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最強主人公決定戦 後編



 そして、決勝戦。

「赤コーナーッ!」

 何の脈絡もない巫女装束を着たミイムは、バトルステージの右側を示した。

「まさかまさかの連戦連勝! 思い掛けない戦い方で勝利を収め続けた、銀色の戦略家! ドイツ生まれの 紳士なスポーツカー、車載型人工知能○一二型、通称トゥエルブーッ!」

 赤いスポットライトが落ちると、右前輪を交換したトゥエルブはイグニッションキーを回してエンジンを点火した。

「心して戦おうぞ、ミラキュルン」

「青コーナーッ!」

 御丁寧に水引を付けて結んだ髪を広げながら一回転したミイムは、左側を示した。

「スレンダーボディとは裏腹に、その戦闘スタイルは正攻法! ピンクでハートでピュアッピュアな十七歳の女子高生だけど、 パワーとファイトは並みじゃないぜ! 宇宙が待ってた次世代型ヒーロー、純情戦士ミラキュルーンッ!」

 青いスポットライトが落ち、直立するミラキュルンが照らし出された。

「ええと、とにかく頑張ります!」

「イロモノばっかり勝ち残った気がするけど、何はともあれ、レディ、ファイト!」

 ミイムは緋袴の裾を翻し、ステージ上から飛び去った。ミイムがいなくなったことで対峙した二人は、真っ向から 視線をぶつけ合った。先に発進したのはトゥエルブで、温まったエンジンの回転速度を上げてギアを噛み合わせると 直進した。ミラキュルンはトゥエルブの突進を身軽に避けたが、トゥエルブはその場でドリフトして一回転し、すぐさま ミラキュルンを追った。生身の人間の足では到底逃げ切れない速度ではあったが、そこはヒーローのミラキュルンなので 追い付かれることはなかった。細めのヒールの付いたブーツを履いているわりには力を込めて走ったミラキュルンは、 ステージの端で立ち止まると、アクセルを全開にして追い掛けてきたトゥエルブと向かい合った。

「さあ、掛かってきなさい!」

 ミラキュルンが両腕を広げると、トゥエルブは排気筒を唸らせて加速した。

「なあに、人間にぶつかる瞬間には減速するようにプログラムされている。手傷は負わせんよ」

 高速回転する四輪に押し出された車体が襲い掛かり、カンタロスの爪痕が深く残るバンパーが小柄な少女に押し迫った。 だが、ミラキュルンは動じずに両手を突き出し、トゥエルブを受け止めて踏ん張った。

「ふっ!」

 ミラキュルンの細いヒールが擦れ、小さな手は渾身の力でバンパーを掴んでいた。先述通り、トゥエルブは一瞬減速したが、 すぐさま再加速した。ミラキュルンの凄まじい腕力とトゥエルブの200馬力が鬩ぎ合い、ヒールの先端が削れ、タイヤが熱して 白煙が立ち上っていた。

「私も、あなたを傷付けたくありません!」

 ミラキュルンは思い切り伸ばしていた両腕の肘を少し曲げ、トゥエルブのボンネットに手を付いて転身した。

「だから、こうさせてもらいます!」

「おおっ!?」

 突然障害物を失ったことで、トゥエルブはステージ外に急速前進した。が、後輪で急ブレーキを掛けたことで辛うじて 制動が掛かり、前半分が飛び出したが場外負けには至らなかった。高い位置で宙返りしたミラキュルンはトゥエルブから 離れた位置に着地し、振り向くと、銀色のスポーツカーは宙に飛び出した前輪を浮き上がらせていた。だが、ウィリー走行を したとしても、車の構造上、タイヤは逆回転出来ない。そのまま場外に落下するかと思われたが、トゥエルブは後輪の片方を 軽く浮かせて一輪だけで直立すると、ぎりぎりのところを一輪だけで走り抜け、見事にカーブを決めてバトルステージに 戻った。再びミラキュルンと対峙したトゥエルブは、自慢げにヘッドライトを瞬かせた。

