数秒間のラグの後、オレは宇宙空間に放り出された。 が。月が、遠い。上空に見えてはいるのだが、かなり距離がある。おいこら、どういうことだ。 月面基地とその周囲で、火星革命軍と月面多国籍軍が戦っているのが見える。火星革命軍が優勢だ。 月上空では、アースのシャトルからヒューマノイド達が射出されていた。武器を持ち、降りていくのが見える。 早く参加しなくては。オレは加速するため、服の背中を破った。羽根の間を、ばりっと引きちぎる。 その間から、じゃこんとブースターを出した。エネルギーを充填し、作動させようとした。 「待つピンこの戦闘馬鹿! 勝手に行動しないで欲しいピン!」 ぐいっとスカートを引っ張られ、つんのめった。振り返ると、ピンピンがいた。 「何しやがんだピン野郎! いつのまに来やがった! 放しやがれ、オレは戦わなきゃならねぇんだ!」 「あーあーあーあー衣装をこんなに破っちゃって…直すのに金が掛かるのに…。これもタダじゃないんだピン」 「魔法でなんとかしろよ」 「これはこれ、それはそれピン。ヘルっち、君は戦場へは行けないピン。なぜならば、敵が来たからだピン」 「んあ?」 オレが変な顔をすると、ほれ、とピンピンは背後の地球を指した。青い海の広がる、巨大な美しい球体だ。 唐突に、どこからか笑い声が聞こえた。低く耳障りな声が、聴覚センサーを直に揺さぶりに来た。 笑い声と共に黒い渦が現れ、オレの前で渦巻きながら形を変えていく。生体反応と熱反応が確認出来た。 渦は次第に固まって、個体となり、形状を整える。二本の手足に一つの頭を持った、人間型生命体になる。 コウモリのような翼を持ってツノを生やした、三ツ又の槍を持つ黒髪の男が出来上がった。悪魔もどきだ。 「ははははは、現れたな魔法天使!」 「現れたのはお前の方だろ、悪魔もどき」 「はははははは、逃げようったってそうは行かない。貴様を倒し、貴様のホーリージェムストーンも奪ってやる!」 「いや、別に逃げてねぇし。強盗に強盗しようたぁいい根性だな」 「人間界を征服し、魔王デヴィラズ様の繁栄を永遠のものとするために、死んでもらうぞ魔法天使!」 「人の話を聞けよ」 「覚悟しろ、魔法天使ホーリーヘルマグナム!」 「オレの名前知ってるー!」 いつのまに情報が漏洩したんだ。オレはぎょっとしながら、自信に満ちた黒ずくめの男を指した。 はははははは、と悪魔もどきは笑っている。今、気付いたんだが、こいつは宇宙服を着ていない。人外だ。 「デヴィラズ様に仕える闇の四天王の一人、ナイズが貴様の息の根を止めてくれるわ!」 「お前さー」 「さあ、どこからでも掛かってこい!」 「台本とか、あんの?」 「ええい話し掛けるな、忘れてしまうではないか!」 闇の四天王の一人は、頭を抱えた。口の中で、何かぶつぶつ言っている。やっぱ、台本があったのか。 通りで、会話が成立していないと思った。しかしこれは都合が良い、敵は隙を見せまくっている。 オレはステッキを口にくわえ、背中に力を入れた。ブースターの両脇からキャノン砲を出し、じゃきりと上げる。 両肩に二門の砲を乗せると、照準器が出た。オレは悪魔もどきを照準越しに見据え、エネルギーを放った。 「マグナムキャノン!」 どぉん、と悪魔もどきに着弾した。うおお、と間抜けな悲鳴を上げて、悪魔もどきは仰け反った。 発射と同時に逆噴射し、オレは姿勢を保つ。宇宙は反動がもろに来るから、気を遣って戦わなくてはならない。 「やったか?」 「いきなり人の顔を撃つなぁ! ちょっと、ビックリしたではないかぁ!」 苛立ちながらオレを睨んだ悪魔もどきは、無傷だった。手応えはあったのになぁ、くそう残念。 「魔法を使え、魔法を!」 「呪文が長ぇんだよ」 「うん、まぁ。私も口上が長いから、出来れば出番は少ない方がいいかなーと」 「お前みたいなのってさ、中盤でやられるよな。