手の中の戦争




第二話 任務の名はデート



私には、恋愛経験というものがない。


生まれてこの方、心の底から惚れ込んでしまうほど魅力に溢れた男性に、一度たりとて出会ったことがない。
私の友人である桜田奈々、通称なっちんは、やれあのアイドルが可愛いだの俳優が素敵だの、と忙しい。
その度に、奈々から長々と恋愛談義を聞かされるのだけど、私にとっては異世界の言葉のようにしか聞こえない。
要は、興味がないから理解出来ないのだ。思春期真っ直中の中学生として、いかがなものかとは思うけど。
でも。興味が起きないものは、仕方ないではないか。




英語の授業を終えて、教科書とノートを片付けながら、ふと思い出した。
そういえば私は、朱鷺田隊長からある任務を言い渡されているんだった。その決行日が、明後日だった。
教室の正面を陣取っている黒板の脇の、掲示板にあるカレンダーを見、決行日の日付をなんとなく眺めた。
昼休み前なので、教室の中は騒がしい。小さな弁当箱を抱えた女子の一団は、喋りながら教室を出ていった。
彼女達の弁当箱の小ささに、あんなので腹が持つのかな、と思いながら、私もカバンからお弁当箱を取り出した。

「礼ちゃん、屋上行こ、屋上!」

私の背中に、明るく弾んだ声が掛けられた。振り向くと、クラスメイトの奈々がお弁当箱を抱えている。

「あ、ちょっと待って」

私は奈々に断ってから、カバンの底から携帯電話を取り出した。フリップを開いてみるが、メールは来ていない。
前回、北斗が私に言ってくれたように、自衛隊は特殊演習をする際には、私を突然拉致することはなくなった。
その代わり、拉致を予告するメールが来るようになったのだ。今日は来ていないので、大丈夫そうだった。
前回、予告のメールが来ているのに見るのを忘れてしまい、結局拉致されてしまったことがあったからだ。
先日、自衛隊からもらった給料で機種変更したので、鮮やかなオレンジ色の携帯電話はまだぴかぴかしている。
その携帯電話をカバンの底に押し込んでから、お弁当箱を持ち直し、私は奈々と連れ立って教室から出た。
制服姿の生徒が行き交う廊下を歩き、奈々のまくし立てる話に適当に相槌を打ちながら、屋上に向かった。
今日は天気が良いので、さぞ気持ちが良いことだろう。


屋上には、私と奈々の他にも人がいた。
それは二年生の女子達だったり、同じクラスの男子達だったりするが、誰も彼もやかましく騒いでいる。
私は、毎日あまり代わり映えのしないお弁当を突きながら、明後日行う任務の内容を思い返していた。
やっぱり、こればかりは奈々に相談するべきだろう。私は箸を止めると、卵焼きを囓っている奈々に向いた。

