純情戦士ミラキュルン




第二十五話 忠誠心は鋼鉄の如く! 甲殻のレピデュルス!



 それから半年後、ヴォルフガングと冴は結婚した。
 出会ってからまだ日は浅かったが、二人の意志は固く、その結婚を反対するような者もほとんどいなかった。 否、存在していなかった。国外に出た冴の父親は戦渦に巻き込まれ、戦地に赴いた兄達はことごとく戦死した。 大神家の親戚は文句を言ってきたが、異国の軍人であり怪人であるヴォルフガングに気圧されて引き下がった。 レピデュルス以外には誰にも祝われない静かな祝言ではあったが、ヴォルフガングと冴は幸せの絶頂にあった。
 だが、二人の幸福な結婚生活は長く続かなかった。結婚後、程なくして冴は妊娠したが、経過は良くなかった。 元々少なかった体力が妊娠によって削られ、次々に家族を亡くしたことで心労も溜まり、笑顔も少なくなった。 ヴォルフガングはドイツ軍から帰還命令が届いていたが、それを蹴り、レピデュルスと共に冴の傍に寄り添った。
 激戦に次ぐ激戦の末、終戦を迎えた。冴は弱った体に無理を言わせて斬彦を生んだが、既に限界だった。 疎開を兼ねた静養先の田舎から元々住んでいた土地に冴を連れ戻ったヴォルフガングは、異人館を買い取った。 寝込みがちになった冴は、口癖のようにヴォルフガングが生まれた場所を見たい、ドイツに行きたいと言ったが、 ドイツもまた激戦区であり体の弱った冴を連れて行けるわけもなかったので、祖国の屋敷に似た異人館を買った。
 空爆で焼け落ちた大神家の本家と別宅に代わって、新たな大神家の本家となった異人館に親子は引っ越した。 立つこともままならなくなった冴をヴォルフガングが横抱きにして、レピデュルスは乳飲み子の斬彦を抱いていた。 異人館を買うために有り金のほとんどを使い果たしたので、家財道具は必要最低限で、屋敷はがらんとしていた。

「まあ……」

 埃っぽい空気を吸い、冴は空咳をしてから、ヴォルフガングの肩に頭を預けた。

「こんなに素敵な御屋敷は、活動写真の中にしかないと思っておりましたわ」

「私の住む屋敷に出来る限り似たものを選んだのだ。喜んでもらえたようで嬉しいよ」

 ヴォルフガングは居間に入ると、痩せ細った冴の体をソファーに横たえ、その傍に腰掛けた。

「あまりご無理をなさらないで。いずれ、お国に帰られるのでしょう?」

 冴は顔の傍にヴォルフガングの尻尾を引き寄せると、ゆっくりと指で梳いた。

「帰りはせんよ。私は君の傍にいる」

 冴の頭を膝に載せたヴォルフガングは、妻の青白い頬を大きな手で包んだ。

「ああ……。暖かい……」

 ヴォルフガングは冴の髪を優しく梳くが、出会った頃に比べれば色艶が失せて指通りも悪くなっていた。

「これから、私達はこの家で暮らすのだ。君と、私と、斬彦と、レピデュルスで、いつまでも」

「そうですわね」

 冴はヴォルフガングの手に身を任せ、緩やかに目を細めた。

「とても嬉しゅうございますわ、ヴォルフガング様。私、幸せですわ。あなたのような御立派な御方と添い遂げることが 出来て、生むことも出来ないと思っていた子も腕に抱くことが出来て、このように素敵な御屋敷を買って頂いて。ああ、それなのに、 どうしてかしら。悔しくて悔しくてたまりませんの。後少しであなたとの時間が終わってしまうのが、本当に寂しくてなりません。 もっと早くに出会いとうございました」

