インパルサーの胸の奥から、確かに二人の会話が聞こえていた。 どの辺にスピーカーがあるんだとか、聞いてていいものかとか、色々考えてしまったけど。 もう、しっかり聞いちゃってるんだから仕方ない。そう、あたしは開き直ることにした。 最初は、律子の声が聞こえてきた。 『ディフェンサーくーん!』 捜しているようで、声が反響している。ちょっと不思議な感じだ。 『あ、ディフェンサー君。なんだ、そんなところにいたんだ』 見つけたらしく、律子は嬉しそうな声になる。 どん、と何かが通路に降りる音。大方、ディフェンサーは高いところにいたのだろう。 『いちいち騒ぐなよ。なんで…って、ああ、兄貴共か』 『うん。インパルサー君に教えてもらったの、この温室にいるって。だけどここ、湿気っぽくない?』 『大したことねーよ。オレは他の兄弟よりジェネレーターが多い分、熱量も多いからすぐに飛ぶしよ』 そうなのか、ディフェンサー。知らなかったよ、そんなこと。 でも、言われてみれば納得出来るかもしれない。両手足がシールド発生装置なら、なんとなく。 『で、永瀬。オレに何を言いに来た? って、聞くまでもねぇか』 『私なんかがするべき役目じゃないと思うけど、ディフェンサー君が、せっかく私に決めてくれたから』 決意の現れなのか、律子の口調が少し強くなった。 『ディフェンサー君の、コマンダーになる』 ちょっと、間が開く。 二人の背後に滝でも流れているのか、やたら水音がする。 『…いいのか?』 嬉しいような、驚いたような声のディフェンサー。 うん、と律子は頷いたらしい。 『ディフェンサー君が私に頼んできたんだよ?』 『あ、まぁ、な…』 照れくさいのか、多少ディフェンサーの声が上擦ってくる。 また、間が開いた。 今度は、律子の声が上擦ってきた。 『えと、それで。なんで、私なの?』 『…あ?』 ディフェンサーは、面食らったらしい。律子は続ける。 『んと、美空さんとかは、ディフェンサー君が私のこと好きだとか言ってたんだけどね』 律子は、はにかんでいる。 『そんなの、あるわけないよねぇ? 私、美空さんとか高宮さんとかマリーさんとかみたいに、美人じゃないもん』 いや、あたしはそんなに美人じゃない。そう律子に否定したくなった。 『ディフェンサー君は、なんでも出来るし、私みたいなとろくさいのって好きじゃなさそうだし』 たっぷり、三十秒くらいの間。 ディフェンサーもそうだけど、律子も答えに詰まったらしい。 更に十秒くらい経ってから、ようやくディフェンサーが言った。 『オレがか?』 へっ、とリボルバーがするような笑いが洩れる。 『オレは大したこと出来ねぇよ。ただちょっとばかし、防御能力があるだけだ。そいつに溺れてるだけだ』 『…溺れてる?』 『ああ。オレの弱点、教えてやろうか?』 やけに自虐的な、ディフェンサーの言葉が続く。 『足技が致命的に下手なんだ。シールドのコントロールのためには、突っ立ってた方がいいってのもあるんだが…』 深く、ため息を吐いたような音。 『この辺の弱点を突かれて、何度も何度もマリーにやられたよ。だが、いつまでたっても直そうとしなかった』 ばきん、と拳を平手に当てたらしい。 『兄弟の中で一番弱いのは、間違いなくオレなんだ。自分の弱さを、いつまでたっても直視しねぇんだからな』 ざあざあ、と滝が流れ落ちていた。 あたし達の後ろの滝と、二人の後ろの滝の音が重なっている。 『その点、永瀬は立派だよ。オレがあんなにきっついこと言っても、逆に真っ向から接してきたからな』 あたしも、ディフェンサーに同意だ。律子はああ見えて、中身はしっかり強い。 律子は驚いたような、意外そうな声を出す。 『わたしが?』 『ああ。全く、お前って奴は本当に解らねぇや』 半笑いのような、ディフェンサーの声。 『オレや兄貴に泣くほどびびってたかと思ったら、クラスメイトだと言い切ってくれやがった。戦いをまともに見ても、怖がるどころか、オレを見てる方が辛いだと?』 『永瀬は、強いんだか弱いんだかさっぱりだな』 親しげとは言い難い、むしろ攻撃的な言い回しだ。でもまぁ要するに、律子を褒めているのだけど。 なんで素直に褒められないんだろう、こいつは。ひねくれてるなぁ。 んー、と考えるような声の後、律子は声色を強める。 