不死鳥と二人の機械生命体との戦いは、昼過ぎに始まった。 三人はサチコが造り上げた戦闘訓練用フィールドに入り、それぞれの反重力装置を使って空中に浮いていた。 一辺が二百メートルもあるフィールドはエネルギーシールドで造られており、光の壁は黄色い輝きを帯びていた。 膨大な体積を誇る立方体の四隅にはシールドジェネレーターが浮かび、立方体を成すと同時に浮かばせていた。 機動歩兵同士の戦闘訓練用として造られたものだが、マサヨシもイグニスとの手合わせに使用することがあった。 だが、最近はトニルトスが現れたために、マサヨシがイグニスのフラストレーションを発散させなくても良くなった。 なので、めっきり使っていなかったが、サチコが事前に整備してくれたおかげで問題なく作動しているようだった。 マサヨシは昼食が入ったために重たい胃を気にしつつ、睨み合う三人が入った巨大な立方体を見上げていた。 生体コンピューターと化した愛妻と共にこの家を訪れたギルディーン・ヴァーグナーは、お茶の後に昼食も食べた。 その前に散々蒸かしイモを食べたにも関わらず、昼食に出されたミネストローネとパスタを食べ尽くしてしまった。 ミイムはアウトゥムヌスが食べる量に合わせて大量に作ったのだが、ギルディーンは予想以上のペースで食べた。 そのため、肝心のアウトゥムヌスは満足するまで食べられず、欲求不満に陥っている彼女は続きを食べている。 キッチンでは、炊きたての白飯をお茶碗に山盛りにしたアウトゥムヌスが、僅かに眉を顰めて黙々と食べていた。 その隣では、ヤブキがやりづらそうに身を縮めていた。彼には非はないはずなのだが、気が引けてしまうらしい。 それ以外の家族は、屋外に出ていた。庭先にベンチを出して並んで腰掛け、三人の対戦を観戦することにした。 というか、それ以外にやることがないのが事実だった。ギルディーンから目を離さないためには、これが一番だ。 ベンチの傍らに置いた敷物の上には、彼の妻であるメリンダ・ヴァーグナーが入っているポッドが鎮座していた。 彼女もまた、スパイマシンを浮かばせて夫の動向を見守っているのだが、慣れているのか特に何も言わなかった。 マサヨシの膝の上にはハルが座り、傍らにはサチコが浮かび、ミイムは昼食後なので眠たげに瞼を伏せていた。 〈映像を展開するわね。もちろん、音声も拾ってあるんだから〉 サチコは皆の前に出ると、スパイマシンを上向けてホログラフィーを出し、戦闘訓練用フィールド内を映し出した。 「うみゅーん、始めるなら早く始めやがれですぅー」 ミイムは欠伸を噛み殺しながら言うと、その言葉はサチコを通じて彼らに届いたらしく、ギルディーンが返した。 『悪ぃ悪ぃ、ちょいと協議しててな』 「何をだ?」 マサヨシが聞き返すと、ホログラフィー内に顔を出したイグニスが言った。 『暫定ルールに決まってんだろ。いくら訓練っつったって、俺らだぜ? フルパワーで戦ったら、こんなちゃちなエネルギーシールドなんて吹っ飛んじまう。だから、使用する武器の線引きをしてたんだよ』 〈ちゃちで悪かったわね!〉 イグニスの言葉を皮肉と受け取ったのか、サチコが言い返した。すると、今度はトニルトスが現れた。 『結論としては、火器の使用を禁ずることとなった。私は不本意極まりないが、この愚かな炭素生物を殺さぬためには仕方あるまい』 『それに、俺はドンパチよりは剣でぶった斬る方が性に合ってるしな』 ギルディーンが笑うと、メリンダが返した。 〈やりすぎんじゃないよ、ギル。そこの機械の兄ちゃん達は、ここんちの商売道具なんだからね〉 『おう、解ってるって。