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最強主人公決定戦 後編



 二回戦。第六試合。

「赤コーナーッ!」

 再びバトルステージに立ったミイムは、唇の端に残ったチョコレートソースを拭ってから仕切り直した。

「ドイツ生まれの番狂わせ! 予想外の大活躍で優勝候補筆頭のカンタロスを破り、二回戦進出を果たした奇跡の スポーツカー! 車載型人工知能○一二型、通称トゥエルブーッ!」

 赤いスポットライトが落ちると、フロントに爪痕が残るトゥエルブが排気を噴いた。

「完成された機械に不可能はないのだよ」

「青コーナーッ!」

 ミイムはぐるりと身を反転させ、左側を示した。

「新人類の生体改造技術は伊達じゃないぜ! 卑怯もラッキョウの大好物かどうかは解らないけど、それぐらいアレな 戦法で勝利を収めたボクらのパパさん! マサヨシ・ムラターッ!」

「ラッキョウは嫌いじゃないが、そう好きでもない」

 ミイムの前口上に、マサヨシは生真面目に答えた。

「ちなみにボクはカレーにレーズン派ですぅ! レディ、ファイト!」

 余計なことを言い放ってから、ミイムは素早くバトルステージから飛び去った。その発言に対し、ミラキュルンと鋼太郎は 顔を見合わせて一言二言交わしてしまった。あれって給食のドライカレーのアレですよね、とミラキュルンが言うと鋼太郎は頷き、 あれは微妙だよな、と返すと、二人はなんとなく感情を共有してしまった。学校給食のドライカレーに散らばっているレーズンは、 小中学生の味覚に合わせた申し訳程度の辛さに今一つ馴染まない甘酸っぱさで、カレーの中では浮いているのだが、別に 食べられないことはないという曖昧なボーダーラインに位置付けられている存在である。ミラキュルンも鋼太郎も、カレー自体は 好きなのだが、レーズンだけは微妙だ。咀嚼し、嚥下は出来るが、好きになれと言われたら無理だ。

「…カレー」

 対戦前にそんなことを言うな、とマサヨシは思ってしまった。そういえばここ最近は食べていなかったなぁ、もちろんうどんだ、 と考え出してしまったら最後、カレーが頭から離れなくなった。

〈さあマサヨシ、指示を出して! 私なら、ずうっとあなたの傍にいるわ!〉

 マサヨシのベルトのポケットに突っ込んだ情報端末から、サチコの明るい声が上がった。

「さあ、どこからでも掛かってきたまえ。私の暖気は済んでいる」

 トゥエルブがどるんと排気口を鳴らし、挑発してきた。マサヨシは情報端末を取り出し、トゥエルブを見据えた。

「ああ、こっちもだ」

 思考能力の一部はカレーに削がれているが、充分戦える。マサヨシはトゥエルブと自分の距離を測り、情報端末を開いて サチコが操作するHAL号との距離も測った。マサヨシはオンラインにしたままの情報端末を閉じてから、トゥエルブに熱線銃を 向けた。それを攻撃だと認識したのか、トゥエルブは発進した。エンジンどころかタイヤも熱しているらしく、カンタロスと戦った時とは 遙かに初動が速かった。マサヨシは真っ正面から突っ込んでこようとするトゥエルブに銃口を向けたが、トゥエルブはすかさず 方向転換し、滑らかにカーブを描いてマサヨシの側面に滑り込んできた。銀色の美しい弧を描くコーナリング性能はさすがに 素晴らしいが、助走が不充分だからかその速度は乗り切っていない。マサヨシは熱線銃の引き金を引き、トゥエルブの足元を狙った。

「うっ!?」

 マサヨシの放った弾が前輪に着弾した途端、トゥエルブは姿勢を崩して急旋回した。慌ててブレーキを掛けると、穴の空いた 前輪から空気が流出していた。着弾地点は見事に溶け切り、貫通している。

