手の中の戦争




シューティング・スター



人型兵器開発研究室の中心には、外装を纏わないロボットが二体、いた。
動力部分に接続しているシャフトやギアが剥き出しになっていて、人間の内臓にも似た各種機関を曝している。
肺の位置には、各関節に冷却用の吸気を送るための吸気機関と、熱を持った排気を出すための排気機関。
その下には、円筒型のバッテリーボックスが二つあり、バッテリーボックスの上には、超小型エンジンが二基。
左側のエンジンが通常の動作に用いるもので、右側はスペアだが、通常時の倍の出力を出す場合にも使用する。
腹部の中心は、そこだけ空間が空いていた。なんでも、後で追加装備をするために、開けておいたのだそうだ。
体の芯を支えるメインシャフトが、肩と首のフレームと、骨盤の位置にある足関節のフレームにも繋がっている。
股関節から伸びている、大腿骨とも言える足のメインシャフトは特に逞しく、膝関節も大きなものとなっている。
膝の下、足首の関節は緩衝材が多い。総重量三百キロを超える鋼の体を支えるのだから、強くなくてはならない。
肩に繋がる腕も、太い。ロボットとの格闘戦を行うことを前提にして造られているので、この部分の強度は高い。
エンジンからのパワーを確実に伝えるためのギアは大きく、簡単に千切れないようなケーブルが使われている。
手首から先に付いている、人間の手に酷似したマニュピレーターも剥き出しになっていて、指は全て伸びている。
頭は人間のそれよりもやや大きく、各種センサーが詰め込まれているので、一際配線が細かく構造も複雑だ。
処理速度を高めるために表情をなくしてマスクフェイスにしたらどうか、との提案も出たが鈴音に却下された。
なので、彼らの目から下は人間の顎部分に似た形になっており、頬骨と歯と顎に似た、フレームが組まれている。
当初はゴムカバーの予定だったが、高宮重工が柔軟性の高い合金を開発製造したので、それを使用するのだ。
その合金の配合は、企業秘密だ。ロボットの顔に使用したら表情が出せるほど軟らかいが、本当の金属だ。
目の部分には、全部で三つのカメラスコープが埋め込まれている。前方の全方向を捉え、確実に見るためだ。
完成したらゴーグルタイプのカバーを付けるのだが、剥き出しの状態では、三つの目があるようで少し不気味だ。
エンジン部分が増えたので、発声装置は胸部ではなく頭部に組み込まれていて、ますます人間に近くなっている。
だが、頭脳は頭にはない。彼らの頭脳と言える、大容量の記憶回路を搭載したAIは胸部上に組み込まれている。
二つある機体の、心臓の部分だけはぽっかりと穴が開いている。繋げられるべきケーブルも、繋げられていない。
そこには、彼らの心と言うべき、感情回路を備えた回路集積体、機体の中枢、コアブロックが入るからである。
すばるは液晶モニターを睨んでいた目を押さえ、上体を逸らした。視界の隅には、二体のロボットが目に入る。
左側の機体には、NO.6、右側の機体には、NO.7、と表記がされている。かつての試験機と、改良型の機体だ。
厳密に言えば、六号機は初号機であり七号機は二号機なのだが、ナンバーが飛んでいることには理由がある。
人型自律実戦兵器の元となったロボット、通称マシンソルジャーは五体おり、全てナンバーが付いている。
001、002、003、004、005、とあり、鈴音は彼らに敬意を払う意味で、その続きのナンバーを使用した。
というわけで初号機は六号機となり、二号機は七号機となったわけであるが、事情を知らないと解りづらい。
以前は試験機でしかなかった六号機と、その弟機である七号機には、鈴音から授けられた名前が付いている。
NO.6 NANTO、NO.7 HOKUTO。漢字表記では、南斗と北斗だ。すばるは、その二体のプログラミングをしていた。
彼らは感情回路を備えた、意志を持つロボットになる。だが、その感情も、元を正せばプログラムに過ぎない。
鈴音は人間の情緒に限りなく近いものを造りたいらしく、喜怒哀楽だけでなく、細かな感情も注文に入れてきた。
感情のパターンが増えると、同時に思考パターンも数が増える。思考とは、感情と揃って働くものだからだ。
すばるは、その感情回路に入れるためのプログラムを作っていた。担当しているのは、哀、つまり悲しみだった。
だが、感情をプログラムで作り出すのは予想以上に難しく、すばるはどうにかこうにか仕事をこなしていた。
作った傍から新しいプログラムの作成を求められ、デバッグを行えば修正が必要になり、仕事は切りがない。
一歩間違えばデスマーチになってしまうが、この仕事を急かすクライアントはいないので、まだマシだった。
二体を自衛隊に引き渡すのは、一年半ほど先の話だからだ。急がなくてはならないが、時間はあるにはある。
午前九時に始めて、遅くても午後七時には切り上げるのが決まりだからだ。止めないと、鈴音に止めさせられる。
シュヴァルツ工業とは、違っている。戦術二課は米軍や他社からの発注もあるので、通常の仕事と平行だった。
当然、勤務時間内で終わるはずもなく、出勤時間より三時間早く出社して、帰るのは深夜どころか早朝だった。
そのくせ、残業代は出ないと来ている。あれに比べれば、仕事量は多いが、高宮重工の方がマシというものだ。
時計を見ると、そろそろ昼休みの時間が近かった。すばるは伸びをしてから息を吐き、首の関節を鳴らした。

