横濱怪獣哀歌




路地裏ノ闖入者



 寿町に来るのは、横浜に来て間もない頃以来だ。
 あの時は右も左も解らなかったから、この街の住人達にも気後れしていた。強面な男達が醸し出す、労働者特有 の泥臭さに臆されていた。けれど、今はそうではない。狭間もまた彼らと変わりがないのだと解っているから、何事 もないような顔をして、道端で酔い潰れている男達の傍を歩ける。九頭竜会と関わるようになってから、ある程度顔が 知れてしまったのだろう、擦れ違い様に顔を窺われることも少なくなかったが、それにいちいち構っていては本題 に取り掛かれない。狭間はサングラスとカツラを付けたツブラの手を引いて歩き、角を曲がって路地裏に入った。
 途端に強烈なアンモニアの匂いが襲い掛かってきて、狭間は息を詰めた。深酒で身も心もやられている人間は 膀胱の締まりが悪いため、所構わず立小便をするからである。実際、ここに至るまでの道中でも、何度となく立小便 をしている様を見かけた。だが、寿町の住人達はそれを見て見ぬふりをしているし、そこかしこに立ち込める饐えた 匂いを気にしていないようなので、衛生観念というものが根本的に欠如しているらしい。
 これなら、あの下水道の方がまだマシかもしれない。いや、五十歩百歩か。狭間はそんなことを考えながら、今にも 崩れそうなバラック小屋が立ち並ぶ路地に入った。錆だらけの波トタン板で作られた小屋は、戦後のままの姿を 止めていて、時代の流れから取り残されている。本通りの建物も古臭かったが、ここは別格だ。そして、小便臭さ が一段と濃くなってきて、息をするのも憚られるほどだった。

「ムゥ」

 狭間の足にしがみついたツブラは、レインコートの袖で鼻を覆っている。夜も更けてきて光源が減ってくると、 サングラスの色味が一層濃くなり、その奥の赤い目の表情が少し窺いづらくなる。

「お前、そっちでも匂いが解るのか?」

 狭間がどうでもいいことを尋ねると、ツブラはレインコートの裾を動かした。触手で。

「チガウ。デモ、ココ、ニンゲン、オサエル」

 つまり、ツブラなりの偽装工作だ。狭間はツブラを少しでも臭気から遠ざけてやろうと、肩車してやってから、住宅街 と呼ぶには粗末すぎるバラック小屋の家並みを抜け、更にその奥に進んだ。ここまで来ると、通りかかる人々の 顔触れは悪人面ばかりになる。寿町の住人達であろうとも近寄りがたいのだろう、バラック小屋から抜け出してきた 子供と思しき人影も付いてこない。痩せ細っているのに目だけがやたらとぎらぎらしている子供達に絡まれる と面倒なので、狭間はポケットから小銭を出してバラック小屋の通り目掛けてばらまいてやると、小さな人影は 我先にと群がった。目的地へ急ごうとすると、今度は厳つい男達が現れて進路を塞いでくる。
 
「ん」

 彼らに話を通すとなるとまたややこしくなるので、狭間は九頭竜会の代紋が入った手帳を出した。渾沌に潜入する 際、麻里子が寄越したものである。捨てるつもりだったのだが、こんなところで役に立つとは。硬い筋肉の上に刺青 を存分に入れている男達は小声で言葉を交わした後、道を譲ってくれた。
 今回だけだ、二度と使うものか、と狭間は後悔の念に駆られながら手帳をポケットに突っ込み、進んだ。バラック 小屋がなくなると、コンクリート製の鳥居と古い神社が現れた。その奥にある矮小な社務所が狭間の目的地であり、 羽生鏡護に教えられた場所だった。だが、この神社にはヤクザ達も浮浪者達も近付こうとせず、狭間とツブラを遠巻き に眺めているだけだった。それはありがたいことだが、汚い街に住む彼らでさえも疎む場所となると、相当なもの なのだろう。今更ながら気後れしたが、ここまで来て引き下がれるわけがない。
 意を決し、鳥居をくぐる。境内は雑草が生え放題で玉砂利は一粒もなく、破れたブルーシートや腐った段ボールが 隅に積み重なっている。一応御社の賽銭箱に小銭を入れてから裏手に回り、社務所に近付いた。日が落ちて久しい のに、明かりは付いていなかった。と、当初は思ったが、窓と窓枠の隙間から針のように細い光が漏れていたので、 内側から目張りされているのだと気付いた。社務所のドアを叩こうとすると、開けられた。

