煌々と蛍光灯の輝く店の前に、するりとインパルサーは降下した。 とん、とアスファルトにつま先を当てて着地すると、入り口付近にたむろしていた三人の少年達が振り返った。 全員がぽかんとしたように見ていたが、そのうち目を剥いて、お化けでも見たような顔になる。 その反応があまり面白くなかったが、あたしは何も言わないことにした。いいじゃないか、ロボットでも。 今までコンビニには来たことがなかったのか、物珍しげにインパルサーは辺りを見回していた。 インパルサーの視線が少年達へ向くと、彼らはすぐさま距離を開けた。かなり、ビビられてしまっている。 「僕、そんなに恐ろしいんですか?」 悲しげに呟いたパルの隣に立ち、あたしはドアを押して開けた。 「珍しいんだよ。それだけでしょ」 店内に入ると、かなり暖房が効いていた。ぶっちゃけ暑い。 あたしの後に入ってきたインパルサーを見た店員は、かなり驚いたような顔をしている。 それに気付いたインパルサーは、またもや悲しげな目線をこちらに向けた。 「由佳さん…」 「気にしないの。パルは悪いことしてないんだから」 マフラーの襟元を緩めながら、あたしは彼を見上げる。泣きそうなのか、ゴーグルの色が薄い。 深くため息を吐いてから、インパルサーは項垂れた。なんともナイーブな。 あたしは自分の食べるものを何にするか、レジ付近を見て考える。この時期は中華まんが多い。 ずっと寒空にいたせいか、辛いものより甘いものが食べたい。さて、どれにするか。 パルは陳列棚に引っかからないようにしながら、店内を見て回っている。 しばらく考えていたが、せっかくなので新製品にしてみることにしよう。食べたことないのが多いし。 近くのケースからホットココアを取ってから、蒸気でガラスの曇った蒸し器を指し、怯え気味の店員に注文した。 「カスタードの下さい」 「あ、はい」 一瞬間を置いてから、店員は反応した。お弁当の並ぶ棚の前に立つパルは、申し訳なさそうに背を丸めていた。 あたしはなんとなく、ドアの方を見た。ガラスの向こうの暗闇では、少年達がなにやら騒いでいる。 ガラス越しだからはっきりとは聞こえないけど、インパルサーが本物のロボットかどうかの談義のようだ。 あたしはリュックから出した財布から小銭を出し、会計を終えたので、インパルサーを呼ぶ。 「パル、終わったよー」 「一般的な相場より商品の値段が割高ですね、ここ」 「そういうところだよ、コンビニって」 あたしはそう言いながら、ドアを開けた。一気に寒くなる。 ほかほかしている包みの入った袋を持って出ると、パルも続いた。少年達が、一斉にこちらに向く。 好奇心と警戒の入り混じった表情をする彼らは、あたしとインパルサーを見比べた。その一人が、立ち上がった。 「マジかよ…」 「何がですか?」 不思議そうに、インパルサーは首をかしげた。少し後ろの少年が、声を上げた。 「戦闘ロボットがうろついてるって話、てっきり都市伝説かなんかかと思ってたけどマジだったんだ!」 「でもこいつ、警察のもんじゃなさそうだな。パトライトも付いてねーし。警察の秘密兵器ってのは嘘かぁ」 と、長髪の少年がぼやいた。変な噂が流れているようだ。 ゴミ箱の脇で缶ジュースを飲んでいた少年は、立ち上がった少年を見上げる。 「中身は人間じゃねーの? 宇宙刑事みたいに」 「人間だったら空なんて飛べないだろ、まず。こいつ、飛んできたんだから」 かなり脱色した色の髪をした少年が、首を横に振る。そうだよ、本物のロボットなんだから。 彼らは、どんどん勝手な話を続けていく。合体するとかしないとか、敵がいるとかいないとか。 いつのまにか、ロボット兄弟達のことは不思議な知られ方をしていたようだ。真実は隠されているけど。 悪意のある噂もあるようだったけど、あまり気にしないことにした。嘘ばっかりだったし。 インパルサーは一歩前に出ると、少年達を見下ろした。 