どこもかしこも、開かない。
　バックヤードと店内を繋ぐドアも、裏口も、二階の窓もドアも、倉庫に入るためのドアも、果てはトイレのドアまでも。 麻里子の生首と胴体とツブラを両脇に抱えたまま、狭間は途方に暮れた。両脇で彼女達が暴れたので解放すると、 両者はワックス怪獣の浸食から免れているテーブルに早々に避難した。そこで、狭間は足元にじわじわと迫りくる 液体に気付き、慌ててテーブルに昇った。この際、行儀が悪いなどとは言っていられない。
　そうこうしているうちに、完全に退路を塞がれてしまった。テーブルの下に置いておいた荷物もワックスがべったりと 付着してしまっていたが、回収するために手を伸ばせばワックスに手を絡め取られて引き摺りこまれそうなので、 ぐっと我慢した。どうせ、大したものは入っていないのだから。しかし、我慢しようと思った傍から、衝動が喉の奥 で疼いてきた。仕事を早く終えたいと思うがあまりに、食後の一服をしなかったせいだ。

「タバコ吸いてぇ」

　口寂しさから狭間がぼやくと、麻里子は首を元に戻してから同意した。

「全くです」

「え？　麻里子さん、吸うの？」

「嗜む程度には」

「意外……でもないか」

　いかにも御嬢様然とした振舞いをする麻里子が、蓮っ葉なことをする様は想像しづらいが。

「狭間さん。このまま脱出出来なかったら、どうしましょうか」

　テーブルの上で正座した麻里子は、真っ直ぐに狭間を見据えてきた。狭間はやや身を引く。

「いや、そんなことはないだろう。さすがに」

「その根拠はどこにあるのですか？　以前の私とカムロであれば、脱出するために何かしらの行動が起こせたかも しれませんが、今の私達では何も出来ません。髪を刃にすることも出来ませんし、毒針にするための体液を生成 する器官は目玉と共に潰されてしまったので当分は使えませんし、電話は店内にあるので誰かに助けを求めることも 出来ませんし。ですので、脱出出来なかった場合の身の振り方を考えるべきです」

「具体的には？」

「そうですね……。籠城することになった場合、店内に残された食糧をいかにして効率よく消費しつつ外部との連絡を 取るか、ということや、ワックス怪獣に体を塗り固められてしまった場合は潔く仮死状態になるべきか、そうでなかったら ワックス怪獣を懐柔するか、ということですね」

「どっちも考えたくないんだが」

「でしたら、狭間さんは具体策をお考えになっていますか？　バックヤードには電話はありますが、このテーブルの 上からでは手が届きませんし、届いたとしても電話回線が生きているかどうかは怪しいですし、カムロもツブラさん もワックス怪獣と戦ったところで勝ち目があるようには思えませんし」

〈俺はそこまで焼きは回っちゃいないが、麻里子の生命維持を最優先にしている以上戦闘力が落ちるのは否めない からな。歯痒いもんだな。おい、天の子。いっそ巨大化して、店ごと奴をぶっ壊せ〉

　カムロの不穏な物言いに、ツブラはむくれる。

「ヤ！」

「そんなことをしてみろ、俺の仕事場も麻里子さんの下宿先もマスターの収入減もコレクションもパーだ。そうなると、 今度こそ無事じゃ済まないぞ。マスターは怒らせちゃいけない、マスターだけは」

　狭間がカムロを諌めると、カムロは少し勢いを失った。

〈それは確かになぁ。九頭竜はまだしも、海老塚だけはどうにも〉

「だろう？」

〈じゃあ、他に何か手立てがあるってのか？　え？　おい？〉

「それはそれとして、この前からずっと気になっているんだが」

　麻里子の首の切れ目と生首とカムロを注視し、狭間は疑問をぶつけた。

「麻里子さんって、首と胴体で生命活動は完全に独立しているのか？」

「はい？」

〈今聞くことでもねぇだろ、それ〉

　麻里子が呆気に取られると、カムロも半笑いになる。

「でも、こんな時でもないと聞けないと思ったんだ。日中は仕事で忙しいし、休憩時間は別々だし、友達ってほど仲が 良いわけでもないし、行動範囲も趣味も大違いだから、突っ込んだことを聞くに聞けなかったんだ。他の怪獣に聞く のもなんだし、面と向かって話が出来る状態にあるのであれば、当人から聞くに越したことはないかと思ってさ」

