手の中の戦争




コンバット・クリスマス



 翌、十二月二十四日。クリスマスイブ。
 目を覚ました私は、周りの景色がいつもと違うことに一瞬戸惑ったが、自分の部屋であることを思い出した。 ベッドから起き上がって、テーブルの上に置きっぱなしにしたグレーのマフラーと読了した本の山を一瞥した。 一階からは、お母さんが朝食の準備の支度をしている音がする。お母さんの朝ご飯を食べるのは久々なので、 私は少し浮かれた気持ちになりながら手早く着替え、底冷えする廊下を通って階段を下りてリビングに入って、 胃が引きつるほど驚いた。いるはずのない人物がいたのだから、驚かない方がおかしい。

「なんでうちにいるんですか、隊長」

 私は目を丸め、リビングのソファーに座っている上官を凝視した。

「招集命令だ」

 他人の家なので居心地が悪いのか、朱鷺田隊長の態度は普段よりも弱かった。私は、隊長の前に回る。

「だったら携帯鳴らして下さい。それか、緊急無線でも」

「命令は命令なんだが、指揮官は俺じゃない。高宮のお嬢様だ。所長の指示で、お前を迎えに来たんだ」

 朱鷺田隊長は、口元を引きつらせている。私は訳が解らなくなり、声を裏返してしまった。

「はい?」

「神田の奴が、娘の願い事をあの所長に漏らしたらしいんだが、そしたら気乗りしてしまったらしくてなぁ」

 朱鷺田隊長はセブンスターのソフトケースから最後のタバコを抜くと、銜えて火を点け、くしゃっと握り潰した。

「総員出動だ。出てこなきゃ新年度の経費を二割削る、だそうだ」

「で、素直に従ったんですか」

 私は朱鷺田隊長の向かいの、二人掛けのソファーに座った。朱鷺田隊長は、ため息と共に煙を吐く。

「ついでに、俺達が上に報告出来ない不祥事の話もいくつか持ち出してきてな。使用弾丸数の鯖を 読んでいることやら、訓練用歩兵ロボットを実戦で使用しちまったことやら、お前と北斗の関係の話やら、 まぁ、色々あってな。俺としては、そんなものを上に報告されても別に問題はないんだが、お前達が動きづらく なっちまう。全く、あのお嬢様もあくどくなりやがった」

「でも、それ、大半はハッタリだと思いますけど。鈴音さんですもん、そんなことはしませんよ」

「俺もそう思う。だが、逆らえないんだ」

「隊長も、高宮重工にだけは弱いんですね」

「俺だって、やれるものなら蹴りたい。だが、相手はスポンサーだからな。強く出られないんだよ」

 渋面を作った隊長の言葉に、私は納得した。それなら、解らないでもない。

「戦闘部隊なんて言っても、結局のところは現場の下働きですもんね」

「どんな組織も、内情はそんなもんだ」

「でも、一企業の一管理職に顎で使われる戦闘部隊って、ちょっとどころか物凄く情けなくありません?」

「ああ、全くそう思う。だが、自衛隊も高宮には逆らえないからな。シュヴァルツ工業が勢力を失ってからと いうもの、自衛隊内にいたシュヴァルツ派もほとんどが高宮派になっちまった。いくら高宮の力が強いとはいえ、 一企業がここまで国家勢力に影響を及ぼすのはどうかと思う。この状態は、はっきり言って良くない。今のところは どちらも協調性を保っているが、その均衡が崩れたらどうなることやら、想像しただけでうんざりするぜ」

 朱鷺田隊長は、テーブルの上の灰皿を引き寄せて、灰を落とした。私は、頬杖を付く。

「現場の下働きに出来ることは、そうなってしまわないことを祈ることだけですね。高宮重工が味方のうちは いいですけど、敵にしたらこんなに厄介な相手はいませんもんね」

「だから、機嫌を損ねちゃまずいんだよ。癪に障るがな」

 朱鷺田隊長はかなりストレスを感じているのか、フィルターを噛み締めていた。キッチンから軽やかな 足音が近付き、エプロン姿のお母さんがやってきた。早朝の来客にも愛想良く出来るとは、お母さんは人格者だ。

