アステロイド家族




トゥルー・ワールド



 長い、長い、夢から覚めたような気分だった。
 背中に感じる雪は冷たく、体温で溶けている。後頭部の髪は水分を吸って、べったりと頭皮に貼り付いている。
雪の中に投げ出していた両手足も、いずれも末端まで冷え切っていた。体の芯まで、冬の寒さが染み入っていた。
頭上に広がる人工の空は、憎たらしいほど清々しい。寒さは厳しくとも日差しが強いため、頬は少し火照っていた。
手を挙げて、自分の体を確かめる。体を起こすと強張っていた背骨が軋みを立て、背筋に水滴が肌を滑り落ちた。
その感触に身震いしてから、マサヨシは白い吐息を零した。濡れた髪を掻きむしり、目を動かし、状況を確認した。
目元に感じた違和感に気付き、拭ってみると、指先には雪の雫よりも熱い水滴が貼り付いた。涙の名残だった。
同じように雪の中に仰向けに倒れていたイグニスも、鈍い呻きを漏らしながら体を起こすと、周囲を見回している。

「…なあ、マサヨシ」

 イグニスは自身の内蔵コンピューターで時間経過を確かめてから、マサヨシに向いた。

「俺達がコロニーに帰ってきた時から、楽々二日は経過しちまってるぜ」

「それが、異次元間の時間のずれってやつか」

「ああ、やっぱりお前もあの記憶があるのか。じゃ、やっぱりあれは現実の出来事だったってことか」

 イグニスは勢いを付けて立ち上がると、じゃきりと右肩のリボルバーを回転させ、動きを確かめた。

「てぇことは、俺がお前を撃墜したってのも、やっぱり現実なんだよな」

「そのようだな」

 マサヨシは両手を握っては開きを繰り返し、冷え切った指先に血液を循環させた。

「でも、俺達がこうして元の場所に戻ってきたってことは、それまでの次元がこの次元で上書きされたってことで」

 イグニスは半信半疑ながらも、四姉妹の言葉を思い出した。

「だから、俺達の記憶にあるそれぞれの次元の出来事は、確かな現実であるが過去に成り下がったというわけだ」

 マサヨシはパイロットスーツの上半身を脱ぐと、袖を腰で縛り、アンダースーツの襟元も緩めた。

「納得出来たようで出来ねぇな」

 話がいちいちでかいんだよ、とイグニスがぼやいたので、マサヨシは少し笑った。

「俺も、全部理解出来たわけじゃないさ。ただ、一つだけはっきりしていることは、俺が愛したサチコは最初から一人だったってことだ。サチコにはもう二度と会えないだろうが、もう一度会えただけで充分だ。会いたいって思っていたのは、俺だけじゃなかったんだ」

「早速惚気やがって」

 イグニスは相棒を見下ろし、苦み混じりの笑みを零した。

「だが、これで全部すっきりしたのも確かだ。俺達がどうしてマサヨシに出会わなきゃならなかったのか、どうしてマサヨシじゃなきゃいけなかったのか、どうにも解らなかったが、ようやく腑に落ちたぜ」

「そうだな。だが、最初にやることは一つだ」

「ああ。家に帰るしかねぇな」

 イグニスは頷き、歩き出したが足を止めた。ウェールの眠っていたポッドは消えたが、彼女は消えていなかった。
大型機動歩兵が前のめりの体勢で放置され、傍らには、マサヨシが横たえた状態のままのレイラが眠っていた。
二人が目覚めたからか、レイラも目を開いた。ぼんやりとした顔で辺りを見回していたが、二人を視界に捉えた。

