横濱怪獣哀歌




砂上ノ牢獄



 一〇八回目の七月五日。
 急用が出来たから、といって仕事を抜け出した狭間は、例の砂時計を携えて羽生鏡護の自宅を訪ねた。もちろん ツブラも連れてきていたが、羽生の住まいは横浜市内ではなく都内にあるので、いつになく緊張した。ツブラは前回 の記憶を引き継いでいるらしく、狭間の顔を窺っては不安げに目を伏せている。怪獣に構われすぎて心底うんざり しているのなら、怪獣である自分も狭間に疎まれているのではないのか、と思っているようだった。
 他の怪獣達とツブラは違う。何がどう違うのかを明言出来るほど明確なものではないが、違うものは違う。だが、 絶え間ない奥歯の痛みと自分への苛立ちで頭が回らず、狭間は思うように言葉が出てこなかった。いや、そんなもの は言い訳だ。ツブラとの関係が微妙になってしまったのが気まずくて、厄介で、これ以上深入りしたくないから、 曖昧な態度を取っているだけだ。そんなことを考えているから、いつもはツブラとしっかり繋いでいる手を少し緩めて しまい、雑踏の中ではぐれかけた。
 京急多摩川線の多摩川駅で降り、鮫淵に書いてもらった地図と地名を頼りに多摩川沿いを歩いていくと、住宅街 に入っていったが、街並みが一変した。立派な塀に囲まれた大きな邸宅が次々に現れ、街中を行き交う人々の顔触れ も様変わりした。大邸宅のガレージで大人しくしている高級外車を眺め、田園調布って凄い、と狭間は気後れ した。となれば、羽生も大邸宅の主人なのだろうか。いや、まさかそんな。期待と不安に駆られながら、狭間は高い 塀に挟まれた道を歩き、ついに羽生の自宅を見つけ出した。他の大邸宅に比べれば見劣りするが、中流層の家屋より は装飾も多く、敷地も広い家だった。全体的に洋風な造りで、屋根の天辺には風見鶏が付いている。

「せっかくの休日に何をしに来たんだい、君は」

 チャイムを鳴らすよりも先に、家人から声を掛けられた。趣味の悪いスーツ姿ではなかったが、趣味がいいと 言うべきではない原色の赤と緑のストライプのシャツに変な柄の刺繍が入ったスラックスを着ていた。あんたこそ なんて格好をしているんだ、と狭間は羽生に言いたくなったがぐっと堪え、挨拶した。

「おはようございます、羽生さん」

「厳密には昼前だけどね。この僕は低血圧なもんだから起きるのが遅くてね、休日は特にひどくてね、だからこの僕 の朝は今始まったと言っても過言ではないから、朝であるということにしておこう。おはよう、狭間君。ヲルドビスの 仕事はどうしたんだい、サボタージュかい?」

「まあ……間違っちゃいないです。羽生さんにお尋ねしたいことがありまして」

「マシテー」

 狭間の足元で、ツブラがぴょんと飛び跳ねる。

「ふうん。この素晴らしさに枚挙にいとまがない僕の休日を潰すに相応しいかは、君達の話を聞いてから決めるとしよう じゃないか。どうせ今日は暇なんだ、暇になってしまった、いとまはないが暇はあるんだ、どうしようもなく」

 門扉を開けた羽生は狭間とツブラを招き入れると、玄関のドアを開けた。スリッパが用意されていたので、狭間は それを使わせてもらったが、ふかふかしすぎてなんだか歩きづらかった。ツブラは長靴以外の靴を履くのはあまり お気に召さないらしく、裸足でぺたぺたとフローリング敷きの廊下を歩いた。玄関の脇にある飾り棚には子供一人 隠れられそうな大きさの壺が飾られ、壁には奇妙な絵画が飾られていたが、どちらも安物ではないだろう。
 リビングは広いはずなのだが、水槽だらけなので狭く感じた。その水槽の中にいるのは魚ではなく、トカゲやヘビと いった爬虫類だった。生き物が醸し出す独特の匂いを嗅ぎ、狭間はやや臆した。ツブラはそうでもないらしく、水槽 にへばりついて羽生のペット達を食い入るように見つめていた。

