ドラゴンは眠らない




そして、竜は眠る



誰かの、記憶が夢に混じる。


薄暗い部屋の中で、誰かが泣いている。頭にはツノを生やし、背には翼を持った、竜の子供がうずくまっている。
唇を噛み締めて泣き声を殺しているが、それでも涙は溢れてくる。寂しくて、悲しくて、息が詰まりそうになる。
部屋の中の光は、閉ざされた扉の隙間から差し込んでくる細い光だけしかなく、心細さを掻き立てている。
扉の取っ手が、軋みながら回る。竜の子供は顔を上げてそちらに向くが、すぐにまた、膝に顔を埋めてしまった。
期待なんてしてはいけない。どうせ、誰も触れてきやしないのだから。そう思いながら、きつく瞼を閉じた。
蝶番が音を立てながら動き、扉が開き、光が差し込んでくる。顔を伏せたままでいる竜の子供を、光が包む。
逆光の中に、誰かが立っている。声を掛けられたので、竜の子供が顔を上げると、その者は手を差し伸べてきた。
竜の子供が躊躇っているとその者は、大丈夫だから、と優しい笑顔を見せ、竜の子供の間近に手を差し出した。
その手とその者の笑顔を見つめていた竜の子供は、涙を拭ってから、その者の手に恐る恐る手を伸ばした。
小さな手を握り締めてくれた、その手の主は。




そこで、目が覚めた。
フィリオラは夢の通りに虚空へ伸ばしていた手を下ろし、ぽすっと布団の中に落とした。生々しい、夢だった。
寝起きながら冴え冴えとした頭には、今し方まで見ていた映像が残っていて、涙を流していた感触も残っている。
夢の中で泣いていた竜の子供は自分だったのかとも思うが、キースであったようにも思え、定まらなかった。
薄暗かったし、顔を伏せていたので男か女か解らなかった。だが、あれは、フィリオラの過去と酷似している。
年端も行かない幼児の頃は、よく閉じ込められていた。泣き出すと、魔法陣を描かれた部屋に連れて行かれた。
魔力鎮静の魔法陣が床一杯に描かれている、北側の薄暗い部屋に入れられて、泣き止むまで出されなかった。
竜の力が暴走しないように、との理由だったが、部屋に入れられてすぐに扉に鍵を掛けられてしまったことが多い。
どれだけ泣き喚いても、おとうさま、おかあさま、おねえさま、おにいさま、と、家族を呼んでも返事はなかった。
寂しくて、苦しくて、不安に押し潰されそうだった。早く泣き止まなきゃ、と思っても、余計に涙が出てきてしまう。
暗い部屋。自分の泣き声。冷たい床。力を吸い取る魔法陣。それしか感じられない、閉じた世界の中に長くいた。
その世界から救い出してくれたのは、ギルディオスとフィフィリアンヌだが、部屋の外に連れ出された記憶はない。
気付いたら、外にいたのだ。泣き疲れて眠った後に目を覚ましたら、大きな体の甲冑に抱きかかえられていた。
フィフィリアンヌが先祖だと言われても最初は信じられなかったが、その気配と外見で、すぐに同族だとは解った。
自分と同じツノが生えていて、瞳孔が縦長だったからだ。同じものを持つ者に会えて、心の底から嬉しかった。
ギルディオスはフィリオラが目覚めた途端、可愛いなぁお前は、と言ってツノの生えた頭を撫でてくれた。
その時の嬉しさまで思い出して、フィリオラは口元を緩めた。夢の余韻に浸りつつ、起き上がって体を伸ばす。
カーテン越しに差し込んでいる朝日は鮮やかに眩しく、部屋に満ちている空気も穏やかで、すっかり温かくなった。
フィリオラは寝乱れた髪を簡単に整えてから、ベッドから下りて窓に向かい、分厚いカーテンを引いて開いた。
窓を開けると、柔らかな風が滑り込んでくる。爽やかな冷たさと草と土の匂いがする、雪解けの空気だった。
眼下に広がる深い森は、艶やかに葉を光らせている。竜の城を映している湖面もきらきらと輝いて、美しかった。
フィリオラは胸一杯に朝の空気を吸うと、振り返った。ベッドの上では、レオナルドが眩しげに目を細めている。

