純情戦士ミラキュルン




第十一話 激闘! 怪人軍団VSミラキュルン!



 広場に設営されたステージには、スポットライトが当たっていた。
 夏祭りの催し物が進められるに連れて日も暮れ、駅前広場を訪れる人々の数も目に見えて増えていた。 先程まで盛大に演奏していたアマチュアバンドが下がり、機材も片付けられ、照明も少し落とされて静まっていた。 ステージ前に並べられたパイプ椅子の観客席はいくらか埋まっていたが、皆、模擬店で買ったものを食べていた。 次の演目であるミラキュルンとジャールの戦いに興味を示す人間も人外もおらず、子供達もめいめいでゲームに 興じている。興味を持たれなければ気が楽だ、と美花は思いかけたが、それではダメだと弱い気持ちを振り払った。

「じゃ、七瀬。荷物、預かっていてね」

 美花が七瀬にカゴバッグを渡すと、七瀬は顎を開いてみせた。

「おう、頑張ってこい」

「何を?」

 鋭太に尋ねられ、美花は口籠もったが誤魔化した。

「うんと、ええと、気にしないで! 後で戻ってくるから!」

「いってらっしゃーい」

 カメリーに手を振られながら美花は駅ビルに入り、女子トイレで変身しようとしたが、長蛇の列が出来ていた。 仕方ないので人目の付かない場所を探し、薄暗い非常口を見つけた美花は、ブレスレットを左手首に装着した。 非常口の前の廊下を行き交う人々が途切れる瞬間を狙い、美花はハートのブレスレットを押さえて声を上げた。

「変身!」

 美花の全身が白い光に包まれ、弾けると、バトルスーツが装着された。

「純情戦士ミラキュルン、真心届けにただいま参上!」

 美花、もとい、ミラキュルンは最後まできっちりポーズを付けてから、握った拳を手のひらに叩き付けた。

「よおし!」

 今日という今日は、本気で戦ってやる。が、そう誓った傍から、ジャールの怪人達を傷付けたくないと思った。 あまり殴りすぎては、彼らの仕事に支障を来すだろう。ジャールの怪人達は夏祭りの運営を手伝っているのだ。 後々を考えれば、本気で戦うべきではない。だが、ヒーローらしいヒーローとして世間に認知してもらうためには。 ミラキュルンは真剣に思い悩んだが、開演時間が近付いていたので非常口ではなく出入り口から外に出た。
 ステージ裏には、既に怪人達が待機していた。ミラキュルンが倒した者もいれば、まだ戦っていない者もいる。 もちろん、ヴェアヴォルフも控えていた。彼は四天王と言葉を交わしていたが、ミラキュルンに気付くと振り向いた。

