手の中の戦争




第十一話 恋の行方



高宮屋敷は、巨大だった。
ようやく着いた鈴音さんの実家は、高くて長い瓦屋根の付いた塀に囲まれていて、その塀がずっと続いていた。
交差点を抜けて住宅街の路地に入り、塀を辿っていったのだが、正面玄関の門が出てくるまでしばらくあった。
そして、正面玄関の門もまた大きかった。軽く四メートルぐらいありそうな、立派すぎる両開きのものだった。
門と同じように立派な表札には、高宮、と名が彫ってある。私達の乗った車は、そこから中に入っていった。
門の中にはちゃんとアスファルトが敷いてあって、駐車場まであった。しかも、結構な台数が止められる。
そこには、見覚えのある車があった。オレンジのフォルクスワーゲン・ニュービートル、すばる隊員の車だ。
その隣には、ブルーのパジェロ。神田隊員の黒のジープラングラーと遜色のない大きさの、オフロードカーだ。
駐車場の隅には、北斗と南斗のものほどとはいかなくても、充分に大きな黒いバイクが一台止められていた。
ハンドルにはフルフェイスのヘルメットが掛けてあり、Black heavy crusher と書かれたステッカーが張ってある。
まるで、レッドフレイムリボルバーみたいな言葉だ。直訳すれば、黒くて重い破壊者、だが、意味不明だ。
私は車を降りると、伸びをした。私の家からあまり距離がないとはいえ、一時間ぐらいは車に乗っていた。
神田隊員も降り、ロックを掛けた。すると、モーターの唸りと蝶番の軋みが聞こえてきて、私は振り返った。
まるで寺院のような、巨大な門が独りでに閉まり始めていた。私が呆気に取られていると、神田隊員が言った。

「改造したんだってさ、遠隔操作出来るように。ちなみに、あそこからモニタリングされている」

と、神田隊員は門の内側を指した。その先には、監視カメラがある。私は、それで腑に落ちた。

「ああ、だからですか。私達が来たから、閉めたんですね」

がこん、と重たい音を響かせ、門は固く閉ざされた。錠の動くような金属音もしたので、ロックしたのだろう。
さすがは高宮家だ。やることが違う。私は変なことに感心しながら、神田隊員に続いて、前庭を歩いていった。
これがまた、広かった。ここは都内なのかと信じがたいくらい、手入れの行き届いた植木のある庭だった。
季節の花が咲いていて、遠くに見える母屋の瓦屋根が光っている。その母屋もまた、大きな平屋建てだった。
玄関まで敷石が連なり、隙間には白い玉砂利が敷き詰められている。純和風の、風格のあるお屋敷である。
歴史とかあるんだろうな、とか、鈴音さんって物凄いお嬢様だったんだな、などと、感心しきりだった。
私は目に見えるものが物珍しくてきょろきょろしていたが、神田隊員は慣れているらしく、平然としている。
当たり前だ。神田隊員は鈴音さんの友達だし、高校からの付き合いなのだから、何度も来ているはずだ。
敷石の上を数十メートル歩いて、ようやく玄関が見えてきた。その玄関前には、涼平さんが立っていた。