「やあ」

 出迎えてくれたのは、辰沼京滋だった。青緑色の髪に赤い瞳とやけに色の白い肌の男は、羽生のそれと同等か それ以上に汚れた白衣を羽織っていた。

「入って入って。御客が来るのは久しぶりだなぁ」

 辰沼は明るく招き入れたので、狭間は少々戸惑いつつも中に入った。が、すぐに出たくなった。

「……なんですか、これ」

 狭い社務所の中には、怪獣の肉片がみっちりと詰め込まれていたからだ。壁一面、いや、壁四面と天井までもが怪獣の 肉で占められていて、そのせいで社務所の容積が一回りか二回りは狭くなっている。肉片の大きさも種類も様々で、今も 生き続けているものもあれば、ただの石と化しているものもあり、意識があるものもあればないものもある。さながら、 腸の内壁だ。あまりの光景に、狭間はよろめく。

「何って、商品だよ」

 辰沼は床にも転がっている肉片をまたぎ、作業台なのか机なのか手術台なのか釈然としないテーブルに行き着くと、 無造作に置かれていたノートをべらべらとめくった。

「怪獣義肢に使える怪獣って限られているんだけど、義肢を付ける人間との相性が良くなきゃくっつかないから、 色々と試してみないことにはどうにもならないんだよ。まあ、相性が合う怪獣が見つかる前に死んじゃう奴も大勢 いるけど、死んだら死んだでまた引き剥がして別の人間にくっつけてみればいいだけだし」

「非人道的、とか……」 

「言っちゃいけない。僕がやらなきゃ誰がやる、ヘビ男がやろうとしないんだから」

 お茶でも飲む、と辰沼はテーブルの下から魔法瓶を出したが、狭間は全力で断った。

「結構です!」

「そう。まあ、飲まない方がいいかもね。色々と試薬を入れてあるし」

 そんなところだろうと思った。狭間は頭にしがみついてくるツブラを下ろすと、辰沼が椅子を勧めてきたので、足元 と椅子の具合を確かめてから腰を下ろした。椅子の素材には怪獣の肉片が使われていないようだが、歩き心地からして 床板の下にも怪獣の肉片があるようなので、細心の注意を払って体重を掛けた。
 狂人が絵具をぶちまけたキャンバスの上に血反吐を吐きながらのたうち回ったかのような、極彩色の箱庭。ある 肉片は水晶のように澄み切っていて、青い光を放っている。その隣の肉片はマグマのように赤らみ、どろどろぉと 唸っている。また別の肉片は緑色の粘液のようで、ぶよぶよと波打っている。共通しているのは、濃厚な硫黄の匂い ぐらいなものだった。狭間は顔をしかめたが、辰沼とツブラは平然としている。

「それで、今日は何の用? 狭間君じゃ僕の今の居所を突き止めるのはまず不可能だろうし、そもそも狭間君が僕と 接触する理由がない。肉体を改造してくれって頼みに来るのであれば別だけど。シャンブロウを売り渡してくれる ってわけでもなさそうだし。大方、あの忌々しいヘビ男から情報を得たんだろうけど、なぜ僕の居所を知ろうと 思ったんだ? ――――何が欲しい?」

「んぐぇ」

 辰沼が突き出してきた茶碗が、狭間の口を塞いだ。唇をきつく閉じていないと、怪しげな薬が混ぜられた茶が口の 中に入ってきてしまう。だが、口を開けなければ答えられない。狭間は迷った末、怪獣電波を使った。