「現れたな、ミラキュルン」

「こっ、こんばんは! 今日はよろしくお願いします!」

 ミラキュルンは頭を下げてから、ヴェアヴォルフの軍服の胸元を見上げた。

「あの、それで、ビームの穴は……」

「ああ、それね、俺が直しました!」

 誇らしげに挙手したのは、ハサミ怪人のシザックだった。

「俺、ハサミだから、裁縫なんて得意中の得意なんですよ!」

「だから、もう気にするな」

 ほら、とヴェアヴォルフがマントの胸元を指すと、ミラキュルンは修復された箇所を覗き込んだ。

「わぁ、凄いです! ちょっと見ただけじゃ解らないですね! シザックさんって器用なんですね!」

「そんなに褒められると、何でもかんでも切り裂きたくなっちゃうなぁ」

 ぎしぎしとハサミ状の手で金属製の頭部を擦り、シザックは照れた。

「いかがなさいますか、若旦那。我らが先に出ますか、それともミラキュルンを先に出しますか」

 レピデュルスに声を掛けられ、ヴェアヴォルフはミラキュルンに向いた。

「そうだな。順当に考えれば、貴様が先に出るべきだ」

「え、あっ?」

 ミラキュルンが戸惑うと、ファルコが両翼を広げた。

「そこを俺達で一斉に襲うっちゅう手筈なんですぜ」

「人前だからって手加減はしてやらねぇぜ、お嬢ちゃん」

 両手両足のキャタピラを回転させ、パンツァーは黒い排気を噴き上げた。

「久々に暴れちゃおうかしらぁん、うふふふふ」

 アラーニャは背を曲げ、ミラキュルンのマスクの傍に毒牙を出した。

「え、あの……」

 ミラキュルンはアラーニャの牙を横目に見つつ、ヴェアヴォルフにハート型のゴーグルを向けた。

「でも、いいんですか? 皆さん、この後も模擬店の御仕事がありますよね? あんまり気合いを入れて戦っちゃうと、 その……御迷惑が掛かりませんか?」

「迷惑?」

 パンツァーは赤い単眼を瞬かせたが、上体を反らして豪快に笑った。

「うはははははははは! 何を言いやがる、迷惑だってんなら俺達の方が余程迷惑だ!」

「そうですとも。我らは世界征服を企む悪の秘密結社なのであり、人材派遣業は仮の姿に過ぎぬ。我らは君を始めとした ヒーローを滅ぼし、社会的構造を一から立て直し、怪人の楽園を作るために戦い続けているのだよ。迷惑の度合いで言えば、 我らは桁違いに迷惑な存在だとも」

 レピデュルスのレイピアがミラキュルンの顔を指し示すと、アラーニャが背後から足を絡み付けてきた。

「ミラキュルンちゃんてぇ、本当に可愛いわぁん。私達に気を遣うのはいいけどぉ、そんなことじゃあ明日にでも 世界征服しちゃうんだからぁ」

「生半可な覚悟で、悪の秘密結社など名乗れるものか」

 四天王を押しやってミラキュルンの目前に迫ったヴェアヴォルフは、拳を固めた。

「ヒーローショーの真似事とはいえ、戦いは戦いだ。全力で貴様を潰しに掛かるぞ、ミラキュルン!」

「は、はい! 頑張ります!」

 ミラキュルンはヴェアヴォルフの気合いに気圧される形で、頷いてしまった。

「同志達よ! 今こそ、その力を見せる時だ!」

 ヴェアヴォルフがマントを翻して大きく腕を広げると、怪人達が荒々しい咆哮を放って腕を突き上げた。 ミラキュルンは二十数名もの怪人が猛る様に圧倒されたが、アラーニャから優しく促されてステージに向かった。 ステージに用意されていたマイクを手に取って、スイッチを入れたミラキュルンは、恐る恐る観客席を見渡した。 観客席の人々の空気は先程と変わらず、かったるそうだった。それどころか、子供達は明らかに落胆していた。 テレビ番組で活躍するヒーローが登場すると思っていたらしく、これ違うよ、と両親に不平をぶつけていた。 ストレートすぎる言葉に心を抉られたが、気を取り直し、ミラキュルンはアイドル持ちでマイクを構えた。

「みんっ、皆さんこんばんわはぁっ!?」

 勢い良く頭を下げすぎて盛大に転んだミラキュルンは、同情混じりの笑い声を浴びて消えてしまいたくなった。 バトルスーツのおかげで体は全く痛くないが、心が裂けそうなほど痛く、マスクに隠れた顔は今にも泣きそうだ。

「え、ええと……」

 ミラキュルンは転げ落ちたマイクを拾い、立ち上がった。

「ごっ、御存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、たぶん大半の方が知らないと思われますので、えっと、 その、まずは私についての御説明をさせて頂きます! 私は、その、見ての通りの正義の味方ですが、今年の四月から 活動を始めたばかりで、その、知っている方が珍しいというか、知っていてくれているのは悪の組織だけで……」