新キャラに影を薄くされた挙げ句、あっけなーく死ぬんだよ」 「それを言うな。私もそれが予想出来て…」 はぁ、と悪魔もどきは肩を落とした。がっくりと項垂れて、完全に戦意を喪失している。 オレはタバコのフィルターよろしく、ステッキを噛んでいた。噛み砕けそうだが砕けない、このもどかしさ。 「お互い大変だよなー。オレがロリぷに系の美少女だったら、お前もやる気が出たんだろうけどさ」 「そうだとも。貴様がいかつくて乱暴なロボットではなく、日本人なのに金髪なロリっ子だったら、私は喜んで!」 悪魔もどきは、悲劇的に叫んだ。 「ホーリービューティフルキュアライズにやられてやるとも! 第一話で撃沈するとも!」 「それがオレの必殺技の名前か? なんで知ってんだよ」 「悪役は美少女戦闘員についての調べは付いている、というのがセオリーだからだ」 「諜報は戦闘に置いて欠かせない心得だもんな」 「そういうことだ」 話が解るではないか、と、悪魔もどきはやけに嬉しそうだ。オレは、ピンピンを見下ろす。 「つーかよ、そういう場合、お前らは内通者がいるとか考えたりしねぇの?」 「天界と魔界の情報は、双方にだだ漏れなんだピン。今更取り仕切ったところで、どうにかなる段階じゃないピン」 「腐敗してるな」 「今に始まったことじゃないピン」 なぜか、ピンピンは胸を張った。どうしてそこで自慢気なんだ、落胆してくれよ。やりづらいな。 だが、必殺技が判明したので多少やりやすくなった。さっさとこの悪魔もどきを倒し、月に行かなくては。 オレは口からステッキを抜き、歯形の付いたピンクの棒を掲げた。きゅん、と気の抜けた音がどこからか聞こえる。 きっと、今のポーズは決めポーズに違いない。ステッキの先端に付いた羽根付きハートが、白く光っている。 「聖なる愛よ、清き翼に宿れ!」 ばさっ、と背中の翼が巨大化した。服が破れているからバランスがおかしく、傾いでいる。 「希望の光で全てを癒せ!」 だからさっさとしてくれ。オレは、ステッキを悪魔もどきに向けた。 先端のハートがぎゅんぎゅん光って、安いオモチャみたいだ。四千九百八十円もするくせに、ちゃちいよなぁ。 「ホーリー!」 オレは、ステッキを両手で握り締めた。照準を合わせ、出力を高める。一応。 肩に乗せているキャノン砲に、じゃこんとミサイルを装填した。どうせ効かなくても、撃ちたい気分なのだ。 「ビューティフル、キュアラァーイズゥッ!」 裏声の呪文の後、強烈な光がステッキから溢れ、戦艦の主砲並みの出力で悪魔もどきに襲い掛かる。 オレはついでにミサイルを撃ち、炸裂させた。ピンクとイエローのきんきらした空間に、爆発が見えた。 数十秒後、光は消え失せた。悪魔もどきは光とミサイルでそれなりにダメージを負ったらしく、汚れている。 黒ずんだ頬を拭ってから、悪魔もどきは三ツ又の槍を向けてきた。セリフが残っていたらしい。 「くっ…予想以上のパワーだ!」 「知ってたくせに」 「だが、私を倒したぐらいで安心してもらっては困る!」 「四天王だもんな。あと三人いるもんな。魔王もいるもんな。ついでにザコは無限大にいるもんな」 「はははははは! また会おう、ホーリーヘルマグナム! 次こそお前を倒してみせよう!」 「二度と来るなよ」 「私とて仕事なんだ、貴様と戦わなくてはお給金が頂けなくて生活が出来んのだぁ!」 半泣きで、悪魔もどきは地球に突進していった。重力圏に捕らえられ、赤い炎に包まれながら落ちていく。 その途中で、ふっと消えてしまった。オレはかなりの疲れを感じ、がっくりと肩を落とした。 「あー…終わった」 「何が終わったの?」 苛立ち気味の、聞き覚えのある声。オレはがばっと顔を上げ、辺りを見回した。 いつのまにか、月面での戦闘は収集が付いている。火星革命軍の戦艦が、こぞって引き上げていく。 