「細君がいないから、ろくなものは出せないけど文句は言わないでくれよ。この僕が給仕するだけでも貴重なんだ」

 ぶつくさ言いながら羽生はキッチンに行き、茶を淹れた急須と湯呑みと洋菓子を乗せた盆を手にして戻ってきた。 紅茶とティーセットの在処が解らなかったんだ、と言い訳しつつ羽生はお茶を淹れてくれたが、茶葉の分量を少なく しすぎたらしく白湯のような味だった。御茶請けのクッキーは硬過ぎたので、狭間は食べるのを断念した。

「あの、羽生さん。これ、なんだと思います?」

 薄すぎる緑茶だけを口にした狭間が砂時計を差し出すと、羽生は砂時計を受け取り、眺め回した。

「顕微鏡で見てみないことには判別しづらいけど……マガタマの一種かい?」

「辰沼さんにも聞いてみたら、同じことを言っていました」

「マシタ」

「えぇ!? この僕に尋ねる前にあのトカゲ男に聞いたの!? なんだよそれ、最大級の侮辱じゃないか!」

「どうもすみません。それで、そのマガタマは何のために砂時計になっているんだと思います?」

「そんなもの、この僕に解るわけないだろ。それこそ君の領分だよ、狭間君。マガタマの声を聞けばいい」

「それが聞こえないんですよ、奥歯が痛いせいで」

 狭間は腫れぼったい右頬を押さえながら、事の次第と延々と繰り返している七月五日について説明した。羽生は まず驚き、呆れ、更に感心した後、しばらく考え込んだ。満月の手作りクッキーは味がいいけど硬くて困るんだよ、 とぼやきつつもクッキーを綺麗に平らげてから、背を丸めて頬杖を付いた。

「狭間君。この前、君が出会ったワックス怪獣は正体がニギハヤヒだと言っていたね」

「ええ、まあ。当獣がそう言っていましたから」

「もしかすると、原因はそのニギハヤヒかもしれないよ。この僕の推測に過ぎないけど、穏健派の怪獣は君とツブラ を封じ込めておきたいのではないだろうか。真意と動機についてまではさすがに考えが及ばないけど、もしかすると 穏健派の怪獣達は君達を危険視しているのかもしれない。この間、強硬派の代表格のようなカムロが麻里子さん共々 大暴れしたというのに、穏健派であろう怪獣達は制裁を加えるどころか接触もしていないようなんだよね。それ こそ狭間君の領分だけど、怪生研に入ってくる情報である程度は察しが付くんだよ。狭間君本人が変化を恐れている と仮定した上の話になるけど、時間が繰り返すってことはまず有り得ないんだ。時間とは不可逆なもので、進みはする けど戻せはしないんだ。この僕がいかに過去の所業を後悔したところでやり直せないように。だから、時間が無限 に繰り返されているのは、狭間君の意識の中だけでのことじゃないのか? 仮説に過ぎないけどね」

「へ?」

 思いもよらない答えに、狭間は面食らう。だが、最初に七月五日を繰り返していたのは――否、時間を繰り返して いることに気付いたのは愛歌だった。狭間がそれについても説明すると、羽生は少し考えた後に返した。

「だから、全部夢だってことさ。歯が痛いのは現実かもしれないけどね」

「じゃ、じゃあ、こうして俺が羽生さんと会って話しているのは」

「この僕も本人じゃなくて、君が認識している羽生ということになる。光永さんもそうだ。君の中だけでの、君に しか解決出来ない、君の内心の問題を、怪獣共に付け込まれたんじゃないのか?」

「それじゃ、俺が喋っている相手は羽生さん本人ではなくて、俺の……俺の頭の中にいる羽生さんですか?」

「なんだよ、その馬鹿馬鹿しすぎて笑うのさえ嫌になる言い方は。そうかもしれないという域を脱していないし、この 僕だって君の想像の産物の羽生鏡護であるかもしれないというのは考えるだけでも嫌になるけど、考えないことには何も 始まらないんだよ。怪獣のことも、シャンブロウのことも、君自身のことも」

