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最強主人公決定戦 後編



 三回戦。第七試合。

「赤コーナーッ!」

 空き時間を利用してフルメイクを完了したミイムは、一層派手な動作でバトルステージ右側を示した。

「自慢のバッソでなんでも解決! おかげでサブウェポンの影は薄いなんてもんじゃないぜ! 腰から提げた逸物は 所詮は飾りの骨董品かよ、便利アイテムじゃなかったのかよ! ギルディオス・ヴァトラスーッ!」

「使おうとは思うんだが、なかなか使う機会がなぁ…」

 赤いスポットライトが落ちると、ギルディオスは腰のホルスターに差した魔導拳銃を見下ろした。

「青コーナーッ!」

 ミイムはふわふわに整えた髪を見せつけるためにサイコキネシスで風を起こしてから、左側を示した。

「見た目どころか気も小さいけど、恋するパワーは誰にも負けない! ていうか一度でも負けたらストーリーとして 成立しない! たとえどんな超展開だって、正義だとか抜かしておけば万事解決! 純情戦士ミラキュルーンッ!」

「え、あっ、あれ? 随分とメタ的な…。そういう話でしたっけ?」

 青いスポットライトが落ちると、ミラキュルンは戸惑った。

「メタだろうがオタだろうがペタだろうが、ネタにしなきゃ埋まらねぇんですぅ! そいじゃレディ、ファイト!」

 ミイムは完璧な笑顔とは裏腹に投げやりなセリフを残し、バトルステージから飛び去った。及び腰のミラキュルンは ギルディオスと向き直ると、腹を括り、威勢良く頭を下げた。

「よろしくお願いします!」

「おう。こうなっちまった以上、手加減は出来ねぇからな?」

 ギルディオスはバスタードソードを抜き、構えた。訳の解らない衣装を身に付けているが、ヘルマグナムとの戦闘で 実力を見せつけられた。女だてらに巨大な機械人形を持ち上げたばかりか、投げ飛ばしたのだから、相当な腕力と体力を 小柄な体の中に押し込めている。そして、謎の光線を発射して爆発させていた。魔力かどうかは解らないが、何かしらの力を 持っているには違いない。異能者か、或いは余程腕の良い魔導師でも相手にするつもりで戦わなければ、ギルディオスに 勝ち目はないだろう。ギルディオスの胸と腹の間程度の身長しかなく、見るからに軽い体ではあるが、ただの小娘だと侮っては 痛い目に遭うのは自分なのだ。ギルディオスは腰を深く落とし、足を広げ、ミラキュルンの攻撃圏内に飛び込む切っ掛けを探った。
 対するミラキュルンは、剣を持つ相手だからだということで、純情聖剣ミラキュルーレを生み出して構えた。だが、やはり へっぴり腰で、今一つ様になっていない。ギルディオスはというと、バスタードソードの構え方にも足の広げ方にも隙はなく、 ミラキュルンを窺っている。ミラキュルンの身長にも匹敵するほどの分厚い剣は、ギルディオスを攻勢にすると同時に防御の 役割も果たしていて、ミラキュルーレを振り回したところで弾き飛ばされるだけだ。不用意に近付いたら、あの剣で薙ぎ払われて しまうだろう。かといって、遠距離から必殺技を撃つのは卑怯だ。ミラキュルンはフルーレに相応しい突きの姿勢に定めると、 ヒールの高いブーツで足元を踏み切った。
 均衡が破られた瞬間、ギルディオスも大柄な体を繰り出していた。ミラキュルンの一歩の倍はあろうかという歩調で、 あっという間にミラキュルンとの間隔を詰めると、躊躇いもなくバスタードソードを振り回してきた。

