瓦礫の片付けは、大分進んでいた。 発情期で理性を失ったミイムに破壊し尽くされてしまった家の名残といえば、ひび割れた土台ぐらいしかない。 骨組みの鉄骨もぐにゃぐにゃに折れ曲がり、壁という壁は吹き飛ばされ、元の姿を思い出しづらいほどだった。 二年以上もこの家に住んでいたマサヨシらならともかく、一ヶ月ほど前に同居を始めたヤブキでは記憶も薄い。 サイボーグボディに搭載されている補助AIに残っている画像データを引っ張り出して、ようやく思い出せるほどだ。 ヤブキは土台の前に立って、ぼんやりしていた。イグニスは折れ曲がった鉄骨を引っこ抜こうと努力している。 ヤブキももちろん片付けを手伝っているのだが、機械生命体の腕力には敵うはずもなく、大したことは出来ない。 出来ることと言えば、ミイムの破壊から逃れた荷物や食料品を選り分けることぐらいだが、それはそれで大変だ。 その合間にハルの世話をしなくてはならず、ようやく形になり始めた畑の手入れにも行く必要があり、結構忙しい。 機械で出来た体は疲労を知らないのでいくらでも働けるのだが、それでも根本は人間なので、気疲れしてしまう。 ヤブキは埃だらけになった戦闘服を払い、シャベルを地面に突き刺した。別に凝っていないのだが、肩を回した。 「イグ兄貴ー、それ、抜けるっすかー?」 「なあに、心配無用だ」 イグニスは折れ曲がった鉄骨を両手で握り締め、両足を広げて腰を落とし、ぐいっと引っ張った。 「っどあ!」 イグニスの腕力に押し上げられ、鉄骨が埋まっているコンクリートが割れ、土台そのものがみしみしと軋む。 ヤブキは後退し、イグニスを見守った。イグニスは鉄骨を担ぐと、破片を踏み砕きながら勢い良く立ち上がった。 イグニスが曲げていた背筋を思い切り伸ばすと同時に鉄骨が抜け、細かな破片と共に土が高く舞い上がった。 「おぉー!」 ヤブキが拍手すると、イグニスは引き抜いた鉄骨をぞんざいに投げ捨てた。 「これくらいのことでいちいち喜ぶな、ガキかてめぇは」 「いいじゃないっすか、純粋に凄いって思うんすから」 ヤブキは土台から生えている鉄骨を、ひーふーみーよーいー、と指差して数えた。 「これで、残る鉄骨は五本っすね」 「まぁな。だが、それが終わったら今度は瓦礫の屑を片付けて土台を剥がさなきゃならねぇ」 イグニスは今日の作業で引き抜いた鉄骨を全て抱えると、土台の脇に出来た歪んだ鉄骨の山に重ねた。 「ハルはどうしている?」 「良い子にしてるっすよ、今のところは」 ヤブキは上体を反らし、ガレージを見やった。シャッターを半分ほど開いたガレージの中に、少女が座っている。 リビングの床から剥がされた破れたカーペットの上に座ったハルは、テーブルに画用紙を広げて絵を描いている。 だが、その表情は明るくない。今朝も少し泣いたので目元は赤らんでいて、小さな唇は不機嫌そうに曲がっている。 クレヨンをぐりぐりと動かして描いている絵も、どことなく色彩が暗い。ハルの不安な心中が、絵の上に現れている。 ヤブキの視線を辿ってハルの姿を見たイグニスは、少々心が痛んだ。ハルの両親は、まだ帰ってきていないのだ。 マサヨシが発情期に陥って暴走したミイムをエウロパステーションの病院に入院させてから、四日が過ぎていた。 当初は二三日で退院するとのことだったが、長引いてしまったらしく、サチコからもそういった旨の通信があった。 イグニスとヤブキはサチコの説明を受けて納得したが、ハルだけは納得せず、文句ばかりを並べてむくれていた。 マサヨシが機嫌を直すように言っても、通信越しでは今一つ効力が弱いらしく、ハルの機嫌は良くならなかった。 