機動駐在コジロウ




信じる者はスクラップ



 前途は多難だった。
 他人の車なんて運転するものではない。しかも、じゃじゃ馬のスポーツカーなんて。そんなことを痛感しつつ、羽部 はハンドルを握っていた。長すぎるヘビの下半身は運転席の足元には収まりきらないので、中間部分はくねらせて 後部座席側に置いておき、ペダルを踏むために尖端部分だけはハンドルの下に横たえておいた。徒歩で移動する だけなら便利なのだが、車を運転するとなると、足が二本なければ難しい。アクセルとブレーキをほぼ同時に操作 しなければ通りづらい道もあり、クラッチペダルの操作が必要となる場面も多かったが、別の車に乗り換えるのは 面倒なので、羽部は四苦八苦しながら進めていた。

「これ、クラッチが重いんだけど。おかげで動かしづらいったらありゃしないよ、全く」

 寺坂善太郎のガレージから拝借した、攻撃的なメタリックオレンジのシボレー・コルベットZ06を操りながら、羽部が ぼやくと、助手席に収まっているりんねの姿をした伊織が言い返した。その膝の上には、高守信和の意思が宿る 種子が置いてある。2シーターなのだが、高守の体格が縮んでいたので狭い思いをせずに済んだ。

「んなもん、どうでもいいし。つか、どこに行くつもりなんだよ?」

『寺坂君が通話を着信した場所に向かってくれればいいよ。GPSで見てみたけど、羽部君の名義の携帯電話の位置 が移動している様子はないからね。放置されていて罠を張られている可能性もないわけじゃないけど、寺坂君と接触 出来れば佐々木つばめとも接触出来る。ややこしくなる前に、話を付けておかないと』

 高守は細長い触手を伸ばし、ダッシュボードに載せた携帯電話を操作して筆談した。

「まー、そうだな。ヘビ野郎の携帯が通じるっつーことは、他の連中の携帯も通じるっつー意味だし。それを利用して あいつらが佐々木つばめを丸め込んでいたりしたら、マジ厄介だし」

 伊織は足を組み、眉根を寄せる。羽部は傾斜のきついカーブを通り抜けながら、横目に二人を見やる。

「それじゃ何か、この賛美という賛美を全宇宙から捧げられるに値する僕はあの小娘の味方になれと? 嫌だよ」

『そういう意味じゃないよ。今までの経緯があるんだ、つばめさんだって僕達のことを信用してくれるとは思えないし、 つばめさんの周りにいる面々だって僕達を警戒するだろう。それに、僕だってつばめさんの味方になるつもりはない しね。利用させてもらうだけだよ、彼女の管理者権限を』

 高守はホログラフィーキーボードのタイピングを素早く行い、長文を一息で書き上げていった。

『とにかく、シュユに目覚めてもらわなければ彼はあの男の支配から逃れることは出来ない。ラクシャはその内部に 蓄積した膨大な情報を操ることで人を操ることが出来るけど、それは操られる当人の意識が薄弱な場合に限った話 なんだ。どれだけ凄まじい量の情報を流し込んで生体電流を乱したとしても、当の本人が激しく拒絶すればラクシャ の支配は及ばないからね。何事に置いても、生きた人間はやっぱり強いんだよ。けれど、御嬢様のように産まれて すぐの自我が弱い状態で支配されてしまえば、完璧な操り人形になってしまう。シュユは仮死状態に近かったから、 ラクシャに安易に支配されてしまうだろう。今まで散々シュユを喰い物にしてきた僕が言うのもなんだけど、シュユを 利用させてはいけないんだ。彼が可哀想だから』

「んじゃ、状況を整理しようぜ」

 伊織は高守を小突いてから、羽部に向く。

「腹の底から気に食わねぇけど、俺らはつばめのところに行く。んで、あいつの管理者権限を使ってシュユを起こせ って頼む。でもって、シュユを叩き起こして、ラクシャっつー遺産をぶちのめす。で、いいんだな?」