「あ…」

 マサヨシがどう声を掛けるべきか迷っていると、レイラはだらりと肩を落とし、項垂れた。

「ああ…良かった…。私、まだ、誰も死なせてなかったんだ…」

 見開いたままの目からぼろぼろと涙を落としたレイラは、慟哭し、自身の両腕を強く握り締めた。

「ごめんなさい、中佐! ごめんなさい、本当に! 私が強かったら、こんなことにはならなかったのに!」

「レイラ」

 マサヨシが彼女の前に膝を付くと、レイラは絶叫した。

「私は、絶対に許されないことをしました! 許しは乞いません、どうか、中佐の手で私を裁いて下さい!」

「もう、いいんだ」

「いいえ、よくありません! 中佐が裁かれないのなら、私が私を裁きます!」

 ホルスターから熱線銃を抜こうとしたレイラの腕を掴み、マサヨシは彼女と目を合わせた。

「君は犠牲者なんだ、レイラ。君に非はない。何もかも、起こるべくして起きたことなんだ」

「ですが、中佐!」

 マサヨシの手を振り解こうと身を捩ったが、その力には勝てず、レイラは崩れ落ちた。

「ですが…」

「とりあえず、一緒に家に帰ろう」

 マサヨシはレイラの肩を支え、立ち上がった。レイラは膝を笑わせながら立ち、弱く頷いた。

「…はい」

「ちったぁ損害は受けたが、俺達は誰一人として死んでねぇし、お前も誰も殺しちゃいねぇ。それでいいじゃねぇか、ベルナール少尉」

 イグニスが声を掛けると、レイラは寒さと苦悩で血の気の引いた顔を上げた。

「一体、何が起きたの? なぜ、私を憎まないの?」

「一から説明するのはかなり面倒だが、簡単に言っちまえば、俺達はそういうのに飽き飽きしちまったんだよ」

「何ですか、それ」

 イグニスの抽象的な表現に、レイラは泣き濡れていた顔を少しだけ崩した。

「まあ、そういうことだ」

 マサヨシは娘にするようにレイラの頭を軽く叩くと、彼女の腕を引いて歩き出したが、途中で腕を振り解かれた。
まだ膝は笑っていたが、足取りは確かだった。レイラの行動を全て許せるわけではないが、責める必要はない。
レイラも、充分苦しんだ。恐らく、ステラの命令で赴き、あのコールドスリープ・ポッドを破壊しようとしたのだろう。
どうして知られたのかは解らないが、マサヨシが留守にしている隙を狙い、大型機動歩兵を操って襲撃したのだ。
軍人であるが故に、逆らえなかったのだろう。上下関係が絶対的な世界では、上に逆らうこと自体が重罪となる。
だから、今、レイラを責めるのは酷だ。己を責め、行動を悔いるあまり、一度も見せたことのない涙を見せている。
そして、何度となくサチコに謝っている。それがマサヨシの胸を鋭く刺し、サチコとの思い出が宿る心中を抉った。
 家に、帰ろう。




 自宅の前には、皆が待っていた。
 腹部を溶解されたトニルトス、下半身を破壊されたヤブキ、豊かな長い髪を熱線に焼き切られてしまったミイム。
だが、案外元気そうだった。ミイムはボブカット並みに短くなった髪を気にしていたが、変わらない笑顔を向けた。
ミイムの膝の上に頭を預けているヤブキは、関節が外れて落ちた腕を上げ、マサヨシとイグニスに振って見せた。
家の傍に座っているトニルトスは溶かされてしまった装甲を手で隠しつつ、少々照れ臭そうな仕草で振り向いた。
彼らが無事な姿を見た途端、レイラは泣き崩れた。マサヨシは彼女の背をさすってやりつつ、家族に向き直った。

「今、帰った」

「お帰りなさいですぅ、パパさん」

 ミイムはヤブキを横たえてから、さくさくと雪を踏んで歩み寄ってくると、レイラにハンカチを差し出した。

「これ、どうぞ」

「でも、私は…」

 レイラが震える顎を噛み締めると、ミイムはレイラの頬を拭ってやった。

「ボク達とレイラさんはぁ、これから仲良くなればいいんですぅ。ボク達は今までもそうやってきたんですからぁ、これからもそうすればいいだけなんですぅ」

 ミイムは焼き切れた髪を指先でいじり、笑った。

「ボクってば可愛いからぁ、ショートカットだって似合っちゃうんですぅ」

「近接戦闘の訓練は今後の課題とする」

 トニルトスが言うと、上半身だけのヤブキも情報端末を用いて言った。

「そうっすよそうっすよ、レイラ姉さん。屋根だって、オイラの下半身だって、修理すればいいことなんすから」

「ありがとう、ごめんなさい…」

 レイラは肩を震わせ、ミイムの差し出したハンカチを握り締めた。

「だから、これでもうこの件は不問だ。いいな、レイラ」

 マサヨシが言うと、レイラはくぐもった声で答えた。

「…了解」

 皆、知っているからだ。道を誤り、罪を犯した者を正しき道に戻すためには、許し、受け入れることが必要だと。
それぞれの次元で、それぞれが経た激動の人生の中で、知ったことだ。記憶が消えても、心には刻まれている。
事実、マサヨシも第四次元での記憶は薄らいでいた。朧気に覚えているが、明確なビジョンを思い出せなかった。
体に感覚は残っているが、いずれ時間が経てば消えてしまうだろう。だが、それは消えてしまうべき記憶なのだ。
次元が上書きされ、修正された歴史では起こりえない出来事の記憶など、持っていたところで脳の無駄遣いだ。