 ミラキュルンは恥ずかしさのあまりに言葉に詰まりかけたが、意地で話を続けた。

「でっ、ですので、私がどんな悪の組織と戦っているかも知らないでしょうし、知っていても日常生活にはなんら支障は 来しませんし、ていうか人的被害をもたらすような方々ではないので、知られていなくて当然なのですが、今日のステージを 切っ掛けに私のことも悪の組織のことも知っておいて下さい! 毎週土曜日午後五時三十分から、この駅前広場で戦って いますので、ど、どっ、ど、どうぞよろしくお願いします!」

 ミラキュルンは転ばないように勢いを押さえて頭を下げると、ステージの袖からヴェアヴォルフが声を掛けた。

「おい、ミラキュルン」

「はいっ、なんでしょうか!」

「肝心の名前を名乗らなくてどうする!」

「あぁあっ!?」

 ミラキュルンは指摘されてようやく気付くと、マイクを片手に持ったまま、羞恥心を堪えてポーズを付けた。

「じゅっ、純情戦士ミラキュルン、真心届けにただいま参上!」

 ヒーローのお約束である口上を述べると観客席の空気が一層冷え込み、哀れみと嘲りが混じった視線が注がれた。 ミラキュルンはすぐさまポーズを解除し、ゴーグルの下から涙を落としながらヴェアヴォルフに駆け寄った。

「やっ、やっぱりダメですぅうっ! 助けて下さい、ヴェアヴォルフさん!」

「ヒーローが悪の秘密結社に助けを求めるな!」

 ヴェアヴォルフは飛びかかってきそうになったミラキュルンを押し止め、ステージに引っ張り上げた。

「いいか、こういうのは自分を捨てた者の勝ちなんだ。よく見ておけ」

 すんすんと泣き声を漏らすミラキュルンを控えさせ、ヴェアヴォルフは右手でマントを大きく広げた。

「我が名は暗黒総統ヴェアヴォルフ! 悪の秘密結社ジャールの総統にして、邪悪の権化たる男!」

 マントが翻るほど威勢良く両腕を広げ、ヴェアヴォルフは腹の底から声を出した。

「我らが望みは一つ! 混沌に満ちた世界を支配し、統一し、怪人の繁栄が約束された楽園を作ることにある!」

 高く突き出した右手を力強く握り、ヴェアヴォルフは片足を前に出して力強く踏み鳴らした。

「人を越え、人外をも越えた、我ら怪人に不可能はない! 我らが同胞の素晴らしき力を持ってすれば、世界征服など 容易いこと! だが、しかし、我らの野望を阻む者がいる!」

 ほら来い、とヴェアヴォルフはミラキュルンを傍に立たせると、その左手を取って掲げさせた。

「純情戦士ミラキュルンだ!」

「あ、はい、そうです、ごめんなさい」

 ミラキュルンが涙混じりに呟くと、ヴェアヴォルフは片耳を伏せた。

「だから、なんでそこで謝るんだ。悪いのは俺達なんだぞ、悪の秘密結社なんだから」

「でも、私なんかが倒しちゃいけませんよ。だって、私、こんなんですよ?」

 情けなさのあまりにミラキュルンが縮こまると、ヴェアヴォルフは彼女と向き直った。

「貴様は比類なき根性なしのヒーローだが、ヒーローはヒーローなんだよ。ちょっとしたことですぐ泣いて、パンチはへろへろで、 キックはへなへなで、ビームは明後日の方向に飛んで、自分の悩みを戦いに持ち込むような甘ったれだが、ヒーローであることに 変わりない」

「ここぞとばかりにボロクソに言ってませんか」

 泣きながらではあったがミラキュルンが声を落とすと、ヴェアヴォルフは口元を歪めた。

「と、とにかく、貴様は貴様が守りたいものがあるから俺達と戦うんだろう?」

「え?」

 そんなもの、あっただろうか。ミラキュルンはヴェアヴォルフと見つめ合う格好で、しばらく考え込んだ。 普通のヒーローは強烈な動機を抱いて正義と悪の死闘に身を投じるのだが、ミラキュルンの場合はそうではない。 親兄弟がそうだから、というだけであり、ミラキュルンが戦わねばと思ったからジャールと戦っているわけではない。 言ってしまえば、守りたいものなどなかった。七瀬や鋭太といった友人達も、ミラキュルンに守られるほど弱くない。 それに、世間一般の人々もミラキュルンに比べれば、精神面は格段に強いだろう。考えてみれば、ミラキュルンには 戦い続ける動機がない。そんなことでは、根性が生まれなくて当然かもしれない。しかし、本当にそうだろうか。 守りたいものは一つぐらいあるはずだ、と考えたミラキュルンの脳裏に彼の姿が掠めた。

