その言葉は、既に知っていた。 「お生憎ですけど、私は誰とも結婚するつもりはありませんから」 心底面倒そうな目線を投げ掛けてきたのは、華やかな振り袖に身を包んでいる若い女性だった。彼女の盛装とは 不釣り合いな、それほど気合いの入っていないスーツ姿の末継純次は、曖昧に笑ってその場をやり過ごした。彼女は 不慣れな下駄で玉砂利が敷き詰められた庭を歩き、純次との距離を取ろうとしている。純次としても彼女をあまり 刺激したくはなかったが、お見合い相手という立場である以上は放っておけない。緩い足取りで二三メートルの間隔 を保ちながら、純次はネクタイを緩めてため息を吐いた。全て見知った通りだ。 お見合いがセッティングされたのは、先週のことだった。無事に大学を卒業して必要な資格も取り、会計士見習い として徳島県内の会計事務所に就職した純次は、日々忙しく働いていた。仕事に慣れるだけで手一杯なので、恋愛 も結婚も当分は勘弁願いたいと思っていたところ、会計事務所と付き合いの長い商事会社の重役がお見合い相手を 探していたそうで、一番下っ端の純次が抜擢された。形だけでもいいからさ、と所長から押し切られ、今に至る。 高級料亭でのお見合いは芳しくなく、出された料理の味はほとんど覚えておらず、会話も全く弾まなかった。重役と 所長は当人をそっちのけで仕事の話を始めてしまい、居心地が悪くなったため、純次は相手の女性を連れて宴席を 抜け出したというわけである。後は若い二人だけで、というお決まりの展開ではない。 「そういうわけですから、付いてこないで頂けます?」 竜蔵寺初美は警戒心が漲る目で、純次を睨んできた。純次は肩を竦める。 「そう言われましても、お一人にするわけにはいきませんし」 「こんな場所で迷うわけがありませんし、転んだりもしませんから、どうか御心配なく」 初美はつんと顔を背けると、やや歩調を早めた。だが、それが強がりだとは知っている。口振りとは裏腹に足元は 不安定で、足捌きの鈍さで着物を着慣れていないことはすぐ解る。日頃から着物を着て生活している、妹の翡翠と 比較すれば尚更だ。髪はそれほど長くないのだろう、アップにしてまとめた髪はウィッグを付けて量を増やしていて、 襟足に落ちる髪の毛先も短めだ。日に焼けた首筋は、彼女が御嬢様らしさとは程遠い人間であることを知らしめて いる。爪は切り揃えられていてマニキュアの類はなく、素のままだ。昔から彼女はこうなのだ。 「私は、誰とも付き合う気はありません。だから、誰であろうと好きになる気もありません」 初美は辛抱強く後を付いてくる純次に振り返ると、やや語気を強めた。僅かに吊り上がり気味の目と気持ち高めの 鼻筋と小さめの唇に細い顎という顔立ちは、言葉も相まって彼女を神経質そうな人間に見せていた。実際はそう でもないのだが。純次はつい笑みが出かけたが、収め、返した。 「俺も、当分はそのつもりでいますよ」 「でしたら都合が良いです、このお話はなかったことにして頂けませんか」 初美は純次と向き直り、和装に似合うハンドバッグをきつく抱えた。 「ええ、もちろん」 そう言わなければ、次はないからだ。純次が頷くと、初美は整った顔付きに合わない強張った表情をほんの少し 緩めたが、それだけだった。二人の間には敷石が十個以上連なり、玉砂利の海にも隔てられている。味の解らない 食事をした座敷からは、所長と重役の会話が漏れ聞こえている。池の鹿威しが鳴り、水音が跳ねる。 安堵とそれ以上の空しさを堪える初美の横顔を見つめ、純次は奇妙な感慨に耽った。出会う前の彼女を観測して おけばよかったか、いや、それでは観測されたことによって通常空間に宇宙の修復能力が作用されてしまい、全く 別の時間軸が産まれかねない、と。