二回目の勝負を、何にするか。 さっきはついジャスカイザーを見てしまったから、決まらず終いだった。 落ち込んでいるせいか、すっかり口数が少なくなったリボルバーは、あまり議論に参加していなかった。 言い出したのはあんただろうが、リボルバー。全くもう。 「おいしいですかー?」 インパルサーが身を屈め、ダイニングカウンターから顔を出した。 あたしは伸びたチーズを食べつつ、頷く。今回はホットサンドだ。 「おいしいよぉ」 気が抜けてしまう。なんだろう、この味の違いは。 以前あたしが作ったのと材料はほとんど同じはずなのに、相当違う。才能の差、ってやつか。 インパルサーは食べ続けるあたし達を眺めた後、後片づけを続行する。その姿は、すっかり主夫だ。 涼平は先にホットサンドを食べ終えてしまうと、コップに半分程残っていたコーラを飲み干した。 テーブルに置き、腕を組む。 「次かぁ」 「でも、なんであんたらそんなに真剣に勝負するわけ?」 カフェオレを飲みつつ、珍しく真面目な弟に尋ねた。リボルバーが振り向く。 涼平はぷいっとそっぽを向き、突き放した答えを返してきた。 「姉ちゃんには解らねぇよ」 「解ってたまるかい」 と、リボルバーが頷いた。あんたら、仲が良いのか悪いのかさっぱりだ。 涼平は椅子から降り、ソファーの前に座るリボルバーに迫った。 「次もオレが勝ってやる」 「上等だ。負かしてやろうじゃねぇか」 リボルバーはにやりと笑い、涼平に向き直った。機嫌はもう直ってしまったようだ。 その現金さに鈴音はちょっと呆れながらも、笑っている。 あたしはその整った横顔に見とれていると、彼女は呟く。 「いっつもこう」 「そんなに?」 「うん。ちょっとのことでめちゃくちゃ落ち込んだと思ったら、すぐに元気溌剌。単純よね」 と、鈴音は相変わらずきつい。だけど、前よりも棘が少ない感じがする。 表情もどこか優しいし、ますます美貌が増している。ああ、美しい。 もしかして鈴ちゃん、本当にボルの助に対して愛着が出てきたんじゃないだろうか。そうだとしか、思えない。 だけど、そのことを言っちゃいけない。鈴ちゃんはそういうことを指摘すると、全力で否定してしまうから。 頑張れボルの助。君の愛が報われる可能性が、ほんの僅かだけど出来たかもしれないぞ。 片付けを終えたインパルサーが、あたしの背後に立っていた。 彼は手際よく空っぽの皿を重ねていく。 「これも片付けますね」 「うん。ごちそうさま、おいしかったよー、さすがはパルだ」 「ありがとうございます」 嬉しそうに、インパルサーは身を屈めた。 隣にやってきたゴーグルフェイスに、あたしが映り込む。寝不足だから、あまりしゃっきりしていない。 両手に持った皿を大事そうに抱えながら、彼は少し首をかしげた。 「えと、フレイムリボルバーと鈴音さんと、涼平君てあれですよね」 「あれって?」 「オネエサマのドロボウネコとか、アノヒトをアイシテイイノハワタシダケとか、アナタってプレイボーイね、とか…」 「要するに、三角関係って言いたいわけね」 「はい」 インパルサーは、こっくり頷いた。中途半端に古めかしい言葉ばっかりだけど、意味するものはそれだけだ。 大方、あたしがいないときに母さんと一緒になって、メロドラマの再放送でも見たんだろう。にしても古い。 三角関係と呼ぶには、あたしとパルと神田の関係と同じで中途半端だ。鈴音の心は、どちらにも向いていない。 というか、鈴ちゃんの心は誰にも向いたことはない。 彼女とは中学の頃からの付き合いだけど、鈴ちゃんが恋をしたとかしないとか、そんな話をしたことはない。 告られても断ってばかりだし。正直、勿体ないとは思う。 だけどこれは鈴ちゃんの決めたことだから、あたしがどうこう言えることじゃないのだ。 「三角関係と来たか」 鈴音はリボルバーと涼平を見比べ、にっこりと笑む。 「私は私有物じゃないぞ?」 「いや、その」 リボルバーは、ちょっと言葉に詰まった。 「そういうんじゃねぇ。