「いい天気だな」

「おはようございます、レオさん」

フィリオラが笑ってみせると、レオナルドは起き上がり、自然な笑顔を返してきた。

「おはよう、フィリオラ」

「気持ちいいですねー、今日は」

フィリオラは風で広がった長い髪を掻き上げながら、窓の外に目をやる。レオナルドも、開け放たれた窓に向く。

「全くだ」

冴え渡った青空の下には、崩壊した都がある。雪が溶けると、旧王都の損害もより目に見えて解るようになった。
キースとの攻防から、四ヶ月程度が過ぎた。例年にも増して雪の降った冬がようやく終わり、春が訪れていた。
街を囲んでいる城壁は、真冬の戦闘以降も幾度か起きた小競り合いによって、半分ほどが崩れ落ちてしまった。
なので、城壁は最早その役割を果たしておらず、かつては見えていなかった市街地が望めるようになっていた。
住宅街や高層建築街は、もう人の住める場所ではない。砲撃に次ぐ砲撃で、大半の建物が崩壊してしまった。
旧王都を旧王都たらしめていたかつての王宮も、連合軍によって制圧され、今や連合軍前線基地と化している。
あまり残っていなかった住人達は、戦闘が起きる前に逃げ出した者や逃げ出せずに残った者など、様々だった。
廃墟となった住宅街には未だに多少の市民は残っているが、長い冬が開けたとはいえ、生活は楽ではない。
連合軍は共和国国民に対して、降伏すれば移民として受け入れる、と言っているが、その実情は良くないらしい。
乱れた国内をうろついてきたグレイスの話によれば、移民となった共和国国民の扱いは、相当なものだった。
移民として送られる先は連合軍に参戦している周辺諸国の貧民街らしく、結果として、生活は更に悪くなる。
その上、国籍を移したのだから、ということで、共和国国民が連合軍の兵士として徴兵されているとの話もある。
キースの魔法による洗脳が解けた政府上層は、この事態をどうにかしようとしているらしいが、後手後手だ。
軍の内部も、かなり悪い。キース、つまり、サラ・ジョーンズ大佐が退役した以降も特務部隊は存続している。
将軍から直々に命令があり、優れたる兵士を増産するべし、とのことで能力強化兵は作られ続けている。
それは死体であったり生きた敵兵であったり様々らしく、時折聞こえる戦場の噂は、ろくなものではなかった。
ダニエルとフローレンスを始めとした異能部隊の面々は、軍による処罰を避けるために、遠方へと去っていった。
ファイドの治療で、能力強化兵から元の人間に戻ることの出来た異能部隊隊員達も、彼らに連れ立っていった。
今更軍に戻る気も起きないし、かといって、かつての仲間達から離れる気も起きなかったからだそうだ。
そして、この逃亡にはもう一つの目的があった。異能者達が平穏な日々を過ごせる場所を、探すためだった。
異能部隊とはまた違った意味での、異能者達の生きるべき場所を見つけ出すことが、彼らの最大の目的だ。
ギルディオスから異能部隊の新たな隊長に任命されたダニエルは、必ず見つけてみせる、と意気込んでいた。
共和国内がこの情勢ではその目的が果たされる解らないが、何もしないでいるよりも、動いた方が余程良い。
魔導師協会も、戦争の影響を多大に受けてしまった。フィフィリアンヌの手腕をもってしても、止められなかった。
戦乱に乗じて名を挙げようとする魔導師や、逆に連合軍に寝返る魔導師がおり、あらゆる所に綻びが出来た。
魔導師協会本部の建物も破壊されてしまい、フィフィリアンヌがその奥底に封じ込めていたものが盗み出された。
それは、古代魔法や魔導技術を記した様々な書物だ。そのどれも、この時代の人間では操れないものばかりだ。
それらの危険な魔法が、戦場で使われていたという話も聞いた。恐らく、魔導師が強奪の手引きをしたのだろう。
中には真っ当な魔導師もいるのだが、結局は食糧や身の安全を守るために共和国軍か連合軍に下ってしまう。
役員達も殺されてしまったり裏切ったりなどで大半がいなくなり、共和国政府と同様、機能を果たせなくなった。
フィフィリアンヌは、それを傍観している。どうせ立て直すなら壊れに壊れた後の方が楽だ、なのだそうだ。
魔導師協会と政府の両方が乱れているので、いつのまにか、フィリオラの損害賠償金はうやむやになっていた。
どうやら、戦火によって書類が焼失してしまったらしく、気付いたら賠償請求の手紙が届かなくなっていた。
フィリオラは喜ぶべきか迷ったが、顔には出さずに喜んだ。あれだけの額を、返せるとは思えなかったのだ。
だが、決していいことではない。戦火で焼失してしまったものは、書類だけであるはずがないのだから。

