ドラゴンは滅びない




血染めの凱歌




 ヴィクトリアは、気が立っていた。


 感覚を研ぎ澄ませて外へと向けているわけでもないのに、背筋を逆撫でされるような違和感に苛まれていた。
声と共に長らく失われていた魔力が元に戻り、以前と同じように魔法が扱えるようになってから数週間が過ぎた。
だが、事を急いてはいけないと思い、魔法の初歩の初歩から練習を始めて基礎を鍛え上げる魔法修練を続けた。
以前は、基礎修練など面倒だとしか思わなかったのであまりやらなかったが、今ではその必要性を理解している。
足元を固めていなければ、どんなに力が強くとも崩れてしまう。体力も同じで、斧は闇雲に振り回すものではない。
斧を振るって敵を粉砕するためには、肩もそうだが確かな筋力がなければ威力が出ないのだと身を持って知った。
そういった経緯もあり、最近ではヴィクトリアは魔法や呪術を過剰に振り翳すことはなく、感覚も大分弱めていた。
 なのに、何かが引っ掛かる。首筋を後ろから撫でられるような、背筋を這い上がる気色悪さを伴った違和感だ。
他の者達は気付いていないのか、と思って視線を巡らせるも、食卓を囲んでいる者達は至って平然としていた。
違和感を感じているのは、自分だけなのか。二度目の月経は、三日前に終わったばかりで体調も戻っている。
だから、体調不良による苛立ちではない。ヴィクトリアはパンの欠片を飲み下して、近くに座る者に声を掛けた。

「ねえ」

「ん?」

 少々退屈そうに頬杖を付いていたギルディオスは、ヴィクトリアに向いた。

「なんだ、どうした」

「あなたには聞いていなくってよ」

 ヴィクトリアはギルディオスを一瞥してから、斜向かいの席に座るルージュに改めて声を掛けた。

「ねえ」

「私か?」

 ルージュは意外そうにしながらも、答えた。ヴィクトリアは頷く。

「ええ。あなた、魔力を感知する精度はそれなりに優秀だったはずだわ。何か、引っ掛かっていなくって?」

「少し待て」

 ルージュは目を伏せてしばらく黙っていたが、顔を上げた。

「目視出来ればもう少し正確な距離が割り出せるんだが、室内ではまあ仕方ないか。確かにお前の言う通り、異物が存在しているようだ。ラミアンの魔力の蜃気楼からは常時ごく微量の魔力が発せられているんだが、それがある地点でそれ以上の魔力によって掻き消されているんだ。そうだな、南西に三千五百、といったところか」

「…よく解るな」

 ルージュの隣に座っていたブラッドが目を剥くと、ルージュは照れ隠しにはにかんだ。

「目標への距離計算は正確な長距離砲撃を行うために必要な技能だったから、覚え込んだまでのことだ。それに、ラミアンの魔力と波長を合わせることが出来なければ、魔力の蜃気楼に突入する時に弾かれてしまうからな」

「ジョセフィーヌ。君は何かを感じていないのかね?」

 ラミアンが台所から戻ってきた妻に尋ねると、ジョセフィーヌは盆を抱え、頬に手を当てた。

「その異物とやらの正体までは見えなかったけど、朝方に妙な夢なら見たわ。白い巨体の化け物が現れる夢よ」

「それってどんなのだ?」

 ギルディオスに問われ、ジョセフィーヌは眉根を寄せて考え込んだ。

「そうですね…。具体的に言い表すのは難しいですけど、一番特徴的だった部分は翼でしたわね。骨と皮で出来ていて、骨が剥き出しになっていましたわ。それが、二体いましたわ。どちらも翼と同じように骨みたいな装甲に覆われていて、両手には長い爪が生えていましたわ」

「骨の…翼?」

 ヴィクトリアは、浅く息を飲んだ。ギルディオスは、威勢良く立ち上がる。

「ありがとな、ジョセフィーヌ。それだけ解りゃあ充分だぜ。そいつぁ、十中八九あいつらだ。ラミアン、オレは男共を呼んでくる。いつか来るとは思っていたが、思いの外早かったな」

