スクラップと化したフェラーリ・458のボンネットに、一乗寺は腰掛けた。 鼻から下を覆っている迷彩柄のバンダナを外すと息苦しさが解消されて、清々しくなった。講堂を見渡してみると、 株主達は一人残らず逃げ出してしまったので人影はなく、壊れた座席の破片や投げ捨てられた資料が散らばって いた。正面出入り口から寺坂の愛車が叩き込まれたので、雪崩でも起こしたかのように座席が薙ぎ払われている。 これも政府の金で保証しなきゃならないのかなぁ、と思いつつ、一乗寺はステージに上がった少女を見やった。 「で、これからどうするの、りんねちゃん?」 「馴れ馴れしく話し掛けないで頂けますか」 司会役の社員と重役達も早々に逃げ出したために椅子ばかりが散らばるステージに立ったりんねは、一乗寺の 拳銃によって乱された制服を整えてから、ステージの隅で黙々と作業をしている矮躯の男を見やった。 「信和さん、手筈はよろしいですか」 「ぬ」 肉の厚い背を丸めているので球体に近い形状と化した高守は、短い首を前後させて頷いた。 「ああ、配電盤ね。で、何をどうする気なの? 俺に教えてよぉ」 ステージによじ登った一乗寺は、拳銃をぶらぶらさせながら近付いていく。だが、りんねは無反応だった。高守も 同様で、講堂内の配電盤に小型の端末を接続させてハッキングを行っているようだが、一乗寺には目もくれようとも しなかった。その感心のなさに少し苛立ったが、互いの立場を考えればそれが当たり前なのだ。 「道子さんがつばめさんの元に下ってしまわれるのは非常に惜しいことですが、仕方ないのです。肉を切らねば骨を 断つことは出来ないからです」 りんねは蹴り倒された椅子を起こし、悠長に腰掛けた。 「なるほどね。てぇことはあれだね、分校の玄関先にローファーを置いたのはりんねちゃんでしょ?」 一乗寺は隣の椅子を起こして座り、りんねを覗き込む。りんねは顔を背ける。 「御明察です。あれは道子さんの御家族から頂いた、道子さんの生前の品です」 「で、つばめちゃんの心に疑念を作ってから桑原れんげのイメージを与えて決定的な概念を作り出したわけだけど、 俺まで一枚噛ませられちゃったのは不思議なんだよねぇ? どうして? ねえどうして?」 「つばめさんは心の底から捻くれているように見えますが、一皮剥けば実直な御方なので、目上の意見は真っ当に 受け止められるのです。ですから、一乗寺さんが桑原れんげの存在を肯定して頂ければ桑原れんげは管理者権限 の持ち主であるつばめさんの概念を得て、確固たる形を得るのだと確信していたのです。そのために、一乗寺さん には早々にアマラによるインサーションソートを与えたのです」 「ふーん。でも、りんねちゃんは桑原れんげを手に入れたいわけじゃないんだよね? だって、手に入れるつもりで いたら、みっちゃんを殺させたりはしないはずだもん。みっちゃんを殺してアマラと桑原れんげから解放したのって、 つばめちゃん側に送り込むためなんでしょ? そうでしょ?」 「ええ。私の持つ管理者権限は使用者権限にも劣るものであると共に、立場上、ハルノネットに対して表立った攻勢 には出られませんので、つばめさんにその役割を担ってもらった次第なのです。もっとも、ここまで上手く事が運ぶとは 思ってもいませんでしたが」 「つばめちゃんはともかく、よっちゃんを怒らせたからねぇ。あれで結構怖いんだよぅ」 一乗寺はにやけるが、りんねは無惨な講堂を見渡しているだけだった。 「いかに桑原れんげが優れた疑似人格であり、人間の概念の集積体であろうとも、それを構成しているエネルギー 源はただ一つです。それさえ遮断してしまえば、桑原れんげは活動不能に陥ります」 「そう上手くいくもんかなー? 