「私もだよ。戦争さえなければ、とは思うが、戦争がなければ私と君は出会うことが出来なかった」

 ヴォルフガングは冴を抱き起こし、太い腕に抱えた。

「冴。愛しているよ」

 冴はヴォルフガングの胸に顔を埋め、痛々しく背骨の浮いた背を丸めた。

「私も、あなたと同じような体ならよろしかったのに。そうすれば、もっと長くあなたの御側にいられたでしょうに」

「長々しく生きるというのも、空虚なものさ」

 ヴォルフガングは妻の弱い体温を味わうように、黒髪に鼻先を押し当てた。

「かつて愛した友人達や家族は、皆、それぞれの寿命を終えて土へと還っていく。戦場でも、私に付き従ってくれた兵士達が 次々にやられていく。それでも尚、私は命を終えられない。幸い、私の傍には友人であり兄弟であるレピデュルスがいるが、 彼がいなければどうなっていたことか」

「ですが、私はまだ死にたくありませんわ。どうか、あなたのお力で私をそちらの世界に!」

 冴はヴォルフガングに懇願するが、ヴォルフガングはゆっくりと首を横に振った。

「冴。君と過ごした時間は、私の生涯で最も美しく満ち足りたものだった。だから、私の力などで、君の生きた時間を 穢してしまいたくはない」

「何を仰いますの、あなたの何が穢れなのでしょう!」

 冴は身を乗り出し、夫に迫った。

「姿形は人ではなくとも、超常の力を持ち得ていても、あなたほど清らかな心の方はおりませんでしたわ! あなたが御自分の ことを穢れだと仰るなら、全てを穢してしまいたいですわ! いいえ、いっそのこと、世界の全てを穢れで冒してしまいましょう!  あなたの祖国が願ったように、世界を一つに統一してしまいますのよ!」

「冴……」

 ヴォルフガングが冴を見つめると、冴は涙に潤んだ瞳を見開いた。

「私は、あなたもレピデュルスも心から愛しておりますわ! 殺し合いばかりする人間よりも、あなた方の方が余程美しいですわ!  それなのに穢れだなんて! この腕に力が入れば、引っぱたいてやりましたわ!」

「ありがとう、冴。そんなことを言ってくれたのは、君が初めてだ」

 ヴォルフガングは口元を緩め、牙を覗かせて微笑んだ。冴は紅潮した頬を綻ばせたが、呼吸を速めた。 思い掛けなく体力を使ったせいか、咳き込み始めたので、ヴォルフガングは妻の背をさすって苦しみを和らげた。 レピデュルスも手助けしようとしたが、母親の異変を感じた斬彦が泣き喚いたので、彼をあやすことに専念した。
 ありがとう、ありがとう、と繰り返し、ヴォルフガングは冴を抱き締めた。冴は夫にしがみつき、泣いていた。 冴は病で痩せ衰え、ヴォルフガングはくたびれた洋装を着ていたが、二人の姿はこの上なく美しいものに見えた。 レピデュルスは斬彦をあやしながら、固く抱き合う二人の姿を複眼に映した。忘れてはならないと思ったからだ。
 レピデュルスの長々しい生涯で、これほど深く関わり、生を共有したのも、ヴォルフガングと冴が初めてだ。 そして、生とは何たるかを思い知った。端から見ていただけだが、愛し合うことの尊さも理解出来るようになった。 何もかもが異なる両者が心を通わせる様は、異様であり、不自然であり、不可解ではあったが、素晴らしかった。
 それから半年も経たないうちに冴は亡くなった。ヴォルフガングは慟哭し、妻の墓前で泣き崩れていた。 主の背後で幼い息子を抱きながら、レピデュルスはその背を守っていた。それしか出来ることがなかったからだ。 最愛の妻を失ったことでヴォルフガングは海より深く沈み込んでいたが、ある日、誰もが忘れていた絵が届いた。 それは、疎開前に洋画家に描かせた軍服姿のヴォルフガングと冴の肖像画で、生前の冴が切り取られていた。 大きな肖像画を応接間に飾ったヴォルフガングは、生きる気力を取り戻したかと思うといきなり会社を立ち上げた。
 それが、悪の秘密結社ジャールだった。