恐る恐る、オレは首を動かした。一人乗りスペースファイターに乗ったナヴィアが、オレの頭上に浮かんでいる。 「遅れて来たと思ったら、こんなところで変な格好して変なのと戦って…! あれ、民間人だったじゃないの!」 「宇宙空間に素でいるような人間が、民間人なわけねぇだろ」 「んなこたぁどうでもいいのよ」 「自分で振っておいてぶった切らないでくれ」 オレは、ナヴィアを見上げた。すらっとした足と細い腰のラインが美しい、インカムを付けたオペレーターボットだ。 ライトグリーンのゴーグルの奧で、愛嬌のあるスコープアイが吊り上がっている。ああ、怖い顔だ。 「ずるい」 「は?」 「ずるいったらずるい」 スペースファイターから降り、ナヴィアは詰め寄ってきた。オレの衣装の襟元を、がしっと掴む。 「なんで私じゃなくてマグナムなの! 私も変身したいわよ、魔法だって使いたいわよ! 女の子の夢よ!」 「お前、ヒューマノイドだぞ」 「あんたもヒューマノイドよ。でも魔法が使えてるじゃないのよぉ、それがずるいのよぉー!」 むくれたナヴィアは、ぽかぽかとオレを殴った。ちょっと痛いけど、安心したやら気が抜けたやら。 ナヴィアに殴られ続けながら、オレは仲間のエネルギーパルスを受信した。近付いてきているらしい。 月を背負って、いくつかの影が見えた。一番手前にいる大柄な青と白のロボットは、ライトニンガー隊長だ。 ライトニンガー隊長はオレの姿を見、ぐんにゃりと口元を歪めた。普段は冷静な人だから、結構珍しい光景だ。 「…何が、あったんだ?」 「詳しくは聞かないで下さい。話したらゲロりそうです」 オレはナヴィアを引き離し、顔を背けた。ああ、見ないで。あなたには見て欲しくありませんでした隊長。 ライトニンガーは何か言いたげだったが、そうか、とだけ呟いた。いい人だなぁ。 隊長の背後では、数人の仲間が笑い転げていた。その笑い声を聞き流しながら、オレは強烈に死にたくなった。 生き地獄だ。大気圏に逃げたい。でもそんなことをしたら、今度こそナヴィアに振られるぞオレは。 逃げたい気持ちをぎりぎりと堪えていると、ピンピンがオレの肩を叩いた。同情するように、首を横に振る。 「いつかいいことあるピン、ヘルっち」 「うるせぇ元凶」 オレはピンピンを蹴り飛ばしたかったが、我慢した。どうせスカるんだし、これ以上カッコ悪いことはしたくない。 ライトニンガーはピンピンとオレを見比べ、納得したような顔になる。飲み込みが早いお人だ。 「ヘルマグナム。考えうるに、君は魔法少女とやらになってしまったのか?」 「はい。魔法天使っつー名称です」 「先程君が吹き飛ばしていた男は、敵という奴だな。悪のなんちゃら」 「はい。悪魔だそうです」 「そうか…。大変だな、ヘルマグナム。火星革命軍との戦争が終わっていれば、私も君を援護出来るのだが」 「しないで下さいお願いですから。隊長まで巻き込みたくはありません絶対に」 「しかしヘルマグナム、このまま君が魔法天使を続けてしまうと、我々の火力が心許なくなってしまうな」 「オレも出来ればそっちに行きたいです。つうか行かせて戦場に」 オレは、神に祈った。センスのない神だろうがなんだろうが、祈っておけば運気も上がるかも。 ライトニンガーは、ピンピンに尋ねた。ペンギンが宇宙にいることが納得出来ないらしく、目元をしかめている。 「そこの、えーと、鳥類的生物。ヘルマグナムは我々の重要な戦力であり、仲間なのだ。どうにかして彼を魔法天使から解放し、本来いるべき場所である戦場に戻してやることは出来ないのか?」 「出来ないピン。毎週日曜日午後六時から、ヘルっちはデビリンと戦わなければいけないんだピン」 「ゴールデンタイムだな。我々は、毎週水曜日午後六時三十分からなのだが」 ううむ、とライトニンガーは腕を組んだ。