〈聞こえるんですか、これ。辰沼さんにも〉

〈僕はこれでも怪獣人間だからね。すぐに意図を理解してくれて嬉しいよ、狭間君〉

 狭間の口に茶碗を押し当てたまま、辰沼は応じてきた。怪獣電波で。

〈怪獣ブローカーのことです〉

〈ん、そう。ところで、どのブローカー? 僕に怪獣の肉片を売ってくるブローカー? それとも、怪獣人間の手術を 依頼してくるブローカー? でなかったら、怪獣の肉片を売ってくれと頼みに来るブローカー?〉

〈九頭竜会と一番近いやつにしておきます〉

 怪獣ブローカーといっても一括りには出来ないのだな、と狭間は今更ながら知った。

〈となると……手術を依頼してくるブローカー、ってことになるのかな。ええと、誰だっけ〉

〈辰沼さんこそ、御存知ないんですか? 九頭竜会相手の仕事を何度もしていたんですから〉

〈人間の入れ替わりが激しい業界だからね、僕に仕事を流してくる相手は実入りが良い分死にやすいから、すぐに 変わっちゃってねぇ。だから、途中から覚えるのは諦めたんだよ。手術してやった人間のこともそうだね。怪獣との 結合が上手くいったら、投薬なり何なりの処置を施す必要があるから、何度も会う必要があるから覚えるんだけど、 そこまで持たない人間の方が多いんだ。クスリとタバコと酒浸りなヤクザばっかりだからね。ええと……んーと、 あー、こういう時に秋奈がいてくれると楽なんだけどなー。その辺の帳簿を見透かしてくれるから〉

〈で、その秋奈さんと藪木さんが見当たらないんですけど〉

〈あー、ちょっとね。僕に怪獣の肉片を売ってくるブローカーに持っていかれちゃって〉

〈引き抜きですか〉

〈あー……そうとも言うかな。まあ、気にしないで。どうってことないからさ。話を戻すけど、九頭竜会に金が流れて いた仕事っていうのは、怪獣人間を作る仕事じゃなくて、怪獣義肢を作る仕事だったんだよ。つまり、人間に従順で ありながらも能力が高く、人間との結合を厭わない怪獣義肢を作ることに投資していたんだ。おかげで、たっぷりと 人体実験が出来たし、その甲斐あって研究が進んだんだけどね〉

〈何の研究ですか〉

〈それは聞かない方が身のためだよ、お互いにね。さて、また話を戻すけど――僕に手術の依頼をしてきたのは、君も 多少は面識がある人間だ。そこまでは思い出したよ〉

 後は僕の記憶を送るよ、と伝えてから辰沼は片目を閉じた。程なくして過電流のような刺激が脳に訪れ、狭間は椅子 から転がり落ちた。が、辛くもツブラが受けとめてくれたおかげで怪獣の肉片を潰さずに済んだ。怪獣電波の 使用方法としては間違っていないのだろうが、狭間は一度にそこまでの情報量は受け止めきれないので、ひどい 目眩に襲われた。それでも、例の怪しい茶は決して口にせずに、半死半生で社務所を後にした。
 意地で背筋を伸ばし、歯を食い縛り、ドヤ街から脱した。




 旭橋まで戻ったところで、狭間は一服した。
 ゴールデンバットの煙を肺に入れると、ニコチンが体内に巡って頭が冴えてくる。気分の悪さも収まってきたので、 じゃれてきたツブラを構ってやった。橋を行き交う車のヘッドライトが当たるたびに影が伸び、縮む。冷え込んでくる と予想して、スカジャンを着てきたのは正解だった。夏は終わり、秋に向かいつつある。
 首を伸ばして橋桁の下を窺うが、ウジムシこと氏家武の姿は窺えなかった。夜は危ないから出来るだけじっとして いると言っていたはずだが、気配すらない。もしかすると、下水道の中にでも潜んでいるかもしれない。