「では、私は地下室の調整を行っておきます。女達と幼子を匿わなければなりませんので」

 ラミアンも立ち上がり、胸に手を当てて礼をする。ブラッドは朝食の残りを押し込めると、紅茶で飲み下した。

「ルージュも出るか?」

「無論だ。そのために私はいるのだから」

 ルージュは椅子を引いて立ち、笑んだ。

「フリューゲルも引き摺り出した方がいいというのなら、今から話を付けてくるが」

「それがいい。手は一つでも多い方がいいからな」

 ギルディオスが頷くと、ルージュは食堂の窓を開け、窓枠に足を掛けた。

「では、行ってくる」

 ルージュは窓枠を踏み切ると、上昇して飛び去った。銀色の長い髪を靡かせながら、ヴァトラス家へと向かった。
行儀が悪ぃな、とギルディオスはちらりと思ったが言わないことにした。事が伝わるのは、一刻も早い方がいい。
ラミアンも何か言いたげな態度で彼女の去った窓を見ていたが、やるべきことがあるので食堂から出ていった。

「殲滅戦、ってところか?」

 ブラッドは手のひらに拳を打ち付け、鳴らす。

「あいつらには後があるかもしれねぇが、オレ達にはねぇからな。毎度毎度でかい戦闘を繰り広げていたら、いくらお前らでもガタが来ちまうからな。ここいらで徹底的に叩き潰しておかねぇと、今度こそやられちまうかもしれねぇ。気ぃ抜くなよ、ラッド」

 ギルディオスがブラッドに向くと、ブラッドはにっと口元を上向けて鋭い牙を晒した。

「解ってるって、おっちゃん。要するに、あの化け物共をオレらで袋叩きにするんだろ?」

「もう少しまともな表現をしなさい、ブラッド」

 ジョセフィーヌが顔をしかめたが、ブラッドはそれを気にせずに足早に食堂を出ていった。

「じゃ、オレもちょっと準備してくる!」

「オレも配置に付きます。他の皆さんほど役に立たないかもしれませんけど、出られますんで」

 ピーターも立ち上がり、かつての上官に敬礼する。ギルディオスは彼に近付き、その胸を小突いた。

「そんなこたぁねぇよ、頼りにしてるぜ。ピート、お前はレオと一緒に後方支援をしてくれ。前線にはオレとラミアンとヴェイパーが立つ、中間線と対空はルージュとフリューゲルに任せる。リチャードは屋敷に残ってもらって女子供を守らせる。男共が全員集まり次第、作戦会議だ」

 了解、とピーターは最敬礼してから駆け出した。ギルディオスも食堂から出ようとしたが、呼び止められた。

「待って」

 振り向くと、ヴィクトリアが真摯な眼差しでギルディオスを見つめていた。

「私も出るわ」

「ヴィクトリア。気持ちは解るが、力が戻ったばかりのお前があの化け物と渡り合えるとは思えねぇ。それに、あいつらに命を狙われているのは他でもないお前じゃねぇか。一番前に出ちまったら、殺されに行くようなものじゃねぇか。安心しろ、お前の家族の仇は、オレらがちゃあんと討ってやる。だから、今日は良い子にしてろ」

「あなたの言うことなんて聞けなくってよ。止めるというのなら、一人でも戦いに出るわ」

「だが、お前だけじゃ勝てねぇよ。だから、オレ達が出るんじゃねぇか」

「あなた達に勝算はあって?」

「あるさ」

「私が覚えている限り、あれは再生能力と増殖能力に特化しているだけなのだわ。魔導拳銃如きの魔法で吹き飛ばされてしまったのだから、魔法攻撃に対する耐性も物理的な攻撃に対する耐性も普通の人間とそれほど変わらないのだわ。肉体を吹き飛ばして粉々にしても、再生に多少時間は掛かるけど、いずれ元に戻ってしまうのだわ。魔導鉱石を砕かなければ再生が止まることはないのだわ。けれど、その魔導鉱石は魔法攻撃と物理攻撃に対する防御力を強化されているのだわ。それをどうにかしなければ、あれを殺せはしなくってよ」

