手の中の戦争




ソルジャー・マインド



終わったものだと、思っていたのに。


七年前。
装甲にぶつかった弾丸が跳ね、甲高い金属音を立てる。手前に一列に並ぶ銃口から、絶え間なく火が噴く。
それらは一つとてめり込まないが、致命傷を与えることはないが、一つ当たるたびに体内が過熱を始める。
普段はギアを切り離して動かさないようにしている第二エンジンに、ギアを噛ませ、静かに作動させる。
弾丸の雨は止まない。銃声の嵐も消えない。その合間にセンサーが感じ取るのは、背後の彼女の生命反応。
今すぐにでも動いて、目の前にいる人間の武装を叩き潰してしまいたい。だが、今動いたら、彼女が死ぬ。
自分が撃たれるのは構わないが、彼女は撃たれてほしくない。自分とは違って、一発でも当たれば致命傷だ。
早く、どうにかしなくては。普段は淡く光を放っているだけのゴーグルにエネルギーを注ぎ、光度を高めた。
辺り一帯に強烈な閃光が迸り、その一瞬だけ、銃撃が途絶えた。その間に浮かび上がり、ブースターを開く。

「ソニックブーストッ!」

両足を前に突き出して、普段は加速用に使っているブースターを逆回転させ、熱を含んだ風を噴き出させた。
突然のことに戸惑ったのか、敵は動きを止めた。風は、潰れた鉛玉や熱を持った薬莢を巻き上げている。
インパルサーはブーストの勢いを使い、後退した。素早く上半身を下げて、彼女に手を伸ばして抱え込む。

「大丈夫ですか」

いつも通りに肩と膝の裏を持って抱き上げると、震えていた彼女は小さく頷いた。

「…だいじょうぶ」

その声は、恐怖で掠れていた。インパルサーはブーストを弱め、アンチグラビトンジェネレーターを作動させた。
反重力空間を発生させてボディの比重を軽減させると、地面を蹴って上昇し、ブースターを正常稼働させる。
背部の方向指示翼を展開して面積を増やしてから、背部の三つのブースターにも火を入れ、加速させ始めた。
十数メートル上昇してから、眼下を見下ろした。武装を固めた戦闘員が、二十人以上はおり、銃を持っている。
インパルサーはメモリーバンクから彼らの持つ銃の情報を呼び出し、それが自動小銃であることを確認した。
戦闘員達の後部に止まっていたトレーラーのヘッドライトが消え、代わりにコンテナからライトが現れた。
サーチライトが二人に向けて照射される直前、インパルサーは軽く身を捻って光の軌道から逃れ、加速した。
なるべく音を立てないようにエンジン出力を弱めて、だがそれなりの速度を出して、徐々に上昇していく。
自動小銃の射程範囲以上の距離になった頃、インパルサーは上昇を止めて速度も落とし、暗がりに浮遊した。
腕の中の彼女、由佳の震えは止まらない。離れてしまわないように、インパルサーの首にしがみ付いている。