『私には、ディフェンサー君の方がちっとも解らないなぁ』 『は?』 『解らないんだもん。最初は私のこと、嫌いみたいに言ってたはずなのに、近頃はそうじゃないでしょ?』 『あ、まぁ』 『それに、なんでここんとこ、まともに話してくれなかったの? 寂しかったんだからね!』 『…悪い』 『色々と言いたいこととか、話したいこととかあったのに』 『そりゃあ、まぁ』 どんどん、ディフェンサーの歯切れが悪くなる。律子は更に攻める。 『その上、いきなり私にコマンダーになれーだなんて。すっごく自分勝手だよ、ディフェンサー君は』 『だからその、悪かったって』 『なら、なんで話してくれなかったの? その辺、はっきりさせて欲しいなぁ』 と、律子は強く出た。あたしには、なんとなくその理由は解る気がするけど。 ディフェンサーは口ごもっていたが、なんとか聞こえるような声を出した。 『いや、その、な…。永瀬、メガネ、外しただろ?』 『え、うん、一度外してみせたけど。大して変わりはないよ?』 『それがなぁ…』 くぁー、とか妙な声が洩れている。この辺も、なんかリボルバーに似ている。 『でもって、後夜祭で告られて断ってただろ? そんときの…あー』 要するに、律子が可愛くて仕方がなかったと言いたいらしい。 たぶんそれを見てしまったから、意識しちゃって仕方なかったのだろう。そうとしか思えない。 あたしはちょっと、想像してみた。告白されて困ってる、律子の表情を。うん、絶対に可愛いぞこれは。 『それがなんなの? 解らないよ、そんなんじゃ』 律子はまだ攻める。鈴ちゃんとは、また違った強さだ。 しばらく言い渋っていたディフェンサーだったが、なんとか言葉を出す。 『まぁ、とにかく。これからはもう、まともに話すから、お願いだからこれ以上聞かないでくれねぇか?』 『また自分勝手なこと言うー』 『お願いだ、永瀬! いやマジで言えねぇんだよお前相手じゃ!』 悲痛な絶叫に変わる。あたしの予想は正しかったようだ。 その様子に、さすがに律子も攻めるのをやめた。 『そこまで言うんなら、これ以上聞かないけど』 『解ってくれたんなら、それでいいけどよ…』 はあ、と困ったようなため息の後、ディフェンサーは言う。 『んで、さっさとコマンダー認証しようぜ。あんまり時間喰うと、後で兄貴共が何言ってくるか…』 『クラッシャーちゃん辺りが、どこまで進んだのーとか言ってきそうだもんね』 『ああ。あいつはそういう奴だからな』 笑い気味に、ディフェンサーは返す。あたし達も、あとで言われそうだ。 『オレの新しい名前、きっちり考えてきたんだろうな?』 『…ごめんなさい』 苦笑しながら、律子は呟いた。 『コマンダーのことで一杯一杯で、その、少しも…』 『アホか』 『ごめーん』 呆れ果てたようなディフェンサーに、律子は情けなさそうに言った。 『今、ちゃんと考えるから!』 『さっさとしてくれよ? あー、ほんっとお前ってわっかんねぇ奴だなぁー…』 そうは言いながらも、ディフェンサーはどこか嬉しそうだった。 律子は一生懸命考えているのか、押し黙ってしまった。 二人の声が止んで、また滝の音が聞こえ始める。しっかり音が取れていて、結構うるさい。 そのまま、十五分が過ぎた。 あたしが腕時計を見てから見上げると、インパルサーは苦笑していた。 さっさと終わると思っていたらしい。うん、あたしもそう思っていたよ。 だけど続きが気になるので、すっかり生暖かくなったパルの胸にぺたりとくっついた。 もうしばらくしてから、ようやく律子の声がしてきた。 『あんまり、捻ってないんだけど…いい?』 おずおずとした律子に、ディフェンサーは投げやりに返事をした。 『あーもう、なんでもいいよもう。さっさとしてくれよ、じれってぇな』 『えと、それじゃ…』 律子は自分に念を押しているのか、ちょっと間があった。 『フェンサー君!』 本当に、捻りがなかった。あたしのパルみたいなもんだ。 二人の声とも滝の音とも違う、高い電子音がした。ディフェンサーが、コマンダー認証をしたからか。 電子音が消えた後、ディフェンサーの、呆れたような馬鹿にしたような声がした。 『…コマンダー認証、完了。マジで捻りの欠片もねぇなぁ…ま、親父よりはマシか』 『気に…入らなかった?』 『もういい、事が済んだんだから! さっさと出るぞ、湿気はだいっ嫌いなんだよ!』 