「ひゃうっ!」

 大柄さに見合わない素早さで振られたバスタードソードをミラキュルーレで受け止めたが、今にも折れそうだった。 ハートの柄のフルーレは凄まじい力で押されて湾曲し、互いの刃が噛み合ってぎちぎちと軋んでいる。ミラキュルンは両手を 添えて押し返そうとするが、それ以上の力で押される。ヒーロー体質で造り上げた剣ではあるが、折られてしまったら再生 するのは手間が掛かる。ミラキュルンは力一杯石畳を踏み締めていたヒールを浮かせて腰を捻ると、ギルディオスの胸に 蹴りを加えて跳躍し、彼を遠のかせると同時に自身の体を後退させた。ギルディオスは上体をやや仰け反らせたが、転ぶ ことはなく、それどころか駆け出してきた。ミラキュルンはミラキュルーレを振り上げ、ギルディオスと真っ向から斬り結ぶと、 攻勢に転じた。ミラキュルーレの細く速い切っ先を受け止めるには、バスタードソードでは遅すぎると踏んだからだった。 だが、ギルディオスは翻弄される様子は全くなく、手首の返しだけでミラキュルンの攻撃を捌いていた。

「いい腕してやがるぜ、お嬢ちゃん」

「それは、どうもっ!」

 ミラキュルンは深く突いてギルディオスの手首を狙うが、バスタードソードの柄に阻まれ、硬く弾かれた。

「だが、易々と負けると思うなよ!」

 ギルディオスは空気を唸らせながらバスタードソードを振り、大股に踏み込んでミラキュルンに豪快に斬り付けた。 使い込まれた凶器がバトルマスクを薙ぎ払うかと思われたが、ミラキュルンは寸でのところで受け止めた。しかし、態勢は 不安定で、ギルディオスから体重を掛けられれば崩される。ミラキュルンは刀身を左手で押さえて堪えていたが、ぐい、と ギルディオスが前のめりになって重みを加えると、膝が曲がりかけた。

「戦いに必要なのは何だと思う?」

 ギルディオスが問うと、ミラキュルンは膝を立たせようと尽力しながら答えた。

「絶対に負けないって思う、心の強さです!」

「間違っちゃいねぇ、だが!」

 ギルディオスは魔導拳銃を抜き、身動き出来ないミラキュルンのバトルマスクに突き付けた。

「重撃二種、圧砕!」

 ミラキュルンが息を飲む暇すら与えずに、ギルディオスは引き金を引いて魔導鉱石製の弾丸にハンマーを叩き付けた。 途端に、小さな石に封じ込められていた魔力が解放されて魔法を成し、重力波と化してミラキュルンに襲い掛かった。抗えずに 上体を吹き飛ばされたミラキュルンは半身を引き摺って倒れ、懸命に起き上がろうとするが、重力波は全身を縛り付けてきた。辛うじて ミラキュルーレは手放さずにいたが、普段は羽根のように軽い剣が信じられないほどの重量となり、ヒーローの腕力を持ってしても 持ち上げられないほどだった。

「俺が思う、戦いに不可欠なものは」

 俯せに這いつくばったミラキュルンの前に、ギルディオスの剣先が突き付けられた。

「多少汚ねぇことをしてでも、生き延びようっつう根性だ!」

 ピンクでハートのバトルマスクに、数多の血を吸った切っ先がめり込む。それが赤いハートのゴーグルを砕き、バトルマスクに 深いヒビを走らせ、刃が本体に及ぶかと思われた瞬間、バトルマスクだけが石畳の床に縫い付けられて残され、ミラキュルンは バトルマスクだけを外して危機を脱していた。しなやかなバック宙返りを決めたミラキュルンは、長い髪を翻して幼さの残る素顔を 曝したが、戦士に相応しい力が漲った眼差しでギルディオスを見据えた。

「おお、やるねぇ」

 ギルディオスは割れたバトルマスクを拾い、ぐしゃりと握り潰した。

「これでも私は、正義の味方ですから!」

 ミラキュルン、もとい、美花はミラキュルーレを構え直し、声を張り上げた。

「だったら俺にも見せてくれよ、正義の力ってやつをよ!」

 ギルディオスはバトルマスクの破片を投げ捨て、駆け出した。美花も同時に駆け出し、両者は程なくして接触した。先程以上に 激しく斬り結び、その度に小さな火花が飛び散った。ギルディオスは己の腕力と体重に任せた斬撃を、美花は素早さと的確さに頼った 攻撃を繰り返す。ギルディオスが素顔を狙うべく突き出したバスタードソードは、美花がステップを踏んだために回避されたが、刃は 艶やかな黒髪の数本を切り落とした。だが、美花はそんなことには構わずに、ギルディオスがバスタードソードを突き出したことで 生まれた右脇の隙を狙い、ぐっと上体を落として滑り込み、ミラキュルーレの刃をギルディオスの首に斬り付けた。