「由佳さん」

「パル。あたし達、何もしてないよね?」

インパルサーに縋りながら、美空由佳は弱々しく漏らした。インパルサーは、彼女を抱き締める。

「ええ、していません。僕達はただ、この星に帰ってきただけです。また、あなたに会うために」

「そうだよね、本当に、それだけなんだよね…」

由佳はインパルサーの冷ややかな肩に、額を押し当てた。細かく震える顎を噛み締め、奥歯の鳴りを押さえる。
何もしてないのに、パルは悪いことなんて一つもしてないのに、なのに、なんで。そう思うと、涙が出てきた。
インパルサーは由佳の髪にマスクを押し当てて、怒りを殺した。疑問ばかりが溢れ出し、思考回路が乱れそうだ。
発端は、解らない。様々なことに決着を付けたので、五ヶ月前に地球に戻ってきて、また彼女との日々を始めた。
インパルサーは、銀河の彼方からやってきた純粋なる戦闘兵器だ。そして、由佳は地球生まれの日本人女性だ。
だが、二人は恋人同士だ。たとえ、体は繋げることは出来なくても、機械と生き物であっても、恋をしている。
壮絶な戦いと三年もの別離を経て、ようやく再会したばかりで、お互いに嬉しくて幸せで、満ち足りていた。
今日も、いつもの彼女との日常を過ごしていたはずだった。大学からの帰り道に、迎えに行っただけだった。
由佳は、インパルサーと共に空を飛ぶのが好きだ。同じ世界を見られるから、というのが、その理由だった。
だが日中では目立ってしまうし、何より由佳は大学があるので、そう頻繁に空を飛ぶというわけにはいかない。
なので、夜なら目立たないだろうと言うことで、彼女の夜道の安全を確保するためにも、迎えに行っていた。
昨日もそうしていた。一昨日も、その前の週も、ずっと前からそうしていて、何も変わったことはしていない。
なのに、今日に限って違っていた。由佳を抱えて飛び上がろうとした時、どこからともなく、トレーラーが現れた。
インパルサーが身構えるよりも先に出てきた戦闘員達は、統率の取れた動きで、一斉に射撃を始めた。
状況を把握するよりも前に、撃たれていた。応戦したかったが、相手が人間では、インパルサーは戦えない。
インパルサーは元来、対ロボット用戦闘兵器として開発された、マシンソルジャーと称されるロボットだ。
人を殺すために生まれたのではないし、人間は殺せないように、最初からプログラミングされているのだ。
だから、戦えなかった。それに、インパルサー自身も、由佳を守り、由佳を喜ばせるための手を汚したくない。
しかし、今度ばかりは訳が違う。インパルサーはレモンイエローのゴーグルの奧の、スコープアイを強めた。
人間の目に似た視界で見ていたが、センサーを切り替えて熱反応とエネルギー反応を捉え、敵の武装を調べる。
二人のいた路地を塞ぐように横付けしているトレーラーから離れた道路を、全く同じ規格のトレーラーが通った。
インパルサーは、何か引っ掛かるものを感じて、もう一台のトレーラーに視線を向けてスキャニングした。
パルスを放って透視を行い、コンテナに搭載されていたものをモデリングした映像を見、インパルサーは絶句した。

「あれは…」

「どうしたの、パル?」

小さく息を飲んだインパルサーに、由佳が問い掛ける。インパルサーは、すいっと身を引いた。

「いえ、なんでもありません。帰りましょう、由佳さん。但し、マリーさんの家へ」

由佳が疑問を持つ前に、インパルサーはその場から遠ざかった。地上にいる戦闘部隊から、離れていった。
藍色の夜空には無数の星々が散らばっていたが、それらを見る余裕などなく、センサーの精度を上げた。
無線も開き、兄弟からの連絡を待つ。兄や弟達にも、同じ相手からの襲撃が行われているかもしれない。
インパルサーは、三年前の壮絶な戦いを思い出さざるを得なかった。相手も状況も違うが、戦いは戦いだ。
また、あの悪夢が始まるというのか。




由佳の自宅のある裏山には、空き家があった。
近未来的なデザインのまだ新しい二階建ての住宅だったが、誰も住んではおらず、ひっそりと静まっている。
インパルサーは慎重に降下すると、玄関前に足を下ろした。抱きかかえていた由佳も下ろし、立たせた。
立てますか、と気遣うと、由佳は頷いた。だが、その膝は僅かに震えていて、インパルサーの腕を掴んでいた。
扉に手を掛けて開けると、電子音が鳴り響いた。土間に踏み込むともう一度電子音が響き、明かりが灯った。
由佳を玄関に座らせてから扉を閉め、下駄箱の上に掛けられている額縁を外し、その下の壁を軽く叩いた。
白い壁に四角い切れ目が生まれると、独りでに滑り、開いた。その下には、小さなモニターとパネルがある。
モニターの淡い光が、インパルサーのマスクフェイスを照らす。インパルサーは、右手の人差し指を立てる。
青く太い人差し指の先が割れ、銀色の細長い端子が伸びた。それを、パネルにあるジャックに深く差し込んだ。