そうなれば、彼女に出会えるかどうか怪しくなる。それ以前に、彼女が存在する かどうかも不確かになる。時間や空間といったものは、些細なことで揺らいでしまう代物だからだ。 座敷に戻った初美が父親である重役に、お見合いをなかったことにしてくれ、と言っている声を聞きながら、純次は 無意識にスーツを探ってタバコを求めた。だが、目当てのものはなく、タバコは当の昔に止めたのだと思い直し、 手持ち無沙汰になった両手をポケットに収めた。料亭の屏と庭木に囲まれた空を仰ぎ見ていると、ふと、既視感が 襲う。当然だ。過去の自分が現在の自分を観測しているのだから。その視線が宇宙のどこからか届いているのだ。 それが通常空間なのか並列空間なのか、それとも全く別の空間を経由したものなのかは解らないが、自分に観測 されていることによって現在の自分が成り立っているのだと思うと、奇妙でならない。けれど、宇宙とはそういうもの だと骨の髄まで思い知っているので、違和感はそれほど感じなかった。 空には雲一つなかった。 多次元宇宙空間跳躍能力宇宙怪獣戦艦ワン・ダ・バ。 それは忌部次郎が忌部の御前としての役割を果たした末に得た人ならざる姿だった。全長五万メートルもの巨躯を 誇る異星体は、地球に墜落した際に欠損した生体部品や生体情報を補うために、竜ヶ崎全司郎ことゼン・ゼゼの 血を引く者達を吸収して本来の機能を取り戻し、御三家と人類に勝利をもたらした。中でも最も重要な生体部品で あったのが、忌部次郎である。赤い勾玉の珪素回路であるヴィ・ジュル、忌部家の先祖である忌部継成の生体組織 を利用して修繕した生体同調に不可欠な珪素生物である翡翠色の剣のチナ・ジュン、モニターの役割を果たす銅鏡型 珪素生物のカ・ガン、それら全てを吸収した上でワン・ダ・バと合体出来るのは忌部しかいなかった。 家族のため、人類のため、未来のために自分自身を犠牲にするのは並大抵の恐怖ではなかったが、自分にしか 出来ないことがあると思うと踏ん張れた。意志を汲んでくれたのか、ワン・ダ・バと合体しても忌部の意識は薄れる どころか、幼生体であるが故に自我が希薄なワン・ダ・バは忌部の意識を上位に据えてくれた。おかげで、合体後 も随分と自由が効いてくれた。 竜ヶ崎全司郎に攫われて並列空間に旅立ってしまった紀乃を観測し続けた半月の間、ワン・ダ・バとなった忌部は あらゆる事象を観測した。御三家全員の生体洗浄と生体復元、ゾゾの治療、ワン・ダ・バ自身の生体復元を並行して 行っていたので情報処理能力はそれほど早くなかったが、並列空間のそこかしこに漂っているヤトゥ・マ・ギーの 生体組織を電波で繋いで外部記憶容量にしていたので、本来の体積以上の情報処理能力を得られた。ワン・ダ・バの 同族達が、次元乖離空間跳躍航行技術を用いると同時に脱皮をしていってくれたおかげである。 通常空間のワン・ダ・バ自身と並列空間を彷徨う紀乃と竜ヶ崎を同時に観測していると、時折双方の空間が捻れて しまうことがあった。捻れた空間は通常の時系列とは異なる時間軸に接していたので、過去が見えることもあれば 未来が見えることもあるが、地球ともイリ・チ人ともヤトゥ・マ・ギーともまるで関連のない世界が見えることもあった。 暇を持て余していた忌部は、テレビでも眺めるかのような気持ちで多次元の事象を眺めていた。 それも立派な観測になるのだと知るのは、観測している自分を観測していることに気付いた時であった。忌部が それに気付いた時は手遅れで、観測し続けなければ自分自身の未来すら危うくなりかけるほど過干渉してしまって いた。