「なんだか人生相談みたいなんですけど」

「似たようなものだよ。森羅万象は突き詰めれば哲学だからね」

 羽生は急須の底に残っていた緑茶を狭間の湯呑みに全て注ぐと、爬虫類じみた目で見据えてきた。

「狭間君。明日になると、何がある」

「そりゃあ」

 どうということのない日常に戻るだけだ。明日も仕事をして、歯医者に行って親知らずをなんとかしてもらってから、 その後は夕食を作って愛歌の帰りを待ち、愛歌と共に銭湯に行って風呂に入り、それから晩酌をして――――と、 そこまで考えて狭間は我に返る。なぜツブラのことを考えない。考えようとすらしない。

「俺……どうすりゃいいのか、解らないんですよ」

 狭間は少女怪獣を窺うが、ツブラはふいっと目を逸らした。

「俺はただ怪獣の声が聞こえるだけだったのに、ツブラと一緒に横浜に来てからは怪獣の世界に引き摺られる一方で。 俺の話を聞きもしない連中に勝手な話を聞かされて、厄介事ばっかり背負わされて。でも、怪獣達に特別扱いされる のは悪い気はしないし、俺だけにしか出来ないことがあると思うとちょっとは誇らしいし、頼られていると思うと嬉しい っちゃ嬉しい。だけど、そのままでいいのかって、俺は怪獣じゃないのに怪獣の内紛に立ち入ってもいいのかって、人間 の世界に戻るべきなんじゃないかって」

 羽生からは目を逸らし、膝の間で組んだ手を注視する。

「けど、俺が大したことない人間だってのは自分が一番良く解っている。だから、どっちにとっても本当に価値のある 存在じゃない。だから……」

 だから、ツブラの特別にはなれないし、なれる自信がない。たったあれだけのことで考え過ぎだ、そもそも相手 は子供で怪獣だ、そんなのは思い上がりだ、とも思うが、半端者の若造が世界を守れる力を持つ相手に寄り添えるわけが ないのだ。光の巨人を退ける力を持つツブラは紛れもなく特別で、大切で、価値がある。だが、自分は。

「ダカラ、ツブラ、キライ?」

 狭間の内にいるツブラが、薄い唇を噛み締める。

「前も言った。好きとか嫌いとか、そういうやつじゃない。好きになっても、好きでいられる気がしない。好きか嫌いか って言えばそりゃまあ好きだけど、けど、俺は馬鹿だ。どうしようもなく馬鹿で屑で情けない野郎だ。人の子人の子って 言われちゃいるが、俺は人間の代表じゃない。そんなものになれるわけがない。ツブラも俺をそんな目で見るな、いざって 時に守ってやれない。きっと傍にはいられない。だから」

「ダカラ?」

 ツブラは狭間の膝に乗り、冷たく小さな手で狭間の両頬を挟み、目を合わせさせる。

「そんなに俺を好きにならないでくれ」

 きっと、この幼い怪獣はかぐや姫だ。いつか必ず、火星に還る。

「マヒト」

 ツブラは、否、狭間の中のツブラは微笑んでいる。閉じ込めていたいのは自分ではなく、愛歌でも他の誰でもなく、 目の前にいる怪獣なのではないだろうか。だとしたら、情けなくてどうしようもない。他の怪獣達に付け込まれるのも 無理はない。そんなことでは、怪獣どころか人間にもいいようにされてしまうだろう。だから。
 頬に添えられた手に、手を重ねた。




 腫れぼったい右頬に、冷たい手が添えられていた。
 その手の主は狭間の枕元に横たわっていて、触手の繭に収まっていた。顔を傾けると、頭の下で水枕がちゃぷんと 水音を立てた。額に浮いた汗を寝間着の袖で拭ってから、深呼吸する。気怠い両腕に力を込めて上体を起こすと、 ぐしゃぐしゃの髪を掻き回した。テーブルに置いてある新聞の日付を見ると、七月六日になっていた。