「今日の上映、なんやったっけ?」

すばるの呟きに、隣の席で作業をしていた研究員がモニターを見ながら返した。

「宇宙刑事じゃなかったっけ? よろしく勇気の」

「あー、ギャバンかぁ」

向かい側の研究員が、可笑しげににやけた。すばるの隣の研究員も、半笑いになる。

「ていうか、普通、昼休みに特撮なんて上映する? どこの職場でもないよ、そんなの」

「所長はんの趣味やもんねぇ、ああいうの」

うちにはよう解らへんけど、とすばるが首をかしげると、向かい側の研究員は笑う。

「いいじゃん、面白いんだから」

「まぁねー。こんな山奥に閉じ込められてパソコンと向かいっぱなしになってると、気ぃ狂いそうだもん。その方法はなんであれ、息抜きはなきゃいけないよね」

隣の研究員が、ちょっと肩を竦める。向かい側の研究員は、すばるに同情した。

「間宮さんも大変だよな。オレみたいなのはまだいいけど、間宮さんはまだハタチなんだろ? こんなところに連れてこられちゃ、遊びにも出られないしさ」

「そんなことあらへんよ」

すばるは、にんまりした。確かに、こんな辺鄙な場所に連れてこられたことは嫌だが、こちらには都合が良い。
情報を外に持ち出すのは難しいが、対人型戦闘兵器戦術課の頃の技術を使えば、やってやれないことはない。
ここで扱われている情報や研究データを外に出し、シュヴァルツ工業の関係者に渡すのが、本当の仕事だ。
その仕事は、順調に進んでいる。週に一度、下界というか市街地に降りられるのだが、その時は自由だ。
第一研究所の周辺には監視装置や防犯装置などが設置されているが、山を下りてしまえば、そんなものはない。
自由になれる一日の間に、シュヴァルツ工業の関係者と何らかの形で接触し、データの入ったディスクを渡す。
割と簡単な仕事だが、いつも緊張する。データを抜き出したという痕跡を残さないようにするのが、大変だ。
昼休みになったので、研究員達はちらほらと立ち上がっている。これから昼食を摂るために、食堂に行くのだ。
市街地に降りられないので、この研究所には生活に必要な施設が揃っているが、考えようでは刑務所同然だ。
閉鎖的な環境が長期間続くと、人間は必然的にストレスが溜まるため、その解消のための施設も多かった。
中でも特に力が入っているのが、鈴音が毎日のように特撮やアニメの上映を行っている、シアタールームだった。
名目としては研究員に娯楽を与えるため、なのだが、鈴音が自分で楽しむために造ったというのが専らの噂だ。
二十二歳のうら若き女性でありながら、第一研究所の所長である彼女は、外見に似合わずオタク趣味がある。
それも、幅広く、節操がない。鈴音しか入れない第一種機密倉庫には、本やDVDの山が築かれているそうだ。
戦隊物や仮面ライダーなどの特撮を始めとして、昔のアニメから変身美少女アニメ、ロボットアニメまで様々だ。
無論、漫画なども多く、鈴音が学生時代から集めた漫画本の数は軽く三千を超える、との話が広まっている。