なんかこー、やり合いたくなった、っつーか、どんな輩か知りたくなったっつーか…」 涼平は気恥ずかしいのか、俯いている。心なしか、頬が赤い。 リボルバーは後頭部をがしがし掻きながら、苦笑する。 「悪ぃ」 「そういうんだったら、別に良いけど。私が賞品でない戦いなら」 鈴音の口元が、にやりと上向く。 リボルバーは当然だ、と言わんばかりの表情になり、ばしんと敬礼した。 「イエッサ」 涼平も同じように敬礼したが、俯いたままだ。あんたは、恥ずかしがりすぎだ。 鈴音は満足したらしく、うんうんと頷き、インパルサーの持ってきたコーヒーに角砂糖を三つ投下した。 それで、一体次の勝負は何になるんだろうか。まだ決まっていない。 「あの」 インパルサーが唐突に挙手した。 「僕、あれやりたいです」 インパルサーは両手を肩幅ぐらいに広げた。それをすいっと動かし、長方形の空間を作る。 結構大きい空間を手前に差し出し、あたしに向けた。 「これくらいの大きさで、開けると二倍の大きさになって、シカエシとかケッコンとかテンショクとかがある…」 「人生ゲーム?」 そのフレーズで思い当たるのは、それくらいだ。 インパルサーはその空間を持ったまま、ああ、と頷いた。 「たぶんそれだと思います。箱のタイトルが読めませんでしたけど」 「でもなんでまた、そんなもん知ってるの?」 「涼平君と、前にやったことがあるんです。だからもう一度、やってみたいなぁって」 「どお?」 あたしは、他の面々を見回した。 「人生ゲーム。鈴ちゃん、あたしらもやることになると思うけど」 「いいんじゃないの?」 鈴音は、甘ったるいコーヒーを飲み干した。 頬杖を付き、あたしと両手を広げたままのインパルサーを見上げる。 「あれ、結構面白いし」 二回目の戦いは、人生ゲームに決定した。 だけど、これではただ皆で仲良く遊ぶだけではないか。 最初の意向は、一体どこへいってしまったのやら。 リビングテーブルとソファーが、隅に追いやられた。ロボット二人が一緒となると、リビングでも多少狭い。 少し冷たいフローリングの上にぺたんと座り、札束を小物ケースの蓋に乗せていく。カラフルな紙幣だ。 小さなコマの車が、ばらばらとゲーム盤の上に落とされた。 インパルサーは迷わず青を取り、リボルバーも赤を取る。めちゃくちゃ解りやすい。 涼平は何か不服そうにしながら緑の車を取り、右側の穴に青いピンを刺した。青が欲しかったようだ。 鈴音が白を取ったので、あたしはピンクを取る。それに同じくピンクのピンを刺して、人を乗せる。 「ルールは簡単」 あたしが説明を始めると、ロボット二人が顔を上げる。 「真ん中のルーレットを回して、出た数字分だけ自分の車を進める。で、その止まったマス目の指示に従うの」 「一番最初にゴールした人が勝ち。一番乗りが大富豪だし」 と、鈴音が続け、あたし達を見回した。 「んじゃ、順番決めようか」 「普通に時計回りで良いんじゃない? この二人がジャンケン知ってるとは思えないし」 あたしは、こぢんまりと座るインパルサーと大股を広げて座るリボルバーを見上げた。 インパルサーは案の定、首をかしげる。 涼平から意義の声が上がらなかったので、時計回りに人生ゲームを進めることにした。 一応始めはあたし達の方がいいだろう、ということで、鈴音、あたし、涼平、パル、ボルの助の順番だ。 「あらら」 ルーレットを回し、鈴音は笑った。一巡して、また先頭に戻ってきたのだ。 鈴音の分身が乗った白い車はとん、とん、とコマを進み、辿り着いた先は。 「タレント」 「おわ」 あたしは医者だ。 「ギャンブル人生じゃん」 「サラリーマン選んだ、パル兄よりはマシだと思うよ」 涼平は、横目にインパルサーを見た。うん、あたしも鈴ちゃんはパルよりはまともだと思う。 インパルサーは物珍しげに、サラリーマンのカードを裏返したりして眺めている。 彼はそれを両手で大事そうに持ち、指の間に挟んでくるっと回した。何がそんなに嬉しいんだ、サラリーマンで。 「そうですか?」 