「先生とキャロルさん、今頃、どうしていますかねぇ」

フィリオラは遠くを望みながら、心配げにした。レオナルドはベッドから下りると、彼女の背後に立つ。

「兄貴のことだ。心配するだけ、無駄だと思うがな」

そう言いながら、レオナルドはフィリオラの背に覆い被さった。後ろから腕を回して胸に納め、抱き締める。
フィリオラは抵抗することなく、彼の胸に体を納めた。背に触れる彼の胸は、以前よりも厚くなっていた。
城にいる間、何もすることがないから、と剣術や魔法の修練を続けていたので全体的に筋肉が増したのだ。
抱き締めてくる太い腕に手を添えて、寄り掛かる。フィリオラは彼の体温を感じながら、二人に思いを馳せた。
リチャードとキャロルの二人は、フィリオラが長い眠りから目覚めた頃には、揃って姿を消してしまっていた。
他の面々と同じくフィフィリアンヌの城にいたはずなのだが、書き置きも残さずに、どこかに行ってしまった。
フィフィリアンヌが言うには、あの二人は国外へ逃げたのだろう、とのことだが、すぐには信じられなかった。
リチャードが逃げなければならない理由も知らなかったし、そこまでする必要はないのでは、と思っていた。
だが、時間が経つに連れて、リチャードの行動が正しかったのだと解った。政府と軍が、彼を捜し始めたのだ。
彼は、魔法を使って多数の人間を死に至らしめた戦争犯罪人とされており、見つけ次第処刑するとのことだった。
だが、それだけではない。軍はキースの存在をなかったこととするべく、特務部隊の隊長をリチャードにした。
キースの魔法によってキースの傀儡となっていた上位軍人達は、その責任を全てリチャードに押し付け始めた。
何がなんでも、死んだはずの竜族によって操られていた、という事実を消してしまいたいらしく、かなり必死だ。
フィフィリアンヌが手に入れた軍内部の情報に寄れば、異能部隊にキースがいた事実すらも消されたそうだ。
政府と軍は、産業革命のおかげで人間の脅威でなくなった竜が、再び人間の脅威となることを恐れているようだ。
確かに、共和国軍を思うがままに動かしていたキースの存在が大衆に知れ渡れば、それは大きな騒ぎになる。
人々が、ほんの僅かしか生き残っていない竜族を脅かしかねないし、そうなれば竜族の滅亡は決定的となる。
なので、フィリオラは複雑な心境になっていた。キースの存在が消えるのは嫌だが、竜が滅ぶのはもっと嫌だ。
フィリオラは、レオナルドの腕で潰されているあまり大きさのない胸を見下ろし、その奧に意識を向けた。
目覚めてからすぐはキースの気配を感じることがあったのだが、今となっては、ほとんど感じなくなっていた。
雪と一緒に溶けて消えてしまったような、そんな気がする。だが、キースは、間違いなくここにいるのだ。
キースと意識を共有した白い世界での出来事は明確に覚えているし、彼と魂を重ねた感覚も残っている。
私だけは絶対にあなたが生きていたことを忘れませんから、と、フィリオラは魂の内側に向けて語り掛けた。
すると、ぐいっと顔を上向けさせられた。レオナルドがあまり面白くなさそうな顔をして、見下ろしている。

「またあの野郎と話してんのか」

「レオさん、首、痛いんですけど」

フィリオラは、痛みに顔をしかめた。強引に首を曲げられているので、首の筋が引きつってしまっている。
レオナルドは身を屈めると、フィリオラに顔を近寄せた。やはり、不愉快なものは不愉快だった。

「なんでお前は、あの野郎を弾き出さないんだ」

「だーから、何度も言いましたよね。私とキースさんの魂はくっつけて混ぜちゃったので、離れないんです」

「だがな…」

「素直に妬いているって言えばいいのに」

首を曲げられている手を外させ、フィリオラはレオナルドに寄り掛かる。レオナルドは、途端に顔を背けた。
その横顔はやりづらそうで、口元を歪めていた。フィリオラはその表情を見上げながら、つい笑ってしまった。
フィリオラがキースと魂を重ね合わせてからというもの、レオナルドは事ある事にキースの存在に妬いている。
最初はそれに戸惑ってしまったし、不機嫌極まりないレオナルドが怖くもあったが、近頃では微笑ましいだけだ。
それどころか、可愛らしくて仕方ない。嫉妬に駆られているレオナルドは、普段の彼からは大分懸け離れている。
フィリオラは、不機嫌そうながらも気恥ずかしげなレオナルドを見上げていたが、ふにゃりと表情を緩めた。

「レオさんて、やっぱり可愛い」

その言葉に、レオナルドは顔を伏せてしまう。

「言うな、それを…」

「可愛いものは可愛いんだ、ってレオさん、私にも散々言ってくれるじゃないですか。それと同じですよ」

にこにこしているフィリオラに、レオナルドは素っ気なく返した。

「それは、それだろうが」

「おんなじことですー」

フィリオラはレオナルドの腕から脱すると、かかとを上げて腕を伸ばした。レオナルドは、彼女の背に手を回す。
躊躇いもなく、二人は唇を合わせた。何度となく、どちらからも繰り返してきたので、大分慣れてきていた。
フィリオラはそっと唇を離すと、かかとを下ろした。ちょっと照れくさそうにしていたが、愛しげに笑んだ。