ヤブキが料理を作って食べさせても、ハルはミイムの作ったものを食べたがり、いつもよりは食べてくれなかった。 機嫌が悪いので何をやらせても嫌だと言うが、独り寝は不安なのか、夜になるとヤブキの寝床に潜り込んできた。 だが、それ以外の時はヤブキには近付こうとせず、ヤブキが何をしても、パパとママがいい、とばかり言っていた。 それはイグニスに対しても同じでイグニスが機嫌を取ろうとしても取り合おうとすらせず、ハルの不機嫌は重症だ。 「やっぱり、オイラ達じゃダメっすよね」 ヤブキはイグニスを見上げ、肩を竦めた。イグニスは、砂埃にまみれた手を払う。 「悔しいが、どうやっても俺じゃマサヨシには敵わねぇんだよな。俺の腕はハルを守ることは出来るが、抱き締めてやることは出来ねぇからな」 「オイラもっすよ。お兄ちゃんにはなれても、お父さんにはなれないっすからね」 ヤブキは後頭部を押さえ、苦笑する。イグニスはヤブキに近寄り、顔を寄せる。 「ヤブキ。今日のところはこれぐらいにしておこうや」 「え? なんでっすか?」 「そりゃ決まってる」 イグニスは、ハルへと目を向けた。ヤブキは途端に理解し、イグニスへ敬礼する。 「そうっすよね! 家の復興作業も大事っすけど、ハルはもっと大事っすよね!」 「それに、さすがに俺もくたびれたってのもあるからな」 イグニスは上体を反らして背中と腰の関節を鳴らし、ぐるりと首を一回転させた。 「俺はカタパルトのメンテナンスドックで、一っ風呂浴びてくる。ハルと遊ぶのはそれからだ」 「オイラも着替えてくるっす」 ヤブキが答えるとイグニスは頷き、カタパルトへ飛び立った。ヤブキは彼の背を見送ってから、隔壁に向かった。 現在、ハルとヤブキが生活しているのはガレージではなく、カタパルトと併設しているコロニーの管理室である。 季節変動や環境を整えるための循環システムを管理しているコンピューターの端末や、通信設備が整っている。 普段はコロニーの管理を任されているサチコが出入りするぐらいだが、人が暮らすための最低限の設備もある。 どうやら、コロニーの管理室としての役割だけでなく、緊急用のシェルターとしての役割も備えているようだった。 前の家よりは遥かに狭いが、キッチンもあればシャワールームもあり、味は悪いが栄養価の高い保存食もある。 ヤブキはカタパルトに繋がる巨大な隔壁の傍にやってくるとコンソールを叩き、人間用エレベーターを操作した。 程なくしてエレベーターが到着し、隔壁の左側にある小さな扉が開く。ヤブキはその中に入り、管理室に向かった。 エレベーターは管理室に直通なので、これ以上の操作は必要ない。到着するまでの間、ヤブキは砂埃を払った。 数秒後、エレベーターは管理室内に到着した。ヤブキは室内灯を付け、服の入ったマイクロコンテナを探した。 管理室の中は、この数日間ですっかり荒れていた。ヤブキが掃除をしない上、ハルが散らかしているからである。 コロニーのメインコンピューターの端末と大型のホログラフィーモニターしかなかった部屋が、今はとても賑やかだ。 ヤブキが目を離した隙にハルが壁に落書きをしたため、白かった壁は稚拙な絵や文字でカラフルに汚れていた。 「えーと、んーとぉ」 ヤブキは乱雑に転がっているマイクロコンテナを手当たり次第に開けていき、七個目でやっと服を発見した。 「あー、あったあった!」 ヤブキはその場で戦闘服を脱いでしまうと、シャワールームの手前に積み上がった汚れ物の山に放り投げた。 ハルの服もヤブキの服も、混じって重なっている。