だが、皆の未来を見るのは抵抗があったので、ワン・ダ・バの巨大な脳を区切って使用し、忌部の意識が接触 していない部分の脳で皆の未来を観測し続けた。けれど、忌部の意識が関知していなければ時間軸に不具合が出る 可能性も高かったので、自分自身の未来に限っては意識的に観測し続けた。そのせいで、今後の自分がどうなって しまうのかが全て解り、面白味がなくなった。どんな大学に通うのかも、どんな仕事に就くのかも、どんな夢を抱くかも、 その夢がどうなるのかも。見通しが効き過ぎることほど、退屈なことはない。 図らずも、透視能力を持ち合わせていた御先祖、忌部継成の気持ちが嫌になるほど解った。継成が竜ヶ崎ハツと 若き日のゼン・ゼゼと深い仲になったのは、ハツとゼンに限っては透視能力がほとんど効かなかったからだ。ハツは ワン・ダ・バの肉片を摂取して突然変異したことにより、脳波もまた変質していたからだ。ゼンもまた、ワン・ダ・バの 生体部品として生み出されたためにワン・ダ・バの脳波に近い生体電流に耐性があり、表層意識は読み取れても 深層意識までは読み取れないようになっていた。ワン・ダ・バの所有者であるゾゾも同様である。何もかもが見えて しまうと、逆に目を塞いでしまいたくなる。故に、継成は全てを見通す目を塞いで幸福を手に入れたが、塞ぎすぎて ゼンの真意を読み取れなかった。だが、それは全て継成の生体組織によって修復されたチナ・ジュンから得た情報を 元にして立てた仮説であり、過去を観測して得た情報ではない。観測すれば、過去が変わりかねないからだ。 忌部次郎の過去を変えよう、とちらりと考えたこともある。だが、すぐに止めた。忌部次郎としての人生はどこまでも 最悪だったが、末継純次としての人生は悪いものではなかったからだ。観測をやり直せばもっと良い人生となる のではないか、とも思ったが、テレビゲームをリセットするような感覚で自分の人生を動かしたくはないので、これも また止めた。忌部次郎が忌部次郎として死んだように、末継純次も末継純次として死ぬべきだ。 狂おしく望んだ、ごく普通の人間として。 遅々として復興が進まない都心の一角に、菊の花の祭壇が組まれていた。 第一回合同慰霊祭。会場の出入り口で記帳していくのは、ほとんどが自衛隊と警察の人間だった。皆、真夏では かなり暑苦しいであろう礼服を着ていて、深々と一礼してから会場に入っていく。一般的な喪服を着ているのは死者 の身内だけであり、その数はまばらだった。だから、喪服姿の彼女を見つけるのは容易だ。どこにいるのかも覚えて いる。だが、何もかもを知っているような顔をしてはならない。知っているはずがないのだから。 純次は記帳してから、会場に入った。御三家の誰かが来ているかもしれないと辺りを見回してみたが、そんな様子 はなかった。それもまた、観測した通りだ。公安の鈴本礼科がそう指示しているからだ。政府の人間とはいえ、皆が 皆、御三家に対して好意的ではない。だから、下手なことをされないために大人しくしておくしておくべきだ、と。皆は 礼科の意見が尤もだと同意したが、純次だけは行くと言うと、純次なら問題はないだろうと礼科は言った。政府の 人間が最重要視しているのは元生体兵器だった者達であり、ただ透明なだけで全く役に立たなかったと公文書に 記録されている忌部次郎ではないからだ、と。万が一妙なことをされそうになったとしても、慰霊祭の会場には礼科ら も来ているので対処出来る、とも。 警察関係者の集団を窺うと、小柄な礼科を囲んでいる大柄な高嶺兄弟と彼らから一歩引いた位置に突っ立って いる山吹丈二を見つけた。山吹は純次を認め、反応しかけたが、互いの立場があるので声を掛けずに通り過ぎた。 