んじゃ、そろそろおっ始めるとしますかねぇ』 ギルディーンは愛妻に向けて手を振っていたが、背中に載せた鞘から身の丈程もありそうな分厚い剣を抜いた。 銀色の磨き抜かれた刃が光を撥ね、一瞬、彼の姿が消えた。次に映像として現れた時には、彼は変化していた。 何千人もの敵の血を、何百機ものスペースファイターや機動歩兵を、何十隻もの宇宙船を殺した男に変わった。 今し方まで明るい言葉を連ねていた音声は途絶え、鮮血を吸ったかのような赤いマントが翻り、頭飾りが靡いた。 鈍い金属音を立て、バスタードソードが肩に担がれた。余裕のある態度が却って不気味な威圧感を生んでいる。 彼に向かい合ったイグニスとトニルトスも、見るからに変わっていた。それぞれの剣を構え、騎士を睨んでいる。 下らないケンカを繰り返す悪友でもなければ、背中を預け合う戦友でもなければ、共闘を楽しむ戦士達でもない。 殺戮を愉しむ、戦闘兵器に戻っていた。 制限された空間は、互いの殺意を拮抗させてくれる。 イグニスは普段よりも出力を増したレーザーブレードを横に構え、スラスターを噴き出して一気に加速させた。 直線上に浮かぶ騎士は、動こうともしない。このまま行けば胴体を切断出来るが、そう簡単には行くはずはない。 フェイントを掛けるべきだ、とイグニスはレーザーブレードを下ろして加速を切り、空中を蹴って間合いを詰めた。 剣ではなく、拳を振り上げる。赤い拳が騎士を砕くかと思われた瞬間、拳の下から甲高い衝突音が鳴り響いた。 「おうおう、いい根性してんじゃねぇか」 イグニスが身動ぐと、ギルディーンはバスタードソードだけでイグニスの拳を受け止めていた。 「全く、気に入ったぜ」 「…初っ端から冗談きついぜ」 イグニスが拳を引くと、ギルディーンはヘルムに似たフェイスガードの下で赤い瞳を輝かせた。 「冗談? まさか」 「邪魔だ、ルブルミオン!」 背後から轟いた雷鳴のような罵声に、イグニスは顔を上げた。イグニスの真後ろに、トニルトスが飛んでくる。 その手に握られた長剣は、真っ直ぐにイグニスの背を捉え、その先の空間で待ち受けている騎士を狙っていた。 イグニスは急上昇してその突進を回避したが、ギルディーンは真正面からトニルトスの刃を受けた、ように見えた。 またもや、金属音が響き渡る。イグニスが状況を確認すると、ギルディーンは彼の突進を容易く受け止めていた。 バスタードソードだけで一撃で宇宙船をも破壊出来る機械生命体の攻撃を止めただけでなく、全くの無傷だった。 「速い。が、つまらねぇ!」 ギルディーンはバスタードソードを翻して、トニルトスの刃を弾き、マントの下から炎の翼を広げた。 「教科書みてぇな戦い方だ!」 「くっ!」 トニルトスは後退するべく脚部のスラスターを開いたが、それを作動させるよりも速く、騎士は目前に迫ってきた。 トニルトスの剣を踏みしめて再度揺らがせたギルディーンは、彼の手元まで接近すると、その剣を振り下ろした。 だが、ギルディーンの剣がトニルトスの手首を両断する直前に、トニルトスは足を上げて彼の背中を蹴り付けた。 「愚劣な人間の分際で!」 「おっ!?」 ギルディーンは楽しげな声を出し、トニルトスの蹴りを避けた。青い戦士の膝は、赤いマントを掠っただけだった。 空を切ったトニルトスの膝に手を付き、しなやかに身を曲げてまた距離を開いたギルディーンは、にやりと笑った。 「その調子だぜ、ヒステリックサンダー」 「なんだそれは?」 訝しげなトニルトスに、イグニスは嘲笑した。 「てめぇの二つ名だよ、屈辱野郎。