「シャドウイレイザーほどは、上手く出来ませんけどね」

端子から様々な情報を注ぎ込み、この家に仕掛けられたセキュリティや防御システムを、解除していった。
凍り付いていた管理プログラムも呼び起こし、動きを止めていた自家発電システムも、目覚めさせていった。
この家の地下にあるメンテナンスドッグを動かせる程度までシステムを復旧させてから、指先の端子を抜いた。
指を元に戻してから、由佳に向いた。明かりが消えてまた暗くなった玄関に、由佳は座り込み、項垂れていた。

「なんで、かな」

「シャドウイレイザーから、連絡がありました」

インパルサーは由佳の前に膝を付いて視線を合わせると、彼女の肩を支えた。

「敵の目的は解りませんが、正体は判明しています。僕や他の皆さんを襲撃したトレーラーの所属は、シュヴァルツ工業だそうです。国土交通省のデータベースにアクセスして、ナンバープレートと移動ルートを照らし合わせてルートを辿ったところ、全て、シュヴァルツ工業の工場から発進していたのだそうです」

「そっか」

由佳はインパルサーの首に腕を回し、きつく抱き締めた。

「パル。痛いところ、ない?」

「平気ですよ。僕は頑丈に出来ていますから」

インパルサーは由佳を抱き締め返すと、その髪を撫で付けた。外側に跳ねるクセのある、柔らかな髪だ。
首にしがみ付いている由佳の腕には、強く力が入っていた。顔には出さないようにしているが、怖いのだ。
当然だ。超強化特殊合金製の装甲を持つロボットのインパルサーとは違って、由佳はごく普通の人間だ。
銃撃を受ければ、ひとたまりもない。目の前に盾があったとはいえ、流れ弾が来ないとも限らないのだ。
なぜ、気付けなかったのだろう。もっと早くに敵の接近を察知していれば、彼女を怯えさせずに済んだのに。
インパルサーは由佳の体温を感じながら、胸の内の感情回路が怒りで熱していくのを、強く感じていた。
銀河の中心を挟んだ反対にある母星と呼ぶべき惑星、ユニオンから地球に戻ってきて、正直気が抜けていた。
ユニオンでは、銀河連邦政府や特殊機関などとの銃を使わない争いに明け暮れ、ロボットでも精神が摩耗した。
辛うじてその戦いに勝利して、五体の兄弟が揃って自由を手に入れて地球に戻ってきたが、皆が浮かれていた。
地球の暦で三年も離れ離れになっていた、掛け替えのない相手の平和な日々を再会出来ると信じていたからだ。
地球には、インパルサーらに敵う兵器は存在しない。戦いを仕掛けるような相手も、いないのだと思っていた。
いや、勝手に思い込んでいた。インパルサーは自分自身の驕りに腹が立ってきて、更に怒りが高ぶってきた。

「いけないのは、僕達です」

怯えで縮められた由佳の肩を、柔らかく握る。だが、もう一方の手は関節が軋むほど握り締めていた。

「もっと早くに、あの人達の接近を感知していれば、由佳さんをあんな目に遭わせなくて済んだのに」

「あたしは、本当に大丈夫だから」

由佳は、インパルサーの声の強張りで、彼が激しく怒っていることを察した。

「だから、パル。そんなに怒らないで」

「これが、怒らないでいられますか!」

インパルサーは由佳を押し戻し、憤りのままに叫んだ。

「僕はともかくとして、由佳さんが何をしたんですか! 撃つなら僕だけを撃てばいいのに、わざわざ由佳さんが後方に入る方向から攻めてきて由佳さんの退路を塞ぎ、その上で撃ってきたんですよ!?」

「パル!」

インパルサーの怒声を、由佳が制した。悲しげながらも厳しい由佳の眼差しに、インパルサーははっとした。

「…すみません」

冷却装置をフル稼働させて、コアブロックの内部も急いで冷却する。熱と怒りの滾った感情回路を、冷ました。
そうすると、多少だが怒りが落ち着いてくれた。インパルサーを宥めるように、由佳の手が青いマスクに触れる。

