アステロイド家族




天からの訪問者



 シャッターを殴り付ける音に、イグニスの苛立ちが呼び戻された。
 それでなくても、今日は精神が消耗している。大事に育てて成長させた、スペースデブリを壊されたのだから。
キャサリンと名付けたあのスペースデブリの山には、イグニスが特に惚れ込んだスペースデブリばかりを集めた。
ヤブキの操る訓練飛行艇が蹴散らしたスペースデブリの無惨な姿を思い出すだけで、切なさで感情回路で軋む。
それなのに、ヤブキの態度は悪びれるどころか開き直っている。これには、イグニスでなかろうと怒って当然だ。
その上、ハルを泣かせた。本音を言うならミイムのように切れてしまいたいところだが、この図体では大惨事だ。
 だから、理性を飛ばさないためにガレージに籠ったのだが、そのガレージのシャッターが殴り付けられている。
しかも、ヤブキの無遠慮な声も聞こえてくる。イグニスはガレージに寝そべっていたが、遂に耐えきれなくなった。

「うっせぇんだよこの野郎!」

 イグニスは起き上がると同時にレーザーブレードを握り締め、ばしゃっ、とシャッターを強引に押し上げた。

「おいサチコ、きっちり見張っとけってマサヨシから言われたんじゃねぇのかよ!」

〈だ、だって…止める間もなく走り出して行っちゃったから…〉

 イグニスから怒声を浴びせられ、ヤブキの傍に浮かぶサチコは少し後退した。

「イグ兄貴! ちょっとお部屋に失礼するっす!」

 敬礼したヤブキは、何の躊躇もなくガレージに駆け込んだ。イグニスは、その言葉に言い返す。

「お前の存在そのものが失礼なんだよ!」

「サチコ姉さん、農具はどこにあるっすかー?」

 ヤブキは、無数のジャンク品に三方の壁を埋め尽くされているガレージ内を見渡しながら、サチコに尋ねた。

〈え、ええと、あのまま動かしていないのなら、右側の壁にあるロッカーに入っているはずだけど…〉

 マサヨシの命令を守れなかった負い目で、サチコの声色は気弱だった。だが、ヤブキは全く気にしない。

「そうっすか、ありがとうございますっ!」

「って、俺はまだ何も言ってねぇぞ! 勝手にいじるんじゃねぇ!」

 イグニスの文句も、ヤブキを止められない。ヤブキは、右側の壁に設置されているロッカーを開け、覗き込む。

「あー、これっすね。シャベルに移植ゴテとジョウロだけっすか? 鍬はないんすか?」

〈クワ?〉

 聞き慣れない単語にサチコが聞き返すと、ヤブキは棒状のものを握る手付きをして両腕を振り上げた。

「そう、こういうやつっす。でも、その分だと、サチコ姉さんは知らないみたいっすね」

 まあいいか、とヤブキはロッカーに突っ込まれていた大型のシャベルを取り出すと、肩に担いで敬礼した。

「それでは、農耕戦士ジョニー・ヤブキ、出撃するっす!」

「…ノウコウセンシ?」

 イグニスは訳の解らない単語に戸惑い、いやっほう、と叫びながら畑に駆け出していくヤブキを見送った。

〈お願いだから待ってよ、ヤブキ君! ちょっとは大人しく出来ないの!?〉

 サチコは悲鳴に近い叫びを上げ、慌ててヤブキを追いかけた。イグニスは、サチコへ伸ばし掛けた手を下げた。
引っ掻き回すだけ引っ掻き回して、ヤブキは行ってしまった。これは、ヤブキを追いかけるべき展開なのだろうか。
気疲れは更に膨らんで倦怠感すら生じていたが、この様子では、サチコですらもヤブキを持て余しているようだ。
サチコに手を貸すのは不本意極まりないが、ヤブキを放置したせいでおかしなことになったら取り返しが付かない。

「頼りにならねぇ電卓女だ」

 苛立ち紛れに文句を零しながらイグニスがガレージから出てくると、玄関から出てきたマサヨシと鉢合わせした。
マサヨシも、最早苛立ちを隠していなかった。表情から察するに、寝入ったところでヤブキが騒ぎ出したのだろう。