「ねぇ、なっちん」

「ん?」

卵焼きを食べ終えた奈々は、私に顔を向けた。私は、箸を箸箱に戻してから、腕を組んだ。

「デートって、何すればいいと思う?」

奈々は、ただでさえ大きな目をまん丸くしていたが、ぱあっと表情を輝かせた。

「遂に礼ちゃんにも春が来たんだね! うわーめでたい、超めでたい!」

奈々は膝の上に乗せていたお弁当箱を脇に置き、ずいっと身を乗り出してきた。

「本の虫の朴念仁が、ようやく人間愛に目覚めたってわけね! 協力? いくらでもするするぅ!」

「いや、まだそこまで言ってないって。まぁ、してほしいけどさぁ」

私は勢いの良すぎる奈々を制し、苦笑いした。奈々は、自分のことのように浮かれている。

「で、相手は誰? 年上、年下?」

「年上だけど」

私は多少引きながらも、答えた。奈々は、うんうんと大きく頷いた。

「やっぱりそうだよねぇ、年下なんて頼りなくって付き合う対象に見られないよねー! で、どこ行くの?」

「今度の日曜日にさ、水族館に行くことになってんの。ほら、海岸線に添った国道沿いにあるやつ」

「ああー、あそこねー」

私の言葉足らずな説明でも、奈々にはどこだか解ったようだ。近場にある水族館と言えば、一つだけだからだ。
海沿いを走る国道の傍に建っていて、長いこと営業している水族館で、この近辺に住む人間なら一度は行く。
私も、子供の頃に何度か連れていってもらった記憶がある。どちらかと言えば、動物園よりも水族館が好きだ。
奈々は顎に手を添えて、水族館かぁ、ありきたりー、ていうか近場過ぎー、などと呟いていたが、私に向いた。

「それで、何をどう教えて欲しいわけ?」

「とりあえず、それっぽい恰好とか教えてもらえたらありがたいんだけど。私、そういうの疎いから」

私は、普段の自分の服装を思い出しながら言った。我ながら、笑えるほどに女っ気のない恰好しかしないのだ。
適当なトレーナーとジーンズか、それでなければ学校のジャージか、という気の抜けた恰好ばかりをしている。
スカートなんて制服以外では数えるほどしか持っていないし、そもそも似合わないので、あまり買わない。
それに、私が買う本と言えばほとんどが小説ばかりで、ファッション雑誌なんてごくごくたまに買うぐらいだ。
だから、最近の流行がどんな感じであるのかは解っていても、その流行に真っ向から乗るようなことはなかった。
途端に張り切った奈々は、お弁当の残りを素早く食べ終えてしまうと、浮かれてデートファッションを語り始めた。
私は、彼女の話に適当な相槌を打ちながら、奈々がまくし立てる情報の中から、有益な情報だけを取捨選択した。
全部真に受けてしまうと、えらいことになるからだ。




翌日の土曜日。私は奈々に引き摺られて服を買い漁っていた。
大型ショッピングモールの中にある、いわゆる若い子向けの店をほとんど回ったので、くたびれ果てていた。
人混みに揉まれて奈々に振り回され、正直、自衛隊でやっている演習や訓練と同じくらい疲れたかもしれない。
両手に抱えているいくつもの買い物袋が鬱陶しかったけど、手を放したら忘れてしまいそうなので、放せない。

「ていうかさー、こんなにいるの?」

私は、肩から提げた平べったい紙袋の中を覗いた。その中には、シフォンのワンピースがある。

「いるいるぅ。それだけあれば、大分組み合わせられるから、しばらく服には困らないよん」

奈々は先程買ったソフトクリームを舐めつつ、にこにこしている。彼女の手にも、しっかり買い物袋がある。
もしかして、私は奈々の買い物に付き合わされただけなのかもしれない。そう、ちらっと思ってしまった。
考えてみれば、買え買えと進められたものの半数以上は、どちらかと言えば奈々の趣味のものだった。
今更ながら、私は奈々の着せ替え人形になっていたことに気付いた。ていうか、気付くの遅すぎる。
やけにテンションの高いトークをしている、女子高生達の傍を通りすぎて、私鉄の駅へと歩いていった。
私鉄の駅に向かう階段へ昇ろうとした時、背後から声を掛けられた。聞き慣れた、優しげな声だった。

「やあ、礼子ちゃん」

振り向くと、私服の神田隊員が片手を挙げている。奈々は神田隊員に向き直り、挨拶する。

「こんにちは、神田さん!」

「あー、どうも」

私は、神田隊員に頭を下げた。神田隊員は見慣れているけど、戦闘服でも制服でもない姿だと違和感がある。
ダークブルーのジーンズに黒いジャケットを羽織っている神田隊員は、親しげで柔らかい笑顔を向けている。
奈々は、心なしか羨ましげな顔で、私を横目に見た。奈々には、私と神田隊員は親戚なのだと説明してある。
当然、それは嘘なのだけど、そういう言い訳でもしておかなければ、ちょくちょく顔を合わせる理由がない。
神田隊員は演習の時以外でも、私の身の安全の確保と近辺の調査のために、事ある事に私の傍にやってくる。
友達にするには歳が離れすぎているし、現役自衛官と女子中学生の接点なんて、そうそうあるもんじゃない。
なので、漫画などでよく見掛けるありきたりな言い訳、親戚を使ったというわけだ。本当にベタすぎるけど。
神田隊員のことが気に入っているらしい奈々は、いつにも増して女の子らしさを振りまきながら、彼に近寄る。

