の外装は ひたすらに無機質で冷たかったが、日差しに火照った体にはとても心地良かった。しばらく進むと、ミーコの記憶 の中の光景とは随分と様子が変わってしまった東側の集落が見えてきた。虎鉄と芙蓉の襲撃で無惨に荒らされた 土地、巨大化させられた翠が破壊した廃校、ガニガニがいなくなった大きな巣。女王寄生虫が他の寄生虫と接触して 再生した戦闘中の記憶が、不甲斐なさを煽り立てた。ミーコは常人よりも身体能力は高いが、不死性以外の能力は ろくに持ち合わせていない。それなのに、あんな厄介な能力を持つミュータントを相手に出来るわけがない。無謀な ことをしたから、皆がその煽りを受けてしまった。理性が蘇ったために細かな感情も感じるようになったミーコは、 小松の指に額を当てて肩を震わせた。小松は足を止めると、マニュピレーターの先端でミーコの背をさすった。
 何度も、何度も。





 


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