アステロイド家族




ファザーズ・デイ



 まずは情報収集からだ。
 情報がなければ何も始まらない。戦略の立てようがない。そう判断したトニルトスは、ハルと共に家に帰った。
ハルを肩装甲の上から下ろして玄関に置いてやると、ハルは大きな声でミイムを呼び、ケガをしたと喚いていた。
その途端、ミイムが飛び出してきた。ハルの擦り剥いた膝を見るや否や、いつも以上に甘ったるい声を出した。
大丈夫ですぅ、すぐに綺麗にしますぅ、とミイムはハルを抱きかかえて家の中に戻り、トニルトスは取り残された。
 ミイムへと伸ばし掛けた手を下げ、トニルトスは突っ立っているしかなかった。これでは、聞き出しようがない。
だが、巨体であるが故に家の中には入れない。しかし、この分ではミイムが出てくるまでは時間が掛かりそうだ。
それまで待つのも、また不愉快だった。トニルトスは仕方なしにその場に座り込むと、片膝を立てて背を丸めた。
 それから十分過ぎようが、三十分過ぎようが、ミイムは出てこなかった。恐らく、ハルを寝かし付けたのだろう。
ハルを寝かし付けている間にミイムまで眠ってしまうことも頻繁にあるので、今回もまた、そうなったに違いない。
その証拠に、二人の生体反応が大人しかった。これでは埒が明かない。だが、騒ぎ立てて起こすのは格好悪い。
となれば、待つしかないだろう。長期戦を覚悟したトニルトスは、そのまま玄関先で小一時間ほど座り込んでいた。
その後、農作業を終えたヤブキが帰ってきた。農耕具を担いだヤブキは、不思議そうにトニルトスを見上げた。

「トニー兄貴、何してんすか? ハウスっすよ、ハウス」

 と、ヤブキがガレージを指したので、トニルトスはむっとした。

「あれは私の住居ではない。本来であれば入ることすら有り得ない場所だが、雨露を避けるために入っているだけに過ぎん。増して、あの穢らわしきルブルミオンと同じ空間になど」

「もしかして、あれだけ啖呵切ったのに肝心の父の日のプレゼントに何を贈ればいいのか解らないってんじゃ」

 ヤブキの的を射た言葉に、トニルトスは若干自尊心を抉られたが意地を張った。

「そんなわけがあるか。だが、戦士たるもの、何も情報を得ずに動くわけにはいかんだろうが」

「やっぱり解らないんじゃないっすか」

「やかましい!」

 弾かれるように立ち上がったトニルトスは、ヤブキを踏み潰そうとしたが、ヤブキはひょいと退避した。

「解らないんだったら素直に聞けばいいっすよ。オイラとかに」

「貴様など当てになるものか」

「その証拠もないくせにぃ」

「そんなもの、確かめずとも解る」

「じゃ、オイラはトニー兄貴になぁんにも教えなくていいんすね?」

 ヤブキは、トニルトスの隣を通り過ぎて家に向かった。トニルトスは、顔を逸らす。

「当たり前だ」

「後で泣き付かれても知らないっすからね? 本当に本当に知らないっすからね?」

 ヤブキは玄関の前で立ち止まると、長靴の底をコンクリートに叩き付けて土を落とす。

「聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥ってことわざもあるんすけどねー」

「なんだ、それは」

「聞いた通りの意味っすよ。じゃ、オイラはこれで」

 ヤブキは玄関の扉を開け、家に入った。トニルトスは玄関に背を向けたが、ヤブキの言葉がいやに気になった。
機械生命体の間にも、似たような格言はあるにはある。情報がなければ軍師は尖兵にも劣る、というものだった。
それが、この場合にも当て嵌まるというのか。確かに情報を得ようとはしていたが、ヤブキは当てにならないのだ。
故に切り捨てたが、あれほどしつこく話し掛けられるとヤブキの方が有益な情報を持っているようにも思えてきた。
考えてみれば、ミイムはこの星系の現住生物ではない。ヤブキは体こそサイボーグだが、太陽系で生まれ育った。
父の日も、れっきとした新人類の習慣なのだ。となれば、尚更ヤブキに聞いた方が良かったのではないだろうか。