お似合いじゃねぇか」 「なんだ、お前らってコンビじゃないのか」 妙に残念そうなギルディーンに、即座にトニルトスは激昂した。 「下劣なルブルミオンと高潔なカエルレウミオンである私を同一視するとは、屈辱の極みだ!」 「なーんか知り合いに似てんなー、そのプライド凝縮100%な言い草。お前って、見た目は機械生命体だけど頭ん中はゲルシュタインと同種族だったりしねぇ?」 ギルディーンに指差され、トニルトスの怒りは更に熱した。 「私は私だ! 誇り高きカエルレウミオンとして生を受け、栄誉ある戦いを勝ち抜いてきた将校だ!」 「じゃ、見せてもらおうじゃねぇか」 フェイスガードの奥でギルディーンの眼差しが細められ、声色が冷え込んだ。 「将校の実力ってやつをよ!」 不死鳥の翼が広がり、加速した。イグニスが剣を構えるよりも速く、炎を纏った騎士は青い戦士に斬り掛かった。 トニルトスは防御の姿勢を取るが、機械生命体よりも遙かに小柄なギルディーンにとっては何の意味もなかった。 長剣の下に滑り込んで防御を突破したギルディーンは、トニルトスの腹部の外装に剣を突き立て、更に加速した。 ギルディーンの影がトニルトスの脇を抜けると、ヒューズが散った。滑らかな切り口で、腹部装甲が裂かれていた。 彼の剣は、単なる金属塊だと思っていた。だが、認識を改めなければならないらしい、とトニルトスは痛感した。 右脇腹に作られた裂傷を押さえ、トニルトスは背後を取ったギルディーンとすぐさま向き直ると、長剣を突き出した。 先程よりも速度を落としたが、その分的確な突きだった。刃はギルディーンのマントの端を掠め、繊維が切れた。 だが、その赤い糸屑は、自身の炎の翼で瞬時に炭化した。急加速した不死鳥は、トニルトスの懐に飛び込んだ。 剣を下げたギルディーンは下半身を捻って蹴りを放ち、対処が一瞬遅れたトニルトスの顎先が蹴り上げられた。 視界が上向き、衝撃が感覚器官を揺さぶる。トニルトスは仰け反り掛けたが、センサーを補正して感覚を戻した。 視覚と聴覚を乱すノイズが消え、震動の余韻が消える。トニルトスはギルディーンの姿を捉え、宙を蹴り上げた。 己の重力制御装置で成した見えない足場を踏み、矢のように宙に躍り出たトニルトスは長剣をしなやかに振った。 サイボーグと機械生命体ではリーチもパワーも違う、一気に壁際まで攻めてしまえば不死鳥に勝ち目はない。 トニルトスはそんな確信を得て、ギルディーンへと斬撃を与えた。だが、何度斬り付けても、不死鳥には掠らない。 先程はマントの端を切ることが出来たのに、もう捉えられない。ならば押し切るしかない、とトニルトスは加速した。 横たえた長剣で強引にギルディーンを押しやり、そのまま正面のシールドへと突っ込もうとしたが、加速が鈍った。 視界一杯に、炎の翼が噴出している。トニルトスの剣の下で剣を受けているギルディーンもまた、加速していた。 機械生命体の出力と同等の加速を行い、トニルトスの速度を殺している。だからこそ、加速が鈍ってしまったのだ。 こんな事態は想定していない。トニルトスは動揺と同時にかすかな畏怖を感じたが、長剣を振り抜き、払拭させた。 だが、騎士の姿は消えていた。代わりに、右脇腹の裂傷が過熱で焦がされる嫌な匂いがセンサーに届いていた。 「んだよ」 落胆と侮蔑が零れた直後、部品が露出した傷口は更に深く抉られ、体液とも言えるオイルが溢れた。 「大したことねぇな」 バスタードソードが、また光を撥ねる。その刃に付着していたオイルが散り、トニルトスの腹部装甲に貼り付いた。 剣を下げた一瞬に、移動されたらしい。