手の中の戦争




コンバット・クリスマス



 しばらくして、すばるさんと翼ちゃんが特別会議室にやってきた。
 その様子を、私達は会議室内を区切っているカーテンの隙間から見ていた。出番待ち、という状態だ。 すばるさんは薄いベージュのロングコートとヒールのないブーツを履いていて、長めの髪を背中に流している。 温和な顔立ちや物腰は変わらないものの、纏っている雰囲気が優しい。余程、家族での生活が幸せなのだろう。 翼ちゃんは、赤いダッフルコートを着ていてボンボンの付いた白い毛糸の帽子を被り、スカートを履いていた。 クリスマスカラーを意識しているのか、スカートはグリーンのチェックで、細い足は白いタイツで覆われている。 髪を伸ばし始めているらしく、柔らかな髪の毛先が肩口に触れている。翼ちゃんは、丁寧にお辞儀した。

「みなはん、こんにちは。かんだつばさです」

「皆はん、えらい久し振りですなぁ。元気してはった?」

 すばるさんは穏やかに微笑んだが、朱鷺田隊長の格好に気付くと不満そうに眉根を曲げた。

「なんや、隊長はんはあの役をやってくれへんの?」

「間宮。一つ聞きたい」

 会議室の椅子に腰掛けていた朱鷺田隊長は、タバコを灰皿に押し付けて消してから立ち上がった。

「なぜ俺をあの配役にした? お前の書いた台本をざっと見てみたが、とんでもない役柄じゃないか」

「隊長はんにお似合いやと思うたから、ああ書いただけやよ?」

「理由はそれだけじゃないだろう、間宮」

 朱鷺田隊長が詰め寄ると、すばるさんの足元にいた翼ちゃんは母親の後ろに隠れた。

「おとうちゃん、このおっちゃんがおかあちゃんのこといじめてんでー。なんでたすけへんのー?」

「そやそや。葵はんはうちの味方やよねー?」

 翼ちゃんの肩を抱いてすばるさんは笑うと、神田隊員は言葉に詰まった。脚本を読んだからだ。

「そりゃあ、まぁ…」

「じゃ、そろそろ始めようか。翼ちゃん、いい子に見ていてね」

 鈴音さんは膝を付き、翼ちゃんと視線を合わせた。翼ちゃんは、元気良く頷く。

「うん! つー、ええこにするで!」

 鈴音さんの視線が、カーテンの方に向けられた。私が片手を挙げると、三体のロボット達は一斉に頷いた。 出来れば、一度ぐらいはリハーサルをしたかった。タイミング調整をしないと、テンポがおかしくなってしまう。 だが、本当に時間がなかったのだ。台本を二三日前に渡されていたのならまだ良かったが、当日だったのだから。 これが戦闘ではないことだけが、唯一にして最大の救いだ。
 そして、『戦慄! 恐怖のサンタクロースガール(改題)』が始まった。 最初にカーテンから出ていったのは、グラント・Gだった。巨体を支えるキャタピラが、ぎちぎちと唸っている。 気持ち的にはステージの中央、現実には会議室の真ん中付近まで進むと、ブレーキを掛けてキャタピラを止めた。 どるん、と背中から伸びた排気筒から熱気が吐き出される。グラント・Gは、アメリカンな仕草で胸を張った。

「my name is Badness caribou! 俺ハ Winter ニナルト、very very 遠イ場所カラ Japan マデヤッテクル!」

 元から動きが大きいのだが、演技しているせいでその動きが更に大きくなっている。

「ソノ理由ハ至ッテ Simplicity ! 冬場ハ、北ノ国ヨリモ極東ノ島国ノ方ガ、稼ギガイイカラサ!」

 ドリルで出来た左腕を上げて、左右に振ってみせる。その際、首も同じように動かすのも忘れない。

「イツモノ俺達ハ、旧共産圏ノ連中ト国境付近デ Battle シタリ、諜報機関ノネズミ共ト Battle シタリ、テロリスト共ヲ罠ニ填メテ Battle シタリシテ活動資金ヲ稼イデイルンダガ、冬場ニナルト very very strong ナ Polar bear 共ガ俺達ノ仕事ヲ奪ッチマウ! アノ shit ナ bear 共ハソコラノ連中トハ訳ガ違ウンダ! 分厚イ毛皮ト強力ナ爪デ、装甲車サエ一撃粉砕シチマウ! 百戦錬磨ノ俺達モ、アンナ化ケ物ヲ相手ニシテイタラ、命ガイクツアッテモ足リネェンダ!」