　興味のあることを聞けばタバコを吸いたい気持ちが紛れるかもしれない。そう思った狭間が並べ立てると、麻里子 はほとほと呆れ果てたと言わんばかりの顔をしたが、説明してくれた。御丁寧に、自分の首を持ち上げて。

「それでは、ご説明いたします。確かに、普通の人間は首と胴体が切り離されればまず生きていけません。血液を 循環させて酸素を供給し続けなければ脳は酸欠に陥って使い物にならなくなってしまいますし、胴体も脳による制御 を受けていなければデタラメな電気信号が駆け抜けて四肢が暴れ回ってしまいますし、何よりも切断面から血液が 流出して失血死します。実際、私は渾沌の頭領であるジンフーに首を切断された際に失血死しかけましたが、若衆 達からの量の輸血と辰沼先生による怪獣義肢移植手術により、辛うじて死を免れました。その施術の際、私はカムロの 髪の毛によって傷口を塞がれると同時に、髪の毛を用いた新たな内臓を手に入れたのです。狭間さんのお察しの 通り、私の首と胴体は独立しております。最初は私も首を縫い合わせようと思ったことはあるのですが、縫い目 が目立ってしまいますし、この方が便利だと気付いたからです」

　麻里子は自分の首を膝に乗せ、狭間を見上げてきた。奇妙な光景だが、近頃見慣れてきた。

「カムロは私を生かすために、己の肉体に少しばかり細工を加えたのですよ。怪獣義肢は元々は人間とは全く違う 生体構造を持つ生命体ですから、そのままでは繋ぎ合わせたところで役に立ちませんし。通常は辰沼先生のような 闇医者や怪獣義肢職人が手を加えるのですが、カムロは構造が複雑だったので手付かずでした。通常ならばそう いった怪獣義肢は除外されるのですが、辰沼先生はカムロと私の肉体的な相性がいいと一目で見抜き、施術して 下さいました。そして今に至ります。話を戻しますが、カムロは髪の毛の内部に人間の内臓と全く同じ機能を作り、 私に栄養を与えてくれているのです。ですが、燃費はそれほど良くないので、首と胴体を動かすためには常人よりも 多くエネルギーを使うのです。摂取と排泄の方法は常人と変わりません。食べる量が異常に多いのはそのためで、 私の肉体が常軌を逸した身体能力を発揮出来るのは、体内に蓄積させた莫大なカロリーを使っているからです。 いかにカムロが私の肉体を強化してくれているといっても、熱量がなければ力も強く出来ませんからね」

〈まあ、そういうわけだ。気が済んだか、人の子〉

　やる気なく、カムロは短い毛先を振る。

「スンダカ？」

　ツブラはカムロの言葉を真似つつ、狭間を覗き込んできた。

「あんまり近付くな」

　今朝のことを思い出してしまう。狭間はツブラを押し返してから、ふと思った。ワックス怪獣がこれほどまでに 近くにいるのに、気温がほとんど上がっていない。むしろ、雨脚に伴って気温が下がっているので、底冷えしそうな ほどである。いかなる怪獣も、たとえ冷凍光線を放つ怪獣であろうとも、熱源発生器官を必ず体内に宿している。体温は 人間のそれよりも高いはずだが、ワックス怪獣はほとんど熱を持っていない。
　となれば、ワックス怪獣は本体ではないということか。そんなことに気付いたからどうだっていうんだよ、と狭間は 自分で自分に反論しそうになったが、その疑念を振り払って考えた。そもそも、ワックス怪獣はどうやってワックスの 缶の中に入っていたのだろうか。怪獣由来の成分を使って作る工業製品も少なくはないが、そういった製品は殺処理が 施されているので怪獣が息を吹き返すことはまずない。稀にあったとしても、喋って自力で動けるほどの力があるわけ ではない。増して、体積を増やすことなど――――