トニルトスは抉られた傷口を押さえようと手を下げたが、手首が切られた。 傷口を庇うことすら抗われた手が離れた隙に、ギルディーンの剣が捻られて、一本のケーブルが引っこ抜かれた。 オイルに濡れたケーブルの色を視認したトニルトスは、震えた。だが、無情にも刃はケーブルのカバーに埋まった。 ギルディーンの加速に伴い、刃の威力も増していた。カバーの内側に隠れていた無数のワイヤーも、切断される。 切断面を露わにされた細いケーブルがうねり、青白い電流が零れる。刹那、トニルトスの右半身を激痛が貫いた。 「ぐおあああああああああああっ!」 「ありゃあ…ネルブケーブルじゃねぇかよ」 苦悶の咆哮を放つトニルトスを見つめ、イグニスは身動いだ。感覚を司るケーブルの中でも、特に太いものだ。 人間で言えば、神経に当たる部品だ。それを直接切断されてしまっては、どれほど激しい痛みが駆け巡ることか。 「…屈辱だ」 腹部の傷を押さえ、トニルトスは背を丸めた。懸命に激痛を堪えているのか、柄が軋むほど強く剣を握っていた。 だが、声だけは抑えきれないらしく、マスクの下から濁った音声が零れている。確かに先程のケーブルは神経だ。 負傷による破損状況を頭脳回路に伝えるため、駆動部分に信号を送るため、感覚を得るためのケーブルだった。 まぐれか、それとも作為的なものか。イグニスは騎士に対する警戒心を強めながら、レーザーブレードを構えた。 「どうやら、まともに俺と遊べそうなのはお前だけみたいだな、ファイヤーボール」 ギルディーンはバスタードソードを掲げ、その切っ先でイグニスの顔を示した。 「らしいな」 イグニスは高揚を感じながら、底知れぬ力を持つサイボーグを見据えた。 「どうした、掛かってこいよ。それとも、さっきのでビビッちまったか?」 ギルディーンに手招かれ、イグニスは一笑した。 「んなわけねぇだろうが!」 目標はただ一つ、目的もただ一つ。イグニスはレーザーブレードを横たえて加速し、ギルディーンへと向かった。 黄色く輝く光の壁を背負った騎士は、先程と同じく動きもしない。だが、それもまだ相手の策なのだと解っている。 動かなければ、もちろん真正面から狙われる。だが、真正面から狙われるのならば、それだけ受け流しやすい。 ならば、崩れるまで斬り掛かるだけだ。そう判断したイグニスは、レーザーブレードをギルディーンに叩き付けた。 手応えはあった。だが、彼は無事だった。レーザーブレードの刃ではなく、その柄の部分で止めていたからだ。 すると、柄に刺さっていたバスタードソードが飛び出し、イグニスの顔面を目掛けて弾丸のように突っ込んできた。 イグニスは顔を逸らしてバスタードソードを回避しつつ、安堵を感じた。剣がなければ、ギルディーンは敵ではない。 追撃するなら今しかない、とイグニスがギルディーンの姿を見つけようとしたが、彼の姿は視界から失せていた。 「がっかりだぜ」 声の発信源を察知してイグニスが顔を上げると、いつのまにかギルディーンが頭上に浮かんでいた。 「ちったぁ楽しませてくれると思ってたのによぉ」 空気を切り裂きながら、重力に従って彼の武器が落下してくる。イグニスは彼を殴ろうとしたが、避けられた。 拳を下げて蹴りを放つが、ギルディーンの手にはバスタードソードが戻り、蹴りを放った右足に突き立てられた。 ギルディーンは大きく体を捻り、己の剣を蹴る。蹴る。蹴る。強烈な蹴りを受け、太い剣先は深く埋まっていく。 分厚い外装が破られ、内部器官を包む内装も切り裂かれていった。イグニスは抵抗するべく、拳を振り翳した。 