「一つ、ご忠告をしておきます。あまり、僕に近付かない方が身のためですよ」 「やっぱ、敵でも来るのか? マジで地球守ってたりするのかよ!」 好奇心の満ちた声を上げた少年に、パルは言う。 「それ以上、答える義務はありません。それでは」 やけに機械的に言いながら、パルはあたしを抱え上げた。視界が上がる。 また騒ぎ出した少年達を見下ろしながら、ゆっくり上昇して遠ざかっていった。 あたしはお腹の上に置いた袋の温かさを感じながら、彼を見上げる。ゴーグルが明るい。 縮めた翼をまた伸ばし、冷え切った夜風を切り裂きながら進む。街の明かりが、徐々に遠ざかる。 月の周辺や辺りが気になったけど、見ないことにした。今は、スコットもマシンソルジャーも見たくない。 道路の上を滑っていくと、隣が開けた。橋の上を過ぎると、広い河原と土手が長く伸びている。 いつのまにか、ぐるっと回ってうちの近くに戻ってきてしまったらしい。なんのこっちゃ。 あたしはそれが残念で仕方なかったけど、この状況では遠出が出来るわけがない、と納得することにした。 土手に近付くと、先程と同じように旋回して高度を下げてから、インパルサーは足を伸ばした。 つま先で草と土を噛み、ざざっと着地した。 夜の土手は、昼間とはかなり様子が違っていた。 買ってしばらく経ったせいで、カスタードまんは少し冷めていたけど、甘くて温かくておいしい。 半分ほど食べてから、押し黙ったままのインパルサーを見上げる。今度は、何を考えているのやら。 あたしは手袋を外して、ポケットに入れる。ココアを開けて飲みながら、電車の窓明かりが滑る水面を見つめた。 ちょっと欠けている割に眩しい月明かりが、辺りを青白くさせていた。 「スコットさんにああ思われても、仕方ありませんね」 苦笑したような声を洩らし、インパルサーは曲げた膝の上に手を置いた。 頭を反らして、レモンイエローを上向ける。その先を辿ると、大きな天の川があった。 「逼迫した事態を解決するためには、事態を進行させることも、必要な時もありますからね」 「あたしを連れてきたことが、作戦だなんて。そんなこと、あるわけないじゃない」 ビルの上でスコットと交わした会話が、思い出される。あたしは、少し腹が立っていた。 確かに今は、ゼルの襲撃がいつ起こるか解らない。だけど、パルがそんなことするわけがない。 あたし達と何度か会っているスコットは、それを解っているはずだ。それなのに。 甘ったるいカスタードを食べながら、あたしは苛立ちを紛らわす。でも、スコットに怒ったって仕方ない。 月に、薄く雲が掛かる。弱まった月光の下でパルは川を見下ろし、ぎしり、と首の装甲が軋む。 「地球を守る、なんて…。僕は当初、地球を制圧するために来たはずなんですけどね」 「そんなの、昔の話でしょ」 「そうですね。でも、侵略者が正義の味方に思われるなんて、不思議な気がしちゃいます」 少し笑いながら、インパルサーは足を伸ばした。枯れた草が潰され、がさりと擦れる。 「人を守りたいなんて考えるようになったのも、地球に来てからですし」 「あたしもだよ。戦えないくせに、パルを守りたいなんてさぁ…」 自分にそんな正義感があったなんて、今まで知らなかった。戦士になりたい、なんて願望も。 空になった包み紙を袋に押し込め、まだ大半が残っているココアを飲んだ。こっちもこっちで、甘ったるい。 缶を下ろしてから、あらぬ方向を見つめる彼を見上げた。ゴーグルが、あたしに向けられる。 「ありがとうございます。そう思って頂けるだけで、僕は嬉しいです」 「思うだけじゃねぇ…」 せめて、本当に戦えたら。あたしは、心底そう願っていた。 思うだけなら、誰にだって出来る。でも問題は、そこから先なんだ。 半分以上が減った缶を、後ろのアスファルトの上に置く。こん、と金属音がいやに響いた。 