一般弔問客用テントに入った純次は、ずらりと並んだパイプ椅子の端に座る彼女の背を見つけたが、離れた列の 椅子に腰掛けた。竜蔵寺初美の横顔はお見合いの日以上に強張っていて、膝の上に置いた写真立てを握る手にも 必要以上に力が籠もっていた。着席してから二分十三秒後、ガラスが割れる。 二分十三秒が経過する瞬間、初美の手元から硬い破砕音が起きた。他の一般弔問客や隣り合った警察関係者 用テントから目線が飛んでくるが、初美はなんでもありませんと繰り返して背を丸める。純次は立ち上がると、初美の 傍に近付いた。影に気付いた初美は顔を上げ、純次を見た途端に驚いたが、顔を背けた。 「どうして、あなたがここにいるんですか」 「あの中に、友人がいるんですよ」 純次が除幕式を終えたばかりの慰霊碑を指すと、初美は気まずげに俯いた。 「ごめんなさい」 「いえ、お気になさらず。それよりも、手、大丈夫ですか?」 純次が初美の両手を取ると、初美はびくっと肩を震わせた。指の力で写真立てのガラスを割ったために、両手の 親指と人差し指の第三関節の腹がざっくりと切れていた。生温い血が流れ出し、純次の手にも滴る。初美は大丈夫 だと言おうとしたが、まともに血と傷口を見たからだろう、顔色が青ざめた。純次は自分のハンカチを出して初美の 手に巻いてやり、ガラスが割れた写真立ても香典を包んできた袱紗で包み、ポケットに入れた。真夏だということも あって会場の隅に設置されていた救護所に初美を連れていき、治療を受けさせた。この傷は一生残る。 救護所近くのパイプ椅子に座った初美は、純次の袱紗に包まれた写真立てを胸に抱えていた。純次は初美の 傍に腰掛けると、淀みない読経を聞きながら、両手に包帯を巻いた初美を見やった。 「失礼ですが、それはどなたですか」 「見たんですか?」 初美の声色は弱く、かすかに震えていた。純次は頷く。 「少しだけですが」 それが誰かは知っている。初美の婚約者である自衛官の青年だ。都内の駐屯地に配備されて間もなく、竜ヶ崎邸の 警護任務に就いた。そこで、本懐を遂げるべく波号を体内に収めた竜ヶ崎は、口封じと己の力試しを兼ねて従順に 働いていた自衛隊の人間を皆殺しにした。初美の婚約者はその中の一人だった。高校時代からの付き合いで、 任務が開けたら一度徳島に戻ってくる、その時には結婚しよう、と約束を交わしていた。しかし、徳島に戻ってきた 彼は四肢が引き裂かれ、二目と見られない姿に変わり果てていた。浅黒い肌色に明るい笑顔がよく似合う青年は、 自衛隊の制服姿で初美の肩を抱き寄せて写真に収まっている。東京に出発する直前に撮ったものだ。 純次が観測していた通りの話を終えた初美は、袱紗を開き、いくらか血が飛び散った写真を見つめた。目元には 涙が滲み、雫が膨らむ。だが、初美はそれを流さずに目元を拭い、包帯を巻いた手でまた写真立てを包み直した。 涙は見せても流さない、それが彼女だ。観測した通りの事実が続く。 「末継さんの御友人は、どんな方だったんですか」 初美は少々上擦った声で問い掛けてきたので、純次は答えた。かつての自分のことだ。 「良い奴でしたが、馬鹿な奴でした」 「そうですか」 それきり、初美は何も喋らなくなる。純次もまた、何も喋らない。喋ってみたら、観測した事象から乖離していくこと になるが、余計なことをすると時間軸が分岐して未来が変わるかもしれないので、結局喋れなかった。 初美は誰かに似ている。観測しながら、ワン・ダ・バが記憶している情報と照会してみると容易に判明した。竜ヶ崎 ハツである。初美の家系は、厳密に言えば竜ヶ崎家に関わっていないわけではない。だが、御三家のように濃い血 が混じっているわけでもない。