 なかなか無理のある設定だ。テロリストより強いシロクマなんているものか。

「ソコデ、我ラガ優秀ナル Commander ハ考エタ! 北ノ国ヨリモ金回リノイイ国ナラ、荒稼ギ出来ルッテナ!」

 グラント・Gはすっかり役になりきっていて、声をやや低くしてドスを利かせている。

「今ノ季節、コノ国ノ子供ハ年末年始ニ親族カラ現金徴収シヤガル! 俺達ノ Commander ハソレヲ奪ッテ今後ノ活動資金ニスルツモリナノサ!」

 要するに、私とグラント・Gの役どころは子供からカツアゲしにやってくるサンタなのだ。物凄く嫌な役だ。

「デハ、我ラガ Commander ニゴ登場頂コウ! Please come!」

 私はカーテンを跳ね上げ、会議室内に出た。エアガンのMP5A5をがしゃりと肩に担いで、客席を見回した。 すばるさんに抱かれながら、一番前に座っている翼ちゃんは不安げだ。その隣の神田隊員も、戸惑っている。 朱鷺田隊長の手前にいる健吾は朱鷺田隊長が怖いらしく、身を縮めている。そして、朱鷺田隊長は半笑いだった。 なんだかんだ言って面白がっているようだ。だったら自分でやりやがれ、と私は上官相手に毒突きそうになった。

「口上が長ぇんだよ!」

 ごっ、と私はグラント・Gの頭部を、MP5A5のグリップで小突いた。Oh、とグラント・Gは頭を押さえる。

「oh,sorry!」

「大体、バッドネスカリブーつってもお子様は解んねぇだろうが! 全部日本語で喋らねぇか!」

 脚本の修正が間に合わなかったので、私のセリフは全て男言葉だ。グラント・Gは首を横に振る。

「NonNonNon! コノ口調ハ俺ノ Identity ! 修正命令ハ受ケ付ケナイゼ!」

「まぁいい。で、お前の方はどうなんだ」

「Oh! 稼ギノコトダナ! very very 順調ダ!」

 グラント・Gはいかつい胸を張り、ペンチ状の手が付いた右手を上向ける。

「電気街デウロウロシテル、リュック背負ッテ紙袋ブラ下ゲタ連中ヲ、片ッ端カラ張リ倒シテヤッタゼ!」

「そりゃあ人種が違う! 俺が狙えっつったのは、秋葉原のオタク共じゃねぇ! 子供だっつっただろう!」

「デモ、ナカナカイイ感ジダッタゼ? 奴ラノ持ッテイル初回限定版ハ、イイ値段デ売レルンダゼ!」

「平べったい本も売ったのか?」

「Oh Yes! Hole of tiger デナ!」

「まとめて稼げたんなら、一応、成果として認めてやる」

 私はサンタ服のポケットから衣装と一緒に渡されたタバコを取り出し、銜えた。火は点けない。

「だが、それだけじゃまだ不足だ。おい、そこのガキ、連れてこい」

「Yes sir!」

 グラント・Gは、健吾の元に向かった。その隣の朱鷺田隊長は、声を殺して笑い続けている。

「Hey boy! コッチニ来ヤガレ!」

「あー、うん」

 本心では関わり合いたくないらしく、健吾は嫌そうだったが立ち上がった。グラント・Gは、その背を押す。

「ホラ、サッサト歩キヤガレ!」

 健吾は私の前に連れてこられた。健吾の方が私よりも身長が高いので、威圧感を与えられないのが悔しい。 それでも精一杯やろう、と私はMP5A5の銃口で健吾の顎を押し上げた。きち、と引き金を軽く絞ってみせる。