「鉛玉なら跳弾するんだろうが」

 マサヨシは悠長に歩いて近付くと、トゥエルブのヘッドライトに装備された車載カメラに銃口を向けた。

「生憎、この銃は高熱の凝結物を発射するんでな。ゴム製のタイヤなんて、掠るだけで溶けちまう」

「なるほど、素晴らしい科学技術だ。だが、しかし」

 ぶおん、とエンジンを噴かして後輪を激しく回転させたトゥエルブは、穴の空いた前輪を浮かせて後退った。マサヨシとの 距離を一息で空けると、穴の空いた前輪を浮かせる形で片輪走行を始め、マサヨシに向かっていった。

「私には、まだ三本のタイヤが残されている」

「見上げた根性だな」

 マサヨシは一直線に迫ってくるポルシェにも動じず、情報端末に命じた。

「サチコ!」

〈OK!〉

 情報端末を通じて応答が返ると、トゥエルブの動きが止まった。片輪走行の姿勢を維持出来なくなったらしく、四つの タイヤをバウンドさせて着地した。程なくしてエンジンも停止してしまい、トゥエルブは初めて動揺を見せた。

「なぜだ、エンジン停止のコマンドは出していないはずだが」

〈あなたが次の対戦相手だって解ってから、私、あなたの人工知能とコンピューターにお近づきになったのよ〉

 マサヨシは情報端末をトゥエルブの前に出し、サチコの声を聞かせた。

〈レトロな形式のプログラムばかりだったけど、なかなかのものだったわ。データとプログラムのバランス、システムと感情の バランス、そしてハードとソフトのバランス。あなたを作ったプログラマーの腕が良かったんでしょうけど、それ以上にあなた自身が 優秀なコンピューターなのね。私もだけど、マスターの操縦のくせを覚えるのって結構大変なのよね。容量を食うし、負担が掛かるし、 何よりも手間が掛かるわ。それなのに、あなたは自分の感情の振り幅を増やすために必要な記憶容量を犠牲にしてまでも、 マスターの操縦に合わせようとしているわ。それらを調べている間に解ったんだけど、あなたは〉

「…それ以上は、止してくれまいか」

 トゥエルブの声色が上下し、落ち着いた成人男性の合成音声に僅かばかりのノイズが走った。

「五体満足で返りたいのは俺も同じだ。家族がいる」

 マサヨシは熱線銃を下げ、トゥエルブと向き合った。

「攻撃的になりそうにもない性格のあんたが、ド派手なカーアクションをぶちかましていたのは、無事に帰りたいからだろう?  攻撃は最大の防御とは、全くよく言ったもんだよ」

「そうだ。だから、私はこれ以上車体に傷を付けるわけにはいかないのだよ。春花が悲しんでしまうのでね」

「だから、それは俺も同じだ。と、いうわけで」

 マサヨシはトゥエルブの後部に回ると、力任せにエンジン部分を開いた。

「機能停止!」

 熱したエンジンの奥に隠れていた配線を引き摺り出し、バッテリーと直結したケーブルを抜いた。それは、車載型 人工知能の電源ケーブルであったため、トゥエルブは抵抗すら出来ずに沈黙した。マサヨシは機械油に汚れた手を拭ってから、 トゥエルブのエンジン内部を興味深げに覗き込んだ。

「見た目もいい具合だったが、腹の中はもっと凄いな。排気の匂いで感付いていたが、本当に揮発油を使った エンジンだったとはなぁ。イオンエンジンに比べれば稼働効率はかなり悪いが、機械としての魅力はある。発展途上故の 美しさ、とでも言うのかな」