今度は苛立ってきたのか、ディフェンサーは声を荒げた。こっちに来るらしい。 待ってよ、とそれを律子が追う。 『平気じゃなかったの?』 『平気だからって好きなわけねーだろ! オレらみてぇなマシンには、高温多湿は大敵なんだからな!』 『じゃあ、なんで温室なんかにいたの?』 『知るか! 適当に突っ込んだらここだったんだよ!』 ディフェンサーは、むきになってきている。足音が、近付いてきた。 あたしは、インパルサーから離れた。すぐここに来るだろう。 案の定、熱帯植物の温室に繋がっているドアが開かれた。重たい金属の足音もする。 植物に挟まれた細い通路を歩いてきたディフェンサーの後ろに、律子が小走りに付いてくる。 あたし達の前にやってくると、ディフェンサーは思い切り嫌そうな顔をしてインパルサーを見上げた。 「…ちったぁ気ぃ使えよ、インパルサーの兄貴」 「今度、足技の基礎から教えてあげましょうか? 筋はいいんですから、ちゃんと訓練すれば覚えられますよ」 そうインパルサーが茶化すと、ディフェンサーは背を向けてしまった。 「るせぇ!」 乱暴に歩いて、ディフェンサーは温室を出て行った。 困ったような目をしてそれを見送った律子は、表情を崩した。泣きそうになっている。 「フェンサーじゃ、ダメだったのかなぁ? もうちょっと、捻るべきだったのかなぁ?」 「かもねぇ」 あたしには、律子のネーミングセンスをとやかく言えない。インパルサーだからパルだったんだし。 律子はあたしとディフェンサーの出て行ったドアを交互に見たが、すぐにドアへと走っていった。 追いかけているのか、律子の声が間延びして遠ざかっていく。 二人のいなくなった温室は、やはりあまり人気がなかった。天気が良いから、皆外にいるからか。 あたしはふと、少し後ろに立っているインパルサーを見上げた。あんなに長いことくっついていたの、初めてかも。 彼はまだマスクを閉じてはおらず、整った顔で笑っている。 「さて、どうします?」 「どうするって」 この状況で、あたしに拒否権はなかった。顎を持ち上げられ、目線を向けさせられる。 先日、マリーが見せてくれたレイヴンの写真とまるで同じ笑い方のまま、パルは背を曲げてくる。 彼とは身長差がありすぎて距離が上手く詰まらないので、あたしはかかとを上げてつま先立ちになる。 唇を開かされ、パルのもので塞がれる。二度目は、どちらも慣れてきていた。 前回よりも力の込め方が優しいのは、それなりに自制が効いているからなのだろう。 ゆっくりと離されたので、目一杯上げていたかかとを下ろす。彼も、背筋を伸ばしてマスクを閉じた。 レモンイエローのゴーグルで目元を覆ったインパルサーは、ふいっと顔を逸らす。 「僕、こんなに幸せでいいんでしょうか…」 「いつになくべったべたしてたもんねぇ、あたしら」 ディフェンサーと律子の話を聞くためとはいえ、ずーっとあたしはパルに抱き付いてたわけだし。 おまけに二度目とはいえ、することしてしまった。進展する速度が、確実に加速している。 ていうかこんな場所で何やってんだ、あたしは。そう思ったら、途端に物凄く恥ずかしくなってきた。 まともにパルを見られない。見たら恥ずかしさで絶叫する、間違いなく。 それを回避するため、あたしは通路を走ってドアを開け、外に出た。外気温は、温室に比べてちょっと低い。 頬に手を当ててみると、熱い。なんでいつもこうなっちゃうんだ。 今はとにかく、パルから離れることが先決だ。 後ろを見ずに走りに走って、立ち止まった。 すると、その少し後ろで、がちん、と重たい足音が止まる。付いてきてたらしい。 あたしは振り返ることもせず、更に歩いていった。しばらく突き進むと、辺りが開けた。 周囲の芝生の緑から浮いてみえるほど、色鮮やかな空間があった。 一面の、コスモス畑だった。 濃いめのピンクの花が、風に揺れている。その中には、白い花も混じっている。 クラッシャーが言っていたのは、これだったらしい。その近くには、バラ園もあるし。 思わず見入っていると、背後にインパルサーが立ち止まった。同じように、コスモス畑を見下ろした。 「なんで逃げるんですか」 「逃げてない」 ただ、凄く照れくさくて、そのせいで恥ずかしくなっちゃっただけだ。 数え切れないほどのコスモスを見下ろしながら、インパルサーは腕を組む。 