土手の傍の道路を車が通り、ヘッドライトとエンジン音が遠ざかった。さすがにこの時間は、車通りが少ない。 右側に座るパルの腕にもたれると、余計に空しくなった。女々しいなぁ、あたしは。 川の上を通ってきた風はかなり冷たく、すっかり冷え切ってしまった足からは、更に体温が抜けた。 足を抱えてから、目を閉じた。コート越しに、彼のエンジンの震動が伝わってくるのが解る。 「パルー」 割と逞しい彼の二の腕を掴みながら、あたしは彼を見上げる。 「何もなかったら、どこに連れてくつもりだったの?」 「以前、由佳さん達に連れていって頂いた自然公園です。上からなら、すぐに入れますから」 人差し指を立てたインパルサーは、それをくいっと下へ向ける。 あたしは体を起こし、パルを覗き込んだ。それは、あからさまに違法だぞ。 「ストレートに不法侵入だよ」 「別に僕は、自然公園を荒そうというつもりではないのですが」 「そういう問題じゃないの。でも、なんでそこなの?」 「あの公園には、展望台がありましたよね?」 「うん、あったね」 あたしは、十月末の記憶を思い出した。確かに、鈴ちゃん達と昇ったっけ。 「でも、それが一体なんなの?」 「あの位置は、僕の落下軌道とほぼ同じなんですよ」 と、どこか気恥ずかしげにパルは笑った。そうだったのか。 「自然公園の下を歩いていたから、最初は気付きませんでした。ですが、由佳さん達を呼ぶために飛んでみたら、以前に見たことのある光景だったんです。それでメモリーバンクを探ってみたら、落下時に通過した地点であることが解ったんですよ」 彼は人差し指を上向けて、軌道を描くようにすいっと空中を滑らせる。 あたしは上目に、パルを見上げる。納得が行った。 「そういうことかぁ」 「はい。僕がこの星に落下してきて、最初に見た光景でした」 頷いてから、可笑しそうにパルは笑う。 「そのまま、ろくに軌道修正をしないでいたら、由佳さんの部屋に突っ込んでしまったんです」 「それが、全部の始まりなんだよね」 窓もカーテンも壁も、全部ぶちぬかれていて、青いロボットが転がっていた。 本当に、ただの偶然だったのだ。彼があたしの部屋に来る理由は、それ以外に何もない。 こちらに振り向いたインパルサーは、ゴーグルの奧でサフランイエローの目を細める。 「軌道修正を行わなくて、本当に良かったです。もう少しで、由佳さんに会えなくなるところでした」 「運命だって言いたいの?」 「そう言い直しましょうか? 決して、間違いではないのですから」 地面から離されたパルの手が、あたしの頬に当てられる。僅かに、枯れた芝の匂いがした。 あまり力の入っていないパルの指先に頬を撫でられながら、あたしはふと、こんなことを思った。 「パル、なんでいっつもそこなのよ。他がいいってことじゃないけどさぁ、なんで?」 「いいじゃないですか、僕が好きなんですから」 あたしの問いに、パルは多少むくれたような声で言い返した。 「由佳さんだって、いつも僕の胸に頭を当ててくるじゃないですか」 「位置が丁度良いの」 立ってても座ってても、それより上にはあたしの背が届かないせいなんだ。パルがでかいからだ。 真っ直ぐにこちらを見下ろすレモンイエローに映るあたしの顔は、怒っているのか照れているのか解らない。 その、どっちでもあるのかもしれない。顔に添えられている彼の手に、自分の手を重ねてみた。 かなり大きさが違う。ロボットと人間なんだから、当然といえば当然のことだ。 朝方の窓みたいに冷えていた装甲があたしの体温で温まり、残るのは硬い感触だけになる。 少し手を動かすと、かつん、とリングが当たった。そういえば、付けてたっけ。 不意に、反対側の頬にも彼の手が置かれる。そのまま、顔を上向けさせられてしまった。 いつのまにかマリンブルーのマスクは開いていて、サフランイエローの目があたしを見下ろす。 