「まだ、してませんでしたから」

「ああ、そうだったな」

レオナルドは照れくさそうに笑い、彼女の額に唇を軽く当てた。フィリオラは彼の笑顔が嬉しくて、また、笑った。
フィリオラが長い眠りから覚めてからというもの、レオナルドは以前の態度に比べれば、大分素直になってきた。
気が強くて口が悪いのは相変わらずなのだが、前は意地で押し込めていた感情を、表に出すようになっていた。
それは、笑顔であったり、嬉しさであったり、照れであったりして、フィリオラが見たことのないものばかりだった。
最初の頃はレオナルドの笑顔は硬かったが、近頃はようやく慣れてきたらしく、自然な表情となっていた。
その表情の一つ一つが嬉しくてフィリオラが笑うと、彼もまた笑い返してきてくれて、ますます愛おしくなった。
フィリオラは、レオナルドの腕に自分の腕を絡めた。二人の大きさの違う手を重ね合わせると、握り締めた。
窓の外は、清々しい景色が広がっていた。雪が解けて若い草の生えてきた草原が、果てで青空と交わっている。
旅立つには、絶好の天気だった。


古びた城の玄関には、二人の荷物が出してあった。
幅広の階段の上に、衣類などを詰め込んだ革製のトランクが揃えて並べてあり、その後ろには本が積んであった。
何冊も積み重ねて紐で縛ってある本は、魔法に関連した書物が大半だったが、中には恋愛小説も混ざっていた。
他にも、この日のために作って溜め込んでおいた保存食やフィフィリアンヌの魔法薬など、様々な荷物があった。
ギルディオスは、それらを前にしている二人の前で、困惑していた。銀色の手には、ハサミが握られている。
目の前に立っているフィリオラは、念を押すようにもう一度頷いた。その隣のレオナルドは、変な顔をしている。

「何も、この人にやらせることはないだろう」

「小父様じゃなきゃ意味がないんですよ、こういうことは」

フィリオラは、城の中から運び出してきた椅子に座った。フィフィリアンヌは、大きな布を手にしている。

「そうだぞ。指名を受けたのだ、さっさと答えぬか」

フィフィリアンヌは、フィリオラの体に大きな白い布を掛けた。首から下をすっぽり覆って、首の前で結び目を作る。

「それともなんだ。貴様はこの子の頼みを聞けんと言うのか?」

「て、いうか…」

ギルディオスは、手にしているハサミを見下ろした。甲冑の映り込んだ刃は、滑らかに光っている。

「魔導師の髪、っつーか、女の髪ってのは、そうそう切っちゃいけねぇもんだと思うんだが…」

「小父様じゃなきゃダメなんです」

フィリオラは、不意に真剣な顔をした。ギルディオスは、真摯な眼差しを向けてくる彼女とハサミを見比べた。
つい先程、ギルディオスは、フィリオラから唐突に頼まれたのだ。私の髪を短く切っちゃって下さい、と。
当然、その申し出はすぐに断った。ギルディオスも、魔導師にとって髪が大事であることは充分理解している。
髪に長さがあると魔法を扱う際に魔力が安定するので、魔導師は髪が長いのが常であり、必然でもあるのだ。
それに、フィリオラはもうすぐ十九になろうという娘だ。そんな年頃の娘の髪を、易々と切って良いはずがない。
ギルディオスがハサミをじっと見下ろしていると、足元から声がした。フラスコの中で、伯爵がうねっている。

「ほれほれ、さっさとしてやるのである。早く終わらせねば、二人とも出発出来ぬのであるぞ」

「だが、なぁ…」

ギルディオスが渋っていると、フィリオラはギルディオスを見据えた。

「お願いします、小父様」

「んじゃ、後で文句言うんじゃねぇぞ。綺麗になんか出来ねぇんだからな」

仕方なく、ギルディオスはフィリオラの背後に回った。白い布で覆われている背の上に、長い髪が流れている。
フィフィリアンヌと同じく、クセのない真っ直ぐな髪だった。一房、手にしてみると、さらさらと零れ落ちた。
切ってしまうのは、惜しい気がする。だが、彼女の髪を切ることを承諾したのだから、切らなくてはならない。
ギルディオスは意を決して、ハサミを開いた。しゃきっ、と刃を擦り合わせてから、耳の後ろの部分を切った。
ハサミに断ち切られた髪が、ばさばさと足元に落ちた。背中の中程まで長さがあったので、結構な量になる。
ギルディオスは、いつになく緊張していた。初めてのことだし、耳を切ってはいけない、と慎重になっていた。
彼女の髪を切る甲冑を、レオナルドは見つめていた。いつのまにか近くにいたフィフィリアンヌが、口を開いた。