「こんちゃっす、神田さん、礼子ちゃん」

涼平さんは、ジーンズにライダースジャケットを着ていた。きっと、あのバイクは涼平さんのものだろう。

「やあ。美空は?」

神田隊員が尋ねると、涼平さんは屋敷の中を指した。

「奧の広間にいるっすよ。礼子ちゃんが来るってんで、パル兄が張り切っちゃったんすよ。で、その手伝い」

「相変わらずだなぁ、インパルサーは」

神田隊員は、微笑ましげに笑った。パル兄、インパルサー、それはどちらも私の知らない名前だ。

「だけど、涼平君。美空の車もあるんだから、何もバイクで来る必要はなかったんじゃないのか?」

「ここんとこ、北斗と南斗の改良型部品を造ってばっかりで、ちっとも転がせてなかったんすよ。だから、距離が短くてもいいから乗りたかったんすよ」

涼平さんは、ちょっと気恥ずかしげにした。私はちょっと考えてから、言った。消去法だと、こうなる。

「そうすると、由佳さんの車って、あのパジェロですか? 随分とごついのに乗ってますね」

「姉ちゃんは、仕事で色んな場所に行くからな。ある程度馬力のある奴じゃないと、ダメなんだろ」

オレは二輪の方が好きだけどな、と涼平さんは付け加えた。神田隊員は、玄関の引き戸を開けた。

「とにかく、上がらせてもらおう。美空も高宮も待ち侘びているだろうから」

「朱鷺田さんと間宮さんも来てますしね。あと、機体輸送班の三番トレーラーも到着してるっす」

神田隊員に続いて、涼平さんが入っていった。私は、二人に続いて玄関に入った。土間も、やっぱり広かった。

「隊長とすばるさんと、北斗と南斗も来たんですか? グラント・Gはいないんですか?」

「うん、北斗と南斗はもう来てるよ。大体、十五分ぐらい前に到着したかな。グラント・Gは、来ないっていうか、まぁ、最初から来られないと言った方が正しいな。彼女のボディに何が仕込まれているかまだ全部は解っていないし、もしかしたら意思に反した行動もするかもしれないし、彼女のセンサーを経由して盗聴とかされたら厄介だってことでさ。シュヴァルツ工業の関係者は、どこにいるか解ったもんじゃねーから。今日は、長ーい話になるから覚悟しとけよ、礼子ちゃん」

涼平さんは、丈の長い革のブーツを脱いで廊下に上がると、横顔を見せた。その表情が、不意に厳しくなる。

「色んな意味でさ」

じゃあオレは先に、と涼平さんは板張りの廊下の奧に向かった。それはどういう意味なのだろう、と私は思った。
十年前のあの事件は、戦いだったと神田隊員は言った。それがどういう戦いなのかは、私はまだ、知っていない。
けれど、涼平さんも神田隊員も知っているのだ。神田隊員は、早く行こう、と私を急かし、廊下を進んでいく。
私はスニーカーを脱ぐと、神田隊員に続いた。廊下は薄暗くて、艶々した板張りの床はひやりと冷たかった。
薄暗いせいで、廊下の先が見えなかった。


涼平さんと神田隊員の後に続いて、屋敷の奧へとやってきた。
母屋の表からは見えないような位置の、中庭に面したところだった。こちらの庭には、綺麗な池が造られていた。
池の傍には松の木が植えられていて、鮮やかな日差しで針のような葉を輝かせ、時折弱い風で揺れていた。
障子戸がずらりと並んでいる縁側には、珍しく私服姿の朱鷺田隊長と、同じく私服姿のすばる隊員が待っていた。
庭には、戦闘服姿の北斗と南斗。日本庭園の中では、迷彩の戦闘服というものは、恐ろしく違和感がある。

「遅いではないか、カンダタ、礼子君」

腕を組んでいた北斗は、こちらに向いた。私の恰好を眺め、う、と身動いだ。

「れ、礼子君…」

「あーもうダメー、超気になるー!」

南斗はダークレッドのバイザーを押さえ、頭を反らした。私は、スカートの裾を押さえた。

「今度めくったら、実弾撃ち込むよ。オートで三十発ほど」

そうなのだ。今日、私は、珍しくスカートを履きたい気分になっていたので、短めのスカートを履いているのである。
以前に奈々と一緒に買い物に出た時に買った赤いチェックのプリーツスカートと、薄手の白いセーターを着ていた。
私としては、それほど色気のある恰好だとは思わない。だけど、北斗と南斗は違うらしく、それぞれで悶えている。