「神田さんの娘さん、もう三歳になられたなんて早いですねぇ。ついこの間、産まれたばかりだと思っていたのに」

「本当に、早いもんですよ」

 朱鷺田隊長は、ぎこちなく愛想笑いをした。お母さんは、もうすぐ出来ますから、とキッチンに戻っていった。 この分だと、朝食は一緒に食べることになりそうだ。駐屯地や任務中には慣れっこだが、自宅では初めてだ。 二階は静まり返っていて、お父さんや健吾はまだ起きていない。起きてきたら、二人ともさぞ驚くことだろう。 でも、神田隊員の話に鈴音さんが乗り気になるなんて意外だ。やっぱり、高校時代からの友達だからだろうか。 実働部隊である私達とは違い、人型兵器研究所の所長であり管理職である鈴音さんは、かなり忙しいはずだ。 そんな中から時間を割いてくれるのだから、ありがたいと思わなくては。だから、私も参加する義務がある。 鈴音さんを始めとした人型兵器研究所の研究スタッフ達には、北斗達だけでなく私達も世話になっている。 私が戦闘で使用している装甲服、パワードアーマーの各種改造や、メンテナンスなどもきっちり行ってくれる。 部隊の隠密移動に欠かせないクワイエットエアプレーンの調整も担当しているので、なくてはならない方々だ。
 だから、鈴音さんからの頼みは無下に出来ない。ついでに言えば、久々に神田隊員とすばるさんの 娘さんとも会いたい。二人の一人娘である神田翼ちゃんは、人懐っこく人見知りしない子で、舌っ足らずな 関西弁で喋り、それがなんとも可愛らしい。愛想の欠片もない私にも懐いてくれるのだから、両親に似たいい子だ。
 翼ちゃん、元気にしているかな。




 午前九時頃。私達は、高宮重工本社ビルにいた。
 前にも来たことはあるが、やはりでかい。ロビーからして広大で、床はワックスで完璧に磨き上げられている。 まだ始業したばかりなのでロビーには人影は少ないが、ビル全体に社員達のざわめきが広がりつつあった。
 私はベージュのハーフコートにジーンズという、地味な格好をしていた。でも、下にはちゃんと武装している。 朱鷺田隊長はスーツを着込んでいるのだが、これがまた怖かった。サングラスでもあれば、筋金入りのマフィアだ。 ネクタイもきちんと締めて身嗜みも整えてあるのだが、全身から漂っている雰囲気がサラリーマンとは懸け離れている。 正面玄関やエレベーターホール、受付を固める警備員達は、私達のことをちらちらと窺っては言葉を交わしている。 疑われるにも慣れているので別に気にならないが、彼らにしっかりとした職業意識があるのは素晴らしいことだ。