「サチコはどうした」

 マサヨシは諦めてはいたが、一応尋ねた。イグニスは、レーザーブレードを背部のジョイントに填めた。

「あの若造と畑に行っちまったよ。何をするつもりなんだよ、あいつは」

「とにかく様子を見よう。サチコまで切れられたら、それこそたまったものじゃない」

「いっつも取り澄ましてる電卓女が慌てる様は見物だけどな」

「その楽しみ方はどうかと思うが、この状況を楽しめるお前は一流だと思うよ」

「そうでもしなきゃやってらんねぇだろうが」

 マサヨシと共に畑に向かいながら、イグニスは両手を上向けて肩を竦める。マサヨシは、相棒に同意する。

「そうかもな」

 マサヨシとイグニスが畑に到着すると、ヤブキは担いできたシャベルを畑に盛大に突き立てているところだった。
その周りを、サチコが騒ぎながら飛び回っている。だが、ヤブキは気に止めることもなく、地面を掘り返していた。
マサヨシはその行動にぎょっとしたが、ヤブキの動向を見守ることも必要ではないのか、という考えが頭を掠めた。
イグニスが身を乗り出したが、それを制止した。ヤブキのことを知るためには、彼の行動を観察する必要がある。
サチコにも引き下がるように命じ、マサヨシの傍まで下がらせたが、サチコははらはらしていて落ち着きがない。
 ヤブキは妙な調子の歌を歌いながら、慣れた手付きで硬い土を掘り返し、踏み固められた土をほぐしていた。
マサヨシとハルが植えて育てていた作物の根本にシャベルを入れ、シャベルの縁に足を当ててぐっと押し込んだ。
そして、根本から一気に掘り起こすと、作物を脇に避けた。しばらく同じ作業が繰り返されて、全て掘り出された。

「んー」

 掘り起こした作物を並べ、シャベルを操る手を止めたヤブキはマサヨシらに向いた。

「ここの土壌にはミミズはいないんすか?」

〈そんなもの、いないわよ。そもそも、ここの土は小惑星を崩して作ったものだから、いるわけがないわ〉

 サチコの答えに、ヤブキは納得したように頷いた。

「あー、道理で土の感触が妙だったわけっすね。小惑星を崩して作ったんなら、土じゃないっすもんね。岩っすよ、岩。そういう土は見栄えも良くて管理もしやすいかもしれないっすけど、根が広がりにくいから畑には向かないっす。こりゃ、土壌改良から始めないとならないっすね。これはやりがいがありそうっす!」

「土に植えるだけではダメなのか?」

 マサヨシが問うと、ヤブキは片手を上げて横に振った。

「論外っすよ、論外! 野菜ってのは土が全てっすから、その土が痩せていたら、どんなに良い種と肥料を使っても上手く育たないんすよ。それと、場所もちょっと問題っすね。このコロニーの構造、ざっと見た感じだと、人工重力を使って循環するタイプみたいっすから、もっと高台に作った方がいいっすね。せっかく山があるんだから、その斜面にでも作り直した方が育ちもいいと思うっすよ」

「だが、あの山の周囲の植物は遺伝子操作されていて、過剰に成長してしまうんだが」

「水が問題なんすよ、水が」

 ヤブキはざしゅっと土にシャベルを突き立ててから、標高五百メートルの山を見上げた。

「サチコ姉さん。このコロニーを見つけた時に、あの山の中にある浄水システムは点検したっすか?」

〈ええ、もちろんよ。どの数値に問題は見られなかったわ〉

「そりゃきっと、初期状態の数値だったんすよ。完全循環型のコロニーの季節変動を軌道に乗せるためには、通常の数倍の速度で季節を循環させて新陳代謝を行うのが手っ取り早いんすけど、状態が落ち着いたら調整を加えて季節変動の速度を落とすのが基本なんす。あの山の周囲では植物が過剰に成長して暴走しているのに、こっちじゃなんともないってことは、あの山の植物は季節変動を生み出すためだけに改造された植物に違いないんすよ。だから、それらの植物の成長と老化を促進するホルモン剤のカートリッジが、浄水システムの降雨ユニットに入っているはずっす。それさえ抜けば、植物の暴走も止まるっすよ」