「あ、そうか！」

　突然狭間が立ち上がったので、テーブルはぐらつきかけた。

「麻里子さん、ワックスの缶、外に置いてあったんだろ？　で、蓋はもう開いていたんだろ？」

「ええ。倉庫から出した後に缶に付いていた埃を払ったので」

「その時にはもう雨は降っていたんだな？」

「昨夜から降り続いているではありませんか。……では、そういうことになるのですか？」

　狭間の考えを察したのか、麻里子は眉根を寄せる。

「だとすると、雨が上がるまでじっとしておいた方がよさそうだな」

　ざあっ、と一際強く雨が吹き付け、固められている窓が揺さぶられた。狭間は座り直し、テーブルの端から両足を 垂らした。ツブラは狭間の膝の上に潜り込み、頭を摺り寄せてきたので、触手がうねる頭をぽんぽんと軽く叩いて やった。液状化しているワックス怪獣は滑らかに波打っていたが、狭間の足を絡め取ろうとはしなかった。

「帰らせない、って言ったよな、あんたは。つまり、俺達を引き留めておくのが本当の目的だったわけだ」

〈そうだ〉

　ぬちゃり、と乳白色の糸を引きながら身を起こしたワックス怪獣は、赤い瞳を二つ出して二人と二匹を捉える。

〈俺はともかくとして、俺と交戦している超大型怪獣は過激でな。俺達は低気圧と共に生まれ、低気圧が消滅すると 共にまた大気に溶ける。それを何千年、何万年を繰り返してきた。俺はその役割を全うすることこそが怪獣としての 本分だと信じているのだが、奴は数百年前に強硬派に転向して以来、大きな嵐を起こそうと躍起になっているんだ。 今もそうだ。その度に光の巨人に襲われて消されかけるのだが、俺達の特性上、消される寸前に水蒸気で出来た 肉体を分解させてしまえば消されることはない。だから、奴はそうやって何度も難を逃れては復活し、人間と文明 に対して多大な被害を与えているんだ。遠い昔、奴はカミカゼと呼ばれていた。だが、俺は奴の蛮行を認めるわけ にはいかない。奴を阻み、押さえ、封じられるのは俺ぐらいなものだからな。奴は人の子を疎んでいて、手に掛ける つもりですらいた。だから、俺が何とかしなくてはと思い、今に至るというわけだ。訳が解らん方が不気味さが 増すと思ったんだが、人の子にはそんな小細工は通じなかったようだな〉

「いやいや、思い切り通用していたから。あんた達も、あんまり俺を買い被らないでくれ」

〈関東一円の均衡を保っていた灯台の一つを、そこのボンクラ怪獣に壊されてしまったのは拙かった。あの灯台の 中に入れられている発光体は、探究怪獣ミドラーシュの発光体なんだ。ミドラーシュは俺達とは違って自発的に行動 することはなく、世界各地にばらまいた自分の肉体の欠片を通じて情報を収集し、蓄積し、地球と人類が成す歴史 をその身に刻み付けるために産まれてきた怪獣なんだ。ミドラーシュに常に監視されているといってもいいんだが、 逆に言えば、ミドラーシュに見られているという事実があるから強硬派の怪獣も多少なりとも自制心を保てている んだ。だが、それがなくなったとなれば……強硬派の勢いが増すのは間違いないだろう〉