「ほら、行くよ」

 私は朱鷺田隊長の傍に呆然と突っ立っている弟を見上げ、エレベーターを指した。

「つうか、なんで俺までここにいるわけ? ここ、高宮重工の本社だろ?」

 挙動不審の健吾は、しきりに辺りを見回している。私は吹き抜けを指す。

「詳しいことは上に行ってから話すから。ここじゃ人が多すぎる」

「上って…どこだよ」

 健吾が訝しげに呟くと、朱鷺田隊長はタバコを吸いたげにポケットに手を突っ込んだ。

「四十六階の特別会議室だ。そこで所長と落ち合う予定なんだ」

「誰とですか?」

 恐る恐る、健吾は朱鷺田隊長に尋ねたので、私は隊長に代わりに言った。

「鈴音さんに決まっているでしょ。ほら、さっさと歩け。時間の無駄だ」

「鈴音さんって、あの、高宮鈴音?」

 途端に健吾の態度が変わり、期待に弾んだ。男って単純で現金だなぁ、と思いつつ、私は頷いた。

「うん、鈴音さん」

「マジかよ!」

 嬉しそうに声を上げた健吾を、朱鷺田隊長がまた小突いた。元から低い声を、更に低める。

「さっさと行け」

「…はい」

 朱鷺田隊長の気迫に負けたのか、健吾は素直に従った。免疫のない人間にとっては、隊長はさぞ怖かろう。 嫌いなスーツを無理に着ているものだから機嫌が悪いし、健吾がここにいることも面白くなさそうだった。 だから、普段以上に声にドスがある。これでますます堅気からは懸け離れたなぁ、と私は思ってしまった。 しかし、鈴音さんに会えるというだけで機嫌がころっと治ってしまうなんて、健吾の扱いは非常に楽だ。
 そりゃ、ただの男子高校生にとってはテレビや雑誌などに露出の多い鈴音さんは女優も同然の存在だ。 ロボット工学専門誌とはいえグラビアを飾ったこともあるし、週刊誌に特集記事が載ることだってある。 その記事の内容は、鈴音さんの実態を知る私から見れば、かなり美化されていたことを付け加えておく。 現社長の次女だということもあり、次期社長最有力候補だとまことしやかに囁かれていて、世間からは 結構注目されている。だから、鈴音さんの外面しか知らない健吾が浮かれるのは、仕方ないと言えば 仕方ないことかもしれない。
 そして、私達はエレベーターに乗り、特別会議室まで向かった。




 四十六階は全室が会議室のフロアだった。
 普段は偉い人達が出入りするための場所に相応しく、他のフロアとは床の材質が違い、内装も立派だった。 第一会議室、第二会議室、第三会議室と通り過ぎて、一番奥にある一番広い部屋が特別会議室だった。 特別会議室の前では、鈴音さんが待ち構えていた。姿勢が良いので、遠目に見てもすぐに鈴音さんだと解る。 見るからに高そうな品の良いスーツを着ていて、ヒールの高いパンプスを履きこなし、長い黒髪は艶やかだ。 これで三十三歳だというのだから信じられない。年齢を重ねるごとに美しさは増す一方で、色気が半端ない。 二十歳になっても外も中も子供っぽい私とは、えらい違いだ。きっと、私と鈴音さんは全く違う生き物なのだろう。 健吾は鈴音さんを見た途端に呆けた。鈴音さんは私達に近付いてくると、優雅に微笑んだ。

「急に呼び出してしまって、申し訳ありません」

「あんたは我々のスポンサーですからね。機嫌を損ねて経費を削られてしまったら、死活問題ですから」

 朱鷺田隊長は嫌みったらしく言い放つが、鈴音さんは涼しい顔だった。

「あら、あれはただの冗談ですよ。本気になさらないで下さい」

「さあて、そいつはどうだか」

 朱鷺田隊長の口調は刺々しく、苛立っていた。

「礼子ちゃん。そちらが弟さんね?」

 鈴音さんは硬直している健吾に視線を向けると、健吾は見ている方が恥ずかしくなるほど慌てた。

「はっ、はい、そうです。鈴木の弟です!」

「あの、鈴音さん。なんで愚弟も連れてこいって言ったんですか?」

 私が疑問をぶつけると、鈴音さんは上品だった表情を崩した。余所行き用から友人用に切り変えたようだ。

「ヒーローショーの観客は多い方が楽しいじゃないの。それに、いっそのこと勧誘しちゃおうって思って」

「健吾を、高宮重工の社員にでも誘うつもりですか?」

「ええ、そうよ。健吾君が我が社に入社してくれれば、機密漏洩に関する不安要素を一つ潰すことが出来るのよ。 私の方でちょーっと調べてみたんだけど、健吾君って技術家庭の成績がなかなかいいのよね。だから、その道のことを きっちり教え込めば技術者になってくれそうな気がするのよねぇ」