「…なんて読むんだ、こいつぁ」 リボルバーが難解そうに、弁護士のカードを振っている。 鈴音は早速給料日に辿り着いたので、がらがらっとルーレットを回した。九で止まった。 手際よく札を抜き取りつつ、リボルバーに答える。 「弁護士。高給取りじゃない」 「ベンゴシ…」 今ひとつ理解出来ないのか、リボルバーは首を捻っている。 デザイナーの涼平は、リボルバーが羨ましいようなそうでもないような、いや、やっぱり羨ましそうだ。 あっちの方が給料が良いし、何より肩書きがカッコ良さげだしね。医者も良いけど。 あたしはルーレットを回して適度に進めたが、結婚のマス目で一旦止まる。青い旦那を、ピンクの車に乗せる。 「結婚祝いー」 途端に、ピンクの紙幣があたしの前に滑り込んでくる。あまり有り難みがない。 それをまとめていると、最後にインパルサーがあまり元気のない動きで差し出してきた。 とりあえずお金を受け取ってから、彼を覗き込んだ。 「何?」 「複雑だなぁ、と…」 「いや、これゲームだし。ていうかあんた、結婚願望なんて…あったの?」 結婚願望、と聞いた途端にインパルサーは顔を逸らした。きゃっ、という声が付きそうなくらいに可愛い動きで。 ご丁寧に両手を被い、背を丸めている。戦闘ロボットの乙女チックな反応は、嫌すぎる光景だ。 リボルバーはその反応を嫌そうに見つつ、顎に手を添える。 「ケッコンてなぁ、なんだ?」 「夫婦の契りを交わすの。嫁ぎ嫁がれて、家庭を築くの」 「フウフ…よーく解らねぇなぁ、そういうの」 と、リボルバーは唸る。恋愛は多少なりとも理解出来ても、それから先はないようだ。 インパルサーは結婚願望があるくらいなので、それがどういうことなのか理解しているらしい。 だけどまだ照れていて、まともにこっちを見ようとしない。彼の乙女っぷりも、ここまで来てしまった。 あたしはつい、インパルサーに白タキシードを着せた姿を考えてしまった。凄く似合わない。何考えてんだ、あたし。 照れくさそうに頬をがりがり掻くインパルサーの肩を、あたしはぽんと叩いた。 「パル」 「はい?」 「あんたはタキシード似合わないから。ウェディングドレスも文金高島田もお色直しも、ヴェールも角隠しも」 「え、でも。そういった服は、いつか着るべきものではないのですか?」 「人間はね。でもなんで、パルはそういうことまで知ってるの? あたし教えてないよ」 「お母様が」 インパルサーは両手の人差し指を立てると、胸の前でこつんと突き合わせた。 「あなたはいつかオヨメに行くんだからこういうことは覚えておいた方がいい、と言われまして」 あたしは、数秒してから思い切り吹いてしまった。母さん、パルに変なこと教えすぎだ。 涼平も似たようなもので、ひっくり返っている。受けすぎだけど、その気持ちは何か解る。 鈴音は相当ツボに入ってしまったのか、甲高い声で笑い転げる。鈴ちゃん、こういうのが好きなのか。 話の流れがリボルバーには解らなかったようで、笑うあたし達を不思議そうに見回す。 当のインパルサーはむくれたのか、くいっと突き合わせた指を逸らして俯く。 「変ですか?」 「変も何も」 目元に滲んだ涙を擦り、あたしはインパルサーに言う。 だめだ、声が震えてしまう。 「お嫁って…あんた男でしょ」 「だけど僕、あのひらひらしてふわふわした白い服、着てみたいです。綺麗じゃないですか」 「着ちゃダメ」 「綺麗じゃないですか」 不満げに呟く。パルにふりふりエプロンを着せたのは、やっぱりまずかったようだ。 あたしはその額に指を当て、くいっと押すと彼は顔を上げた。 「ダメ。ああいうのは、女の子が着るもんなの。そりゃパルは家事も出来そうだし得意だろうけど、お嫁は無理」 「ダメですか? オヨメさん。僕にぴったりだと思うんですけど」 「だってあんた、男でしょうが。男はお嫁さんにはなれないの、お婿さんにはなれるかもしれないけど」 あたしは可笑しいのを通り越して、呆れてきてしまった。お嫁さんになりたいロボットがいるとは。 