過去と未来を観測して得た情報を集計した結果、初美の家系の先祖に当たる人物は ハツが食べた竜の肉片を捕った漁師だと判明した。けれど、その漁師はハツの夫となったわけでもなければ、ハツと 同じ道を辿ったわけではない。ただ、同じ村人としてハツと接していただけだ。だから、初美がハツに似ているのは 純粋な偶然である。それ以上でもそれ以下でもないが、他意が作用していると考えられなくもない。だが、あまり 深く考えすぎては観測した事象に余計な作用を与えかねないので、純次は自制した。 現段階では、初美は純次に好意を抱いていないのだから。 夢を語ったことがある。 その相手は御三家の中で最も苛烈な運命を辿った少女、斎子紀乃、もとい、末継紀子である。忌部ゆづるの納骨を 終えた後の夜中、療養所の屋上にて、互いの夢について言葉を交わしていたからだ。どちらが先に夢を持つかを 競争してみないか、と。叶えるのではなく抱くのが競争だというのだから妙な話ではあるが、それまでは将来の夢 すらも抱けない状況が続いていたので、それだけでも充分心が弾んだ。会計士になるのは現実的な夢ではあったが、 紀子のいう夢とはそういうものではないだろう。女の子らしく足元の定まらない、幻想がたっぷり詰まった理想を夢と いうに違いない。そう考えた純次は色々と考えた末に、一つの夢を見出した。観測した通りに。 純次といづみの大学卒業祝いを兼ねた親族の顔合わせの場で、酔い覚ましに庭に出ていた純次に、紀子が声を 掛けてきた。酒はまだ飲めない歳ではあったが、場の空気に酔ってしまったらしく、なんだかふらふらしていた。純次が 心配すると、紀子は手を振って大丈夫だと言った。 「で、純次叔父さんの夢って決まった?」 兄夫婦宅の庭の隅にあるベンチに腰掛けた紀子は、気怠く言った。 「そういうお前は?」 純次が聞き返すと、紀子は星空を見上げた。 「普通に男の人を好きになって、普通に恋愛して、普通に結婚して、普通に子供を産んで、普通に家族を作るの」 「意外と現実的だな。あいつのことはもういいのか」 「そんなわけないじゃん。今でも大好き。すっごい愛してる。でも、それだけじゃダメだから」 「どうしてだ?」 「私が真っ当に生きたら、きっとゾゾは喜ぶでしょ? だから、さ」 「お前はそれでいいかもしれないが、永遠の二番手になっちまうお前の旦那が可哀想だな」 「かもしれないね。まあ、その相手が現れるかどうかがまず解らないけど」 女としては最低だね、と舌を出してから、紀子は純次に向いた。 「で?」 「で、って、ああ。そうだな。俺の夢か」 改めて言葉にするのはやりづらかったが、約束は約束なので、純次は答えた。 「恋がしたい。宇宙をひっくり返しちまうぐらい、凄いのを」 「うっわぁ、なんか可愛い」 紀子は笑い出したが、純次はそれを咎めもしなければ諌めもしなかった。心底恥ずかしかったからだ。リビングから 漏れ聞こえてくる親族同士の団欒を感じ取りながら、観測した事象を頭に巡らせた。恋をする相手は既に見えて いるし、どんな恋になるのかも知っている。知らないのは、その場その場の自分の感情ぐらいだ。それを知るために 恋をするようなものだが、手段が目的になるのも悪くはない。ただ見ているだけだった彼女に出会える日を心待ちに するのも、片思いを募らせるかのようで少し楽しい。 どんな恋愛がいいか、と尋ねてみると、紀子は年頃の娘らしく理想を並べ立てたので、純次は笑って聞き流した。 その願いが叶っているかどうかは観測していないので関知していないが、紀子なら自力で叶えられるだろう。因果律 や宇宙の理屈など、若い女性のエネルギーの前では無意味だからだ。だから、紀子はゾゾと再会出来るだろう。 純次と初美が出会えたように。 11 7/18 |