地下室の防火扉を塞いで封鎖した上で配電システムをいじくって、スパコンの電気を 断ち切ったとしても、あの場にはコジロウとみっちゃんがいるんだよ? その電気を使われれば、意味なくない?」 「道子さんもコジロウさんも、一筋縄で行く相手ではありませんよ。たかが妄想の固まりにお負けになるほどの実力 であるとは思っておりません。信和さん、作業は終わりましたか?」 りんねが問うと、高守は横顔を向けて小刻みに頷いた。 「む」 「では、引き上げましょう。長居は無用です」 りんねは立ち上がり様にスカートを整え、ローファーの底を鳴らしながらステージを横切っていった。ぴんと伸びた 背筋に切り揃えられた長い黒髪が重なり、規則正しい歩調と共に薄い影が揺れる。破損したフェラーリと崩れ落ちた 講堂という退廃を感じさせる背景に馴染まない清冽さではあったが、それ故にりんねの美しさが引き立っていた。 ステージ脇の階段を下りていく足音には乱れはなく、目線も表情も呼吸すらも落ち着いている。人間味が遠のくほど 完成された美少女の後ろ姿を眺めながら、一乗寺はふと思った。 「ねえ、りんねちゃん」 「何か」 蝶番が外れかけた右側の出入り口の前で、りんねは立ち止まって振り返った。 「これでつばめちゃんに恩を売ったつもり? でも、つばめちゃんは買ってくれないと思うよ?」 一乗寺が両手を上向けると、りんねは僅かに目を細めた。 「私も元よりそのつもりで出向きましたので、それで結構ですよ。一乗寺さんも、つばめさんに余計なことをお教えに ならないべきかと。些末なことを気にしていられるほど、事は小さくはありませんので」 「だーよねー。じゃ、ばいばーい」 一乗寺はクラスメイトを見送るような笑顔で手を振るが、りんねは軽く会釈をしただけだった。少女の背が廊下の 奥に消えていくと、その後を足早に矮躯の男が追い掛けていった。一乗寺は二人の姿が見えなくなるまでは笑顔で 手を振っていたが、どちらの足音も聞こえなくなると、潮が引くように表情を消した。 これで、ハルノネットの中枢にまで捜査の手が及ぶのは間違いない。サイボーグを普及させるために携帯電話の 電波や携帯電話の機能を利用してユーザーを事故に遭わせていたということは判明したが、その事件を裏付ける ために必要な通信履歴の類が一切照会出来なかった。かといって、強引に踏み込めば本社ごと証拠を抹消されて しまう危険性もあったばかりか、政府関係者にもハルノネットの利権の恩恵に与っている者も少なくなかったので、 思うように捜査出来なかった。だが、つばめとりんねが引っかき回してくれたおかげで突破口を作ることが出来た。 それもこれも、アマラがハルノネットに渡ったからだ。それさえなければ、ハルノネットはサイボーグ化技術を完成 させることもなかっただろうが、通信技術を応用して健常な人間に障害を負わせ、無理矢理サイボーグ化させることも なかったはずだ。遺産が世に出なければ技術の革新はなかっただろうが、遺産は現代人の手には余るものばかり であり、使い方も大いに誤っている。だから、遺産は回収し、封印し、管理しなければならない。 その力を持つ、少女の手で。 突如、停電した。 窓のない地下室は当然ながら真っ暗になり、右も左も解らなくなってしまった。つばめはぎょっとして立ち上がろうと すると、気色悪い感触の物体に押さえ付けられた。恐らく、寺坂の触手だろう。非常灯が付くのではないかと期待 して周囲に目を配らせるも、その気配はなく、避難経路を示す誘導灯の光すらない。あれは別電源だから停電しても 明かりが付いているものだ、と以前に授業で習ったはずなのだが、人型の絵が付いている緑色の看板はどこにも 見当たらない。