「あんたらさぁ、なんでそんなにスカートの中が気になるの?」

私が呆れると、北斗は勢い良くスカートを指した。

「気になるではないか! 何やらひらひらしておるし、気にならんわけがない!」

「そうそうそう! 無防備すぎて隙だらけだからさ、マジ調べたいわけよ!」

南斗は、ぐっと拳を握って力説する。私はスカートを押さえていた手を外し、両端を少しだけ持ち上げた。

「そんなに?」

「いかんいかん、いかんぞ礼子君! そんな、そんな恐ろしいことを企むでない!」

北斗は思い切り狼狽えて、後退っている。南斗も、中途半端に腰を捻った変なポーズで、身を引いている。

「気になるけどぉ、超マジ気になるんだけど、そういうのって、なくなくね、マジ有り得なくね?」

「ご開帳ー」

私は、スカートの前の方を持ち上げた。北斗と南斗はこれまた派手なリアクションで、ダメだぁー、と喚いた。
見たいのか見たくないのか、はっきりしてくれ。私はスカートの下に履いたスパッツを晒しつつ、二人を見上げる。

「中途半端だねー、あんたらのスケベ心って」

「な、なんやぁ、そうやったんかいな。なんや、えろうドキドキしてもうたで」

すばる隊員は、私のスカートの中身に安堵している。朱鷺田隊長は呆れ果てたのか、項垂れている。

「…お前ら全員、とんでもない馬鹿ばっかりだな」

ふと、前を見ると、神田隊員と涼平さんが固まっていた。私は持ち上げていたスカートを下ろして、裾を整えた。

「めくられるよりめくった方が気が楽かなー、と思いまして」

「そういう、問題なのかなぁ」

すっげー緊張した、と涼平さんは顔を引きつらせている。神田隊員は、口元を曲げた。

「礼子ちゃん…。君、女の子だろう。もうちょっと、もうちょっと、さぁ…」

北斗と南斗はお互いの手を取り合って、こちらを見ている。なんだ、その妙に乙女っぽい構図は。嫌すぎる。
二人は手を離してから、揃ってため息を吐いた。南斗は低く唸っているが、北斗は弱々しい声を漏らした。

「恥じらってくれたまえ、礼子君…」

私は、今になって恥ずかしくなってきたが、堪えた。つい調子に乗ってしまったとはいえ、やりすぎてしまった。
というか、周囲のことを考えていなかった。神田隊員だけならまだしも、涼平さんの存在を失念してしまった。
すると、障子戸が開いた。そこから現れた鈴音さんは、研究所の時とは違い、丈の長いワンピースを着ていた。

「やかましい。ていうか、何やってんのよ」

「所長! 礼子君が、礼子君がな、こー、がばっと!」

北斗が私を指しながら、擬音ばかりを使った。北斗らしからぬ言い回しなので、相当動揺しているのだろう。

「そうそうそう! がばっとさぁ!」

南斗も、スカートをめくるような仕草をしながら叫んだ。鈴音さんは、形の良い細い眉をひそめる。

「何を言ってんだか。とにかく、上がって下さいな」

鈴音さんは、北斗と南斗の言葉をあっさりと流し、障子戸の中を指した。北斗と南斗は、いやに素直に頷いた。
ジャングルブーツを脱いで、人間の足に良く似ているが銀色の素足になった。あの中に、ちゃんと足があるようだ。
縁側に腰掛けていた朱鷺田隊長は立ち上がると、一番先に入り、次にすばる隊員、神田隊員、涼平さんと続いた。
最後に、私と北斗と南斗が入った。南斗が後ろ手に障子を閉めると、外の光が失せ、部屋の中が薄暗くなる。
広い、畳張りの部屋だった。白いふすまが並んでおり、部屋の中心には大きな座卓と座布団が並べてあった。
上座には朱鷺田隊長が座り、後は階級順である。私は部隊の中では下っ端なので、下座に座ることになった。
鈴音さんが座ると、部屋の奥のふすまがゆっくりと開いた。そこから入ってきたのは、割と小柄な女性だった。
初秋に似合う、落ち着いたサーモンピンクのジャケットと薄いベージュの膝丈のフレアースカートを着ている。
栗色の髪を後頭部で束ね、前髪にヘアピンが二本差してある。クセでもあるのだろう、毛先が外に跳ねている。
髪と同じく栗色の澄んだ瞳と、可愛らしさのある顔立ち。ジャケット越しでも解るほど、減り張りのある体形だ。
特別、綺麗だというわけではない。むしろ、体形とは逆に幼い印象を受ける顔立ちだが、目を引く人だった。