 一気に喋ってから、あ、いっけね、とヤブキは後頭部を押さえた。

「すいません、またなんか調子に乗っちゃったっす」

「あ、いや…」

 マサヨシは、返す言葉が見つからなかった。ヤブキという男は、無遠慮でやかましいだけだと思っていたのだ。
だが、その認識を改めなければならない。イグニスも呆気に取られており、サチコもまた戸惑っているようだった。

「ヤブキ」

 マサヨシが呼ぶと、ヤブキは快活に答えた。

「はい、なんすか!」

「お前は、なぜそんなに詳しいんだ?」

「ああ、それは簡単な話っすよ。オイラ、火星の地表にあるグリーンプラントコロニーの出身で、昔っから農作物とか土とかをいじってたんすよ。各惑星のコロニーに食糧を供給するための水耕栽培メインのプラントとは違って、作物の品種改良と実験がメインのプラントだったっすから、地面もほとんどが栽培に適した土だったんす。で、オイラの親はそこで科学者をしていたんすけど、仕事が忙しいもんだからオイラはいつもほっぽり出されちまってて暇だったもんで、他の科学者とかプラント職員の見よう見まねで土いじりとかやってみたんす。最初は失敗ばかりだったっすけど、自分の手で植えた作物が育っていくのがめっちゃ面白くて、気付いたらこんな感じになっていたんす」

「だったら、どうしてプラントの職員にならなかったんだ?」

「まあ…オイラにも色々とあるんすよ、色々と」

 と、ヤブキは声のトーンを若干落としたが、すぐに元気を取り戻した。

「マサ兄貴、イグ兄貴、サチコ姉さん! 色々とご迷惑をお掛けしたお詫びと言ってはなんですが、許可さえ頂ければ、ここよりももっと良い畑を開墾してみせるっす! オイラ、畑作りだけは自信があるんすよ!」

「どうする、マサヨシ」

 イグニスは身を屈め、マサヨシに耳打ちする。マサヨシは、イグニスを見上げる。

「どうしろと言われても、なぁ…」

〈でも、決して悪い話じゃないわよね〉

 サチコは、マサヨシに近付いてきた。マサヨシは顎に手を添えて損得勘定をしていたが、顔を上げた。

「解った。但し、やりすぎるな。俺達が決めた範囲でだけ、畑を作ってくれ」

「マジっすか、マサ兄貴! そうと決まれば百万馬力で頑張っちゃうっすよー!」

 うおっしゃあ、と両腕を大きく振り上げて喜んだヤブキは、これまで以上のテンションの高さで掘り返し始めた。
マサヨシはイグニスと視線を合わせ、両手を上向けた。こうなったらなるようにしかならない、と思ったからだ。
イグニスもそのようで、特に意見は述べなかった。サチコはマサヨシの判断に従ったが、少々不本意そうだった。
ヤブキは威勢良く土を掘り返し、根が広がりすぎて硬くなっていた土をほぐしながら、また妙な歌を歌っていた。
だが、その歌声はやたらと大きかった。無意識のうちに出るのだろうが、それにしてはボリュームが大きすぎる。
 あまり傍にいると苛立ちが戻ってきそうだったので、マサヨシはサチコに後を任せてイグニスと共に帰宅した。
ヤブキから目を離すのも危険だが、寝起きのハルと怒りの残るミイムを放置するのもまた充分に危険だからだ。
 父親役も、なかなか大変である。