「貴様は」

レオナルドがフィフィリアンヌを見下ろすと、フィフィリアンヌもレオナルドを見上げていた。

「子が出来なくとも、あの子を愛してやれるか」

「愚問です」

レオナルドが少し笑ってみせると、フィフィリアンヌは目元を和らげた。

「ならば、良いのだが」

「はっはっはっはっはっはっは。いやしかし、なんとも素晴らしいことなのであるぞ」

薄汚れた石畳の上で、ごとり、とフラスコが動いた。ガラスの球体の中で、伯爵がうぞうぞと蠢いている。

「今まで交わりそうで交わらなかったドラグーンとヴァトラスが交わるのであるから、実に喜ばしいのである」

「子が出来たら、ギルディオスと伯爵でも連れて見に行ってやろう。だが、あの子を悲しませでもしたら」

フィフィリアンヌの赤い瞳が強められ、レオナルドを射抜いた。

「私の牙が届くと思え」

「余計な心配しないで下さい」

レオナルドは、フィフィリアンヌの鋭い視線にぞくりとした畏怖を感じながらも、なんとか表情を取り繕った。
城に来る以前は接する機会が少なかったので知らなかったのだが、フィフィリアンヌもフィリオラにだけは甘い。
先祖と末裔というよりも祖母と孫といった関係で、フィリオラも彼女を慕うので、余計に甘くなっているようだった。
時に、甘すぎるのではと思うほど甘い時もあるほどだった。普段のフィフィリアンヌからは、想像しがたいことだ。
伯爵も同様で、フィリオラにはあまりきつい言葉を投げかけることはないが、レオナルドは容赦なく罵倒してくる。
なので、レオナルドは、まるで入り婿にでもなったかのような疎外感や温度差を感じることがしばしばあった。
周りがこれじゃあの女があの性格になるわけだ、とレオナルドは、この城での四ヶ月半の生活で痛感していた。
そんなことを考えているうちに、フィリオラの髪を切る作業は進んでいて、彼女の髪は短く切り詰められていた。
フィリオラは、耳元に聞こえるハサミを動かす音と、切られた髪が滑り落ちていく感触を感じながら、呟いた。

「小父様」

「ん」

ギルディオスは、切り損ねて段になってしまった後ろ髪をやれるだけ整えていたが、その手を止めた。

「今まで、ありがとうございました」

フィリオラは頭が軽くなったのを感じながら、振り向き、ギルディオスに微笑んだ。

「小さい頃から、ずっと私の傍にいて下さって、本当にありがとうございました」

甲冑の滑らかなヘルムには、髪をざんばらに切られた竜の少女が映っている。

「一杯、色んな迷惑をお掛けしました。すぐに泣いて、べったり甘えて、小父様や大御婆様を困らせてばかりでした。伯爵さんにも、色々とお世話になりました。皆さんには、魔法や勉強だけじゃなくて、色んなことを教えて頂きました。おかげで、一通りのことは出来るようになりました。変身出来るようになれたし、大したことはないけど戦えるようにもなれたし、自分のことぐらいは自分の力だけでなんとか出来るようになりました。だから、もう、大丈夫です。小父様や大御婆様の手を借りなくったって」

フィリオラはギルディオスから視線を外し、真正面に向いた。一度言葉を切ってから、言った。



「ちゃんと、歩いていけますから」



ギルディオスは、ハサミを持った手を静かに下ろした。銀色の刃に貼り付いていた髪が、はらはらと落ちていった。
不器用に切られた後ろ髪を押さえ、フィリオラは笑んでいる。表情は昔と変わらないが、顔付きは変わっていた。
ただ子供のように幼いばかりだった表情が、いつのまにか大人びていて、落ち着きを持ったものになっていた。
フィリオラの表情を見た途端、理解した。髪を切ってくれと言われた理由もその意味も、何もかもが腑に落ちた。
きっと、これはフィリオラなりのけじめなのだろう。フィフィリアンヌを窺うと、彼女は薄い唇を引き締めていた。
フィリオラは、膝の上で手を握り締めた。切られたばかりで尖っている毛先が首筋に触れ、むず痒かった。
これで、いいんだ。レオナルドと共に旧王都から旅立つと決めた時から、いや、決める前から決意していた。
本当は、まだ甘えていたい。ギルディオスに縋っていたいし、フィフィリアンヌからも色々なことを教わりたい。
だが、それではいけないのだ。いつまでも幼い子のような位置にいては、いつか必ず自分がダメになってしまう。
レオナルドと一緒であるとはいえ、旧王都から外へ出るのは不安だ。しかし、それも乗り越えなくてはいけない。
ちゃんと歩いていける、とは言ったが、自分がまだまだ頼りないのは、フィリオラ自身が一番良く知っている。
怖い。けれど、怖がってはいけない。寂しい。けれど、決めたのは自分だ。フィリオラは、ぎゅっと目を閉じた。
いつのまにか滲んでいた涙が目元に溢れ、情けなくなった。こんな時ぐらい、泣かないように出来たらいいのに。
すると、握り締めた手に手が触れた。そっと目を開くと、フィフィリアンヌがフィリオラの手を包み込んでいた。