「君の策はなかなかのものだったが、私の性能には敵うまい」

「…えー」

 さすがにこれは有り得ない、とミラキュルンがバトルマスクの下で変な顔をすると、トゥエルブは言い返した。

「君が不服に思うようなことはあるまい」

「せめて車としての常識を守って下さい」

「無論、守り通しているとも。道交法だけだがね」

 トゥエルブはぎゅるっと四輪を回し、ミラキュルンを狙った。ミラキュルンはトゥエルブのアクロバティックすぎるテクニックが 未だに納得出来なかったが、考え込むのは後回しにした。ぼんやりしていたら、場外に吹き飛ばされてしまう。だが、相手は どれほど性能が良くてもただのスポーツカーだ。ヒーローでもなければ怪人でもないのだから、やりすぎるわけにはいかない。 排気混じりの熱い風を生み出しながら向かってくるトゥエルブと睨み合ったミラキュルンは、あることが思い立ち、顔を上げた。

「あ、そうだ!」

 ミラキュルンはトゥエルブの突進を回避するために一度高く跳躍してから、手をハート型にした。

「ええとなんだっけ、そうだ、純情合体!」

「何事だ」

 頭上から照射されたピンクでハートの光に車載カメラを向けたトゥエルブに、真上からミラキュルンが降ってきた。そのまま 衝突するかと思われたが、ミラキュルンはトゥエルブにぬるりと融合した。使い慣れた車体とコンピューターに異物が入り込む 感触に耐えきれず、トゥエルブはドリフト走行して抵抗するが、車体どころかコンピューターにまで馴染んでしまったミラキュルンは、 かなり強引ではあったがトゥエルブと同化していた。
 自分の視点に別の視点が加わり、未知の情報が、感覚が、電子情報となって駆け巡った。ミラキュルンから逆流してきた 生身の人間の情報はむず痒いようで生温く、トゥエルブは処理能力が追い付かなかった。ありもしない記憶が再生される傍ら、 ミラキュルンにもトゥエルブの記憶容量から流出した情報が伝わる感覚までも流れ込んできて、トゥエルブは近頃ではめっきり 使用頻度が下がった感情回路に乱れが生じた。

「大丈夫ですよ」

 トゥエルブの発声機能を使用し、別人の声、ミラキュルンの声が再生された。

「戦いではありますが、私はあなたを傷付けようとは思いません! 少し、大人しくしてほしいだけです!」

 ギアが、シャフトが、フレームが、外装が、内装が、エンジンが、構造を変えていく。

「あなたはとても強い心の持ち主なんですね。ですが、そのせいで、あなたは自分を殺しているんですね」

「管理者権限すら持たない君に、私の心を暴かれるわけにはいかない!」

 ミラキュルンに抗おうとトゥエルブが同じ発声機能を用いて声を荒らげると、優しい声が返ってきた。

「解っています。少しだけ、力を貸したいだけです」

 トゥエルブに、ミラキュルンの、野々宮美花の思考と記憶と感情が馴染み、浸食されていく。トゥエルブの感情回路が更に 乱れ、情報が増大し、処理能力の範疇を超えていった。ミラキュルンに自分の過去の記憶を覗かれるのは、たまらなく嫌だったが、 削除を何度繰り返しても発生するエラーの原因を突き止めたいとも判断していた。主であり家族であり、かつての思い人である、 春花が過ぎる。速水亮也と交際するようになってからは、彼女はトゥエルブの使用頻度を下げていた。当たり前だ、彼にも愛車が あり、二人で出掛ける時は彼の車に乗ることが多いのだから。何かしらのエラーで持ち合わせてしまった春花への恋心を削除 してからというもの、何も感じないはずではあったが、一度でも恋に至るパターンを覚えてしまった感情回路が恋心に似通った 感覚を作り出しては、回路という回路を軋ませてくる。だが、自らを守り通さなければ、春花はきっと悲しむだろう。だから、ここまで 勝ち抜いてきた。優勝など興味は欠片もなかったが、無事に帰るためには勝つしかない。今や、トゥエルブは春花の愛車から 単なる所有物に成り下がっている。だから、所有物としての立場を守るために、自らを守る他はない。