 翌日。ヤブキは、サチコの力を借りて木星基地と連絡を取った。
 マサヨシの判断で商売道具のスペースファイターには乗り込ませず、リビングに通信機器を持ち込んで行った。
壁一面のモニターを使用し、ヤブキのサイボーグ・シリアルナンバーと訓練生用通信コードを基地へと送信した。
一時間のタイムラグの後、高速通信が許可された。一応軍務に関わることなので、通信回線は暗号回線だった。
 ヤブキはモニターの前に胡座を掻いて座り、ホログラフィータイプのキーボードを叩いて報告書を書き上げた。
事前にやっておけ、とマサヨシは何度も言ったのだが、畑仕事に精を出しすぎて文章を考えられなかったらしい。
昨日、ヤブキから訓練学校での記録的に低い成績や何度も落第したことを聞いたが、理由が解った気がした。
農業のように関心を持ったものに一点集中すれば成果を出せるのだが、それ以外では気が逸れてしまうらしい。
破損した訓練飛行艇のブラックボックスから取り出した情報も、余所見と操作ミスが原因で墜落したと示していた。
そのブラックボックスの内容も木星基地に送ることになっているのだが、現時点で事の結末は予想出来ていた。
 ハルとミイムは、ヤブキを遠巻きにしていた。ハルもミイムも、昨日の朝食の恨みがまだ残っているようだった。
昨日、畑仕事を終えて家にやってきたヤブキはきちんと二人に謝り、汚れてしまったリビングの片付けも手伝った。
その頃になると、さすがにマサヨシは態度を軟化させていた。ヤブキはうるさくて鬱陶しいが、悪い人間ではない。
だが、ハルとミイムにとってはそうではないようで、ヤブキと目が合ってもすぐに顔を逸らしてしまう始末だった。
 ヤブキが報告書を書き終えて木星基地に送信してから三時間後、昼下がりに木星基地からの連絡が入った。
引き続き農作業をしていたヤブキは、サチコに言われて慌てて家に戻り、泥を落としてリビングに駆け込んだ。

「遅れて申し訳ありません、アエスタス大佐!」

 ヤブキはリビングのモニターの前に立つと、最敬礼した。マサヨシは、ヤブキの上官である軍人を眺め回した。
ヤブキの肩越しに見えるのは、女の佐官だった。赤い髪に青い瞳に白い肌の長身の美女だが、目付きがきつい。
減り張りの大きいプロポーションと顔立ちは良いのだが、目つきが鋭利を通り越して凶悪で纏う雰囲気も厳しい。
恐らく、彼女が現在の宇宙空挺団の隊長なのだろう。だが、アエスタスという名を聞くのはこれが初めてだった。
マサヨシが宇宙軍を退役して十年になり、人員も入れ替わっている。だから、マサヨシが知らないのも当然だろう。

『ヤブキ二等兵。貴官の報告書とブラックボックスの情報に、一通り目を通した』

 アエスタスという名の女の声は硬質で、サチコよりも遥かに機械的だった。

『過去の戦闘成績と学術成績から判断しても、これ以上貴官が訓練を重ねても、成果は望めない。それどころか、貴官の引き起こすトラブルは重大で、我が軍に致命的な損失を招きかねない。よって、現時点で除隊処分とする』

「…は」

 敬礼した手のまま突っ立っているヤブキに、アエスタスは追い打ちを掛けた。

『何か質問があれば述べろ』

「で、では、失礼します。それは教官どのも同意見なのでありましょうか」

『無論だ』

「除隊されたら、別の訓練部隊に配属される、なんてことは…」

『ない』

「えっと、その、だとしたら、兵舎にある自分の私物とかは…」

『一時間以内に処分する。必要であれば、貴官の元へ送らせよう』

「もちろん必要であります! だっ、だから、処分だけはしないで下さい、大佐!」

 ヤブキは取り乱して叫ぶも、アエスタスは眉一つ動かさなかった。

『では、そうしよう。他に質問は』

「…いえ、特に」

『では、これにて通信を切断する。以上だ』

 ヤブキが引き下がると、アエスタスはそれだけ言い残して通信を切った。直後、ヤブキはその場に座り込んだ。
余程緊張していたのか、だらりと太い両腕を垂らして深いため息を吐いて全身の力も抜くと、がっくりと項垂れた。