「フィリオラ。帰ってきたかったら、いつでも帰っておいで」

フィフィリアンヌの穏やかな言葉に、フィリオラは堪えきれずに涙を落とした。

「…はい」

声を殺して泣き出したフィリオラを見ていたレオナルドは、いきなり頭に手を置かれ、反射的に振り向いた。
そこにはギルディオスが立っていて、レオナルドの頭を子供にするように叩いていた。ぐしゃり、と髪を乱す。

「レオ。お前も、また帰ってこいや」

「子供扱いしないで下さい」

レオナルドはそう言い返したものの、なんとなくその気が起きなくて、ギルディオスの手をはね除けなかった。
彼の言葉は、ありがたかった。旧王都での戦闘で、歴史を重ねてきたヴァトラスの屋敷も破壊されてしまった。
ヴァトラは、屋敷が破壊されてしまう前になんとか回収出来たのだが、事を急いたせいで彼の意識は薄らいだ。
決して死したわけではないが、ヴァトラが以前のように自我を保てるほど回復するには、まだ時間が掛かる。
屋敷は壊れ、両親は共に死に、兄は逃亡し、血縁者が身近にいなくなり、レオナルドの帰る場所はなくなった。
だから、そう言ってもらえると嬉しかった。だが、顔に出すのはやはり照れくさいので、表情を固めていた。
ギルディオスは相変わらずのレオナルドを見、少し笑った。彼が素直になるのは、フィリオラの前だけのようだ。
フィリオラは、フィフィリアンヌに抱き締められて泣いている。フィフィリアンヌは、寂しげな目をしていた。
フィフィリアンヌも泣いてしまいたいのだろうが、この場では泣いてはいけない、とでも思っているのだろう。
素直じゃねぇな、とギルディオスは内心で呟いた。泣きたかったら、泣いてしまった方が余程楽になるのに。
ギルディオスが伯爵に向くと、伯爵は泡を出すこともなく、落ち着いていた。彼も彼なりに、噛み締めている。
別離の寂しさは、何度経験しても同じだった。死別ではないにせよ、離れてしまうことには変わりないのだから。
レオナルドの頭から手を外して、一歩身を引いた。がしゃり、と重たい関節が擦れ合い、耳障りな音を立てた。
湖面を走ってきた爽やかな春の風が、トサカに似た赤い頭飾りと腰までの長さのマントを揺らし、抜けていった。
また、日々が始まる。互いに背を向けたせいで一度は途切れ、元に戻るまで大分遠回りをしたが、戻ってきた。
三人での、日常に。




灰色の城は、平穏だった。
城の前庭に積もっていた雪も全て消え、整えられた花壇には咲いたばかりの花が並び、葉を伸ばしている。
正面玄関の巨大な扉の傍では、白い服を着た幼子が遊んでいた。手に握った石で、地面を引っ掻いている。
がりがりと土を削り、二重の円を描く。舌足らずな声で歌を歌いながら、内側の円に六芒星を描き加えた。
二重の円の間に、文字とも線とも付かないものをいくつも描いたが、どれもまともな魔法文字ではなかった。
変に歪んだ三角形や四角などの魔法文字もどきを描き終えると、ヴィクトリアは背後にいる母親を見上げた。

「おかーさま、みーてて」

「ちゃんと見てるわよ」

ヴィクトリアの背後にしゃがんでいるロザリアは、白いスカートを汚しながら魔法陣を描く幼子を見下ろした。
小さな背の上で、柔らかな黒髪を二つに分けて編んだ細い三つ編みが揺れている。これは、グレイスの真似だ。
普段は編んでいないのだが、おとーさまみたいにしたい、とせがんできたのでロザリアが編んでやったものだ。
ヴィクトリアは発音の怪しい歌を歌っていたが、それを止めた。ぱん、と小さな手を魔法陣の傍に当てる。

「はっつどー!」

直後、魔法陣の中央から青白い炎が溢れ出した。母と娘の身長を遥かに越えた火柱が、ごおごおと燃え盛る。
ヴィクトリアは満足げにその炎を見ていたが、母に振り返った。ロザリアは微笑み、娘の頭を撫でてやる。