先週はロボットアニメ強化週間だったので、鈴音が高校時代に好きだった、撃帝ジャスカイザーの上映だった。
ジャスカイザーは、俗にジャスティスシリーズと呼ばれる変形合体ロボットのアニメで、その第一作目なのだ。
二作目は音速帝ジャスティオン。音速警備隊ジャスティンと、宇宙暴走族パラリランとのバトルとレースだ。
三作目は超帝ジャスティンバー。古代兵器ジャスティンバーと仲間達が、未来師団バラルドと攻防を繰り広げる。
四作目は光帝ジャスピオード。正義の心から具現化したジャスピオードが、邪心から具現化したダークンと戦う。
五作目は覇帝ジャスティンガー。ジャスカイザーの正当な続編で、ラストではジャスカイザーが敵となってしまう。
ジャスティスシリーズは、どれもこれも突き抜けるほどテンションが高く、正直言ってすばるは好きではない。
だが、男性の研究員達にはなかなか好評のようで、上映会が終わった後に談義している様を見たことがある。
今日の上映は、特撮なので、まだ好きな類だった。すばるは椅子から立ち上がると体を伸ばし、息を吐いた。
明日は、待ちに待った休日であり、また、シュヴァルツ工業の社員としての仕事がある、とても重要な日だ。
色々と、準備をしなくては。


その頃。朱鷺田は、モニターに映るすばるの様子を見ていた。
人型兵器研究開発室に備え付けられた監視カメラが捉えた、あらゆる角度の映像が、複数のモニターに映る。
大量のコンピューターの並ぶ部屋の中には、すばると同じように白衣を着た人間が多く、見分けが付きにくい。
朱鷺田は組んでいた腕を解き、首を曲げた。長い間モニターを睨んでいたので、肩が凝ってしまいそうだった。
隣に座っている鈴音はそうでもないらしく、ノートパソコンで仕事をしながら、時折朱鷺田の様子を見ていた。

「体が鈍るな…」

朱鷺田がぼやくと、鈴音はノートパソコンから顔を上げた。たん、とエンターキーを長い指が叩く。

「それで、彼女の様子はどうです?」

「武装している様子はないが、気は抜けん。それで、明日は俺も下界に降りるのか?」

朱鷺田は、鈴音に目を向けた。作業服から白衣姿に着替えた鈴音は、長い髪を一纏めにしていた。

「私が二尉に頼んだ仕事は、間宮すばるの監視とシュヴァルツ工業関係者の確保です。相手の諜報ルートを吐かせて、それを潰したいんですよね。間宮さんを泳がせていたのは、そのルートが確かなものだという確信を持たせて油断させるためなんですよ。間宮さんがここに来て一ヶ月が過ぎたから、少なくとも四回はシュヴァルツの諜報員と間宮さんは接触して情報を渡しているはず。流出した情報は、人工知能二型のテストプログラムパターンの概要と、人格形成プログラムの基礎プログラム、エモーショナルリミットシステムの一部。どれも、あまり問題ではないです。やろうと思えば、メモリー・デルタのデータを使わなくても造れるものだし、あちらも同様のものを開発しているみたいですから」