「こうなるだろうとは予想はしてたっすよ。でも、やっぱり、ズバッと言われるとショックっすねぇ…」

「あれだけの大失態だからな。ま、妥当な処分だろうよ」

 窓の外からリビングを覗き込んでいたイグニスは、頷いた。ミイムは、つんと顔を逸らす。

「みゅーん。同情票を稼ごうったってぇ、無駄なことですよぉ」

「帰るおうち、なくなっちゃったの?」

 ハルはミイムの傍から離れ、項垂れているヤブキに近付いた。

「まあ、そんなところっす。でも、大丈夫っすよ。オイラ、まだこうして生きているんすから」

 ヤブキは顔を上げると、心配げなハルと目を合わせた。

「ハルは、オイラのことを心配してくれるんすか?」

「だって、お兄ちゃん、なんだか可哀想だもん」

「お兄ちゃん、か」

 ヤブキは曲げていた背中を戻すと、胡座を掻いて座った。

「オイラは強くなりたかったんすけど、もうマジでダメみたいっすね。出来が悪いのは承知で軍に志願して、有り金のほとんどを注ぎ込んで体中を武器まみれに改造しても、結局無駄だったんすから。やっぱり、マサ兄貴の言う通り、身の丈に合った仕事を選べば良かったんすよね。除隊処分になっちまったことだし、オイラ、ひとまず火星にでも」

「いや。行かなくていい」

 マサヨシはソファーから立ち上がり、ヤブキに近付いた。思い掛けない言葉に、ヤブキは声を裏返した。

「へ?」

「うみゃ?」

 とてつもなく不服そうに、ミイムが潰れた声を出した。マサヨシは、ミイムを見やる。

「ついこの間まで、お前もヤブキと似たような境遇だったじゃないか。それなのに、見捨てるのか?」

「そりゃ、そうですけどぉ…」

 うみゅう、とミイムはしおらしく耳を下げ、媚びるように長い睫毛を瞬かせた。

「でも、ボクとその人じゃ大分違いますよぉ、パパさぁん。ふみゅうん」

「だが、違う存在だからこそ共存するべきだと思うんだ。それに、俺は戦闘は出来るが畑は作れないからな」

 マサヨシは身を屈め、ハルと目線を合わせた。

「ハルはどう思う? ヤブキのこと、まだ怒っているのか?」

「うん、ちょっとは」

 ハルはマサヨシを見つめていたが、ヤブキに向いた。

「でも、お兄ちゃんは私にもママにもごめんなさいしたから、そんなでもない」

「だったら、これから仲良く出来るな?」

「まだ解らない。でも、ママと仲良く出来たんだから、きっと出来るよね」

「ああ、出来るさ」 

 マサヨシは、ハルに頷いた。その様を見ていたイグニスは、さも嫌そうに吐き捨てた。

「あーあー、どうなっても知らねぇぞーマサヨシ。そうやって、安請け合いばっかりしてるとろくなことにならねぇぞ」

「だが、その安請け合いのおかげで、お前は生き延びられたんじゃないか」

「そりゃあ、まぁな…」

 若干気恥ずかしげに、イグニスは顔を逸らした。サチコは、マサヨシの肩の傍に寄る。

〈マサヨシがそう言うのなら、私はそれを受け入れるわ〉

「と、いうわけだ。ヤブキ。賛成票三反対票一無効票一、という結果だが、お前自身はどうする?」

 マサヨシの視線が向くと、ヤブキは跳ねるような勢いで立ち上がって最敬礼した。

「是非とも同居させて頂きたいと思うっす! オイラ、力の限り頑張るっす!」

「どうなっても知らねぇぞ、本当に」

 ちったぁ後先考えろ、とイグニスは苦言を呈したが、マサヨシは笑みを見せた。

「いいじゃないか。また家族が増えるんだ」

 イグニスはまだ納得していないようだったが、マサヨシに反論するだけ無駄だと思ったのか、何も言わなかった。
ミイムも未だにヤブキのことは受け入れがたいようだったが、マサヨシの顔色やハルの表情を窺い、黙っていた。
この状況で、下手にヤブキに楯突くのは良くないと判断したのだろう。ミイムもまた、マサヨシに助けられた身だ。
そして、身元引受人であると同時にまともな住環境を与えてくれている人間なので、あまり強く出られないのだ。
ヤブキはそんなミイムの心情を知ってか知らずか、子供のように喜び、それに釣られてハルもはしゃいでいた。
 どうせ、元々寄せ集めで出来上がった家族なのだ。その上で新たな家族が増えたとしても、特に問題はない。
ヤブキの性格が性格だけに、トラブルは起きるかもしれない。だが、これまでも大なり小なりトラブルは起きた。
だから、これからはその規模が少しばかり大きくなり、騒がしくなるだけに過ぎないのだ。そう思えばいいことだ。
 そして、この日から、ジョニー・ヤブキは家族の一員となった。







08 3/12