「純情融合完了!」

 いきなり、ミラキュルンの声が最大音量で響き渡り、トゥエルブの内側にエンジンとは異なる熱が生じた。

「ちょっとくすぐったいかもしれませんが、我慢して下さいね!」

「な…」

 戸惑ったトゥエルブに、変化が起きた。ボンネットが割れ、バンパーが外れ、車体が裏返ってエンジンが開き、内装が 引っ込み、タイヤの付いていた部分が外れて腕になり、車体後部を曲げて伸ばしたような足が完成し、ボンネットの 下からはミラキュルンに似た頭部が飛び出し、銀色のアーマーとメタリックピンクの外装を身に纏った、案の定ピンクでハートな 女性型ロボットが出来上がった。

「初恋乙女のときめきソウル! ピュアな思いは無限大!」

 実物よりも装甲のおかげで膨らみが大きい胸に手を添えた女性型ロボットは、ポーズを決めた。

「純情合体ミラキュエルブ、愛を届けにただいま参上!」

 誰も彼もが言葉を失った。戦い合っていたはずの両者が融合合体し、名乗り、ポーズまで決めてしまった。名前からして、 意識の上位はミラキュルンだろうが、だとすれば、トゥエルブはどこに行ってしまったのだろうか。唖然とした面々は、互いに 顔を見合わせたりしたが、やはり誰も言葉は出さなかった。ミラキュルンとトゥエルブ、もとい、ミラキュエルブは、ぐるりと 周囲を見回した。そして、その視線が定まったのは、呆然としているカンタロスだった。

「いざ往かん、復讐へ!」

 トゥエルブと思しき男の声で喋ったミラキュエルブは、カンタロスに右腕のキャノン砲を向けた。

「ミラキュルキャノン!」

「おおおおっ!?」

 やはりピンクでハートの砲弾が発射され、カンタロスは訳も解らずに飛び跳ねて回避したが、追撃が訪れた。

「この体を手にした今、私に恐れるものはない! ありがとう、ミラキュルン!」

 今までの沈着冷静な態度からは一転して感情的になったトゥエルブ、もとい、ミラキュエルブは連射し続けた。

「よくもこの私に傷を付けてくれたな、害虫めが!」

 大股に踏み出したミラキュエルブは、ブースターを噴出し、カンタロス目掛けて上昇した。

「春花が兄上から譲り受けてからはそれはそれは大事にしてくれた体に爪を立てたばかりか、投げ飛ばすとは耐え難い狼藉!  人身事故防止用プログラムがお前を人間だと認識してしまうから轢き逃げアタックすら出来ずにいたが、今は違う! 即物的な 破壊力を有した肉体を得ることが出来たのだからな! でもって、細々としたリミッターも合体したおかげで解除されたのだ!」

「来るなぁーっ!」

 びいいいいいっ、と懸命に四枚の羽を動かしてカンタロスは高度を上げるが、ミラキュエルブはそれ以上の速度で カンタロスを追い続けた。程なくして両者の影が接すると、ミラキュエルブはカンタロスを鷲掴みにした。しなやかに振りかぶった ミラキュエルブは、渾身の力でカンタロスを地上に投げ付けた。羽が開いたままだったカンタロスはなんとか羽ばたこうとするが、 落下の勢いで上手く羽が開ききらず、自身の飛行速度で落下速度を相対する前に地面が迫り、背中を引き摺りながら転げ落ちた。