「んで、うちのお姫様方は」

 イグニスが自宅に向くと、リビングの掃き出し窓の中に、人影が四つ並んでいた。それは、あの四姉妹だった。
マサヨシよりも若干明るい茶髪に青い瞳を持つ長女、ウェール。赤毛気味の茶髪に青い瞳の次女、アエスタス。
次女よりも赤みが暗い髪に青い瞳の三女、アウトゥムヌス。色素が薄く金に近い茶髪と青い瞳の四女、ヒエムス。
皆、揃って体格が縮んでいた。サイズの合わない服を強引に着ているので、襟元から肩が出てしまいそうだった。
見たところ、十歳ぐらいだ。マサヨシがリビングに向くと、ウェールはミイムのものであるブラウスの襟元を直した。

「まともに着られる服が、一つもなくって」

「ウェールお姉様が持っていた服はどれもこれも小さすぎるし、だが、他の方々の服は凄く大きいし…」

 成人していた時のアウトゥムヌスの服であるワンピースの袖をまくり上げ、アエスタスはぼやいた。

「道理」

 アウトゥムヌスはヤブキのものであるかなり大きなパーカーを着ていたが、袖を引き摺っていた。

「あんまりじろじろ見ないで下さいます? この下には何も着ておりませんのよ」

 ヒエムスはマサヨシのものであるシャツを着ていたが、大分余った袖から出した指先で裾を押さえた。

「…ん?」

 泣き止んだレイラは四人の少女を眺めたが、怪訝そうな顔でマサヨシを見上げてきた。

「なんか、増えてません?」

「まあ、色々とな」

 マサヨシははぐらかしてから、四人の娘達に向いた。四人ともマサヨシの視線に戸惑い、それぞれに反応した。
ウェールは泣きそうになり、アエスタスは赤面し、アウトゥムヌスは両手を振り上げ、ヒエムスは安堵で弛緩した。
マサヨシが掃き出し窓の前にやってくると、四人は揃って視線を上げた。どの瞳も、サチコと全く同じ色をしていた。

「まず、最初に聞いて良いか?」

 マサヨシは身を屈め、四人と目線を合わせた。

「どうして縮んだ?」

「時系列調整の都合」

 アウトゥムヌスが、以前よりも大分幼いが全く変わらない口調で述べた。

「私達の肉体を構成する分子は、全てダイアナ・ヤブキのクローン体から採取されている。ダイアナはジョニー君のために作られたが、粗製濫造のため、九割の個体が機能不全で目覚めることが出来ない。お母様が私達に与えて下さったこの肉体は、目覚めなかったダイアナの分子を再構成したもの。けれど、遺伝情報や生体情報はダイアナではない。あなたとお母様の遺伝子を継ぐ、直系の子孫」

「この次元でお母様がお亡くなりになったのは十年前の出来事ですから、私達四人はその少し前に生まれたことになったんですの。だから、私達は全員十歳なのですわ。そうしないと、色々と辻褄も合わなくなりますでしょう?」