「紹介するわ、礼子ちゃん」

鈴音さんは、彼女を手で示した。彼女は、鈴音さんに紹介されるよりも先に、微笑み、名乗った。

「初めまして。美空由佳と申します」

由佳さんはふすまを全開にして、奧を示した。

「そして、彼らが」

由佳さんの華奢な指が向けられた先には、畳張りの部屋に似つかわしくないシルエットが二つ、並んでいた。
右側の影は、大きかった。人間を遥かに超えた体格を持っていて、両肩には、巨大な何かを載せている。
左側の影は、すらりとしていた。こちらもまた、人間では有り得ないものを背と肩に持ち、腕も太かった。
目が慣れてくると、双方の色が解る。右側の影は強烈な赤だが、手や足の側面は黒く、重たい色合いだ。
胸部は迫り出ており、装甲車か戦車のようだった。顎は太く、右目にはオレンジ色のゴーグルが填めてある。
その奧にある、鋭い目が輝いている。鮮やかなライムイエローで、目元はきついが、口元はにやりとしていた。
左側の影は、深い青だった。肩の装甲に走るラインや厚い胸板は水色というか、スカイブルーになっている。
右側の肩装甲には白抜きの文字で、002、と印されている。顔はマスクで、ゴーグルはレモンイエロー。
両耳の部分には、円錐を半分に切ったようなものが付けてあり、そこからナイフに似たアンテナが伸びている。
いずれも銀色で、ゴーグルの色を映し込んでいた。青い方はマスクフェイスなので、表情は窺えなかった。
正座をしていた北斗と南斗は、体をずらして二つの影に向き直った。北斗は両手を付き、深く、頭を下げる。

「お久し振りです、父上」

南斗も、同じように頭を下げた。

「お元気そうで、なによりっす」

「南斗、北斗、てめぇらもな」

赤い方から、低く響きのある声が聞こえた。曲げていた膝を伸ばし、こちらに踏み出てきた。

「そっちのが、あの時の嬢ちゃんか。体はちぃと大きくなったみてぇだが、顔付きは同じだな」

赤い方の、ライムイエローのスコープアイが私を捉えた。

「十年ぐれぇ振りだな。オレの名はレッドフレイムリボルバー、この星の外から来たマシンソルジャーの一人だ」

「お初にお目に掛かります、鈴木礼子さん」

青い方は、スカイブルーの胸装甲に大きな手を当て、深々と頭を下げた。

「僕の名は、ブルーソニックインパルサーと申します。レッドフレイムリボルバーと同系列のマシンソルジャーでして、実質的には弟、次兄に当たります。そして、僕の兄である、レッドフレイムリボルバーを元にして造られた高宮重工製マシンソルジャーである南斗さんと北斗さんの叔父ということになります。どうぞ、よろしくお願いします」

私は、言葉が出なかった。レッドフレイムリボルバーだけじゃなくて、もう一体、青いロボットまでいるなんて。
まさか、彼と本当に会えるなんて。私は無意識に口を半開きにしていたが、それを閉じてから、深呼吸した。
ブルーソニックインパルサーは顔を上げ、胸に当てていた手を外した。天井が低いためか、背を曲げている。

「それでは、僕はお茶とお菓子を持ってきますので、少しお待ち下さい」

では、と彼はもう一度頭を下げてから、ふすまを開けた。その背には二枚の翼と、三つのジェットポッドがある。
体の半分以上はあろうかという長い足のかかとにも一つずつ付いていて、合計五つのジェットポッドを持っている。
インパルサーの足音が遠ざかってから、リボルバーが私達のいる部屋に入ってきたが、入りづらそうだった。
身長もそうなのだが、肩幅が凄い。こういう和室には絶対に向かないと思う。リボルバーは、身を捩って入った。
私達のいる部屋の隅にやってくると、箱のような太い足で、胡座を掻いた。曲げた膝の上に、大きな手を置く。