一緒に昼メロを見たり、結婚のなんたるかを教えていたり、母さんはパルを娘として扱っているようだ。 息子扱いではない。あからさまに、これは娘扱いだ。母さん、あなたってヒトは何を考えてるんですか。 インパルサーはしばらく俯いて考えていたが、ぱっと顔を上げた。 「なら、僕がなれるのはそのオムコさんですね!」 「相手がいればね」 「由佳さん、僕は頑張ります! モンツキハカマを着るために!」 「何を。てか今度はそっちかい」 「ハナムコシュギョウを!」 「…マジ?」 「はい」 インパルサーは目標が出来たことが嬉しいらしく、ゴーグルがライトグリーンになっている。 がしっと拳を握って高々と掲げ、胸を張った。花婿に、本気でなるつもりらしい。 あまりにも真剣なその姿が可笑しいのは相変わらずだけど、一体誰に嫁ぐつもりだ。そうか、あたしか。 このままパルが一つ屋根の下の婚約者になってしまうと、ますますラブコメ街道直進だ。突き抜けちゃいそう。 気付くと、鈴音がにやにやしていた。ラブコメって言いたいんだろう、うん、あたしも言いたい。 リボルバーは話の内容は理解出来なくとも、素っ頓狂なことは感じているようで、変な顔をしている。 「てめぇって奴ぁ…」 「フレイムリボルバーにはこういうの、ないんですか?」 「けっ」 リボルバーは顔を逸らし、馬鹿にしたような声を出した。 片手をひらひらさせ、肩を竦めた。 「オレはそこまで弛んじゃいねぇよ。ソニックインパルサーの平和ボケも、ここまで来ちまったか」 「フレイムリボルバーは僕よりも似合うと思いますよ、モンツキハカマ」 「似合うとか似合わないとかそういうんじゃなくてよ…くぁー」 付き合ってらんねぇ、とリボルバーは目頭を押さえた。泣きたいんだろうか、笑いたいんだろうか。 鈴音はリボルバーが紋付き袴を着たところを想像したのか、また吹き出した。 「ボルの助が紋付き…袴はぎりぎり着れちゃうかも」 「着せてみる?」 あたしは冗談で言ってみた。するとリボルバーが、体をのけぞらせた。 だん、とフローリングに手を付いて驚いたように目を見開いている。着せられる、と思ったんだろうか。 鈴音は彼の前に手を伸ばし、数回横に振る。 「ボルの助に着せるわけないでしょー、そんなの」 「…だよなぁ」 安心したように、リボルバーは姿勢を元に戻す。そして、少し笑った。 するとリボルバーはおもむろに、隣でまだ花婿を夢見ているインパルサーの頭をがこんと一発殴った。 パルはその部分を押さえて背を丸め、むくれる。 「何するんですか」 「いい加減に元に戻っとけ、ソニックインパルサー。ジンセイゲームの真っ最中だろうが」 「あ、そうでした」 と、殴られた部分を手で押さえながら、インパルサーはこちらへ向き直った。 涼平はやっとゲームが続行出来ると安心したのか、少し顔を綻ばせた。 「んじゃ、次は誰だっけ」 「涼君だよ」 鈴音が、涼平の分身である緑の車を指した。ほっそりした爪に乗ったマニキュアが、つやりと光る。 涼平は途端に張り切り、ぐわしゃっと力を入れてルーレットを回す。入れすぎだ。 人生ゲームは、また再開された。 数十分後。 インパルサーの周辺に、小さなものが一杯散らばっている。 青やピンクの細いピンが、結構な数ある。彼はそれを大事そうに集めて、きちんと男女に分けた。 あたしはその大量の子供を見、呟いた。 「子供作りすぎ。ぶっちゃけ頑張りすぎ」 「いいじゃないですか、子供」 「マンション住まいのサラリーマンが、そんなに子供を養えるわけないでしょ」 「たった二十人ですよ」 と、インパルサーは子供の山を眺めて喜んでいる。いや、ゲームだけど、ゲームなんだけど。 あたしは、素でパルの青い車の助手席に乗っているお嫁さんを心配してしまった。体、大丈夫なんだろうか。 ゲームは佳境に入っていて、凄い額の臨時収入と大散財をする時期だ。 仕返しが数回あったけど、それは全てインパルサーがコマを戻されることで穏やかに事は進んでいた。 