徐々に不安になってきたつばめは、彼に救いを求めた。 「コジロウ……」 すると、視界の隅に赤いパトライトが灯った。つばめが安堵しながら振り返ると、目の前には。 「ぎゃあ!?」 薄く光を放つ立体映像の少女、桑原れんげがいた。つばめは飛び退き、手近な筐体に縋る。 「ねえ、どうして? どうして? どうして? どうして、あの人は幸せじゃなかったの?」 桑原れんげの外見は徐々に崩壊し始めていて、至るところからブロック状のポリゴンが零れ落ちていく。 「私は彼が幸せでいるために生まれたんだよ、そのための神聖天使なんだよ、そのための桑原れんげなんだよ? 設楽道子が私を否定しても、排他しても、嫌悪しても、彼だけは私を肯定してくれたんだよ? それなのに、なんで 彼は私を拒絶したの? なんで自分でブレインケースを解放して脳を捨てたの? なんで? なんで?」 「あんたがあの人を妄想に浸からせすぎたから、現実に耐えられなかったんだよ。だから、あんたのせいだよ」 「……そう」 つばめの痛烈な言葉に、れんげは俯いた。その顔付きは、テクスチャーのラインだけと化していた。 「私が人間だったら良かったの? そうすれば、あの人は死ななくて済んだの? 設楽道子を殺さずに脳を操作 してアバターにして、生きた桑原れんげを作り上げていれば、あの人はずっとずっと幸せでいられたの?」 「んなわけないじゃん」 物憂げなれんげに、つばめはため息を吐いた。理想の固まりだから、そんな考え方しか出来ないのだろう。 「手前勝手なイメージを押し付けて強要した挙げ句、思い通りにならなかったからって道子さんを殺した男が幸せに なる権利なんてあるわけないし、道子さんを洗脳して肉体を持った桑原れんげになったとしても、同じこと。だって、 あの美作って人が欲しかったのは桑原れんげでも道子さんでもなくて、自分にとって最高に都合の良い女だよ? そんなもんを満たしたところで、幸せになるわけがないじゃない。相手の理想を一から十まで叶えたとしても、今度は 十から百、その次は百から千、更に千から万、万から億、って叶えさせられるだけだよ。それって、幸せ?」 「うん。だって、私、道具だから。私が現実の存在になれば、ヴォーズトゥフは幸せでいてくれるって信じていたから、 私は彼の言う通りにしてきたの。設楽道子と存在を入れ替えて、本物の神聖天使になれば、ヴォーズトゥフはきっと 私を必要としてくれるんだって判断していたの。でも、そうじゃなかったんだ。私も、設楽道子も、ヴォーズトゥフが現実 逃避するための道具だったんだ。そのためだけの概念だったんだ。本物の神聖天使なんて、ヴォーズトゥフは、 美作さんは必要としていなかったんだ。あの人が天使だって思える概念が欲しかっただけなんだ」 でも嬉しかったな、必要とされて、と切なげに漏らし、れんげは赤いパトライトの光を放つコジロウを一瞥した。 「だけど、ムリョウはそれで幸せなの? それは、あなたの役割じゃないでしょ?」 光の粒が解け、弾け、闇に飲まれていき、れんげの輪郭がぼやけていく。コジロウは両耳のアンテナから赤い光を 放ち、ゴーグルからも少し強めに発光していたが、彼の発する光は微動だにしなかった。それが、コジロウの答え なのだろうか。つばめはれんげの光を頼りに足元を探り、銀色の針を見つけ出すと、改めてそれを拾った。美作の 生温い人工体液に濡れていたアマラはぬるついていたが、つばめは嫌悪感を払拭してアマラを握り締めた。 それから間もなく、地下室に光が戻った。桑原れんげを排除出来たことで安堵したつばめは崩れ落ちそうになった が、足元には美作の残骸が散らばっていたので、慌てて後退した。 