ドラゴンは滅びない




猛虎、現る



 再び、銃口が眉間を抉っていた。
 ダニエルは回転弾倉式拳銃越しに、女を睨んでいた。女は蝋人形のように表情がなく、気配もどことなく薄い。
女の目はダニエルではなく、ロイズがいた場所を見つめている。荷物の検分を終えた二人に、気付かれたのだ。
真っ先に殴られたのは、ダニエルだった。瞬間移動能力者が誰なのかは、彼らには解らなかったようだった。
 男の靴に張り飛ばされた際に口の中を切ったのか、鉄臭い味がする。だが、それほど絶望感は感じなかった。
遠くから、重たい足音が響いてきていた。それは地面すら揺るがすほどのもので、人ならざる者の気配だった。
これは、ヴェイパーだ。ロイズは合流出来たのだ。後は、息子が上手く立ち回ってくれることを期待するしかない。
 誰も住んでいない建物が粉砕され、屋根が崩れ落ちる。兵士が放つ銃声も聞こえてきたが、不意に途切れた。
粘ついた水をぶちまける音と、砂に混じった生臭い匂い。それが、次第にこちらに近付いてきているようだった。
女の隣に、男が立った。女と同様に無機質な眼差しを下げて、銃口を向けられているダニエルを見下ろしてきた。

「機能停止させろ。あれはお前達の機械人形だろう」

 男の言葉にダニエルは短く返し、戦場に目線を投げた。

「無理だな」

 ダニエルの視線の先で、薄い土壁が吹き飛ばされた。中心を抉るように貫いた黒いものが飛び出し、鎖が軋む。
ぴんと伸びた鎖はたわみ、じゃりじゃりと鳴りながら戻っていく。崩れた壁の先には、巨大な機械人形が立っていた。
それは、ヴェイパーだった。左腕の先は切り離されているが太く頑丈な鎖で繋がれ、右手でその鎖を握っている。
ここに来るまでの間に戦闘を繰り返してきたため、頑強な装甲は砂と返り血にまみれ、両手も赤黒く濡れていた。
その背後には、少年が立っていた。ヴェイパーに続いて走ってきたらしく、息を荒らげて肩を大きく上下させていた。

「行くよ、ロイズ!」

 ヴェイパーは叫声と共に駆け出し、左腕を力一杯放り投げた。じゃりじゃりじゃりっ、と鎖が威勢良く伸びていく。
しかし、ヴェイパーの拳と連合軍部隊の間には距離があった。鎖の長さが足りず、標的には届きそうになかった。

「了解!」

 ロイズはヴェイパーの目の前に飛び出ると、車両から駆けだしてきた兵士達の前に出、両手を突き出した。

「空間湾曲!」

 空気が、震えた。空を切り裂いて真正面に飛んでいく鋼の腕と、本体を繋ぐ鎖の中間地点がぐにゃりと歪んだ。

「空間延長っ!」

 ロイズは左手を下げ、叫んだ。次の瞬間、ヴェイパーの左腕の鎖は千切れた。ように見えたが、歪んでいた。
鎖の中間は水面に没したかのように揺らいでいたが、その揺らぎは一つではなく直線上にも出現していた。
鎖の先は、直線上の歪みから飛び出していた。そう、鎖は切れておらず、揺らぎによって引き延ばされたのだ。
それが、ロイズの有する能力だった。空間に歪みを生じさせ、湾曲、延長、短縮、拡張、圧縮、と自在に操れる。
だが、その能力は使いどころが難しい上に出力が定まらないので、ヴェイパーを介しなければまともに使えない。
だから、ヴェイパーがいなければロイズは戦力と成り得ない。二人は友人であると同時に、相棒同士でもあった。
 ヴェイパーは踏ん張り、蒸気を噴き出しながら上半身を大きく回した。球形の上半身の下で、太い腰が軋む。
その動きに合わせ、鎖を引き延ばされた左腕が円を描くように回った。巨大な鉄塊の腕は、分銅と化していた。
左腕の先が、揺り戻される。連合軍兵士達がロイズに銃口を合わせた瞬間、左の兵士が豪快に薙ぎ倒された。
悲鳴を上げる間もなく、鉄の塊に砕かれて肉塊と化す。十数人はいたはずだが、その全てが一瞬で死体と化した。
右側へと振り抜かれたヴェイパーの左腕は速度を失い、地面に転げ落ちた。赤黒く汚れた拳を、砂に引き摺る。