『要点だけ掻い摘むと、そうなるね。でも、一つ問題がある』

「異次元のことでしょ? 弐天逸流の本部に面倒臭い仕掛けをしておいたおかげで、侵入者達はこの僕達を追って くる様子はないけど、逆に言えば侵入者達をやり込めるには、同じ袋のネズミになる必要がある。そのためにまた あの霧の中を通り抜けて行くの? 嫌だよ。それに、この素晴らしき発想の泉である僕は戦闘なんてするべき立場 の存在じゃないし、そもそも知的階級の中でも飛び抜けた特権階級に位置する僕としてはだね」

 レスポンスが異様に良すぎて逆に扱いづらいハンドルを回しながら羽部が喋ると、伊織が口を挟んだ。

「黙れよウゼェ」

「とにかく、あれだ。この僕が思うにだね、ラクシャと侵入者達を異次元に閉じ込めたままにしておくのが最善であり 最良の結論なんじゃないの? 下手に事を荒立てても疲れるだけだし、異次元から出られさえしなければ、あいつらは 脅威でもなんでもないじゃないか。異次元を支えているのがシュユの精神だというのなら、佐々木つばめに適当な遺産 を操らせてそれに成り代わるエネルギーを与えればいいじゃないか。そうすれば、万事解決だ」

 狭い山道を抜けて少しだけ幅広の県道に滑り込みながら、羽部が続けると、高守が返した。

『そうでもないんだよ。あの異次元はね、空間そのものが遺産の一部なんだ。その名もフカセツテン。今はコンガラが 複製した空間を維持するための外殻に転用しているんだけどね。もちろん、そうしたのはシュユだ』

「は?」

「あぁ?」

 羽部と伊織の疑問符が重なるが、高守は淡々と続けた。文章では抑揚が現れないから、というからでもある。

『フカセツテンは、地球人類の概念で言うところの宇宙船に値する遺産なんだ。今でこそ異次元で大人しくしているけど、 通常空間に現れて好き勝手なことをされたら、大変なことになる』

「そりゃーまー、確かに遺産はどれもこれも人智を外れた代物だし、出所はそんなところじゃねーかなーって薄々感じて はいたが、きっぱり言い切られると萎えるな。在り来たりで」

 伊織が真顔になると、羽部も同意した。

「訳の解らないモノは外宇宙から来た、ってことにしておけば一応収まりが付くからねぇ。大雑把すぎるけど」

『君達の感想は尤もだけど、事実だからね。フカセツテンこそが五十年前に船島集落に飛来した流星の正体であり、 フカセツテンを構成していた部品が遺産なんだよ。その部品がどういった経緯で分離、拡散されたのかは僕も 把握し切れていないけど、シュユが目覚めてくれれば教えてくれるはずだよ。きっと』

「ま、期待もしてねーし、興味もねーけどな。つっても、今のところ、りんねを普通の人間に出来るかもしれねーのは 遺産の力しかねーから、俺も一応乗っかってやるけどよ。つばめがやられちまったら、遺産を動かせなくなるしな」

 まだらに脱色した長い髪を抓み、伊織が呟くと、羽部は先の割れた舌を出した。

「この僕は出来れば付き合いたくないけど、途中で放り出すのは性に合わないし、御鈴様のシワ一つない脳に力業で ねじ込んだムジンの情報を無駄遣いされたくないから付き合ってやるけど、勘違いしないでよね?」

「なっ、あっ、いつのまにそんなことをしやがった!」

 思わず伊織が腰を浮かせると、羽部はハンドルを切りながら素っ気なく言った。

「あれぇ、気付かなかったの? 佐々木つばめに準じた管理者権限を持つ生体情報の持ち主である御嬢様の肉体を ただの偶像として終わらせるのは勿体なさ過ぎるし、これ以上ない隠し場所でしょ? まあ、クソお坊っちゃんの 粘菌以下の知性と知能じゃ到底扱えないだろうし、御嬢様だって意識的に操作出来るものじゃないから、頭がどう にかなるってことはないから安心していいよ。たぶんね」

「りんねの体を勝手にいじくりやがって! このクソヘビ野郎が!」

 怒りに任せて伊織は羽部に掴み掛かろうとしてきたが、丁度カーブに差し掛かったため、羽部がハンドルを大きく 切ると、伊織の小柄な体は呆気なく仰け反ってドア側に押し付けられた。その際に後頭部を打ったのか、痛ぇなこの 野郎、と毒突きながら起き上がり、助手席に座り直した。