「きっと、なんとかなるよ。だから、ね?」

「はい…」

インパルサーが小さく頷くと、由佳は微笑み、背を伸ばした。躊躇いもなく顔を近寄せると、マスクに口付けた。
その唇が離れてから、インパルサーはマスクを開いてゴーグルを収納させ、隠していた素顔を露わにさせた。
今度は、インパルサーが顔を寄せた。由佳の細い顎を持ち上げて唇を開かせると、出来るだけ優しく重ねた。
コアブロックを含めた内部機関の過熱によって、金属の唇は普段よりも温かく、人間のそれに似た温度だった。
由佳はインパルサーの顔を手で挟むと、口付けを深めた。重ね合わせて触れ合った部分が、とても温かい。
銃撃された恐怖と見知らぬ敵に対する恐れが、次第に解けていく。互いに、相手が無事だという実感が沸く。
どちらからともなく離れると、由佳は安堵感から深く息を吐き出した。インパルサーの硬い胸に、額を当てる。

「楽しみにしてたんだけどなぁ、パルのチーズケーキ」

「そうですね。僕も、由佳さんに食べて頂けるのを楽しみにしていたのですが」

由佳の肩に手を添え、インパルサーは顔を伏せた。由佳は目を閉じ、間近から感じるエンジン音を聞いた。

「今日は、お預けだね。明日には、家に帰れるといいなぁ…」

「大丈夫ですよ、すぐに帰れますよ」

インパルサーは、自分自身に言い聞かせるように呟いた。明日になれば、きっと、全て元通りになっている。
そうなるはずがないのに、そんなことが有り得るはずがないと言うことを理解しているのに、そう願った。
インパルサーが由佳の隣に腰掛けると、由佳は身をずらしてインパルサーの腕の間に入り、寄り掛かった。
怖いくらいに静まっている空き家には、二人の気配しかしない。この家には、三年もの間、主はいないのだ。
この家は、インパルサーらの人格のモデルとなった、事実上の母親であるマリー・ゴールド大佐の所有物だ。
インパルサーらが銀河連邦政府軍に悪用されないために地球に赴き、戦い、今は最愛の人と共に眠っている。
マリーが地球に残したものは、何も家だけではない。家の地下には、アドバンサーのメンテナンスドックがある。
アドバンサーとは、惑星ユニオンやその周囲の星系で汎用されている、七メートル大の人型戦闘兵器のことだ。
そんな巨大なものを整備点検するためには、それなりの空間が必要なので、地下はドックとして改造してある。
全自動型なので宇宙船のものと遜色のないコンピューターシステムで管理されており、防壁もかなり頑丈だ。
地球上のあらゆるセンサーに感知されないように出来ているので、姿を隠すにはもってこいの場所だった。
今すぐ、そのメンテナンスドックの中に入っても良いのだが、インパルサーは兄弟達の到着を待っていた。
索敵能力と情報処理能力に優れている四番目の弟、パープルシャドウイレイザーからの情報も待っている。
あの戦闘部隊を手引きした企業、シュヴァルツ工業のことは、インパルサーはあまり良く知っていなかった。
だが、戦闘を仕掛けられたとなれば、情報を知らないわけには行くまい。戦いでは、情報が何より物を言う。
イレイザーは、その能力故にそれを誰よりも知っている戦士だ。今頃、様々な情報を掻き集めているはずだ。

「パル」

「なんでしょう」

インパルサーが由佳を見下ろすと、由佳はインパルサーの上腕に手を添えた。

「なんでもない」

由佳は、居たたまれない気分だった。なぜ、インパルサーが再び戦わなければならないのか、解らなかった。
三年前の壮絶な戦いで、彼は自分の部下であったマシンソルジャーに手を掛けなければならず、苦しんでいた。
一番傍にいたから、そのことは誰よりも知っている。また、あんな苦しい目に遭うのかと思うと、腹立たしい。
確かに、インパルサーや彼の兄弟は戦闘兵器だ。地球の科学力を超越した、オーバーテクノロジーの産物だ。
だが、彼らには心がある。人間と同様の感情を持ち合わせていて、たまに人間よりも人間臭いと思えるほどだ。
きっと、あのシュヴァルツ工業はそれを解っていないのだろう。だから、インパルサーをいきなり撃ったのだ。
由佳は、強い焦燥を感じた。今回も、前と同じだろう。彼を守りたいが、気持ちだけではどうにもならない。
悔しくて悔しくて、涙が出てきそうだった。インパルサーを傷付けられた怒りも、一緒に込み上がってくる。
だが、怒ってはいけない。冷静さを失って感情のままに行動してしまったら、状況は悪化してしまうだろう。
今は、インパルサーの兄弟達の到着を待つべきだ。そして彼らと話し合い、これからの行く末を決めるのだ。
不意に、玄関の前に着地音がした。由佳が立ち上がると同時に扉が開かれ、細い隙間から外の様子が見えた。
扉の隙間からは、横一線の赤い光が覗いた。それは、パープルシャドウイレイザーのゴーグルの色だった。
インパルサーよりも大分細身のボディを持つマシンソルジャー、イレイザーは、その腕に少女を抱えていた。
長い黒髪をツインテールに結んだ、中学校のセーラー服姿の少女はきつく目を閉じていて、身動きしなかった。