 世界征服は、ヴォルフガングではなく冴の願望だ。
 だから、ヴォルフガングは情熱と生涯を注いだのだ。大神家の墓前に立ち、レピデュルスは感じ入っていた。 手桶から柄杓で水を掬い、黒い御影石に掛ける。墓石の側面には、ドイツ語で Wolfgang Wolkenstein とあった。 寿命よりも二百年も早く天に召された主は、妻の傍にいることを切望し、この墓石の下で骨となって眠っている。 きっと、今では幸せな時間の続きを過ごしているだろう。そう思いながら、レピデュルスは墓石を慎重に撫でた。
 やはり弓子の体調が思わしくなかったので、弓子を自邸に送った帰りにレピデュルスは市民墓地に立ち寄った。 過去を思い返すと、どうしても主の傍に行きたくなってしまった。御彼岸にも墓参りをしたので、墓石は綺麗だった。

「大旦那様」

 レピデュルスは墓石の前に膝を付き、深々と頭を下げた。

「御存知かと思いますが、今、我らは危機に瀕しております」

 顔を上げたレピデュルスは、水滴の滴る御影石に映る己を見据えた。

「四天王の名に恥じぬよう、大旦那様の御心と大奥様の願いを守るために戦いましょう」

 ヴォルフガングと出会わず、冴に出会わず、無益な生を連ねているだけだったら、思わなかっただろう。

「大旦那様と大奥様の血を宿した若旦那は、若さ故に不甲斐ないところもございますが、あなた方の血をしっかりと 継いでおられます。私めに科せられた使命は、若旦那を守ることであり、ジャールを守ることでございます。ですが、このままでは、 あなた方の生きた証であるそれらは滅ぼされてしまうことでしょう。現に、大旦那様が見初められた三人が手傷を負ってしまいました」

 じゃぎり、と玉砂利を握り締めて砕いたレピデュルスは、胸郭を震わせた。

「あなた方は、私めの不死という永遠の牢獄に温もりを与えて下さいました。そして、若旦那を始めとしたジャールの同胞も、 私めにはなくてはならない者達でございます。これまで、私めは己の不死を疎みながらも命を捨てることを恐れておりました。ですが、 今は違います!」

 砕けた玉砂利を握り締め、砂の如く細かく砕いたレピデュルスは、強い意志を宿した複眼を上げた。

「この命に代えましても、正義の名の下に破壊を行う愚者を葬り去ってご覧に入れましょう!」

 ヴォルフガングに始まり、二代目の大神斬彦に連なり、三代目である大神剣司で高まった世界征服の野望。 世界征服することは世界を一つにすることであり、沿ってはいるが交わらない人間と怪人の世界を重ねることだ。 それがすぐに冴の願ったような世界を造り上げるとは思わないが、世代を重ねていけば、いずれそうなるだろう。
 レピデュルスはレイピアを抜き、かつん、と石畳を突いた。セイントセイバーは、怪人が一人きりになる間を狙う。 だが、セイントセイバーが現れるのは唐突だ。その前に身辺を探られているのであれば、怪人なら感付くはずだ。 恐らく、セイントセイバーは何者かに怪人の動向を見張らせ、目当ての怪人が一人きりになった瞬間を狙う。 ならば、逆にそれを利用して、無限にも等しい時間から得た経験と鋼をも凌ぐ忠誠心を武器に戦い抜けばいい。 セイントセイバーの正体が誰であろうと、目的が何だろうと、今日この日を最後にセイントセイバーを滅ぼすのだ。
 守り続けるだけでは、大切なものは守り抜けない。