「見られているとやりづらい、って泥棒と同じだな」

〈間違いではないんだが、そう言われると急に俗っぽくなるな〉

「つまり、これからも厄介な怪獣が絡んでくるかもしれないから気を付けろって言いに来たわけか」

〈そうだ。それを言うためだけに、俺はカミカゼと戦いながら横浜まで来たんだ〉

「そりゃ御苦労なことで。この際だから聞いておくが、ノースウェスト・スミスについて何か知らないか？」

〈少しばかりはな。ノースウェスト・スミスに会うには、追うしかない。追うための手段はある〉

「手がかりらしいものを見つけたのはこれが初めてだな、ちょっと嬉しい。で、それは何なんだ？」

〈メイド号に乗れ〉

「メイド号？」

　手掛かりと思しき単語だが、意味が解らない。狭間が同じ言葉を繰り返すと、麻里子が反応した。

「ノースウェスト・スミスが乗っていた宇宙怪獣船の名前ですよ。ですが、その船はノースウェスト・スミスと ヤロールの冒険が終わると共に姿を消してしまいましたので、どこにあるのかは誰も存じておりません」

「結局、振り出しかよ！」

　ちょっとでも期待した自分が馬鹿だった。狭間は盛大に嘆いてから、気を取り直し、話を戻した。

「そうか、低気圧の方はカミカゼっていうのか。だったら、あんたはなんて呼ばれていたんだ？」

〈俺は……そうだな。ニギハヤヒと呼ばれていたような……〉

　ついでに言えばこのワックスはナガスネヒコといって俺の分身だ、と肝心なことを最後の最後で付け加えてから、 ワックス怪獣の二つの目はぽちゃんと乳白色の池に没した。

「ニギハヤヒ？」

　ツブラが不思議そうに首をかしげると、カムロがびくついた。そのせいで、麻里子の首が吹っ飛びかけた。

〈ニギハヤヒィ！？　神話時代の怪獣の生き残りじゃねぇか！　なんでそんなのが人の子如きに直接会いに、いや 分身だからちょっと違うか、でも直接みたいなもんだ、まあとにかく、なんで会いに来たんだよ！　カミカゼと季節の 変わり目に小競り合いをしているってのは知っていたが、だが……〉

「狭間さん、神様級の怪獣と御知り合いなのですか？」

　首を元に戻してから、麻里子が問うてきた。狭間は後退り、壁に背を付ける。

「いや、そんなわけないだろ！　神様っつーか、土着の神様扱いされている怪獣とは知り合いだけど、神話時代の 生き残りと話したのはこれが初めてだよ！　俺だって訳が解らねぇ！」

「狭間さんに心当たりもその気もなくとも、あちらがその気でしたら、狭間さんと関わりを持って損はないということに なりますね？　神話時代の怪獣との繋がりが出来れば、私とカムロの大望は叶えやすくなりますしね」

　壁に背を当てた狭間に、麻里子は覆い被さってくる。薄暗い部屋の中、少女の影が狭間の視界を塞ぎ、ついでに 麻里子のエプロンを柔らかく膨らませている胸にも。甘すぎない整髪料の香りと石鹸の僅かな残り香、そして少女 のまろやかな匂いが絡み合ったものが、緩やかに、だが確実に迫ってくる。

「二度目ですね」

　かすかに恥じらいを見せて微笑んだ麻里子が顔を寄せてきたので、狭間と麻里子の額が接しそうになる。彼女を 押し返さなければ、だが突き落とすのはさすがに、と狭間が硬直していると、麻里子の冷たい手が頬に触れてきた。 が、突如、床から噴出した乳白色の液体が麻里子の後頭部に掛かり、そのまま麻里子の生首を掴んでワックスの海に 引き摺りこんでしまった。だあっ、しくじった、とのカムロの絶叫の後に胴体が仰向けに倒れ、弛緩する。