「どうしたんですかぁ、今日は」

「今日は非番だったんだよ。偶然だなぁ」

神田隊員は朗らかに笑ったが、私は知っている。神田隊員は、今日は非番ではなく、勤務の日のはずだ。
なのにこの場にいるということは、考え得るに、朱鷺田隊長が私の身辺を見てこいと命令したのだろう。
そして、私がここにいることは、既に自衛隊にはばれている。私の携帯には、発信器が仕込まれているからだ。
買ったばかりの頃に、北南兄弟の製造元である高宮重工に持って行かされて、二日後に手元に戻ってきた。
見た目はなんら変わりはないが、その中には恐ろしく性能がいい発信器が、内蔵されてしまったのである。
なんだか、首に鈴の付いた首輪を付けられたようで、決して気分は良くないけれど、これもまた仕方ない。
居場所が解らない時に、産業スパイやら軍事スパイやらに襲い掛かられてしまったら、私の命は絶対にない。
北南兄弟や神田隊員と共に戦闘訓練はしているけど、所詮は十五の子供、戦闘能力なんてタカが知れている。
だから、いざというときに助けてもらうには、どうしても居場所を報せるための発信器が必要というわけだ。
プライバシーの侵害と自分の命を天秤に掛けたら、やっぱり、自分の命の方が重たいに決まっているじゃないか。
そんなことを考えながら、私が怪訝な顔で神田隊員を見上げていると、神田隊員は申し訳なさそうに苦笑した。

「オレ、邪魔をしたかな?」

「いえ、別に」

私は首を横に振ってから、心なしか居心地が悪そうな神田隊員を見上げた。奈々がいるからだろう。

「明日の打ち合わせなら、後で電話でもすればいいと思うんですけど」

「ええ、なになに、礼ちゃんのデートの相手って神田さんだったのー?」

奈々は浮かれながら、私に詰め寄ってきた。私は、用意していた言い訳を言った。

「まぁね。神田さんは友達と一緒に行く予定だったんだけど、それがダメになっちゃったから、私が代わりに」

「あーいいなー、私も誰かとデートしたあい」

奈々は、不満げに唇を尖らせる。私は、一週間前の彼女の行動を思い起こした。

「だけど、なっちんは先週に遊びに行ったじゃん。中山達と映画」

「あれは、中山のダシにされただけー。あいつ、吉岡さんを誘うのが照れくさいから私を引っ張り込んだのよ」

けっ、と奈々はいじけたような変な声を出した。私は、ダシにされてしまった奈々に同情してしまった。

「そりゃダメだわ。ていうか、意気地がないねぇ、男子って」

「でっしょでしょー? まぁ、告るのに他の子連れていくような女子も意気地がないけどさー」

奈々は、さも鬱陶しげにする。

「でもって、どいつもこいつも、長続きしないんだよねー。昨日くっついたと思ったら、次の日にはもう別れてるしさぁ、もうちょっとぐらい続けって思わない、そういうの? ほんのちょっと気が合わなかったぐらいで別れちゃうんだもん、別れるぐらいなら最初から告るなっつーの」

神田隊員を窺うと、なんともいえない顔をしていた。最近の中学生の恋愛事情に、呆れているようだった。
私も、この現状には呆れている。恋愛の段階を踏まないで、いきなりヤることヤってから別れるのも多いのだ。
奈々は、その辺の生々しいことまで口に出しそうになったが、神田隊員の存在を思い出して言葉を止めた。