「ヤブキ!」

 ここは、妥協する他はない。トニルトスは二階へと声を上げると、ヤブキの部屋の窓が開いた。

「なんすかー?」

 窓を開けたヤブキは、トニルトスが食い付いてきたことが嬉しいのか声色が妙に明るかった。

「今回は非常時だからこそ貴様に頼るのであって、貴様という男を認めたわけでもないことを前置きしておく」

 トニルトスは二階の窓に顔を近寄せ、ヤブキに迫る。

「貴様のプレゼントとはなんだ」

「いやぁーやっとデレてくれたっすねー、オイラとしちゃあマジ嬉しいっすよ」

 上機嫌なヤブキは散らかり放題の部屋の中に戻ると、一メートル以上もある細長い筒のような物体を出した。

「これっすよ、これ」

「なんだそれは?」

 トニルトスは若干戸惑いながら、ヤブキの抱えている物を見下ろした。人間の身長程度の長さがある枕だった。
普通の枕に比べて厚みもあり、見るからに柔らかそうだ。だが、それを包んでいるカバーが異様極まりなかった。
身の丈ほどもある薙刀を抱き、内股で悩ましげに身を捩る少女型サイボーグのイラストがプリントされていたのだ。

「トオリの抱き枕っすよ」

 ヤブキは自慢げに、抱き枕をトニルトスに示した。

「ムラサメのディスクボックスの第二弾の初回特典で、限定五千個だったんすよ、五千個。ムラサメは特撮っすから基本的にグッズは実写画を使うんすけど、これはムラサメのノベライズの挿絵を描いているイラストレーターが描いた絵なんすよ。人によっては好き嫌いがあるんすけど、オイラは大好きっすね!」

「…だからそれが何だと言うんだ」

 全く理解出来ず、トニルトスは冷ややかな反応をした。だが、反対にヤブキはヒートアップしている。

「ちなみに第一弾の初回特典だったユリカの抱き枕もあるっすけど、そっちはオイラが永久保存するっすからプレゼント出来ないんす! 需要があるのかどうか解らない野郎二人の等身大タペストリーなんかもあるんすけど、それはそれでコレクション性が高いんでやっぱりプレゼント出来ないんす! オイラもトオリは萌え萌えっすけど、ここは我が家でもトオリ最萌えであるマサ兄貴に譲渡した方がトオリとしても幸せなんじゃないかと思ったんすよ!」

「炭素生物の嗜好は訳が解らんな…」

 トニルトスはヤブキの抱えている抱き枕を見下ろし、萎えた。人間の男は、あんなものを抱いて寝るというのか。
少なくとも、トニルトスには到底理解出来ない。機械生命体は繁殖出来ないため、性欲も存在していないからだ。
女性型機械生命体に対しては多少なりとも魅力を感じるのだが、サイボーグとなればまた別で魅力の欠片もない。
増して、それが平べったい布にプリントされたイラストなら尚更で、そんなものに入れ込むヤブキが不気味だった。

「やっかましいんだよコノヤロウですぅ!」

 唐突に、ヤブキの部屋の扉が開け放たれた。トニルトスが見やると、寝乱れた髪のミイムが廊下に立っていた。
ヤブキはトオリの抱き枕を足元に寝かせてから、ミイムに振り向いた途端、弾丸のような速度で物が飛んできた。

「ぐほあっ!」

 額に打撃を受けたヤブキは仰け反り、たたらを踏む。積層装甲に衝突したデータディスクは、粉々に砕け散った。
ヤブキ目掛けてサイコキネシスでディスクを飛ばしたミイムは、肩を上下させていたが、ヤブキに歩み寄ってきた。