 ヒエムスはお嬢様ぶった言葉遣いで話したが、声が幼いので上品さは感じられなかった。

「程なくして、お母様のお力で我らに関わった者達の記憶もそのように修正され、情報も修正されるはずです」

 アエスタスは軍人のように背筋を伸ばしたが、襟元が広すぎるワンピースがずり落ち、肩が出てしまった。

「そういうことか」

 マサヨシは納得し、頷いてから、ヤブキに振り返った。

「良かったな、ヤブキ。ダイアナの命は、一つも無駄になっちゃいないんだ」

「そっか…。これで、ダイアナは…」

 ヤブキは、込み上がる嗚咽に声を震わせた。

「ねえ」

 ウェールから声を掛けられ、マサヨシは長女に視線を戻した。

「なんだ、ウェール」

「えっと、ね」

 ウェールはもじもじと余った袖をいじっていたが、ほんのりと頬を赤らめながら、マサヨシを見上げた。

「また、パパって呼んでもいい?」

「当たり前じゃないか。もちろん、お前達もだ」

 マサヨシが三人の妹達に笑みを向けると、アエスタスはしばらく言葉を選んでから、控えめに呼んだ。

「父上」

「お父さん」

 アウトゥムヌスは、マサヨシをじっと見つめてきた。

「お父様」

 ヒエムスは両手を頬に添え、気恥ずかしげに身を捩った。

「統一性が欠片もないが、まあ、いいか」

 マサヨシは嬉しさのあまりに弛緩しながら、四人の娘達を順番に撫でた。四人とも、愛おしくてたまらなかった。
皆が皆、どこかしらにマサヨシとサチコの遺伝子が現れている。それを感じるだけで、幸福感が溢れ出してくる。
娘が一度に四人に増えたのは大変だが、宇宙で最も愛する妻の忘れ形見なのだから、そんな苦労は訳もない。
むしろ、今後がどうしようもなく楽しみだ。ウェールの仮の姿であるハルとの日々が終わったのは、寂しかったが。
だが、これからは、それに勝る幸せが待ち構えている。娘が成長する楽しみが、一気に四倍になったのだから。

「じゃ、まずは買い物に行かねぇとな。そのままじゃ四人とも可哀想じゃねぇか」

 イグニスの提案に、ミイムが大きく頷いた。

「ボクも髪を綺麗にしたいですぅ。パパさんの腕じゃ、可愛いボクのとおっても繊細でふわふわな髪をまともにカット出来る保証はゼロですぅ」

「オイラは下半身がないとどうしようもないっすー。それに、生命維持機能もなんかヤバ気っすー」

 ヤブキが肘から先のない腕を振り回すと、トニルトスは腹部の傷を押さえた。

「破損箇所を修理せねば」

「どう見ても私は邪魔者なので、とっとと引き上げますよ。でもって、ステラに辞表でも叩き付けてきますよ」

 レイラは涙を拭って立ち上がると、では、とマサヨシに敬礼して、先程までの憔悴ぶりが嘘のように駆け出した。
森へ向かう彼女を見送ってから、マサヨシは四人の娘を含めた家族を見渡した。やるべきことが、残されている。

「その前に、暴露大会と行こうじゃないか。俺達が、本当の家族になるために」

「ま、今更言うのも変な感じがするが、区切りを付けなきゃならねぇもんな」

 イグニスは背筋を正し、拳で胸を叩いた。

「俺は惑星フラーテルからやってきたルブルミオンの尖兵、イグニス。ルブルミオンの繁栄と惑星フラーテルの支配のために戦っていたが、惑星フラーテルは滅亡し、俺は太陽系に落ち延びてマサヨシと出会った。惑星フラーテルでの戦争の原因であり、俺達機械生命体に命を与える存在であるアウルム・マーテルを地球で倒したことで、俺とトニルトスは戦闘本能から解放された」

「我が名はトニルトス、誇り高きカエルレウミオンの将校だ」

 トニルトスは腕を組み、気位の高さを見せつけた。

「惑星フラーテルが滅びた後、私は戦いと死に場所を求めて宇宙を彷徨った末に太陽系に至り、イグニスと接触し、交戦した。だが、私もイグニスも互いを殺すことは出来ず、アウルム・マーテルとの壮絶なる戦いを経て馴れ合うに至った。貴様らのような炭素生物に対する理解は未だに浅いが、それは時間が解決してくれるだろう。だが、母星と共にカエルレウミオンが滅びても、我が誇りが潰えることは有り得ない」

「ボクの本当の名前は、レギーナ・ウーヌム・ウィル・コルリス」

 ミイムはドレスの裾を持ち上げるかのような仕草で、礼をした。

「惑星プラトゥムのコルリス帝国第一皇太子で、皇位継承者だった。だが、ボクは皇帝に相応しい器ではなく、全てを投げ打って逃げ出した。そのためにボクの側近であり弟であるルルススは、母上を手に掛け、現皇帝である妹のフォルテを裏切り、太陽系へと導かれ、そしてあなた達に出会った。ルルススの命を犠牲にし、フォルテに国の未来を背負わせたことは今でも後悔しているけど、あなた達を選んだ僕の判断は正しかったんだ。権力と暴力に狂った皇帝にならずに済んだからだ。そして、ボクの右腕はルルススのものなんだ。ミイムという人格は、レギーナだけで出来ているわけじゃない。ボクの記憶にはルルススの記憶と経験が焼き付いているおかげで、ボクはママとして皆をお世話出来るんだ」

