機動駐在コジロウ




蛇の道はヘビー



 その荷物は、唐突に届いた。
 恐ろしく重たい上にやたらめったら大きな箱には厳重に封が施され、分厚い梱包材で覆われていた。だが、中身は 一目瞭然だった。吉岡グループが経営している運送会社の名が入っている荷札の傍に、怪人在中、と赤地に黒 で印刷された札が貼り付けられていたからだ。送り主はフジワラ製薬であり、宛名は伊織になっていた。
 それを受け取らざるを得なかった伊織は心底不愉快で、梱包材を乱暴に引き剥がして散らかした。御丁寧なこと にクール便で配達されたので、箱全体がひんやりしていた。防水加工された紙を剥がすとエアパッキンが顔を出し、 その下には保冷作用のあるアルミフィルムが出てきたが、まだまだ箱の本体は出てこない。

「死ねクソ」

 苛立ってきた伊織は吐き捨ててから、右手だけを軍隊アリのそれに変化させて爪を振り下ろした。途端に梱包材の ミルフィーユが真っ二つに切り裂かれたが、勢い余って床にも深い傷が付いた。その裂け目から、段ボール箱の 中に詰まっていた緩衝材の粒状の発泡スチロールが溢れ出し、扇状に散らばった。大振りな白い粒に混じり、一枚の ディスクが転げ出てきた。

「何だこれ」

 伊織は爪の間にディスクを挟み、ラベルを読んだ。

「はぁ!?」

 途端に声を裏返した伊織に、一同の視線が集まった。

「なんだ、やかましい」

「余計な騒音で集中力を削がないでくれますかぁーん、業務妨害ですぅーん」

「ぬ」

 大型モニターのパソコンと睨み合っていた武蔵野、道子、高守から一斉に非難され、伊織は舌打ちした。

「うっせーし。てか、そっちの仕事が遅いのが悪いだけだし。つか死ね」

「仕方ないだろう、お嬢が俺達に無茶振りしやがったんだから。ロボットのセッティングなんて専門外も甚だしいって のに、俺達の仲間に相応しい個性を持たせるためには俺達の手で一から入力すべきだーって言いやがって……。 あ、また間違えた」

 武蔵野は太い指で光学センサー式のキーボードをぎこちなく叩いていたが、角刈りの髪を掻きむしった。

「こういうのはお前が専門だろうが、道子。適当に処理しておいてくれよ」

「生憎ですがぁーん、私の専門はハッキングであってプログラミングじゃありませぇーん」

「似たようなもんだろ、そんなもん」

「違いますぅーん。クラッキングともまた違いますぅーん。そりゃプロテクトを解除して侵入したりぃ、プログラムの穴を 見つけて滑り込んだりするためにはぁ、それ相応の知識が必要ですけどぉ、プログラムを組むための知識となると またジャンルからして違うんですぅーん。だからぁ、専門外も甚だしいんですぅーん。武蔵野さんだってぇーん、拳銃は 撃てるけど一から製造出来るわけじゃないですかぁーん」

 道子がつんと顔を背けたので、武蔵野は高守に向いた。

「じゃ、高守はどうなんだ」

「……ん」

 高守も短い首を横に振って、目を逸らして爆発物の材料が散らばる作業机を見やった。こちらもまた専門外だ、と 言いたいようだった。武蔵野は慣れない作業で凝った肩を解すために回し、パソコンデスクから立ち上がった。

「まあいい、このデータは一旦保存しておけ。ロボットの機体はまだ組み上がってもいないし届いていないんだ、そう 焦るような話じゃない。壁の大穴のせいで隙間風と朝晩の底冷えはひどいが、アンブッシュで一夜を過ごすよりは 余程快適だし、我慢出来ないようなことでもないしな」