「兄ちゃん、金出しな」

 これでは、カツアゲというよりチンピラヤクザである。だが、やらなければならない。

「言うこと聞かねぇと、簀巻きにしてコンクリ固めにして東京湾にダイビングさせてやるぜ。外人部隊上がりを 舐めるんじゃない、お前の知らねぇような修羅場を潜り抜けてきたんだ。目的のためだったら、手段なんて 選んでいる余裕はないんだよ」

 言っていてかなり恥ずかしかった。私は健吾の胸倉を掴むと、銃口を顎の先から喉元へと押し当ててやる。

「でっ、でもよ、俺の小遣いなんてタカが知れてるし、ていうか金なら姉ちゃんの方が!」

 声を上擦らせながら喚いた健吾に、私は叫んでしまった。

「中途半端に現実に戻るんじゃねぇ! 興醒めしちまうだろうが!」

「Hahahahahahahahaha! 兄チャン、言ウコト聞クナラ、今ノウチダゼ?」

 ぎゅいいいいいっ、とグラント・Gがデストロイドリルを回転させると、鈍いモーター音が不気味に響き渡る。 これには、さすがに健吾も気圧されたようだった。回転するドリルの鋭い切っ先が、徐々に、近付いてくる。 その時、カーテンがぶわっとめくり上げられた。

「待てぇいっ!」

 見事にハモった二人の声がドリルの回転音を掻き消し、カーテンの中から仮面ライダーが駆け出てきた。

「らいだーはんやー!」

 二人の仮面ライダーの登場に、翼ちゃんは目を輝かせた。

「そこの麗しきご令嬢、ええい、そうではなかった、そこの怪しい風体のサンタクロース!」

 中身が北斗の仮面ライダーヴァンプは、慌てて口調を修正した。こいつも素に戻りかけていたようだ。

「罪もない少年を脅し、金品を奪おうとするとは! その悪事、見過ごすことは出来ん!」

 中身が南斗の仮面ライダー一号は、ちゃんとなりきっている。私は健吾から離れて身構え、銃口を上げる。

「ちっ、正義の味方か!」

 なんて陳腐なセリフなんだろう、とは思うが突っ込んではいけない。全ては脚本が悪いのだ。

「この世に悪は栄えない! 我々が成敗してくれる!」

 仮面ライダー一号は、両手を前に出して構えた。仮面ライダーヴァンプも、斜に構えたポーズを取る。

「痛い目見たくなかったら、とっとと引き下がってくれないか。俺も、忙しいんだ」

 仮面ライダーヴァンプのキャラクターは、クールで偉そう、というやつなので、北斗の口調もそうなっている。

「てめぇらこそ、うちの戦闘員の実力を甘く見るんじゃねぇぞ。某世界的大企業謹製の戦闘ロボットなんでな」

 ここは高宮重工なので他社の名を出すわけにはいかない。私は、二人の仮面ライダーに手を振り翳した。

「行け、バットネスカリブー!」

「Yes sir!」

 グラント・Gはキャタピラを早めて前進すると、ドリルの左腕を振り上げ、仮面ライダー一号に叩き付けた。 仮面ライダー一号は片足を挙げて、そのドリルを受け止める。だが、金属音は起きず、軽い衝撃だけだった。 あくまでも演技なので、寸止めしているからだ。けれど、リアクションは派手で、お互いに勢い良く後退した。

「くっ、なかなかのパワーだ!」

「次は俺の番だ!」

 仮面ライダーヴァンプは空中に飛び上がると、グラント・Gに向けてキックを落とした。

「吹っ飛べ!」

 仮面ライダーヴァンプの靴底で側頭部を蹴られたグラント・Gは、演技ではなく本当に吹っ飛んでしまった。 あ、と北斗の素の声が小さく聞こえたが、もう遅かった。グラント・Gは、勢いに負けてよろけ、滑っていった。 壁際まで滑ったが、その手前で倒れた。たぶん、倒れさせるだけのつもりだったのだろうが強すぎたらしい。 グラント・Gは唸っていたが、下半身を人型に変形させて立ち上がった。どぅん、と踏み込み、床を揺らした。