「せっかくハルちゃんが寝付いてボクも寝付けたと思ったのに、あんたのキモオタトークですっかり目が覚めちゃったじゃねぇかコンチクショウですぅ! ついでにトニーさんの足音と駆動音もでかすぎるもんだから、ボクの繊細な聴覚にギンギン来るんですぅ! ママの一日はお前らに比べりゃ激務なんだよド畜生ですぅ! 昼寝くらいまともに摂らせろやアホンダラですぅ!」

「あー…オイラの二次元画像コレクションディスクNo.4がー…」

 ヤブキはミイムの罵倒を無視し、砕けてしまったディスクの破片を名残惜しげに拾い集めた。 

「人の話を聞けやスカタンですぅ」

「オイラはトニー兄貴に教授していただけっすよ? そんな人聞きの悪いことを言わないでほしいっす」

「てめぇの教授なんざ受けない方が身のためだろうがコノヤロウですぅ」

 寝入り端を邪魔されたせいか、ミイムの苛立ちは激しい。いつもは愛らしい金色の瞳から、殺気が迸っている。

「まあ…そのはずだったんだが」

 トニルトスはヤブキの肩を持つつもりではなかったが、このままではまた罵倒されると思い、自己弁護した。

「私は、父の日に譲渡するべき贈答品の内容についての情報を得ようと思っていたんだが」

「みゅみゅう!」

 途端にミイムは頬を染めて可愛らしい声を出し、両手を胸の前で組んだ。

「トニーさんってば紳士ですぅ! パパさんには全員がお世話になっているんですから、御礼の意味も込めて父の日は祝わなきゃダメなんですぅ! それに、トニーさんの方からボク達に歩み寄ってくれるなんて、とっても嬉しくて胸がキュンキュンしちゃいますぅ!」

「それほどのことでもない気がするが」

 トニルトスはミイムの変わりように付いていけず、引き気味に呟いた。ミイムは窓から身を乗り出し、微笑む。

「良かったら、ボクもお手伝いしますぅ。ヤブキなんかよりもぉ、ずぅーっと当てになりますぅ」

「オイラのもなかなかいいと思うんすけどねぇ。トオリの抱き枕なんすから」

 ヤブキは砕け散ったディスクの破片をゴミ箱に入れながら、悔しげにぼやいた。

「それはボクが頂きますぅ。可愛い可愛いトオリちゃんとねんねするのはぁ、ボクこそが相応しいんですぅ」

 ミイムは頬に両手を当て、悩ましげに身を捩る。ヤブキはトオリの抱き枕を抱え、ミイムから距離を空けた。

「ダメっすよ! こういうコレクション性の高いグッズは、下手に使用しちゃうようなユーザーよりも商品価値を解っているユーザーの手に渡った方が幸せなんす! ミイムなんか、どうせ涎とかその他諸々の体液でトオリをベッタベタにしちゃうのが関の山っすよ!」

「それはあんたが決めることじゃなくてトオリちゃんが決めることですぅ!」

 ミイムは眉を吊り上げ、ヤブキに詰め寄る。ヤブキは抱き枕を抱えたまま、後退って逃げる。

「ミイムの発言の方がオイラよりも余程ヤバいじゃないっすか! ていうかオイラは二次元と三次元の区別は付けてあるっす! 特撮は三次元の代物っすけど内容的には二次元なんでオイラ的には二次元扱いなんすよ! それと、トオリは皆の嫁であってミイムの嫁じゃないっす!」

 もう、何が何だか解らない。トニルトスは心底馬鹿馬鹿しくなって、ヤブキの部屋の窓から顔を引き、背を向けた。
二人の変な言い合いは続いているが、これ以上聞くとこちらまで頭が悪くなりそうだったので、無視を決め込んだ。
こんなことになるなら、最初から聞かない方が良かった。トニルトスは家の壁際で腰を下ろして、ため息を吐いた。
すると、傍らの窓の奥から小さな物音が聞こえた。ピンク色のカーテンが引かれると、寝ぼけ眼のハルが現れた。