「どうだ、思い知ったか! 夏の夜に街灯の下で峠を攻める暴走車に踏み潰されてしまえー!」

 はははははははは、と上空で勝ち誇るミラキュエルブに、起き上がったカンタロスはミイムに詰め寄った。

「おいウサギ野郎! あいつ、なんとかしろよ! 最早勝負とか関係ねぇ領域に入ってるだろ!」

「関係ないっちゃないけどぉ、面白いからオーライですぅ。ていうかぁ、まだどっちも場外に出てもいなければ負けても いないしでぇ、ボクとしても勝負の付けようがないんですぅ。それにぃ、細かい脈絡を気にしていたらぁ、ストーリーどころか 設定が破綻していることに誰も彼もが気付かされちゃいますぅ。みゅんみゅうーん」

 満面の笑みでミイムが言い切ると、カンタロスは舌打ちの代わりに顎を鳴らした。

「また訳の解らねぇことを言いやがって」

「リンクオフ!」

 突如、ミラキュエルブがピンク色に発光すると、ミラキュルンとトゥエルブが分離してバトルステージに降ってきた。 トゥエルブは安定した着地を果たしたが、ミラキュルンは躓いて転び掛けたが踏み止まった。

「いざ、決着と参ろうか」

 合体を解除したことで冷静さを取り戻したトゥエルブに、ミラキュルンは大きく頷いた。

「はい!」

「ところで、ミラキュルン」

「はい?」

「大神剣司とのメールを読み返しすぎて暗記した挙げ句、クローゼットの奥に隠した日記帳に書き写したはいいが、 春物と夏物を入れ替えに来た兄の速人氏にうっかり見つけ出されたのは、さすがの私も羞恥を感じるぞ」

「え、あ、うあああああっ!」

 心当たりがあるミラキュルンが頭を抱えると、トゥエルブは捲し立てた。

「しかも、その後、速人氏に何度も何度も読んでいないかと問い詰めすぎて鬱陶しいと怒られて…」

「うー、あー、あーん!」

 ミラキュルンは頭をぶんぶんと左右に振るが、トゥエルブは容赦しなかった。

「その上、日記帳を図書館から借りた本と間違えて返却してしまい、後日図書館から電話が掛かってきて」

「いーやー、もうやぁめぇてぇえええっ!」

 本気で泣きそうなミラキュルンが座り込んでしまったが、トゥエルブの攻撃は続いた。

「名前を並べて書いた相合い傘は一つや二つではなく、一ページごとに書き込まれていて」

「許してぇ、もうお願いですからぁ!」

「ファッション雑誌の恋愛のおまじないを本気で試しては挙動不審になり」

「ひぃえええええっ」

「更には、コンビニ店員の業務を終えた大神剣司の後を尾けてみようかと本気で思ってしまった瞬間もあり」

「きぃやああああっ!」

 ミラキュルンは絶叫し、がっつんがっつんとバトルマスクを石畳に叩き付けた。おかげで、ヒビが出来た。

「脳内デートコースを組み立てすぎて、実際に自分で行ってしまったり」

「もうやめてぇ、本当にお願いですからぁ!」

 こんなことなら、合体するんじゃなかった。ミラキュルンは心底後悔したが、もう手遅れだった。合体したことにより、 トゥエルブの記憶容量の情報を読み取ったはいいが、逆にミラキュルンの記憶も綺麗に読み取られてしまった。それが どんなことを意味するのか、そこまで考えずに合体してしまった自分の浅はかさがつくづく嫌になった。

「ならば、負けを認めるかね?」

 トゥエルブがやや語気を和らげると、ミラキュルンは羞恥で震えながら顔を上げた。

「はいぃ…」

「なんておっかねぇ攻撃だ…」

 サイボーグなのに寒気を感じた鋼太郎が身震いすると、マサヨシは他人事とは思えずに顔を覆った。

「見ちゃいられない」

「本人の恥部を曝し出すのは的確な精神攻撃だ」

 ゲオルグが冷静なコメントをすると、インパルサーは心の底からミラキュルンに同情した。

「他人事だから尚更恥ずかしすぎて回路が焼き切れちゃいそうです…」

「自分も嫌なことを思い出しだぞ。そうだ、あれは領海侵犯の不審船と搭乗員を処理する任務を終えて帰還した後、定期点検で 人型兵器研究所で自分と南斗の整備と稼働データの並列化を行った際に、礼子君と自分だけの秘密を南斗だけでなくグラント・G までもが知り得てしまって…」