しかし、その拳は右足を駆け抜ける激痛のせいでギルディーンを捉えられずに、空しく宙を抜けただけだった。 「ここだな」 ギルディーンはイグニスの右足に突き刺した剣を掴み、捻った。途端に、イグニスは仰け反った。 「ぐがあああああっ!」 右足に内蔵された神経に当たるケーブルが切断された瞬間、強烈な痛覚がイグニスの回路を貫いた。 「切ったのは神経だけだ、すぐに治らぁな」 オイルに濡れたバスタードソードを引き抜いたギルディーンは、激痛に喘ぐイグニスを見下ろした。 「もうギブアップか?」 「まだだ!」 怒りの漲る叫声と共に、脇腹の傷を押さえながらトニルトスが立ち上がった。 「それを殺すのはこの私だ! 貴様のような炭素生物に、私の最上の悦楽を奪われてなるものか!」 「そういうの、嫌いじゃないぜ?」 ギルディーンはトニルトスに振り向き、バスタードソードを向けた。 「来いよ」 「滅びろ、人間!」 トニルトスは長剣を突き出し、不死鳥との間合いを一瞬で詰めた。痛覚回路を強引に黙らせなければ動けない。 だが、動かなければならない。動かなければ戦えない。戦えなければ、イグニスを殺す楽しみを奪われてしまう。 その執念だけで、トニルトスは剣を振っていた。斬り結ぶたびに火花が散り、予想外の力で剣が押されてしまう。 これが炭素生物の持ち得る出力なのか、と疑わしく思いながら、トニルトスはギルディーンを殺すべく剣を振った。 しかし、またもや受けられ、弾かれる。トニルトスの苛立ちは更に熱を持つが、その都度太刀筋が鈍っていった。 協定に反するが、パルスビームガンを使う他はない。トニルトスは彼と斬り結びながら、左腕の外装を開かせた。 「おっと」 ギルディーンは、唐突に剣を止めた。トニルトスは勢いに任せて長剣を振り下ろしたが、両断した手応えはない。 視界の隅に、赤い翼が掠めた。トニルトスが振り返ると、首筋にバスタードソードが深々と突き立てられていた。 「約束を破るんじゃねぇよ、将校どの」 「…ぐぅ」 トニルトスが呻くと、ギルディーンはバスタードソードを引き抜き、肩に担いだ。 「勝負あったな」 「勝手なことを抜かすな、私はまだ膝を付いていない!」 トニルトスは長剣を上げようとするが、腕が動かなかった。ギルディーンは親指を立て、自分の首筋を指す。 「やめとけ。首から下に繋がる神経を切っちまったんだから、腕が動くわけねぇだろ」 ギルディーンは二人に背を向けると、肩を回し、首を回し、満足げに漏らした。 「やーっと部品が馴染んできたぜ」 戦闘訓練用フィールドの底面であるシールドに背部装甲を熱せられながら、イグニスは不死鳥を仰ぎ見ていた。 不死鳥と呼ばれるだけのことはある。感心すると同時に畏怖に苛まれ、イグニスは感覚の失せた右足に触れた。 大方、機械生命体の情報を得ていたのだろう。そうでもなければ、ああも的確に神経を切断出来るわけがない。 戦法としては単純だが、高度な技術を要する。そして、あの瞬間移動のような速度も並のサイボーグでは無理だ。 機械生命体、というより、機動歩兵の死角を知り尽くしているのだ。だからこそ、何度も不意を突かれてしまった。 イグニスは身を起こし、両手足を垂らして剣を落としたトニルトスを見上げたが、彼の目は絶望に染まっていた。 日頃から見下している種族に敗北したことが、余程衝撃だったのだろう。一言も漏らさずに膝を突き、崩れ落ちた。 足元を殴ろうにも拳が上がらず、八つ当たりしようにも足が動かない。だから、彼は言葉にならない言葉を放った。 それ以外に、感情を吐き出す術がなかった。 08 9/7 |