「あ、起きた?」

 ふすまが開き、愛歌が顔を出した。スーツに着替えていて、髪をまとめている途中だった。

「あの、俺、どうしたんですか」

 一〇八回目の七月五日の後、どうなったのかが思い出せない。鉛のように重たい頭を手で支え、掠れた声で問うと、 愛歌は自分の下顎の右側を指した。

「寝過ぎたせいで記憶が曖昧になっちゃったのね。狭間君、一昨日の午後に親知らずを抜いたのよ」

「あー……そうでしたっけ。あ、いてぇ」

 舌を動かして右奥の歯を探ってみると、確かに歯茎に大穴が開いている。

「だけど、抜いた後にもらった痛み止めが効き過ぎちゃったみたいで、丸一日眠りっ放しだったのよ。うなされていた みたいだけど、今は顔色もいいし、目が覚めたんなら大丈夫そうね。でも、体の調子が変だと思ったらすぐに医者に 行ってきなさい。何事も体が資本なんだから」

 ヲルドビスのマスターには私から連絡しておいたから今日もゆっくり休んでおきなさい、と言い、愛歌は身支度を 整えて出勤していった。ということは、狭間の意識が途切れたのは七月四日の午後ということになり、それから延々と 七月五日を繰り返していた夢を見ていたわけだ。随分面倒臭くてややこしくて長ったらしい夢を見ていたものだ、と ぐったりしながら立ち上がり、台所で水を一杯飲んだ。すると、冷蔵庫の上にあるものが目に入った。

「うぉわぁ!?」

 それは、あの赤い砂の砂時計だった。動揺のあまりに心臓が痛み、目眩さえ感じた。狭間は恐る恐るその砂時計 を手にしてみるが、何事もなかった。何度も上下させてみるが、砂がさらさらと零れ落ちていくだけだった。熱いもの でも触るかのように指で抓み、冷蔵庫の上から慎重に移動させ、窓の外に投げ捨てた。

「あんな目に遭うのは二度とごめんだ」

 こんちきしょうめがっ、とぼやきながら狭間は冷蔵庫を開け、気晴らしに酒でも飲もうかと思ったが、病み上がりで 寝起きに飲むのはさすがに拙いので牛乳にしておいた。胃が膨れると少し気分が落ち着いたので、狭間は顔を洗って からべとつく髪も流せるだけ流し、濡らしたタオルで体も一通り拭いた。丸一日寝込んだ後で全身がべとついて いるので、頃合いを見計らって銭湯に行かなくては。

「マヒト」

 触手の繭がするりと解け、ツブラが起き上がった。

「カイジュウ、コエ、キコエル?」

「……ん」

 狭間は耳を澄ましてみた。親知らずを抜いた部分はまだ痛むが、怪獣の声はいつも通り聞こえてきた。氷川丸は 狭間の具合をしきりに心配していて、愛車のドリームは狭間に乗られないことを寂しがっていて、住宅街の怪獣達 のざわめきも聞こえてくる。鬱陶しいし、勝手なことばかり言うし、厄介だが、彼らの声を聞いていると安心する のもまた事実だった。いつ、どこにいても、自分は一人ではないのだと解るからだ。