むしろ率先して戻りたがって、挙げ句に子供をひたすらに作り続けた。その結果が、これだ。 あたしは子供が二人乗った自分の車を進め、油田を発見した。 「物事には限度ってものがあるでしょうが」 「そうそう」 あたしよりも数マス先にいる鈴音は、頷く。 「借金に次ぐ借金で、首が回らない弁護士よりかはマシだけどね」 「スズ姉さん…」 リボルバーは俯き、頭を抱えた。高給取りなのに、金の使い方が下手すぎたのだ。 「ティファニーもユニセフも嫌いだ…絵なんていらねぇよ…」 「子供作っておけば良かったのに」 と、涼平が茶化すと、リボルバーはむくれる。 「作ろうと思っても、止まれなかったんだよ。あーちきしょう」 ついさっき、リボルバーは人生最大の賭にも失敗した。 開拓地送りになってしまったため、あばらやから動くことが出来なくなっている。実質ゲームオーバーだ。 子供をわんさと連れたインパルサーは、遥か後方ながらちゃんと付いてきている。 この辺りも、二人の性格が出ていると思う。突っ込んで進むか、慎重に進むか。 無茶苦茶な家族計画が慎重かどうかは、この際置いておいて。 ルーレットを、鈴音はくいっと軽く回した。 からからとゆっくり回転が弱まっていき、飛び出した白い矢印の下に数字が止まった。 「はい、上がり」 こん、と鈴音の白い車は豪邸に止まった。リアル金持ちは、ゲームでも金持ちだった。 背筋を伸ばしてから、鈴音は賞金を抜いて持ち出した。彼女の足元には、たっぷり紙幣がある。 「タレントって結構稼げるもんだねー」 「さしずめ売れっ子アイドルってとこかな。鈴音さんだし」 「いんやぁ。晩年も売れっ子だから、アカデミー賞ものの大女優だよ」 と、あたしは涼平に言った。涼平は言ったことがまず照れくさかったのか、言い返してこなかった。 鈴音は否定もせず、肯定もしなかった。有り金を数え、にんまりしている。 あたしの方はといえば、大した変化もなく、たまに持ち金の増減があっただけでそこそこ平穏な人生だった。 まぁそれでも、最初の方で家が水浸しになったり地震にあったりしたけれど、それくらいだ。 二位の賞金を受け取りつつ、まだまだ中年街道を進んでいるインパルサーを見た。楽しそうだ。 しばらくして、三位の涼平がゴールした。賞金は、あたし達よりかなり低い。 インパルサーがゴールしてから、はたと気付いた。 リボルバーは、また負けた。 本人も負けた事実を感じているのか、ふてくされている。続けて二回も負けてしまえば、不機嫌にもなるだろう。 だけど怒鳴りもせず、口元を歪めて頬杖を付いて悶々としているだけだ。ちょっと恐ろしい。 インパルサーはそんな彼に気付いたが、何も言わずに続行した。こういうときは、構わない方がいいのだろうか。 鈴音はちょっと心配げに、リボルバーを眺めた。 リボルバーはしばらく唸っていたが、深く深くため息を吐き、悔しげに呟いた。 「戦闘じゃねぇと、どうもダメだな」 「おや」 いやに物珍しそうに、インパルサーが笑う。 「エモーショナルリミッター、切れなくなりましたね」 「うるせぇ」 リボルバーは吐き捨てた。 「それにこんくれぇのことでいちいちリミットブレイクしちまってたら、キリがねぇし、第一情けねぇだろ!」 「よしよし」 鈴音は満足そうに頷き、腕を組む。 褒められたことで嬉しいのか、リボルバーはすぐに表情を緩ませる。解りやすい。 インパルサーは安心したのか、ふう、と背中の翼をへたれされた。良かったね、パル。顔面ストレートは回避した。 あたしは、涼平の心境を考えてみた。きっと、相当複雑な心境になっているだろう。 案の定、隣で座る弟はむくれている。 鈴音がリボルバーにかまけて、おまけに褒めているのだから、妬いてしまったようだ。 見ている分にはなんとも可愛らしい恋だけど、本人は本気だ。相手は鈴ちゃんだし。 だけど、こちらの恋は叶うとは思えない。叶わないからこそ、真剣なのかもしれない。 我が弟ながら、微笑ましいったらありゃしない。 04 4/14 |