「…ぐ」

 反射的に出した左手でミラキュルーレを受け止めたギルディオスだったが、美花に右手を押さえられた。

「あなたの剣」

 異様に澄んだ瞳で全身鎧の男を睨んだ美花は、少女らしからぬ握力でギルディオスの右手首を曲げた。

「お借りします!」

 ねじ曲げられた右手首の痛みに負けて指を開いたギルディオスの右手から、鋼の相棒が、文字通り生死を共にした戦友が、 少女によって抜き取られた。僅かに不安に襲われたギルディオスが追い縋ろうとするが、美花は小鳥のような素早さでギルディオスの 下から擦り抜けて距離を取ると、左腕一本でバスタードソードを構えた。

「私の剣ではあなたには通用しませんし、必殺技を撃たせるほどの余裕を与えてくれるとは思えません。ですから、 あなたの剣をお借りしました」

 美花はバスタードソードを上げ、その主の首に狙いを定めた。

「いざ、勝負です!」

「…俺の負けだ」

 長い沈黙の後、ギルディオスは悔しげに漏らした。美花は意外に思ったが、バスタードソードは下げなかった。

「え、そうですか? だって、ギルディオスさんには、まだ魔導拳銃が…」

「俺は魔法使いにはなれねぇ。だから、今の今まで剣を振り回して生きてきたんだよ」

 ギルディオスは構えを解き、美花と向き直った。

「俺は長いこと戦ってきたが、剣を奪われたのは初めてだ。だから、負けだ。俺も耄碌したかな」

 目を瞬かせた少女は、両手の剣を下ろした。ギルディオスは彼女に油断していた、とは思えなかったが、心のどこかでは 隙が生まれていたのかもしれない。見るからに小さく、幼げだというだけで、腰が引けていたのだろう。今まで自分が愛してきた 娘達の姿が過ぎったのかもしれないし、本気で相手にして傷でも付けたら大変だとも思ったのかもしれない。だが、そのいずれも、 若い頃にはなかった弱みの数々だ。しかし、敗北を決定付けたものは、剣を奪われたことで感じてしまった不安に他ならなかった。 ギルディオスの戦いは、バスタードソードなくしては考えられない。自分らしい実に単純な理由ではあるが、不安を感じていたら 剣も鈍ってしまうし、何より気持ちの面で負けてしまう。だから、醜態を曝すよりは、素直に負けを認めた方が潔いと思ったのだ。

「次、決勝だろ? 相手があの原動機自動車でも、気ぃ抜くな。うっかりするとやられちまうからな」

 ギルディオスは美花に背を向け、歩き出したが、一度止まって振り向いた。

「ああ、そうだ、お嬢ちゃん。ミラキュルンってぇのは、本当の名前じゃねぇんだろ?」

「はい、そうです。それはヒーローとしての名前で、本名は野々宮美花って言います」

「ノノミヤ・ミカ?」

 じゃノノか、とギルディオスが短絡的な愛称を付けようとすると、美花は言い直した。

「あ、そっか、そちらはファミリーネームとファーストネームを言う順番が逆なんですね。ミカ・ノノミヤです」

「ああ、そうか。それじゃミカ、とりあえず俺の剣を返してくれ」

 バトルステージから降りたギルディオスが催促すると、美花は駆け寄ってきた。

「すみません、長々とお借りしちゃって」

「いいってことよ」

 ギルディオスは右手に載せられたバスタードソードの重みを感じ、笑みを浮かべた。少し手から離れていただけで不安に なってしまったが、それに比例して戻ってきた時の安堵感は相当なものだった。ギルディオスは鋼の相棒を鞘に収めてから、 やはり上手く使えず終いだった魔導拳銃をホルスターに戻し、大股に歩いた。思っていたよりも遙かに情けない負け方で、 戦いとしても半端ではあったが、それほど悪い気分ではない。但し、物凄く悔しかった。五百年と四十年弱、この世に 止まり続けているにも関わらず、その三十分の一程度しか生きていない少女に負けてしまったのだから。だが、我ながら どうしようもない本心を曝け出すのは自尊心が許さなかったので、ギルディオスは懸命に堪えた。元ある世界、共和国の ゼレイブに戻ったら、憂さ晴らしにラミアンと手合わせしよう。そうでもしないと、魂を収めた魔導鉱石が苛立ちで過熱しすぎて 何かしらが燃えてしまいそうだったからだ。
 三回戦、第七試合。ギルディオスの降参により、美花、もとい、ミラキュルンの勝利。
 よって、ギルディオスの三位が決定し、ミラキュルンの決勝進出も同時に決定。