いずれ洗わなければ、とは思うのだがなかなか手が伸びない。 内心で苦笑いを浮かべながら、ヤブキはブーツを脱いでからジャージのズボンを履き、上には半袖シャツを着た。 ジャージの裾を入れながらブーツを履き直し、ファスナーを上げる。ヤブキは背筋を伸ばし、部屋全体を見渡した。 「さて、と」 我ながら、ひどい生活をしている。マサヨシと同じ部屋で暮らしていた時は、もう少し綺麗に出来ていたのだが。 あまりにひどいとマサヨシが注意してくるし、緊張感があったからだ。だが、ハルが相手では緊張感も薄れてしまう。 これもまた良くないとは思うのだが、どうしても緩みがちだ。ヤブキは自己嫌悪に陥りつつ、汚れた服を抱えた。 シャワールームに入り、洗面台の下に設置された全自動洗濯乾燥機に放り込み、洗剤のタブレットを一つ入れた。 スイッチを入れると、洗濯が始まった。このまま放っておけば綺麗になって乾かされるが、畳むのがまた面倒だ。 だが、洗わなければいずれ着替えがなくなってしまう。それは食器も同じで、シンクには汚れた皿が重なっている。 見れば見るほど嫌になるが、やらなければもっと嫌になる。洗濯の最中にやろう、とヤブキはキッチンに向かった。 手狭なキッチンは、人一人が入るのがやっとだ。食器洗い機が入るスペースはあるのだが、肝心のモノがない。 食料庫を兼ねた冷蔵庫が壁に埋まっており、二口ある電熱コンロの下には小型のオーブンレンジが付いている。 その右側にあるシンクは、とても小さい。水が出せればいい、という具合で、洗い物をするには全く向いていない。 増して、体格の大きいヤブキなら尚更で、まず腕が入りきらない。おかげで、いつも以上に苦労する羽目になった。 食器を洗い終えたヤブキはびしょびしょに濡れた手をタオルで丁寧に拭っていたが、ふと、あることが思い立った。 「しばらくは、イグ兄貴に任せても大丈夫っすよね」 ヤブキは食料庫を開け、中身を確認した。家の地下食料庫から運び出したものも、いくつか詰め込まれている。 だが、大半は保存食だった。ラミネートパックされた大量の食品を掻き分け、めぼしいものがないかを探っていく。 三段目の奥に、野菜の加工品を見つけた。水を加えれば元に戻るタイプで、保存料として添加物が加えてある。 ヤブキは同系統のパックを取り出して床に並べ、胡座を掻いた。昔、妹のためにお菓子を作った覚えがある。 その時は加工されていない野菜を使い、何か作った。妹を少しでも喜ばせたくて、子供なりに頑張っていたのだ。 だが、肝心の内容が思い出せない。ヤブキは頭を抱えて唸りながら、ダイアナに関する記憶を入念に洗い出した。 ダイアナが喜んでくれることなら、きっとハルも喜んでくれるはずだ。実妹と義妹の違いはあるが、妹は妹なのだ。 マサヨシやミイムに比べれば、恐ろしく頼りないのは解っている。役に立たない人間だということも自覚している。 だからこそ、やれる限りやりたい。ヤブキは床に這い蹲りそうなほど背を曲げて悩んでいたが、やっと思い出した。 と、同時に、シャワールームから洗濯乾燥終了を告げるアラームが響いた。その前に一仕事しなければならない。 洗濯物を畳むのは面倒であまり好きではなかったが、放っておいてはぐちゃぐちゃになるので、一応やらなくては。 ヤブキは渋々キッチンを出て、シャワールームに向かった。この分では、お菓子作りはもうしばらく後になりそうだ。 兄とママを兼任するのは、結構大変である。 機体洗浄を終えたイグニスは、ガレージに戻った。 