「凄いわねぇ、相変わらず」

「えへへ」

母に褒められたことが嬉しくて、ヴィクトリアはふにゃりと表情を緩めた。すると、炎は徐々に小さくなった。
あ、とヴィクトリアは魔法陣に振り返ったが、青白い火柱は勢いを失って萎んでいき、ついには消えてしまった。
ヴィクトリアはもう一度魔法陣の傍を叩いてみたが、炎は出なかった。むー、と丸い頬を膨らましてむくれる。
魔力を炎として具現化することは出来るのだが、それをそのまま安定させておくことは、まだ出来ていないのだ。
ロザリアは不満げな娘を見ていたが、玄関前に居座っている真っ赤なものに目をやった。嫌でも、目に入ってくる。
正面玄関の前に、真新しい蒸気自動車が止まっていた。重厚で存在感のあるそれは、かなり派手な色をしている。
塗られたばかりの赤い塗装が眩しく、すり減っていない車輪が輝いていて、座席に主を乗せるのを待っている。
燃料を入れる釜が付いておらず、その代わりに車体に似た真紅の魔導鉱石の填った金属板が付けてあった。
その蒸気自動車を、灰色の上下を着た男が眺め回していた。肩には、緩く編んだ黒髪の三つ編みが垂れている。
グレイスは、魔導鉱石式蒸気機関の心臓部とも言える赤い魔導鉱石に触れて撫でると、満足げに笑った。

「いよっしゃ」

「調整、終わったの?」

ロザリアは立ち上がると、蒸気自動車の後方に立っているグレイスの背後に歩み寄った。

「まぁな」

グレイスは蒸気自動車の赤い装甲を、軽く叩いた。ロザリアは、車体の鮮烈な赤に顔をしかめる。

「なんでもいいけど、派手すぎない?」

「派手なくらいが丁度良いだろ、あの二人の車なんだから」

グレイスが笑うと、ロザリアは釣られて笑った。

「ま、それもそうね。新婚なんだし」

「おかーさま、だっこしてぇ」

ロザリアの背後に、ヴィクトリアが寄ってきた。手にしていた石をぽいっと放り投げてから、母に駆け寄る。
成長するに連れて愛らしさを増した灰色の瞳は、両親を見上げていたが、赤い蒸気自動車を見上げた。

「このまっかなの、くるま?」

「そうよ。青い目のお姉ちゃんとおっかないお兄ちゃんのために、お父さんが作ってあげたのよ」

ロザリアは身を屈めて、ヴィクトリアを抱き上げた。きゃあ、とヴィクトリアは歓声を上げ、母の腕に収まる。

「どーして? おとーさま、だれからもおかねをもらってないのに」

「それもそうね。どうしてなのよ、グレイス。共和国軍から掻っ払ってきて、蒸気機関を魔導鉱石式に改造して、装甲を全部塗り替えたんだから、手間も金も掛かっているじゃない。五十万ネルゴぐらいは請求しなさいよ」

ロザリアはヴィクトリアを抱いたまま、夫に向いた。グレイスは口元を上向け、にぃっと笑う。

「礼だよ。キースの野郎にな」

「なんでまた。あなた、あいつに迷惑しか掛けられてないじゃないの」

「じゃないのー」

ロザリアの言葉に続けて、ヴィクトリアが幼い口調で真似をした。グレイスはそれが微笑ましくて、顔を緩めた。

「あいつはラミアンやらリチャードやらには手ぇ出したが、お前らには手ぇ出さなかっただろ? だからだよ」

「でもそれは、あなたとキースの利害関係が一致していたから、手を出してこなかっただけでしょ? そんなの、感謝する理由になんてならないじゃない」

ロザリアが訝しむと、グレイスは妻の腕に抱かれた幼い娘を撫でた。

「まぁ、そうかもしれねぇけどさ」

父の手の下で、娘は嬉しそうにしている。二歳を過ぎてからは言葉も発達し、笑顔も更に可愛らしくなった。
ロザリアは、腕の中のヴィクトリアに目を細めた。グレイスの言いたいことは、なんとなくだが理解出来た。
その理由はどうあれ、灰色の城に住まう家族の平穏を壊さずにいてくれたのだから、ということなのだろう。
娘を愛でるグレイスは、だらしなく目元を緩めている。ロザリアが見ていて呆れるほど、娘を溺愛している。
年頃に成長したヴィクトリアが男を連れ込みでもしたなら、グレイスはどうなるだろう。きっと、凄いことになる。
だが、その日はまだまだ遠い。今は、成長してすっかり活発になった娘を追いかけているだけで、手一杯だ。
すぐにどこかへ行ってしまうし、まだ制御の出来ていない魔力で起こされる盛大な悪戯を防ぐのに忙しいのだ。
昨日も、城の廊下の壁に抉れが出来ていた。魔力制御の魔法陣を描いていても、それを凌ぐ力を放っている。
ロザリアは、ヴィクトリアの将来を考え、ぞくりとした。父の邪悪さと母の残酷さを、是非とも受け継いでもらいたい。
あれほど強烈な魔力を持っていれば、キースの所業など足元にも及ばないほどの、凄絶な殺戮を行えるはずだ。
腕の中の幼子が、素晴らしくもおぞましいこの世の地獄を造り上げる様が目に浮かび、ロザリアは微笑んだ。
すると、正面玄関の扉が軋みながら開いた。三人が振り返ると、扉の隙間からレベッカが顔を出していた。