「なんでもいいけど、この僕達を襲おうとした不敬極まりない連中の素性は解っているんだろうね?」

 羽部が高守に問うと、高守は頷くように触手の尖端を上下させた。

『それはもちろん、シュユも解り切っているよ。異次元に接触してきた時からね。アソウギを用いた怪人である備前 美野里、一乗寺昇の元同僚である周防国彦、新免工業の元戦闘員である鬼無克二、そしてラクシャだ。彼ら一人 一人も厄介ではあるけど、最も警戒すべきなのはラクシャだ。無限情報記録装置であると同時に、無限制御装置 でもあるんだよ。要するに、管理者権限所有者と遺産同士の仲介となる部品なんだけど、ある男の意思が強烈に 焼き付けられていてね。だから、今、ラクシャはシュユの管理下からも完全に離れている。恐らく、佐々木つばめの 管理も受け付けないだろう。それもまた重大な問題なんだけど、危惧すべきことは、ラクシャの元にフカセツテンを 再起動させられる遺産が揃ってしまうことなんだ。アマラは情報を処理するだけで、ムジンは情報を処理するための プロセスを記録しているだけだけど、与えるべき情報と手段を備えたラクシャが収まれば……』

「最悪だな」

 伊織が一笑すると、羽部は肩を竦めた。

「こんなことになると解っていたら、もっと早く裏切っておいたのになぁ。出し惜しみなんかするんじゃなかった」

『ともかく、急ごう』

 高守に急かされ、羽部は再びアクセルを踏んで車を滑り出した。シュユの子株を使って生み出した、香山千束の 偽物の胃の中に入れておいた羽部の携帯電話のSIMカードとSDカードは思惑通り寺坂善太郎に回収され、その 手元にある携帯電話に差し込まれた。そして寺坂と電話連絡を取り、更には発信場所も突き止めることが出来た。 ホログラフィーモニターの中に浮かぶGPS画面には、一ヶ谷市内の地図が表示されていて、通話の発信地点には 赤いマーカーが浮かんでいた。その真下にある建物は雑居ビルで、マーカーの傍には階数が表示されていた。
 三階。備前法律事務所。




 そして、その備前法律事務所では。
 息を切らしながら、つばめが狭い階段を駆け上がっていた。その途中で立ち止まり、街外れの貸倉庫から一ヶ谷 市内まで車で送り届けてくれた小倉貞利に礼を言ってから、再び駆け上がっていった。コジロウの改修が済むのは 夕方頃になる、との言葉を背に受けながら、つばめは一段飛ばしで昇っていった。
 美野里が無事だった。居場所も解った。後は、助けに行けばいい。そのためには、彼らに動いてもらわなければ。 薄暗く少し冷える階段を昇り切り、三階に到着したつばめは一度立ち止まって呼吸を整えた。道子に連絡を取り、 皆がここにいると教えてもらったのである。コジロウも連れてくるつもりだったが、シリアスと化したままで市街地を 動き回るわけにはいかないので小倉重機の社員達に任せてきた。機体の改修作業とメンテナンスが終わり次第、 コジロウもつばめと合流する手筈になっている。
 それにしても、なぜ美野里の仕事場に皆が集まっているのだろうか。つばめに雇われている面々を集める手間が 省けてやりやすいのは確かだが、引っ掛からないわけがない。だが、それについて問い詰めるのは事を終えた後に しよう。つばめは嬉しさで緩みそうな頬を引き締めながら、備前法律事務所と書かれたドアをノックし、開けた。

「あのね、お姉ちゃんがねぇっおうあっ!?」

 事務所に飛び込んだ途端、つばめは猛烈な酒臭さに圧倒されて後退った。原因は応接セットの周囲に散らばる 大量の酒瓶で、アルコール度数が強い蒸留酒やワインの瓶がことごとく空になっていた。吐き気すら催させる酒臭さと 戦いながら、つばめは気まずげな顔をしている武蔵野と、弛緩しきって触手を四方八方に散らばらせている寺坂と、 作り笑いを浮かべている道子と、不機嫌そうな一乗寺を見回した。