不機嫌そうにお絵描きを続けるハルの傍に腰を下ろし、辺りを見回すも、ヤブキの姿はどこにも見えなかった。 着替えを終えるだけなら、ヤブキの方が早いはずなのに。不審に思いながらも、イグニスはハルに注意を向けた。 ハルはイグニスがやってきても気にも留めず、絵を書き散らしていた。おかげで、テーブルはクレヨンまみれだ。 周囲に散らばる絵の内容は取り留めのないものだったが、マサヨシとミイムの姿はどの絵にも描かれていた。 拙い字で、ぱぱ、まま、と大きく書き込まれ、ヤブキを含めた四人で笑いながら食卓を囲んでいる絵もあった。 イグニスは指先を伸ばし、画用紙を一枚拾った。画用紙からはみ出るほど大きく描かれているのは、家だった。 ミイムが破壊し尽くしてしまった、あの家に違いなかった。イグニスはまたもや心が痛み、その絵を床に戻した。 「なあ、ハル」 イグニスが話し掛けても、ハルは反応しなかった。 「あいつらはちゃんと帰ってくるって言っていただろ、機嫌を直してくれよ」 だが、ハルは振り返りもしない。 「もちろん、ミイムも絶対帰ってくる。だから、いい加減に」 「おうちは?」 ハルはクレヨンを動かす手を止めたが、その声は泣きすぎて掠れていた。 「そりゃ、また俺が建て直すに決まってんだろ」 イグニスはハルに近付き、顔を近寄せる。 「やだもん」 ハルはぐぐっとクレヨンを画用紙に押し付け、歪めていく。 「前のおうちじゃなきゃ、やだ」 「同じ造りにしろ、ってことか?」 「違うもん!」 ハルはクレヨンを画用紙に叩き付け、きっとイグニスを睨む。 「前のおうちがいいんだもん! パパとママがいなきゃやだもん! 新しいおうちなんていらない!」 「無茶を言うな。一度壊れちまったもんは、二度と元には戻らねぇんだから」 「やだぁ!」 「だから、解ってくれよ」 「いーやぁー!」 「気持ちは解るがな、でもな、ハル」 イグニスは、いや、いや、と繰り返すハルに辟易してしまった。筋道を立てて説明しても、ハルは理解しない。 いや、現実を理解したくないのだ。イグニスとて、ハルの住まう家を守りきれなかった負い目を背負っている。 だが、受け入れなければ始まらない。しかし、気持ちは解る。イグニスが迷っていると、ハルは遂に泣き出した。 この四日間であれだけ泣いたのに、まだ泣き足りないようだ。そのエネルギーには、機械生命体に匹敵する。 ガレージ内に反響する甲高い泣き声に聴覚センサーを貫かれ、ついでに心も貫かれ、イグニスは頭を抱えた。 条件反射で、おじちゃんが悪かった、と言いそうになってしまう。しかし、それでは問題は何も解決しないのだ。 「はーるぅー!」 すると、ガレージの外からヤブキに呼ばれたので、ハルは少しだけ泣くのを止めた。 「おにいちゃん…?」 涙と鼻水でべちゃべちゃに汚れた顔で、ハルはガレージの外に向いた。 「おやつっすよーおやつー!」 ガレージに駆け込んできたヤブキは、布を被せた盆を持っていたが、床に落ちていたジャンク品につまずいた。 「ってうぉおわ!」 ヤブキは両手を目一杯上げて盆を支えるが、姿勢だけは元に戻せず、顔面からコンクリートの床に突っ込んだ。 ずざざざざ、と顔面と胸部をコンクリートに擦り付けながらスライディングしていくヤブキは、恐ろしく間抜けだった。 数メートル滑って、ようやく勢いを失った。イグニスは笑うべきか笑わざるべきか一瞬迷ったが、笑ってしまった。 「何やってんだよ、ヤブキ」 「えーと…ホームインっすかね?」 高く持ち上げていた盆を慎重に下ろし、ヤブキは起き上がった。体の前半分だけ、砂埃で真っ白になっている。 