「もう大丈夫でござる、さゆりどの」

イレイザーが穏やかに囁くと、彼の腕の中にいた少女、神田さゆりはそっと目を開けた。

「本当に?」

「ここには敵などおらぬ。青の兄者と由佳どのがおられる」

イレイザーはさゆりを立たせると、扉を開ききって中に入ってきた。彼の表情は、険しかった。

「青の兄者。状況は、いいとは言えぬのでござる」

「でしょうね」

インパルサーが立ち上がると、イレイザーは扉を閉めてから、側頭部のアンテナを押さえた。

「拙者の方は、高出力電磁波を用いて敵のコンピューター機器を故障させたので、しばらくは大丈夫でござろう。各所のアンテナを利用したジャミングも施して、この星のセンサーでは拙者や兄者方の位置を捉えることは出来ぬようにしておいたのでござる。青の兄者の方は、どうでござる」

「由佳さんをお守りするだけで、精一杯でした。さすがですね、シャドウイレイザー」

インパルサーが苦々しげにすると、イレイザーは端正な口元を歪めた。

「拙者とて、これで満足しておるわけではござらん。こんな目眩ましなど、いつか見破られてしまうのでござる」

「さゆりちゃん。あなたも、襲われたの?」

由佳が慎重に尋ねると、さゆりはイレイザーの足に縋り、頷いた。

「学校から帰る途中で、いきなり。いっちゃんがいなきゃ、きっと、攫われちゃってたと思う」

イレイザーは膝を付いて身を屈め、さゆりを引き寄せる。

「拙者達の殲滅が目的ならば、拙者達だけを狙えばいいでござる。それを、さゆりどのに向けるとは!」

「フレイムリボルバーとフォトンディフェンサーが心配です。二人のエモーショナルリミッターが、まだ保っているといいんですけど」

僕まで切れかかりましたから、とインパルサーが付け加えると、イレイザーは自嘲する。

「拙者もでござる。リミッターレベルを、引き上げておかなければならぬようでござるな」

無線に、他の兄弟からの連絡が次々に入った。インパルサーが顔を上げるより先に、イレイザーが外を窺う。

「赤の兄者、黄の兄者、ヘビークラッシャー、共に五分以内に到着するでござる。無論、コマンダーも一緒でござる」

「怖い…」

さゆりがか細く呟くと、イレイザーはさゆりを腕の中に収め、小さな肩に顔を埋めた。

「拙者もでござる」

インパルサーは、弟の肩装甲に付いた弾痕を見た。塗装を軽く削っただけだが、銃撃の威力は強そうだ。
自動小銃か、或いはそれ以上の威力の銃なのか。何にせよ、シュヴァルツ工業と戦う必要がありそうだ。
だが。と、インパルサーは躊躇いを感じた。シュヴァルツ工業のトレーラー内にあったものが、気掛かりだ。
トレーラーのコンテナ部分を透過して内部をスキャニングしただけなので、そうだと確定したわけではない。
しかし、あのフォルムやエネルギーパルスは間違いなく、三年前の戦闘で大破させた部下のマシンソルジャーだ。
腕や足が本来のものとは違っていたが、それでもマシンソルジャーだ。なぜ、どうして、と更に疑問が募る。
インパルサーは大きな手を顔に押し当て、マスクを鷲掴みした。兵器として生まれたことが、憎らしくなる。
そして、悲しくなる。







06 9/17