「はぁーいん。ではではぁーん、お昼の支度をしてまいりますぅーん」

 道子は手早くキーボードを操作してデータを保存し、ウィンドウを閉じてからパソコンデスクを離れた。高守もまた 自分の作業に戻りたかったらしく、小走りに作業机に駆け寄っていった。武蔵野は自身の武器の手入れをするために 自室に戻り、道子はキッチンで途方もなく不味い昼食の支度を始め、高守は細々とした機械を抱えて地下階へと 引き籠もってしまったので、リビングには伊織一人だけが取り残された。

「つか、何これ。ダサすぎんだけど」

 伊織はディスクのラベルを見、舌を出した。悪のひみつビデオ、と伊織の父親の字で書き記してあった。このまま 叩き割って黙殺してしまってもいいのだが、液体についての説明書が同封されていなかったので、恐らくディスクに 収めた映像で説明しているのだろう。面倒ではあるが、目を通しておく必要がある。

「んー、と」

 伊織はケースを開け、パソコンのディスクスロットに差し込んだ。メディアプレイヤーを作動させ、しばしの間の後に ディスクが読み込まれた。映像が始まると同時に、仰々しいBGMが流れ出した。そして、悪趣味極まりないテカテカの 紫のカーテンを背景にして、ドクロをモチーフにした衣装を着た中年の男が現れて高笑いした。

『うわはははははははっ!』

 その笑い声を聞いた途端に伊織はパソコンを殴り付けそうになったが、寸でのところで堪えた。

『この映像を見ているということは無事に荷物が届いたと言うことだな、我が息子よ!』

 黒に赤の裏地のマントを大きく広げて仰け反った中年の男は、意味もなくマントを前後させた。

『大手を振って戦いに出たはいいがスタートダッシュで盛大に躓き、成果が上げられないのは悪の組織の定番中の 定番だ! なあに気に病むことはない、誰もが通ってきた道だ! むしろ通らない怪人などいない!』

「うっせぇ死ね」

『我らが主力であればここぞとばかりに怪人を送り込むのだろうが、資金面の都合で吉岡グループと手を組んで共闘 関係を結んだ都合でそうもいかない! おまけに政府に嗅ぎ付けられたため、証拠隠滅のために研究所を一つ 爆破してしまった! 長年の念願であったので凄く気持ち良かったが、損害は何億になることやら!』

「知るか、んなこと!」

『と、いうわけであるからして、我らの科学力で生み出した完全体に等しい怪人であり我が息子である伊織、いや、 軍隊アリ怪人アントルジャーよ! 同梱されていた液体を混ぜて部下となる怪人を完成させ、他の企業からは一歩 抜きん出た活躍をしてしまうがいい! うわはははははっ!』

「だぁから、とっとと本題に入りやがれ!」

『ではそろそろ説明しよう! この辺にしておかないと、社長室に運んできたランチが片付かないって秘書の三木君に しこたま怒られそうだからな! 仕事が完璧なのは素晴らしいんだが、いかんせん気が強いのだあの女性は!  だが、それがいい! 妙齢の女性の尻に敷かれて上手いこと操縦されるのは心地良いのだ!』

「説明するっつってからうだうだ喋るんじゃねぇクソ親父! ガチで殺すぞこの野郎!」

『と、言う感じに焦れ焦れにさせておけば我が息子はテレビかモニターの前でマジ切れしている頃合いだろうから、 そろそろ本題に入ろう! でないと、うん、リアルに首が飛ぶ可能性が非常に高いのでね』

 と、伊織の父親でありフジワラ製薬の社長である藤原ただしは己の首をさすってから、画面に向き直った。

『怪人の作り方は非常に簡単だ! A液の入っている容器にB液を入れてよく掻き混ぜてから、一時間後にC液を 入れて更に良く掻き混ぜる! その際に高栄養剤を入れておくのを忘れるんじゃないぞ、無事に固体化した怪人が 目覚めても低血糖でぶっ倒れちゃうからな! 注意点は以上だ! 尚、この映像を収めたディスクは自動的に消滅 するわけがないから物理的に消滅させてくれたまえ!』