体格のわりに細めの顎に、親指を当てている。 「期間が被ってしまっているが、曜日は被っていないな。掛け持ちすれば出来ないことはないだろう」 「つまりどっちも戦えってことですか、隊長?」 二つの戦いを掛け持つのかよオレ。時間外労働として残業手当を請求出来ないかな、アースに。 ピンピンはオレの肩を、今度は気合いを込めて叩いてきた。凄く嬉しそうに、ばっちんばちんと殴ってくる。 「これで決まったピン! ヘルっち、どっちの戦いも頑張るんだピン!」 「んな無責任な」 話だけまとめて満足している二人に、オレは呆れてしまった。いくらロボットとはいえ、過酷すぎやしないか。 ライトニンガーは、がしっとオレの両肩を掴んだ。やけに爽やかな笑顔で、言ってくれた。 「ヘルマグナム! 激務かもしれないが、どうか頑張ってくれ!」 「…アイサー」 オレは、とりあえず敬礼した。こうなっては仕方ない、掛け持ちで戦い続けるしかなさそうだ。 うむ、と満足そうにライトニンガーは頷いた。ふと隣を見ると、ナヴィアがオレのスカートをめくり上げていた。 「何してんだよ」 「私も変身したいんだもの」 「ピンに頼め。オレの知ったことじゃない」 オレがピンピンを指すと、ナヴィアはピンピンを抱き上げ、懇願する。 「お願い、ピンちゃん。私にも魔法の力をちょうだい」 「必要経費を払ってもらえればいピン。ホーリージェムストーン一個の値段は、税込みで四千九百八十円ピン」 「買うわ」 「即決かよ!」 真面目な顔でピンピンを見つめるナヴィアに、オレは突っ込んでしまった。日本円に疑問を持たないのか。 ナヴィアはピンピンを抱きかかえ、オレに近寄ってきた。ときめきに目を輝かせている。 「これから一緒に戦いましょう、マグナム。あなたと私で、悪魔を追い払って世界を救うのよ!」 「後半で三人目が出てくるピン。序盤で悪の魔法少女も出てくるピン」 ぺちぺちと、ピンピンはナヴィアの腕を叩いた。オレはうんざりしたが、逆にナヴィアのテンションは上がる。 「そう来なくっちゃ。魔法と魔法の意味不明なぶつかり合い、アイテム乱舞のごり押し戦闘よねー!」 「オレとしては、作戦と陰謀と理想と現実と未来と過去と新兵器が絡み合う、どシリアスな戦闘をやりてぇんだけど」 むしろそっちが本領だ。ハイテンションに喋り続けるナヴィアから目を外し、オレは月を見上げてズームした。 月の地表には、戦闘の跡が残っている。無数のクレーターのいくつかに、スクラップと化したロボットがいた。 火星革命軍の大型兵器だ。ライトニンガー隊長が倒したものらしく、腹の辺りに大穴が開いている。 ああ、戦いたかったなぁ。戦争の初期で倒された兵器は製造が中止されるから、以降は出ないかもしれないし。 だけど今から月に行っても、敵がいないんだから戦闘にならないし、なにより空しくて嫌だ。 はしゃぎ回るナヴィアと上機嫌なピンピンを横目に、オレは地球を見下ろした。意外とでかいな、外から見ると。 オレはこれから、この地球を守るのか。ゲロっちまうほど嫌な格好になって、長ったらしい魔法の呪文で。 嬉しくない。どうせ守るんなら、巨大ロボになって守りたかった。ヘッドオンとか、ファイナルフュージョンとかして。 神よ。どうしてオレなんかを選んだんだ。そもそも選定基準が解らない。気紛れどころか嫌がらせだろ、これ。 いつか天界に行くことがあれば、神のドタマを撃ち抜いてやる。フルバーストモードで全弾発射してやる。 口に出したら運気が下がっちゃいそうなので、オレは内心で誓った。 それから一年間、四クール。毎週日曜日午後六時から、オレとナヴィアは魔法天使として戦った。 ナヴィアは変身すると、魔法天使ホーリーナヴィアリアという長い名前になった。オレは、呼ぶたびに噛んだ。 自棄になって戦った。