「ああ、聞こえる」

 狭間はツブラの触手がうねる頭を撫でてやると、ツブラは赤い瞳を潤ませる。

「ツブラ、カイジュウ、マガタマ、フセグ、デキナカッタ。ソバ、イルダケ」

「それじゃ、何が起きていたのかは解っていたのか」

「ウン。ナントナク。デモ、ワカルダケ。ナニモ、デキナイ。ツブラ、デキルコト、ヒカリ、タオス、ソレダケ。 ソレイガイ、ナンニモ……。マヒト、タスケテ、ヤレナイ」

「いてくれただけで充分だ」

 触手に指を通し、その下に埋もれている頭に触れる。頭蓋骨の中身は人間とは違うのだろう。

「ありがとう、ツブラ」

 自分の不甲斐なさを怪獣とその声のせいにしていてはダメなのだと、思い直す。やろうと思えば、狭間はどんな ことでも出来るのだ。都会に出ているのだから勉強する機会はいくらでもあるし、アルバイトのシフトも変わった から時間も作れるようになったし、金も少しずつだが溜まっている。怪獣に振り回されるのを嫌がっているくせに、 その怪獣と関わっているせいで道を切り開けないのだと思い込み、燻っていた。いや、腐っていた。
 それは今に始まったことではないし、差別を恐れるくせに特異能力を持った特別な存在になりたがる情けなさと、 特殊能力があるのだからもっと認められてもいいはずだという馬鹿げた功名心は、振り払おうとしても振り払えずに 心中に深く根を張っている。自分で自分が煩わしく、鬱陶しいが、それも含めて自分なのだと。

〈数千年振りかな、こんなにも楽しいものを視られたのは。いやはや、長く生きていた甲斐がある。ニギハヤヒから 君の話を聞いた時に感じた胸の高鳴りは、勘違いではなかったのだな〉

 赤い砂時計を投げ捨てた場所から、怪獣の声が聞こえてきた。

「誰だよ、あんたは」

 自分の苦しみを娯楽にされるのは心外だと狭間がむっとすると、赤い砂ではなく砕けたガラスが瞬いた。

〈古い友からは、探究怪獣ミドラーシュと呼ばれているよ。先日、どこぞの怪獣が強硬派共を呷って灯台に仕込んだ 私の目を一つ潰してくれたが、その程度で私から逃れられるとでも思ったのかね? 私という存在はだね、ガラスと いうガラスに混じっているのだよ。だから、そこに窓がある限り、鏡がある限り、私は怪獣も人間も観察出来ると いうわけなのさ。砂時計の中身にばかり気を取られていたようだが、肝心なのは中身ではないのさ。いかなるものも 収まる器によって形が決まる。人の子よ、お前はその器にすら至っていない。それなのに、天の子と共に在れと他の 怪獣共は望んだ。私はそれを許し難く、認め難く、お前を現世から乖離させた。お前もそれを望んでいたという のに、なぜ戻ってきた? 一時の感情に流されて、判断を見誤ったのか?〉

「まあ、そういうことだよ」

 ツブラに対する感情を否定しても、何も始まらない。だから、肯定することから始めなくては。

〈長き時と歴史の中で、怪獣を娶った人間も、人間を娶った怪獣も数多くいたが、天の子と通じ合おうとする者は 初めてだ。天の子自体はこれまでにも何度かこの星にやってきていたが……。いやはや面白いなぁ、これだから人間 を観察するのはやめられないよ。これからも、茨の道を裸足で突っ走ってくれたまえ〉

「うるせぇ、余計な御世話だ。俺を許し難いから、閉じ込めたんじゃなかったのか?」

〈気が変わったのさ。それだけのことだ。怪獣は言ってしまえば岩石で出来た生き物だが、だからといって頭までが 硬いわけではない。何事も柔軟に対応しなければ、やっていけない〉

「そりゃそうだが」

〈シャンブロウと人間の間で繁殖出来るかどうか、試してみないか? その時は是非とも観察させてくれないか?  砂時計の赤い砂はこの私のマガタマで出来ているから、それをやろうじゃないか。それさえあれば、世界中のどこで 何が起きていても覗き放題だぞ。どうだ素晴らしいだろう!〉

「黙れ変態怪獣が! いらねぇやそんなもん!」 

 思わず怒鳴ってから我に返り、狭間は力一杯窓を閉めた。人のことを言えるか、と顔を歪ませながら座り込むと、 ツブラが心配げに近付いてきた。いつもならすぐ絡ませてくる触手を引っ込めていて、狭間に触れるまいとして手も 握り締めている。その小さな手を取って握ってやってから、狭間はツブラの触手に頬を寄せた。ツブラは少しばかり 躊躇っていたものの狭間に寄り掛かってきたので、その体を受け止めながら、今一度腹を括った。
 己の禍々しい感情を許し、認めよう。





 


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