 マサヨシがエンジンを眺め回していると、ミイムが戻ってきた。

「みゅんみゅうん、パパさんの勝ちってことにしたいけどぉ、何がどうしたんですかぁ?」

「ほら見てみろ、面白いぞ」

 マサヨシは嬉々として、トゥエルブの水平対向6気筒24バルブツインターボエンジンを指した。

「うみゅう、ボクには何がいいんだかさっぱりですぅ」

 ミイムはマサヨシが嬉しそうな理由が解らず、首を捻った。

「人工知能は沈黙しても、エンジンは動くはずだろう? ちょっと操縦してみてもいいかな」

「エンジンとアクセルを間違えてギアを入れ損ねてクラッチを踏まずに発進してエンストするのが落ちですぅ」

「面白そうなんだがなぁ。というか、なんでお前はそんなことを知っているんだ? 俺も知らないのに」

 マサヨシは名残惜しそうだったが、仕方なくトゥエルブの後部を閉めた。ミイムがマサヨシの汚れていない方の手を 取って勝利宣言をしようとすると、いきなりエンジンが息を吹き返し、トゥエルブが急発進してマサヨシをボンネットの上に 乗り上げた。マサヨシがいなくなったことにミイムがきょとんとしている間に、トゥエルブはバトルステージの端まで走り抜けて マサヨシを場外に放り出した。訳も解らずにいるマサヨシの頭上に、あの声が掛けられた。

「どうだね、私の乗り心地は」

「そうか、予備電源か」

 落とし方が柔らかかったので負傷はしなかったが、土で汚れたので、マサヨシは服を払いながら立った。

「そうとも。私のような車載型人工知能はドライバーを補助するためだけではなく、保護するためにも搭載されるもの でね。よって、主電源はバッテリーだが、その他にも二三のサブバッテリーを搭載しているのだよ。記憶容量をバックアップ するためにも必要であるからね」

 トゥエルブはウインクでもするかのように、右側のウインカーを一度だけ瞬かせた。

「解ったよ、俺の負けだ。で、それはそれとして、ちょっと操縦させてくれないか?」

 マサヨシはトゥエルブに向き直って照れ臭そうに笑うと、トゥエルブはやや後退した。

「私の内装は春花に合わせてセッティングされているのだ、ムラタどのでは乗りづらかろう」

「そんなに俺が嫌か」

 下手な扱いはしないつもりだが、とマサヨシが不満げに付け加えると、トゥエルブはのろのろとバックした。

「そうとも。嫌だ。私は優れた道具ではあるが、使い手を選ぶ権利ぐらいは備えられている」

〈そうよマサヨシ! 私がいるじゃない! そんなオールドマシンなんかよりも余程乗り心地がいいんだから!〉

 負けじとサチコが情報端末越しに捲し立ててきたので、マサヨシは上空の愛機とトゥエルブを見比べてしまった。 表情こそ見えないが、サチコの声色には明らかな嫉妬が現れていた。トゥエルブは、その逆の心境なのだろう。どちらも 下手な人間よりも人間臭いが、やりづらさもある。マサヨシは純粋な好奇心でトゥエルブを操ってみたかったのだが、 無理にトゥエルブの運転席に乗り込んだら、サチコに拗ねられて仕事が成り立たなくなりそうだ。マサヨシのような職業の 人間には、ナビゲートコンピューターはなくてはならないものだ。増して、それが馴染み深い人格を備えたものであれば 尚更だ。渋々、マサヨシは折れた。

「仕方ない。だったら、サチコ、後で思う存分乗り回してやるから覚悟しておけよ?」

〈最初からそう言ってくれればいいのよ。うふふふふ〉

 サチコは弾んだ笑みを零してから、通信を切った。マサヨシは情報端末をポケットに戻したが、今一度トゥエルブを 見やった。カンタロスの爪に貫かれたり引っかかれた傷が痛々しいが、機能性とデザイン性を兼ね備えている車両だ。 マサヨシの知る車両にはない遊びもそこかしこに見られ、丸いヘッドライトが不思議と愛らしい。この機会を逃せば二度と 触れないかもしれない、と思うと、少年じみた欲動が湧いたが、ぐっと我慢した。その代わり、後でサチコを可愛がるために 行う宇宙でのアクロバット飛行の快感を思い描いた。地上にも魅力はあるが、空には敵わない。
 二回戦、第六試合。マサヨシの場外負けにより、トゥエルブの勝利。
 よって、トゥエルブの決勝進出が決定。