「あの野郎。だから、菓子なんざ先に持ってこいっつったんだ。いちいち戻るのは面倒くせぇだろうがよ」

リボルバーが刺々しく言い放つと、由佳さんは笑った。

「仕方ないよ、ボルの助。久し振りにあたし達以外のお客さんだもん、パルも張り切っちゃうよ」

ボルの助。パル。私は、その固有名詞にも混乱しそうになったが、言葉の前後から察するに二人の愛称だろう。
私は、記憶の中と写真でしか知らなかったリボルバーの存在と、新たなロボットの存在にかなり困惑していた。
てっきり、宇宙からやってきたロボットというのは、リボルバーだけかと思っていた。だけど、違っていた。
私の、予想を超えた展開だ。緊張と戸惑いで身を固くしていると、リボルバーの威圧感のある目線が向けられた。

「レイコさんよ」

「あ、はい」

リボルバーに名前を呼ばれ、私は上擦り気味に返した。リボルバーは銃身の先を畳に擦りつつ、背を曲げる。

「まぁ、その、なんだ。オレらの話聞いて、オレらの世界から身ぃ引きたくなったらスズ姉さんにでも言っておけ。今のスズ姉さんはえらい権力と金があるから、なんとか出来ると思うんでな」

「そんなに怖がらせるもんじゃないぜ、リボルバー。その辺の判断をするのは、全部礼子ちゃんなんだから」

涼平さんはもう正座を崩して、胡座を掻いている。あーあ、と南斗は頭の後ろで手を組んだ。

「オレから礼ちゃんに話してやろーと思ってたのにぃ、親父とパルさんにそれ奪われちまうなんて、マジ残念ー」

「仕方ないことだ、南斗。自分達は所有している情報は限られているのだ、話せることにも限度がある。父上やインパルサーどのとは違って、自分達のメモリーには機密保持のためのプロテクトも掛けられておるのだから、全ては話せん。だが、お前の気持ちも解る。自分も、己の口から礼子君に話してやりたいと、思わないわけではない」

北斗は、首を横に振った。鈴音さんは北斗と南斗を眺めていたが、ふうっと息を吐いた。

「私としては、あんた達には知っておいて欲しいことが一杯あるんだけど、何せ軍事目的に造っちゃったもんだから、色々と規制があるのよ。それでなくても、最近のシュヴァルツの動向がきな臭いから、下手にやばい情報とか持たせられないのよね」

「鈴木」

タバコをふかしていた朱鷺田隊長は、目を上げた。

「これから聞かされる話は、どれもこれもやばいものだ。当然だが、口外禁止だ。上官命令だ!」

「アイサー!」

朱鷺田隊長の語気が強まったので、私は反射的に敬礼した。一体、どんな話なのか、次第に恐ろしくなってきた。
だけど、好奇心もある。どういう経緯があって、どういう出来事があって、この状況になっているのか、知りたい。
私は全身に張り詰めている緊張を緩めるために、肩の力を少しでも抜こうとしたが、一向に抜けてくれなかった。
膝の上に置いた手を握り締めながら、ふと、神田隊員を窺った。神田隊員は、インパルサーの出た方を見ている。
そしてすばる隊員を窺うと、すばる隊員は鈴音さんと言葉を交わしている由佳さんを、複雑そうな目で見ていた。
神田隊員と、すばる隊員。これから、どうなるんだろう。私は不安と期待の混ざったような、感情が湧いてきた。
自分の気持ちにも整理が付けられないのだから、他人のことなんて。そう思い、私は思考を切り替えることにした。
今は、十年前の話を聞くことだけに集中しなくては。





 


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