「えーと、説明してくれなくても大体解る。あのお酒を全部飲んだの、寺坂さんでしょ」

 とりあえず換気しなければ、当てられてしまいそうだ。つばめはすぐさま窓を開けてから、触手男を指した。

「俺も少し手伝っちまったが、もう抜けたよ」

 武蔵野は苦笑し、両手を上向けた。ラフな格好の一乗寺は寺坂の触手を一本拾い、弄ぶ。

「この分だと、よっちゃんが起きるのは夕方ぐらいになるんじゃないの? いくらよっちゃんが普通の体じゃないから 酒の利きが悪いっていっても、あれだけ一気に飲めば二日酔いしちゃうって」

「誰も止めてやらなかったの?」

 つばめが呆れると、道子は酒瓶を集めてレジ袋に詰めた。

「寺坂さんにも色々とあるんですよ。お酒の力を借りないと言い出せないことだってありますって」

「にしたって、限度ってもんがあるでしょ。しかも、お姉ちゃんの仕事場でなんて非常識すぎるよ」

 つばめがむくれると、武蔵野が聞き返してきた。

「それはそれとして、その備前美野里がどうかしたのか。道子に電話してきた時も言っていたが」

「そうそう、今朝方、お姉ちゃんが電話してきてくれたの! お姉ちゃんはね、今、弐天逸流の本部に捕まっているん だって!」

 と、つばめが捲し立てると、死体の如く伸びきっていた寺坂が跳ね起きた。

「んだとぉうげあおうろぉっ!」

 だが、跳ね起きた勢いで散々飲んだ酒が戻ってきたらしく、道子の手元にあったレジ袋を触手で引ったくり、その 中に盛大に吐き戻した。胃袋の中には酒しか入っていなかったのか、少し粘っこい水音が響いた。その様子を見て いると気持ち悪くなりそうなので、つばめは顔を背けてから、話を続けた。

「でっ、だ、だから、お姉ちゃんを助けるには弐天逸流をどうにかしなきゃならないんだって。なんでも、弐天逸流は 遺産のシュユってのを使って信者を増やそうとしているんだって。シュユは人間の信仰心をエネルギー源にして動く 遺産で、その信仰心を掻き集めるために御鈴様っていうアイドルを使って布教活動しているんだってさ。んで、その 御鈴様はシュユが吉岡りんねに良く似た姿に化けたものだって、お姉ちゃんが教えてくれたんだ。で、お姉ちゃんが 閉じ込められているのは弐天逸流の本部で、なんかよく解らないけど異次元にあるんだって。で、御鈴様を倒せば 異次元が壊れて、お姉ちゃんも外に出てこられるんだって」

「なんでもいいから便所で出してこい。床を汚されたら後始末が面倒だ」

 武蔵野はよろける寺坂をトイレに押しやってから、つばめに向いた。

「となると、備前美野里が姿を消していたのは、弐天逸流に情報源として誘拐されていたからか。だとすると、寺坂 が動揺しなかったも頷けるな。あいつは弐天逸流と付き合いが長いから、手出ししないって解っていたんだろう」

「御鈴様ですかー。ここんとこネットで大評判の新進気鋭のアイドルで、御嬢様に酷似した外見だと思っていました けど、クローンでもなければサイボーグでもないので、不思議で仕方なかったんですよ。でも、そう説明されると筋が 通りますね。シュユはアマラのメモリーに遺産として記録されていますし、その機能も美野里さんの説明と合致して います。御嬢様の外見に似せた格好になったのは、恐らく、生体安定剤として御嬢様の生体情報を与えられていた からでしょうね。アイドル活動にしても、信者を集めるには打って付けですし」

 道子が納得すると、一乗寺は前髪を掻き上げて眉根を寄せる。

「それはそうかもしれないけど、みのりんをどこに攫っていったんだよ? ヘビ野郎から送り付けられたSDカードの データを全面的に信じるなら、弐天逸流の本部は船島集落そのものじゃないの。相手がどれだけ非常識な存在だ っていっても、船島集落には弐天逸流の本部を収めておけるような場所もないし、そんなものがあったとしたら俺達 が絶対に気付いているはずだよ。それ以前に、みのりんを誘拐したルートが不可解だよ。新免工業が俺達に奇襲を 仕掛けてきた後、みのりんが姿を消したけど、その前後にこの事務所の近辺に不審な車両は見当たらなかった。 衛星写真もあるし、監視カメラもあるし、政府の諜報員も配置してあるから、目撃証言と証拠は充分。だけど、 みのりんは事務所からも出た形跡はなかった。なのに、行方不明になった。どうして?」