「あ、すいませぇん」

奈々は取り繕うような笑顔になったが、ふと眉を曲げた。彼女の右手に握られたコーンが、歪んでいる。

「あ」

喋っている間に手に力が入ってしまったらしく、柔らかくなっていたコーンがぐちゃっと握り潰されていた。
そのせいで、奈々の手は真っ白く汚れていて、べたべたになっている。ああ、これはかなり気色悪そうだ。
奈々も気色悪いのか、不愉快げな顔になった。手を洗ってくる、と私に断ってから、私鉄の駅へ駆けていった。
奈々がいなくなったので、私と神田隊員は必然的に二人きりになってしまい、その場に立ち尽くしていた。

「それ、持とうか?」

神田隊員は、私の持っている大量の買い物袋に手を伸ばした。私はその言葉に甘え、いくつかを渡す。

「ありがとうございます」

「昨今の中学生って、ああなのかい?」

神田隊員は、奈々の話に多少なりとも衝撃を受けているらしかった。私は、否定するべきか迷ったが、肯定した。

「ええ、まあ。大体、あんなもんです。私から見ても、色々とやばいなーって思いますけど」

「オレの頃はまだそんなでもなかったけどなぁ…」

私の買った服を抱えながら、神田隊員は変な顔をした。私は一歩身を下げ、神田隊員の傍に寄った。

「そういう神田さんって、どうだったんですか? 中学とか高校の頃って、彼女、いました?」

「いきなり何を聞くのさ」

神田隊員は、少し困ったように眉を下げた。私は、にやっと笑ってみせた。

「だって、勤務の最中はそういう話は出来ないじゃないですか。明日も、見た目はデートでも中身は立派な任務ですから、余計な話なんて出来ないと思うんです。それに、北南兄弟と一緒にいると、余計に聞けないんですもん。あの二人は神田さんで遊ぶのが大好きですから、恋愛の話なんてしたら喜び勇んで煽ってきますよ。カンダタのくせに色事とは何事かぁ、って」

「そりゃあ、まぁ」

神田隊員は納得したようだったが、困ったままだった。私は、次第に好奇心が湧いてきた。

「それで、どうだったんですか? 彼女、いたんですか?」

「どうしても、言わなきゃならない?」

逃げ腰の神田隊員に、私は頷いた。せっかくの機会なんだから、聞いておかなきゃ意味がない。

「そりゃ、ここまで来たら言って欲しいですよ。ああ、北南には言いません。当然ですけど」

「本当に、本当に、あの二人には言わないって約束してくれるのか、礼子ちゃん」

神田隊員は、不意に真剣な顔をした。私は、その気持ちが解るので、真顔になった。

「そりゃあしますよ。あの二人のタチの悪さは、良く知ってますから」

「それじゃ、約束だ。破ったりしたら、走り込みの距離を増やしてやるからな」

神田隊員の言葉に、私はもう一度頷いた。走り込みはただでさえ辛いのだから、その距離は増えて欲しくない。
周囲を行き交う人々の声に紛れる程度の声で、だけど私にはちゃんと聞こえるように、神田隊員は話し始めた。

「彼女はいなかったけど、好きな子ならいたよ。高一の時に同じクラスになった子で、良く笑う可愛い子だったんだ。その子の隣には、その子よりも大分美人な友達がいたんだけど、オレはそっちの子はちっとも目に入らなかった。気付いたら、好きな子の方を見ちゃってたからね。だけど、中学も違うし、家の方向も違うし、共通点なんてなかったから、オレはその子に近付く機会なんてなかったんだ。だから、高一と高二の前半まで、可愛いな、好きだな、って思いながらずうっと見てただけだった。近付く勇気なんてなかったんだ、近付いたらどうしたらいいか解らなくなるのが解ってたから。今にして思えば、もっと早くに近付いておけば良かったなって思うんだけどさ」

神田隊員の表情は、穏やかだったけど、切なそうだった。

「で、そうこうしている間に、えらいことが起きたんだ。詳しいことは事情があって言えないけど、本当にとんでもない出来事だったんだ。その出来事の中で、オレの好きな子に凄く近付いた奴がいて、オレが手をこまねいている間に、その子はそいつが好きになった。奪われた、とか思わなかったわけじゃなかったけど、元々彼女はオレのことは好きってわけでもなかったから、そう思うこと自体が間違いなんだけどね」