 第八試合、順位決定戦。

「てぇわけでぇーっ!」

 上位三名を除外した全員をサイコキネシスで浮かび上がらせたミイムは、彼らをバトルステージに叩き付けた。

「ただいまより、順位決定戦の名の下に総当たり生き残り戦の開始ですぅ! 順位が決まらなきゃしっくり来ないって 言うかぁ、寝覚めが悪いって言うかぁ、まあそんな感じですぅ!」

 ミイムはバトルステージの中央に立ち、ぐるりと七人の戦士達を見回した。

「ルールは簡単、全員で一斉に戦って、負けた順から順位が決まりますぅ! そんじゃまあ、レディ、ファイト!」

 ミイムはとっとと退避し、いなくなった。真っ先に飛び出したのは、退屈と空腹で戦闘衝動が溜まりに溜まっていた カンタロスだった。そのとばっちりを受けたのは、偶然対角線上に落とされてしまった鋼太郎で、戦うことなど最初から 放棄していたので全速力で逃げ出した。だが、巨体のカブトムシの飛行速度は予想以上に早く、外野手だけは上手く出来る 鋼太郎の足でもカンタロスの追撃から逃げ切るのは難しかった。五百メートル四方のバトルステージが広すぎることも相まって、 逃げても逃げてもカンタロスとの距離が広がらない。

「とりあえずお前から死ね!」

 ものの数秒で追い付かれた鋼太郎は、カンタロスの上右足に頭を掴まれて倒された。

「うごっ!?」

 顔面から転んだ鋼太郎の上に、カンタロスは跨った。

「お前からは、少しだけだが血と肉の匂いがする」

「なっ、な、生身の人間だったら、他にもいるじゃないっすか。俺、サイボーグっすよ! 金属とシリコンの固まり!」

 心底怯えた鋼太郎が震える手でマサヨシとミイムを指すが、カンタロスは反応しなかった。

「あいつらは匂いからしてダメだ。俺が喰いてぇと思うような生臭みがまるでねぇ」

 だからお前を喰う、とカンタロスが鋼太郎の頭を捻り取ろうとしてきたので、鋼太郎は抵抗しながら喚いた。

「嫌だぁっ、普通に嫌だぁ! ていうかなんだよこのバイオハザード的展開ー!」

「ごちゃごちゃうるせぇな、下等生物が」

 ぎちりと不愉快げに顎を軋ませたカンタロスが、鋼太郎の頭部の金属製の強化外骨格を引き剥がそうと爪を立てたが、 前触れもなくカンタロスの頭部が仰け反り、カンタロスは鋼太郎の上から剥がれていった。鋼太郎が恐る恐る顔を上げると、 北斗が後方からカンタロスのツノを掴んで持ち上げていた。

「一般市民の安全確保! それ、すなわち!」

 北斗はカンタロスを頭上に担ぐと、思い切り場外に投げ飛ばした。

「我らが自衛隊の任務なのだぁっ!」

「お、おおー…」

 鋼太郎は起き上がり、呆然としつつも拍手した。恐るべき肉食のカブトムシは背中から転げ落ちたせいか、起き上がれずに 六本の足をわしゃわしゃと蠢かせていた。北斗は誇らしげな笑顔を鋼太郎に向けた瞬間、その側頭部にプラズマ弾が着弾して 場外に吹っ飛ばされた。

「うおおおおおっ!?」

 絶叫を上げながら遠のいていく北斗に、鋼太郎は本人以上に驚いてしまった。

「ぎゃああああああっ!?」

「第一目標、排除」

 その弾の主は、もちろんゲオルグだった。鋼太郎は慌ててその射程圏内から逃げようとすると、今度は目の前に ヘルマグナムが降ってきた。いっそのこと場外に出て負けよう、と思っていた鋼太郎は、退路を塞がれ、動転した。