「じゃあ、お前はどうするつもりなんだ?」

 ギルディオスが尋ねると、ヴィクトリアは淀みなく答えた。

「あの二人の核である魔導鉱石の耐久性を引き上げているものは、他ならぬ魔法なのだわ。その魔法が発動するためには、当たり前だけど魔力が必要なのだわ。それが尽きるまで戦い抜いて、ただの石と化した瞬間に破壊するしかないのだわ。私にはお父様ほどの技量はないから、あれの魔導鉱石を守っている魔法を解除することは出来ないのだわ。防御力を上げる魔法と一口に言っても様々な種類がある上に、生体魔導兵器の魔導鉱石を守る魔法なのだから複雑なものだろうし、その魔法自体にも罠が仕掛けられていることがあるのだわ。その魔法がどんなものなのか知っていれば、魔法陣を組んで対策も練れたのだろうけど、そこまで調べる時間はないのだわ。だから、単純にして明快であり、粗雑で無謀な手段を選ぶしかないのだわ。あなただって、そう考えるんじゃなくて?」

「まあ、間違っちゃいねぇな。オレの考えも大体そんなところだ」

 ギルディオスは腕を組み、窓の外を見やる。

「今日の戦いは、きっと派手な戦いになるだろうぜ。なんせ、化け物と化け物がやり合うんだからな。だから、生半可な気持ちで前に出ようとするな。ろくなことにはならねぇよ」

「だとすれば、尚更私は前に出た方が良くってよ」

「だが、奴らの狙いは間違いなくお前だ。だから、ヴィクトリアが前線に出ちまったら囮にしかならねぇよ」

「囮になんかならなくってよ。それに、私が下手に逃げ隠れしたら、余計に無用な被害が出るかもしれないのだわ」

 その言葉には揺らぎも迷いもなく、張り詰めた緊張感が満ちていた。昔のヴィクトリアでは言わない言葉だった。
乳臭さが消えつつある顔立ちは強張り、薄い唇を引き結んでいる。ギルディオスは、敢えて語気を強めて言った。

「遊びじゃねぇんだぞ」

「解っていてよ」

「気ぃ抜いたら、その瞬間に死ぬぞ」

「承知の上だわ」

「一人で突っ走らない、って誓えるか」

「あなたになら、背中を預けられてよ」

「上等だ」

 ギルディオスは一笑すると、ヴィクトリアに手を差し伸べた。

「但し、オレに息を合わせろ。実戦経験は、オレの方が万は上だからな」

「善処するわ」

 ヴィクトリアはギルディオスの手に手を重ねたが、すぐに手を離し、背を向けた。

「ジョセフィーヌ。暖炉の上に飾られているバルディッシュ、拝借させて頂くわ」

「あら。あれってただの飾りじゃなくて、ちゃんと使えるものだったの?」

 ジョセフィーヌが目を丸めたので、ヴィクトリアはやや不満げに唇を曲げた。

「当たり前なのだわ」

「用事が終わったら、きちんと洗って元の場所に返してくれればいいわ」

 事も無げに返したジョセフィーヌは空の食器を重ねて盆に入れると、いつもと変わらぬ足取りで台所に行った。 
さすがに、誰も彼もが慣れてきている。それが少し異常だとも思わないでもないが、仕方ないことだとも思った。
ブリガドーンの一件が起こる前から、皆それぞれに血生臭い出来事を経験している。だから慣れないわけがない。
特に、ジョセフィーヌはキース・ドラグーンに憑依されている最中、サラ・ジョーンズ大佐として最前線に立っていた。
体を乗っ取られていても意識はかすかにあったのだそうで、キースを通じて最前線の情景も記憶しているらしい。
それでなくても、夫のラミアンは吸血鬼であり暗殺者だった男だ。血の匂いに対する生理的嫌悪感も薄れている。
だが、それはジョセフィーヌだけではない。フィリオラもキャロルも、十年前に比べればすっかり度胸が据わった。
それならそれでやりやすいのだが、彼女達が人並みの少女であった頃を知るギルディオスとしては少々複雑だ。