「なんだ、ここは貴様の部屋だったか」

 トニルトスが言うと、ハルは頷いた。

「うん。ママと一緒にお昼寝したはずなんだけど、ママがいないの。トニーちゃん、ママがどこにいるか知ってる?」

「ヤブキと交戦している」

「じゃあ、今はいいや」

 ハルは大きな欠伸をしてから、子供用のベッドの上で体を丸めた。

「お休み、トニーちゃん」

 トニルトスは外から窓を閉めようとしたが、指を止めた。ハルの部屋のテーブルには、クレヨンが散らばっている。
画用紙に大きく描かれている拙い似顔絵には、ハルの汚い字が書き添えられていた。パパ いつもありがとう、と。
結局、ハルの贈り物は似顔絵になったようだ。トニルトスはハルの絵を見つめながら、自分なりに結論に至った。
ヤブキの意見は参考にならなかったが、ハルはとりあえず参考になった。つまり、思いを伝えることが重要なのだ。
父の日を口実にして、普段は示しづらい感情や言いづらい言葉を示す。プレゼントは、そのための潤滑油なのだ。
 トニルトスも、本音を言えばマサヨシに何も感じていないわけではない。命を救われた恩義ぐらいは感じている。
だが、言葉にするのは不愉快であり、物を贈るのも不本意だ。ならば、戦士として出来ることはただ一つしかない。
 機械生命体の流儀で、祝ってやろうではないか。




 その夜。マサヨシは、家族全員から祝福された。
 もちろん、とても嬉しかった。夕食もいつもより少し豪勢になり、調子に乗って久し振りに酒を出したほどだった。
家族からの心尽くしのプレゼントも、嬉しかった。ハルの似顔絵は予想の範疇だったが、微笑ましくて頬が緩んだ。
ミイムはホールのケーキを焼いてくれた。マサヨシはそれほど甘いものは好きではないが、気持ちが嬉しかった。
ヤブキから贈られた、ニンジャファイター・ムラサメのトオリの抱き枕だけは不可解だったが、一応もらっておいた。
だが、使えるわけもなく、飾れるわけもないので、当面はクローゼットの肥やしになるのは間違いなかったのだが。
サチコは言葉だけだったが、感謝の意を示してくれた。イグニスからは、カリストステーションで既にもらっている。
そして、残るはトニルトスだけになったが、夕食を終えてケーキを切り分ける段階になっても、彼は動かなかった。

「トニーちゃーん」

 ケーキを食べ終えたハルはリビングの掃き出し窓を開け、庭先にいる青い機械生命体を呼んだ。

「トニーちゃんも、パパにプレゼントあるよね?」

「ねぇわけがねぇだろうが、なぁ?」

 リビングの前で胡座を掻いているイグニスは、大きく頷く。家に背を向けているトニルトスは、横顔だけ向けた。

「この私から祝福を受けるのだ、生涯の名誉とするがいい」

「ほら、パパ!」

 ハルはマサヨシの手を引っ張って、リビングの掃き出し窓まで連れてきた。

「頂けるなら頂いておこうか」

 マサヨシは期待していなかったが、トニルトスを見上げた。

「ならば、心して見るがいい!」

 トニルトスは地面を蹴り、浮上した。気付くと、マサヨシの背後にはミイムとヤブキとサチコまでやってきていた。
他の面々も、トニルトスのプレゼントが気になるらしい。マサヨシも、ほんの少しの期待と共に不安を抱いていた。
だが、これを機に彼の態度が少しでも軟化してくれれば、とも思っていた。そして、いずれ働きに出てもらいたい。
 トニルトスの細身ながら強靱な鋼鉄の体が上昇し、人工の月を遮る。完全に回復した左腕を、高々と掲げた。
かすかな唸りを伴い、高出力のエネルギーが左腕に満ちる。トニルトスは左腕の外装を開き、砲口を突き出した。

「我が祝砲を!」

「うおわあっ!」

 イグニスが急発進してトニルトスを取り押さえたが、一瞬遅かった。左腕から放たれた雷光が、夜空を砕いた。
粉々に割れたスクリーンパネルの破片が降り注ぎ、破損部分からはヒューズが飛び散り、薄く煙も上がっていた。
彼の予想外の行動に、マサヨシは怒るよりも先に唖然としてしまった。他の面々も、呆気に取られてしまっている。