「上等ダ! 勝負ダ、Masked rider 共!」

「行くぞ!」

 仮面ライダー一号が掛け声を出すと、仮面ライダーヴァンプもそれに従った。

「ここであんたと会ったのも何かの縁だ、付き合ってやるよ!」

 グラント・Gが駆け出すと同時にライダー二人も走り出し、途中で一緒に高くジャンプした。

「ライダーッ!」

 二人の足が揃えられてグラント・Gの胸部に向かい、落下の勢いと共に叩き込まれる。

「キィーック!」

 ロボット二体分の衝撃なので、先程より激しい音が響いた。グラント・Gは派手に転び、背中を引き摺っていった。 会議室の小綺麗な床に、ひどい傷をいくつも付けながら滑り、最後には壁に激突した。また、マジ蹴りされたようだ。 グラントはあんたらの妹じゃないのかよ、と内心で呆れていたが、私は次のセリフを思い出して演技に戻った。

「こうなったら仕方ない、俺が相手をしてやる!」

 私はMP5A5を投げ捨て、駆け出した。短いスカートが邪魔なので目一杯引き上げてから、床を強く蹴った。 パワードアーマーを着ているのであれば、私も本気でやってやるのだが、今は生身なのであまり無茶は出来ない。
 二人の目の前に飛び出すと、両足を前に出して二人の顔面に膝を入れ、擦れ違い様に後頭部を蹴ってやった。 身を屈めて着地し、ブーツの靴底を引き摺った。振り返ったが、二人はすぐに動かず、固まってしまっていた。 どうやら、いきなりスカートをめくり上げたことに驚いたらしい。だって、邪魔なのだから仕方ないではないか。
 間もなく、戦闘に意識を戻した二人が私に向かってきた。仮面ライダー一号のパンチを受け止めて 突き飛ばすと、仰け反った。そして、脇から飛んできた仮面ライダーヴァンプの蹴りを腕で止めて薙ぎ払い、 転ばせる。無論、演技なのだが。飾りの装甲に傷を付けないように、私は靴底の角ではなく、底を使って 二人の側頭部や胸部を蹴っていった。衣装の下に仕込んでいた刃を落としてあるワイヤーカッターを両腕から 取り出すと勢いを付けて投げ、先程の攻撃で姿勢が揺らいでいる二人の首に金属の糸を巻き付けてから、 私は腕を引いてワイヤーカッターを絞った。

「青いな、ライダー共! 所詮はアマチュア、プロには勝てないんだよ!」

 翼ちゃんに目をやると、翼ちゃんは不安を通り越して泣きそうになっている。

「アカン、アカンよぅ」

「ぐっ…」

「くそぉ…」

 ぎりぎりと首を絞められながら、二人はわざとらしく呻いた。翼ちゃんは小さな拳を握り、前のめりになる。

「なんでそんなによわいんー! いつもはもっとつよいやろー、どないしたんやー!」

「せやせや。そんなんじゃアカンで。つー、もっと応援してやり」

 すばるさんが頷くと、翼ちゃんは叫んだ。

「らいだーやったら、きばったれー!」

 私はワイヤーカッターを絞る手を少し緩めると、すぐさま二人はワイヤーカッターを振り解いた。

「そうだ! 我々は、こんなところで負けるわけにはいかないのだ!」

 仮面ライダー一号が、ライダーキックの構えになる。仮面ライダーヴァンプも、キックを放つ体勢になる。

「そうだな。このままやられっぱなしってのは、性に合わないんだよ!」

 二人のライダーが、私に向かって駆け出してくる。マジ蹴りしないだろうな、と不安になりながらも構えた。 すると、二人の軌道がちょっとだけ横にずれた。そして、二人は飛び上がり、足を突き出して落下してきた。