 そこから先の記憶は削除したいが自分の権限では不可能だ、と北斗までもが情けなく身悶えた。

「女の子を相手にするんだったら、もうちょいと、なぁ?」

 ギルディオスが半笑いになると、多大なダメージを受けたカンタロスは起き上がった。

「たかが記憶の断片を引き摺り出されたぐらいでめそめそしやがって、繭よりも鬱陶しいな」

「いやあ、俺だって他人に知られたくないことの一つや二つはある。それをああも言われちゃ、泣きたくなる」

 敵ながら同情する、とヘルマグナムは苦々しげに口元をひん曲げた。

「みゅみゅーん、可哀想なことしやがってコノヤロウですぅ」

 ミイムはマスクを押さえて俯いているミラキュルンをよしよしと撫でてやり、トゥエルブを睨んだ。

「てなわけだからぁ、あんたが優勝だけどぉ、ボク的には認められないですぅ」

「勝ちは勝ちではなかろうか」

 トゥエルブが答えると、ミイムは言い返そうとしたが、ミラキュルンがミイムの袖を引いて制した。

「…大丈夫です、ミイムさん。ぎりぎり、泣いてません。それに、こんなことでへこたれちゃ、私は世界どころかご町内だって 守れません。だから、私、素直に負けを認めます。トゥエルブさんの作戦勝ちなんですから」

 ミラキュルンはミイムの腕から脱すると、トゥエルブに一礼した。

「と、いうわけで、優勝おめでとうございます!」

「ありがとう。私こそ、君の力を借りることで己の本心に気付かされたよ。一度回路に刻まれた感情の揺らぎと思考パターンは、 どれほどデータを削除しようとも消し去れるものではないということも。だが、私はあくまでも春花の所有物としての立場を 守ることに終始しよう。たかが車が、分を超えた行動を取るべきではない」

 トゥエルブが穏やかに言うと、ミラキュルンは首を横に振った。

「それが解っているから、あなたはお強いんですね。私なんて、まだまだ」

「今日は有意義な経験を得ることが出来た。感謝する」

 トゥエルブは緩やかに進み、サイドミラーを曲げた。ミラキュルンはそのサイドミラーに手を添え、握った。

「こちらこそ。でも、次は負けませんからね?」

「みゅみゅーんっ!」

 ミイムは立ち上がると、ミラキュルンを後ろから強引に抱き締めてバトルマスクに頬を寄せた。

「円満に解決したところでぇ、この戦いも終わりですぅ! 可愛い女の子はそれだけで正義ですぅ!」

「あの、あの」

 いきなり抱き締められてしまったミラキュルンが狼狽すると、ミイムはマイクで上空を指した。

「てなわけで、この全宇宙全次元同時生中継のスペシャル放送も終了ですぅ! シーユーアゲイーンッ!」

 と、ミイムが叫ぶと、バトルステージだけでなくコロシアム全体を明るく照らしていたライトが前触れもなく落ち、星以外の 唯一の光源が失われた。かと思うと、宇宙に散らばる星々も見えなくなり、底知れぬ闇が皆を覆い隠した。
 戦いは終わり、勝者は決した。だから、戦いの場として用意された次元とそれぞれの次元との接点が途切れ、皆は 次元自体が持ち合わせている次元修復能力によって元ある次元の引き戻されていった。似ているようで似ていない、 近しいようでいて遙かに遠く、通じ合えるようでいて重なり合うことのない者達の一時の宴は、痕跡も残さずに消え去り、 僅かに残留したのはそれぞれの記憶だけではあったが、彼らは皆、互いの記憶を確かめ合うことすら出来ないため、 一時の出会いと戦いが現実であったか否かを見定める術を持ち合わせていなかった。だが、それでも。
 全てが無に帰したわけではない。





 



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