「皆、大丈夫だった!?」

 そう叫びながら、ヴェイパーは左腕の鎖を巻き戻した。引き戻されて浮かんだ左腕が、歪みに没して消えた。
直後、二人の手前の歪みに現れ、がしゅっと肘に合体した。ヴェイパーの左腕と肩から、白い蒸気が噴き出した。

「ロイズも大丈夫? 辛くない?」

 ヴェイパーは手前に立つ少年の背に、声を掛けた。少年はこめかみを押さえて、青い顔をしている。

「…きつい。案外、封じの範囲が広いみたいだ」

 生臭い血臭と頭痛で、ロイズは戻しそうだった。連合軍に捕らわれている仲間達の元まで、力が届かない。
ヴェイパーは血でべっとりと汚れた左手を突き出して新たな敵勢と睨み合ったが、すぐさま囲まれてしまった。
それなりの数を倒したはずだが、連合軍兵士はそれ以上いるようだった。先程よりも多い銃口が二人を狙った。

「馬鹿が!」

 ダニエルは身を乗り出し、叫んだ。息子を射抜かんばかりに、睨む。

「焦りすぎだ! 真正面から攻める馬鹿がどこにいる! 私の指示を忘れたのか!」

 ロイズは敵の銃口ではなく、父親の声に居竦んだ。言い返そうと思ったが、何も言えずに両の拳を強く握った。
考えることには考えた。だが、どこからどう攻めたらいいのかなど解らない。作戦を練っている余裕はなかった。
父親から教えられる格闘術や異能力の使い方を覚えるだけで、精一杯だ。増して、この状況では頭が動かない。
 それでも、必死にやれるだけやったつもりだ。連合軍の目に付かないように動いて、ここまでやってきたのだ。
だが、仲間の周りには兵士が大量にいて突入する隙間もなく、魔力封じがどこにあるかも見当が付かなかった。
だから、結局、正面から突っ込むぐらいしか思い付かなかった。ロイズは、悔しくて泣いてしまいそうになった。
銃口に狙われているからではなく、父親から頭ごなしに否定されたことがどうしようもなく腹立たしかったのだ。
 不意に、太陽が陰った。正面を睨んでいるロイズは気付かないようだったが、ヴェイパーは気付き、仰ぎ見た。
耳と尾の付いた、鉄槌を担いだ影が太陽の中に浮かんでいる。それが、真っ直ぐに地上に向かって降ってきた。

「金剛鉄槌奥義、爆壊バオファイっ!」

 鉄槌が、振り下ろされる。突然響いた嗄れているが野太い声に、兵士達だけでなく異能者達も振り返った。
衝撃波が風を起こす。砂を巻き上げる。血と臓物を飛び散らせる。見開いた目を、からからに乾かしてしまう。
 巨大な影が突っ込んだのは、複葉機だった。操縦士が逃げ出すよりも先に鉄槌が翼にめり込んで、貫いた。
ばりばりと紙を破るような音が続き、鉄槌は上下の翼を粉々に砕いた勢いのまま、地面へと突っ込んでしまった。
 直後。激しい爆発のような震動が起こり、ずぅん、と地面が鈍く揺れた。複葉機のあった場所は、抉れていた。
舞い上がった砂が落ち、ぱらぱらと落ちてくる。唐突な出来事に誰しもが動きを止めて、抉れを見つめていた。
抉れの深さは相当なもので、底も見えなかった。空を切る音が上から近付いてきたかと思うと、突き刺さった。
異能部隊と連合軍兵士達の間に落下した物体は、複葉機の先端に取り付けられていた大きな回転翼だった。