「せいぜい殺さないようにするさ」

「出来れば、そうして下さい。あくまでも確保が目的で、暗殺じゃないので」

鈴音は、また自分の仕事に戻った。モニターの唸る音が響く狭い部屋に、キーボードを叩く軽い音が加わった。

「シュヴァルツ工業のプロジェクト・Gの進行を遅らせるのが、今回の作戦の最大の目的です」

「ここから流出する情報を断ち切れば、シュヴァルツは餌がなくなり、成長が止まるって寸法か」

朱鷺田は唇の端に挟んでいたタバコを外し、灰皿に灰を落としてから、銜え直した。

「その間に、あんたらはあの二体のロボットを造り上げて自衛隊に売り込んで、差を付けようって言うんだな」

「自衛隊だけじゃありません。民間にも、メモリー・デルタの技術をある程度使用した人型家電を販売するんですよ。今のところは物珍しさで売れていますから、売れる間に売れるだけ売ってしまおうと思いまして。ロボット市場は出来始めたばかりですから、それを安定させておかなければこれからの売れ行きは望めません。ロボットの売れ行きが芳しくなければ、大分無理をしてロボットの製造販売を始めた高宮重工が潤わなくなり、私達の研究も資金不足で頓挫します。だから、高宮重工が儲けるためにはシュヴァルツ工業が邪魔なんですよ。あちらは私達と違って、湯水の如く技術を放出していますから、ほぼ完成している人工知能一型のデータまで漏れたら事なんですよ。あちらは、それを使ってすぐにAIロボットを発売してしまうでしょうから。そうなったら、商売上がったりです」

鈴音が淡々と並べた言葉に、朱鷺田は少し呆れた。

「要は、あの女がこの研究所にいなければいいだけの話じゃないか。あんた、それを解ってあの女を引き入れたんだろうが、なぜだ。下手をしたら、あんたの親父さんの会社がダメになっちまう可能性だってないんだぞ」

「彼女は…」

鈴音はキーボードを叩く手を休め、目線を落とした。が、すぐにモニターに戻す。

「いえ、なんでもありません」

鈴音は、内心で自嘲した。自分で考えた作戦とはいえ、リスクが大きい。朱鷺田の言う通りになる可能性もある。
まずはすばるをこちらの手の内に入れておかなくては、という思いが先走るのを押さえるので、精一杯だった。
間宮すばる。彼女を第一研究所に引き入れたのは、鈴音の独断だ。他の研究員達からは、多少の反発があった。
不自然な経歴と、専門学校卒では有り得ない技術力を持っていたから、彼女に裏があるのは見えていた。
だが、鈴音はそれを強行した。なぜなら、今はあまり接することの出来ないリボルバーから、教えられたからだ。
今から一年半前。シュヴァルツ工業と高宮重工の未来を変え、そして、鈴音とリボルバーらの未来も変えた事件。
シュヴァルツ工業による襲撃を受けたリボルバーら五体は、鈴音らに危険が及ぶのを避けるため、別離した。
その時の戦闘で、シュヴァルツ工業はリボルバーらが人を殺せないことを知っていて、人間を機体の盾にした。
すばるが、その時の盾だと言う。第一研究所にやってきた彼に研究員達の映像を見せたら、そう言ったのだ。
一年半前の戦闘ではヘルメットを被っていて顔は解らなかったが、声は記憶していた、声紋が一致するんだ、と。
それを知ってしまったから、すばるの存在を切り捨てられなくなった。鈴音は、すばるの境遇に同情してしまった。
管理職として、あるまじき判断だ。増して、機密の中の機密である、第一研究所の今後に関わることなのに。
高宮重工の社長である鈴音の父親が、大学を出たばかりの娘を重要な地位に命じたのは、計算があったからだ。
昨今の高宮重工の躍進の根源であり、未知のオーバーテクノロジーの結晶、リボルバーを利用するためだ。
リボルバーは、鈴音に心酔している。鈴音をスズ姉さんと呼び、身も心も捧げるほど慕い、心から愛している。
彼の存在がなければ、高宮重工は他社から抜きん出た技術を手に入れられなくなり、ロボットも開発出来ない。
リボルバーが離れるのを防ぐために、鈴音を第一研究所のトップに就かせ、高宮重工との関係を繋げさせた。
何の理由もなしに、人を動かす社長などいない。鈴音も、この提案は良いと判断して受け入れ、引き受けた。
工業大学を出た鈴音は、必死になって色々なことを勉強し、なんとかやっているが、所詮はたったの二十二歳だ。
上手く行かないことも多い。自分よりも年上の研究員達を仕切りきれていないし、判断を誤ることもある。
これで、経験を積み重ねた管理職であれば、すばるの存在はすっぱり切り捨ててしまっていたに違いない。
だが、鈴音にはどうしても出来なかった。管理職としての立場より、彼女を哀れむ気持ちが強かったのだ。