〈言い忘れていたが、俺は穏健派だ。だから、強硬派の蛮行は許せん〉

「……あ、どうも」

　一拍置いてから礼を述べ、狭間はため息を吐いた。麻里子に襲われなくてよかった、と安堵する一方で、あれで 普通の女の子だったら拒否しなかったのかな、とも考えてみた。だが、手足に巻き付いてきた触手とその主に気を 取られているうちに考え事を忘れてしまった。麻里子とカムロに妬いたらしく、ツブラは躍起になって狭間の口中に 触手を突っ込んでくる。そればかりか、体をきつめに締め付けてくる。敢えてそれに抗わずに受け入れながら、狭間 は今更ながら思った。こうして異常極まりない出来事ばかりだから、普通の感覚が衰えてくるのだ、と。
　日常に溢れる狂気に対して、危機感を持たなければ。




　雨も上がると、神話時代の怪獣達の争いも終わった。
　そして、ニギハヤヒの分身であるワックス怪獣のナガスネヒコも撤退し、古代喫茶・ヲルドビスの店内には平穏が 戻ってきた。麻里子とカムロが解放されたのは雨上がりの後で、長らく窒息させられていた影響で首も胴体も弱り 気味だった。そのため、両者が狭間に襲い掛かってくることはなかったが、ナガスネヒコが床に塗ったワックスごと 撤退してしまったので、ワックスを塗り直す際は少し困った。狭間一人で塗ることになるからである。しかし、ぐったり している麻里子を無理に起こして働かせるのは気が引けるので、狭間は渋々仕事を終えた。ツブラは手伝おうとして くれたが、気持ちだけをありがたく受け取っておいた。
　早めに終わるはずだったのだが、なんだかんだで午後六時近くまで掛かってしまった。仕事上がりの頃合いに帰宅 した海老塚は狭間の疲れ具合を見て大いに労ってくれ、まだぐったりしている麻里子とカムロも労り、時給には色を付けると 言ってくれた。それをありがたく思いつつ、狭間はツブラに引き摺られるように帰宅した。

「そりゃ大変だったわねぇ」

　フォートレス大神の自室にて事の次第を話した狭間を、愛歌は半笑いで労った。

「えー、まあ。慣れてきたとは思ったんですけど、まだまだですね。ワックス怪獣が出ていった時に化石にくっついた ワックスを綺麗さっぱり剥がしていってくれたから、マスターに恨まれずに済みましたけどね。それだけは救いです」

　念願のゴールデンバットを立て続けに吸った狭間は、吸殻が山盛りになっている灰皿に灰を落とした。

「麻里子ちゃんに？　それとも、怪獣に絡まれるのに？」

「どっちもですよ」

　いつもより早めに眠気を催したツブラは、狭間の枕を抱いて部屋の隅で触手の繭を作って丸まっている。この分 では、当分は起きないだろう。銭湯帰りの愛歌は長い髪をまとめていて、薄く汗の浮いた襟足が曝け出されている。 今夜の晩酌の内訳は、良く冷えたビールと裂きイカだった。

「ん？　狭間君も飲む？」

　狭間と目が合ったので、愛歌はビール瓶を掲げてみせた。狭間はタバコの灰を落とし切ったタバコを銜え、 愛歌という女性を眺めてみた。顔付きはどちらかというと童顔だが可愛らしく、目元もぱっちりしているし、肉付き のいい胸と尻とは裏腹に引き締まった腰付きは色気がある。寝間着にしている朝顔柄の浴衣の裾は無防備に割れて いて、白い膝と太股が覗いている。色気がないわけではない、むしろこれでもかと色気がある。だが。

「ちょっと付き合いますよ。飲みたくなったんで」

　驚くほど、なんとも思わなかった。狭間は愛歌に対して妙な罪悪感を覚えつつ、テーブルに着き、愛歌がビールを 注いでくれたコップを手にした。タバコを吸った後では酒の周りが良くなるのでペース配分に気を付けつつ、狭間は 愛歌の雑談を聞き流しながらツブラを窺った。触手の繭からはみ出ているつま先を見た途端、またあの妙な感覚 が蘇ってきた。ということはやはり、だがしかし。感情を認めるのが怖くなり、狭間はビールを呷った。
　だが、あの感覚は振り切れなかった。





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