「この後、どうしよう?」 つばめは手の汚れをハンカチで拭ってから、アマラをハンカチで丁寧に包み、ポケットに入れた。このハンカチは 気に入っていたものではあるが、二度と使えないだろう。 「とりあえず、あの防火扉をぶちのめして開けようじゃないか」 寺坂が触手を上げて防火扉を指し示したのとほぼ同時に、防火扉の外側で銃声が鳴り響いた。分厚い扉の隙間 から、かすかに硝煙が入り込んできた。程なくして防火扉と隔壁が開いていき、一乗寺が笑顔を見せた。 「やっははーん! よっちゃあーん、元気してたぁー? 俺はね、超元気ぃー!」 「開ける手間が省けたな」 ほら帰るぞ、と寺坂が道子を立たせてやると、道子は明るく頷いた。 「はい! ですけど、寺坂さん、背中の傷は大丈夫ですか?」 「どうってことねぇよ。だが、どうしても埋め合わせがしたいってんなら、ドライブにでも付き合ってもらおうじゃねぇか。 今のみっちゃんは成人済みだからな、同意の上なら何をしても合法なんだよ」 「全くもう……。美野里さんに言い付けますよ」 とは言いつつも、道子はまんざらでもなさそうだった。 「コジロウも。早く外に出ようよ」 つばめはいつものように手を繋ごうとコジロウに手を差し伸べるが、コジロウの動作にディレイが生じた。 「どうしたの?」 つばめが首を傾げると、コジロウは改めて手を伸ばしてきたので、つばめはコジロウの人差し指と中指を握った。 嬉々として寺坂にまとわりつく一乗寺と、一乗寺を鬱陶しげに追い払う寺坂と、そんな二人の姿を見て笑いを堪えて いる道子を見ながら、つばめはコジロウと共に足を進めていった。 「私はさ、コジロウがいてくれるだけでいいんだ。そこから先なんて、求めちゃいけないから。だから、桑原れんげ が言ったことなんて気にしないでよ」 ね、とつばめが笑みを見せると、コジロウは少々の間を置いてから答えた。 「了解した」 地下室の電源を落としたのは俺なんだよう、凄いでしょ褒めて褒めてついでになんか奢ってよぉ、と一乗寺は寺坂に しきりに絡み付くが、その都度触手で叩きのめされていた。にもかかわらず、すぐに起き上がってはまた寺坂の後を 追っていく。つくづくタフな男だが、そうでもなければ政府の諜報員などやっていけないのかもしれない。 ハルノネット本社から外に出ると辺りは大騒ぎになっていた。至るところに警察官が配備され、会社の敷地は全て 封鎖されて駐車場には警察車両がすし詰めになり、上空にはヘリコプターが旋回している。ハルノネットの社員達は 一箇所に集められていて、不安と苛立ちが入り混じった様子だった。そんな彼らを横目に、つばめ達は一乗寺の同僚で あると名乗った周防国彦なる男に先導されて現場を後にした。一乗寺は本社を出る前にテロリストの扮装から警官の 制服に着替えたが、言動は一切変わらないので紛れもしなかった。 ホテルに戻るために一般車両に見せかけた警察車両に乗せられたつばめは後続のコジロウの姿を確かめつつ、 久々に見る東京の街並みを眺めていた。三ヶ月程度で変わるものではないが、山奥の田舎で暮らすことに慣れて しまうと、人工物だらけの景色に新鮮味を覚えた。そういえば、あの後、りんねはどうなったのだろうか。強かな彼女の ことだから、警察に絡まれる前に早々に引き上げただろうが、一体何の目的でハルノネットの株主総会に現れたのだ ろうか。まさか、桑原れんげをやり込めようと奮闘していたつばめ達を援護するためだとでもいうのか。 いやいやそれはない、絶対にないな、と即座に自分の考えを否定してから、つばめは後部座席のシートに背中を 埋めた。せっかく東京に来たのだから、美野里と美月にお土産でも買ってやらなければ。