「ライダーキック!」

 それは私には当たらず、ぎりぎりのところで擦れ違って通り抜けた。でも、リアクションはしなければ。

「うあっ!」

 これまたわざとらしく声を上げ、倒れ込む。動き回ったせいでずれたサングラスを直し、立ち上がる。

「仕方ねぇ、今日のところは引き上げだ! 覚えていやがれ、仮面ライダー!」

 私は物凄く時代遅れの捨てゼリフを吐いて、カーテンの中に逃げ込んだ。遅れてグラント・Gも逃げてきた。 カーテンの向こうからは、翼ちゃんの歓声が聞こえている。カーテンを細く開けて、会議室の様子を窺った。 翼ちゃんは、話の筋から取り残されてしまって棒立ちになっている健吾の元に駆け寄ると、にっこり笑った。

「あんちゃん、らいだーはんにおれいいうんやで! たすけてもろたんやからな!」

「あ…うん」

 健吾は笑うに笑えず、頬を歪めた。翼ちゃんは、二人の仮面ライダーの元に駆け寄る。

「らいだーはん、ほんまにおったんやな! ほんまや、ほんまもんや! つー、うれしゅうてかなわん!」

 翼ちゃんは二人の仮面ライダーの手を取り、ぴょんぴょんと飛び跳ねた。

「らいだーはん、あのな、つー、おねがいがあるねん」

「お願いとはなんだね?」

 仮面ライダー一号が尋ねると、翼ちゃんは神田隊員を指す。

「つーのおとうちゃんな、つーとおかあちゃんをまもるためのおしごとしとるんやけど、めっちゃいそがしいねん。 なかなかかえってこられへんねん」

 ほんでな、と翼ちゃんはすばるさんを指す。

「せやから、おかあちゃん、いっつもさびしそうやねん。つーもさびしいけど、つーまでさびしがったらおかあちゃんが もっとさびしゅうなるから、がまんしとるねん。つー、ええこやから。せやかららいだーはん、おとうちゃんのおしごと、 てつだってくれへん? そしたら、おとうちゃん、いそがしゅうなくなるねん。おうちにかえってこられるねん。つーも、 おかあちゃんも、さびしゅうなくなるねん!」

「君は、そのことを俺達に伝えたいから、俺達に会いたかったのか?」

 仮面ライダーヴァンプが言うと、翼ちゃんは大きく頷いた。

「うん! そーやよ! つー、おとうちゃんもおかあちゃんもめっちゃすきやから!」

 なんていい子なんだ、翼ちゃん。目を動かして神田隊員とすばるさんを見ると、二人は胸を打たれている様子だ。 振り回された挙げ句に悪役をやらされたことは癪に障るが、今日のところは翼ちゃんに免じて許そうではないか。

「聞き入れた。その願い、正義の名に置いて、叶えてしんぜよう!」

 仮面ライダー一号が、高々と手を振り翳す。仮面ライダーヴァンプも、頷いてみせる。

「君のお父さんも俺達も、立場や戦う相手は違うが目指す場所は同じだからな。戦いの中で会うことがあったなら、 喜んで手を貸してやろうじゃないか」

「ホンマ!? やくそくやよ!」

「約束しよう」

「誓おう」

 二人の仮面ライダーは身を屈め、翼ちゃんと視線を合わせた。翼ちゃんは喜び、ぴょんぴょん跳ねた。

「やくそくやからね! やぶったらアカンからね!」

 翼ちゃんは、せっかくやからつーといっしょにあそんでぇな、と二人の仮面ライダーの手を引っ張っている。 あの分だと、二人があの扮装を解けるのはもうしばらく先になりそうだ。私はサングラスを外し、襟元に刺した。
 事が終わったら、どっと疲れが押し寄せてきた。肉体的な疲れよりも、精神的な疲れの方が遥かに強い。 思い切りずり上げたスカートの裾を戻し、手近な椅子に座る。グラント・Gはツノを付けたまま、カーテンの外を覗いている。 早速遊び始めた兄達や翼ちゃんと一緒に遊びたいようなのだが、悪役をしていた手前、出るに出られないのだ。 その後ろ姿が寂しそうだったが、私はグラント・Gを慰めてから、銜えたままだったタバコを抜いた。
 会議室の窓には、やさぐれたサンタガールが映っていた。





 


06 12/3