「……そうだ」

 大神剣司を守りたい。ミラキュルンでは何の助けにならないかもしれないが、彼の日常生活を守りたい。 人材派遣会社である悪の秘密結社ジャールが活動範囲を広げれば、巡り巡って大神のクビが飛ぶかもしれない。 そうなれば、大神が生活に困る。いくら実家が土地持ちで裕福であっても、大神は成人して自活しているのだ。 大神の傍には芽依子がいるから大丈夫では、と思ったがそれはそれなのだとミラキュルンは雑念を振り払った。

「今、思い付きました!」

 ミラキュルンはヴェアヴォルフの両手を取り、感謝の意を込めて握り締めた。

「ありがとうございます、ヴェアヴォルフさん! 私、これでちゃんと戦える気がします!」

「解った、解ったから離せ! 骨が折れる骨が骨が!」

 両手の激痛に尻尾を膨らませたヴェアヴォルフは、ミラキュルンの手をなんとか振り払い、右手を掲げた。

「出番だ、我が同志達よ! その身に宿る悪しき力を解放し、今こそミラキュルンを抹殺するのだ!」

「総統の仰せのままに!」

 声を揃えた怪人達はステージの両脇から突っ込んできたので、ヴェアヴォルフはステージ外に退避した。 野太い咆哮を上げる怪人達に一斉に襲い掛かられたミラキュルンは、今度こそ逃げずにきちんと踏み止まった。 第一波の怪人達が攻撃可能距離に迫った直後、ミラキュルンは殴りかかってきたブルドーズの拳を受け止めた。 空いた左手でイソギンチャク怪人の触手を絡め取り、頭上から振ってきたムカデッドにヘッドバッドを叩き付けた。 そして、ブルドーズを片手で振り回して第二波の怪人達を吹き飛ばすと、イソギンチャク怪人を背負い投げした。 足元を狙って突撃してきたダンゴロンを蹴り返して一団を倒し、シザックのハサミを捻り上げて刃を欠けさせた。
 ステージ脇に避難したヴェアヴォルフは、次から次へと呆気なく倒される怪人達を見守るしかなかった。 ミラキュルンが自信を持ったのはいいが、強くなりすぎた。拳にも蹴りにも、今までになくきちんと力が入っている。 分厚い鋼鉄製の機関車怪人のデゴイチがひび割れ、鋼の砲弾との異名を持つダンゴロンの外骨格が歪んでいる。 労災が下りるように頑張ろう、とヴェアヴォルフは決意しながら、ステージ上で戦い続けるミラキュルンを眺めた。

「いよっと!」

 最後の怪人を回し蹴りで昏倒させたミラキュルンは、返り血や返り体液が付いた小さな拳を固めた。

「ありがとうございます、ヴェアヴォルフさん! 私、守りたいものがありました!」

「うん、ああ、そう……」

 余計なことを言ったかな、とヴェアヴォルフが後悔すると、ミラキュルンは死屍累々のステージで両手を組んだ。

「私、心は自分でも嫌になるぐらい弱いですけど、体は見ての通り打たれ強いですから、きっとあの人の日常生活を 守れると思うんです! だから、来週の決闘もよろしくお願いしますね! 私、頑張っちゃいますから!」