「歯応えのないモンじゃのう」

 抉れの底から悠長に歩いてきたラオフーは、連合軍の車両部隊と兵士達を見渡した。

「柔い、柔すぎるわい。これなら、ウサギを捕らえる方が余程面白いわい」

 ラオフーは鉄槌を頭上に持ち上げてぐるぐると回していたが、放り投げた。

「金剛鉄槌奥義、円舞ユァンウ!」

 投げ飛ばされた鉄槌は鈍く唸りを上げながら、兵士達を薙ぎ払った。ヴェイパーよりも、遥かに威力が高い。
鉄槌は凄い勢いで回転しながら連合軍兵士を肉塊に変えると、その勢いを失わずに車両に突っ込んでいった。
 蒸気自動車、戦車、迫撃砲、迫撃砲、蒸気自動車。模型でも壊すかのように、鉄槌はそれらを易々と貫いた。
折れた煙突が跳ね飛び、車輪が転げる。最後にもう一機の複葉機の側面を貫いた鉄槌は、空へと舞い上がった。
ぶうんぶうんと不気味な唸りを上げながら、鉄槌は下りてくる。その真下には、異能部隊の面々が座り込んでいた。
 ダニエルは力が出ないのを承知で、放った。せめて勢いだけでも弱められれば、と思ったが、念動力が迸った。
空中に固められるかのように、鉄槌は止まった。側面にこびり付いた血と体液の雫も、凍ったように凝固している。

「ぐ…」

 重い。物体の重量だけでなく、鉄槌に封じられている魔力が恐ろしく高い。念動力が押し負けてしまいそうだった。
ダニエルが歯を強く食い縛って懸命に堪えていると、ラオフーは、ほう、とやけにのんびりとした態度で顎を撫でた。

「なかなかのもんじゃのう。さすがは、異能部隊の隊長どのじゃな」

「隊長!」

 ダニエルの背後で、自身の念動力で縄を千切ったピーターが立ち上がろうとしたが、足を押さえて座り込んだ。
小銃に撃ち抜かれた右足からは赤黒い血が流れ出しており、顔色は青ざめていた。ダニエルは一笑し、叫んだ。

「案ずるな、私はこれくらいで潰れはしない。だが、褒められるとは意外だな!」

 縄に気を向ければ、その時点で鉄槌が落ちてきてしまう。だから、このままでこの鉄槌をどうにかするしかない。 
元の持ち主に、返してやればいいだけのことだ。ダニエルは鉄槌に定めていた念動力を、鞭のようにしならせた。
頭上にびたりと固定されていた鉄槌が、動いた。血と破片と砂で汚れた槌の底が、真っ直ぐにラオフーに向かう。
底がラオフーの頭部を叩く直前、ラオフーは手を上げた。がぁん、と激しく金属同士がぶつかり、火花が散った。