先程よりも少しは温度の高いパルの唇に、あたしのそれが塞がれる。素早いことだ。 あたしは中腰に立っていたけど、背伸びをして塞ぎ返していた。体が、勝手に動いてしまった。 パルからゆっくり離れてから、あたしは自分で何をしたか、やっと自覚した。 手を放されて座り込むと、力が抜けていく。やばい、なんだか解らないけどやばい。 「どうかしましたか?」 不思議そうに覗き込んできたパルから、あたしは顔を逸らした。ダメだ、まともに見られない。 胸が痛いとか苦しいとか、そういう範囲じゃない。痺れが、熱に変わっていく。 ぼんやり光っている彼の瞳が、じっと見ているのが解る。今、あたし、どんな顔してんだろう。 熱は次第に落ち着いてきたけど、温度は上がっていく。体の芯が、焼けてしまいそうに思えるくらいに。 外の寒さが、まるで感じられない。自分の熱が、寒さを消してしまっているからだ。 「由佳さん?」 心配げな声が、背中に掛けられた。あたしは俯く。 「なんでもないから」 熱に隠れていた心臓の音が聞こえてきて、それがやけにうるさい。 自分の中の事だから、彼に伝わっていないとは解ってはいるけど、つい心配してしまう。 ダメだ。どんどん、パルが好きになる。足元に置いた左手の、あのリングが重たい。 遠くの街灯の明かりが銀色を光らせていて、その光が眩しかった。 不意に、背中に重みがあった。マリンブルーの腕があたしを包み込み、広い胸の中に納められる。 「ホントに、なんでも」 好きだ。大好きだ。 あたしは、パルが大好きだ。 「由佳さん」 優しい声が、すぐ後ろから聞こえてくる。 「僕も、あなたが好きです」 なんで、言えないんだろう。 こんなに好きで、パルも好きだと言ってくれているのに。 あたしが人間で彼がロボットだから、とか、そんなことで迷う必要なんてないのに。 迷うな、躊躇うな、戸惑うな、逃げるな。情けないぞ。 あたしは、彼を守れるような戦士にはなれない。だから、せめて。 パルの、 恋人にはなりたい。 遠くを行く電車の音が、規則正しく響きながら遠ざかっていった。 細長い光が波打つ水面を通り過ぎ、同時に弱い風が近付く。 冬独特の匂いがする空気を吸い込んで、ようやくあたしは、中の熱を落ち着けることが出来た。 あたしがロボットだったなら、きっとオーバーヒートしていた。回路があれば、ショートしていたかも。 心臓の高鳴りはまだ止まらなかったけど、それでも、大分まともになった。 胸の上に回されて肩を抱いている、インパルサーの太い腕を抱える。後ろに、少し体重を掛けた。 もう、迷うな。あたしは、パルが好き。だから、それでいいんだ。 それにこれ以上言わないでいると、絶対に後悔する。 せめて、戦いが始まる前に。 「パル」 言える。今なら、きっと。 土手の向こうを通る車の震動が、僅かに足元に伝わってきた。 乾いた草の上に置いた足を伸ばして、パルに体重を全て掛けてから、見上げた。 いつもと変わらぬ色合いの、形の良いサフランイエローが、あたしの視界の全てになる。 「あたしも」 自然と、あたしは笑っていた。 「パルが好き」 長い長い、間があった。 あたしはとうとう言えたことで力尽きていたし、インパルサーは事態を飲み込めていないようだった。 せっかく言ったのに、何をまた。そのことに多少呆れてはいたけど、突っ込む気は起きなかった。 肩を掴むマリンブルーの指先が、きしりと鳴る。力が込められて、押さえ込まれる。 背中越しに、彼の声が響いた。 「由佳さん」 「何よぅ」 真面目くさったパルの口調に、つい笑ってしまった。 更にぎゅっと抱き締められてしまい、完全に身動きが取れなくなる。 彼は深く息を吐いてから、表情を緩ませる。 「僕、生まれてきて良かったです」 「大袈裟なこと言うなぁ」 「本当にそう思ったんですから」 パルは、頭へ頬を寄せる。肩に当てていた手が外されて、手の甲が頬に当てられた。 