「それで、その、神田さんの好きな人は、その別の人とくっついたんですか?」

私が言うと、神田隊員は頷いた。

「そういうこと。オレの入れる余地なんてないくらいにね」

「結構、シビアな恋愛だったんですね」

私は、ぽつりと感想を漏らした。私には、到底縁のない世界だけど。神田隊員は、私を見下ろしてきた。

「まぁね。だけど、今でもその子のことは好きだよ。なんか、忘れられなくってさ。それに、その子がいなきゃ、オレはこの世界には入っていなかっただろうな」

「守りたい、とか思ったってことですか?」

私は、ベタベタな漫画みたいなことを言ってしまった。神田隊員は、切なげな顔のまま、笑った。

「まぁ、そんなところかな」

今まで、見たことのない表情だった。先程までの親しげな態度とも、上官らしい厳しい顔とも、違っていた。
雰囲気が若々しいので、彼の年齢を感じたことは少なかったけど、神田隊員は大人なのだな、と感じた。
どこがどう、というわけではないが、とにかくそう思った。子供だったら、絶対にこんなに複雑な顔はしない。
きっと、神田隊員の恋愛は凄かったんだ。十年経っても忘れられないくらい、余程素敵な恋だったんだろう。
神田隊員がすばる隊員になびかないのは、朴念仁であるように見えたのは、このことが原因なのかもしれない。
高校時代の恋が素敵すぎたから、それを未だに引き摺っていて、新たな恋を始める気にはなれないに違いない。
そういう話を聞いてしまうと、北斗が私にべったべたしてくるのは、恋とは違っているような気がしてきた。
大体、あんな精神年齢の低いロボットが恋なんて知るものか。そう思っていると、神田隊員が手を差し出した。

「とにかく、明日はよろしく頼むよ、礼子ちゃん」

「こちらこそ。ちゃんと守ってくれないと、困りますからね」

私は反射的に手を伸ばし、神田隊員の手を取った。大きい上に硬くて、ちょっとだけど、戸惑ってしまった。
握られると、それはもっと強くなった。考えてみたら、私って、今までろくに男の人と接したことがない。
そんなことじゃ恋愛なんて一度も出来なくて当たり前だよな、と思っていると、神田隊員は私の手を離した。
手を離されても、手には神田隊員の感触がばっちり残っているので、なんだか変な感じがしてしまった。
もしかして、意識でもしちゃったのか。そんなことを考えていると、意思とは無関係に照れてきてしまった。
それを誤魔化すために、私が俯いていると、神田隊員は私の背後を見上げた。釣られて、私もそちらを見る。
私の視線がショッピングモールの屋根に向いた直後、視線の先で、何かの影が引っ込んだような気がした。
神田隊員は、手首に填めたごつい腕時計を見た。デジタル表記の文字盤には、時刻以外の文字があった。

「エンジン駆動反応なし、人間だな」

「それが、明日の本命ですか?」

私が尋ねると、神田隊員はジャケットに隠れた腰に手を当てた。拳銃の位置を確かめているらしい。

「そう。あちらさんが、オレ達がデートするお相手だよ」

なんとも、物騒なデートになりそうだ。私は肩から提げたショルダーバッグの中の、拳銃の重みを感じていた。
中身は訓練と同じマーカー弾だけど、威力は充分にある。これも、発信器と同じく、携帯を義務付けられている。
奈々が戻ってくるまでの間、私と神田隊員は周囲に目を配らせて、他にも偵察員がいないか確かめていた。
いつもは見つけ次第、撃退するのだけど、今回は別だ。明日のデートに付き合わせるために、泳がせておく。
私は、買ったばかりの服をどんなふうに組み合わせようか、ではなく、持っていく武器の種類を考えていた。
我ながら、色気がなさすぎる。





 


06 6/10