 ああっ三木君っ、との動揺した声と共にカメラが左右に揺れ動き、挙げ句の果てに床に転げ落ちた。それ以降は 横向きになった絨毯と壁際の映像だけとなったので、伊織はディスクをパソコンから取り出すと同時にへし折った。 真っ二つに割れたディスクをゴミ箱に放り投げてから、伊織は思い切り頬を歪めて髪を掻き毟った。
 物心付いた頃から、伊織の両親はずっとこんな調子だった。先代社長である祖父が五十年前に手に入れたという 謎の液体を倉庫で発見し、その効能を知って以来、特撮番組の悪役じみた行動に明け暮れている。わざわざ業者 に発注して作らせた悪の組織のような衣装も山ほどあり、それ専用の倉庫を持っているほどである。最初はまとも だった母親もいつの頃からか父親に毒されてしまい、今となっては社員すらも父親の思想に染められた。一人息子 である伊織も当然のように父親の愚行に巻き込まれた挙げ句、謎の液体を研究していた研究班に伊織の遺伝子は 謎の液体と相性が良いと言われ、その結果、実験に実験を重ねられて生体改造された。

「冗談じゃねーし」

 伊織は箱を引き裂いて中身を引っ張り出すと、無造作に床に転がした。何が悲しくて、心底鬱陶しい悪役ごっこに 付き合ってやらなければならないのだろう。それは父親の理想であって伊織の理想でもなんでもない。伊織と似た 経緯で変身能力を与えられた人間にも興味は更々ない。増して、世界征服など以ての外だ。
 A液、B液、C液と書かれた手描きのラベルが貼り付けられている円筒形のボトルを三つ並べてみたが、それらを 開けて混ぜ合わせたいとは欠片も思わなかった。A液は赤っぽく、B液は緑っぽく、C液は白っぽく、いずれも粘り気 が強かった。全部排水溝にでも垂れ流してやろうか、とちらりと思ったが、それでは配水管が詰まってしまう可能性 がある。どうせ捨てるなら解りづらい場所が良い、と判断した伊織はボトルを全て抱えて立ち上がり、大穴が開いた 壁を塞いでいるブルーシートを捲り上げて外に顔を出し、三つのボトルの中身を一滴残らず捨てた。
 空になったボトルをリビングの隅に放り投げ、伊織は梱包材も段ボール箱も片付けもせずにソファーに寝そべり、 退屈凌ぎに数年前に発行された週刊少年漫画雑誌を広げた。カビ臭く、湿気を吸ってページがよれていたし、肝心の 内容もそれほど面白くはないのだが、ぼんやりしているとほんの少しだけ気分が紛れた。
 人殺しは好きだが、父親の愚行に付き合う気はない。




 自習。
 黒板に書き残されたぶっきらぼうな文字を見、つばめは目を丸めた。日曜日も一乗寺の姿が見当たらなかったが、 週が開けたら帰ってきているだろうと漠然と思っていたが、そうではなかったらしい。きっと公安の任務が忙しくなった から副業が疎かにせざるを得ないのだろうが、そうならそれで連絡を入れてほしい。無駄足を喰った。

「だってさぁ」

 つばめは教室に入ってきたコジロウに振り返ると、黒板を指し示した。コジロウは教室に入ると、黒板を一瞥して からつばめに向き直った。

「了解した」

「自習、っつってもなー……」

 つばめはたった一つしかない机に座ると、通学カバンを開けて教科書を取り出しかけたが、手を止めた。自習用 のプリントか何か置いてあるのではないかと机の中を覗き込んでみたが、紙切れ一枚入っていなかった。黒板前に ある教卓の中を覗き込んでみても空っぽで、それらしいものは見当たらなかった。ということは、つばめ自身が勉強 する範囲を決めて勝手にどうこうしろ、ということらしい。プリント一枚も準備出来ないほど急ぎの任務だったのか、 それともただ単に面倒臭くなったから放り出していったのか。どちらにせよ、傍迷惑だ。