「嫌なら嫌と、言って下さればいいんです。僕は、それに逆らいませんから」 そういうわけじゃない。 ただ、まだ認めたくないのかもしれない。 ああやって触れられるたび、触れ合うごとに、痺れはどんどん強くなる。 痛くはない。痛くはないけど、それはあたしの大部分を占めてきている。 今だって、そうだ。すぐ近くにパルがいるだけで、もう痺れている。 これが、恋なんだ。 あたしは、パルが好きだ。後夜祭の時に、いやというほどそれを自覚した。 理由なんていらないし、聞かれても答えられない。どうして好きになったのか、なんて。 もう、自分じゃ押さえられない。痺れはあたしの中心に埋まってしまって、絶対に外れそうにはない。 パルもあたしを好きだって解ってるし、何度も何度も聞かされた。 なのに。 なんで、悲しくなってくるんだろう。 どっちも好きで、それでいいはずなのに。なんでこんなに、悲しいんだろう。 パルがロボットで、あたしが人間だからなんだろうか。いや、もっとある。 彼は地球で生まれたわけじゃないし、あたしはユニオンで生まれたわけじゃない。 あたしはパルが戦っていても、何の役にも立てない。絶対に、ただここにいるだけで終わる。 ただの足手纏いだ。鈴ちゃんやりっちゃんや、神田みたいに強くなんてないし。 増して、これからもまだまだ敵が来るのであれば、もっと役に立てない。 何の、役にも立てるわけがない。 そうか。 だから、あたしは。 「なんで、今度はいきなり泣いているんですか?」 身を屈めて、インパルサーがあたしを覗き込んできた。あたしに聞くな。 あたしだって、こんなことで泣きたくない。ああもう、一番情けないのはやっぱりあたしだ。 止めようにも、涙はすぐには止まってくれない。前々から薄々感じてたことだけど、はっきり自覚すると来る。 本当に、どうしようもない。 「由佳さん」 パルは、あたしを見下ろした。 「僕が何かしました?」 「してない」 「それじゃあ、なんで」 「言えるかぁ!」 あたしは、先程のディフェンサーの気持ちがよく解った。こんなの、言えるわけがない。 なんとか涙は落ち着いてきて、服の袖で目元を擦る。大した量じゃなくて良かった。 全く、なんてことを考えちゃったんだろう。他人と自分を比べてどうするよ。あたしは小学生か。 一度深呼吸してから、コスモス畑を見下ろした。遠くの広場には、まだまだ人がいる。 「なんでもないんだから」 「なんでもなくて、泣きますか?」 と、どこか茶化すように言い、インパルサーはあたしへ顔を向けた。 「やっぱり、さっきは」 「だから!」 二度も同じことを言われると、さすがにくどい。 パルは上半身ごと首をかしげて、あたしの目線に合わせる。 「ですから?」 「…続きを言えと?」 「出来ることならお願いしたいですね」 マスクが開いていたら、にこにこ笑っているであろう声を出してくる。 やっぱりか。それじゃまるで、誘導尋問だ。いや、実際にそうだ。 そうだと解ったら、意地でも言う気が起きなくなった。 「言わない。言わされるぐらいなら、絶対に言ってやらない」 「そうですか」 身を引いたインパルサーは、残念そうに肩を落とす。大体、言わなくたって解るだろうに。 パルはしばらくマリンブルーのマスクを掻いていたが、その手を止めた。 「言って下さった方が、僕としても安心出来るのですが」 「安心?」 オウム返しに尋ねると、パルはこくんと頷く。 「はい。由佳さんの態度で大体のことは予想が付くのですが、確証が得られないと、少し怖いんですよね」 「それじゃ、尚のこと言ってやらなーい」 「なんでですかぁ!?」 相当に驚いたのか、インパルサーは素っ頓狂な声を上げた。 あたしはマリーの話を思い出しながら、彼を見上げてにやりとする。 「恐怖が一番の呪縛だってんでしょ? なら、しない手はないなーって」 「…意地が悪いですね」 「誘導尋問しようとしたあんたには言われたくないなぁ」 そう言いながら、私は笑ってしまった。さっきまでやけに強気だったパルが、もうしょげている。 さっきとは正反対だ。ていうか、どっちも感情の切り替えが早すぎる。 あたしはコスモス畑から目を外し、かなりがっくりしているインパルサーを見上げた。 それは、あまりにも不憫な姿だった。なので、いつかは言ってやろうと思った。 