「火を貸してくれるかい」

 右側から声を掛けられ、狭間は使いかけのマッチを差し出すと、男はそれを受け取ってタバコに火を灯した。朱色 光に照らし出された顔は、赤木進太郎のそれだった。今し方、辰沼の記憶の中でも見た顔だ。

「いつから尾行していたんですか」

 マッチを返されたので、狭間はそれをスカジャンのポケットに突っ込んだ。

「最初から」

「俺をここまで泳がせておくのには理由がありますよね」

「まあな」

 ここだと目立ちすぎる、と赤木は狭間とツブラを促した。導かれるままに進んでいくと、またも路地裏に至ったが、 寿町に比べれば雲泥の差だった。ビルとビルの間を摺り抜け、元町の一角に辿り着くと、外壁が綻んでいるビルで 赤木は足を止めた。砂埃と雨の筋が付いたドアを開け、酒とタバコの臭気が充満している狭い階段を下りていくと、 やたらと頑丈なドアが待っていた。赤木はそのドアを五回ノックすると、錠が外れ、開いた。
 ドアを開けたのは、顔に目立つ古傷がある大柄な男――須磨湯の店主だった。意外な人物の登場に狭間は驚き つつも中に入ると、地下室は小奇麗な造りのパブになっていた。蒸留酒、ワイン、日本酒と、カウンターの裏の棚には 名札が掛かったボトルが入っている。カウンターの一角でロックアイスが浮かぶウィスキーを傾けているのは、 須藤邦彦だった。その隣では、一条御名斗が気怠そうにビールを飲んでいる。

「うぃーす」

 狭間と赤木に気付き、御名斗はビールが少し残ったグラスを上げた。

「なんですか、ここ」

 狭間が率直に質問をぶつけると、ドアの影から現れた寺崎が狭間の肩に腕を回し、動きを阻んだ。

「簡単に言っちまえば、俺らの溜まり場だ。ヲルドビスとは違った意味でな」

「でも、ここの料理ってどれも不味いんだよぅ。地下だから換気が悪くて揚げ物は作れないし、ガス玉怪獣も大きい のを入れられないから、ばーっと強火で炒めたチャーハンなんか無理だしぃ。だから、酒を飲むしかないわけよ。 でも、俺、酒はそんなに効かないんだよね。つまんないことに」

 不満げに唇を尖らせる御名斗に、須藤はさりげなく腰に手を回す。

「そう愚痴るな。近いうちに暴れさせてやるから」

「銭湯の修理が終わるまでは時間が掛かるんでなぁ、こっちに仕事を回してもらったってわけさぁ」

 須磨は大柄な体を縮めながら、カウンターの中に入った。

「あっちゃん、バイト君にバレたの?」

 御名斗は須藤にしなだれかかり、腰のホルスターから怪銃・クライドを抜いて無造作に狭間に向ける。

「というより、辰沼の野郎が……いや、違うな、辰沼と狭間君を繋げるのは羽生さんか。だが、あの人の足取りは 俺でも掴み切れなかった。どうやって接触した? 怪生研が解体された後、羽生さんは怪生研から怪獣の組織片を 解体するための怪獣と重要書類を盗み出して逃げたんだが、それきりでな。狭間君、彼の行方を知っているので あれば教えてくれ。あれは野放しにしておくべきじゃない。誰かが飼い殺しにするべきだ」

 赤木はスーツの内側に手を差し込み、何かを握った。拳銃である。

「それについては俺も同意見ですけど、たぶん無理ですよ」

 クライドの銃口に狭間は腰が引けたが、足元のツブラを守るためにも踏み止まり、赤木を見返した。

「羽生さんが隠れていたのは、下水道だったんです。でも、シスイ――というか、虎牢関の本店だった楼閣怪獣の根 が至る所に伸びていたせいで、桜木町から元町にかけての下水道の構造はすっかり変わっているんです。だから、 追いかけたとしてもまず見つけられませんよ。それと、あの人の武器は光の巨人なんです」

 しばしの沈黙の後、全員の視線が狭間に突き刺さった。ツブラは先日の出来事を思い出したのか、狭間の足に ぎゅっとしがみついてきた。ツブラを撫でてやってから、狭間は続ける。