「馬鹿野郎!」

 イグニスはトニルトスを殴り付け、割れた夜空を指した。

「あれが一枚いくらすると思ってんだよ! きっちり弁償しやがれトニルトス!」

「私から祝福を受けたのだ、まずは礼を言え」

 だが、トニルトスは悪気の欠片もない。マサヨシは深くため息を吐いたが、これも良い機会か、と思い直した。

「そうだ。弁償しろ、トニルトス」

「私は誉れ高きカエルレウミオンの戦士だ、下劣な職業に身を窶すわけにはいかん」

「そうか。将校ってやつは弁償も出来ないのか。無能にも程がある」

「誰が無能だ!」

 と、トニルトスが食い付いてきたので、マサヨシは畳み掛けた。

「だったら、俺達の下で働いてくれ。戦力が増える分、効率も上がるからな。そうすれば、お前がこれまで食い潰してきたエネルギー代も、今し方ぶち壊した大型スクリーンパネルの代金もより早く補填出来るはずだ。違うか?」

「…屈辱だ」

 トニルトスはマサヨシをきつく睨み付けていたが、こればかりは逃れられないと悟り、悔し紛れに叫んだ。

「ならば、貴様に思い知らせてくれようではないか! 雷光と謳われたカエルレウミオンの戦闘の神髄を!」

「今の宣言、忘れるんじゃねぇぞ。自宅警備員なんかよりも、傭兵の方が余程社会に貢献出来るしな」

 イグニスがしたり顔で近寄ってきたので、トニルトスは苛立ちに任せてイグニスを蹴り落とした。

「ならばこれは貴様に対する礼だ、ルブルミオン!」

「八つ当たりすんじゃねぇよ」

 抉れた地面から起き上がったイグニスは、頭を振って土を払った。そして、リビングにいるマサヨシに向いた。
マサヨシは苦笑いを浮かべていたが、満足げでもあった。ケガの功名だったが、これでトニルトスが戦力になる。
トニルトスはやり込められたことが不愉快でたまらないのか、居心地が悪いのか、どこかへ飛び去ってしまった。

〈マサヨシ。破損したスクリーンパネルは十二枚よ。それを全部弁償させるのは、ちょっと時間が掛かるわね〉

「だろうな」

 マサヨシはサチコに返してから、トニルトスが破壊した空の一部を見上げた。当分、空に穴が空くことになる。

「しかし、とんでもないことをやらかしてくれたもんだな。おかげでこっちは大損害だ」

「その割には怒ってないっすね、マサ兄貴」

 ヤブキはマサヨシの肩越しに、撃ち壊された夜空を仰ぎ見た。マサヨシは、肩を竦める。

「怒っていないわけじゃない。だが、今日は怒る気分になれないんだ」

「どうして?」

 ハルはマサヨシの手を握って見上げてきたので、マサヨシは娘の頭を優しく撫でる。

「そりゃ、ハルや皆が俺を祝ってくれたからさ。こんなこと、滅多にあるもんじゃないからな」

「みゅうみゅう、パパさんが幸せならボクも幸せですぅー!」

 ミイムはマサヨシの腕に縋り、甘えてきた。マサヨシはそれを振り解こうとしたが、もう一方の手にはハルがいた。
ハルの手前、ミイムを蔑ろには出来ない。マサヨシとしては複雑な心境だったが、まあいいか、と笑みを浮かべた。
状況に流されたヤブキまでマサヨシに飛び掛かってきそうになったが、さすがにそれだけは足を上げて阻止した。
イグニスもイグニスで、楽しげだった。皆に好意を向けられることが嬉しすぎて、トニルトスに対する怒りが薄れた。
奇天烈ながらも愛すべき家族がいる幸せは何物にも代え難い。だから、トニルトスを責めるのは明日に後回しだ。
 こういう日は、平和に終わりたい。







08 6/4