「何しやがんだよぉ、せっかく負けようとしてたのに!」

「あ、ごめんなさい」

 すると、頭上に浮かぶインパルサーが謝ってきた。彼に投げ飛ばされたらしいヘルマグナムは、頭から石畳の床に 突っ込んだせいで昏倒していた。よいしょ、とインパルサーはヘルマグナムの足を掴んで場外に出そうとすると、再び プラズマ弾が発射されてインパルサーの側頭部に着弾した。が、インパルサーは空中で一回転しただけで元に戻ると、 射撃を続けていたゲオルグを見定め、急降下しながら放電した。

「何するんですか、もう! お返しに、超低出力で小規模だけど一応はソニックサンダー!」

「ぐおっ!?」

 羽根に似た金属製の放電板を広げたインパルサーが擦れ違うと、ゲオルグのプラズマライフルが過電流によって 爆砕し、至近距離で衝撃を受けたゲオルグは後退った。爆砕したセラミック片でレンズに傷が付いたせいで視界不良に 陥ったゲオルグを、今まで事の次第を傍観していたマサヨシが跳び蹴りを喰らわせ、場外に叩き落とした。

「悪いな」

「う、あ、えっと…」

 インパルサーは、残る二人が人間だと認識したために攻撃行動が取れなくなり、困り果てた。

「すまんな、鋼太郎」

 異様ににこやかなマサヨシに近付かれ、内心で嫌な汗を掻いた鋼太郎が逃げ出そうとするが、マサヨシは鋼太郎の 腕を絡め取って背負うと、滑らかな体重移動を行って鋼太郎を易々と投げた。無論、インパルサーの方向へ。

「おあああああ!」

 為す術もない鋼太郎が悲劇的な叫びを上げると、インパルサーは半泣きになった。

「だから、なんであなたはそんなにひどいことが出来るんですかー!」

 どぐわっしゃ、と金属塊同士らしい衝撃音を放ち、二人は揃って場外に転げ落ちた。

「なんでってそりゃ、俺は傭兵だからな。多少なりともダーティなことはするさ」

 一人、バトルステージ上で生き残ったマサヨシは平然としていた。久々にサイボーグ相手の軍用格闘術を使った せいで腰と肩が若干痛んだが、筋肉自体は常に鍛えているので大した負担ではない。鋼太郎がひどく旧式のボディを 使っているので、その重みがどれほどのものか解っていなかったが、マサヨシがよく知るフルサイボーグとはそれほど ウェイトに差がないようで安心した。これで三百キロもあろうものなら、投げ飛ばそうとしたところで逆にこちらがダメージを 喰らってしまうからだ。

「これはひでぇ」

 離れた場所で傍観していたギルディオスが真顔と思しき声色で呟くと、トゥエルブがブレーキランプを光らせた。

「全くだ」

「長引くよりはいいかもしれませんけど、でも…」

 再びバトルマスクを装着したミラキュルンは、戦士達の悲惨な有様に辟易した。カンタロスはひっくり返ったままで、 北斗は側頭部に穴が空いたヘルメットを押さえて落ち込んでいて、ヘルマグナムは上下逆さまになって昏倒し続けていて、 ゲオルグは戦闘服に付着したセラミック片を黙々と取り払い、鋼太郎は仰向けになっていて、インパルサーは頭から地面に めり込んでいた。そして、一人勝ち残ったマサヨシはというと、何事もなかったかのような顔をしてバトルステージから去っていった。 三人と一緒に大乱戦を傍観していたミイムは、怒濤のうちに各人の順位が決定したので淡々と書き留めてから、お色直しですぅー、と 言い残して去っていった。選手でも何でもないミイムが衣装替えをして何の意味があるのだろうか、と三人は揃って思ったが、敢えて 口には出さなかった。
 第八試合、順位決定戦。四位、マサヨシ。五位、鋼太郎。六位、インパルサー。七位、ゲオルグ。八位、ヘルマグナム。九位、 北斗。十位、カンタロス。
 よって、下位は全て決定し、残る試合は決勝戦だけとなった。





 



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