「着替えてくるのだわ。この服、あまり汚したくないのよ」

 ヴィクトリアは上等な生地で出来たスカートの端を持ち上げ、足早に食堂を出ていった。

「おう。オレ達は外にいる、早く済ませて来いよ」

 ギルディオスは壁に立て掛けておいたバスタードソードを取り、背負った。

「では、私も待機しておこう。君らが負傷したら、私の出番だからね」

 それまで事の成り行きを見守っていたファイドは、椅子を引いて立ち上がった。

「先生の仕事を増やさねぇようにするのが指揮官の仕事だ、いつも通りにやるだけさ」

「いつも通りか。うむ、それが一番だな」

「ちょっくら、化け物退治に行ってくらぁな」

 頑張りたまえ、とのファイドの声を背に受けて、ギルディオスは一歩ずつ進みながら内心で表情を強張らせた。
足早に長い廊下を抜けて正面玄関の扉を開け放ち、外へ出る。爽やかな朝日が降り積もった雪を輝かせている。
空気も澄み切り、ぴんとした寒さは心地良ささえある。だが、敵が訪れれば、この清々しさは血臭で塗り潰される。
 玄関先には、ヴァトラス家から戻ってきたルージュとフリューゲルがおり、その傍にはヴァトラス家が揃っていた。
リリは眠たげに目を擦っていたが、ロイズは事の重大さを充分認識しているようでいつになく怖い顔をしている。
フィリオラは普段着のエプロンドレスの上に厚手の上着を羽織っていたが、レオナルドは戦闘服を着込んでいた。
それは、ブリガドーンでの戦いでも着ていたポールの形見の戦闘服で、その上には厚手の上着を羽織っていた。

「おう」

 ギルディオスが片手を上げると、レオナルドは南西の方角へ目を向けた。

「とうとう、あれが来るんですか」

「まあ、そんなところだ。寝起きで悪ぃが手ぇ貸してもらうぜ、レオ」

 ギルディオスはレオナルドに向き、言った。すると、屋敷の裏手から地面を揺らしながらヴェイパーが駆けてきた。

「少佐! あの、僕はどこに付けばいいでしょうか」

「ヴェイパー。お前はロイと一緒に屋敷を守れ。万が一オレ達が突破されたら、お前達はリチャードと協力して皆を守り抜け。命令だ」

 ギルディオスはヴェイパーに言ってから、ロイズに向く。

「女達を任せたぜ、ロイ」

「了解!」

 ロイズは敬礼し、靴のかかとを叩き合わせた。

「フリューゲルも戦いに行くの?」

 やっと事の大きさを認識したリリは、不安げにフリューゲルを見上げた。彼は身を屈め、主に顔を近寄せる。

「くけけけけけけけけけけけけ。それがオレ様の本領だからな、行かなくてどうするってんだよこの野郎!」

「無茶しないでね」

 リリはフリューゲルの頭部装甲を丹念に撫でていたが、引き寄せて口付けた。フリューゲルは胸を張り、笑う。

「くけけけけけけけけけけけけけけけけ! リリのためだったらなんだってしてやろうじゃねぇかこの野郎ー!」

「あの、レオさん」

 フィリオラは、凶相と化した夫を覗き込んだ。レオナルドはひどく悔しげだったが、上着を脱いで妻に預けた。

「それぐらい、オレだって解っている。あれを叩きのめすのは、事が終わった後だ」

「結局ケンカするんだ…」

 呆れ果て、ロイズは小さくため息を零した。フィリオラは苦笑いする。

「もう、レオさんってば」

 ふと、ルージュが顔を上げた。皆がその方向に向くと、弟夫婦より少し遅れて兄夫婦が屋敷へ向かってきた。
リチャードは魔法の杖を肩に担ぎ、キャロルは乳母車を押している。乳母車の中で、赤子が楽しげに笑っていた。
どうやら、ウィータは散歩と勘違いしているらしい。リチャードは皆の元へやってくると、担いでいた杖を下ろした。