「その中身が無事なら、一応はセーフだな」 イグニスは、ヤブキの持っていた盆を指した。ヤブキは盆をテーブルまで運ぶと、皿を覆っている布を剥がした。 「一応は大丈夫だったっすよ、一応は」 布の下から現れたのは、まだ温かいホットケーキだった。形はいびつだが焼き色は良く、色違いになっている。 黄色が強いオレンジ、一際目立つ濃いグリーン、柔らかなイエロー。ハルは、ホットケーキとヤブキを見比べる。 「何の味?」 「野菜っすよ、野菜。でも、ハルが嫌いなのは入っていないっすよ」 ヤブキはハルの傍に腰を下ろし、フォークをハルに渡した。ハルはホットケーキを切り分けると、囓った。 「どうっすか?」 ヤブキはわくわくしながら、ハルを覗き込む。ハルはホットケーキを噛み締めていたが、飲み下した。 「おいしいよ」 「じゃあ、良かったっす」 「でも、これ、ママのじゃない。ママのはもっとふわふわだもん」 ハルの寂しげな言葉に、ヤブキは苦笑する。 「ハル。もうしばらくの辛抱っすよ、辛抱」 「お兄ちゃんのじゃなくて、ママのが食べたい。パパとママに会いたいよぉ…」 ハルはまた泣きそうになり、顔を歪ませた。ヤブキはタオルを取り出すと、ハルの顔を拭ってやる。 「大丈夫、大丈夫。ハルが良い子にしていれば、絶対に二人は帰ってくるっす。だから、笑うっすよ」 ほれ、とヤブキはハルの柔らかな頬をつまみ、引っ張り上げた。 「んぅー!」 いきなりのことに戸惑い、ハルは変な声を出した。ヤブキは、そのままハルの口元を横に広げる。 「ほうら、笑うっすよー!」 「むぁー!」 「ほうらほうら」 調子に乗ったヤブキは、ハルの頬をぐいっと持ち上げた。ハルはその手から逃れようと、暴れる。 「ぃあー!」 「泣いてばっかりいると、可愛くなくなっちゃうっすよ」 ヤブキはハルの顔を散々弄っていたが、手を放した。ハルは弄られた頬を押さえ、眉根を曲げる。 「…う゛ー」 「誰もハルのことを捨てたりしないっすよ。だから安心するっす。ハルは独りぼっちなんかじゃないっすよ」 「本当? 嘘じゃない? パパとママはハルを捨てたりしない?」 ハルは急にしおらしくなると、ヤブキの膝に上ってきた。ヤブキは頷き、ハルの頭を撫でる。 「本当っすよ。だから、笑うっす」 「嘘じゃないよね、お兄ちゃん?」 「嘘だと思うなら、マサ兄貴達が帰ってきた時に確かめるといいっす。聞くまでもないことっすけどね」 「…うん」 ハルは涙を拭うと、小さく頷いた。ヤブキはハルを膝の上に座らせると、ホットケーキの皿を引き寄せた。 「ほら、冷めないうちに食べるっす。全部ハルのものっすから、焦らなくても大丈夫っすよ」 「うん」 ハルはフォークをホットケーキに突き刺し、強引に千切った。ヤブキはハルの小さな体を、大切に抱えている。 その様子に、イグニスは感心した。どうやらハルは、自分がマサヨシとミイムに捨てられると思っていたようだ。 家のことばかりが気になっていたイグニスには、その不安が見抜けなかった。それが、少しばかり悔しかった。 野菜が混ぜ込まれたホットケーキにかぶりつくハルの横顔は、ヤブキの膝の上にいるからか少々和らいでいた。 ハルを捨てる。すなわち、ハルから離れるということは、この廃棄コロニーから離れるという意味でもあるのだ。 だが、誰もそんなことは出来ない。イグニスにせよ、ヤブキにせよ、そうなのだから、ミイムもそうに決まっている。 この場所にいる者達は本来いるべき場所を失っているからこそ、この場所に留まり、生きることにしたのだから。 誰もハルを捨てられるわけがない。 08 4/3 |