「御主人様ー、その子の準備、終わりましたかー?」

「んー、ああ。大体はな」

グレイスが真っ赤な蒸気自動車を見やると、レベッカは正面玄関前の階段を、跳ねるように歩いて下りてきた。
紺色のメイド服のスカートを翻しながら、蒸気自動車に駆け寄る。塗られたばかりの真新しい赤に、手を触れる。
すると、唐突に蒸気が噴き出された。かなりの熱と湿気を持った白い蒸気が広がり、周囲を真っ白くさせた。
レベッカは、その反応に満足げに笑った。蒸気機関に取り付けた魔導鉱石からは、浮かれた感情が返ってくる。
早く人を乗せてみたい、外の世界を走り回りたい、との、言葉にはならないが明確な意思を持った思念だった。

「いってらっしゃいー」

レベッカの言葉に返事をするかのように、再度、赤い蒸気自動車の排気筒から勢い良く蒸気が噴き上がった。
赤い蒸気自動車の原動力となっている魔導鉱石に込められた、作られたばかりの人造魂が呼応したのだ。
今はまだ言葉を操ることは出来ないが、成長するに連れて明確な自我を得れば、彼も言葉を操れるだろう。
レベッカは、彼の言葉にすらならない様々な思念を感じていたが、主の魔力が高まるのを感じてそちらに向いた。
レベッカは身を引くと、蒸気自動車から離れた。グレイスは蒸気自動車の傍にやってくると、車体に手を付く。
革靴のつま先で地面を削り、かなり簡略化された魔法陣を描いた。その上に立つと、三人に片手を振ってみせる。

「んじゃ、フィフィリアンヌんとこ行ってくるわ」

レベッカは、主に深々と頭を下げた。バネ状に巻かれた極彩色の髪が、頭の脇で揺れる。

「御主人様ー、いってらっしゃいませー」

「しゃいませー」

と、ヴィクトリアがレベッカの言葉を繰り返した。グレイスは親指と人差し指を重ねると、ぱちん、と弾いた。
直後、風が吹き抜けた。鮮烈な赤と共に灰色の呪術師は姿を消し、魔法陣も消え失せ、車輪の跡だけが残った。
ヴィクトリアは寸前まで父親のいた場所を見つめていたが、レベッカを見下ろして、小さな手を振り回した。

「レベッカねーさま、あそんであそんで」

「今日はー、何をしましょーかー?」

レベッカがロザリアに抱かれているヴィクトリアを見上げると、ヴィクトリアはちょっと考えてから言った。

「あるぜんたむたいじ!」

「それじゃー、アルゼンタムもどきを作りますからー、ちょっと待ってて下さいねー」

レベッカはヴィクトリアに頭を下げると、小走りに走っていった。土を均しただけの、広い場所に向かっていく。
その中心辺りで立ち止まったレベッカは、両手を地面に当てた。はいっ、との掛け声と共に土が吹き出した。
水柱のように溢れながら立ち上がっていった土塊は、人間大程度の大きさになると凝結し、形を変え始めた。
頭が出来、仮面のような顔に吊り上がった目と口が作られ、骨ばかりの腕と足が次第に出来上がっていく。
そして、土のアルゼンタムが十体ほど出来上がった。ヴィクトリアは背後の母を見上げてから、身を乗り出す。

「おかーさまー、みててねー」

「はいはい」

ロザリアが頷くと、ヴィクトリアは両手を前に突き出した。

「しんじゃえ!」

途端に、土のアルゼンタムの一体が爆ぜた。何の前触れもなく内側から破裂して、土の破片が飛び散った。
破裂の衝撃で吹き飛んだ首が、くるくると回転しながら宙を舞う。ヴィクトリアの視線が、そちらに向かう。
すると、仮面の付いた頭が強烈な勢いで破裂した。今度は破片も残さずに、細かな粉塵と化してしまった。
ヴィクトリアは、きゃあきゃあと上機嫌に笑っている。この幼子の機嫌を取るには、破壊させるのが一番なのだ。
レベッカは、上手く吹き飛ばせたことを喜んでいるヴィクトリアの表情が愛らしくて、にこにこと笑っていた。
主と主の家族に喜んでもらえることは、従者として一番の幸せなことだ。これからもずっと、守るべきものだ。
灰色の城の外の世界は、乱れに乱れてしまっている。共和国と連合軍の戦争が終わるのは、まだまだ先だろう。
戦乱に紛れて、主とその妻子を付け狙ったり、灰色の城に溜め込んである財産を狙う輩が来ないとも限らない。
それらを払い除け、主の平穏を守り抜くのが傀儡の仕事だ。主のために、レベッカは命を与えられているのだ。
灰色の城の上に広がる空は、青い。この色だけは、灰色の城と同じく、何百年経とうとも変わっていなかった。
不変もまた、一つの日常の形だ。







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