どこからともなく湧いてきて民間人に襲い掛かるデビリンを、手当たり次第に倒し続けた。 車に取り憑いてみたり、小学校の教師を暴走させてみたり、イヌネコを操ってみたり、敵は色々と仕掛けてきた。 その度にオレはうんざりし、ナヴィアは張り切った。女って、よく解らない。価値観が根本的にずれているのだなぁ。 変身姿を火星革命軍に知られてしまい、ついでにアースにも知られたが、二重生活をアサダ長官から応援された。 でも、残業手当は支給されなかった。当たり前といっちゃ当たり前なんだが、なんか納得出来ねぇ。 ピンピンの言った通り、途中から悪の魔法少女が出てきた。そっちは至って普通の、黒髪貧乳美少女だった。 彼女はオレ達を見た途端、有り得ない有り得ない、と三十二回連呼していた。うん、オレもそう思う。 話は適当に順調に進んで、三人目の魔法天使がオレ達に加わった。その名も、ホーリーライトニンガー。 そうなのだ。オレが尊敬して止まない正義の戦士、ライトニンガー隊長が、よりにもよって魔法天使になった。 さすがにこれはナヴィアもショックだったようで、隊長が加わった翌日、一日中膝を抱えていた。気持ち、解るぞ。 オレ達が魔法天使をしている合間に、戦争は激化した。優勢を誇っていた月面多国籍軍が、押されてきたのだ。 火星革命軍の綿密な作戦によって、鉄壁と思われた防御が崩れたのが原因だ。おまけに、裏切り者もいた。 第三勢力も登場し、戦局は混迷を極めた。オレはそっちに行きたかったが、ナヴィアに引っ張り戻された。 オレ達三人は天界と魔界と人間界を行ったり来たりして、天界と人間界の綻びを直し、魔界を侵略した。 神に会った直後にフルバーストモードで突撃しようとしたが、ライトニンガーに押さえられ、未遂に終わった。 ついでに悪の魔法少女も改心させて、味方に付けた。凄く嫌そうだったが。 どうにかこうにか魔王を倒して戦場に戻り、やはりこちらも最終決戦だったので、戦いに戦った。 結果、なんとか月面多国籍軍の勝利に終わり、火星革命軍による地球植民地計画を阻止することが出来た。 そして、一年後。ピンピンは天界に帰り、オレはようやく平穏を取り戻した。 オレは、月面基地にいた。アースのシャトルが、宇宙港に停泊しているのが見える。 一年間の戦いの痕跡が至るところに残っていて、月面基地も少々やばい。だが、これから修復されるだろう。 オレは、ロボットのスクラップが散らばる月面を見つめていた。寂しいが仕方ない。戦争は終わるもんだ。 以前と変わらぬ姿で、青い地球がある。魔法天使も月面戦争も、地球本人は知ったことじゃなさそうだ。 平和だよな。オレは窓に背を向けて、壁に立て掛けておいたマシンガンを、整備するために手に取った。 「帰ってきたピン!」 条件反射で、オレはがばっと振り向いた。細い窓枠に器用に立ち、ペンギンもどきがいた。 首には、前以上にごてごてになったコンパクトが下げられている。またか、またあるのか。 「変身魔法物には二年目があるって決まっているんだピン」 「魔王は倒したはずだろ」 「今度は異次元の帝王が侵略に来るんだピン。そしてヘルっち達は二段変身をするんだピン!」 オレはじゃきりとマシンガンを構え、窓へ乱射した。どがががががっ、と銃声と共にパネルが割れ、砕け散る。 壁材やパネルの破片が散らばり、窓枠は穴が開いて歪んでいた。が、ピンピンは至って平然としている。 「効ーかなーいピーン。ヘルっちは学習能力がないピンねー」 「だぁーもう!」 がしゃん、とオレはマシンガンを床に叩き付けた。拳を握り、どがんと壁を殴り付ける。 ぎちぎちと拳を押し込み、渾身の力で叫んだ。 「二度とやるかぁーっ!」 やってたまるか、魔法天使。続いてたまるか、こんな戦い。 それになぁ、神よ。お前は知らないのか、こういう世界の常識を。 二年目ってのは、転けるんだよ。 05 4/13 |