ここ数日間は二人も随分 と振り回されてしまったのだから、埋め合わせをしなくては。 梅雨明けが近いのか、都市の空は晴れていた。 一方、その頃。 吉岡りんねの居城である別荘には予期せぬ来客が訪れていた。新免工業に所属する戦闘サイボーグ、鬼無克二 だった。彼を招き入れたのは、他でもない、留守番を任されていた武蔵野である。岩龍はといえば、ロータリーにて 沈黙していた。水素エンジンも冷め切っていて、いつもは饒舌な発声装置も静まり返っている。定期メンテナンスの 名目で人工知能をシャットダウンしたからだ。それもこれも、今後のためだ。 昆虫のように細長い手足をしなやかに動かしながら階段を下りてきた鬼無の腕には、細かな機械がいくつも抱え られていた。それは、りんねが部下の監視用にと各部屋に取り付けておいた監視カメラや盗聴器の類である。身軽 に飛び跳ねて階段からリビングに降ってきた鬼無は、柔軟に手足を曲げて衝撃を和らげ、足音もなく着地した。 「御嬢様も大概ですねー?」 コインよりも小さく薄い盗聴器とマッチ箱程度の大きさの監視カメラをばらまき、鬼無は肩を竦める。 「お前にだけは言われたくねぇよ。しかし、よくもまぁ見つけ出せたもんだな」 「盗聴器発見器に引っ掛からない周波数のやつもありましたけど、俺の目は誤魔化せませんからー」 「蛇の道は蛇だな」 武蔵野は監視カメラの一つを取り、眺め回すが、どこに仕掛けられていたのかは見当も付かなかった。この別荘 に来た時に部屋中を調べ回って全て見つけ出したつもりでいたのだが、りんねは一枚も二枚も上手だったらしい。 つくづく恐ろしい女だ。武蔵野は監視カメラを投げ捨ててから、鬼無を見上げる。 「んで、代わりにお前の監視装置を仕掛けてきたのか?」 「そりゃあもうー。元の場所に同じ周波数の電波を発するダミーと、その中に俺の超高性能な監視装置を仕込んだのを 仕掛けてきましたよぉー。りんねちゃんのお部屋には、そりゃあもうごっそりとー。んっふふふふふふぅ」 得意げににやける鬼無に、武蔵野はげんなりした。だが、この性癖がなければ、鬼無は今の地位を築けなかった だろうし、今回の任務も任せられなかっただろう。 「美少女ー、美少女ー、美少女の生活ぅー。ああんっ、ゾクゾクしちゃいますぅー」 鬼無は体をぐねりと捩り、悩ましげに身悶えする。黙っていれば見栄えがするスレンダーなサイボーグなのだが、 こういった言動で台無しだ。だが、鬼無はそれで満足しているのだから外野が口出しすべきではないだろう。どうせ ろくな人生を送ってきていないのだから、好きなように生きるのが正しい。それは武蔵野にも言えることだ。 じゃっ、また後でー、と鬼無は浮かれながら別荘を後にした。武蔵野はスキップするサイボーグの姿が夕暮れの 中に消えていく様を見送ってから、武蔵野は久し振りにタバコを銜えて火を灯した。ベランダの柵に背を預けてがらん としたリビングを見渡すと、一抹の空しさに駆られる。これでいいのか、との疑念も胸中を過ぎったが、前回の失敗 を取り戻すためには過激な手段に打って出る必要があるのは確かだ。 ズボンのポケットにねじ込んである携帯電話が震えた。取り出してホログラフィーモニターを展開すると、間諜からの 連絡が届いていた。それに目を通してからホログラフィーモニターを閉じようとしたが、指が動き、画像フォルダが 展開された。その中に一つだけ入っている写真を拡大表示させると、懸命に笑顔を見せる若い女性が写っていた。 武蔵野はしばらく彼女と見つめ合った後、ホログラフィーモニターを消し、傷跡の残る目元を押さえた。 失敗は、二度と許されない。 12 8/16 |