 二回戦、第七試合。

「赤コーナーッ!」

 ミイムはドレスの裾を翻すために一回転してから、バトルステージの右側を示した。

「サイボーグだけど健康優良野球少年! ノーコンだけどストレートは大リーグ級、きっと未来はベンチウォーマー!  学ラン姿が眩しすぎるぜ、黒鉄鋼太郎ーっ!」

 赤いスポットライトが落ちると、やはり金属バットを握った鋼太郎が抗議した。

「だから、その前口上はなんとかならないんすか! まるで褒めてねぇし!」

「青コーナーッ!」

 鋼太郎の抗議を無視したミイムは、左側を示した。

「傭兵で少佐で隊長でお父さんだけど、行き着く先はニワトリ頭! 教養もなきゃ知性もないけど、人外愛と家族愛 だけは宇宙一だぜ! 死んでも生きちゃうリビングメイル、ギルディオス・ヴァトラスーッ!」

 青いスポットライトが落ちると、ギルディオスはヘルムを押さえた。

「俺のもひどくなってやがる」

「ていうかぁ、ぶっちゃけネタ切れですぅ! というわけで、レディ、ファイト!」

 ミイムは誰もいない観客席に意味もなく投げキスを飛ばしてから、さっさと飛び去った。バトルステージ上で向かい合った 二人は、どちらも相手の様子を窺っていた。鋼太郎はゲオルグと対戦した時に闘志らしいものは使い切ってしまっていたし、 ギルディオスが強いのは北斗と共にミイムを追い詰めたエキシビションマッチで知っている。真正面から戦ったとしても、まず 勝ち目はない。というか、今度こそ負ける。ギルディオスの空っぽのヘルムと睨み合った鋼太郎は、覚悟を決め、金属バットを 下ろして九十度に腰を曲げて頭を下げた。

「すんませんっしたぁ!」

「何が?」

 バスタードソードを抜きかけたギルディオスがきょとんとすると、鋼太郎は顔を上げずに叫んだ。

「俺の負けでいいっすから、戦わないでくれませんか! ていうか、マジ勘弁して下さい!」

「聞き入れられねぇな。お前は立派な男だ、締める時は締めるもんだぜ?」

「でも、俺」

「俺と戦え。たとえ結果がどうなろうが、戦ったっちゅう事実が重要だとは思わねぇか、なあ少年!」

 ギルディオスは背中の鞘から引き抜いたバスタードソードを振り、分厚い金属板で空を切って唸らせた。鋼太郎は ひっと声を上擦らせて後退るが、せめてもの防御にとバットを構えた。ギルディオスはバスタードソードの刃がバットに 触れる直前で手首を捻り、側面を叩き付けるだけにした。だが、鋼太郎はその衝撃だけでも凄まじく重たく、バットから 伝わった痺れが両腕から肩に響いた。フルサイボーグでもこの重みなら、生身で受けたならと想像しただけで寒気がする。 ギルディオスは鋼太郎が後退った際に生まれた僅かな隙間を逃さずに踏み込み、斜めにしたバスタードソードで 鋼太郎のバットを叩き上げてきた。

「そらそら、どうしたぁ、鋼太郎!」

 分厚く頑強な金属と空っぽな金属の筒が衝突し、正反対の金属音を撒き散らす。

「一発でもいいから、俺を!」

 真横に振られたバスタードソードが、鋼太郎のがら空きの脇を薙ぎ払った。

「ぶっ飛ばしてみろや!」

 信じられないほどのパワーで吹き飛ばされ、鋼太郎は呆気なく転倒した。自分の体重が二百キロ超なのに、ギルディオスは いとも簡単に剣だけで弾いてしまった。それなのに、その中身は空っぽだ。何度見ても、ギルディオスの全身鎧の内側には 何も見えない。あるのは薄暗い影と、彼の声が反響する際に起きるかすかな振動だけだ。それなのに、手も足も出ない。 鋼太郎は訳の解らない相手に対する畏怖も起きたが、煽られているばかりで何も出来ない自分に少し苛立った。実力差は 目に見えている、だから穏便に済ませるべきだ、とは思うが、戦わずして逃げるのは嫌だ、とも。鋼太郎は手中から滑り落ち かけていたバットを握り直すと、出せる限りの出力で両足を踏み切り、機械の詰まった重たい体を空中に跳ね上げた。