「あ、ほいっと」

 ラオフーは手のひらに叩き付けられた鉄槌を軽く投げると、柄を手の中に収めた。

「親切じゃのう、おぬしは。ちゃーんと儂に返してくれちょるとは、感心感心」

「手応えは…あった気がしたのだが」

 ダニエルは深く息を吐き、限界近くまで高ぶった力を静めた。ラオフーは、からからと笑う。

「なかなかのモンじゃったぞ。人にしては凄いのう、おぬしは」

「お前は一体何者だ」

 ダニエルはラオフーを睨み、念動力を放つ態勢を取った。ラオフーは鉄槌を下ろし、車両の残骸に向かう。

「その辺の話は、おぬしの子とおぬしの機械人形にでも聞いちょくれ。儂は忙しゅうてな」

 ラオフーは蒸気自動車の残骸を鉄槌の柄でいじくっていたが、お、と呟いて革製のトランクを引っ張り出した。

「これのようじゃな。ならば、儂は退散するかのう」

 ラオフーは足元を蹴り上げて跳ねると、足の裏に空いた穴から青い炎を迸らせ、加速して舞い上がっていった。
ダニエルが駆け寄るよりも先に、金色の鉄槌とトランクを担いだラオフーは空高く上り詰め、小さくなっていった。
すぐに、その巨大な影は見えなくなった。気付くと、あの二人の男女の姿もまた、いつのまにか消え失せていた。
先程の戦闘で死んだのかと思ったが、それらしき死体はない。ダニエルは両手足の縄を、念動力で断ち切った。
 他の仲間の縄も念動力で解いてやってから、息子に目を向けた。ロイズは、ヴェイパーの傍で立ち尽くしていた。
小さな拳を固めて足元を睨み付け、涙を落としている。ダニエルはその姿を見ていたが、目を逸らして背を向けた。
 粉砕された複葉機の翼には、魔法陣が描かれていた。




 激しい戦闘を行った街から離れた場所で、異能部隊は野営を行った。
 負傷者が出たため、彼らの傷を魔法で塞いで活動出来るほどの体力が戻るまでの間、駐留することになった。
水場があったので、ヴェイパーの汚れも洗い流した。人の血や脂は錆の原因になってしまうので、入念に落とした。
 ロイズは小川の水でヴェイパーの汚れを洗い落とす仕事を終えて、仲間達の待っている野営地まで歩いていた。
背後のヴェイパーは、魔力を消耗したのか言葉少なだった。ロイズもまた、鬱屈としていたのでずっと黙っていた。
ざくざくと雑草を踏み分けて歩いていると、進行方向に背の高い影が立ちはだかった。それは、ダニエルだった。
ダニエルは暗がりの中でも解るほど、表情が厳しかった。ヴェイパーはロイズの背後で立ち止まり、顔を上げた。

「隊長。あの、今日のことは、僕が…」

「ヴェイパー、お前に責任はない。あるのはロイズだけだ」

 ヴェイパーの言葉を遮るように、ダニエルは語気を強めた。ダニエルは息子に歩み寄ると、右手を振り上げた。
乾いた破裂音がして、少年の軽い体は雑草の中に転がった。頬を張られて倒れたロイズを、ダニエルは掴んだ。

「なぜ真っ先に念力封じを捜し出さなかった!」

「わっ、解るわけないだろ、飛行機の羽根に描いてあるなんて! 無理言わないでくれよ、父さん!」

 ロイズは痛みと父親への畏怖で、涙声になっていた。あの場所から引き上げる前に、皆で一通りの調査をした。
ラオフーに破壊された二機の複葉機の翼に描かれていた大きな魔法陣は、広範囲を封じられる念力封じだった。
盲点だった。魔法陣が地面や車両に描いてあることは今までに何度かあったが、複葉機は初めてだったからだ。
だが、見つけられない場所でもなかった。思い付かない場所でもなかった。ロイズ自身も、悔しいと思っていた。