「お願いだから頑張らないでくれ」

 ヴェアヴォルフは小声で漏らしてから、マントを翻した。

「四天王! 全員回収しろ! 直ちに引き上げて本社で反省会だ!」

「ですが、若旦那。模擬店の御仕事はいかがなされますか」

 ステージの裏から顔を出したレピデュルスに問われ、ヴェアヴォルフは部下達の惨状を指した。

「自治会長と実行委員会のリーダーに連絡しよう。こんな状態じゃ、模擬店どころか片付けも出来ないからな。明日の 早朝からの後片付けには全面協力するから、今日のところは皆を休ませてくれと頼むしかない。でないと、休み明けからの 仕事に関わる」

「引き際は鮮やかに、それが悪の組織の鉄則でさぁ」

 ファルコがもっともらしく頷くと、ステージの背景の上に立ったアラーニャが口を開いて糸を吐き出した。

「それじゃあ、私の出番ねぇん。パンさぁん、ファルちゃあん、サポートよろしくねぇ」

 上体を反らしたアラーニャは粘着質の糸を吐き出すと六本足で広げ、網状にしてステージの上に降らせた。 アラーニャは自身の糸で呻き声を漏らす怪人達を柔らかく包み込むと、六本足に絡め取り、一息で持ち上げた。 一塊になった怪人達をパンツァーが真下から支えると、糸を操るアラーニャを抱きかかえたファルコが浮上した。

「覚えておけ、ミラキュルン! 次こそは貴様を地獄に送ってくれる!」

 ヴェアヴォルフは最後の意地で捨てゼリフを残してから、レピデュルスを伴ってステージから駆け出した。 背後からは惨敗した怪人全員を抱えたアラーニャらが続き、人の波を掻き分けながらヴェアヴォルフは敗走した。 レピデュルスは一般人がアラーニャの糸に触れないように、零れ落ちた糸の切れ端をレイピアで絡め取っていた。 心なしか晴れやかな態度で手を振るミラキュルンを横目に、ヴェアヴォルフは自分の軽率な行動を心底悔いた。 ミラキュルンに適切なアドバイスなどするから、全滅したのだ。この時ばかりは、自分の生真面目さが嫌になった。
 雑踏を掻き分けながら帰路を辿るジャール一同を見送ったミラキュルンは、ぽかんとしている観客達に一礼した。 だが、拍手は起きなかった。それもそのはず、誰も彼もがミラキュルンのデタラメな戦闘能力に困惑したからだ。 ミラキュルンは言葉に詰まりながら挨拶し、ステージを降りると、駅ビルに駆け込んで今度は女子トイレに入った。 個室の中で変身を解除した美花は、バトルマスクを被ったせいで少し乱れた髪を直してから三人の元に戻った。
 観客席から少し離れたベンチで待っていた七瀬は美花を出迎えると、ぎちりと顎を軋ませて笑みを零した。 七瀬の隣に座る鋭太も美花を出迎えたが、その間何をしていたのか聞くこともせずに、ステージを凝視していた。 そして、カメリーは相変わらずへらへらと笑っていた。ミラキュルンに対する感想を聞こうとしたが、やめておいた。 下手なことをしてミラキュルンの正体が美花だと感付かれたら困るので、美花は照れ笑いを返すだけに止めた。

「んで、どうだった?」

 七瀬からカゴバッグを渡され、美花は笑んだ。

「これからは、もうちょっと頑張れそう」

 何が、と鋭太から再度問われたが、秘密、とだけ返し、美花はヴェアヴォルフからの励ましを胸に刻んだ。 守りたいものがなかったから、ミラキュルンは弱かった。何もないのに戦っていたから、自信が持てなかったのだ。 だが、これからは違う。大神の日常生活を守るため、引いては大神自身を守るために、ミラキュルンは戦うのだ。 何もしていないと、胸が潰されてしまいそうだ。友達でいたいと思っているはずなのに、恋は勝手に膨らんでいく。 大神には芽依子という恋人がいて、美花が入る余地などないが、大神に対する気持ちを持て余したくなかった。 本当は大神に好きだと伝えてしまいたいが、面と向かって告白することなど出来ないから、恋心を拳に込めよう。
 そうすれば、少しは強くなれるはずだ。





 


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