「でぇりゃあっ!」

 落下する勢いに任せて鋼太郎がバットを振り下ろすと、ギルディオスは落下する鋼太郎に向かって跳躍した。

「そうだ、掛かってきやがれ!」

 鋼太郎の落下軌道とギルディオスの上昇軌道が重なり、双方の武器が接触する。甲高い金属音の後、ギルディオスが 先に落下した。次に落下した鋼太郎はバランスを崩しながらも着地し、ギルディオスに振り返った。たった一発ではあったが、 当てられた。興奮と高揚の混じった緊張を味わいながら、鋼太郎がバットを握ると、ギルディオスは鋼太郎に振り向いた。

「どうした、それで」

「終わるかあっ!」

 勢い付いてきた鋼太郎は学ランのポケットにねじ込んでいた練習用のボールを取り出すと、投げ、ギルディオスを 狙って強打を放った。ピッチングもだがバッティングも上手くない鋼太郎にしては上手くいったバッティングではあったが、 所詮はノーコン、上がりもしなかった。だが、今はそれでいい。下手にフライを打ったところで、野球ではないのだから 意味はない。真っ直ぐ進んだ白球はギルディオスの顔面に命中した、かと思われたが、ギルディオスは顔面を強打した ボールを拾い上げて手の中で弄んだ。

「面白ぇ飛び道具を使うじゃねぇか」

 ギルディオスは乱暴なフォームで振りかぶり、鋼太郎に投げ付けた。

「そんじゃあ、お返しだぁっ!」

「うおっ!?」

 鋼太郎は、思わず身動いだ。ギルディオスが力任せに投げたボールは迷わず鋼太郎を狙っていて、鋼太郎の 球速にも匹敵する速度で投げてきた。バットで打とうと思ったが何一つ間に合わず、鋼太郎はバットを上げる暇すらない まま、ギルディオスの剛速球を浴びて盛大に転倒した。

「あ、やべ」

 全力で投げちまった、とギルディオスは右手を開閉させた。胸にボールを受けて背中を引き摺った鋼太郎は、身を起こそうと したが、剛速球に相応しい衝撃がフレームごと体を揺さぶり、脊椎の役割を果たしているフレームを経由して伝わった振動が ブレインケースに入った脳を揺さぶってしまった。そのせいで、補助AIと脳波が上手く噛み合わず、鋼太郎は一時的ではあったが 体の自由を失ってしまった。

「う…ぐぇ…」

 鋼太郎はぎこちなく動いた腕で上体を起こそうとするが、関節が体重を支えきれずに曲がった。

「俺の勝ちだな」

 ギルディオスは得意げに笑いながら、鋼太郎を起こしてやった。

「だが、俺に突っ掛かってきてくれて嬉しいぜ」

「そりゃ、あんだけ煽られちゃあ…」

 鋼太郎が引きつり気味に返すと、ギルディオスは鋼太郎を担いだ。

「何にしたって、よく頑張った。偉いぜ、鋼太郎」

 ギルディオスの肩を借りて歩きながら、鋼太郎は胸中がくすぐったくなった。ギルディオスは父親でも何でもないのだが、 父親から試合成績を褒められた時のような、嬉しいのに意地を張ってしまいたくなる心境に似ていた。戦いといっても、結局は ギルディオスに一方的にやられただけなのだが、妙に誇らしくもなった。だが、決して自慢出来る結果ではないし、むしろ 恥ずかしい結末だし、負けは負けだ。けれど、やたらと清々しかった。
 二回戦、第七試合。鋼太郎のKO負けにより、ギルディオスの勝利。





 



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