 心身の痛みが、和らぐ気がした。
 病院の屋上のベンチに座った大神は、直射日光の下では画面が見えづらい携帯電話を傾けながら読み返した。 何度読み返しても同じ内容だが、読み返さずにはいられない。美花の声で聞こえてくるような気分になるからだ。 いつもより絵文字も多めで、文面も弾んでいる。解りました、明日の十時ですね、遅刻しないように行きます、と。
 土曜日の午前十時に駅前広場で。最初で最後になるであろう、美花とデートをするために交わしたメールだ。 好きだと言えるとは思わないし、言うつもりもなかった。戦いに勝っても負けても、美花と付き合えなくなるからだ。 運良くセイントセイバーに勝利したら、悪の秘密結社ジャールは悪の組織の中でも実力者として扱われるだろう。 悪の組織は負けることが前提で存在しているので、ヒーローを一人でも一回でも倒せたら、業界では悪の英雄として 持ち上げられる。そうなれば、ジャールに入社する怪人は急増し、必然的に忙しくなって美花には会えなくなってしまう。 そして、負ければ、悪の秘密結社ジャールは経営に致命的な打撃を受け、持ち直すまでがまた忙しくなる。どちらに 転んでも、恋に浮かれている暇はなくなる。だから、その前にこの恋心に決着を付けてしまわなければ。

「悪いな、中村」

 大神は携帯電話を閉じ、同じベンチに座る中村了介に向いた。場所が場所なので中村は人間体だった。

「別に。てか、俺もちょっとは大神が心配だったし」

 ほれ、と中村に私服の入った紙袋を渡され、大神は今一度感謝した。

「すまん。服を取りに帰る暇がなかったんだ」

「てか、なんで他の社員に頼まねーの? 社宅住まいの奴とかいるし」

 ほれ鍵も、と中村の手からアパートの自室の鍵を返され、大神は携帯電話と一緒に握った。

「他の奴に頼むと、すぐにレピデュルスにばれるだろう。俺はまだまだ入院していなきゃならないんだし」

「入院期間、二週間だっけか?」

「そうなんだよ。傷の縫合も済んだし、体力も戻ってきたから、俺としてはもういいと思うんだが」

 大神はベンチの背もたれに寄り掛かろうとしたが、背中が痛むので前傾姿勢になった。

「でも、丁度良い機会だとは思うんだ。中途半端な状態を続けていたって、俺も野々宮さんも良くない」

「何? やっと告るわけ?」

「言えたら言うけど、たぶん言えないな」

 大神は苦笑し、フェンス越しに市街地を見渡した。毎週、戦いを繰り広げていた駅前広場が遠くに見えた。

「だけど、きっとそれでいいんだ」

「その、セイントセイバーっての、そんなに強いわけ? ミラキュルンとは別格なん?」

 組んだ足をぶらぶらと揺する中村に問われ、大神は首筋を押さえた。刃を当てられた冷たさが忘れられない。

「強いし、容赦しないんだ。俺は運が良かったから致命傷を喰らわなかったし、ファルコは刺し傷が心臓から逸れていたし、 アラーニャは足を一本毟られた時にセイントセイバーに毒が効いてきたおかげで負傷が少なかったし、パンツァーも派手に 破損したけど主要部分は生きていた。でも、それは俺達全員が幹部クラスで打たれ強かったからであって、そうじゃなかったら きっと死んでいた。あいつは俺達を殺す気でいるんだ。正義と悪の戦いとか、もうそんなレベルじゃない」

「そこまでマジヤベェって解ってるくせに、あの野々宮って女子高生とデートするわけ? つかお前らしくなくね?」

 にやけた中村に、大神は片耳を曲げた。

「心残りはなくしておいた方が気が楽だろ?」

 背負うものがなくなれば、命すらも惜しくなくなるからだ。大神は苦笑い気味の笑顔を収め、拳を固めた。 正義と悪の戦いは、最初から命懸けの戦いだ。怪人達は、皆、戦闘後に爆死することを恐れながら戦っている。 怪人と呼ばれる者達は人間からも人外からも逸脱した能力を持つ弊害に、死亡時に生体エネルギーが暴発する。 それは機械であろうとも生物であろうとも変わらない事実で、大神もまた、完全に敗北したら爆発することだろう。 死して尚も害を成す現象だと言われるが、大神からしてみれば死に往く怪人が残せる唯一にして最大の破壊だ。 もしも、大神が倒されることがあったら、その時はセイントセイバーに最後の瞬間まで食らい付いて爆発してやる。 たとえ、それでもセイントセイバーに致命傷を負わせることが出来なくても、ヴェアヴォルフの生き様になるだろう。