正面切って、パルが好きだって。 広場に戻ると、ディフェンサーがリボルバーに殴られていた。周囲に、ギャラリーまで出来ている。 ばっぎゃん、と凄い音がして、ディフェンサーは前方に転ばされる。ずさっと、頭から芝生に転がり落ちた。 顔から地面に突っ込んだ弟を見下ろし、リボルバーは、拳を高々と突き上げる。 「はっはっはっはっはぁー!」 「ってぇー…」 芝生の上から起き上がったディフェンサーは、訝しげに兄を見上げる。 「ていうか、なんでいちいち殴るんだよ? それ、痛ぇんだぞ?」 「ごちゃごちゃぬかすんじゃねぇ!」 にっと笑ったリボルバーは、また勢い良くディフェンサーの胸元を殴り上げた。 軽々と浮かんだ、ディフェンサーは追撃で後方へ飛ばされた。くるっと回転して、離れた位置に着地する。 ばきりと指の関節を鳴らしながら、リボルバーは叫んだ。相変わらず、エネルギーの固まりだ。 「オレはただ、てめぇにコマンダーが出来たことを喜んでやろうとだなぁ!」 「普通に喜べねぇのかよ、この馬鹿兄貴!」 ディフェンサーはリボルバーを指し、絶叫した。もっともだ。 それでもリボルバーは攻撃を止めず、ディフェンサーを追っては殴る蹴るを繰り返していた。 鈴音はリボルバーを止めることを諦めたのか、変な笑いを浮かべていた。鈴ちゃんでも無理なのか。 クラッシャーとイレイザーは、暴走し続ける兄を止めることもなく、涼平とさゆりと一緒に格闘を見ていた。 涼平は呆れ顔になっていたが、さゆりは相変わらず淡々としたもので、無表情に近い。 一人だけ満面の笑みを浮かべているマリーは、頬に手を当てる。 「平和ですわね」 「どこがっすか」 わざわざ手付きまで加え、神田がマリーに突っ込んだ。ナイスだ葵ちゃん。 リボルバーは格闘しているうちに調子に乗ってきてしまったのか、思い切りディフェンサーを蹴った。 上から殴って地面に落下させ、その背を踏み付けた。銃口を振り上げ、空に向ける。 「いよっしゃあ、せっかくだからここで一発祝砲を!」 「撃つんじゃない!」 鈴音が叫ぶと、リボルバーはにやりとして振り向いた。 「冗談に決まってんだろ、スズ姉さん」 リボルバーにからかわれたことで、鈴音はむくれてしまった。腕を組んで、背を向ける。 背中を踏み付けられたままのディフェンサーは上を見、けっ、と顔を逸らす。 「タチの悪い冗談だぜ」 直後、足を外されると同時にディフェンサーは立ち上がり、リボルバーの顔面へ拳を打ち込んだ。 だがそれは、リボルバーに受け止められてしまう。ぎりぎりと、双方の関節が鳴る。 しばらく押していたディフェンサーだったが、軽く地面を蹴って体を浮かばせ、下半身を回した。 「だっ!」 大きな両足をリボルバーの胸に当てて蹴ると、掴まれていた腕を外して脱する。 少し離れた位置に着地し、ディフェンサーはにやりと笑う。 「さぁて、続きは?」 「ちぃとは進歩したじゃねぇか、フォトンディフェンサー」 ディフェンサーの腕を投げ返したリボルバーは、どん、と片足を前に出して構えた。 肘から先のない二の腕を上げ、ディフェンサーは投げ返された腕を填めた。 腰を落として構えると、双方は勢い良く飛び出した。 「安心してー」 あたしの方を見、クラッシャーはにっこり笑った。 「本当にやばくなってきたら、馬鹿兄貴共は一気にへっ潰しちゃうからー」 「だが、場所を弁えて欲しいものでござるな」 イレイザーは目で兄達を追っていた。あたしは、ちょっとイレイザーに言いたくなった。 「だったらなんで止めないの?」 「それはそれ、これはこれよ。無用な被害は、御免被るでござる」 と、にやりとしたイレイザーに、インパルサーはマスクフェイスを手で押さえる。 「あなた達ねぇ…」 二人の戦いを見ていた律子は、すっかりむくれていた。 「ホントに自分勝手なんだから、フェンサー君は」 「全くねぇ」 あたしはそう返しながら、つい笑ってしまった。 結構どうでもいい理由で戦い続ける、二人の姿が可笑しく見えたこともある。 戦っているうちにリボルバーとディフェンサーは空中戦に移行し、更に激しく格闘を繰り返す。 二人の戦いはヒーローショーのように思われているようで、親子連れは沸き立っていた。 うん、確かに。考えようによっては。 かなり、平和な光景かもしれない。 04 6/24 |