「お嬢さん」

朱鷺田は、唇を噛んでいる鈴音の横顔に目を向けた。

「あんたは、ここの指揮官だ。判断を見誤ると、部隊は全滅する。甘さは捨てろ、早いうちにな」

「…でしょうね」

鈴音は、自虐的に頬を引きつらせた。朱鷺田は口からタバコを外して灰皿に押し付けると、次のタバコを銜えた。

「形はどうあれ、戦争には違いないんだからよ」

戦闘に至ることは、一番避けたいことだった。だが、このまま事が進んでいけば、それは避けられないだろう。
今はまだ、どちらも表立った行動は行っていないが、いつか必ず高宮重工はシュヴァルツ工業と交戦する。
相手が強力な兵器を造れば造るほど、こちらもそれを上回るものを造らなくてはならず、イタチごっこになる。
しかし、そうしなくては、シュヴァルツ工業が高宮重工が保有しているマシンソルジャーの情報を得てしまう。
そうなってしまえば、今以上の危険が訪れる。シュヴァルツ工業は、その技術力を兵器開発に利用しているのだ。
紛争地域や武装組織などを相手に商売をしていて、最近では米軍と協力して新たな歩兵ロボットを開発している。
シュヴァルツ工業が、高宮重工とは違った形でロボットを研究し、生み出すこと自体は決して悪いことではない。
むしろ、同業者として切磋琢磨して、互いに鍛えられて良いはずだが、シュヴァルツ工業は商売の相手が悪い。
シュヴァルツ工業の造った戦闘ロボットが氾濫するようになれば、世界各地の戦争は激化し、人々は死んでいく。
その技術を応用して、あまり平和的でない国家が大量破壊兵器を造る可能性もあり、危険の度合いは更に増す。
それらの危険を回避するためにも、情報を遮断し、シュヴァルツ工業のロボット開発を遅らせるしかなかった。
どちらも一企業であり、軍隊ではない。直接的な攻撃は出来ないので、そういった地味なことしか出来なかった。
歯痒くてたまらないが、どうにもならない。攻撃を仕掛けてしまえば、戦いたくないのに戦いが始まってしまう。
力を制すためには力が必要になり、敵を押さえ込むためには攻撃しかないが、それでは戦いになる。堂々巡りだ。
鈴音はやりきれなくなって、ため息を零した。壁一面がモニターが並ぶ監視室には、薄く紫煙が漂っていた。

「あの女とシュヴァルツの運び屋が接触するのは明日か」

朱鷺田は、吸い殻の積み重なった灰皿に、灰を叩き落とした。

「バイクでも寄越してくれ。俺も足がないと、動くに動けないからな」

「適当なのがガレージにありますので、後でキーも渡します」

鈴音は気を取り直し、顔を上げた。朱鷺田は肺まで吸い込んだ煙を、緩く吐き出す。

「場合によっちゃ、あの女を殺す必要もあるかもしれんな」

モニターの青白い明かりに照らされている鈴音の顔からは、僅かな表情も失せていた。年相応の、反応だった。
どれだけ重要な地位にいようとも、やはり、ただの女だ。朱鷺田は軽い苛立ちを覚えたが、顔には出さなかった。
事態の根本的な原因である五体のマシンソルジャーの存在を消そうとしない辺りも、甘い対応だと感じていた。
確かに、彼らは人間と同様の自我を持ったある種の生命体だ。だがそれ以前に、強力な兵器なのも事実なのだ。
どんなものであれ、強烈な力が存在していれば、人はそれを巡って争いを起こすのは必然であり、当然だ。
マシンソルジャーが逃げ回っていれば、コマンダーと呼ばれる人間達には、現時点での危険は及ばなくなる。
だが、事が解決するわけではない。それはあくまでも一時的な措置に過ぎず、根本的な部分は変わっていない。
マシンソルジャーを破壊するか、或いは宇宙の彼方に追い返すか、をしなければ、この戦いは終わることはない。
それが、戦争だ。





 


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