「オイラはジョニー・ヤブキ、時代錯誤の旧人類っす」

 ヤブキは精一杯体を起こし、ヒビの入ったゴーグルを瞬かせた。

「両親だと思っていたのはオイラを造った科学者で、妹だと思っていたのはオイラのためだけに造られたクローン体で、この時代にオイラが生きられる場所は最初からどこにもなかったんす。ダイアナを助けようとしても助けられなくて、軍人になろうとしてもなれなくて、強くなろうとしてもちっとも強くなれなかったんす。だけど、オイラは強くなっちゃいけなかったんすね。なまじ強くなっちゃうと、安易な手段に走っちゃうっすから。でも、もう大丈夫っすよ。オイラは強くなくたって、生きられる場所があるって知ったんすから」

「俺はマサヨシ・ムラタ、統一政府宇宙軍では中佐だったが今はしがない傭兵だ」

 マサヨシは家族を見渡し、言った。

「十年前、俺は次元の歪みに妻とその胎内の娘を殺された。それから俺は、サチコとハルを助けられなかった自分を責めながら生き長らえ、八つ当たりのように宇宙海賊を撃墜する日々だった。そんな時、出会ったのがイグニスだった。破壊衝動と戦闘衝動の固まりだったイグニスは、サチコとハルのいない世界を生きることに疲れていた俺にひりつくような危険の快楽を与え、少々方向の違う生存本能を呼び起こしてくれた。まあ、言ってしまえばイグニスの戦いが荒っぽすぎて、死ぬ目を見ただけなんだがな」

 マサヨシはばつが悪そうな相棒に目をやってから、続けた。

「イグニスという異種族の友人を得た俺は、少しは覇気を取り戻した。そして、ナビゲートコンピューターのサチコも含めた三人で戦い続けていたが、ある日、俺達はこのコロニーに不時着した。そこで俺は、ハルと出会った。俺はハルに死んだ娘を重ねることで、心の隙間を埋めていた。そして、俺はミイム、ヤブキ、トニルトスを受け入れたが、その時に嘘を吐いた。仮初めの関係を保つために、それぞれが抱える事情を隠したんだ。俺一人が黙っていれば解らないと思ってな。皆もそれを望んでいたし、俺もそれでいいと思った。だが、そんなものは本当の家族ではないとも思っていた。しかし、皆を大事に思えば思うほど、嘘は増えていくばかりだった。だが、俺には真実を言う勇気はなく、現状維持に甘んじていたところにレイラが襲撃し、ハルがウェールに戻り、そして俺達は真実に至った」

 マサヨシは、一際強く声を張った。

「俺はどうしようもなく弱く、情けない人間だ。それでもお前達は、俺と生きることを選んでくれるか?」

「だったら尚更、一緒にいなきゃダメじゃねぇか。俺とお前は相棒なんだからよ」

「弱者を守ることこそ、カエルレウミオンの神髄だ。それがサピュルス司令官の御遺志なのだ」

「このおうちや皆のお世話をするのはぁ、ボク以外に出来るわけがないじゃないですかぁ。ふみゅうん」

「ていうか、マサ兄貴だけじゃウェール達を育てられるわけがないじゃないっすか。料理も作れないんすから」

 四人の言葉に、マサヨシは破顔した。

「お前達が家族で、本当に良かったよ」

 偶然だと思っていた出会いは、全てが必然だった。嘘は真実に塗り潰され、仮初めの繋がりは絆に変わった。
それは、これからも続いていくのだろう。最愛の妻の遺伝子を持つ四人の娘達を加えて、新たな日常が始まる。
それぞれの次元で起きた悲劇は、この次元の幸福に塗り替えられ、在るべき者達と在るべき時間を連ねていく。
 そのために、まず最初にすることは買い出しだった。四人の娘達のために、新しい服を買ってやらなければ。
マサヨシはレイラの操る大型機動歩兵を先に射出してから、娘達とミイムとヤブキを乗せ、HAL号を発進させた。
手近な宇宙ステーションに向かう間、HAL号のコクピットはいつになく騒がしくなり、娘達は落ち着きがなかった。
体が縮むと精神年齢も幼くなるらしく、ハルの頃から甘えん坊だったウェールはマサヨシの傍から離れなかった。
アエスタスはスペースファイターを操縦する様を見つめ、アウトゥムヌスは夫であるヤブキに終始貼り付いていた。
ヒエムスはミイムに髪をいじってもらい、嬉しそうにしていた。今回の買い物で、相当な金が飛んでしまうだろう。
だが、それもまた仕方ないことだった。子育てにはただでさえ金が掛かるのに、四人に増えてしまったのだから。
 ならば、その分稼ぐ他はない。







08 11/13