「どうして、ってそれを突き止めるのがお前の仕事だろうが」

 武蔵野が言い返すと、一乗寺は唇を尖らせた。

「そりゃそうだけどー、捜査を煮詰める暇がなかったんだもーん。みのりんをマークしていた捜査員の目は節穴 じゃないし、監視カメラだって安物じゃないし、衛星写真だって解像度は高いから、徹底的に調べたよー。それなのに、 みのりんが誘拐されたルートは割り出せないままなんだもん。新免工業がみのりんに差し向けたスナイパーの身柄 は確保して逮捕拘留してあるけど、あいつら、ろくに証言しないから埒が開かなくて。むっさんは知らない?」

「知るか、そんなこと。知っていたら、とっくの昔に売り渡している。今の雇い主にな」

 テーブルに横たえていた拳銃をショルダーホルスターに戻しながら武蔵野が返すと、道子は首を捻る。

「そう言われてみれば、そうですねぇー。一ヶ谷市内の監視カメラの映像はリアルタイムでハッキングして、記録と 同時に精査していますけど、美野里さんが姿を消した前後の時間帯の映像は普通すぎましたね。スナイパーさん 達の姿は捉えてありましたけど、ほんの数フレームの間に消え失せちゃいましたし。でもって、その後、政府の人達が スナイパーさん達を発見、確保した地点と消失した地点の間を調べてみましたけど、どの映像でも異変は見当たり ませんでしたし。だから、私もあんまり重要視していなかったんですけど」

「泳がせすぎたかなぁ……」

 一乗寺はいつになく真剣な口振りで漏らし、唇の端を引きつらせた。

「つばめちゃん。今後一切、みのりんを信じちゃダメだ。あの女は、つばめちゃんを裏切った」

 寺坂が吐き出したものを流しているのだろう、トイレの水音だけがやけに響いた。つばめは視界がぐるりと回転した かのような目眩を覚え、よろけ、美野里が乱雑に書類を積み上げている机に寄り掛かった。

「ど……うして、先生、そんなこと言えるの? だって、お姉ちゃんは、お姉ちゃんであって」

「備前美野里は俺達を騙す気すらないんだよ。だから、つばめちゃんに手の内をべらべらと明かしたんだ。考えても みてごらんよ、捕虜に詳細な情報を与える組織があるわけないでしょ? あったとしても、十中八九罠だ。罠でさえ なかったら、その組織が組織として成り立っていないっていう証拠だ。だけど、今までの経緯を顧みると弐天逸流は 新興宗教としての立場を存分に利用して立ち回ってきたし、よっちゃんにもボロを出していなかった。なのに、急に ヘビ野郎が情報を流してきた。挙げ句に、備前美野里がつばめちゃんに直接連絡を取ってきた。安直な罠ですら ないよ、これは挑発だ。絶対に勝てる自信があるからこそ、誘いを掛けてきたんだ」

 ほうら来た、と一乗寺は開け放した窓の外を指し示した。片田舎の早朝の街並みには似付かわしくない攻撃的 なエンジン音が朝の静寂を切り裂き、それが徐々に迫りつつあった。

「俺の読みだと、御鈴様とヘビ野郎じゃないかな。その正体がシュユそのものであろうが、なかろうが」

 少しサイズの大きいTシャツを捲り上げた一乗寺は、タンクトップの上に身に付けていたショルダーホルスターから 二丁の拳銃を引き抜いた。

「ぶっ殺すだけだけどねっ!」

 そう言うや否や、一乗寺は三階の窓から身を躍らせた。慌てふためきながらつばめが窓に駆け寄ると、一乗寺は 器用に雑居ビルの壁を蹴って跳躍し、手近な位置に立っている電柱に飛び移った。シボレー・コルベットZ06を運転 している人物はスポーツカーを操り切れていないのか、走りが不安定だった。一乗寺は細い鉄棒一本しかない電柱の 足場に立つと、愛銃のハードボーラーを構えて照準を合わせ、引き金を絞った。
 直後、スポーツカーのフロントガラスが白く砕けた。





 


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