「俺もその考えには賛成だ。下手に泳がせておくより、余程確実で安全だ」

 朱鷺田隊長は、健吾を見やった。

「今のうちに就職内定しておくか? このお嬢様に掛け合ってもらえれば、最終学歴が高校中退になったとしても、 一発で正社員になれるぞ」

 鈴音さんは、ワインレッドの口紅を載せた唇の端を上向ける。

「まぁ、無理に、とは言わないわよ? 人生の選択肢を、一つ増やしてあげただけだから」

「そうそう。高宮重工が嫌だったら、陸自にでも入りなよ。しごいてやるから」

 私は鈴音さんと朱鷺田隊長を示すと、健吾は狼狽えた。

「姉ちゃんとこは…出来れば遠慮したい」

「具体的な理由を二百字以内で」

「い、言えるかよ、そんなこと」

 弟は実に解りやすい反応をした。普通に考えて、美人の上司とヤクザじみた上司では、美人の方が良い。 私も、今から人生を切り替えられるなら、鈴音さんの下で研究員として働くのも悪くないかもしれないと思う。 でも、それは土台無理な話だ。私は自衛官の道を選んでしまったし、とっくに引き返せない場所まで来ている。
 健吾は高校一年生だ。羨ましいことに、健吾の前には、人生の選択肢がごろごろと転がっている状態だ。 弟は、それを選ぶための準備期間を行っている。それを、早急に決めてしまえというのはさすがに酷だ。 自分の道を決めるのは、誰でもない健吾自身なのだから。高校生活も長いのだから、結論を急ぐことはない。 鈴音さんは、それじゃ中へ、と特別会議室の扉を開いた。観音開きの重厚な扉の奧には、だだっ広い部屋が 待ち構えていた。普段は会議用テーブルや椅子が並んでいるのだろうが、それらは全て撤去されて壁際に 押しやられていた。そして、会議室中央に何かがいた。正視したくなかったのだが、見てしまったものは仕方ない。

「はははははははは! 遅いぞ礼子君、待ち兼ねたではないかっ!」

 やたらと体のでかい変な物体が、いつも以上にテンションの高い、低い声を発した。これは、北斗の声だ。 その隣にいる、同じぐらいの体格の奴も変なポーズを付けている。足を広げて、両手を斜めにして上げている。

「か、めーんっ、らいだぁあーっ!」

 そして、もう一体は南斗の声を発した。私は頭痛が走ったが、平静を保って鈴音さんに尋ねた。

「あの、あれ、なんですか?」

「仮面ライダーよ」

 鈴音さんはしれっと答えた。それは見れば解るのだが、なぜあの二人があの格好なのかを説明してほしい。 中身が北斗と思しき右側の物体は、黒のアンダースーツに身を包み、派手な装飾の付いた外装を付けている。 それは、今年放映している仮面ライダーシリーズの主役ライダー、仮面ライダーヴァンプそのものだった。
 仮面ライダーヴァンプは舞台は現代日本だが西洋ファンタジーをベースとした物語で、敵もそんな感じだ。 主人公である仮面ライダーヴァンプは、本来は人類の敵である魔物の一種族でありながら、人類の味方だ。 それというのも、ヴァンプの変身前である闇坂刃と言う名の青年は、吸血鬼と人間のハーフなのである。 幼い頃から人間として生活していた彼は、人間に対して牙を剥く魔物と戦うが、己の素性を知ってしまう。 魔物族としての本能と人間愛の狭間に揺れ、変身を重ねるたびに人らしさを失っていく、苦悩の物語である。 途中で、魔物討伐を使命とする魔導組織の仮面ライダーや別のハーフ魔物のライダーなども登場している。 闇坂刃は最初はクールキャラだったのだが、最近はそのキャラが崩れてきて、やたらと茶目っ気がある。 私も南斗に付き合ってなんとなく観ているが、思いの外面白かった。けれど、その中身が北斗だというのは頂けない。
 ヴァンプのデザインは名前の通りヴァンパイアがモチーフであり、コウモリっぽい羽根や牙が付いている。 飛行形態には翼に変形する、黒く長いスカーフを首に巻いていて、戦闘時にはそれがたなびいて格好良い。 だが、中身が北斗では全てが台無しだ。鈴音さんは、一体何を思って、この人選にしてしまったのだろう。
 もう一つの変な物体、南斗は言わずと知れた仮面ライダー一号の外装を纏っている。こちらは本郷猛だ。 仮面ライダーヴァンプは、自分の姿を気に入っているのか自慢気だ。顎に手を添え、軽く俯いてポーズを付けた。