「んじゃ、俺行くわ。午後から仕事あるし」

 中村は立ち上がると、屋上の階段に向かった。

「ありがとう、中村。退院したら礼をするよ」

 大神が手を振ってきたので、中村は手を振り返してから階段を下りた。段を下りるうちに、その形相は変貌した。 肌が緑色に変化して細かくひび割れ、ジーンズの下から丸まった尻尾が伸び、両目が突き出て交互に動いた。 屋上から一階に下りる頃には中村の姿ではなくなり、中村了介の私服を着たカメリーが背を丸めて歩いていた。 カメリーは擬態のために縮めていた骨格を元に戻しながら、首や肩を回し、病院を出て近所の公園に向かった。 ちらほらと人の姿がある昼下がりの公園に入ったカメリーは、薄汚れた公衆トイレの男子の個室を覗き込んだ。 そこには、粘液まみれでうねうねと蠢くナメクジ怪人のナクトシュネッケがいたが、個室から這い出せずにいた。 それもそのはず、個室の落書きだらけの内壁にはナメクジ避けに効果的な銅線をくまなく貼り付けておいたからだ。

「面白いぐらい効き目があるねぇ、銅イオン」

 いやすっごいねぇ、と肩を震わせて笑うカメリーに、身を丸めていたナクトシュネッケこと中村了介は叫んだ。

「てかマジ許さねぇし! 俺と大神の服を返せ! ここから出たら皮膚ごと食い破ってやるし! つか巻尾、 お前ってそういう能力の怪人だったのかよ! 俺の溶解液でマジ溶かしてやるし! 俺の方がマジ強い改造人間だし!」

「中途半端な不正改造品が純正品に敵うわけないじゃないのよ。身の程知ったらどうなの、中村君」

 カメリーは中村の服を脱ぐと銅線が貼り付けられたドアに引っ掛け、隣の個室に隠していた自分の服を着た。

「んじゃ、俺は仕事に戻るとしますかね。雲行きがちょっと怪しいかなぁん」

 おいこら、マジ許さねぇし、とナクトシュネッケから罵倒されたが、カメリーは気にせずに公衆トイレから出た。 人間体に戻れば銅イオンも平気なのだが、頭に体液が昇ってしまったナクトシュネッケは思い付かなかったらしい。 カメリーは笑いを噛み殺しながら歩いていたが、足元を踏み切って身軽に跳躍し、手近な建物の屋根に着地した。 サンダルを滑らせないように踏ん張ってから辺りを見回し、風に混じる匂いも嗅いで目当ての者の気配を捜した。
 連日の戦闘で芽依子は疲れ果てている。心身の余裕を失ったために怪人を殺しかねない勢いで倒している。 ジャールの四天王に手を掛けるまでは、セイントセイバーは怪人を痛め付けても病院送りにまでしていなかった。 だが、これはさすがにやりすぎだ。このまま芽依子に任せていては、事態は進展するどころか悪化しかねない。 ならば、そろそろ彼に連絡を取るべきだろう。カメリーはレピデュルスの居所を見つけてから、携帯電話を出した。

「あ、もしもしぃ? そうそう、俺、情報屋のカメリーですよん」

 カメリーはセイントセイバーに電話して、次の戦闘地点を伝えてから通話を切ると、屋根から屋根を飛び移った。 情報屋の仕事はここまでだ。だから、これ以上関わったところで、巻き添えを食うだけで利益になることなどない。 元々、正義と悪の戦いは肌に合わない。だから、同じ怪人達を売る仕事である情報屋として生活しているのだ。 セイントセイバーとジャールの戦いが終わったら、どちらが勝つにせよ、両者に噛んでいるカメリーには業界から 仕事が舞い込むだろう。そうすれば、今以上の金が手に入る。存分に金が貯まったら、七瀬を手元に置こう。
 他人の不幸を食い物にすれば、世間は案外生きやすいものだ。





 


09 10/9