「私を父と呼ぶな、隊長と呼べと命じたはずだ」

 ダニエルはロイズを放り、強く言った。

「いいか、お前は兵士なんだ。私達と同じ異能者として生まれ、私の元にいる以上、私の部下に過ぎない!」

「…ダニー」

 居たたまれなくなり、ヴェイパーは彼の名を呟いた。ダニエルはヴェイパーをちらりと見たが、それきりだった。

「立場を弁えないか、ロイズ!」

「う…」

 地面に倒れ込んでいたロイズは上体を起こすと、熱く痛む頬に手を当てた。涙が、だくだくと溢れてくる。

「うるせぇ! 母さんを救えなかったくせに、何が上官だ、何が部下だ! 何が隊長だよ!」

 ぐい、とロイズの襟元が引っ張られた。ダニエルは息子の目の前に顔を寄せると、冷徹に言い放った。

「いつまでも引き摺るな。フローレンスが死んだのは、運が悪かったからだ。それだけのことに過ぎない」

「お前、それでも」

「上官をお前と言うな。二度目はない」

 ダニエルはロイズを地面に投げて転がすと、背を向けた。

「ヴェイパー。それを見ておけ。逃げ出されると、後で被害を被るのは我々だ」

「了解…」

 ヴェイパーは力なく敬礼すると、ロイズの傍に膝を付いた。ロイズは目元を腕で押さえ、しゃくり上げている。

「なんで、母さん、死んだんだよ、なんで、あんなのが、親父なんだよ…」

「ロイズ」

 ヴェイパーがロイズの肩に触れると、ロイズは声を殺して泣き出した。その痛みが、思念と共に流れ込んでくる。
空気を震わす泣き声は弱々しく、苦痛が滲み出ていた。ヴェイパーは、ダニエルの去った方向を見つめていた。
 一年前、フローレンスが死す前まではこうではなかった。ダニエルも、不器用ながらも息子に笑いかけていた。
快活な性格の母親、フローレンスが親子だけでなく異能部隊の空気も明るくさせていて、道中も辛くはなかった。
だが、一年前のある日、フローレンスが何者かの手によって殺されてしまってからは何もかもが壊れてしまった。
 胸部を貫かれての即死で、見つけた時には息はなかった。血溜まりに沈む彼女の姿は、決して忘れられない。
見事な長い金髪が乱れ、青い瞳を見開き、手の中に青い魔導鉱石の首飾りを握り締めたまま息絶えていた。
連合軍の目があるのでその場に長く止まれなかったので、葬儀らしい葬儀も出来ず、別れも簡単に終わった。
 それから、全てがおかしくなった。ダニエルは若い頃のように軍隊意識を高めて、自分の息子も厳しく扱った。
ダニエルは自他共に厳しい男だ。だが、妻の死が堪えているにしても、これはさすがにやりすぎではないのか。
フローレンスが死ぬ以前の、普通とは言い難いが穏やかな親子関係を知っているヴェイパーは悲しかった。
二人が夫婦になる前の、共和国軍の異能部隊時代や旧王都にいた頃の恋人時代を知っていると尚更だった。

「皆に、会いたいよ…」

 ヴェイパーは泣きじゃくっているロイズを太い腕で抱き締めて、小さく呟いた。友人達とは、随分会っていない。
ダニエルらと一緒に旧王都にいたのはほんの短い期間だったが、その間に、友人達から様々なものを教わった。
軍規ばかりに縛られていた自分を自由へと導いてくれたり、遊ぶ楽しさを教えてくれたり、数え切れないほどだ。
 主に、半吸血鬼の少年であるブラッドから多く教わった。ブラッド以外にも、ヴェイパーには大事な友人達がいた。
ギルディオス、フィリオラ、レオナルド、フィフィリアンヌ、伯爵、ラミアン、ジョセフィーヌ、リチャード、キャロル。
グレイスにはあまり会いたくない気もするが、会えるものなら会いたい。戦前の暖かな日々が、懐かしかった。
 ロイズはうわごとのように、母さん、と繰り返している。ヴェイパーも、その気持ちは痛いくらいに解っていた。
フローレンスはロイズの母親であるが、ヴェイパーを造り出した魔導技師でもある。だから、簡単に想像出来る。
ロイズの細い体を支えながら、ヴェイパーはダニエルの心情も思った。彼の心の内も、痛んでいるに違いない。
本当は、ダニエルも人並みに優しい男だ。不器用過ぎて、自分を押し殺しすぎて、歪めてしまってばかりいる。
 異能部隊全員の命を背負い、妻の死を飲み込み、息子を強くしようと思いすぎて空回りしているように思える。
ますます、悲しくなってくる。ヴェイパーは未だに兵器でしかない自分がやるせなく、無性に悔しくなってきた。
人造魔導兵器などではなく一人の人間であったなら、二人を支えてやれなくとも力になれたかもしれないのに。
 鋼の体が、魂に冷たかった。




 鋼の虎は金色の鉄槌を振るい、数多の命を蹴散らす。
 鋼の機械人形はその両腕に少年を抱き、彼の悲しみを噛み締める。
 鋼の如き心を持つ父親は、息子を愛するが故に上手く愛せずにいる。

 親と子の歯車は、噛み合わぬばかりなのである。







07 3/15