「何をぼんやりしているのだね、礼子君。自分の美しさに見惚れでも」

「してない」

 私がばっさりと言い切ると、仮面ライダーヴァンプは抗議してきた。

「少しは褒めてくれたまえ、礼子君! 自分達はこの格好をするために、外装を全て外したのだぞ!」

「そうそうそう! 一日掛かりで変身したんだぜー!」

 仮面ライダー一号は、はしゃぎながら変身ポーズを付けていた。こいつは、ただ楽しんでいるだけだ。

「ほう。そちらが礼子君の弟君なのだな」

 仮面ライダーヴァンプ、もとい、北斗が健吾に気付いた。仮面ライダー一号、もとい、南斗も健吾に向く。

「へー。礼ちゃんにあんまり似てねぇな」

「…姉ちゃん。こいつら、何?」

 及び腰になった健吾に、私は簡潔に答えた。

「同僚」

「せめて友達と言ってくれよぅ、礼ちゃん。寂しいじゃんかよぅ」

 南斗は私ではなく、健吾に迫ってきた。健吾は逃げようとしたが、南斗は素早く健吾の肩に腕を乗せる。 そのまま腕を曲げ、首の後ろを押して、ぐいっと近寄せさせた。健吾の顔に、仮面ライダーのマスクが迫る。 まるで、キスの寸前のような状態だ。健吾が息を詰めていると、南斗は健吾をじっくり眺めてから解放した。

「スキャニング完了。体内に異物確認出来ず、特殊無線電波感知出来ず、生体改造反応なし。うん、 至って普通の人間みてーだぜ、安心したー。俺は人型自律実戦兵器五式六号機、南斗ってんだ。よろしくな、弟」

「ならば、戦闘にならずに済みそうだな。自分は人型自律実戦兵器五式七号機、北斗と申す者だ。 本来なら第一級軍事機密に抵触する情報だが、今回は特例として情報公開を許可されている。注意事項がある。 第一級軍事機密を知り得た時点で、お前には機密保持の義務が生じる。礼子君の弟であるから信用してはいるが、 念のため言っておこう。第一級軍事機密の機密漏洩を犯した場合、陸上自衛隊による拘束及び禁固、そして刑事罰が 下されることになっている。そうなりたくなければ、機密保持の義務に準ずるが良い」

 北斗は、健吾を睨み付けるように見下ろしてきた。脅されてしまった健吾は、頷くしかなかった。

「あ、はい」

 健吾を脅してしまうのはどうかと思ったが、自衛隊の機密に関わってしまう以上、約束事は守ってもらうほかない。 面倒な口上を北斗がしてくれたおかげで、私の仕事は減った。私は、びくついている健吾の背をぽんと叩いた。

「他人にこいつらの名前を漏らしたぐらいじゃ死なないとは思うけど、死にたくなかったら黙ってなよ」

「解ってるよ、死にたくねぇもん」

 健吾は、校舎裏で不良に囲まれた気弱な学生のようだった。別にいじめているわけではないのだが。

「弟君よ。今日、ここにお前を招いたことには、もう一つ理由があるのだ」

 妙に張り切った北斗が、前に踏み出てきた。でも、格好が仮面ライダーヴァンプなので、普段以上に威厳はない。 そうか、この状況の原因は北斗なのか。私は嫌な予感がフル稼働したが、愚行を阻むために行動を取る前に北斗が動いた。 北斗は健吾の前に立ちはだかり、声を張り上げた。



「自分と礼子君の結婚を認めてはもらえないだろうか!」



 私は、呆れすぎて目眩が起きた。





 


06 12/1