あたしは顔を傾けて、くっつけるだけくっつける。相変わらず冷たいけど、もう気にはならない。 このまま、時間が止まってしまえばいい。そうしたら、戦いも朝も来ない。 下手な漫画みたいな事を考えてしまってから、あたしは自分が可笑しく思えた。今時、なんだよそれ。 パルの手が好き、腕の中が好き、声が好き、全部が大好き。ただ、ここにいてくれるだけでいい。 なんだか、パルの気持ちが解ったような気がする。 役に立つとか立たないとかじゃなくて、本当にそれで良かったんだ。 好きな相手が、ここにいるだけで。 「なんか」 くっつけていた頬を外してから、あたしは笑う。 「帰りたくないかも」 「そうですね」 と、インパルサーは笑った。考えることは同じか。 愛おしげな表情で見つめていたが、彼はあたしの額に白銀色の頬を寄せる。 「ずっと、待っていた甲斐がありました」 時間が許す限り、このままでいたい。でも、それは無理な話だ。 あまり長居をすると、風邪を引いてしまうかもしれないし。そうなったら、元も子もない。 あたしを抱えていた腕が緩められ、解放される。それが、凄く惜しいことに思えた。 すると、顎に手を添えられる。これで、今回は三度目だ。 唇を半開きにさせられて、近付ける。だがそれが、不意に止まった。 顎から手を外され、インパルサーは立ち上がって構える。その表情は固く強張り、一変していた。 彼の視線は川へ向いていて、あたしはその先を辿る。夜の闇を吸った水が、黒々と流れ続けているだけだ。 すると。その上に、何かの影と光が落ちた。 直後。 だばん、だばん、だばん、と、三回。何かが水を跳ねて、川の中に落下してきた。 ぎらついた目を揃ってこちらへ向けたそれは、月を遮ったシルエットに良く似ている。いや、同じものだろう。 分厚く丸みを帯びた装甲に包まれた腕をだらりと下ろし、一体が水を掻き分けて歩いてきた。 パルのゴーグルと同じレモンイエローの単眼が、一際強く輝いている。 文化祭の時に聞いた、あの解らない言葉が発される。だがそれは、すぐに日本語になった。 「あの刑事は、ここにはいないようだな。丁度良い」 若い、男の声。 狡猾さと執念深さを感じさせる、嫌な口調だった。 「コマンダー付きとは、更に都合が良い。攻撃してくれと言っているようなものだ」 インパルサーの目が、見開かれた。 いけない。あたしは直感的にそう思ったけど、立ち上がれなかった。 彼はあたしを制止したまま、前に出る。じゃきん、と左腕の装甲が開いて、鈍い色の円筒が現れる。 そこから伸ばしたレーザーブレードを唸らせながら、川の中に立つ三体のマシンソルジャーを見据えた。 「誰も、戦うことなんて望んでいないんです。戦いは何も生み出さないことを、あなたも知っているはずです」 優しい声が、怒りに震えている。 右手を力一杯握り締めているせいで、関節が軋む音がしている。 「ゼル・グリーン」 「なかなか物知りだな、ソニックインパルサー。挨拶の手間が省けたぞ」 楽しむような、対照的な声。これが、ゼル。 「高説な説教、どうもありがとう。だが僕はね、僕のしていることが間違っているなんて思ったことは」 レモンイエローの単眼が、ぎらりとした。 「一度だって、ありはしないんだ」 右肩に002が印されている藍色のマシンソルジャーは、ずしゃりと大きく踏み出した。 ばきばきと川の石を砕きながら、銃口を上げて近付いてくる。 無表情に近い顔をした彼は、見開いていた瞳を細めて、力一杯マシンソルジャーを睨んだ。 真紅の、瞳で。 「由佳さんには、手を出すな」 紅色の刃の光を強め、インパルサーは静かに猛る。 マリンブルーの装甲に包まれた足が、ざばりと水を切り裂く。 背中の翼を倍以上に長さに変化させてから、レーザーブレードを突き出した。 「そして、僕にも手を出すな!」 戦いが。 また、始まってしまった。 04 7/24 |