「そういえばさあ、コジロウ」

 机に戻ったつばめは、自己修復機能と外装交換で見た目は元通りになったコジロウに向き合い、尋ねた。

「学校って誰が掃除しているの?」

「一乗寺諜報員だ。分校の校舎は一乗寺諜報員の寄宿舎であり、管理下でもある建物だからだ」

「道理で」

 そこかしこが埃だらけなわけだ。つばめは教室の隅に堆積している綿埃を見つけ、げんなりした。もう一つの教室 は完全に倉庫と化していたし、一乗寺の私室も同然の職員室は荒れ放題だった。一応、ゴミはきちんと捨てている ようだが、無造作に拳銃のマガジンや弾薬が放置されていたことを覚えている。男女共用のトイレにしても、あまり 清潔とは言い難い状態だった。今までは自宅の住み心地を良くすることだけで手一杯だったので、学校にまで気を 掛ける余裕はなかったのだが、生活環境が整ってきて心構えが出来てくると細かいことが気になってくる。

「よし、掃除しよう」

 つばめが手を打つと、コジロウが意見した。

「つばめ。それは自主学習とは言い難い行動だ」

「掃除も立派な情操教育の一環でしょ?」

 つばめが言い返すが、コジロウも更に言った。

「それは教師の監督下にある場合であり、自主学習すべき時間に行うべきものではない」

「相変わらずだなぁ、もう。掃除したら綺麗になって気持ち良くなるんだから、それだけでいいじゃない。それとも何、 コジロウは私が埃で噎せ返って喉を痛めてもいいってこと? 気管支を悪くして入院しろと?」

「……それは」

 コジロウが珍しく言い淀んだので、つばめはにんまりした。

「解ればいいの。じゃ、ジャージに着替えてくるから、ちょっと待っていてね」

 ジャージ入れにしているトートバッグを抱えて教室を出たつばめは、隣の空き教室の引き戸を開けた。小さな分校 に更衣室などという洒落たものはないからだ。引き戸を開けて不要物が雑然と詰め込まれている教室に入り、手近な 机にトートバッグを置いて制服に手を掛けた時、物音と共に三角コーンの山が動いた。
 ブレザーを脱いで折り畳み、トートバッグの中に入れてから、つばめは教室を見回した。誰かが忍び込んでいるの だろうか、と窓に目を凝らしてみるも、全て施錠されていて窓枠にも埃が積もっている。心なしか滑り込む外気の量が 多くなっていて、足元に溜まっている早朝の冷気が濃い。廊下側の掲示板、黒板、教卓、と観察していくと換気扇が 壊れていることに気付いた。羽根も枠も外れていて、千切れたケーブルがぶら下がっている。

「人間は入れないよなぁ、あんなに狭い場所」

 つばめは自分の肩幅と換気扇を目測で比べてみたが、子供の体格でもまず通り抜けられない大きさだった。三十 センチ程度の正方形だし、換気扇の外には体をねじ込ませられるような足掛かりもなく、侵入経路としては不自然 極まりない。今朝は昇降口が施錠されていたので、コジロウが外装の内側に貼り付けていた合い鍵を使用して中に 入ったのだが、泥棒の類であれば手っ取り早く窓を割って侵入しようと思うだろう。丁度良い大きさの石を見つけて 投げ付ければ、それで済む。なのになぜ、難易度が高い換気扇を敢えて選んだのだろうか。

「いや、待てよ?」

 それ以前に、船島集落に外来者がいただろうか。そんな人間がいたとすれば、コジロウが真っ先に感知して対処 しているはずだ。つばめも美野里も気付くはずだ。船島集落に至る道路は一本しかないし、それ以外のルートでは 道らしい道は存在していないので、ジャングル行軍しなければ辿り着けず、集落内は田んぼだらけなので広い場所 に出てきた途端に目に付く。寺坂であれば真っ先に美野里に会いに来るだろうし、一乗寺が帰ってきたのであれば 自分で鍵を開けて宿直室で爆睡しているだろう。となれば、考えるまでもない。