「羽生さんは怪獣を解体するための刃物怪獣、ヒゴノカミで自分の指を切って一滴だけ血を出して、その傷の深さに 比例した大きさの光の巨人を出現させました。そいつは子供ぐらいの大きさで、背中から羽根が生えていたので、 言うならば光の天使ですね。光の巨人はその体積と同等の物質を対消滅するものなので、光の天使は少し歩いた だけで消滅してしまいました。指に出来ていた切り傷の数は相当なものだったので、何度も何度も実験していた んでしょうね。攻撃手段としては有効ですけど、このままだと羽生さんは自滅しますよ。あの人が何と戦うつもり なのかまでは知りませんけど」

「なるほど。ヘビ男の目論見は、俺達とそんなに変わらんようだな」

 須藤がにやつくと、寺崎は狭間を突き飛ばしてから、鋭角なサングラスを上げる。

「え? すーちゃん、そこまで突っ込んだ話をすんの? 親分の許可は下りてんの?」

「俺達が話さなくても、いずれこいつらが話す。そうだろう、シニスター」

 須藤が左手の手袋を外すと、岩の如き手の甲に赤い目が現れる。

〈まあな。機会がなかったから話さなかったし、話す必要性がなかったからだ、って須藤は言おうとした〉

「だからってなぁ……。あー、まあいいか。バイト坊主が誰にも言わなきゃいいだけだしな、うん」

 寺崎は渋っていたが、カウンターの席に腰掛け、カウンターの中に入った須磨に注文した。

「スマッキー、俺にも酒を寄越せ。きっついの」

「了解しやした」

 須磨はウォッカのボトルを取ると、それをウィスキーのグラスにたっぷりと注いだ。匂いだけでもかなり強い酒だと 解ったが、寺崎は躊躇いもなくウォッカをストレートで飲んだ。余程強いらしい。

「いいからお前らも座れ、適当になんか飲め。代金は請求しねぇから」

 ツケといてやる、と寺崎は狭間とツブラをカウンター席に座らせたが、狭間は丁重に断った。

「ぼったくられるでしょうけど、払って帰りますよ。貸し借りは作らないべきです、特にあなた方とは」

 狭間は一番酒精が軽そうなビールをもらって、ツブラには水を出してもらった。念のために水を飲んでみたが、 カルキ臭いだけで特に問題はなさそうだった。須藤はウィスキーを呷って空にしてから、二杯目を注いだ。

「状況を確認するために、一つ聞いてもいいですか。赤木さん」

「九頭竜会に不利益なことをしているはずの俺が、どうして九頭竜会の幹部とつるんでいるか、だろ」

「その通りですけど」

 言いたかったことを先に言われてしまい、狭間は口籠る。赤木は灰皿を手元に置いてから、新たにタバコに火を 灯す。その煙をじっくりと吸い込んでから、赤木は須藤に目をやる。

「その辺について説明するためには、前置きが必要だ。だから、須藤が先に話せ」

「それもそうだな。不本意ではあるが」

 須藤は赤木に視線を返してから、左手で顔を押さえる。

「さて、どこから話そうか」

〈俺の話じゃないのか?〉

「そうだな、シニスター。お前が俺の左腕になるまでの話でも、聞かせてやろう」

 シニスターと須藤は意思の疎通が完璧だった。辰沼の手術の腕前によるものなのか、シニスターと須藤の相性 によるものなのか。どちらとも、なのかもしれない。気を利かせたつもりなのか須磨がレコードを掛けたが、重低音 の効いた音楽だったので雰囲気は良くならなかった。むしろ、緊迫感が増しただけだった。言うならば、強大な力を 持つ怪獣が上陸して侵攻する際に流れているかのような。ツブラは聞き慣れない音楽に臆し、もそもそと狭間の膝に 潜り込んできたので、狭間はツブラを抱きかかえながら、須藤の話を聞くことにした。
 どうせ、ろくでもない内容だろうが。





 


14 12/27