「で、僕は何をすればいいんですか?」

「リチャード。お前はロイとヴェイパーと一緒に、自分の女と子供を守れ」

 ギルディオスが屋敷を示すと、リチャードは小さく肩を竦めた。

「つまり僕は戦力外ってことですか。まあ、前回は非常事態だったから前線に出ちゃっただけですからね。それならそれで全力で頑張りますとも。キャロルもウィータも泣かせたくないですからね」

「そういえば、ヴィクトリアは」

 レオナルドに問われ、ギルディオスは両手を上向けた。

「それがなぁ…。まあ、そろそろ来る頃だろうと思うぜ」

 唐突に、頭上から音が降ってきた。皆が揃って見上げると、正面玄関の真上の縦長の窓が全開にされていた。
開けられたばかりの窓は蝶番をぎいぎいと軋ませて揺れていたが、窓枠に足が掛けられ、開けた主が現れた。
 黒い外套、黒いワンピース、黒い長靴、黒い手袋に身を包み、黒髪を三つ編みにして丸メガネを掛けていた。
華奢な腰に巻いているやはり黒のベルトには使い込まれた拳銃が差され、右手には槍に似た長物を持っていた。
半月状の巨大な刃が先端に付いた武器、バルディッシュを携えていた。その長さは、彼女の身の丈を超えている。

「なんだ、その恰好」

 ギルディオスは二階の窓から身を乗り出すヴィクトリアを指すと、ヴィクトリアはバルディッシュを肩に担いだ。

「あら。戦場に赴く恰好としては、死に装束は最適だと思うのだわ」

「ちょっと格好良いかも…」

 リリは、着飾ったヴィクトリアに見入っている。だが、ロイズにはとてもそうは思えなかった。

「そうかなぁ? どちらかって言えば、変だと思うけど」

 ヴィクトリアは窓枠を蹴って空中に飛び出したが、落下しなかった。羽根のように身軽に動き、とん、と着地する。
どうやら、浮遊魔法を使っているらしい。身の丈より遥かに長いバルディッシュにも、振り回されている様子はない。
丸メガネと拳銃は、彼女の両親の遺品だ。メガネを掛けて三つ編みにすると、どことなく父親と面差しが似ている。
母親似できつめの眼差しも、メガネ越しでは印象が変わって少し柔らかく見え、太い三つ編みは父親とそっくりだ。
 グレイスを知る者は、皆、グレイスのことを思い浮かべていた。当然、ギルディオスも彼のことを思い起こした。
ヴィクトリアのこの姿を、グレイスに見せてやりたいものだ。どれほど自分に似ているか知れば、狂喜するだろう。

「お父様とお母様も一緒なのだわ」

 ヴィクトリアはバルディッシュの柄を握り、目を上げる。

「だから、怯むことなどなくってよ」

「一端の口を聞きやがって」

 ギルディオスは一笑し、ヴィクトリアの頭をぽんと叩いてから歩き出した。

「だが、良い心意気だ」

 ヴィクトリアの表情は平静を取り繕っていたが、普段よりも強張っていた。怯んでいないというのは、嘘だった。
これまで、ヴィクトリアは小競り合い程度の戦闘をしたことはあるが、大規模な戦闘を経験したことはなかった。
今までの生体魔導兵器のやり口から考えるに、これから起こるであろう戦闘が簡単に片付くとは到底思えない。
だが、生体魔導兵器に殺されてしまった両親と異形の姉の無念を晴らすためには、怯まずに戦わなければ。
 アレクセイとエカテリーナは両親の仇であり、許しがたい罪を犯した者達だ。この手で、力で、制裁を加えたい。
やれる限りの手段を使い、使えるだけの魔法を放ち、動かせるだけ体を動かし、最後の最後まで戦い抜きたい。
生体魔導兵器と戦うことは、死した家族へ愛を伝えるための手段だ。もう二度と、言葉も手も届かないのだから。
だから、家族への愛は体で示すしかない。見てくれていなくてもいい、傍にいてくれなくてもいい、ただ伝えたい。
 誰よりも、家族を愛していることを。







07 10/22