「また新手か」

 今度はどこの差し金なのか、考えるのも面倒臭いが、相手をしなければやり込められてしまう。つばめはため息を 一つ零してから、ごとごとと揺れる三角コーンに近付いた。積み重ねられた机を押しやり、椅子を退かし、トラロープ の束を蹴り飛ばしてから、三角コーンの足元を覗き込んでみた。
 そこには、薄茶色の太い異物が渦を巻いていた。ぱっと見ただけでは正体が解らず、つばめは首を傾げて上履き を履いたつま先で小突いてみた。太い異物は僅かにひくついたが、それきりだった。指先で恐る恐る触れてみると、 ぞっとするほど冷たかったが生物らしい弾力が返ってきた。三角コーンを抱くような格好でとぐろを巻いている異物の 直径は三十センチ近くあり、極太だった。となると、これがあの換気扇を破壊して侵入してきたのだろう。
 とりあえず異物の正体を突き止めようと、つばめは首を伸ばして三角コーンの向こう側を見下ろした。薄々感付き 始めてはいたが、確認してみないことには解らないからだ。そうでありませんように、そんなことがあってたまるか、 と願いながら目を動かしていくと、極太の異物が鎌首をもたげてきた。

「おい」
 
「うわぁやっぱりヘビぃっ!?」

 目の前に現れたヘビに、つばめは絶叫して飛び退いた。途端に全身から嫌な汗が噴き出し、机や椅子を薙ぎ倒し ながら後退った。口を利いたのだから元々は人間だったのかもしれないが、それでもヘビはヘビなのだ。つばめは 涙目になりながら退路を確保しようとするが、ヘビはしゅるりと動いてつばめの前に立ちはだかってきた。

「おい、そこの女子中学生」

「やだやだやだぁっ! ヘビ嫌い、超キモい!」

 つばめが首を横に振ると、ヘビは瞬膜を開閉させた。

「出会い頭に何を言うんだよ。失礼すぎるよ、最近の子供ってのは。あー最悪」

「ヘビに決まってんじゃん! やだやだ近付かないでよー!」

 つばめは教室後部の黒板に背中を当て、制服が汚れるのも構わずに引き戸へと後退っていく。

「せめて僕の質問には答えてくれよ、いいだろ?」

「よくないよくなーいっ!」

 つばめが半泣きで絶叫すると、ヘビは先割れの舌を出し入れさせた。

「今までの事情で大体のことは解っているだろうが、僕はお前の命を狙っている怪人だ。諸々の事情で真正面からの 襲撃が出来ないから、こうしてコソ泥みたいな真似をする羽目になってしまったんだ。この僕が、だ。最高学府を 卒業してストレートにフジワラ製薬に内定を決めたこの僕が、だ。作戦の都合とはいえ、泥と埃にまみれて這いずり 回るのは極めて屈辱的なんだよ。だから、御嬢様一味の低脳な連中が手間取っている間に出し抜いてやることに したんだよ。だが、僕は一社会人であり、物事には手順がある」

 床に堆積した埃に筋を付けながら、ヘビはつばめに這い寄ってくる。

「お前の下僕の警官ロボットにアポ取りしてくれないか? それ相応の手順を踏んでから行動すれば、御嬢様一味も ごちゃごちゃ文句を言ったりはしないだろうしな。この僕の命令だ、聞けよ」

「あ……」

 そんなの絶対嫌、と言い返したかったが、つばめは腰が抜けてしまった。前々から爬虫類は苦手だと思っていた が、常識の範疇を凌駕したものに出会うと恐怖や嫌悪感が突き抜け、いっそ笑えてきた。汚れきった床にぺたんと 座り込んだつばめは、乾いた笑いと悲鳴の中間の声を力なく漏らしてから、弱々しくコジロウに助けを求めた。
 掃除どころではなくなってしまった。





 


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